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◆◆◆イラク戦争
<◆◆戦史 目次
<◆イラク 目次
中近東FAQ目次


(画像掲示板より引用)


◆◆◆◆総記


 【link】

「2ch.軍事板」◆(2003/03/09〜) 軍都広島からイラク攻撃賛成のデモをしたい.
 回収すべきレス無し

「2ch.軍事板」◆(2003/03/18〜) こんなイラク攻撃はいやだ!2
 回収すべきレス無し

「2ch.軍事板」◆(2003/03/19〜) イラクに出兵する兵士達に応援の寄せ書きをするスレ
 回収すべきレス無し

「2ch.軍事板」◆(2004/03/21〜) イラク開戦から1年
 回収すべきレス無し

「2ch.軍事板」◆(2003/03/21〜) イラク軍の軍装や装備を語るスレ
 回収すべきレス無し

「2ch.軍事板」◆(2003/03/25〜) イラク戦・兵器専用スレッド
 回収すべきレス無し

「2ch.軍事板」◆(2003/03/26〜) 米軍がイラクで核兵器を使用する可能性
 回収すべきレス無し

「2ch.軍事板」◆(2003/03/27〜) ブッシュの息子も最前線に配置しろ!
 回収すべきレス無し

「2ch.軍事板」◆(2003/03/28〜) 飴ブッシュの走狗と化した軍オタは飴の犬
 回収すべきレス無し

「2ch.軍事板」◆(2003/03/29〜) 【メイク】 作戦名 『イラクの奇跡』 【ミラクル】
 回収すべきレス無し

「2ch.軍事板」◆(2003/03/31〜) ☆☆☆☆パウエルです☆☆☆☆
 回収すべきレス無し

「2ch.軍事板」◆(2003/04/02〜) アメリカは本当に苦戦しているのか?==2==
 回収すべきレス無し

「2ch.軍事板」◆(2003/04/02〜) ■イラク戦 米軍の食事 トイレ フロ 限定スレ
 回収すべきレス無し

「2ch.軍事板」◆(2003/04/05〜) イラク総合31
 回収すべきレス無し

「2ch.軍事板」◆(2003/04/07〜) ● バグダットの2ちゃんねる ●
 回収すべきレス無し

「2ch.軍事板」◆(2003/04/12〜) 〜地政学から見たイラク戦〜
 回収すべきレス無し

「2ch.軍事板」◆(2003/04/18〜) イラク元国防相です アメリカに負けた理由は Part 6
 レス回収済

「Guardian」◆(2010/09/02) Biden: Iraq's darkest days are over

「Guradian」◆(2010/09/17)Iraq was 'failure of strategic thinking'

「RAND Corporation」◆(2013/03/24) Removing Saddam Hussein won no applause and produced no lasting strategic benefit, says

「WSJ」◆(2010/09/02)ブレア元英首相,回顧録でイラク戦争を擁護

「ワールド&インテリジェンス」◆(2012/12/22) イラク戦争は何が問題だったのか


 【質問】
 イラク戦争について書かれた本ってありますか? 河津幸英以外で.
 政治的な本ならたくさん書店にあったのですが.

 【回答】
 まず基本的な文献はこちら.
 公刊ではあるけど公式戦史とは違います.
 ですが,実質的には公式戦史に近い位置づけ.
 上が通常戦段階,下が治安戦段階で,下はテーマ別に章を建てて有ります.
http://www.globalsecurity.org/military/library/report/2004/onpoint/index.html
http://www.globalsecurity.org/military/library/report/2008/onpoint/index.html

 他にも山ほど出てます.
 部隊指揮官の本もあるし,ブレマーやアラウィの本も軍人が出て来るので,政治だけってわけじゃないでしょうし.

 俯瞰的に書かれたのはイラク戦争自体が終結しないと,日本語訳書は出ないとおもう.
 純粋に軍事に絞っても,大規模戦と治安戦・内乱は違いすぎる,
 特に後者はアメリカの政治と現地人の政治勢力を書かないと,何故戦闘に至り次や他所にどういう影響を及ぼしたのかっていう説明が出来ないし.
 イランからの武器流入と,革命防衛隊の浸透やトルコ軍の越境攻撃,3派入り乱れてのクルド人勢力,アラブ人内での宗派対立と部族対立,イスラエルの動向,ペルシャ人とアラブ人の歴史的対立etc・・・

 イヴ・クリエールみたいな作品群はもうたくさん世にでてるけど,アリステア・ホーンのような決定版はまだ現れていないのが現状.

 日本語の本で,手に入り易いものとしては,
『デビルドッグ』
『第82空挺師団の日本人少尉』

 それから
『ファルージャ 栄光なき死闘』
 なかなか読ませるルポだよ.

軍事板
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 イラク戦争では「宣戦布告」がされていないんですが,これは国際法上どのように解釈したらよいのですか?

 【回答】
 それは,イラク戦争が,古典的な意味での戦争ではないからです.
 宣戦布告もしくは条件付最後通牒の通告によって戦意を表明し,戦争状態が開始されることを確認したのは,1907年の開戦に関する条約なのですが,1928年のパリ不戦条約によって,国際紛争の解決のための,古典的な意味での戦争が禁止されるに至ります.

開戦に関する条約
http://www1.umn.edu/humanrts/japanese/J1907b.htm
パリ不戦条約(戦争抛棄に関する条約)
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-PaloAlto/4134/law/fusen1928.html

 このため,アメリカは,今回の武力行使の根拠を,安保理決議1441の13項に置いて,3/18に48時間以内の武装解除を求め,期限内に武装解除が行われなかった場合,自由行動を取ることができるとして,攻撃に踏み切りました.

安保理決議1441
http://homepage2.nifty.com/mekkie/peace/iraq/news/023.html

 したがって形式的には,国連憲章の第42条に基づく武力行使として,今回のアメリカの行為を解釈すべきかもしれません.
 が,安保理決議1441を根拠として,イラクに対する武力行使を正当化できるのかどうかについては,議論が存在するものと思われます.
 『ジュリスト』誌などにおける,国際法上の議論を見る限りでは,正当化できないとする意見のほうが主流のようです.
 他にも,ダルフール紛争における「民兵」の存在など,国際法の脱法化の動きが国際的に進んでおり,それぞれの国家の自己正当化ツールとなりつつあるのが,国際法の現状の模様.

軍事板,2003/04/01-04/02
青文字:加筆改修部分


 【珍説】
 アメリカの国会議員は,約550人いる内,息子をイラクに送ってるのは1人だけという卑怯な連中だらけ.

