c
リトビネンコ暗殺事件特設Q&A
___ ┌──────┐
/ | │ 露西亜直送 │
/.プーチン鮨│ r――┴──────┴―――――─‐.、
/_____| |大ポロニウム祭!|ウランの330倍! |
/ ▲ ▲ .ヽ ─────────────────
| ● | \(□)\
| ▼ | \ \\
| つ⊂ ..| (.□)
\
──(,□)─(.□)─(□.)─(.□)─(.□)─(.□)─. \\
ニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニニl
\
____________∧_,,∧________.\
___________ (l! i!)__________|
|_iニニil _liニニl ( iニニl) ._liニニl _liニニl
||ヽ|__| |ヽ|__| |ヽ|__| |ヽ|__|
|ヽ|__|
. ̄| | ̄ ̄ ̄| | ̄ ̄ ̄| | ̄ ̄ ̄|
| ̄ ̄ ̄| |
目次
【質問】 リトビネンコはプーチン大統領の側近について大きなダメージとなる書類を作成し,そのために殺害された,という説の信憑性は?
【質問】 これまでの,プーチン政権による暗殺事件,ないし,そうと疑われている事件は?
【質問】 これまでに,ロシア諜報機関が放射性毒を使って暗殺を行ったことはあるのですか?
【質問】 リトビネンコはなぜ,ロシアからの亡命を余儀なくされたのか?
【質問】 リトビネンコは生前どのようなことを主張していたか?
【質問】 リトビネンコ暗殺事件が決着するとしたら,どのような形になりますか?
【質問】 プーチン大統領とベレゾフスキイとの確執はなぜ起こったのか?
【質問】 ポロニウム210だけ放射能が強いということなんでしょうか?
【質問】 放射性物質みたいな面倒なもん,なんで暗殺犯は使ったの?
【質問】 ポロニウムをなぜあんなにあちこちに撒き散らすはめになったの?
「FSBがロシアを爆破する」(発禁となったリトビネンコの本の全文)
John F. Kennedy Asassination Homepage(英語,なんとなくリンク)
「tnfuk」:よりによってCL決勝の日に「ルゴボイのインタビュー」
Timeline: Former Russian spy case(BBC,英語)
「tnfuk」◆(2010/12/12)Wikileaks米外交文書大公開〜「リトビネンコ事件」
アレクサンドル・リトビネンコ Alexander Litvinenkoの経歴(ウィキペディア)
ポロニウム210解説サイト(by tnfuk,2006年12月01日)
Radiation update(NHS(英国の健康保険)の解説,英語)
上のリンクが切れていたら,http://www.nhsdirect.nhs.uk/ から探してみてください.
少しスクロールダウンしたところに,What is Polonium 210? という小見出しがあります.
その下がポロニウム210についてのテーマ別解説です.
これもまた,専門的な知識のない人が読んでもわかるように書かれています.
What is polonium-210?(BBC,英語)
専門的な知識のない人が読んでもわかるように書かれている説明文です.最終更新が11月30日になっていますが,毒物が判明した直後には上がっていた記事です.(11月30日の更新の内容は,最後のほうに書かれている「British Airwaysの機体からの検出について」の部分.)
鍵となる人物(〜BBC)
人名ノート(〜「チェチェン総合情報」)
【質問】
リトビネンコ暗殺事件とは?
【回答】
2006/11/1,ロンドンに亡命中のFSB(連邦保安局)元中佐アレクサンドル・リトビネンコが放射性毒を盛られて殺害されたと見られる事件.
彼はタリア人の防衛コンサルタントとロンドン市内のすし店で会った後,突然,体調を崩し,17日にロンドン市内の病院に入院.
22日夜に心臓発作を起こして容体が悪化,23日夜に死亡した.
以下引用.
<露毒殺?>重体の元保安庁中佐が死亡 体制批判で英亡命中
【ロンドン小松浩】毒を盛られた疑いで重体となっていた元ロシア連邦保安庁(FSB)中佐のアレクサンドル・リトビネンコ氏(43)が23日夜,ロンドン市内の病院で死亡した.
〔略〕
リトビネンコ氏は今月1日,イタリア人の防衛コンサルタントとロンドン市内のすし店で会った後,突然,体調を崩した.
17日にロンドン市内の病院に入院したが,22日夜に心臓発作を起こして容体が悪化,23日に危篤となっていた.
英メディアによるとリトビネンコ氏はイタリア人と会う前,2人のロシア人とロンドン市内のホテルで面会した.
うち1人はFSBの前身・旧ソ連国家保安委員会(KGB)の元幹部だったとされる.
リトビネンコ氏の友人は英スカイテレビに対して,この時に紅茶に毒を盛られたとの見方を示した.
リトビネンコ氏はプーチン体制の批判者で,6年前に英国に亡命.先月のアンナ・ポリトコフスカヤ記者殺害事件の真相を追う資料などを持っていたという.
イタリア人コンサルタントはリトビネンコ氏と会った際,自分たち2人の名前やポリトコフスカヤ記者の名前が載った「暗殺対象者」リストを渡し,注意を呼びかけたと説明している.
毒物は当初,重金属のタリウムか放射性物質との報道があったが,リトビネンコ氏の治療にあたった医師は両説を否定,「何が原因かは依然不明だ」と記者団に語った.毒物の特定は不可能との見方が強い.
毒殺未遂容疑で事件を捜査していたロンドン警視庁は23日夜,リトビネンコ氏の死を「原因不明の死」として扱うとの声明を出し,現時点では毒殺と断定せずに捜査を継続する姿勢を示した.
〔略〕
英防諜機関も捜査開始 元スパイ毒殺事件 露に情報提供を要請
【ロンドン=蔭山実】ロシア連邦保安局(FSB)の元幹部,アレクサンドル・リトビネンコ氏が亡命先の英国で毒殺された事件で,英政府は24日,同氏が放射性物質を盛られた可能性が強まったのを受け,「コブラ」と呼ばれる国家有事に対応する担当閣僚らによる緊急治安会議を開き,対応を検討した.会議を受けて,ロシア政府に捜査に関連するあらゆる情報を提供するよう要請,同事件は外交問題に発展した.
25日付の英紙タイムズによると,英国の防諜(ぼうちょう)機関で国内の治安を担当する情報局保安部(MI5)と対外情報部(MI6)も捜査に加わり,英国側の捜査は本格化している.
一方,ロシアのプーチン大統領は24日の記者会見で,リトビネンコの死亡についてロシア当局が暗殺に関与したとの見方を否定.だが,「捜査に協力する用意はある」と表明している.
英国の警察当局は同日,リトビネンコ氏の自宅と同氏が事件当日の今月1日に紅茶を飲んだといわれるロンドン市内のホテルとすしバーを捜索し,この3カ所で放射性物質の痕跡を確認した.
同氏からは放射性物質のポロニウム210が検出されており,同氏が同物質を飲まされた後にいた場所に,体内から放出された放射性物質が残っていたことになる.
捜査の焦点となっているホテルでのロシア人2人との会合と,すしバーでのイタリア人との会合はどちらが先だったかについて情報は錯綜(さくそう)している.
時間的な問題から,この2カ所のうち先にリトビネンコ氏が立ち寄った場所が,放射性物質を飲まされた現場だった可能性が強まりそうだ.
産経新聞,2006年11月25日16時5分
■リトビネンコ毒殺事件の経緯
1)ガーディアン記事
Countdown to Litvinenko's death
Saturday November 25, 2006
リトビネンコ事件のタイムライン.このタイムラインは,情報が錯綜する中,いろいろあったのをガーディアンがまとめたものです.現時点の情報とは違っている点もいくつかあります.
概要:
10月7日:アンナ・ポリトコフスカヤ射殺.【注:タイムズ記事によると,このすぐ後にリトビネンコが英国の市民権を獲得.】
11月1日:リトビネンコ,ロンドンのホテルでロシア人と会う.その後イタリア人のマリオ・スカラメッラとスシ・バーで会い,ポリコフスカヤ殺害実行者の名前の書かれた書類を受け取ったとされる.その後具合が悪くなり,バーネット総合病院に搬送される.【注:11月25日時点の情報なので,「ホテルからスシ・バー」という順番になっています.後に「スシ・バーが先でホテルは後」という話になっています.】※
11月11日:リトビネンコ,BBCのロシア語放送に対し,毒を盛られて非常に具合が悪い,ということを語る.
11月17日:症状が悪化し,ユニヴァーシティ・コレッジ病院に転院.武装した警備がつけられる.
11月19日:リトビネンコはタリウムを盛られたという報道が出始める.この時点でのリトビネンコの生存の可能性は5分5分.
11月20日:集中治療室へ.写真が発表される.スコットランド・ヤードが対テロユニットが捜査中と述べる.クレムリンは関与説を一蹴.
11月21日:毒物の専門家,ジョン・ヘンリー博士が,放射性タリウムの可能性を指摘.治療に当たる医師らはのちに,普通のタリウム中毒ではないだろうと述べる.マリオ・スカラメッラ,スシ・バーで会ったときにリトビネンコは自身の名前がターゲットとして記載された書類を見たと述べる.
11月22日:病院,リトビネンコの症状の悪化を発表.ロシアの対外情報機関,関与を否定.
11月23日:午後9時21分,リトビネンコ死去.医師にも警察にも病気の原因はいまだ不明.タリウムではないということは判明し,放射性物質による中毒はありそうもない(unlikely)と.【注:後の報道では,死去の3時間前に「ポロニウム210」が検出されていた,とのこと.ただしそのときはすでに打つ手がなかった(遅すぎた)とのこと.】
11月24日:21日に口述筆記されたリトビネンコのステートメント.【注:この毒殺計画について,ロシア政府を名指し非難するもの.】
HPA(Health Protection Agency)では「ある種の放射能による中毒のようだ」としており,リトビネンコの尿からは「かなり大量の」ポロニウム210が検出された.HPAはスシ・バーとホテルから放射能の痕跡(微量の放射能)を検出している.
※ どちらが先かについて,まだ確定情報はない模様.
以下引用.
注意しなければならないのは,11月1日にリトビネンコが,先にスシ・バーに行ったのか,先にホテルに行ったのか,それについてのはっきりした情報は,実はリトビネンコが死亡したあと(捜査開始後)のメディアの記事にはない,ということだ
(あまりに記事の数が多いので,私が見落としている可能性は高いが,一応,BBCに出た記事はすべて読んでいるけれど,捜査当局がそれをconfirmしたというのは見た記憶がない).
つまり,捜査当局(この事件では,スコットランド・ヤードの対テロ・ユニット)はリトビネンコの当日の行動について断言していない.
当初,おそらく病床のリトビネンコの発言を伝える友人たちの話に基づいて,
「リトビネンコはミレニアム・ホテルでルゴボイらと会ったあとで,スシ・バーでスカラメッラと会った」とメディアでは「断定」されていたことを考え合わせて.
〔略〕
ただし,タイムズが「スシ・バーに行ってからホテルに行った」という説の根拠としているであろうものは,ルゴボイのインタビューです.
http://nofrills.seesaa.net/article/28636161.html
何となく,「クレタ人は嘘つきだ,とクレタ人は言った」という例のアレを思い出します.論理学の話ではなく,文字通り.
また,佐藤優は,11/1説にも疑義を呈している.
以下引用.
26日産経新聞の視点が優れていて,安斎育郎・立命館大学教授(放射線防護学)の「食事に混入されていれば,便で検知される.尿だけに出たというならば,11月1日より前に注射された可能性が高い.ポロニウム210の半減期は約4カ月間ある.体内でアルファ線によって臓器が破壊されたのだろう」とのコメントを掲載している.※2
このことから,現在流布されている「11月1日に,ロシアの諜報機関員がすしにポロニウムを混入し,リトビネンコ氏を殺害した」という物語が成り立たないことがわかる.
※2
コメント全文は以下の通り.
安斎教授は「食事に混入していれば,便で検知される.尿だけに出たというなら,11月1日より前に注射された可能性が高い.ポロニウム210の半減期は約4カ月間ある.体内でアルファ線によって臓器が破壊されたのだろう」と推測している.(杉浦美香)
産経新聞,2006年11月26日8時2分
【質問】
リトビネンコはどこで毒を盛られたのか?
【回答】
不明.
寿司バーで,というのは推測の一つに過ぎない.
現在はホテルの紅茶説がやや優勢だが,これとて有力な説とは言えない模様.
以下引用.
英警察当局の捜査の最大の焦点は,ポロニウムの追跡調査だ.リトビネンコ氏が体調を崩したのは十一月一日.ロンドン市内の日本食レストランでイタリア人研究者のスカラメラ氏と面会,その後,ルゴボイ,コフトゥン両氏とミレニアムホテルで会ったことが分かっている.
同夜帰宅したリトビネンコ氏は激しい吐き気などを訴えて入院,同二十三日に帰らぬ人となった.
しかし英捜査当局は日本食レストランではポロニウムは混入されていないと推定.ミレニアムホテルのバーのカップから高濃度の放射能が検出されたことから,ここで飲んだ紅茶にポロニウムが入れられたとの見方を強めている.
しかし,ルゴボイ氏は「リトビネンコ氏は何も注文せず,われわれも彼に何もすすめなかった」とロシア・メディアに語った.
どこでポロニウムを摂取したかは依然として謎のままだ.
それどころか,「毒を盛られたのは11/1より前」説さえある(以下引用)現状では,断定は禁物だろう.
