c
「軍事板常見問題&良レス回収機構」准トップ・ページへ サイト・マップへ
◆◆◆核兵器拡散問題
<◆◆核兵器
<◆WMD(大量破壊兵器)FAQ
<兵器FAQ目次
「tnfuk」◆(2010/12/20)Wikileaks米外交文書大公開〜「核物質」 #WL_JP
「VOR」◆(2012/06/30)核保有5カ国 IAEA保障システムの合法的基盤の必要性を強要
「VOR」◆(2012/10/18)核物質の不法流通が深刻な脅威に
「VOR」◆(2013/03/27) 核の軍拡を急速化させる非核兵器
「VOR」◆(2013/04/28) ニュートリノが核兵器を発見する
核物質管理センター>刊行物>パンフレット>平和利用を支える保障措置と核物質防護[pdf]
「スパイ&テロ」◆(201012/03)ウィキリークスで暴露された天野IAEA事務局長のホンネ
●書籍
『IAEA査察と核拡散』(今井隆吉著,日刊工業新聞社,1994.12)
『「核」軍備管理・軍縮のゆくえ』(小川伸一著,芦書房,1996.11)
大戦終結後,新たに出現した核という極端に破壊的な兵器に米ソがどう対応したか,戦後間もなくの核廃絶の失敗から東西が,核制限・核軍縮を目指し,対立と歩み寄りを重ねた歴史を,各条約に至る経緯と結果を軸に論じている.
核兵器の出現が国際社会をどう動かしたのか,冷戦はどう展開されたのか,米ソ共に増強と削減の狭間で揺れ動きながら,どんな思惑で何を主張したのか.この世界秩序を破壊できる兵器に翻弄されつつも制御しようとした,人類社会の理性と生存の飽くなき渇望が克明に描かれている.
日本で核問題といえば大学教授レベルでも,非武装平和主義や国粋主義に捕われがちで,法学会でも国内でしか通じない机上の観念論に終わりがちなため,各国がこの数十年間核兵器とどうつきあってきたのか,冷静かつ偏向せず,正面から向き合っている本は(残念な事に)貴重.
――――――軍事板,2011/02/23(水)
『核のジハード カーン博士と核の国際闇市場』(ダグラス・フランツ&キャスリン・コリンズ著,作品社,2009.10)
『核を売り捌いた男 死のビジネス帝国を築いたドクター・カーンの真実』(ゴードン・コレーラ著,ビジネス社,2007.11)
「パキスタンの核の父」であり,「世界に核技術をばらまいた核拡散の張本人」とされ,現在イスラマバードで軟禁中のA・Q・カーン博士.
彼は一体何者だったのでしょうか?
彼が中核になっていた「カーン・ネットワーク」とは,一体どういうものだったのでしょうか?
イラン・北鮮・リビアへの核拡散は,どういう形で行なわれたのでしょうか?
本著はこれらの疑問に答えると同時に,八十年代から現在にいたる,「核拡散問題」の本質を追求したドキュメントです.
米とパキスタンの関係,中東の核拡散問題,そしてイラン・北鮮・リビア等への核拡散の経緯を,詳細に論じる中で,善悪二元論では絶対に把握できない,生々しい国際社会の現実を感じさせてくれます.
著者は英国BBCの軍事記者.SIS(MI6)など各種機関への深い取材を行い,カーン・ネットワークの全貌と,核技術拡散の過程を明らかにしました.
これを読むと,「ソ連のアフガン侵攻」と「9・11テロ」の背景が持つ,あまりの類似性に驚かされます.
また,ムシャラフ大統領の軍参謀長勇退は,果たしてよいことだったのだろうか?,と思ってしまいます.
アングロサクソンの強靭でしぶとい知性を,改めて感じさせられる超オススメ本です.
--------------おきらく軍事研究会,平成19年(2007年)12月7日
『プルトニウム 超ウラン元素の正体』(友清裕昭著,講談社ブルーバックス,1995.7.20)
都合の悪いことを堂々とスルーして恥じない奴の書評何ざ当てにしない方がいい.
指摘点も重箱の隅ばかり.
価値を感じる本を先に紹介されたのが,不愉快でならなかったんだろ.
そういや所沢は今井隆吉の絶版書を取り上げて,
http://www.bk1.jp/review/0000485766
>意外に詳細が知られていない核査察に関する,ほぼ唯一のまともな本
などといってるが,ブルーバックスの『プルトニウム』が,原発事故以来増刷中なんだが.