(マイケル・ムーア「華氏911」,2004年)

 【事実】
 それ,典型的な統計の嘘なんだよね.
 アメリカ一般市民550世帯から一人イラクに送ったら ,かなりの大軍になるね.

 第一,徴兵制の国家ならともかく,志願兵制の国で,戦争賛成派の議員が有無を言わさず自分の息子を戦地に送ったら,そちらのほうが人権問題になりかねないね.

軍事板

 あの華氏911でイラク戦争に賛成の議員の子弟をイラクに派遣する署名してるの見て,ムーアはアホだと確信した.
 ムーアの論理だと,犯罪者をとりしまるのに賛成の議員の子弟は警察官にならないといけないし,火事がおきたら消火するのに賛成の議員の子弟は消防士にならないといけなくなる(笑)
 まあ,馬鹿でアホなアメリカ白人とはムーアのことだというのは,あの映画でよく分かった.

軍事板

 もちろん,欧米にはノブレス・オブリジェ(高貴なる義務)という概念もある.
 すなわち,「地位が高いものほど危険に身を晒せ」という暗黙の了解があるが,しかし,子供と親とを別人格と見る傾向の強い欧米において,議員が「地位が高い者」だからといって,その息子も「地位が高い者」だと見なしてくれるかといえば,大いに疑問.
 一般的に言って,親の力を借りずに自分で借金して大学に通う(夏休み,冬休みにアルバイトして借金を返す)という,経済的に恵まれない学生も多いわけだし.



 【珍説】
 他人の息子を自分の利益の為に死ぬかもしれない場所に送るんだから,自分の息子も送るべきなのは当然だと思うが?
 つーか,ポチって支離滅裂だな.

 【事実】
 あー.ローマ内乱(ルビコンのね)なんかどうなる.
 というより,何故そんな儒教思想じみたのをアメリカに当てはめるんだ?

(軍事板)


 【質問】
 イラク戦争では80万以上の歩兵部隊2000両の戦車など,大部隊を持っていたイラク軍に対して,米,英軍は何故あそこまで被害が少なかったんですか?
 そして追い込まれたイラク軍が,WW2のスターリングラードのような泥沼戦に持ち込まなかったのは何故ですか?

 【回答】
 圧勝した要素は多い.

 まず,それだけの圧倒的なリソースが投入されたから.
 人命のかわりに鉄量を消費したまでのこと.

 質的にも問題だった.
 アメリカ軍とイラク軍の戦闘能力は,まさしく「大人と赤子」で,射的でも射つかのように一方的に撃破していった.
 真正面からぶつかる限り,イラク軍は一方的に虐殺される標的でしかなかったのだ.
 かといってゲリラ戦に移行できるほどの戦意はすでに崩壊していた.

 事前の徹底的な準備段階ですでに,この結果は決まっていたといえる.

 他にも色々あるが,個々の戦術・兵器についての比較は一言で語れないと思う.
 劣化ウラン弾の射程.複合装甲.戦車の機動力.夜戦戦術.エアカバー…….

 1回の給油で90kmしか走れなかった燃費の悪さで,兵站面でのウィークポイントはあったが,うまくカバーした.

軍事板,2009/06/06(土)
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 ラムズフェルド・ドクトリンイラクで通用しなかったの?

 【回答】
 戦後統治はうまくいってねえけど,あれはあれで通用しなかったというほどでもねんでね.

 「制圧」にまったくもって不向きなんだよアレ.
 占領地を確保するにはなんといっても量.
 圧倒的に強力な新兵器があろうとも,地に足をつける頭数は不可欠.

 要するに現代に復活した「電撃戦」なわけだよ.
 フセイン政権は,まさに1940年のフランスと同様に,部分的にもRMAによって高度化された指揮系統を持った軍隊の侵攻の前に,軍の指揮系統がすっかり崩壊し,政権中枢も麻痺状態に陥った挙げ句にあっけなく瓦解した.

 だけど,フランスでも占領地域の確保には,やっぱり歩兵部隊や保安部隊が,相当の数必要だったわけで,時間が経てば,連合軍の援助によるレジスタンス活動も活発化した.
 まして,イラクではドイツがフランスに攻め込んだ時ほどの大兵力を現地に入れたわけではない.
 治安維持能力はスカスカ状態.
 占領統治の初手からイスラム過激派の跳梁を許すハメになった.

軍事板,2009/10/19(月)
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 イラク戦争開戦前,戦争にかかるコストは,どのように見積もられていたか?

 【回答】
http://job.toyokeizai.co.jp/izu/07bush.html
によれば,国際戦略研究所(CSIS)の試算によると,4 〜5 週間の短期戦で550 億ドル,6 カ月以上の長期戦で1,200 億ドルが見込まれていたという.
 エール大学のノルドハウス教授の計算では,向こう10年間で最低1,000 億ドル,最高で1 兆6,000 億ドルかかり,もっとも可能性の高い予想数字では,向こう2 年間で約4,000 億ドルの財政負担増になると計算されていたという.

 また,石油価格が高騰すると,景気刺激策(10年間で6,000 億ドルというブッシュ・プラン)のすべてを帳消しにするだけではすまず,CSISの予測では,対イラク戦争がいかなる状況になろうとも,戦争が起こったというだけで,株価は25%下落する可能性がああり,雁に戦争が6 〜12週間も続くことになれば,株価はさらに下がり,逆に石油価格は高騰し,金利も上がると推算されていた.


 【質問】
 イラク戦争開戦時,イラク軍はどれほど弱体化していたのか?

 【回答】
 図表参照.

 これに練度や士気,レーダー網の壊滅ぶり,兵器の更新まで考慮すると,数値以上に弱体ぶりは激しかっただろうと推測される.


 【質問】
 イラク戦争ではクラスター爆弾の評価は高かった?

 【回答】
http://www.globalsecurity.org/military/library/report/2003/3id-arty-oif.pdf
 第3歩兵師団第3旅団のpptファイル(pdf変換)では不発弾率が高いけど基数の半分を占めてたともあり,いやいや使っていたことになっている.
 その一方でSADARMとHEは褒められている.

 つうことで,イラク戦争の通常戦闘段階ではクラスター弾頭の評価は高くない部隊もあったとは言えます.

http://www.globalsecurity.org/military/library/report/2003/uscentaf_oif_report_30apr2003.pdf
の11ページ目が,空軍など航空戦力が使った弾薬の内訳.
 CBU-87,CBU-82はごくわずか.
 GBU-12,Nk-82,GBU-31 JDAMの順かな.

 つうことであれね,クラスター爆弾を使う機会はそんなに無かったみたいよ.