「慌てない慌てない,一休み一休み」(from
アニメ「一休さん」)
14日に,リトビネンコは実は11月1日より前に毒を盛られていたのではないかとの報道が出ている.
http://news.scotsman.com/international.cfm?id=1855702006
ルゴボイがモスクワのタブロイド,Moskovsky Komsomolets に語ったところでは,ルゴボイとリトビネンコは10月16日に毒を盛られている,とのこと.ルゴボイとリトビネンコが訪れたセキュリティ会社のオフィスからポロニウム210の痕跡が見つかっているが,彼らがここを訪れたのは11月1日ではなく10月半ばである,とルゴボイは述べているそうだ.コフツン(医師は被曝と診断している)も,10月半ばにロンドンでリトビネンコと会ったときに自分はやられたと述べているとのこと.
【質問】
リトビネンコ暗殺はプーチン政権の犯行なのか?
【回答】
当初はそのように言われていたが,その後は英国捜査当局も否定的見解をとっている,
また,元日本外務省ロシア局の佐藤優は,プーチン政権には暗殺するメリットがないと述べ,チェチェン利権に絡むマフィアの犯行の可能性を挙げている.
プーチン犯行説は反プーチン派であるボリス・ベレゾフスキーとつながりが深いPR会社によって流布されたプロパガンダである可能性が,50%よりは高いと言える.
ただし,大量のポロニウム210を国家機関以外の組織が人工的に作るのは難しいのも事実であり,FSB暴走説まで唱えられている.
***
当初はプーチン政権の仕業では?と思われたこの事件だが,その後は英国捜査当局も否定的見解を見せている.
以下引用.
<露元中佐変死>深まる謎 英メディアもさまざまな憶測
〔略〕
今のところ,プーチン露大統領の指示・承認の上で実行された「国家テロ」との見方は証明されていない.欧州連合(EU)・ロシア首脳会議(24日)直前の殺害は政治的なリスクが大きい.英捜査当局も「プーチン直接関与」の可能性は薄いと見ている模様だ.
代わって25日付英各紙が伝えているのが
▽FSBのかつての同志による「裏切り者」リトビネンコ氏への復しゅう説
▽チェチェン共和国の親ロシア政権による暗殺説
▽ロンドン在住の反プーチン派富豪べレゾフスキー氏の周辺による殺害説
――などだ.
〔略〕
また,元日本外務省ロシア局の佐藤優は,プーチン政権には暗殺するメリットがないと述べ,チェチェン利権に絡むマフィアの犯行の可能性を挙げている.
以下引用.
「まず,今回の事件で誰が得をするかを考えないといけない.
ロシア政府は何も得をしません.関与していないでしょう.
イギリスの“情報戦”の可能性があります.今回の事件はストーリーができすぎている.中東情勢が緊張してきていて,(欧米への)ロシアの影響力が強まることへのけん制の意味があるのではないでしょうか」
〔略〕
リトビネンコ氏は英国に亡命後,チェチェン独立派武装勢力のテロとされた99年のモスクワのアパート爆破事件について,第2次チェチェン侵攻の口実を得るためのFSBの謀略だったとの暴露本を出版している.
佐藤氏は事件の背景を次のように語った.
「ロシアの政府組織ではなく,マフィアが関与していると思います.
チェチェンの利権はいくつかのマフィアが仕切っており,リトビネンコ氏らは,そうしたマフィアの“抗争”に巻き込まれた可能性が高い.
今後,ロシア政府は『事実無根』と1か月くらい静観した後,“犯人探し”をしてやられた分だけやり返すでしょう」
なお,同記事において佐藤は,毒は殺すためでなく,警告のための可能性もある,としているが,ポロニウム210の大量摂取が判明した以上,その可能性はないと考えるべきだろう.
そして佐藤は自説を,彼自身のブログにおいて,さらに詳しく述べている.
彼はその中で,自身の経験談などを交え,「ロシア寄りの発言」とみられることを払拭しようとしている.
以下引用.
筆者はロシアを弁護するつもりは全くない.
筆者自身,91年9月,リトアニアで旧ソ連の秘密警察関係者とみられる人物からしびれ薬入りウオツカを飲まされた経験があるので,警告を与えるために薬物を用いる伝統がロシアの諜報機関にあることはよく知っている.
また,FSBからは相当にらまれ,何度か恐ろしい目に遭わされたこともあるので,ロシア諜報機関の暴力体質も熟知している.
その上であえて指摘するが,ロシアの暗殺手法の伝統を考えると,今回の事件はあまりに稚拙だ.
「この事件で誰が得をするか」ということが諜報の世界の文法だ.
リトビネンコ氏を露見するような手法で,放射性物質を用いて暗殺することで,「ロシアはソ連と変わらぬ恐ろしい国だ」という印象が強まるだけで,プーチン政権は何の得もしない.
それから,ロシアが本気になってリトビネンコ氏を始末してしまおうと考えたならば,中東か北アフリカあたりの観光地におびき寄せ,交通事故の形で処理してしまえばよい.
事実,諜報業界での暗殺は現在も交通事故,自殺の形で処理されることが多い.
薬物暗殺などという,確実に捜査に発展するような手法は避ける.
しかし,それが彼自身の経験談である以上,第三者による検証ができないため,上述の疑念の払拭に成功したかと言えば,それはあまりそうとは言えない.
ブログ「tnfuk」,2006/11/24付の記事は,具体的にどのようなプロパガンダが行われたのか,詳細に述べている.
それによれば,反プーチン派であるボリス・ベレゾフスキーとつながりが深いPR会社によって大々的に報じられ始めたのだという.
以下引用.
報道がされ始めた当初「タリウムだ」と言ってたロンドンの病院(University College Hospital)の教授は,リトビネンコの治療に当たる医師団のひとりではなかったそうです.
この「タリウムだ」説にはメディアがさんざん踊らされたわけで(「リシン」騒動を思い出すなあ・・・遠い目),それが患者を診ておらず検査結果を見てもいない医師の発言に基づくものであるとしたら――そしてメディアがそれを一斉に,「事実」というか「専門家の見解」として伝えていたのですが――,こりゃ歴然たる情報戦じゃないっすか.
というわけで,ガーディアン記事.
Poisoned former KGB man dies in hospital
Ian Cobain, Jeevan Vasagar and Lee Glendinning
Friday November 24, 2006
http://www.guardian.co.uk/russia/article/0,,1955864,00.html
以下詳細.
A public relations campaign swung into action after his health deteriorated suddenly a week ago, a campaign that was accompanied by repeated claims that Mr Litvinenko had been the victim of a Kremlin assassination attempt.
つまり,リトビネンコは11月1日に具合が悪くなって入院した.
それが大々的に報じられたのは,容態が急速に悪化し転院したあとの,19日.
これを記事ではA public relations campaign swung into action(パブリック・リレーション活動が始まった)と表している.
そして「そのキャンペーンでは,リトビネンコはロシア当局の暗殺の標的となったという主張が繰り返し為された」と.ま,これは事実ですが,タイムズならこうは書いていないでしょうね.
さらにまた興味深いことに,このキャンペーンはサッチャー元首相の広報コンサルタントだったLord Tim BellがトップをつとめるPR会社が,マスコミを通じて行なってきた.
(なるほど,これで説明がついた.ガーディアンは19〜20日の段階では「出遅れ」ていた.一方でタイムズがものすごい勢いで次々と「情報」を出していた.これはつまり,新聞社によって得られる情報に違いがあったことを明確に示している.もっとも,編集部判断で情報を掲載しなかったということも可能性として考えられはするが,ガーディアンってデスクが指図して記者に記事書かせる新聞じゃないからなぁ)
病床のリトビネンコの写真をメディアに出したのも,この会社の手配による.
もっともっと興味深いことに,このPR会社はボリス・ベレゾフスキーとつながりが深い(Lord Bell's public relations consultancy is retained by Boris Berezovsky).
すでに報じられている通り,ベレゾフスキーはリトビネンコの友人.共に「反プーチン」の論陣を張る.(その文脈に,チェチェン戦争のことがある.)
さらにまたすごいことに,当初「タリウム中毒」,「放射性タリウム中毒」などの「原因」を指摘していたジョン・ヘンリー博士(教授)は,実際には,その時点ではリトビネンコの治療には当たっておらず,リトビネンコの検査結果を見ていない!
A leading toxicologist, Professor John Henry, was contacted by a friend of the sick Russian and spoke of his fears that the former spy had been poisoned with thallium, a heavy metal, or with a radioactive substance. Prof Henry had not been treating Mr Litvinenko, however, and the hospital said he had not seen any of the test results when he first raised his theories in media interviews.
※ジョン・ヘンリー博士がメディアに語った内容について,21日のBBC記事から(しっかり情報を確認するためには,私の日本語要約ではなく,BBC記事そのものをご覧ください):
http://nofrills.seesaa.net/article/27983715.html
リトビネンコが入院しているロンドンのユニヴァーシティ・コレッジ病院の専門家,ドクター・ジョン・ヘンリーは,リトビネンコの症状にはタリウム中毒と考えられるものもあるが,別の物質に関係していると考えられる症状も出ている.
よってドクターの結論は「100パーセント,タリウムだけ,というものではない」.
では何かというとRadioactive thalliumである,と.……「それは半減期が短い放射性の毒物.分解(degrade)も早い.(11月1日から今までの間に)もう消えてしまっているのではないか」.
Radioactive thalliumは病院で用いられるが(核医学の分野で),ドクター・ヘンリーは,病院で用いられる程度の量ではリトビネンコのような症状は出ないと説明.
また「毒物は口から体内に入ったり,注射されて入ったりもするし,吸い込んで入ることもある.
今回のケースでは消化器がやられているので,毒を含んだ何かを飲み込んだのだろう」.
また,「Radioactive thalliumということになれば,今回のケースには新たな面が加わる.
骨髄が非常な危険に晒されているということになる.患者の身体の自然の回復力に頼るしかなく,治療は極めて困難だ」とのこと.
治療を担当してたわけでもなく,検査結果も見ておらず,で,メディアに対してこんな「詳しい話」をしてたんですか...唖然.
つか,あの時点で「ジョン・ヘンリー博士」について「治療チームの一員ではない」って情報はメディアの記事にはなかったよな.
そりゃ確かに「治療チームの一員である」とも書かれてなかったけど.恐ろしや恐ろしや.(^^;)
そして,ジョン・ヘンリー博士に連絡を取った人物は,ベレゾフスキーに雇われている人物だそうで,一体何がどう動いたんでしょう.
で,ジョン・ヘンリー博士は昨日(23日),この件からは手を引くと表明.
〔略〕
このガーディアンの記事は,3人が書いていて,で,ガーディアンにはよくあることなのですが,複数の人が書いた1本の記事は,イマイチ首尾一貫していないことがある.
この記事も実はそうなんですね.といってもはっきり矛盾しているわけではないんですが.
上で引用した部分の前の方に,次のような記述があります.(太字は引用者による.)
Photographs then appeared of a gaunt, jaundiced figure who had lost his hair. Toxicologists studied his blood cells and speculated that he might have been poisoned with radioactive thallium. Doctors later ruled out poisoning by a number of substances and noted that his condition was consistent with a form of cancer. Unconfirmed reports say some doctors suspected he had been made seriously ill by a chemotherapy treatment.
太字部分は「毒物の専門家たちがリトビネンコの血液細胞を検査し,リトビネンコは放射性タリウムの毒にやられたのかもしれないと推測した」.
このToxicologistsというのが誰のことなのか,記事全体を読んだときに,わからなくなります.
具体的には,この「毒物の専門家たち」の中には,件のドクター・ジョン・ヘンリーは含まれているのか?
またその直後の文,ここでも「無冠詞で複数形」の主語(Doctors)が出てきて,「医師らは複数の物質(毒物)による中毒という可能性は除外し,リトビネンコの症状はある種の癌と一致しているということを指摘した」とある(骨髄が機能しておらず,白血球が作られなくなっていると報道されていました).
その次の文では「未確認情報としては,医師の中には化学療法で重篤な容態に陥ったのではないかとの疑いを抱く者もいる」.
情報が錯綜しているということを言いたいのかもしれませんが,それにしてもとっ散らかった記述です.
〔略〕
いずれにせよ,この件で「誰が一番深刻なダメージを受けるのか」を考えることも定石で,その辺はホワイトホール筋(諜報筋).
記事では匿名だし,個人の見解の段階に過ぎないかもしれないけれども,これはロシア政府を陥れるためのことではないか,という見方も示されている.
つまり,「毒殺はロシア諜報の十八番だが,ロシア諜報だけがやっているわけではない.誰がやったにせよ,ロシア当局をはめることが目的だったという可能性がある」.
いやもうこのへんは,裏の読みあいのような話なので,1つの事象の裏に複数の可能性が,という程度に.
――――――
編者
▼ ベレゾフスキイには,大物メディア・アドバイザーが存在しているという情報もある.
以下,『インテリジェンス戦争―対テロ時代の最新動向』(黒井文太郎編)p233〜 より.
――――――
ティモシー・ジョン・ベル 通称「ティム・ベル」
大手広告代理店「ペル・ポッティンガー」の創設者であり,英国議会上院のメンバー
1970年に英国で最もよく知られる広告会社「サッチー&サッチー」を設立したメンバーの一人であり,マーガレット・サッチャー元首相の政治的キャリアに大きな影響を与えた取り巻きの一人でもある
ベルは79年,83年,87年の重要な国政選挙で保守党のPRキャンペーンを取り仕切る重責を担い,サッチャーのPR活動に必要不可欠な人物として認められていた.
サッチャーは,それまでの貢献に報いるためにベルをナイト爵に叙した.
ベル卿は紛れも無い英国エスタブリッシュメント*1の一員となったのだ.
そのベル卿が,ボリス・ベレゾフスキーの長年のメディア・アドバイザーを務めている.
ベル卿は,オレンジ革命で勝利したウクライナのユーシェンコ大統領やエリツィン大統領のメディア・コンサルタントも務めていたことから,その交友関係はベレゾフスキーと積年の付き合いの関係だとも言える.