この本は元素をキーに構成されているので,査察の内容は簡潔ながら,具体的(どう取扱うかという観点を重視しており,机上の「組織論」より「作業」にウェイトが置かれている感じ)だし,NPT体制の成立過程についてもまぁ的確に要約されている.
------------岩見浩造 ◆Pazz3kzZyM :軍事板,2012/01/16(月)
当方の知らなかった本を,紹介していただくのはありがたいのですが,上記書評には事実無根,不正確,または不適切な部分が含まれていますので,該当部分を削除しました.
まず,『プルトニウム』においては,核査察部分は12ページ(p.153-164)に過ぎず,内容も岩見君自身が述べているように要約であり,「詳細」とは到底言えません.
内容的にも,例えば
・平和利用でないもの(軍事施設など)には,保障措置は適用されない旨が省略されている
・イラクの核兵器開発計画が発覚した後の本であるにも関わらず,核兵器開発周辺機器への規制の問題が記述されていない
・「違反がないように抑止することが目的だ」という言葉で,該当節を締めくくっているが,これでは,査察自体は単なる信頼醸成装置であるという理解につながらず,むしろ誤解を与える
という点で不十分です.
また,上記の書き方では今井隆吉『IAEA査察と核拡散』が,あたかも机上の組織論であるかのような誤解を与えかねません.
さらに,「核査察に関する〜」という記述に対する批判であるにもかかわらず,「NPT体制の成立過程」について取り上げているのは,不適切です.
当方の知らなかった本を紹介していただくのは,大変ありがたい――『プルトニウム』も,興味深く拝読させていただきました――のですが,正確に紹介していただきたいものです.
------------編者,2012.1.31
国吉浩(1999)「解説 原子力関連輸出規制と違反事例」 『日本原子力学会誌』第41巻第8号
国吉浩(2000)「安全保障輸出管理体制の発展と日本の対応」『日本貿易学会年報』第37号
国吉浩,神田啓治(1998)「核不拡散輸出管理体制の強化と将来の課題」 『日本原子力学会誌』第40巻第10号
国吉浩,神田啓治(1999)「国際安全保障輸出管理体制の役割とアジア地域の発展」 『開発技術』第5号
坪井裕(2003)「保障措置システムの進化と今後の展望」 『エネルギー政策研究』第1巻第2号
坪井裕・神田啓治(2001)「核兵器国における保障措置の現状を踏まえた保障措置の普遍化方策」 『日本原子力学会誌』第43巻第1号
坪井裕・神田啓治(2001)「二国間原子力協力協定及びそれに基づく国籍管理の現状と課題」 『日本原子力学会誌』第43巻第8号
坪井裕・神田啓治(2002)「原子力平和利用における保障措置の観点からみた核軍縮に関連する核物質の検証措置のあり方」 『日本原子力学会和文論文誌』第1巻第1号
【質問】
NPTとは?
【回答】
核兵器を保有できる核兵器国を米ソ英仏中の5カ国に限定し,それ以外の非核兵器国による核兵器受領・製造を禁止した条約.1968年署名.
非核兵器国には条約遵守を証明するため,IAEA(国際原子力機関)による検証を義務付けられる.
NPTには2000年現在で187カ国が加盟,最も普遍性に勝る条約と評価されている.
ちなみに,主な非加盟国はインド,パキスタン,イスラエル,キューバ.
(高井晋〔防衛庁防衛研究所第2研究室長〕 from
「疫病最終戦争」,
ビジネス社,2001/12/20,p.153, 抜粋要約)
【質問】
核軍縮,核不拡散,核の平和利用を規定したNPT体制の強化を訴える,オバマ大統領の2010.3.5の演説は,どう評価されるべきか?
【回答】
「それをどう担保・実効性を持たせるかが重要」
というのが,それに直接携わる私たちのような専門家・専門従事者の見方であり,自己に出来ることは何か,というのが私個人に対する宿題と考えます.
一応,実務において核不拡散・平和利用の一翼を担い,個人の資格でも学会等での活動や各種情報収集・発信など,核不拡散・平和利用を絶対原則とする私個人としてはいずれも必須事項であり,今後も続けていく覚悟.
一方,世界の方はと言えば核不拡散への脅威(北朝鮮やイランの動きなど)や,遅々として進まない核保有国の核兵器削減努力など課題は山積.
しかし,日本国内の所謂「反核・平和団体」は,主にアメリカ・ロシアに向けて抗議をしても,中国の核について厳しく批判を行ったことはほとんど報道されません
(その点,まだ共産党系団体は筋を通しています).
