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(画像掲示板より引用)


 【link】

Clausewitz.com(英語)

「地政学を英国で学ぶ」◆(2010/10/29) クラウゼヴィッツの弱点

「地政学を英国で学んだ」◆(2012-06-21)クラウゼヴィッツ学会:バスフォードの三位一体

「地政学を英国で学んだ」◆(2013/05/23) 戦争論(まんがで読破)

『Clausewitz: A Very Short Introduction (Very Short Introductions)』(Michael Howard著)

 クラウゼヴィッツ『戦争論』を解説したものとしては,これが最高でしょう.
 ものすごく短い(80ページ弱)のですが,かなりムダなく簡潔にクラウゼヴィッツの理論を紹介しております.
―――「地政学を英国で学ぶ」,2005-05-08-06:13

『On War』(Carl Von Clausewitz著, Michael Howard , Peter Paret解説)

 クラウゼヴィッツと言えばなんといっても「戦争論」が有名ですが,英語版だとこれが今のところ決定版と言ってよいでしょう.
 英語版ではほかにも色々出ているのですが,ペンギン版などの安いやつだと誤訳があったりして大変です.
 上のやつはIISSというシンクタンクの創設者でもあるマイケル・ハワードと,その弟子でドイツ人であるピーター・パレットによる素晴らしい解説がついております.
 英語圏ではまさに決定版でしょう.
―――「地政学を英国で学ぶ」,2005-05-08-06:13

クラウゼヴィッツ関係論文

 おそらく「未来の戦争」との関連を論じたものの中で一番まとまっているものでしょう.これはいい.
―――kbk

『クラウゼヴィッツと「戦争論」』(清水多吉・石津朋之編,彩流社,2008.10)

 いい値段はするが,今までなかったような重厚な研究だな.
 一章,二章の入門編はなかなか読みやすかったし,それ以降のプロイセン・ドイツ軍関係の論文も興味深く読めた.
 クレフェルトやホーニヒ,マーレーなんかの論文も結構読みやすかったな.
 こういう研究書が他にもどんどん続いてくれるといいんだが….

――――――軍事板
『クラウゼヴィッツと「戦争論」』書評<「FSM」

『クラウゼヴィッツの「正しい読み方」  『戦争論』入門』(ベアトリス・ホイザー著,芙蓉書房出版,2017/1/20)

 クラウゼヴィッツは二人いた!
 この衝撃の事実を確認したい人は,ぜひ手に入れてください.

 種明かしをしますと,軍事戦略の古典として「孫子」と双璧をなすクラウゼヴィッツ「戦争論」は未完の著として知られます.
 ただこの「戦争論」.
 内容が矛盾だらけで何が何だかわからない難解な内容なんです.
 なぜそんなことになってしまったのか?という問いに答えたのがこの本です.

 実は,時の経過とともにクラウゼヴィッツは考え方を変えているのです.
 その過程が「戦争論」という一冊のなかに収まっているので,ややこしいんです.
 その結果,古来から世界各地で誤読や誤解を通じて,様々な悲劇を招いたのでは?と著者は問題提起します.

 でも,
・どこがどのように変わったのか?
・どういうところが未完なのか?
を知る術はありませんでした.
 この本は,クラウゼヴィッツの「戦争論」のどこがどのように未完なのか?を詳細丁寧に解説した初めての書で,どういう誤読,誤解がこれまで行われてきたか?を歴史的に抽出,検討を加え,綿密に紹介しています.

 あとがきで訳者の奥山さんがおっしゃっていますが,西洋ではいまも「戦争論」は活きています.
 わが国における「過去の遺物」ではなく,「今も使われる,触れれば血の出る」古典なんですね.

 ですから,西洋型の作戦用兵を把握する時に,「戦略論」の把握は欠かすことはできないわけで,わが周辺で起きつつある軍事的危機を西洋諸国に理解させるには,「戦略論」というを辞書を欠かすことはできないのです.
 あえていえば,
「クラウゼヴィッツのキモを後世はいかに取り入れたか?  ─2人のクラウゼヴィッツを読み解く─」
というべき内容で,「戦争論」という古典を歴史の縦軸を通じて解明し,正鵠を射た本質を抉り出そう,とする試みであり,実にチャレンジングで面白い内容です.

 クレフェルトやコリン,モルトケ,ビスマルク,ドレイク卿,コーベット,トハチェフスキー・・・,マニアならよだれを垂らして喜ぶだろう人もたくさん登場します.
 はっきり申し上げて,「入門」という名前には相当しない深いレベルの内容で,読む人を選びます.
 戦略・戦史オタクの方や専門研究者,学生さん,専門家,国政にかかわる人ならば,非常に重要で,一歩飛び出た戦略思想レベルを得ることができる内容です.
 個人的には,著者が,クラウゼヴィッツを正確に読み解いた人物として,コ─ベットと毛沢東を挙げている点が非常に興味深かったです.