2006年の12月17日付け『オブサーバー』紙によれば,ベル卿はリトビネンコの友人達に対して,無料でアドバイスを与えており,リトビネンコの死後は徹底してプーチン政権叩きの情報戦を展開していると報じた.
情報操作の仕掛け人であるベル卿は,毒の性質や殺しの手法,殺しの動機といった,全ての要素の全てがクレムリンに行き着くように,特にプーチンの直接的関与を疑わせるように世論工作を開始.
特にリトビネンコが死の直前になって髪の毛が抜け落ち,病床に伏した写真を彼の死後,世界中のメディアに確実に届くようにしたのもベル卿であったという.
*1 エスタブリッシュメント 【establishment】社会的な権威を持っている階層
▲
ロシア人留学生ユリア・スベトリチナヤがリトビネンコのことを
「クレムリンに対して孤独な戦いを挑む,被害妄想的で哀れな人物で,赤貧の状況から抜け出すためにロシア人富豪亡命者を恐喝しようとしていた」
と糾弾した.
こうした報道が流れると間髪入れずに,スベトリチナヤを貶めるネガティブ・キャンペーンが張られた.
ネガティブ・キャンペーンについては,この報道が流れた直後にノルウェー紙『アフテンポステン』が
「英国の人権活動家やロシア人の教授リトビネンコの個人的なネットワークに属する人々」
の証言として
「スベトリチナヤはFSBの指示に基づいて行動している」
のだと報じ,スベトリチナヤ=FSBのスパイ説を流したのである.
同紙によれば,“匿名のロシア問題専門の英国の教授”の言葉を引用して,
「スベトリチナヤはロシアが展開するリトビネンコ問題における,大規模なディスインフォメーション・キャンペーンの一員なのだ」
と報じていた.
クライアントに対するネガティブな情報を流されたら,即座に封じ込めるのはプロパガンダ戦の鉄則であり,ベル卿がこの手のネガティブ・キャンペーンを指揮したのは容易に想像できる.
この報道に対して,スベトリチナヤは『アフテンポステン』を訴えており,別のメディアによれば“匿名のロシア問題専門の英国の教授”とは,かつてCIAが反共プロパガンダを委託した冷戦時代のベテラン・プロパガンダ専門家のマーティン・デュイーストだったと報じている.
――――――
CRS@空挺軍 in mixi,2009年01月24日22:47
青文字:加筆改修部分
▲
ただし,大量のポロニウム210を国家機関以外の組織が人工的に作るのは難しいのも事実であり,FSB暴走説まで唱えられている.
ただ,今回の事件で検出されたほどの大量のポロニウム210を人工的に作るには,原子力施設など大がかりな設備が必要とされ,国家機関以外の犯行説は説得力に乏しい.
25日付タイムズ紙は「動機,手段,機会のすべてがFSBの関与を物語っている」と指摘した.
その場合,FSBがプーチン大統領の指示・承認がないまま独自に殺害を実行した可能性も浮上しそうだ.
【質問】
リトビネンコはプーチン大統領の側近について大きなダメージとなる書類を作成し,そのために殺害された,という説の信憑性は?
【回答】
英国メディアでも,その信憑性を疑問視する記事が出ている.
以下引用.
Month on, police baffled by murder of ex-Russian spy
By Mark Trevelyan, Security Correspondent
REUTERS
5:00 a.m. December 22, 2006
http://www.signonsandiego.com/news/world/20061222-0500-britain-poisoning-.html
概要:
〔略〕
最も新しい説では,リトビネンコはプーチン大統領の側近について大きなダメージとなる書類を作成し,そのために殺害された,という.
これはリトビネンコの仕事上のパートナーだったユーリ・シュヴェッツ(Yuri Shvets)がメディアに語ったものだ.シュヴェッツの話では,彼はその調査をある英国企業から依頼され,その結果,数百万ドルの契約がキャンセルされた.その契約にはプーチン側近が関わっていたという.
しかしリトビネンコの友人で隣人のアフメド・ザカーエフは,今週,ロイター通信に対し,そのような書類の存在も調査のこともまるで知らないと語った.
「リトビネンコがそれを行なっていたとは思えないのですが.彼はFSBやクレムリンに対する一般的なことはやっていましたが(He was conducting a general case against the FSB ... and the Kremlin regime.),誰かから依頼されて,あるいは誰かのために,特定の件について彼が動いていたとは思いません.
私としては,シュヴェッツの説には疑問があります.件のビジネスの計画について,アレクサンダーは私には何も言っていませんでしたから」
一方で,失われた契約に関わっていたというプーチン側近の名前はわかっていない.
シュヴェッツに近い筋はその名を特定することは拒否したが,FSBとの関係がある2人のロシア高官(イーゴリ・セーチンIgor Sechinとセルゲイ・イワノフSergei Ivanov)ではない,としている.
セーチンは大統領府副長官,イワノフは国防相である.
【質問】
プーチン政権犯行説以外にどんな説があるのか?
【回答】
・チェチェン・マフィア犯行説(佐藤優),
・ベレゾフスキイ犯行説(ロシア・メディア),
・リトビネンコ「自爆」説(同)
・リトビネンコから密告された特殊部隊員の復讐説(同)
・FSB暴走説(上述)
など.
以下,諸説を引用.
――――――
<露元中佐変死>深まる謎 英メディアもさまざまな憶測
〔略〕
今のところ,プーチン露大統領の指示・承認の上で実行された「国家テロ」との見方は証明されていない.欧州連合(EU)・ロシア首脳会議(24日)直前の殺害は政治的なリスクが大きい.英捜査当局も「プーチン直接関与」の可能性は薄いと見ている模様だ.
代わって25日付英各紙が伝えているのが
▽FSBのかつての同志による「裏切り者」リトビネンコ氏への復しゅう説
▽チェチェン共和国の親ロシア政権による暗殺説
▽ロンドン在住の反プーチン派富豪べレゾフスキー氏の周辺による殺害説
――などだ.
先月のアンナ・ポリトコフスカヤ記者殺害事件では,チェチェン共和国の親ロシア政権の関与も疑われている.
リトビネンコ氏は同事件の真相に迫る資料を持っていたとされ,ロンドン在住のチェチェン独立派穏健指導者ザカエフ氏とも親しい間柄だった.
25日付フィナンシャル・タイムズ紙は「二つの事件はつながっている」とのプーチン側近の言葉を報じた.
一方,プーチン氏追い落としを画策しているとされるべレゾフスキー氏の周辺が,プーチン政権の仕業と見せかけてリトビネンコ氏を殺害した可能性もある,との見方も伝えられている.
リトビネンコ氏自身が自分で放射性物質を摂取し,プーチン政権のイメージ悪化を狙った可能性も完全には排除できないという.
――――――小松浩 in 毎日新聞,2006年11月26日0時54分
――――――
それでは真相は何か.あえて筆者の推測を大胆に記す.ロシア・マフィア絡みの利権抗争だ.
そこに諜報機関幹部OBとそのOBに連なる人脈の現役下級職員が関与している.
動機はカネだ.ロシアのチェチェン独立派の資金源のほとんどがマフィアによる合法・非合法のビジネスで,それを捜査するFSBは囮(おとり)作戦などの潜入工作をとるが,マフィア側から提供される巨額の資金によって取り込まれ,FSBを退職して,マフィアの顧問になった者も少なからずいる.
エリツィン前政権時代に一時期チェチェン問題を担当する安全保障会議事務局次長を務めていた寡占資本家のベレゾフスキー氏(現在,ロンドンに逃亡中)が,チェチェン独立派の庇護(ひご)者であることは公然の秘密だ.
リトビネンコ氏は,「英国内では,ベレゾフスキー氏の支援を受けながら,02年にはFSBの謀略を告発する本を出版.99年,モスクワのアパートで300人以上が死亡した連続テロ爆破事件が,実はチェチェン武装勢力の仕業ではなく,FSBによる『自作自演』だったことを示唆する衝撃的な内容だった」(26日読売新聞朝刊).
だが,同書の内容が事実でないことは,インテリジェンス業界の定説になっている.
マフィアは,チェチェン情勢を不安定なままにして商売(シノギ)が継続できる環境を担保しようとする.
そのために人権派ジャーナリストや活動家に資金援助を行っているというのも公然の秘密だ.
――――――佐藤優の「地球を斬る!」,2006/11/30
▼ 佐藤はその後の著書でも,マフィアの犯行説を主張しつづけている.
以下,『第三次世界大戦 世界恐慌でこうなる!』(佐藤優・田原総一朗著),p.133より
――――――
田原 KGB出身でイギリスに亡命し,ロンドンで殺されたリトビネンコは?
佐藤 あれもマフィアの利権抗争でしょう.武器販売の関係の.
田原 プーチンがロシアから殺し屋を送り込んだのでは,といわれている.
佐藤 いや,あり得ない.リトビネンコがイギリスに帰化していたことが重要です.
彼は元ロシア人だけど,イギリス国籍を持っていた.
イギリス人をロシア政府が殺せば,露英戦争になるかもという話.そんなことはしません.
プーチンにメリットがまったくない.
田原 ああ,そうか
佐藤 ええ.ただ,プーチンによる暗殺説が流れてメリットがある人たちはいる.
エリツィン政権にいて,プーチンが選挙に出る時に助けたけど,その後に切られて恨みを抱く連中.
ベレゾフスキーを中心とする連中です.
――――――
CRS@空挺軍 in mixi,2009年01月11日17:17
青文字:加筆改修部分
▲
――――――
第1説.
リトヴィネンコは,密輸のポロニウムを手に入れ,例によって,それにより巨額のドルを稼ごうと思った.
この仮定の裏付けとして,11月1日,彼はボリス・ベレゾフスキーの事務所を始め滞在したすべての場所で放射線の斑点を残していた.
しかし彼の話し相手は誰も害を受けなかった.
さらに,スカラメラは,友人であるリトヴィネンコが同位元素の密輸の愛好者だったことを認めている.
リトヴィネンコはかなり安いチップで生活しており,副収入を得たい状態にあった.
ここで,死体解剖の結果がイギリスのマスコミに漏洩したが漏洩そのものはまだ検証されていないことを付け加えたい.
リトヴィネンコが浴びた非常に大量の放射は3000万ユーロ以上の価値のあるポロニウム-210が出す放射量しか出せないと言われている.
しかし一人の人間を殺害するのにこれは少し高過ぎる.
第2説.
リトヴィネンコはベレゾフスキーと縁を切りたく退却方法について考え始めており,すばしこい大資本家(ベレゾゾフスキー)に脅しをかけるようになった.
この説は最新の「イズヴェスチャ」紙に掲載されている.
実際,最近,ベレゾフスキーの周辺には暗雲が色濃く立ち込めている.ロシアと検察副総長アレクサンドル・ズヴャギンツェフとのイギリスの司法当局との間で結ばれたばかりの捜査協力の覚書は,ロンドンの住人(ベレゾフスキー)にとっては不利なる内容だった.
リトヴィネンコについて言えば,ベレゾフスキーについて非常に多くのことを知っていた.
彼は心臓が止まりそうになったかもしれない.
偶然の会話の中での何か口をすべらすかも知れなかった.
それがベレゾフスキーの目に障ることを恐れた.
ベレゾフスキーにして見れば,どのように悲しくとも,死んだ知人ほど会話に都合の良いことはない.
第3説.
リトヴィネンコは,チェチェンのテロリスト用に「闇」の核爆弾を手製で作っていたロンドンの地下の素朴な自家製研究所と結びつきがあった.
この謎は,NTVテレビ番組「ウラジミル・ソロヴィエフとの日曜の夕べ」に出演したロシアの核の専門家が供述した.
実際に,2つの事実がある.
1つはリトヴィネンコの近い友人には,過去にチェチェンの戦闘員部隊の指揮官でロシア検察丁〔原文ママ〕がチェチェンでの殺人と拷問の関連事件でモスクワで所在をつきとめようとしていたアフメド・ザカエフが出入りしていた.
もう1つの事実は,2年前に,ベレゾフスキーはチェチェンの分離主義者は核のカバンをすでに手に入れ,彼らに足りないものはあと少しの部分だった.
そのあと少しの部分にはポロニウム-210で補えた.
専門家によれば,この物質は「黒い」核爆弾の爆発用に利用できた.
もしかしたら,リトヴィネンコは,この爆発剤を売却者から秘密のロンドンの実験室に自らカバンに入れて持ち込んだのだろうか? 死を持って運搬したのだろうか?
第4説.
リトヴィネンコは彼によりイギリスの特殊部隊に密告された元保安局の知人に復習〔原文ママ〕されたという説だ.
どの官庁にも所属しない,この種の個人的な退役諜報員や,不当に扱いを受けた諜報部員の個人的グループからなる復習者〔原文ママ〕による殺害という筋書きも説としてありうる.
しかし,この説には強い反対論拠がある.リトヴィネンコはこの場合殺害対象としては小さすぎる.
彼は,同じロンドンに住むゴルディエフスキーやスボロフ(本名はレズン)比べればハエに過ぎない.
ゴルディエフスキーは副諜報機関長であり数十人のスパイを裏切った.
スボロフは著書の「アクアリズム」いう著書で,数十人ロシア連邦軍参謀本部情報総局の部員を誹謗中傷した.
何のためのリトヴェネンコから殺害を始めるのか?
この入り組んだクモの糸を解くために,イギリスの捜査官は,自分たちの上司つまりイギリス内相のジョン・リードの忠告に従えば,賢い行動ができるだろう.
ジョン・リードは,クレムリンはリトヴィネンコの死に関与していないのではないかとの第5の説について回答した時,
「推測は一番悪い選択だ.後で我々イギリスが恥をかかないため」
と語った.