軍事板
青文字:加筆改修部分


 【珍説】
 「象とアリ」の兵力差と言われていたのに,あの超近代兵器を相手にたいした戦意だ.
 フセイン政権もイラク国民も「衝撃と恐怖」など,ちっとも味わってない様子だ.

(小林よしのり from SAPIO 2003/4/23, P.55)

 【事実】
 開戦直後から士気は一気に低下していた.

 共和国防衛隊元大佐 BBCインタビュー 4/12日

「中央からの指令は,開戦とともに途絶えた」
「開戦直後から,明らかな戦力格差を実感していた」
 フセイン政権への忠誠心の高いとされた,兵士の士気も一気に低下.
「毎日二人,三人と去っていく部下を引きとめはしなかった」と振り返る.
「バグダッドは兵士たちの故郷であり,自分の家や家族もいる」
と述べ,だれも首都での市街戦を望まなかったと指摘した.
 戦闘計画も指令も届かない状況で,司令官達は火を囲んで集まり,
「命を賭してまで戦う価値のない戦争だ」
との結論に達した.

 『正論』での田中光四郎という爺さんの論文が面白い.
 この爺さんはホンマか知らんけど,昔旧ソ連がアフガンに攻め込んできた時に,ムジャラヒンと義勇兵になって6年も寝食を共にして戦ったらしい.

 それで今回もイラク兵とともにアメリカのイラク侵略に対して,志願兵として命を捧げる覚悟でイラクにのりこんだらしい.
 〔略〕
 そこからが面白い.
 なかなかこのおっさんも小林に近い考えなのおっさんだが,体で体験したらしいね.(大笑い
イラク人が侵略者と全く戦う気がないことに.ガッカリしたらしいよ.

 まあ読んでみそ.
「小林の言ってることは正しかった」
とかが完全に勘違いなのがわかるから.
 大東亜戦争とは似ても似つかない,全く共通性のないものだということがよくわかるよ.

マスコミ板,2003/07/31 22:32


 【珍説】
 フセインが独裁政権であり,国民はアメリカに解放されたがっているという手前勝手な妄想は,開戦1週間で破綻した!
 イラク南部のシーア派の町でさえ,ライフ・ラインを破壊されて米軍の支援物資に殺到した民衆達は,反米感情を露わにした.

(小林よしのり from SAPIO 2003/4/23, P.56)

 岡崎氏は,
「バクダッドの市民は歓喜の渦となってフセイン政権の崩壊を祝福するだろうと予測しました」
と,鼻高々.

 アホか!
 その場,その場で支配者に媚び売るしかない市民の様子に,人間の憐れさやしたたかさを読みなさいよ.
 子供じゃないんだから!

(小林よしのり from "SAPIO", 2003/6/11)

 【事実】
 その後の報道によれば,民衆の中にバース党員が混じって監視の目を光らせており,アメリカ万歳など叫べる状態になかったという.
 シーア派住民は湾岸戦争のときに,打倒フセインを性急に叫んで弾圧を食らった結果,本当にフセイン政権が今回は倒れるかどうかに慎重になっており,フセイン政権が実際に崩壊するまでは,どの地域でも喜びを露わにすることはなかった.

 このことは,バスラ陥落直後,同市のシーア派のイスラーム法学者が
「まだ,バース党員や秘密警察が周囲にいるから,住民はフセインを称える言動をするしかないんです」
とはっきりと言ってるのが報道もされていたはずだが…….
 また,2003/4/10発売の週刊新潮誌上において,フリージャーナリストの橋田信介氏によると,監視のいきわたらないところでは,約90パーセントのイラク人は,ウェルカムといってたそうである.あるホテル従業員の中年女性に,米軍の侵攻が迫ってることを告げ尋ねるとなんと踊り始め,造花を指差して,これを差し上げると言ってたという.

 手前勝手な妄想はどっちかな?

(画像掲示板より引用)



 【珍説】
 今のイラクの険悪な反米状況を見たら,どっちが正しいか明白だね.
 FAQにはイラク人の反米感情を否定するような話を,【事実】などと決め付けているが,どっちが珍説かは今となっては明らか.

 【事実】
 フセイン打倒直後の話とイラクの治安回復に苦戦している現在とを比較されてもねえ.
 フセイン打倒は歓迎してたとは思うが,治安が回復せず,アメリカが居座るとは思ってなかったというのが妥当.

 イラク世論調査結果の推移を見るに,アメリカの占領行政の様々な不手際っぷりに,当初それなりにあった好意が消えた,ってところじゃないですかね.

(名無し四等兵 ◆clHeRHeRHo他 in コヴァ板)


 【珍説】
 バース党も何度も記者会見して,国を守るために戦っているのは軍だけじゃないぞとアピールしだした.(サハフ情報相らしき人物の記者会見が映っているTVの絵)
 民兵がアメリカの無人偵察機を撃ち落とし,1機26億円のアパッチ戦闘ヘリをじじいが撃ち落とした!
 もはやイラク国民は結集し,祖国防衛戦争となってきた.

(小林よしのり from SAPIO 2003/4/23, P.57)

 【事実】
 アホ過ぎ.

 バース党が軍を牛耳っていたのだから,前に出てくるのが当たり前.
 党主導の軍隊であるのは,旧ソ連などと一緒.

 無人偵察機は要はビッグ・サイズのラジコンであって,撃ち落とせても少しも不思議ではないし,「ヘリをジジイが撃ち落とした」というのは,イラク国営TVで報道された当時から,専門家も軍事マニアもその信憑性に懐疑的であったし,実際,それはただの捏造プロパガンダに過ぎなかったことが,戦後に明らかになっている.

 また,共和国防衛隊元大佐がBBCインタビュー(4/12)に答えて語ったところによると,
「中央からの指令は,開戦とともに途絶えた」
「開戦直後から,明らかな戦力格差を実感していた」
 フセイン政権への忠誠心の高いとされた,兵士の士気も一気に低下.
「毎日二人,三人と去っていく部下を引きとめはしなかった.バグダッドは兵士たちの故郷であり,自分の家や家族もいる」と述べ,だれも首都での市街戦を望まなかったと指摘した.
 戦闘計画も指令も届かない状況で,司令官達は火を囲んで集まり,「命を賭してまで戦う価値のない戦争だ」との結論に達した,という.

 全然結集してないやん…….


 【珍説】
 さらにアラブ諸国から5000人以上のムジャヒディンが入ってきて義勇兵となっている.
 イスラム対キリスト教の戦いにもなってきた!(太字原文ママ)

(小林よしのり from SAPIO 2003/4/23, P.57)

 【事実】
 まず,ムジャヒッディーンという言葉はジハードに赴く戦士に対する呼称であって,アルカーイダのようなイスラーム過激原理主義者というイスラーム系カルト宗教信者への呼称ではない.