 興味ある方には超おススメです.

------------おきらく軍事研究会,2017.2.3

『図解雑学 クラウゼヴィッツの戦争論』(川村康之著)書評<「FSM」

『戦争論 レクラム版』(カール・フォン・クラウゼヴィッツ著,芙蓉書房出版,2001/07)

 恵比寿の友隣堂に平積みで入ってました.
 早速購入して,腕の筋肉の鍛錬も兼ねて,出勤電車の中で読んでますが,なかなかいいですね.

 海の人的には,現代仮名遣いでの訳出は徳間版で読んでいたので,新鮮ではなかったのですが,今ひとつループしていたところとかが,きれいに刈り込まれて良い感じです.

 内容的には,まだ1章をやっつけたところですので,全体としてはいえないのですが,今まで読んで理解していた(と思っている)篠田訳も,それほど大意として外しているようではないので,一安心(笑)しました.
 少なくとも全訳という意味では,インデックス的な価値のあるものですし,今後も使えるようであればなぁ,と腹黒い企みを抱いていたので,ありがたや.
 なにしろ,警句とか寸評とかに都合のよい語句がたくさんあるんですよね,篠田訳って.

 そういえば,抄訳ということでどう処理するかなと興味津々だった,序文の防災組合(消防組合だったかな?)の「言痛い」話が,ばっさり「(略)」になっててわらっちゃいました.

 それにしても,クラウゼウィッツの慨嘆のように,純粋な金属塊は,いつになったら人類に与えられることですやら.

-------------海の人:軍事板,2001/08/03(金)

 【質問】
 『戦』って何?

 【回答】
 プロイセンの将軍,カール・フォン・クラウゼヴィッツによって書かれた軍事書.

 ナポレオン戦争の経験から得られた教訓を元に,戦争という現象を体系化しようとした論述といわれる.
 内容については,毀誉褒貶が相半ばしている.
 しかし,プロの軍人に一番読まれている本だろう.
 よくも悪くも必読の本であり,軍人の常識の一部か.

軍事板,2001/02/16(金)
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 Clausewitzの戦争論読んでいこうと思ってるんだけど,どこの出版がおすすめ?
 できるだけ原著に忠実なのがいいんだけど.

 【回答】
 クラウゼヴィッツの戦争論は,邦訳されたものでは岩波文庫版が比較的無難に訳しているようです.
 原著初版本に近いのは扶桑書房のレクラム版ですが,抄訳です.

 クラウゼヴィッツの訳でどれがいいかという議論がよくあるけれど,断然,清水多吉訳(中公版)を推薦したいと思います.
 ドイツ語の原文で読んでも意味をとりにくいところも,きちんと文意を生かして訳しているし,訳文も流麗で読みやすい.
 何よりパレット版のように勝手に解釈をしていないのは大きいと思う.

 確かに最近議論されている論点については,訳文が対応していない点はあるけれど(「摩擦」→清水訳では「障害」),全体的に言って,岩波版や芙蓉版よりいいですよ.

 たとえばクラウゼヴィッツが,
「最高の将帥を内閣に入れて,内閣が軍事に関与出来る様にしなければならない」
と書いたのが初版(清水版)ですが,岩波が元にした後の版だと,
「軍事が内閣に関与出来る様にしなければならない」
と正反対.

 ちなみに中公の清水訳では,該当の部分は
「最高司令官を内閣の一員として,主要な評議や決議に参加させることである」
となっています.
 扶桑書房のレクラム版では,
「最高司令官を内閣の一員に加え・・・内閣は,彼の最も重要な決定に関与・・・」
です.
 Howard&Paretの"On War"では,注で初版と第2版の相違に触れつつ,
"... to make the commander-in-chief a member of the cabinet, so that the cabinet can share in the major aspect of his activities."
としています.