――――――ウラジミル・シモノフ in ノーボスチ,2006/12/5/09:17
さらにまた,2006/12/4付「ロシアの声」の「ラジオジャーナル」では,
「英ではリトビネンコは被害者ではなく,容疑者の一人ではないか,との見方もある」
との報道を伝えている.
曰く,英に核物質を持ち込んだ(ニュースオブワールド誌),アルカイダによる核爆弾開発に関わる(サンデーエクスプレス誌)と報じる所もある…….
現在のところ,
「プーチンがぁゃしぃ」:ベレゾフスキイ系PR会社+英米メディア
「ベレゾフスキイがぁゃしぃ」:ロシア系メディア
のプロパガンダ合戦の様相も呈しており,目下,編者は食傷どころか食中毒状態.
【新説】
犯人はキュリー夫人.
彼女は民間人では殆ど唯一,ポロニウムを入手し易い立場にあった.
動機もある.彼女より,どちらかといえば原子周期表のメンデレーエフのほうが有名なせいで,彼女はロシア人を恨んでいるはずだ.
なのよりも,犯行当日,犯行現場以外の場所で彼女を見かけた者が誰もいない.つまり,アリバイがない!
消印所沢
【質問】
これまでの,プーチン政権による暗殺事件,ないし,そうと疑われている事件は?
【回答】
2006年
11月 モスクワ バイサロフ(元チェチェン大統領警護隊長) 射殺
10月 モスクワ ポリトコフスカヤ(著名ジャーナリスト) 自宅アパートで射殺.それ以前にも毒殺未遂事件に遭っている.
10月 ダリネゴルスク フォチヤノフ(同市長候補) 射殺.
9月 モスクワ コズロフ(露中央銀行第1副総裁) 射殺
7月 バサーエフ・チェチェン司令官 ロシア側の説明では「チェチェン側の内紛」
2005年
3月 トルストイユルト マスハドフ(チェチェン元大統領) 特殊部隊の作戦で射殺
2004年
4/22 ドーハ ドゥダーエフ・チェチェン大統領 衛星電話で電話中,誘導小型ミサイルで爆殺
2/13 ドーハ ヤンダルビエフ(元チェチェン大統領代行) 爆殺.ロシア情報機関員3人がUAEで逮捕され,うち一人は外交特権で出国.他の2人は終身刑を宣告さる.
2003年
4/17 セルゲイ・ユシェンコフ 野党の下院議員.アパート連続爆破事件のFSB関与疑惑を調査中,射殺
【参考サイト】
産経新聞,2006/11/24/09:29他
【質問】
これまでに,ロシア諜報機関が放射性毒を使って暗殺を行ったことはあるのですか?
【回答】
冷戦の最中,亡命したロシア人がKGBに放射線を当てたタリウムを盛られたという事件があったような.
服毒した翌日に髪の毛がごっそり抜け,即緊急治療室へかつぎこまれたとか.
医師団が「原因わかんねーわかんねー」やってるうちに,何故か命はとりとめたそうです.
タリウムは旧イラクの秘密警察も愛用してましたね.
Shaul in mixi支隊
ただし佐藤優によれば,痕跡が残るのをいやがるため,諜報機関は暗殺に薬物を用いる事は殆どないという.
毒物が使われる場合は,警告のときだけだという.
以下引用.
暗殺は痕跡を残さずに行わなくてはならない.薬物,特に放射性毒物を用いた殺人は痕跡が残り,強制捜査に発展する可能性が高いので,インテリジェンス機関はまず用いない.
よく用いられる暗殺の手法は交通事故と自殺である.
ある外国人情報専門家が
「暗殺技法についてCIA(米中央情報局)は交通事故を,KGB(旧ソ連国家保安委員会)は自殺を偽装することが多い.
自殺は動機を疑われ,交通事故も先進国では足がつきやすい.
不慮の事故に巻き込まれたというのが最も上手な暗殺術だ」
と言っていた.
筆者が承知する限り,実態もその通りだ.
ロンドン在住の人物を消すならば,中東か北アフリカの観光地におびき寄せて,交通事故で始末してしまうのはそれほど難しくない.
中央アジアやトランスコーカサスも暗殺の実行現場によく用いられる.
もちろん謀略工作で,毒物が用いられることもある.
しかし,その目的はあくまでも警告だ.
筆者自身もソ連時代末期のリトアニアでしびれ薬入りのウオツカを飲まされ,半日ほど身体が動かなくなり,大小便を垂れ流すような状態になったことがある.
筆者がソ連当局から「いいかげんにしろ」と何回か警告されたのを無視してリトアニアの分離独立派にてこ入れをしていたので,「言ってもわからない奴には身体で教える」というインテリジェンスの「ゲームのルール」が適用されたのである.
ソ連崩壊後も筆者に対してときどき当局から警告がなされたが,そのときに神経反射的にしびれ薬で苦しんだときの経験がよみがえった.
当然,行動は慎重になる.
繰り返しになるが,インテリジェンスは国家の業務なので,防諜機関員が嫌がらせや恨みで毒物を誰かに飲ませることはなく,組織としての意思に基づいて行う警告なのである.
【質問】
FSBが外国で謀略工作を行う事はあえりるのか?
【回答】
佐藤優は,殆ど断言に近い口調で「ありえない」としている.
その理由として,FSBは防諜機関であって対外諜報機関ではないことと,ロシア諜報機関の縄張り意識の強さを挙げている.
以下引用.
インテリジェンスは基本的に国家の業務である.
従って,暗殺も組織の決裁をとった上で,必要な予算をつけて行われる.
ほとんどの国でインテリジェンス機関は対外諜報(ちょうほう)機関と国内の防諜機関に分かれる.
外国での謀略工作は対外諜報機関の専管事項で,国内の防諜機関が外国で暗殺することはありえない.
11月23日にロンドンで変死したロシア連邦保安庁(FSB)元中佐のアレクサンドル・リトビネンコ氏の暗殺をめぐって,FSBが暗殺したのではないかという憶測報道が各国でなされたが,これは絶対にないシナリオだ.
ロシアのインテリジェンス機関の縄張り意識は非常に強い.仮にFSBが国外で謀略活動を行ったことになれば対外諜報庁(SVR)が黙っていない.SVRと抗争するリスクをFSBは冒さない.
これが「インテリジェンスの基本文法」だ.
【質問】
リトビネンコはなぜ,ロシアからの亡命を余儀なくされたのか?
【回答】
本人は亡命理由を「ベレゾフスキイ暗殺を命じられたが,これを拒否したため」としている.
▼ しかし実際には,別項で述べられているようなマフィアとの軋轢があったことから,その軋轢によって亡命せざるを得なかった可能性のほうが高い.▲
【質問】
リトビネンコは生前どのようなことを主張していたか?
【回答】
●「1999年9月のモスクワでの一連のテロはFSBの犯行」と主張.
2002/7/25には,モスクワのテレビ局NTVに,亡命先からインターネットTV中継で出演,同事件の首謀者は,FSB副長官(当時)ゲルマン・ウグリュモフであると名指しした.
そのため,2003/12/29には,その説を唱える著作「FSBがロシアを爆破する」がロシア当局により没収されている.
●アンナ・ポリトフスカヤ殺害事件はFSBの仕業と主張.
FSBの「暗殺リスト」を持っていると述べていた.
リトビネンコの遺言書
(うそ)
【質問】
リトビネンコの犯罪の疑惑について教えられたし.
【回答】
ゆすりや,核物質不法取引などに関わっていた疑いが濃厚.
そのため,マフィアなどから殺されても仕方ないほど恨まれていた可能性がある.
以下,『インテリジェンス戦争―対テロ時代の最新動向
』(黒井文太郎編)p214〜 より.
――――――
最近リトビネンコはベレゾフスキイからの資金援助が減っており,金に困っていたという情報がある.
ドイツの捜査当局は,彼は金に困り,核物質の不法取引などのダーティ・ビジネスにかかわっていたらしいとの情報を発表した.
他にもロシア・マフィアの大物や政治家をターゲットにして,ゆすりをする計画があったとして,核物質の不法取引並び恐喝の疑いもありとみている.
他方スペインの捜査当局は,リトビネンコが同国でロシア・マフィアから睨まれていたことを裏づける証拠を持っているという.
リトビネンコがスペイン捜査当局に,ロシアやスペインに利権を持つロシア・マフィアメンバー5人に関する情報を提供したことがあり,それ以来彼はマフィアに追われているという.
欧州のメディアでも,リトビネンコはロシアからスイスのチューリッヒに核物質を密輸するプロジェクトに関わっており,継続して物質の不法取引を行っていたと報道している.
―――――――
――――――
チェチェン問題を調べる過程でリトビネンコ知り合った,ロシア人留学生ユリア・スベトリチナヤが,2006年12月3日付けの「オブザーバー(The Observer)」紙で,「リトビネンコが恐喝の計画を打ち明けた」と証言した .
スベトリチナヤは同紙の取材に対して,リトビネンコのエキセントリックな性格について赤裸々に語っている .
彼を紹介したベレゾフスキイもこう警告した.
「彼に話を聞くといい.
でも,彼の言うことにはフィルターをかけないといけない.
ヤツはとりとめもないことを長々と話しすぎる癖がある」
そしてスベトリチナヤは同紙に対して,こう証言した
「私はリトビネンコにメール・アドレスを教えてしまったことを,つくづく後悔した.
最初に会ったときから彼の死の数週間前まで,彼は嬉々として毎日のように大量の情報をメールで送りつけ,最後はもうメッセージを開くこともせず削除してしまうことが多くなっていた.
彼の電子メールには,FSBの秘密扱いの書類が添付されていたり,彼がチェチェンの新聞に書いた手記などが貼り付けられていたりしていたが,彼の政治的な文章の多くが,明らかに大言壮語しすぎてまともに扱えないようなものばかりであった.
もっともひどかったものの一つは,プーチンが児童性虐待者だというような内容だった」
そしてリトビネンコはスベトリチナヤに対して,ロシア人のオリガリヒを脅迫する計画についてこう言った.
「このオリガリヒはプーチン政権とつながっているから,脅しても構わないのだ」
同紙によれば,リトビネンコの恐喝ビジネスについてさらに迫っている.
彼はFSBの中枢にいる情報源から,モスクワの影響力のある要人達に関する秘密の書類を受け取り,こうした文章を使ってターゲットにした有力者達を脅して,書類が世に出ないようにカネを支払わせることに使っていたという.
彼はこうした文章を使い恐喝したり,情報を高額で引き取らせる計画を周囲に打ち明けていた.
また「一人につき一万ポンド(約100万円)はとれる」と豪語してたりしたという.
そして死の直前にリトビネンコは,ロシアの石油会社「ユコス」の事件に関わる情報も入手しており,
「これはもっともエキサイティングなファイル」
だと興奮していたという.
ファイルの中身については不明だが,リトビネンコは死の直前にイスラエルを訪れて,ユコス社の共同経営者であったレオニード・ネブズーリンにこのファイルを手渡したという .
レオニード・ネブズーリン自身は
「リトビネンコからユコス事件のもっとも重要な側面を照らし出す証拠文書を提出された」
ことを認めており,この文書を英国捜査当局に提出したとも証言している
何れにせよ,リトビネンコが多方面から恨まれていた可能性は十分にあると推測できる .
そしてロシア人留学生スベトリチナヤは,リトビネンコのことを
「クレムリンに対して孤独な戦いを挑む,被害妄想的で哀れな人物で,赤貧の状況から抜け出すためにロシア人富豪亡命者を恐喝しようとしていた」と糾弾した
こうした報道が流れると間髪入れずに,スベトリチナヤを貶めるネガティブ・キャンペーンが張られた.
――――――
CRS@空挺軍 in mixi,2009年01月12日19:14
青文字:加筆改修部分
少なくとも,当時の報道の傾向の一つだった,「巨大な権力に戦いを挑んで敗れた殉教者」的な見方は,改められなければならないだろう.
【質問】
プーチン政権は「強権的」と言えるのか?
【回答】
西南学院大学教授,上垣彰によれば,確かにそういう面もあるが,他方では過大評価されている面もあるという.
以下引用.
「強権政治」という言葉で表現されているロシアの現況は,実は多様な要素から構成されているというのが筆者の考えである.
確かにある種の動きは,プーチン大統領のKGB的強権体質が「国家戦略」として露呈しているものといえるだろう.
しかし他方では,外からの動きに慌てて対処・反応した結果に過ぎず,国家戦略とまで過大評価する必要のない場合もある.
すなわち,「戦略」なのか「対処・反応」なのかを区別しておく必要があるのだ.
週刊「エコノミスト」2006.7.18号,P.36
まあ,確実に印象で損しているね.
【質問】
リトビネンコ暗殺事件が決着するとしたら,どのような形になりますか?
【回答】
警察ではとても対応できない問題です.
警察が対応できない,単独で処理してはならないこの種の事件は厳然と存在します.
その場合,警察とともに情報機関が動き,情報収集,情報コミュニティでの取引,政治解決という順で事態の収拾にあたらなければいけません.
当然,その背後では軍事力による圧力が必須ですね.
なんでも警察に任せよう,頼ろうとする姿勢は誤りです.
〔略〕
警察だけがあり,軍と情報機関の存在しないわが国には深刻な脆弱点があります.
英の対応を見習いましょう.
4〜5年後にフレデリック・フォーサイスが小説を書くでしょう.(予言)
【質問】
暗殺犯の動機は何ですか?
【回答】
007新作公開前のプロモーション.
赤の9番 in mixi
「カっとなって毒殺した,
毒殺できれば誰でもよかった.
今は反省している」
椋鳥 in mixi,改
【質問】
リトビネンコ事件は結局どうなったのか?