 イラク戦争をジハードと見なすかどうかは,イスラーム法学会では見解は分かれている.
 今回の戦争については
「支持できないが,サダム・フセインが排除されるのは望ましいことだ」
とするのが,一般的な見解(酒井啓子)だからである.

 また,イラク戦争に駆け付けた過激原理主義者達が目指しているのは,イラクで可能な限り多くの米兵の血を流させ,アメリカの国力を消耗させることであり(発見されたアルカーイダ幹部の文書から),そのためにはイラク人の命など幾ら巻き添えになっても構わないと考えているようである.
 なぜなら,これまでテロによって,米兵に数倍するイラク人の命が奪われているからである.

 「イスラム対キリスト教の戦い」を声高に叫んでいるのは,彼ら過激原理主義者であり,そのような対立を引き起こしたいという願望の現れ(藤原和彦)である.
 小林はなぜ,イスラーム系カルト宗教の広告塔のような真似をするのか,理解できない.
 SPA!降板を巡るドロドロでは,真相が別にある(宅八郎他「教科書が教えない小林よしのり」)かどうかはともかく,小林は対外的には,
「オウム真理教の広告塔まがいのことをする雑誌とは,一緒にはやっていけない」
からこの雑誌を降りたと説明していたはずだが.


 【珍説】
 そして今(開戦1週間後)やスンニ派もシーア派も,この戦争が異教徒の侵略に対するジハード(聖戦)だと声明を出した.

(小林よしのり from SAPIO 2003/4/23, P.62)

 【事実】
 声明自体は誰でも出せる.本来資格のないはずのビン=ラーディンやムハンマド・オマルまでがジハードのファトアー(布告)を出したことがあるほど.

 どうも小林はイスラームを,キリスト教のバチカンのようにただ一つの権威が頂点にある宗教と勘違いしているようだね.

 そしてまた,イラクのシーア派にも影響力のあるイラン最高宗教指導者が,フセイン政権崩壊を歓迎していたりする.

------------
 テヘラン(CNN) イラクの隣国イランの最高指導者ハメネイ師は11日,テヘラン大学での金曜礼拝の説教で,「(イラン・イラク戦争中に)イランを苦しめた独裁者サダムが去り,我々もうれしい」とフセイン政権の崩壊を歓迎する考えを示した.

------------http://www.cnn.co.jp/world/K2003041200947.html

 【珍説】
 サダム・フセインの銅像引き倒しは米軍の「やらせ」である.

(小林よしのり from SAPIO 2003/5/14, P.58)

 【事実】
 一つの映像が「帝国の勝利」のシンボルとして世界を駆けめぐった.バグダッドに侵攻した米海兵隊に引き倒されるフセイン像.ブッシュ米大統領は「倒したぞ」と叫んだ.
 一方,中東では「侵略の象徴」と受けとめた人が多かった.
 だが,繰り返し流された映像から,抜け落ちている事実がある.
 最初に像を倒そうとしたのは,近くに住むイラク人たちだった.

 朝日新聞は現地取材で,中心的な役割を果たしたイラク人らの証言を得た.

 開戦21日目の4月9日午後4時ごろ,バグダッド中心部.
 電気工のハイダル・アブドルザハラ(27)は「米軍が来た」という叫び声に家を飛び出した.
 通りに米軍の装甲車が見える.親友を呼んだ.「約束を実行する時だ」
 彼は戦争前から近くに住む親友たちと「戦争で体制が倒れたら,おれたちはあのフセイン像を倒そう」と話し合っていたのだ.

 ハイダルはイスラム教シーア派だった.シーア派はイラク人口の65%を占めるが,フセイン体制下で抑圧されてきた.
 南部バスラ出身で高卒のハイダルは,兵役を終えた2年前にバグダッドに移り住んだが,技能にふさわしい職は得られず,アパートの守衛で生活費をかせいでいた.「フセイン体制では何も希望がなかった」のだ.

 フセイン像は,彼らの家から歩いて約5分のフィルドウス広場に立っていた.その真ん前に外国メディアの宿泊所であるパレスチナ・ホテルがあり,屋上などにTVカメラが並んでいた.
 ハイダルは友人とともに8人で広場に向かった.周辺の道路は米軍の戦車と装甲車などで埋められていた.
 彼らが広場に着いた最初のイラク人だったが,その後も続々と集まり,30人以上になった.
「倒せ,倒せ,サダム」と沸き上がる大合唱.
 そのなかでハイダルらの知らない筋肉隆々の男が一心不乱に,フセイン像の立つ台座に,ハンマーを打ち下ろしていた.=敬称略

●チャンピオン
 フセイン像の台座部分にハンマーを打ちつけていたのは,イラクの元重量挙げチャンピオン,カジム・シャリフ(46)だった.彼は広場から1キロほど北で自動車販売・修理業を営んでいた.
 「米軍がバグダッド北部のサダムシティーに入った」というニュースを衛星テレビで見た.
 突然,「フセイン像を自分の手で壊そうという思いがこみ上げてきた」という.

 70年代から90年代にかけて,重量挙げのイラク代表として,アジア大会や世界マスターズ選手権に出場した.が,「売買した車の中に治安警察所有のものがあった」という心当たりのない容疑をかけられ,9年の実刑に.恩赦を得られたものの,結局1年半服役した.

 選手時代も,オリンピック委員会会長を務めるフセイン元大統領の長男ウダイが,国際大会で良い成績を出せなかった監督や選手を辞めさせるなど,好き放題するのを見てきた.
 この日朝から,イラク兵やバース党民兵の姿は通りから消えていた.市中心部の政府施設では略奪が始まっていた.旧秩序は崩壊したのだ.
 カジムは言った.
「ある者は銀行のドアを壊しに行った.私はフセイン像を壊しに出た.それが私の最も望んだことだからだ」

●はしごとロープ
 ハイダルの仲間のなかで最年少のハサン・アブドルバーリ(17)は,広場に入って,フセイン像を見上げた.身長約10メートルの像が高さ約5メートルの台座の上に立っている.
 ハサンははいていたサンダルの片方を,像に投げた.1回目は外れた.また投げた.像の背中に当たった.
 引き倒すには,はしごが必要だった.ハリド・サルマン(30)が,アリ・アニース(20)に
「はしごを持って来てくれ」
と声をかけた.