 ただしここの英訳は必ずしも正確とは言えない.
 ドイツ語(レクラム版,S.335)だと,以下の文章になる.
 括弧のところはパレットの英語版の注釈では省略されているところ.

so bleibt, (wo der Staatsmann und der Soldat nicht in einer Person vereinigt sind,)
nur ein gutes Mittel uebrig, naemlich den obersten Feldherrn zum Mitglied des Kabinetts zu machen, damit dasselbe Teil an den Hauptmomenten seines Handelns nehme.
 政治家と軍人とが同一人のうちに体現されていない限り,とるべき手段はただ一つしかない.
 すなわち,最高司令官を内閣の一員として,主要な評議や決議に参加させることである.(清水訳)

 英訳版は,so that the cabinet can share in the major aspect of his activitiesだが,副文の主語を勝手に the cabinetとしているので,日本語訳をするときに誤訳が生じている.
 清水訳は,ここの部分の主語をzum Mitglied des Kabinetts(内閣の一員→das Mitglied des Kabinetts=daselbe)でとっているので,原文を照らし合わせてみると清水訳の方が正しい.

 どうも芙蓉書房のレクラム版は,英訳の影響を受けすぎている気がする.

軍事板,2009/08/17(月)〜08/19(水)
青文字:加筆改修部分

 なお,戦略論大系シリーズには,けっこうな分量の解説論文がついてます.
 ちなみに,レクラム版自体もクラウゼヴィッツ「戦争論」の抄訳です.

軍事板,2002/02/25
青文字:加筆改修部分

▼96 :名無し三等兵:2012/02/08(水) 00:25:24.02 ID:???

 ドイツ語を学んで独語版を読むのが一番忠実だよ! だよ!

軍事板,2012/02/08(水)
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 「戦争論」って岩波と中公,どっちのほうがいいんでしょうか?

 【回答】
 岩波の,今いち分からん表現のところを,徳間と芙蓉ので確認しながら読み進むというのが,海の人的には分かり易かったれす.
 翻訳に難があったとしても,全訳という価値を考えると,やはり軸は岩波ですなぁ.
(別に谷沢さん罵倒するところの,明治の衒学者のごとく,全訳を礼賛するわけじゃないけれど)

海の人●海の砒素:軍事板,2002/07/16
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 戦争論の完全版って,どこの出版社から出ていますか?

 【回答】
 ドイツのレクラム社

 日本では,
・日本クラウゼヴィッツ学会訳,「戦争論 レクラム版」,芙蓉書房出版,省略あり
・篠田英雄訳,「戦争論」上中下,岩波書店
・完訳だったら,中公文庫版


 【質問】
 これから『戦争論』を読もうと思うのですが,留意しておくべきことはありますか?

 【回答】

 経験者からのおせっかいをひとつ.

 まず,がんばって全部読みましょう.
 一度で読めなくても,繰り返し,
 ちょっとずつでも消化して,全文読破をするべきだと思います.

 戦史や当時の人物など,「知らない」「興味が湧かない」記述にぶつかったら,読むのをやめ,戦史を勉強しましょう.

 ビジネスマン向けの解説書や,抄訳にうかつに手を出さない方が賢明と思います.

(その意味では,中公文庫版の解説もどうかと思います.
 そういえば,解説書いている是元信義って,「戦史の名言」(PHP文庫)も書いてましたね.
 世界の艦船の書評に載っていたんで買ってみたんですが,「広く浅く」って感じでした)

 また,本書は研究書であり,ハウツー本ではないので,文中の「すべきである」といった記述を,術としてではなく理論として読むと,全体の思想を理解し易いかもしれません.

 ともあれ,かつてのクラウゼヴィッツの後輩や,後世の批判者などのような誤解をしないよう,じっくり読むことが重要かと思います.

 えらそうなことを書きまして,申し訳ありませんが,なにかのお役に立てば.

軍事板,2002/01/13
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 『クラウゼヴィッツ「戦争論」入門』ってのが復刊するみたいだが,どういう内容?

 【回答】
 井門満明『クラウゼヴィッツ「戦争論」入門』(原書房,2010.7)は,クラウゼヴィッツ『戦争論』の内容を丹念に読み込み,要点を無駄なくまとめた名著.
 ナポレオン戦争中の戦史なんかは,巻末にまとめられているけど,ほとんど余計な言及なんかがないから,戦争論をきちんと読んでいこうとするにはいい本.
 ある種,戦争論を読まなくても,読み解かなくてはいけないポイントは,原文に沿って全部おさえている.
 正統派の入門だから,マンガ入りの入門と違って,いつまでも古びなくていい本だと思う.

軍事板,2010/07/06(火)
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 クラウゼヴィッツは主力決戦主義者なの?

 【回答】
 No.
 クラウゼヴィッツは「戦争に勝利するためには決戦をせねばならない」とは書いておりません.
 戦争の勝利=敵国の交戦能力の消滅=敵国の戦闘力の消滅=敵野戦軍の撃滅といっているだけです.
 そして,敵野戦軍を完全に撃滅できなくても戦争に勝利する場合もある,と書いております.
 この記述は,戦争の勝利が敵国の戦闘力を叩くことをまったく考慮せずとも達成できる,という当時の一部の兵法に対する批判を含めているので,それをふまえる必要があります.