【回答】
佐藤優によれば,ロシア政府,イギリス政府,ベレゾフスキイの間で
「リトビネンコはなにやら怪しげなカネをいじっていたので,利権抗争殺されたのだろう.
われわれ三者は今まで通りの均衡を維持する」
という「手打ち」が行われ,事件の真相は闇に閉ざされることになった模様だという.
それは
・イギリス政府としては,ロシア権力中枢部や経済界の内情に通じた,ベレゾフスキイの情報は貴重
・特にエリツィンからプーチンへの権力委譲についてベレゾフスキーは「知りすぎた男」なので,ロシア政府としてもうかつに手出せない
ためであるという.
傍証として佐藤は,
・ロシア政府系の週刊誌『ノーボエ・ブレーミャ(新時代)』4月2日号に掲載されたベレゾフスキイのインタビューにおいて,ベレゾフスキイは事情聴取にスコットランドヤード(ロンドン警視庁)の職員が同席したことを明らかにしていること
(つまり,英国当局の庇護下にある,と佐藤は推測している)
・ロシア政府は『ノーボエ・ブレーミャ』誌に「ベレゾフスキーは被疑者でない」という記述がある記事をあえて掲載したこと
を挙げている.
この推測が正しいかどうかは,今後の新情報を望み薄ながら待つしかないだろう.
◆◆◆事件関係者
【質問】
スカラメッラのインタビューのなかにある,2通目のメールで,暗殺者とされる人物イゴール・ウラショフとは何者か?
【回答】
2006/12/3のサンデー・タイムズによれば,特殊部隊「スペツナズ」の将校で,黒髪で細身.英語とポルトガルができ,右足が少し不自由な柔道マスターだという.
以下引用.
The documents handed over by Scaramella at the sushi bar, which name Litvinenko five times, identified Igor Vlasov, 46, a Spetsnaz veteran. The documents describe his killing prowess, adding he is a judo master with a lean and muscular build despite walking with a slight limp.
http://www.timesonline.co.uk/article/0,,2087-2484254,00.html
【参考サイト】
tnfuk,2006年12月05日
【質問】
アフメド・ザカーエフとは?
【回答】
ザカーエフは47歳.
第一次チェチェン戦争で野戦司令官だった彼は,2003年11月に英国への政治亡命が認められたが,ロシアからの引き渡し要求が出されていた.
ロシア当局は,ザカーエフは2002年のモスクワの劇場占拠事件の準備を手伝ったとか,1996年から1999年の間にテロ行為に参加したとしている.
ザカーエフはこれを否定している.
現在,ザカーエフはリトビネンコ殺害事件のロンドン警察の捜査で,重要な証言者である.
11月1日,ザカーエフは都心部からマズウェル・ヒルの自宅に帰るリトビネンコを,車で送っている.
2人はマズウェル・ヒルで隣人である(これまでの報道を見たところ,本当に隣で,それらの家はベレゾフスキーが手配したものであるとのこと.報道写真で見ると,最近建てられたテラスト・ハウスのようだ).
〔略〕
ロシアでは,リトビネンコとザカーエフはチェチェン紛争(Chechen
conflict)のあちら側とこちら側にいて活動していた.
リトビネンコはそれを不当な戦争と感じており,そのことで雇い主に幻滅を覚えるようになったのだ,とザカーエフは言う.
〔略〕
ザカーエフは,ロシア政府がリトビネンコ事件の捜査協力と引き換えに,再度,彼の身柄の引渡しを要求してくるだろうと考えている.
【質問】
ウラジミール・ブコウスキイとは?
【回答】
ウラジミール・ブコウスキーは1942年生まれ.
元反体制活動家で,政治犯として逮捕・投獄され拷問されてきた.
収容所ももちろん経験している.
1971年に西側に逃げて,1976年から英国のケンブリッジに在住.
ふたり〔リトビネンコとザカーエフ〕はロンドンで,ベレゾフスキーの庇護のもとでつながりを持った.
彼らの輪は,オレグ・ゴーディエフスキーやウラジミール・ブコウスキーら,前の世代のロシア人亡命者まで含むように広がっていく.
【質問】
プーチン大統領とベレゾフスキイとの確執はなぜ起こったのか?
【回答】
プーチン大統領と,エリツィン大統領時代に急成長したオリガルヒとの暗闘がその始まりであるという.
プーチン大統領の「強権」を世界に初めて印象付けたのは,2000年6月にメディア王として知られた「メディア・モスト」社長のウラジーミル・グシンスキー氏が逮捕された事件であろう(釈放後海外亡命).
さらに,同年11月,自動車販売会社から急成長した「ロゴヴァズ・グループ」代表で,「ロシア公共テレビ(ORT)」の事実上の支配者だったボリス・ベレゾフスキー氏が海外滞在中,逮捕の危険が迫り,ロシアに帰国せずそのまま亡命するという事件が起きた.
両事件の結果,ORT,NTV,TV6という主要テレビ局が政府の支配下に入った.
その後,プーチン大統領への批判がロシア国内のマスコミから聞こえてこないのも当然だろう.
ただし,プーチン大統領側にも言い分はある.
これらの事件には単なる国家権力とそれに批判的なメディアとの対立といった綺麗事では済まない側面があるからだ.
すなわち,グシンスキー氏もベレゾフスキー氏もエリツィン前大統領時代に,いわゆるオリガルヒ(政商的新興財閥企業家)として,政権と着かず離れずの関係を維持しながら巨万の富を築いてきた.
プーチン大統領の主たる敵はマスコミそのものではなく,それを配下に置くこのオリガルヒだったからだ.
プーチン大統領のオリガルヒ打倒戦略は結局,後述〔本項目では省略〕の「再国有化」につながっていく.
もちろん,だからといって,警察当局がテレビ局に捜索に入るといったプーチン大統領の荒っぽいやり方が正当化できるものではない.
チェチェン政策に批判的なジャーナリストが当局の嫌がらせを受けるといった事件も報道されている.
プーチン大統領は,メディアと国家権力との関係という西欧社会で最もセンシティヴな問題に,土足で踏み込み,鈍感にも事の重大性に気付いていないふしがある.
これは単なる「対処・反応」というよりは,プーチン大統領のKGB的体質から出たものであると評価せざるを得ない.
上垣彰(西南学院大学教授) in 「週刊エコノミスト」2006/7/18号,p.37
今回の事件がプーチン政権の仕業でないとするならば,まさに「事の重大性に気付いていない鈍感さ」というプーチン大統領の弱点を衝かれた格好だと言えよう.
今,プーチン政権(および,その後継政権)にとって必要なのは,西欧基準に合格するメディア戦略だろう.
ということで,日本はロシアに「チーム世耕」を輸出してはどうだろうか?(笑)
【質問】
マリオ・スカラメッラとは,どんな人物か?
【回答】
以前の報道によると,スカラメッラはナポリ在住だそうだ.
出身もナポリかもしれないが,この点については疑問もある――12月4日のFT記事によれば,「スカラメッラは自分はナポリで生まれたと言っているが,彼に会ったことのある人たちは,言葉の訛り(アクセント)やしぐさから,スカラメッラがイタリア南部の出身とは思えない,と言っている」.
また,彼は「ナポリ大学の教授」と自称しており,その肩書きでアメリカのSan
Jose University(その名称の大学は実在しない)やStanford
Universityで教壇に立ったことがあり,New York
Universityの法学部で講演を行ったことがあるほか,コロンビア(<国名:「コロンビア大学」ではなく)の大学にも行っていたらしいが,ナポリ大学は「マリオ・スカラメッラという名前の人物は所属していない」と明確に否定している.
「大学教授」とは別に,彼は廃棄物の不正投棄による海洋汚染を調査する組織,「CCPE(環境犯罪防止計画)」の事務総長を務めていると言われているが(そう自称してもいるようだ),その組織の事務所は彼が在籍していないナポリ大学におかれ,12月はじめの段階で,事務所の電話には応答がないという.
また彼は,ベルルスコーニ政権下でイタリアの議会が設置した「ミトロヒン委員会」※のコンサルタントとして,ベルルスコーニのフォルツァ・イタリア党所属のパオロ・グッツァンティ上院議員のもとで(<「もとで」という日本語は不正確かも)仕事をしていた.
委員会はロマノ・プロディ現首相(2006年〜:1996〜98年に「オリーヴの木」で首相,1999〜2004年に欧州委員会の委員長)が「KGBから送り込まれたスパイである」と主張したが,その「プロディはスパイ」説は,1985年に英国に亡命した(元)KGBのオレグ・ゴルディエフスキー(オレク・ゴルジェフスキイ/ゴルジエフスキー)によれば,殺されたアレクサンドル・リトビネンコから,英国のUKIPの欧州議員に伝えられた(ゴルディエフスキーはその場に同席していたと述べている).
スカラメッラはこのUKIPの議員(名前はGerard
Batten)とつながっており,おそらくはそこから「プロディはスパイ」説を得たのだろう.
ただし,盗聴されていたグッツァンティ上院議員とスカラメッラの電話のやり取りによると,その説は「固い」ものではなかった.
まるで証拠がなかった.
スカラメッラはその「証拠」を固めるよう依頼(あるいは命令)されていたようだ.
(インディペンデントの記事によると:「プロディはKGBのエージェントだとまでは言えません」と,ある時点でスカラメッラが言う.
「しかしロシア人はプロディを友人と考えているとは言えます」
するとグッザンティが爆発する.
「友人だと.それじゃ何にもならない! 俺をまったくのアホだと思っているのか?」)
当のプロディ首相は「市民として,機関の長としての私の威厳を,言葉や行動で傷つけた者は,全員」起訴すると語っていたとのことで,今回の逮捕の容疑のうち「名誉毀損」と報じられているのは,おそらくこの件に関係したものだろう.
〔略〕
※ミトロヒン委員会:
イタリア国内での旧ソ連の諜報機関の活動を調査する委員会で,ベルルスコーニ政権(右派政権)下で設立され,2002年から2006年にかけて活動.
「ミトロヒン文書」のワシリー・ミトロヒン(2004年死去)の名を冠しているが,ミトロヒン自身は委員会のメンバーに会うことは拒絶していたとの情報がある.
委員会は何ら結論を出すことができないまま,2006年の政権交代(左派政権成立)で終わっている.
ところで,文中に出てくる「1985年にロシアから英国に亡命したKGBのオレグ・ゴルディエフスキー(オレク・ゴルジェフスキイ/ゴルジエフスキー)ですが,彼のロシアからの脱出作戦(身柄をひそかに運び出す,というもの.スパイ小説でよくありますね)を指揮したのは,ジョン・スカーレットだそうです
・・・このことは,スカーレットについてのen.wikipedia記事には書かれていないし,ゴルディエフスキーについてのen.wikipedia記事にも書かれていないのですが,ja.wikipedia記事には書かれています...
ちなみにジョン・スカーレットという人は,ソ連崩壊後の1991年に駐モスクワMI6支局長となり,1994年にロシアを追放され,その後MI6の内部保安局長となって2004年にMI6長官に就任(任期は5年)した人です.
前任のMI6長官,サー・リチャード・ディアラブ(Sir
Richard Dearlove)は,名前はラヴリィなのですが,何といいますかその・・・.
http://en.wikipedia.org/wiki/Richard_Dearlove
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/3121085.stm
【質問】
スカラメッラはなぜ逮捕されたのか?
【回答】
イタリア国内で違法行為の容疑があり,今回の逮捕はリトビネンコ事件とは関係ないとのこと.
BBCでは24日付けで,わずか10センテンスほどの記事で,スカラメッラの逮捕を伝えている.
Dead spy's Italy contact arrested
Last Updated: Sunday, 24 December 2006, 15:16
GMT
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/6208065.stm
以下にAP,PA,ロイター報道とあわせ,詳細.
■スカラメッラの逮捕容疑
BBCによると,逮捕の容疑は以下のとおり,「武器の不正取引」と「国家機密漏洩」.
>Mario Scaramella is being investigated
in Italy for arms trafficking and violating
state secrets.
一方,同日付のAP報道によると,スカラメッラの容疑はinternational
arms trafficking and slander,つまり「武器の国際不正取引」と「名誉毀損」となっている.
Italian Who Met Poisoned Spy Is Arrested
Sunday December 24, 2006 10:31 PM
By MARIA SANMINIATELLI, Associated Press
Writer
http://www.guardian.co.uk/worldlatest/story/0,,-6301651,00.html
同じく24日付のPress Associationの報道によると,容疑はclaims
of arms trafficking and revealing state secrets,つまり「武器の不正取引」と「国家機密漏洩」である.
Italian who met Litvinenko arrested
Press Association
Sunday December 24, 2006 8:28 PM
http://www.guardian.co.uk/uklatest/story/0,,-6301380,00.html
これらの報道をまとめると,容疑には「国家機密漏洩」と「名誉毀損」と「武器の不正取引」があるようだ.
■逮捕の状況
APの報道によると,スカラメッラの父親が,ロンドンからナポリに戻ってきたところでスカラメッラが逮捕され,身柄はローマに送られた,と語った.
Press Associationの報道によると,スカラメッラはBA機でロンドンのガトウィック空港を出発し,到着したナポリ空港で逮捕状を持ったイタリアの対テロ局(DIGOS
anti-terrorist unit)の捜査官に逮捕されたそうだ.
以前,ロンドンで放射能の検査を受けるなどして入院していたときに,スカラメッラは
「(体調には問題はないので)クリスマスは家族と一緒に迎えられるのではないか」
と述べていたそうだが,たぶん,本当にクリスマスは自宅に帰るつもりだったのだろう.
クリスマスぎりぎりの日程でロンドンからナポリに飛んだのは,元からその予定だったのか,濃霧でヒースロー空港が機能せず,BA機の運行に遅延が発生していたことによるものなのかはわからない.