 ハリドは大学卒だが,望んだ職が得られず,近くの駐車場で守衛をしていた.アリもこの駐車場で紅茶を作って売っていた.
 彼らは駐車場に電話工事用のアルミ製のはしごが置かれていたのを知っていたのだ.

 アリは02年秋に北部モスルを拠点とする共和国防衛隊の新兵になったが,イラク戦争開戦10日前に部隊を離脱した.
 戦争中は警察に見つからないように必死だった.
 米軍の姿を見て「もう隠れなくていい」と思った.

 アリがはしごを持ってくる間に,ハイダルは米軍の装甲車の側面に巻かれていたロープを借りようとした.米兵に向かってアラビア語で叫んだ.
「ハベル(ロープ)をくれ」
 フセイン像を指し,両手でロープを引っ張るしぐさを繰り返した.
 米兵は「ノー,ノー」と手を横に振った.
 だが,ハサンがなおも続けると,米兵は意味を理解したのか,ロープを外して下に投げた.
 ハリドが最初にはしごを昇り,台座に乗ってアリを引き上げた.
 続いて,ハンマーを持ったカジムが台に上った.カジムは台の上でも像の足をたたき続けた.
 見知らぬ若者がロープを像の首にかけた.アリが片方の端を受け取って降ろした.
 何人かがロープを引っ張った.びくともしなかった.

●星条旗
 今度は米海兵隊員が特殊車両に乗り,首にチェーンをかけた.拍手がわいた.
 だが,海兵隊員がフセインの顔に星条旗をかぶせようとすると,拍手がやむ.
「ノー,ノー」
 イラク人たちは,一斉に叫んだ.
 米兵は星条旗を外した.
 エジプトの衛星テレビのイラク人女性リポーター,メイスーン・ムサウィ(35)が
「イラクの旗を掛けよう」
と叫んだ.
 若者たちが近くのホテルの壁に掛かっていたイラクの旗を取ってきて海兵隊員に手渡した.
 ところが
「フセインと一緒にイラクが倒れるのはだめだ」
と声が上がった.イラク旗も外された.
 首にかけたチェーンを米軍のクレーン車が引っ張り,フセイン像は音をたてて傾き倒れた.
 拍手が上がった.

●広場の夢
 倒れた像に人々が群がった.ハサンもサンダルで頭をたたいた.
「サダムは終わりだ.独裁は終わりだ」
と叫び続けた.
 イラク人は自力で倒すことができず,最後は米軍が倒した.しかし,ハイダルはこう思う.
「米軍はイラク軍の抵抗も民衆の抵抗も受けずにバグダッドに入った.イラク人がフセイン政権を見放していたからだ.私たちがフセイン像を倒そうと考えた.米国は最後に手を貸しただけだ」

 戦後,ハリドのところに外国人ジャーナリストが来て,
「像を倒したのは,米軍から金をもらったからだろう」
としつこく質問した.

 ハリドが否定しても,また同じ問いを繰り返した.
 彼らにとって像が立つ広場は,涼しい夜に仲間たちと集う場だった.
「息苦しい体制のもとで,この像が倒れる日を私たちはひそかに語り合い,夢見てきた.なぜ,私たちが夢を実現させるために自ら動いたことを信じないのか」
(敬称略)

(バグダッド=川上泰徳,朝日新聞2003年7月29日朝刊紙面)


 【珍説】
>米軍の装甲車の側面に巻かれていたロープを借りようとした.

 へええ,装甲車ってのは,ロープを巻いているもんなのかね.戦争に必要なものなんかね.

>米海兵隊員が特殊車両に乗り,首にチェーンをかけた.

 へええ,特殊車両ね.しかも,あの長い丈夫なチェーンを積んでたんだね.それも,戦争に必要なものなんかね.

>首にかけたチェーンを米軍のクレーン車が引っ張り,フセイン像は音をたてて傾き倒れた.

 (へええ,クレーン車まで来てたんかね.それも,戦争に必要なものなんかね.

 それにね,クレーン車につなぐ前に,高い木の上に滑車がつるされて,それに綱を通してから,クレーン車につないだがね.あれは,重い物を引っ張る時の力の大きさを変える滑車だと思うがね.
 わしゃ,随分と準備の良い仕事だと思ったがね.銅像を倒すのに,どれぐらいの力が必要か,分かっとったんかね.
 わしらが捕まえた経験のある相当の悪党でも,あれほど手回しは良くないんだがね.

(阿修羅掲示板)

 【事実】
 ロープやチェーンや重機が不必要な戦争ってどんなの?
 石器時代とか?
 古代ローマ時代ですら,
「古代ローマ軍は優秀な土木技術集団でもあった」
と言われているくらいだし,ATM壊すのにだって各種資材とか必要だろうに.
 まあクレーン車は重機かなんかなんだろうけどな.

 米軍が来るより1時間近く前から,BBCが中継やってたから,経緯は全部わかっている.
 まずイラク人が集まってきて自分たちで引きずり倒そうとしてそれができず,やってきた海兵隊のM88を呼んできて,引きずり倒した.

 あの像はM88戦車回収車のAフレーム使って引き倒した.ロープもクレーンもM88には装備されている.


 【反論】
 米軍は略奪者を先導して,解放を演出した.

 凄い決定的な映像を目にした.略奪した椅子のネジをいじっている男が,独り言を発したのだ……
「ブッシュめ!」
 そこにTVカメラが近付くと,
「ブッシュ万歳! ブッシュOK!」

 彼らの本心は,窺い知れない.
 ただ表面は,その時々の支配者に媚びて叫び,行動しているだけなのだ.
 身の保身が全て.
 「私」のみ.
 彼らには「公」の観念がない.
 だから独裁制が必要だったのであり,だから民主主義は生まれなかった.

(小林よしのり from SAPIO 2003/5/14, P.59)

 【再反論】
 カメラの話は論拠が示されていないので,まずもって真偽をどうこう言いようもない話です.
 ネット上では,

 それって,たしかアジアプレスの綿井(健陽)が,TV朝日との中継で自分の目撃談として言って,日本のサヨク中に広まった話じゃなかった?
 イスを略奪してきた男が,カメラの前では「ブッシュ,YES!」とかいってて,カメラが無いところでは,「チッ!ブッシュめ!」と言ってたとか,
 イラクでアメリカに開放されてよろこんでいるのは,500万市民のうちで100人だけだったとか,
 イラクに開放されて喜んでるのはすべてCIAの工作員だった!
とかいう綿井の報道をそのまま何の検証もしないで,小林がマンガに描いてるってことだろ.

という情報もあります(エセ保守監視小屋)が,これも確認できてはおりません.