 つまり,戦争の勝利は敵国が交戦意欲を失えば得られるわけですが,たとえ敵国の首都や欲しい領土を奪取したとしても,敵国が停戦に応じず,そのうえ敵の戦闘力が保持されたままであれば,戦争が終わらない可能性がある,ということを指摘しているわけです.

 さらに敵野戦軍の撃滅には,主力同士の決戦が必ずしも必要でない場合があります.
 要するに敵野戦軍が戦闘能力を喪失すればよいわけですから,敵の弱い部分を攻め,突破し,分断し,混乱させ,各個撃破する,という戦術が生まれることにもなります.
 つまり,敵野戦軍の撃滅を達成するために必要なのが敵戦闘力の無力化で,弱いところを攻める,というのはそのための手段,ということになります.

 ちなみに,クラウゼヴィッツは主力同士の決戦を主張した,と誤読したひとは多く,後のプロイセン参謀本部の一部にもそのような空気があったようです.


 【質問】
 ご多忙のところ恐縮ですが,質問させていただきます.
 杉之尾宜生『戦略論体系1 孫子』におきまして,クラウゼヴィッツは戦争の定義に関し,
「この定義はあくまでも観念上のもので,『現実の戦争』では,理論の上では取り除いた不純物がまといつき,すっかりその様相・形態を変貌させると述べてはいる.
 しかし,クラウゼヴィッツの後継者達は,彼の注意喚起を気づかずにか,あるいは無視してか,その後の軍事科学技術の驚異的な発展との相乗効果の上に,彼が述べた『概念の戦争』である『絶対的戦争』を,現実の世界に顕現させようと,ひたすらに努力したのであった」(p.194-195)
とありますが,そのような「努力」は本当にあったのでしょうか?

消印所沢 in twitter,2012.2.22

 【回答】
 「努力」かどうかはわかりませんが,勘違いしていた面はあるかと.

 クラウゼヴィッツは2人おりまして,1827年以前の人格である「観念主義者」と,それ以降の人格である「現実主義者」です.
 それで,後継者たちが必死に習おうとしたのが,前者の「観念主義者」のクラウゼヴィッツのほうということは言えます.

 つまり「努力」していたというよりは,「戦争論」の複雑性をわからずに,勝手に解釈したというほうが正確かと.

奥山真司 in twitter,2012.2.23
https://twitter.com/#!/masatheman/status/172408473525567488
https://twitter.com/#!/masatheman/status/172410758389444608

 横槍失礼.

 政治に対する軍事の優越の主張.
 攻勢主義.
 兵力の空間的・時間的集中.

 とくに1つ目.
 自分たちが好き勝手に行動するための「努力」はあったと思います.

山田洋行 in twitter, 2012.2.23


 【質問】
 『戦争論』は,
「クラウゼヴィッツによって全てがうまく行く!」
というような「ハウツー本」なのか?

 【回答】
 ブログ『地政学を英国で学ぶ』,2005-05-19-03:52付によれば,それは大きな間違いなのだという.
 なぜなら,クラウゼヴィッツ自身が『戦争論』をハウツー本として書いておらず,戦争を知らない人(?)に向けて,「戦争とはこういう性質のものだ」という説明を意図して書いたものなのだからだという.

 同ブログによれば,「こうすれば勝てる」というハウツー本の典型的なものは,むしろジョミニのほうだとしている.

 同ブログによれば,クラウゼヴィッツの主張は,3つに要約できるという.

1,戦争には政策的,機能的な目的(instrumental purpose)がある,ということ.
2,すべての戦争はエスカレートする傾向があること.
3,戦争には三つの要素(人民,軍隊,政府)がうまくかみ合わないと勝てない.

 また,この「戦争論」全体に貫かれているものには

1,歴史主義
2,ロマン主義
3,ドイツ観念論
4,戦争は科学で割り切れない.むしろアートである.
5,とにかく戦争には予測不可能な事態が起こる.
6,人間的な面を絶対に忘れてはならない.
7,絶対的な戦争(absolute war)というのはありえない=フィクション

などの特徴があると指摘されている.

 詳しくは同ブログを参照されたし.


 【質問】
 クラウゼヴィッツは,テロの起こる現代においてはすでに時代遅れになった考えなのでは?

 【回答】
 ブログ『地政学を英国で学』,2005-05-20-04:46付によれば,それはちょっと厄介な間違いなのだという.