■「武器の不正取引」事件
Press Associationの報道によると,イタリアで2005年夏に,警察がRPG(rocket-propelled
grenades)を押収するという事件が発生した.
警察にその情報を告げたのはスカラメッラだった.
そして,スカラメッラは,その情報をリトビネンコから教えられたと主張している.
この事件では4人のウクライナ人が逮捕され,現在裁判が開かれている.
しかしスカラメッラの情報があまりに詳細だったため,警察は疑いを抱いた.
また,11月末のコリエレ・デッラ・セーラによれば,「去年の初め,スカラメッラが関わった事件」,つまり「武器や放射性物質の取引で,ナポリ検事局が捜査を開始した」とのこと.
同紙が述べるに「この件はローマに送られ,そこで捜査が止まってしまった」のだそうだが,その捜査が再開されたのだろう.(この段,カギカッコ内はリンク先からの引用.)
Press Associationの報道によると,逮捕状は今月に入ってから,検事総長(<だと思いますが違うかも.原文ではinvestigating
magistrate)のオルランド・ムントーニ(Orlando
Muntoni)が署名したもので,ロンドンでの逮捕も可能だったが,容疑者がナポリに戻ってくるのを待った.スカラメッラの弁護士のセルジオ・ラストレッリ(Sergio
Rastrelli)はイタリアのテレビRAI Tg1に出演し,水曜日に尋問が行われる予定だと述べている.
24日付,ロイター通信の報道によると,今月行われたロイター通信との電話インタビューで,スカラメッラは
「できるだけ早くイタリアに戻り,当局とともに(with
authorities)事態をはっきりさせなければならない」
と語っていた.(In a telephone interview
with Reuters earlier this month, Scaramella
said: "I need to come back to Italy
as soon as I can and to clarify with authorities,"
he said.)
■・・・というわけで
アレクサンドル・リトビネンコがプーチン政権とFSBを公然と批判していたのは事実だが,彼にはそれ以外にもしていたことがある.
これはごく当然のことなんだが,「批判者」以外の面はあんまり書かれていないから,ほとんど見えなくなっている.
例えば「東京都大田区在住」で「東京駅近くの会社に勤務している」○○さんが,「週末には湘南にサーフィンに出かける」が,「通勤電車の中ではiPodで英語学習をしており,最近英検準1級を取った」人である場合,本人や友人たちはそのすべてを知っているけれども,その人のことがメディアで語られる場合は,メインの話題に関係のないことは書かれない.
つまり「大田区の住環境」について書かれるものでは「大田区在住」と「勤務先の場所」と,あと時には「湘南(への交通の便)」が言及されるとしても,「英語学習」については書かれないだろう.
「空いた時間に英語学習」という話題の文章なら「電車の中でiPodを使って」とか「英検準1級取得」とかは詳しく書かれるだろうし,「家から会社まで○分」といったことも書かれるだろうが,住んでいる場所や会社の所在地については書かれないかもしれないし,週末のサーフィンについては書かれないだろう.というか,そもそも本人がそれを語らないかもしれない.
アレクサンドル・リトビネンコについては,「元KGB/FSB」ということと「プーチンを激烈に批判」ということは耳にタコどころか目で見てもスルーしちゃうくらいに繰り返し書かれているし,「ベレゾフスキーと関係がある」とか「ザカーエフとは友人同士」とかいったことも何度も書かれているが,何の仕事をしていたのか,どのような活動をしていたのかはほとんどまったく書かれていない.
ロシアのメディアは「彼は金に困っていた」と強調しているが,その可能性はあるよね,というか何というか・・・だ.
また,彼について「元スパイ(ex-spy)」という形容があるが,夫人は「夫はスパイではなく犯罪撲滅に尽力した人物だ」と,今月のインタビューで語っている(She
told the paper he had been an honest man
and a crime fighter rather than a spy.: BBC).
それでもリトビネンコは「元スパイ」とか「元エージェント」と語られ続けている.
夫人の言葉が本当のところ何を意味しているのかは難しいところだが(rather
thanは「〜というよりむしろ…」,「もっと正確に言えば…ということだ」というときにも用いられるし,and
notど同じ意味で「〜ではなく…」と積極的に否定したいときにも用いられる).
【質問】
「ルゴボイが怪しい」説の信憑性はどうなのか?
【回答】
乏しい.
根拠が希薄な状況証拠でしかない上に,英国の報道では「裏ビジネス上のトラブルの可能性」としてルゴボイがとり沙汰されているにも関わらず,その英国報道を引いてきた日本の報道では「元FSB」という部分だけがクローズ・アップされている,という.
以下引用.
〔略〕
英国の記事をあれこれ見たうえで日本での報道を見てみると,この事件についての上記のような日本での「報道」は,「アポロは月面着陸していなかった」というテレビ番組などと同じように受け取るべきと思えてならないのですが.
そういうものを「報道」として流すことにもちょっと待てと思えてならないのですが.
だって,「ルゴボイが怪しい」と言っているタイムズは,11月1日のリトビネンコの行動の順番を,「スシ・バーに行ってから,ミレニアム・ホテルに行った」としている.
そして,スシ・バーでもホテルでも放射能検出の事実がある.
http://nofrills.seesaa.net/article/28456471.html
リトビネンコは先にスシ・バーに行っているのだから,スシ・バーでやられたか,スシ・バーに入る前にやられた,ということになる.
ホテルでやられたんだとしたら,その前に訪れたスシ・バーから放射能が検出されることは,ありえない.
そして,タイムズの言う「容疑者?」のルゴボイは,スシ・バーでのミーティングの席にはいなくて,ホテルにいた.
タイムズは,「スシ・バーに午後3時,ホテルに午後4時半」と伝えているのだから,スシ・バーにはいなかったルゴボイを「容疑者?」と報じているのは,ちょっと筋が通っていない>タイムズさん.
では,実はリトビネンコは当初報道されていた通り,ホテルでルゴボイらと会ったあとに,スシ・バーでスカラメッラと会ったのか,あるいはスシ・バーに行く前にルゴボイとどこかで会っていて,スシ・バーを出てから改めてミレニアム・ホテルでルゴボイらと仕事の打ち合わせをしたのか,とも思うのだが,タイムズの最新の記事(下記)での記述は次のようなもので,「スシ・バーが先,ホテルがあと」というこれまでの報道と矛盾しない形になっている――ただし,矛盾はしていないが,一致しているかどうかも微妙だ.この記事のなかでは,時間の前後はまったく示されていない.(引用文中,太字は引用者による.)
British police arrive in Moscow to hunt for spy death clues
December 04, 2006
http://www.timesonline.co.uk/article/0,,3-2486268,00.html
British authorities said earlier that the team of detectives would interview several people while in Moscow, including Andrei Lugovoi, another former intelligence agent who met Litvinenko on November 1 - the day he is believed to have fallen ill.
...
He [=Litvinenko] is believed to have received the poison at a sushi restaurant in Piccadilly, London. An Italian contact who had lunch with Litvinenko at the restaurant, Mario Scaramella, was also contaminated with polonium, although he has shown no symptoms of radiation poisoning.
深読みすれば,アンドレイ・ルゴボイが11月1日にリトビネンコと会った場所がこの記事には明示されていないのが気になるのだが,その点は,これまでに何度も「ミレニアム・ホテルで会った」と報道されているのでこの記事では省いた,と考えるのが妥当だろう.
なお,「ルゴボイが怪しい」と名指ししたタイムズの記事は下記.ウェブ版では2日付になっている.
(私が見たNTVのニュースでは「3日付サンデー・タイムズによると」と言って紙面の写真を出していたが,ウェブ版でLugovoyで検索しても,3日付の記事で彼を「容疑者?」扱いしているものはない.
ただしウェブ版と紙面とでは日付が違う可能性もあるし,NTVが紹介していた記事は,そもそもウェブ版にはあがっていないのかもしれない.)
Litvinenko may have fallen foul of ruthless Russian businessmen
December 02, 2006
http://www.timesonline.co.uk/article/0,,13509-2482861,00.html
概要としては,リトビネンコは,ロシアのビジネスマン(エネルギー関連,および警備関連)との交渉がうまく行かず,そのあとで殺されたのではないかと示唆する記事.
記事の最初にAlexander Litvinenko may have been killedと,「助動詞のmay」が用いられている点に大注目.(いきなりmayを使っている記事の内容の確かさってどのくらいなんでしょうね.日本語での「可能性が浮上した」よりも弱い表現だと思うけど.)
記事内では,治安筋の話(According to security sources)として,捜査当局がリトビネンコの仕事(つまりエネルギー関連,および警備関連)に注目している,とある.
ある情報源によると,「私たちはリトビネンコ氏がロンドンに来たあとの友人と敵に注目している.その人数はとても多い」("We are looking at a very long list of Mr Litvinenko's friends and foes since he has been in London," one source said.).
記事によると,英国に来て6年の間に味方も敵もたくさんできたが,リトビネンコの仕事はなかなかうまくいっていなかったようだ.
具合が悪くなった11月1日,彼は「英国のコングロマリットの代理である」として,天然ガス・石油の開発の契約を仲介しようとしていた.
また,ロシアで募集したプロの警備員を供給するという仕事の交渉もしており,ロシアからの投資を呼び込みたい複数の英国企業の代理を名乗っていた.
On the day that he fell ill he was attempting to broker a gas and oil exploration deal involving a British conglomerate that he claimed to represent. He was envious of the money that many of his former colleagues were making.
He also had talks about providing trained personal protection guards recruited from Russia, and claimed to represent a number of British interests wanting bilateral deals with Russian investors.
エネルギー関係の英国企業だとか,投資を呼び込みたい英国企業とか,お約束の役者登場という気もしますが,注意すべきはここでhe claimed to representという表現が使われている点だろう.
これは「彼が勝手に名乗っていた」ときにも使えるし,「企業側の確認はまだ取っていないが本当にそうだったようで,彼はそう言っていた」ときにも使えるし,「どの企業のことかはっきりしないが,彼はそう言っていた」ときにも使える.
つまり,曖昧な話なのである.
ただ「彼がそう主張していた」ことは客観的事実としてある,というだけで.
リトビネンコの友人たちは,リトビネンコが死を迎えた当時(つまり今年の11月近辺に),investigations(<唐突に出てくるので日本語にできないが,「調査」だろう)に関わっていたと言っていた,と述べている.
警察ではこのinvestigationsに注目していく(Police will look at),というのが記事の書き方(ちょっと唐突.情報源が示されていないのに助動詞のwillか・・・).このinvestigationsには核物質の密輸や売春婦の密輸が含まれている.
こういった世界に関わる人物の殺害は,ロシアでは珍しくない,と記事では言っている.
しかしロンドンのロシア人社会で起きたのは始めてである,と.
この書きっぷりからすると,「マフィアの血の制裁」の筋があるんだろう,と思うのだが,どうだろう.
何しろ登場人物があまりに多彩であるため,捜査も複雑なものになるだろう,と記事は述べている.
その中で,最も新しくスポットライトが当たるようになったのが,アンドレイ・ルゴボイである,と.
ルゴボイは元FSBで,11月1日にリトビネンコと会っている,とだけ記事にはある(Andrei Lugovoy, a former Russian intelligence officer, who met Litvinenko on the day he was poisoned).
ここにないのは,ルゴボイがリトビネンコに会ったのはミレニアム・ホテルにおいてであり,リトビネンコはホテルに行く前に行ったスシ・バーで毒を盛られたと考えられている,という点についての記述だ.
変な記事.
さらに続く部分が:
There is no evidence to suggest that he had anything to do with Litvinenko’s death, but suspicions about him deepened this week after the suspected poisoning of Yegor Gaidar, the former Russian Prime Minister and Putin critic.
つまり,「ルゴボイがリトビネンコの死に関わっているということを示す証拠は一切ないが,彼についての疑念は,今週,ガイダル氏が毒を盛られたのではないかと疑われた後に,深まった」.
ガイダルについては12月1日の当ブログ記事参照.
ガイダルは元ロシアの首相代行で(このことをなぜか英プレスの多くは「元首相:ex-prime minister」と表している)リトビネンコが死んだ日に,アイルランドで謎の病気で倒れました.
これね,ロジックがないんですよね.印象論でしかない.
というか,上の部分で,「ルゴボイはスシ・バーにはいなかった」という点をすっ飛ばして,「ルゴボイはリトビネンコが毒を盛られた日に会っている」ということだけを書き,そしていきなり「ガイダルの謎の病気」の話.
なぜタイムズがこういうふうに突っ走っているのかというと,ルゴボイはFSBにいたときに,ガイダルの身辺警護をしていた.1990年代の話.
そして,ルゴボイとガイダルはこの4年間,互いに会っていない(the two have not met for four years)が,「この2つの事件を結びつける1人の人物として,ルゴボイが浮上した(Mr Lugovoy emerged as the one man linking the two cases)」っていうんですね.
そりゃ,警察はあらゆる可能性を洗い出すでしょう.どんなに細いリンクも無視しないでしょう.
だから,ルゴボイがかつて警備していた政治家が倒れたことと,ルゴボイが会った男が毒を盛られて死んだことと,何か関連があるかもしれないと考えることはある.
しかし,だからって,リトビネンコが毒を盛られたときにその場にいもしなかった男を「容疑者?」と呼ぶのは,あまりに筋が通っていない.
そして,ルゴボイがリトビネンコと会ったのは,リトビネンコが毒を盛られたと考えられる時間よりも後だ,ということを,この記事では書いていない.
ダメ記事じゃん...と思うんだけど,なぜかこれが日本ででかでかと報じられている.なんでだー.(こういう書き方って,例えば「ベッカム移籍か」みたいなネタでよくあるんだけど.)