 ただ,その後,1年経っても,その映像を,小林以外で見たという人を寡聞にして知りません.
 ぜひとも,明らかにしてもらいたいものです.
 存在しているのであれば,格好の宣伝材料として,TV朝日あたりが度々使いそうなものですが…….

 後段についても,独裁制が必要だったかどうかは,該当項目を御覧ください.

 それにしても,「独裁制が必要だった」とする根拠として,「イラク人には「公」がない」が挙げられていますが,略奪が起きただけで「公」がないと決め付けるのは,論理展開が乱暴過ぎるでしょう.
 イラクはその当時,行政機構が一瞬にして消えてなくなるという事態になっていました.無政府状態下では略奪が起き易いことは,別にイラクに限った話ではありません.
 今でも小林が自説を主張したいのであれば,もっとちゃんとした論拠とそれを裏付けるデータを提示するべきでしょう.

 それができていない「論」に説得力はありません.

 ところで,小林はこの前の号のSAPIOでは,「イラク人に愛国心が芽生えてきた」と述べていたはずですが,その「公」はどこへ消えたのでしょう?

 ま,もっとも,「公」というものについて,小林は曖昧な定義しかしていないのですから,それとこれとは別物だ,と主張するのも容易なのですが.

 さすがはマルチ・スダンダード使いですね.



 【反論】
 その時々の強者・支配者に媚びる精神が独裁者を作る.
 他人の手で解放してもらって喜ぶ連中.

 それは,他人の手で北朝鮮の脅威から解放してもらおうとしている日本人と同じ.

(小林よしのり from SAPIO 2003/5/14, P.60)

 【再反論】
 「長い物に巻かれろ」は,しばしば聞かれる日本の諺ですが,近代日本史で独裁者が誕生したという話は聞いたことはありませんな.
 ヒトラー政権誕生にしても,ドイツ人に,強者に媚びる精神があったからだとする話も聞きません.
 むしろ,独裁政権誕生の理由は古今東西で様様なようですが,たった1行で新説を披露されても,多少でも世界史の知識のある読者なら,首をかしげるだけでしょうな.


 解放過程で他人の手を借りることも,世界史では決して珍しくないのですが,それがイカンというのなら,世界の多くの国にダメ出しが可能になりますな.
 英国の大きなバックアップの下,日露戦争に勝った日本も,小林にとってはダメな連中に見えるのでしょうかね?

 この「解放の小林理論」で分かるように,曖昧な論説は,このようにいつの時代にもどこの地域にでも当て嵌めることができる,便利な道具なのです,煽動家にとっては.



 【反論】
 こういう,支配者に媚を売る連中が,50数年前にも日本にいたのだ.
「マッカーサー様ありがとう!」
「マッカーサー様の子供が産みたい!」

 厭らしい連中である.
 この連中の一部が,東京裁判を丸ごと信じ,平和憲法をありがたく押し戴く進歩的文化人となり……,
 この連中の一部が,日米同盟は絶対で,アングロサクソンに着いていけと主張している.

 支配者に媚を売る卑しい連中のDNAは,実は今の親米ポチ保守にも受け継がれているのだった!

 だから彼らは何から何までアメリカの側に立って報道する.

 勝ち馬に乗る馬鹿!

(小林よしのり from SAPIO 2003/5/14, P.61,抜粋要約)

 【再反論】
 これも論拠が全く示されていませんので,論としての説得力に欠けます.
 マッカーサーのくだりなどは,元ネタがありそうですが,出典ぐらい示したらどうですかね.

 世の中には,上の主張のような人物が,全くいないとは言えません.
 しかし一般に,東京裁判を丸ごと信じる進歩的文化人など,ごく少数の例外でしょう.
 また,日米同盟は絶対と主張している人々も,ごく少数ではないでしょうか.
 日本の自主防衛が難しい現状では,どこかの国と同盟を結ぶしかないのですが,米韓中露……とある中では,米が最善の選択である,というのが主流でしょう.

 「何から何かでアメリカの側」というのも,そんなメディアは見たことがありません.
 極端な反米の側に立っている人間にとっては,気に入らない報道はすべてそう見えてしまうのかもしれませんが.

 米軍の誤爆・誤射をオーケーと言っている,というのが,その論拠として出てきます.
 もちろん,誤爆・誤射はないに越したことはありません.
 しかし,戦争という混乱の中でこれを零にすることは,現在の技術では不可能ですし,市民を疎開させなかったイラク側にも責任はあります.
 史上最もこれをなるべく減らすよう米軍が努力していた戦争であることは,どの軍事専門家も否定しないでしょう.あ,田岡なら否定するかな?(笑)

 ちなみに小林は,南京問題などを扱っていた頃,戦争に誤爆・誤射はつきものだと言って旧日本軍を擁護していませんでしたかね?
 記憶違いでしたかね?

 【質問】
 イラク戦争開戦から短期間でイラクを軍事制圧したブッシュが,勝利宣言ではなく,戦闘終結宣言という曖昧な表現を用いたのはなぜですか?

 【回答】
 実際にはまだ小規模な戦闘は続いていたからです.
 英文Wikipediaにあるように,「戦闘終結宣言」は実際には「End of major combat operations」であり,正確には「大規模な戦闘行動の終了宣言」とでも訳されるべきもの.
 同じサイトにあるように,ブッシュ自身のスピーチ内でも
「We have difficult work to do in Iraq.
We are bringing order to parts of that country that remain dangerous.」
と,戦争が完全に終了したわけではないことを明言しています.

軍事板


 【珍説】
――――――
 確かにわしは,「戦争は長期化する」と予測した.
 だって今でも,ブッシュ大統領は「戦争終了宣言」を出してないんだぜ!

 ポチ君達は,銅像が倒れて略奪があっただけで,
「ほうれ,あっという間に終わったじゃないか」
と,勝ち馬に乗ったつもり?

 何が嬉しいのかね?
 自分が勝ったわけでもないのに.

――――――小林よしのり from "SAPIO" 2003/6/11, p.56

――――――
「ほーら,イラク戦争,あっという間に終わったぞ.小林よしのりの予想大ハズレだ」
と勝ち誇っていた親米ポチの皆様.ブッシュは未だ「戦争終了」を宣言してません.
 それどころか,米軍は「イラク全土がまだ戦闘状態」と表明し,駐留部隊の大半を動員して「砂漠のサソリ作戦」を展開中です.
 早々と勝ち誇ってみせて,後は知らんぷりなんて,そんな態度まで宗主ブッシュのモノマネですか?

――――――時浦兼 from "SAPIO" 2003/7/9, p.61欄外

▼――――――
「〔戦後イラクの〕事態は誰も予想し得なかった」とは何事だ!?
 何度も何度もわしが予言したではないか!