 そのような主張をしている人に,マーティン・ヴァン・クレヴェルドというユダヤ系の戦略家や,ロンドン大学(LSE)の正教授,メアリー・カルドーがいるが,クラウゼヴィッツは戦争の性質というものを理論化していただけなのであって,結局どういう形であれ,「政治の継続としての暴力的な手段の行使」というのは変化しない,ということを説明しているのだという.

 また同ブログは,たしかに「戦争論」の第1章28節において,クラウゼヴィッツは三位一体を「国民」「軍隊」「政府」になぞらえるとは言っているのですが,実はこれは本来の三位一体の基本三要素ではなく,本当の基本三要素は「暴力行為」「偶然性」「知性」なのであると述べる.
 よって,「国民」「軍隊」「政府」というのは,実は「暴力行為」「偶然性」「知性」という基本三要素が発展した,いわゆる二次的なものであり,二次的な部分である「政府」という部分だけを取り上げて,
「ホラ見たことかいな,クラウゼヴィッツは国家間戦争だけを考えてる!間違っとるわいな!」
としているヴァン・クレヴェルドの指摘こそ,間違いなのだという.

[quote]

 ちなみに冷戦後の世界ではクラウゼヴィッツの理論が時代遅れになったという批判が欧米の学界ではかなり噴出したのですが,どっこいテロの時代でもクラウゼヴィッツの理論は生きている,というのがうちの先生らの意見です.

[/quote]
―――「地政学を英国で学ぶ」,2005-05-08-06:13

 【質問】
 現代において『戦争論』の持つ意味なんて,シビリアン・コントロールの権威付けぐらいでは?

 【回答】
 それは古い解釈だね.
 クレフェルトとか,マーレーとか,ホーニヒの論文を読むと考えが変わるよ.
 たとえば,クレフェルトはクラウゼヴィッツの視点が,国家間戦争,合理性の中の営みに限定されているという点に注目して,非対称戦争の問題点をえぐり出すための土台にしている.
 マーレーなんかは,現代アメリカのテクノロジー優先を批判するため,クラウゼヴィッツの「摩擦」なんかをよく使っている.
 ホーニヒなんかは,まさに『戦争論』が政治のみに限定して,議論されてきた問題点を批判してるね.
 ハワードとかパレットなんかは,まさに政治に関する議論を過度に強調しすぎた嫌いがあったから.

 出版から200年経っても,多角的な視野を提供してくれる文献として,今でも古典の位置を占めるのだから,表現についても議論されるのは別に不思議でもないんじゃない?
 現代に至るまでの変遷を正しく認知していないと,今の現状を正しく理解はできないし,未来のことを正しく予測なんてできないよ.
 クラウゼヴィッツの全てがそのまま現代で通用しないのは当たり前の前提なんだから.

 古いの一言で切り捨てられるなら,歴史なんて学ぶ必要はない.
 過去を遠くまで見渡すことができれば,未来もより遠く見通せるやら,って誰か言ってたね.
 若いならもっと視野を広く持たないと駄目だよ.

軍事板,2009/08/19(水)
青文字:加筆改修部分



 【質問】
 御三方とも,啓蒙の残滓でしかない『戦争論』についての議論なしに,無条件にありがたがってるっていうことには変わりないんじゃないの?

 【回答】
 本を読んでもらった方がいいと思う.
 清水・石津『クラウゼヴィッツと「戦争論」』に該当の論文があるから,既にそういう段階を遙かに越えて議論が進んでいることが分かるはず.
 現状進んでいるクラウゼヴィッツ・ルネサンスの方向性は,『戦争論』の卓越性は共通の前提としつつも,その成立過程,戦争の本質をめぐる議論,現状の戦争への適用の問題なんかが議論されているね.

 クレフェルトもまさにその立場,
 でもクレフェルトとのクラウゼヴィッツ批判は批判も多いし,そもそもナポレオン戦争以降の国民戦争を批判した文献に,21世紀の非対称戦争のことが書かれていないじゃないかと言ってもしょうがないんじゃないかと思うけどね.
 でも,『戦争論』は非対称戦争についても有意義な指摘を残しているし,クレフェルトの批判はその点を無視しているね.

軍事板,2009/08/20(木)
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 クラウゼヴィッツは政治以外の視点を主張してたっけ?

 【回答】
 戦争の「三位一体」とか,「摩擦」とか,「重心」とか.
 政治だけじゃないよ.