記事ではこの後,1文のクッションを置いて,ロシア国内がいかに「恐怖政治」めいているかという話(「プーチンを批判する人たちは,元KGBトップの人物が,プーチン批判の声を封じ込めようとしている,と述べている」という話)に行く.そして,リトビネンコはプーチンを批判していたという事実を述べる.
リトビネンコがプーチンを批判していたのは事実だけれど,彼の批判の根拠がどのようなものであったのかは,記事には書かれていない.
つまり彼がFSBの中にいたので,そのような情報を知りえたのだ,ということも書かれていない.
そしてさらに記事では,「西側の当局者(Western officials)は,プーチンが暗殺の命令を下したということには疑問を呈している」と続く.
ここで,やっと「はあ,なるほど」と少し思える.
この記事の見出しは,「リトビネンコは冷酷なロシアのビジネスマンにやられたのかもしれない(Litvinenko may have fallen foul of ruthless Russian businessmen)」だ.つまり,「プーチン政権に,ではなく,ビジネスマンに」.
記事のこの後の部分では,「ロシア政府はベレゾフスキーを疑っている,なぜならプーチンの評判が落ちることで得をするのは彼だからだ」ということが説明され,ベレゾフスキーとリトビネンコの関係について,次のような「推測」(助動詞のcouldがある)が述べられている.
つまり両者の関係がダメになっていたのではないか,という推測が.
Although Mr Berezovsky was an ally of Litvinenko, there are also suggestions that the two men could have fallen out. On the day he died, Litvinenko visited the oligarch’s Mayfair offices, which have since been sealed because they contain traces of polonium-210.
※最後の「リトビネンコは死んだ日にベレゾフスキーのオフィスに行った」ってのはご愛嬌か.事実は「体調を崩した日に(On the day he fell ill)」.
つまり,「政府の命令ではなく,仕事の関係で何かあったことが彼の死の原因ではないか」という仮説と,「そういえばベレゾフスキーとの関係も実は円満ではなかったのかもしれない」という推測がメインのこの記事が,日本での報道では「FSBがやった」という大筋を補強するために用いられているので,違和感があるんだな.
わかったわかった.
しかもこの記事,普通に読んでみて,そんなに「強い」記事ではない.revealedとかconfirmedがまったく出てこないんだから.
この記事で「FSB説」が示唆されているのは,「ルゴボイは元FSBだ」という事実と,「FSB時代にルゴボイが警備を担当していた元首相代行が謎の病で倒れた」という事実,
そこから導かれる「リトビネンコ事件と,元首相代行の事件(?)をつなぐ人物としてのルゴボイ」という指摘のところだけ.
で,「ルゴボイが両事件のキーパーソン」というのは,この記事に書かれていることからは,なんか「2時間ドラマの見過ぎ」のような気がしますけど.記事に書かれていないこともあるのかもしれませんが.
うーむ.やっぱりこの記事,最初のほうの,「ロシアの裏ビジネス」の方こそ読むべきだよなぁ.
ルゴボイがその「裏ビジネス」に関わっていたのかどうかは記事からはわからないけれども.
まあ,見出しが「裏ビジネスのどうのこうの」というよりは,見出しが「元KGB!」などというほうが,記事が注目され易い,視聴率を得られ易いからでしょうね.
困ったもんだ.
◆◆◆ポロニウム関連
【質問】
ポロニウム210の毒性って,どのくらい?
【回答】
実際の所,放射性物質の内部取り込みによる影響は,体内での取り込み物質の挙動(集積箇所,生物学的半減期)等,生物学的な面も含むため,被曝線量含め簡単には評価できないところです.
私も今手元に資料がありませんので,Po-210の毒性の正確なところは分かりませんが,ごく簡単に計算できる物理的な面で検証してみましょう.
Po-210の半減期――Wikipedia曰く「138.376日」.これは
http://wwwndc.tokai-sc.jaea.go.jp/cgi-bin/nuclinfo2004?84,210
で確認したところ正しい――と,保守的な評価のため天然ウランのうち半減期の短いU-235の半減期(U-235
7.038E+8年,U-238 4.468E+9年)と比較すると,約10の9乗倍の違いです.
放射能は半減期の逆数に比例しますので,近似として個数密度(大きく違うとも思えませんが)と質量数の違い(210と235,238のため桁的には無視できる)を無視すると,物理的な放射能は約10の9乗倍の違いです.
そして,放出されるα線のエネルギーも桁が同じのため,放射線による物理的な影響としては途中近似計算の保守性を含めると,Po-210と天然ウランでは約10の9乗倍オーダーの違いとなります.
他,同位元素も考慮しなければなりませんが,長いPo-209でも102年,存在比を考えればほぼ無視できる物ですし,短半減期の物はそれ以前の問題です.
ただ,Wikipediaの「致死量」の説明は,ワケが分かりません.
Wikipediaのポロニウムの項に曰く
(ポロニウムは)「ウランの330倍強い」放射能を有し,元素の中で最も毒性を持つ.計算上わずか47ng(1億分の4.7グラム)で50%致死線量(4Sv)の被曝を受けることになる.最大許容身体負荷量は6.8pg(1兆分の6.8グラム)とされている.また,同位体もすべて強力な放射能を持っている.
とのこと.
まあ放射能が問題,としたいようですが,だったら「放射能がポロニウムの1/330倍のウラン<嘘つけ!!」も猛毒ということになります(大汗).
実際は後述するとおり半減期で桁が異なるため,1/330倍なんてナンセンス以外の何物でもありません(万が一そのような猛毒物質なら,それこそトン単位でウランを扱う私など,もうこの世にはいないことになりますが(大汗))で,Wikipediaの中の人もどうかしているようです.
この部分だけの単純ミスなら良いのですが,そうなると他も怪しくなってくる訳で.こうなるとWikipediaを元に,劣化ウラン弾なども関連して,トンデモ評論が多々発生しそうな悪寒がします.
先述のようにWikipediaによる「ウランの330倍強い放射能」云々の下りは全く失当であり,それを元にしたとすると,それ以降の計算の信憑性が大きく疑われるところです.
ただし,Wikipediaによる致死量などの話は無視するにしろ,Po-210が強い放射能を持っており,取り扱いに厳重な注意が必要であることは否定しません.
また,Po-210の半減期は約138日と長すぎず(長ければ放射能が半減期の逆数に比例して弱くなるだけ),短すぎず(短いと放射能は強いが,毒として盛る前に崩壊してしまって無くなってしまい,役に立たない)のため,Po-210の放射能を毒物として使用するには適性があること.
さらに,英保健当局や捜査をおこなっているロンドン警視庁(加えて英情報機関の情報局保安部(MI5)と対外情報部(MI6))が,放射性同位元素の検出,特定に単純ミスを犯すような無能ではないと考えられることから,少なくとも何らかの原因でPo-210を摂取させられたことは,ほぼ間違いないところでしょう.
しかし,Wikipediaがこの体たらくですので,珍説の蔓延には注意しつつ,今後の進展に注目したいところです.
以上,ご参考まで.
へぼ担当 in mixi支隊
【追記】
なお,現在ではウィキペディアでは更新が行われていて,当初の記載の明らかな誤りは修正されているが,他の部分にも間違いがないか留意する必要は残る.
【質問】
ウィキペディアにはこうも書いてありますね.
ポロニウム210は自然界に存在する一番長い半減期(138.376日)を持つ同位体である.
1mgにつき5gのラジウムとほぼ同じ放射線を放出する.
すると「ウランの330倍強い放射能を有し」という記述と相反するのですが・・・.
で,ATOMICAにはこんな記述が.
キュリー夫妻(the Curies)は1898年にウラニウムより300倍強い放射能をもつ物質(ポロニウム,Po:マリーの母国ポーランドに因む)と,ウラニウムより200万倍強い放射能をもつ物質(ラジウム,Ra:実際はRa−226)の分離に成功した.
http://mext-atm.jst.go.jp/atomica/15080103_1.html
これはポロニウム210だけ放射能が強いということなんでしょうか?
JSF in mixi支隊
【回答】
まず,Po-210の放射能が強く,存在比を考慮してもポロニウムの同位体の中でも,Po-210の放射能が支配的になるのは間違いないところと考えます.
物性値が半減期程度しか手持ちの資料にないので,簡単に計算してみたのですが,ご紹介の記述の中で
「ウラニウムより200万倍強い放射能をもつ物質(ラジウム,Ra:実際はRa−226)」
と
「ポロニウム210は1mgにつき5gのラジウムとほぼ同じ」
は合っていると思われます.
以下,計算根拠です.
688:の試算と同様,単体の重量(個数密度なら最適ですが)密度が分かりませんので,質量数の違いも含め,その2点の差異はは概算として無視します.
同じ個数あるなら,放射能は半減期の逆数に比例しますので,半減期で比べてみると,
1.「ウラニウムより200万倍強い放射能をもつ物質(ラジウム,Ra:実際はRa−226)」について
「U-238の半減期4.468E+9年」÷「Ra-226の半減期1600Y」=約2.8E+6
実際はU-235なども含みますし,密度等の違いもあり得ますから,200万倍という数字は計算の簡単のための近似誤差の範囲内であり,説得力を持ちます.
2.「ポロニウム210は1mgにつき5gのラジウムとほぼ同じ」について
「Ra-226の半減期1600Y」÷「Po-210の半減期138.4日」=約4.2E+3
同じく密度等の違いもあり得ますから,約5000倍という数字は説得力を持ちます.
というわけで,上記2つは説得力を持つのですが,ATOMICAにもある「ポロニウムはウラニウムより300倍強い放射能をもつ」という記載は,桁があまりにも異なるため,手持ちの資料+自分の思いつく範囲では説明が付きません.
すると,残るは,自然での存在比(Po-210は一連の崩壊で生ずる娘核種のため,Po-210が自然界に存在する量(同位体比)はある一定の平衡量を持ちます)を考慮するぐらいしか手がないのですが.
しかし,桁の違いを説明できるほどの違いではない(ただし現在の所,手元に資料がありませんので断定できません)と推測されるため,何らかの形での誤訳か誤記の可能性が強いと考えます.
それにしてもATOMICAの説明で,これほど理解に苦しむ例は初めてです.
もっとも,私の方で何か重大な事実誤認や認識の欠落を起こしている可能性も否定できませんが.
私の方はと言えば,考えれば考えるほどドツボに嵌まっており,単なる誤記もしくは誤訳,一次出典の間違いである可能性に傾いてしまうのですが.
以上,まともな答えになっておりませんが,ご参考まで.
へぼ担当 in mixi支隊
【質問】
ポロニウム210はロシアで生産されているのか?
【回答】
報道によれば,毎月8グラム生産されているとのこと.
以下引用.
ポロニウム,工業用などで毎月8グラム輸出…露長官
【モスクワ=緒方賢一】ロシア原子力庁のキリエンコ長官は28日,記者会見し,ロシアが放射性物質の「ポロニウム210」を毎月8グラム輸出していることを明らかにした.
工業用塗料などに使われているが,英国向けには2001年以降は供給していないという.
キリエンコ長官は
「ポロニウム210は国内で厳重に保管されており,だれかが盗み出すようなことは考えられない」
と述べ,リトビネンコ氏から検出されたポロニウム210がロシアから流出した可能性を否定した.
とはいえ,核物質そのものを行方不明にさせた前科のある,とってもニチェボーな国なので…….
【質問】
ポロニウム210が英国に存在したことはないのか?
【回答】
初期の原子爆弾には使われていたため,英国でも使用されており,吸引事故も発生しているという.
孫引きだが,以下引用.
3)テレグラフ記事
Archives offer reassurance on polonium
By Ben Fenton
Last Updated: 2:21pm GMT 30/11/2006
ポロニウム210は初期の原子爆弾で使われていたため,1950年代にはイングランド(Aldermaston, Berkshire)でも扱われており,1953年と55年の2度,health hazardが起きている,というthe National Archives(国立公文書館)の文書を紹介する記事.
記事によると,1953年,ポロニウム部門の職員の1人が定期検査(尿検査)で高いアルファ線の数値を示し,すぐに仕事を外された.
この職員は作業の際に手袋を着用しておらず,爪を噛む癖があり,そのためにポロニウムを飲み込んでしまっていた.
この職員はしばらくして職場に戻った.
1955年のときは,大量の使用済み物質(waste material)がテーブルや床の上にこぼれた.
こぼれた物質は大きな紙袋にまとめられたが,このとき,袋に詰める作業で袋からぽっと空気が出て,2人の職員の顔を直撃した.
サリー大学の核物理学の講師(reader),パディ・レーガン博士(Dr Paddy Reagan)は,今回の事件では飛行機からポロニウム210が検出されたが,1955年のときのようにまともに吸い込むのと比べたら,直接吸入のレベルはぜんぜん低い,と述べている.
また,トップシークレットの文書には,この2人の職員から検出された放射能のピークレベルは0.6マイクロキュリーと0.2マイクロキュリーだった,とある.
この2人について,後にこれが原因で具合が悪くなったとの記述などは文書にはない.2人とも後に職場に戻っている.
よって,吸い込んだとしても彼らよりずっと少ない量であったはずのBAの飛行機に乗った人にとっての危険はきわめて低い.
レーガン博士らによる計算では,1人の人間が経口摂取または吸入摂取する場合の致死量は,500から5000マイクロキュリーの間だと考えられる.
これとは別に1957年には,ウィンドスケール(現在のセラフィールド)のリアクターで火災と爆発が発生し,大気中に240キュリーのポロニウムが放出された.
体内に摂取されていれば数千人単位で死者が出た量だったが,すぐに大気中で分解されて(diffused)無害化された.