――――――小林よしのり in 『SAPIO』 2006/12/27 & 2007/1/4合併号,p.64

――――――
 〔略〕
 それは全部,開戦前から,あるいはバグダッド陥落直後,親米保守派が勝ち誇っていたときからわしが言っていたことだ!
――――――小林よしのり in 『SAPIO』 2006/12/27 & 2007/1/4合併号,p.65▲

 【事実】
 これは,宗教詐欺師がよく使う手口です.

 小林が予測したのは
「凄惨な市街戦が始まるに違いない.イラク人は徹底抗戦する.フセインの下で祖国防衛戦だ」
であって,戦後に大きな混乱が発生することではありません.

 だいたい,イラク戦争については他にも様々な珍言を残している人間が,一つ「当たった」からと言って,少しも評価の対象にはなりません.
 目隠ししてむやみやたらと棒を振り下ろしたら,その中の1回がたまたまスイカに当たったようなものです.単に運の問題です.
 別に深い洞察を持ち合わせていなくても,ただ喚き続けていれば誰でも一つくらいは的中しますので,誰でも小林と同じ事ができます.

 これはオウムの麻原晃光そっくりの,「予言が当たった!」のペテンと言えるでしょう.

 また,戦争自体はフセイン崩壊によって終結したと見るのが常識的です.
 まず,戦争の後には混乱がつきものです.
 第2次大戦後のアジアはたいてい混乱していますし,ドイツの第1次世界大戦後の混乱が,ヒトラーを誕生させたりもしています.
 第1次大戦後のトルコやイランでは,イラク戦争後の状況に似たゲリラ戦やテロが,連合軍相手に起きています.
 しかし,その混乱を根拠にして,
「第2次大戦は1945年で終結していない」
「第1次大戦は1918年で終結していない」
と述べるような歴史書は殆どありません.

(国際情勢を大きく捉え,
「第2次大戦は第1次大戦のリターン・マッチだった」
とする意味で,
「第1次大戦は1918年で終結していない」
と表現されるような事はあります.
 しかし,小林の発言をそういう意味で捉えるのは,非常に無理があります)

 また,法的手続きとしては「戦争終結」は,新イラク政府がアメリカと平和条約を締結してのこととなります.
 太平洋戦争にしても,講和条約締結が正式な戦争終結の日であり,それ以前は停戦してただけということになります.

【講和条約】
 戦争の終結を宣言し,領土・賠償金などの講和に伴う条件について規定する国際法上の合意.平和条約.

 したがって,ブッシュ大統領が「戦争終結宣言」を出さずに「戦闘終結宣言」を出していることは,その面から見れば少しもおかしいことではありません.

(軍事板出張スレッド in コヴァ板他)

 そして,その事実指摘に政治信条は不必要かつ無関係なわけですが,小林はそうした人々に対し,「ポチ君達」と,定義不明瞭なレッテル貼りをしています.
 かつて朝日新聞のレッテル貼りを批判した小林が,です.

 しかも,その指摘を「嬉しがっている」としか受け取れないとは……(小林のほうが「よほど悔しかった」のではないか?と,邪推されかねませんよ,こんなことを書いていては)

 小林も西部も,イラク戦争が泥沼化してアメリカがかつてのベトナム戦争のときと同様に負けると踏んで,フセインの勝ち馬に乗ろうとしただけでしょ.(エセ保守監視小屋)

と揶揄されるのも道理と言えるでしょう..

 さて,時浦のほうの主張は,ほとんど小林の物真似でしかありませんが,ただ一つ,注目すべき発言をしています.すなわち,
>早々と勝ち誇ってみせて,後は知らんぷり
という態度を非難しております.

 それではまず,数々の間違い記述をしでかしておいて知らんぷりを決め込んでいる小林にも,
「知らんぷりしてるなんて,ブッシュと同じだな!」
と,声を大にして非難してください.

 それとも,ダブスタまで宗主,小林のモノマネですか?

▼※ なお,小林のこの主張のオリジナルは,あのスコット・リッターである模様.
 以下引用.
[quote]

In an interview with Irish radio, Mr. Ritter said that the conflict would become an "absolute quagmire," and the US-UK advance would stall outside Bhagdad and fail to capture the city.
アイルランド・ラジオのインタビュー番組で,リッター氏は今回の紛争が「絶対的な泥沼」に陥り,前進を続けた米英軍はバグダッドの郊外で立ち往生してこの首都を陥落することはできないだろう,と語った.

[/quote]
―――http://www.GuluFuture.com25th March, 2003,by Fintan Dunne, Editor
 スコット・リッターを鵜呑みにしていたとすれば,「やれやれ……」ですな.▲

 【反論】

 では,当のアメリカはそこまで堂々と国際法を無視できるのだろうか?

 5月2日,サンディエゴの空母リンカーンの艦上で,ブッシュ大統領は「戦闘終結宣言」を行った.

 アメリカはイラク戦争の「勝利宣言」を未だにできないでいる.
 戦争はまだ終わっていないのである.

 なぜ「勝利宣言」か,「戦争終結宣言」ができないのか?

 実は現時点で「戦争」を終結させてしまうと,国際法上,アメリカに戦勝国としての義務が生じてしまうからだ.

 戦争が終結すると,「ジュネーブ条約」により,6000人にのぼるイラク軍捕虜を釈放しなければならなくなる.
 戦犯をどう裁くかが決まっていないので,それはできない.

 ハーグ条約によれば,フセイン大統領らの拘束に武力を用いることができなくなる.

 だが一方,アメリカはイラク復興を早く進めたいが,国連による経済制裁を解除してもらうには,戦争終結のアナウンスが必要だ.

 そこで苦肉の策としてアメリカは,「戦争終結宣言」という微妙な言葉の言い換えですり抜けたのである.

 アメリカは,明らかに「国際法違反」という批判を気にしている.
 国際法は決して無力ではない.
 未だにアメリカは,国際社会の「慣習・ルール・道徳」によって,縛られているのである!

(小林よしのり「戦争論3」,p.105-106)

 【再反論】

 これは中西・岡崎批判の続きで出てきている言葉ですが,中西・岡崎両氏共に
「もはや国際法も国連も役に立たない,だから日本は国際協調なんか捨てて,アメリカにだけ必死でついていけばいい」
などと言っていません.そう小林が誤読しているか,さもなきゃ歪曲しているだけです.
 つまり,このくだりは,小林以外の誰にも見えない敵と小林が戦っているようなものです.