 多角的な視野という意味では,「重心」も重要な視野ではあるよ.
 軍事戦略の面においては今でもよく使われるね.
 ちなみにクラウゼヴィッツは,かなり広い社会的背景をも含めて議論しているから,文化や嫌悪(感情として認識)など,かなりいろいろな領域について触れている.
 もちろん時代的制約から,経済や兵站の分野に関する議論は少ないけど,ナポレオン戦争以降の国民戦争を分析する根本的な視点という意味では,いまでも一流の研究だよ.

軍事板,2009/08/20(木)
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 「戦争論」を買って今後読もうと思っています.
 絶対に読んでおくべき章(逆にあまり読む必要の無い章)があるなら,教えて頂きたいのですが・・・

 【回答】
 我々軍ヲタであれば,序文から第3編まで読めば,結構なボリュームになるのではないかと.
 その中でも,序文の覚え書きと,第1編第1章は,戦争論全てを規範する文章であって,何度でも繰り返し読んだ方がよいのではないかと思います.

 第4編以降に関しては,作戦・戦術に関する技術的な解説が多くなってきますので,本職でない限りは,そんなにリキ入れて読む必要は無いと思います.
 何かのおりにでも,ちょこちょこ読んで,また第1編を読み返す,というようなペースで十分ではないかと.

海の人:軍事板,2001/12/11
青文字:加筆改修部分

 海の人さんもおっしゃっていますが,第13編は必読.
 あとは第8編でしょうか.
 そこまでいったら,あとは第4編を.
 5〜7は後回しでもいいかと思います.

 ただし,クラウゼヴィッツは4〜7を前提として,1〜3編を理論づけていますので,最終的には目を通す必要はあるかもしれません.

軍事板,2001/12/11
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 クラウゼヴィッツの戦争論を分かり易く解説した本てないですかね?
 今まで岩波版レクラム版 徳間の淡版 大橋の解説 柘植の解説!を読んだけれど,あまり理解できないんです.
 こんな俺は文書読解能力がないんでしょうか?
 今,手元に中公文庫版があるけれど,これを読んで理解できなかったらと思うと,怖くて読めない.

 【回答】
 「戦争論」を分かりやすく,とのことですが,ハイデガー,カント,スピノザ,ドゥルーズなどを分かりやすく読むことが難しいのと同様,クラウゼヴィッツも,その重要な部分を落とさず解説すれば,分かり易くはならず,あまりにも簡単に説明すれば,重要な部分が削がれるというように思います.

 結局,ゆっくり時間をかけ,戦史に親しみ,何度も読んでは自分の中でかみ砕くという作業が必要だと思います.

 「戦争論」は,もともと一般の人向けに書かれたものではなく,ひらたく読んで,そく理解,というのは無理ではないかと思います.

 生意気なことをいわせていただければ,それこそ読書の楽しみなのだと感じるところです.
 私は岩波文庫版を20年前(中学時代)に購入し,それこそすり切れるまで読みましたが,最近中公文庫版を改めて読み直し,いまだ勉強中と感じています.

 ただ,わかりにくい部分は,掲示板などで質問すれば,詳しい方の,それぞれの解釈や解説を得ることはできるかもしれません.

軍事板,2002/02/05
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 知り合いからの質問で
「クラゼヴィッツの『戦争論』が読みたいんだけど,原著は難解過ぎるから何か読みやすいのはないか?」
というものがあったんです.
 軍事学への入門というより,とりあえず『戦争論』自体を読み解きたいということらしいです.
 良い本があればお教え願えませんでしょうか.

VF-22 in 「軍事板常見問題 mixi支隊」

 【回答】
 どうでしょうねえ.
 以下のようなものがあることはあるのですが,当方は未読ゆえ,評価は控えます.

『図解クラウゼヴィッツ「戦争論」入門』 (是本信義著,中経出版,2006.10)

『クラウゼヴィッツの戦争論のことがマンガで3時間でマスターできる本』(杉之尾宜生著,明日香出版社,2003.2)

 ただ一般的に申しまして,分かり易いとか,すぐ分かるといった本は,要するに「ごく大雑把にはしょって書いてある」ということとほぼ同義ですので.

 それに当時のナポレオン戦役の知識があったほうがいいと思いますので,いきなり戦争論に行かずに,ナポレオン戦役の娯楽的な読本を読むという,ワン・クッションを置いたほうがいいかもしれません.

 それこそ
『ナポレオン 獅子の時代』(長谷川哲也著,少年画報社)
でも,
『ナポレオンの生涯』(ロジェ・デュフレス著,白水社,2004.2)
でも,
『ナポレオン秘話』(ジョルジュ・ルノートル著,白水社,1991.8)
でも,
『勇将ジェラールの冒険』(コナン・ドイル著,創元推理文庫,1971)
でも.