このとき英国政府は,ポロニウム漏れについては言及しなかった.それは一般大衆を怖がらせないためにではなく,このころにはポロニウムは時代遅れとなっていたので,アメリカやソヴィエトに,英国はまだポロニウムなんか使っているのかと思われたくなかったからだった.
(最後が何かあまりに「英国的」で,ものすごいよなあ.(^^;)
つまり,過去には原爆開発で使われており,ロシア以外にも,核兵器保有国なら保存している国もあるかもしれない.
>(最後が何かあまりに「英国的」で,ものすごいよなあ.(^^;)
「意地も張れぬ繁栄など,こちらから願い下げだ」(
from 某吸血鬼漫画)
【質問】
ポロニウムは民間でも使われているのか?
【回答】
かつては使われていました.ブラシやなど.
以下引用.
「ポロニウムのスパークプラグ」と銘打った商品@1950年代とか
ポロニウムを使った静電気の起きないブラシ:
http://theodoregray.com/PeriodicTable/Elements/084/index.s7.html
※単純に,写真がステキです.
このページによると,「ポロニウムを使ったブラシ」は純度は20%,
2002年でも購入可能だとのことです.
カメラの掃除やレコードのクリーナーとして使うものだそうです.
ポロニウムがネット上のオークションに出ている場合もあるようです.
http://photo.net/bboard/q-and-a-fetch-msg?msg_id=00EqQQ&unified_p=1
のAnswerの Edward Ingold @ jan 12, 2006; 11:44 p.m.には
「30年ほど前に製造中止となったが,StaticMasterというブランドのブラシがポロニウムを使っていた」とありますが,このStaticMasterというブラシ,普通に買えそうなところもあります.
http://www.optcorp.com/product.aspx?pid=1723
このoptcorpには
More about Polonium-210 from the manufacturer of Staticmaster:
Polonium-210 is a naturally occurring radioisotope. For instance, it is found in granite rock formations and several types of clay.
ポロニウム210は自然に発生するラジオアイソトープで,花崗岩や何種類かの粘土のなかに見つかる……などとあります.(説明文,けっこう分量あります.)
〔略〕
あと,煙草に含まれるという文献は,1966年9月のScienceのが出てきました.
どなたかのお役に立つかもしれないので,URLをはっておきます.
http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/153/3741/1259
Posted by nofrills at 2006年12月02日 22:26
http://nofrills.seesaa.net/article/28726507.html#comment
また,
http://www.unitednuclear.com/isotopes.htm
でも言及されているStaticmasterのブラシ,メーカーのサイトは下記:
http://www.2spi.com/catalog/photo/statmaster.shtml
ポロニウム210の静電気除去作用は1年持続する,というような説明があります.
それを超えるとただのブラシになるみたいです.
それから,United Nuclearのサイトで「ウランを含んだ釉薬が用いられている(のでベータ線,ガンマ線が出ている)」ということで言及されているFiestaware dinner platesは下記(上のURLがメーカーのサイト,下は通販サイト):
http://www.hlchina.com/fiestacolors.htm
http://www.amazon.com/Fiestaware-Kitchen-Housewares/b?ie=UTF8&node=598204
ただ,United Nuclearのサイトにある「よくある鮮やかな赤/オレンジの食器(common bright red/orange dinner plates)」が,現在生産されているものなのかどうか.red/orangeという表記そのものが曖昧で(red and orangeなのか,red or orangeなのか).
メーカーのサイトによると,Redのラインは1943年に一度製造が中止され,1959年に再開されるも1972年に製造が終わっていて,現在「赤」と呼べるのはScarlet(緋色).これは,Redとはちょっと違いますね.
「オレンジ」はTangerine(みかん色)が現在も生産されています.Persimmonの色は,単に色として,bright red/orengeに入らないような気がします.
……と思ったら,wikipediaに説明が.色についてはthe bright orange-red colorとあるのですが,これは「(紫に近い赤ではなく)オレンジに近い赤」ということですね.
ということはスカーレットは入らないはず.
http://en.wikipedia.org/wiki/Fiestaware#Red_Fiesta
この説明文の要旨:
Fiesta(だけでなく当時の米国の陶器メーカーすべて)の「赤 Red」は,色を出すための釉薬の中に,検知可能な量の酸化ウランを含んでいることで知られる.
第二次大戦中,米国政府がマンハッタン計画のためにウランを管理するようになり,Fiestaのメーカーをはじめとする陶器メーカーはこの釉薬の使用を中止せざるを得なくなった.
そのためFiestaのRedは1944年に製造中止となった.
1959年にウラン酸化物についての政府の管理が解除され,Fiesta Redは製造再開となった.
食器として使用する分には問題はないが,食品を保存するときにこれらの食器を使うことは避けるべきである.
ところで,Fiestawareの昔のものは,コレクターズ・アイテムになっていると思います.アメリカの「ヴィンテージもの」のことは私はほとんど知らないんですが,spamで「Fiestaware安いですよ」みたいなのを見たことがあります.
ものによっては英国のスージー・クーパーみたいな扱いなのかな?(2000年に,ロンドンのアンティーク市で,こちらが日本人と見ると,こちらの好みも確認せずにやたらと「スージー・クーパーだよ」って勧めてくる商人がいたのには辟易としましたが.)
それから,ポロニウムについては,オーストラリアのデイリー・テレグラフ(英国のとは別)に次の記事が.
Innocent chemical a killer
Polonium occurs naturally at low levels in ordinary soil and can be found in water, cigarettes and some vegetables. It has been used commercially in devices to eliminate static electricity. Most experts say it would take a nuclear reactor or particle accelerator to make significant quantities of the material.
オーストラリアの核安全の専門家の方は,「この事件が起きるまで,ポロニウムが毒物として使われたとは聞いたことがなかった (Before this incident I had never heard of polonium being used in a poisoning)」と述べています.
【質問】
ポロニウムは持ち運び可能なのか?
【回答】
可能.
ポロニウムの出す放射線は紙一枚でもさえぎることができ,また,化学的に液体にすることもできるので,試験管などに入れて運ぶことができるという.
以下引用.
ポロニウムは放射性元素の中で最も毒性が高いとされ,極めて微量でも体内に入った場合,腎臓や脾臓(ひぞう)に重大な影響を与え,死に至らしめる.
その一方で,ポロニウムが出すアルファ線の届く距離は数センチと短く,紙1枚でも遮ることができる.
安斎育郎・立命館大教授(放射線防護学)は「ポロニウム210は化学的に液体にすることができ,試験管やプラスチック容器に入れて運搬も問題がない」という.
産経新聞,2006年11月26日8時2分
今回の事件では,あちこちでポロニウム210の痕跡が見つかっていることから,犯人が同物質に不慣れだった可能性も指摘されている.
東京工大原子炉工学研究所の澤田哲生助手は,「(ポロニウム210は)粉末にすれば持ち運びが簡単でフィルムケースに収めても運べる.
ただ煙のように拡散するため,完全密閉しなければならない.
飛行機などで痕跡が見つかったのは,運ぶときに漏れたためではないか.
犯人は取り扱いに熟知していなかった可能性もある」と語る.
プロの暗殺者だったとしたら,そんなヘマをするだろうか?
【質問】
誰がポロニウム210をロンドンに持ち込んだのか?
【回答】
2006年12月時点では,ロシア人実業家ドミトリー・コフトンが疑われている.
ロンドンのみならず,ドイツ・ハンブルクでも同氏の関係先から同物質の痕跡が発見されており,現時点では容疑は濃厚と推測される.
以下引用.
実業家を再聴取=元情報員殺害でロシア最高検
【モスクワ18日時事】ロシアの情報機関,連邦保安局(FSB)の元中佐リトビネンコ氏の殺害事件で,同国最高検察庁は18日,リトビネンコ氏とロンドンで接触したロシア人実業家ドミトリー・コフトン氏から2度目の事情聴取を行った.英国の捜査官も同席した.
インタファクス通信によると,事情聴取はドイツ・ハンブルクでコフトン氏の関係先から放射性物質ポロニウム210の痕跡が見つかったことに関連して行われた.
ドイツ警察は同氏を放射性物質の不法持ち込みの容疑者として捜査している.
4人からポロニウムの痕跡=ロシア人実業家の前妻ら−独警察
【ベルリン11日時事】元ロシア情報機関員アレクサンドル・リトビネンコ氏殺害事件で,ドイツ警察当局は11日,同氏が倒れる直前に接触があったロシア人実業家ドミトリー・コフトン氏のハンブルクに住む前妻と彼女の1歳と3歳の子供,さらに前妻のボーイフレンドから放射線物質ポロニウム210の痕跡が検出されたことを明らかにした.
独メディアによれば,見つかったのは前妻の上着などからで,ポロニウムが体内に入ったかどうかなどを病院で詳しく検査している.
となれば,コフツンの背後を探ることで,事件は当初予想より大幅に早く解決するかもしれない.
コフツン
【質問】
放射性物質みたいな面倒なもん,なんで暗殺犯は使ったの?
【回答】
桜井淳は,脅迫メッセージではないかと推測している.
なぜ,ポロニウム210が利用されたのか,狙いがわかりません.
毒性が高いからと言うだけでは納得できません.と言うのは,ポロニウム210は,利用された量だけでも,46億円もするからです.※
正常な精神状態の人間の経済感覚からは出てこない発想です.
もっと簡単に入手でき,安価で,毒性の高いものは,世の中には,いくらでもあります.
メッキ工場に侵入すれば,きわめて毒性の高い青酸カリが入手できます.
それにもかかわらず,ポロニウム210が利用されるということは,意識的に,入手が難しく,高価であることを示すことにより,個人の仕業ではなく,国家が関与していることを示しているように解釈できます.
殺人を意図したひとたちは,そのことを社会に示すことが目的ではなく,元KGB職員で機密事項を知りえる反体制的立場のひとたちへの脅迫メッセージのように解釈できます.
桜井淳の新・市民的危機管理入門,2006年12月20日(水)
※英紙タイムズによると,遺体の司法解剖で致死量の10倍以上のポロニウム210を盛られていたことが判明した.米研究機関から合法的に購入しても致死量分で1000万ドルはするから,殺害には1億ドルのコストがかかったことになる.
このため,英当局者は同紙に,「購入したり盗み出したりするのは現実的ではなく,核関連施設から持ち出すか闇市場から入手するしかない」との見解を示している.
(杉浦美香 in 産経新聞,12月22日8時0分)
ただ,警告のために外交をこじらせるか?という疑問はあるのだが.
消印所沢
また,桜井淳氏については,言説全般に対し以下の批判がありますので,併記しておきます.
桜井淳 発言研究まとめ@Wiki
桜井淳氏については,当初からその言説に批判がありましたが,昨今は人格まで疑われるような特にひどい物も散見されるため,本来の専門分野では,ある意味放置状態の模様です.
ただ,マスコミには喜んで出演するため,マスコミにとっては都合の良いスキャンダラスな情報を流してくれる専門家として重宝されているようですが.
もっとも,彼の言説の取り扱いで難しいのは,明らかな電波とそうでない正当な物,その中間の物とが入り交じっており(当人は全て正当と信じ込んでいるから,手に負えないのですが),一概に否定できないこと.逆もまた真なりで,一概に肯定もできないことから,非常に注意深く読み解く努力と能力が必要と考えます.
シベリアに置いてある原子力電池が余ってたので.
JSF in mixi
放射性物質で改造人間を作ろうとしたので.
葉月 in mixi
他の御用達の暗殺セットが品切れ中だったので.
ちっち in mixi
>他の御用達の暗殺セットが品切れ中.
KGB1「おい,青酸ガス銃はないのか!」
KGB2「最近予算が苦しくてねぇ.ああ,そうだこれならあるよ.」
KGB1「なんだよ,ポロニウム210かよ.まぁ仕方ねぇか.」
KGB2「用法容量を守って正しくお使い下さい.」
椋鳥 in mixi
【質問】
ポロニウムをなぜあんなにあちこちに撒き散らすはめになったの?
【回答】
「……それにしてもね,お客さん,オレも長いことタクシーの運転手やってんだけど,この前みたいな体験したのはホント,初めてでねえ.
この前,深夜2時ごろだったかなあ?
ロンドンの中を車,ころがしてたんだけど,寿司バーの前で,手を上げてオレのタクシーを呼ぶ奴がいてさ.
で,そいつがさ,ロシア語なまりの英語で,ホテルまで行ってくれって言ったっきり,ずーっと黙ったままなんだよね.ずーっとうつむいててさあ.
顔色もなんか,ものすごぉーく悪くて,生気がなくてさあ.
しょーがないから,オレも黙ったまま運転してさ,で,客の言うホテルに着いたんだよ.
でも,それでも反応がないんだよねえ.
だから,
『お客さん,着きましたよ』
って言いながら,うしろ振り返ったら,…いないんだよ,
その客.途中で降ろした覚えなんかないのにさあ.
オレ,慌てて運転席降りて,客席のドア開けたらさ,やっぱり誰もいなくて,ただ,客席のシートだけが,ぐっしょりとポロニウム溶液で濡れてたんだよねえ.
あとでタクシー仲間に聞いたんだけど,オレみたいな体験したヤツ,けっこういるらしいんだよねえ.
いやあ,あんときは,すげー怖かったねえ.
彼はまだ,この世をさまよってるのかもしれないねえ」
「へえ,そいつは災難だったねえ」と,お客.
「まったくでさ」と,頷く運転手.
「ところで,」と,そのお客は言った.「その寿司バーで乗せたという乗客だが,それはこんな顔じゃなかったかい?」
見る間に,客の顔が,放射能で髪がごっそり抜け落ちたリトビネンコの顔に.
「う,うわぁぁぁぁぁ!」
とうとう,その運転手は失神してしまったとさ.
消印所沢
軍事板FAQ
軍事FAQ
軍板FAQ
軍事初心者まとめ