 ちなみに,イラク攻撃は国際法違反!と叫んでいたのは小林自身なのですが,その「国際法を無視したアメリカ」は,どこへ消えてしまったのでしょうか?

 また,「戦争終結」は講和条約によって決まるものであり,現時点では「戦闘終結」で何の問題もないことは,既に述べたとおりです.

 余談ですが,2003年5月の「朝生」において,小林が必死にアメリカを悪者にするために,
「アメリカだって国際法を守ってるし,国際法に縛られてるからこそ,リンカーン(空母)の艦上で終戦宣言もできなかった.
 終戦宣言したら捕虜を解放しないといけないから,戦闘停止宣言しかできなかった!」
と勇ましく発言したが,
「その言い方じゃ,まるでアメリカが国際法を守る善人みたいじゃないか! アメリカは無法者なんだろ!? 小林さんは親米なのか!?」
と田原に叱られてたのは情けなかったですね.

(エセ保守監視小屋他)

 なお,捕虜とか援助とか,その辺への再反論は別項目↓で.


 【反論】

 アメリカはイラク戦争の「勝利宣言」を未だにできないでいる.
 戦争はまだ終わっていないのである.
 なぜ「勝利宣言」が,「戦争終結宣言」ができないのか?

 実は現時点で「戦争」を終結させてしまうと,国際法上,アメリカに戦勝国としての義務が生じてしまうからだ.
 戦争が終結すると,「ジュネーブ条約」により,6000人に上るイラク軍捕虜を釈放しなければならなくなる.
 戦犯をどう裁くかが決まっていないので,それはできない.

 「ハーグ条約」によれば,フセイン大統領らの拘束に武力を用いることができなくなる.

 だが一方,アメリカはイラク復興を早く進めたいが,国連による経済制裁を解除してもらうには,戦争終結のアナウンスが必要だ.
 そこで苦肉の策としてアメリカは,「戦闘終結宣言」という微妙な言葉の言い換えですり抜けたのである.

(小林よしのり「戦争論」3,p.104-105)

 【再反論】
 上述のように,戦争終結は講和条約によってもたらされるのであり,戦争終結宣言をしないのは,戦犯・捕虜の問題とは関わりがあるわけではありません.

 で,援助と戦争の関係ですが,それはどうにでもなります.
 一番端的なのが,いまなお「休戦しているだけ」,すなわち「戦争が終結していない」北朝鮮への経済制裁で,朝米基本合意文(94年10月21日にジュネーブで調印)によって緩和されたりしています.
 日本でも終戦〜サンフランシスコ講和条約の間の「公式には戦争が終わっていない」期間に,援助が入ってきていますね.
 経済制裁は別に国際法で定められたものではなく,安保理決議でのものなのですから,安保理が,
「経済制裁やーめた」
と言えば,いつでも可能なわけです.

 むしろ逆に,
「国連による経済制裁を解除してもらうには,戦争終結のアナウンスが必要」
の根拠をお伺いしたいものですね.

 なお, 

>「ハーグ条約」によれば,フセイン大統領らの拘束に武力を用いることができなくなる.

ですが,これもイスラエルによるアイヒマン誘拐(IDFはパイロット等提供)など見ますと,グレー・ゾーンをいくらでも掻い潜ることが可能ではないかと考えられますが,どうでしょう.


 【質問】
 イラク戦争での民間人の犠牲者数は?

 【回答】

 先の国連の報告書によれば,24,000.
 一方,スイスのジュネーブ高等国際問題研究所によれば,3万9千人になるという.
 以下引用.

民間人犠牲は3万9千人 イラク戦争でスイス研究所

 イラク戦争開始後に戦闘や武器を使用した暴力行為で命を落としたイラク人の人数が,これまでの推定より1万人以上多い約3万9000人に上る見通しであることが,スイスのジュネーブ高等国際問題研究所が国連本部で11日発表した「小型武器概観」で明らかになった.
 同報告は毎年国連で発表され,国連でも「信頼できる報告」とされている.

 ロイター通信によると,2003年3月のイラク戦開始以降で犠牲になったイラク民間人は,複数のメディアに報じられた数字をまとめて「2万2787人から2万5814人」とされていた.
 軍関係者の犠牲者数は詳細に把握され,同通信によると1937人.
 しかし民間人の犠牲についてはまとまった調査は少なく,実態が不透明とされていた.
 今後,詳細な調査を求める声が強まりそうだ.

(共同通信,2005/7/12)

 なお,一部で引用されることの多いLancet Reportには,信頼性に問題があるので,注意が必要だという.
 以下引用.

戦争の犠牲者が多い事を望む反戦活動家

 石油食料交換プログラムに関与し,フセインにより買収されイスラム票を集めようと媚を売る事に専念したイギリスのジョージ・ギャロウェイ議員が,アメリカ議会の証言台でブッシュ政権を罵しるという醜態を晒した
 信用の無い人物の発言に反論するのも無意味なので,発言内容には触れないが,一つ気になったのが,反戦/反米の連中が常に引っ張り出してくるLancet Report(PDF)がまた言及された事だ.
 調査方法にも多々の問題があるが,その結論も
「95%の信頼性レベルで,イラク戦争により 8,000〜194,000の人命が失われた」
と当方もない幅があり,調査自体がほぼ無意味である.
 しかし反戦/反米層は,幅の中間を取り,イラク戦争により10万人が死んだと主張するようになった.
 リポートを読めば解るが,8千人亡くなった確率より10万人亡くなった確率が高い,とは何処にも書いていない,つまり,グラフにすると釣鐘型の曲線になり,10万人が頂点になる,と考えるのは間違いなのだ.
 そんなことも理解できずに,反戦/反米層は尤もらしく10万人という数字を繰り返し使う.

 そんな中,先日国連がイラクについての調査報告書を公表した.
 そのリポートの中でイラク戦争による死者の数はこうなっている:
The ILCS data indicates 24,000 deaths, with a 95 percent confidence interval from 18,000 to 29,000 deaths.
 こちらの幅はかなり小さくなっており,24,000が一番可能性の高い数字と明記している.2万4千人である,桁が違う.
 だがもちろん,Lancet Reportは95%の確率で8千〜19万4千のどこかとしかしてないので間違っているわけではない.あれだけ幅に余裕を持てば間違う事などまず無いだろう.
 国連の調査はLancet Reportよりはるかにサンプル数が多く,正確な調査をするための障害も少なかった.
 だが,国連が大好きな左の人々は,何故か国連の数字の2万4千ではなく,10万の数字をこれからも使い続けるはずだ.
 この報告書がメディアに無視されている事に,その兆候が既に見える.

(from 「反MSM」,2005/5/19)


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