消印所沢 in 「軍事板常見問題 mixi支隊」

 そう言えば,早川文庫に『ナポレオン戦争の勇者たち』シリーズ(海のホーンブロワーものみたいな感じの)がありましたけど,2冊で打ち止めなんですよねぇ.
 Italy戦役の後,Egyptに進出するところで終わりで,その後の美味しいとこは未だ出てないんですよねぇ.
再開してくれないかなぁ.

眠い人 ◆gQikaJHtf2 in 「軍事板常見問題 mixi支隊」

>・図解クラウゼヴィッツ「戦争論」入門 (是本 信義/ 出版:中経出版)

 コレ持ってた.「2時間でわかる図解」シリーズ.
 軍事学入門な内容で,クラウゼヴィッツや彼の生きた時代に関する記述は少なく,ワーテルロー会戦くらい.
 むしろ実例であげられたポエニ戦争・第二次世界大戦・日本の戦国時代の話がページも多く,面白かったです.

CRACKER(・x・) in 「軍事板常見問題 mixi支隊」

・クラウゼヴィッツの戦争論のことがマンガで3時間でマスターできる本

を自分で読んでみました.

 大雑把な「戦争論」解説が十数ページ(半分は漫画).
 クラウゼヴィッツの人となりが十数ページ(半分は漫画).

 残る半分以上のページが,ビジネスと軍事のかかわり,ビジネスにおける戦争論の応用……(半分は漫画).

 要するにビジネス書でした.
 「戦争論」の中身に関する突っ込んだ話は殆どありません.

 初心者でしたら本書は読む意味がありません.

▼ ……と思いましたが,考えてみれば軍事のみに関心がある層より,ビジネスに関心がある層のほうが厚そうなので,商業的には「あり」なんでしょう.▲

消印所沢 in 「軍事板常見問題 mixi支隊」

『クラウゼウィッツ兵法 ナポレオンに勝った名参謀の戦略』(大橋武夫著,マネジメント社,1980.4)
が割と使える.
 自分が使ってる本.

 内容は,文字ばかりで,ところどころに図がつく程度.
 文章は硬いし,高校以上の教科書に似てる感じ.読書慣れしていないと,読むのはきついかも.
 しかし,中古が安く手に入るのと,前半部の戦争論からの名言抜粋と,実際の戦場を例にした解説が,面白いと思う.
 値段のわりに使える.

極東の名無し三等兵 in 「軍事板常見問題 mixi支隊」

 【関連リンク】
「Flying Spaghetti Monster」:戦争論のススメ


 【質問】
 クラウゼヴィッツは,「ナポレオン戦争で幾多の経験を積んで昇進を重ね,陸軍士官学校の校長まで務めた(林信吾著『戦争に強くなる本』 p,22)
というのは本当ですか?

 【回答】
 ……それ,閑職なんですが.
 クラさんは,ナポレオンへの抵抗運動に参加するため,プロイセン軍を離脱してロシア軍に入ったんですが,プロイセンはロシアとも敵対していたため,帰国後に彼は非難され,プロイセン軍にはなかなか復帰できず,ロシア軍の連絡将校扱いされるわ,そういう閑職に回されるわという羽目に.

 ホホイの記述は,大きな誤解を招きかねません.

▼ クラウゼヴィッツについてですが,私は米国防省がやっている以下のサイトを参考にしております.
http://www.clausewitz.com/CWZHOME/CWZSUMM/CWORKHOL.htm#AShortBiography

 この中で以下の箇所があります.

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n the Russian service, Clausewitz was somewhat hobbled by his ignorance of the Russian language. He nonetheless participated in the drawn-out Russian retreat, fought in the slaughterhouse battle at Borodino, and witnessed the disastrous French retreat from Moscow, including the catastrophic crossing of the Beresina river. Slipping through the French lines, he played a key role in negotiating the "Convention of Tauroggen," which infuriated the King, brought about the defection of General H.D.L. Yorck von Wartenburg's Prussian corps from the French army, and eventually forced Prussia into the anti-French coalition.

None of this won him any affection at court in Berlin, where he was referred to on at least one occasion as "Louse-witz."*14 Still, Prussia's change of sides led, after some delay, to his reinstatement as a colonel in the Prussian army. Clausewitz participated in many key events of the War of Liberation (1813-1814), but bad luck and the lingering resentment of the King prevented him from obtaining any significant command. He served instead as an aide to General August von Gneisenau, Field Marshal G.L. von Blucher's chief of staff 1813-1815 and one of the principal leaders of Prussia's military rebirth. He sometimes found himself in the thick of combat, as at Lutzen (Grossgorschen) in 1813, where he led several cavalry charges and was wounded. (Scharnhorst died of wounds received in the same battle.)

During the campaign of 1815, Clausewitz served as chief of staff to Prussia's 3rd Corps commander, General J.A. von Thielmann. The corps fought at Ligny, successfully extricating itself from the Prussian defeat there. Then, outnumbered two to one, it played a crucial if often uncelebrated rear-guard action at Wavre. This action prevented Marshal Grouchy's detached forces from rejoining Napoleon at Waterloo.*15

In 1818, Clausewitz was promoted to general and became administrative head of the General War College in Berlin. Perhaps because of the conservative reaction in Prussia after 1819, during which many of the liberal reforms of the war years were weakened or rescinded, this position offered him little opportunity to try out his educational theories or to influence national policy. He had nothing to do with actual instruction at the school. Clausewitz therefore spent his abundant leisure time quietly, writing studies of various campaigns and preparing the theoretical work which eventually became On War.

Clausewitz returned to active duty with the army in 1830, when he was appointed commander of a group of artillery brigades stationed in eastern Prussia. When revolutions in Paris and Poland seemed to presage a new general European war, he was appointed chief of staff to Field Marshal Gneisenau and the Army of Observation sent to the Polish border.

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 これから見ると,回答の中にある「帰国後,非難され,プロイセン軍にはなかなか復帰できずにロシア軍の連絡将校扱いされるわ,そういう閑職に回されるわという羽目に」というのはちょっと微妙ですね.
 王様に嫌われていたことは確かですが.

 むしろここでハッキリしているのは,プロイセン軍の中の保守的な雰囲気があったために,改革派と見られていたクラウゼヴィッツは嫌われた,という国内的な事情ですよね.
 同じような記述はピーター・パレの「戦争論」の英訳版の解説(p.19)の中にもありました.

 ということで,私が確認できるのは,

1,閑職だったことはおそらく本当
2,ロシアの連絡将校と見られていたかどうかは微妙
3,改革派と見られていたために嫌われていたというのは本当.

コバケン by mail

▼ アレクサンドル1世は,見た目こそ玉葱頭の薄らハゲだが,人を見る目はあったかもしれんな.
 クトゥーゾフやバクラチオン,バルクライ・ドゥ・トーリーのみならず,一時はジョミニやクラウゼヴィッツも召し抱えてた.

 そこ行くとルイ14世って,人を見る目がなかったんだなあ.
 プリンツ・オイゲン(のちの神聖ローマ帝国随一の名将)を用いなかったんだから.
 プリンツ・オイゲンは見栄えが悪いうえに,同性愛疑惑もあるから,気持ちも分からないではないが.

395 名前: 名無し三等兵 [sage] 投稿日: 2009/04/21(火) 14:06:21 ID:???

 アレクサンドル1世というと,どうしても長谷川哲也のあれしか思い浮かばない…
 あの髪型が,そこそこ史実に忠実だと知って驚いたもんだ.


396 名前: 名無し三等兵 [sage] 投稿日: 2009/04/21(火) 18:14:34 ID:???

 なんの事だろうと思って,ググって見てびっくり.

軍事板,2009/04/21(火)
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 『戦争論』の出版は奥様の仕事だったってホント?

 【回答】
 そうだったよな.

 と思いつつ序文を読み返すと,

――――――
 われわれの幸福な結婚生活を知り,また,どんなに私たちが,喜びや悲しみばかりでなく,日常生活のいかなる仕事も関心事も”すべて”共に分かち合ってきたかを知っている人は,私の愛する夫が私に知らせずにこの仕事を行えないことを知っています.
 ですから私以外には誰も,夫が著作に捧げた情熱と愛情,この著作につないだ希望,さらにこの著書の成立の過程や時期について証言することはできません.
――――――

・・・やっぱり良い夫婦だったようだ.

 クラウゼヴィッツ家と奥さんの家系とは,結構差があったらしい(奥さんの方が上)
 奥さん(マリー本人)は気にしなかったようだが,そうはいかないのが当時の社会で・・・

 そうこうしている間に,クラウゼヴィッツはフランスの捕虜になるわ,帰国してからは「ジャコバン (プロイセン社会の改革派)」として国王から嫌われるわ・・・

 こういう難局を経て,ようやく結婚できた二人だ.
 男から見ると「良く出来た嫁」だが,クラウゼヴィッツ本人としては,奥さんには頭が上がらないところが多かったんじゃなかろうか. 

軍事板,2009/04/21(火)
青文字:加筆改修部分


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