ましてや,北朝鮮やイランなどの核不拡散への脅威に対し,厳しく抗議する動きなど,ほとんど聞いたことがありません.
イランの動きなどは一歩間違えれば,石油危機(オイルショック)などにも直結しますが,対岸の火事だと考えているのでしょうか?
<対北朝鮮にはアリバイ工作程度のものはあるようですが,明らかに取り組みが薄い,と指摘せざるを得ない状況.>
私個人が指摘するまでもありませんが,NPTは核保有国の不断の核兵器削減努力と核不拡散・平和利用が両輪であり,どちらが欠けても成立しません.
そのことを40年の節目にあたりあらかじめ確認すると共に,私個人,微力ながら,専門家・専門従事者としての立場を最大限に活かし,努力していきたいと考えています.
今後ともご指導・ご鞭撻のほどよろしくお願いします.
皆さんは如何お考えでしょうか.
へぼ担当 in mixi,2010年03月06日12:30
【質問】
NPT会議:最終文書,体制強化策「骨抜き」
毎日 国際 05/29取得 元記事
骨抜きにされたそうですが……?
【回答】
正確には最終文書とその解釈を待たなければなりませんが,記事が事実とすれば「合意しないよりマシだが」というレベルに留まります.
イラン等への核疑惑に対する対抗策としては,締約国に抜き打ち査察受け入れを定めた「IAEA追加議定書」を標準と出来るか否か,が大きな判断のポイントでしたが,標準化は事実上骨抜き状態.
日本のように締結済みの国では標準であっても,肝心な核疑惑国で受け入れさせることが出来ないのであれば,その効力は大幅に減退することとなります.
それくらい「IAEA追加議定書」の効力は,極めて核不拡散に有効な物であり,厳しい物であったのですが,独自に原子力潜水艦等の開発を進めるブラジルなどの反対意見の前に,骨抜き状態になったようで.
実際に,核物質の平和利用においてはイランだけではなく,原子力潜水艦等の軍事用(施設)での利用(核保有国以外含む)も問題となるわけですが,その点が顕在化するのを嫌ったブラジル等の動きとも言え,各国に事情はあれど,その行動については厳しい検証と批判が必要と考えます.
今後,今回の合意についての検証がなされると考えますが,私個人も時間を掛けてゆっくりと考察していきたいと考えます.
取り急ぎ,第一報として.
へぼ担当 in mixi,2010年05月29日06:19
【質問】
核拡散はどこの国の技術が移転したからですか?
――――――
横への核拡散を可能にしてきたのは,アメリカをはじめとする核保有国による所要技術・設備の供与と,必要な人材の訓練への協力
――――――浅井基文 from 『自衛隊をどうするか』(岩波新書,1992/1/21),p.19
と書いてあるのは本当ですか?
【回答】
同書は「アメリカを『はじめとする』」と逃げ道を用意しているので,完全な珍説とは言えないのですが,では,核技術の「源流」はどこから来ているのか,簡単におさらいしてみましょう.
いわゆる「核クラブ」5カ国以外の核保有国,あるいは核兵器開発を試みた国はそれぞれ,どこから技術を得たかと言いますと,50音順に,
・イスラエル:アメリカから(核スパイによって)&フランスから
・イラク:フランスから
・インド:自主開発?
・北朝鮮:周辺国から(合法非合法,手段を問わず)
・パキスタン:中国から
・南アフリカ:イスラエルから
・リビア:パキスタンから?
・シリア:北朝鮮から?
思い出せる範囲では,ざっと上記のようになるかと.
……意外とフランス,曲者だな.
【質問】
2008年現在までの核兵器保有国は,どのようにしてその技術を手に入れたのか?
【回答】
まず英米がマンハッタン計画で開発.
「Gizmodo」,2008/12/17付が紹介する「NY Times」記事によれば,それをソ連がスパイして「長崎型原爆」をコピー.
その核スパイの一人,クラウス・フックスが釈放後の1959年に,中国でレクチャーし,1964年,中国は「長崎型原爆」をコピー.
その中国は1982年,途上国に原爆作りのノウハウを広める政策決定を行い,パキスタン,アルジェリア,リビア,イラン,そして北朝鮮にレクチャー.
イスラエルには『サムソン・オプション』によれば,フランスが原子炉建設を支援.
上述の「Gizmodo」,2008/12/17付には,核兵器技術の伝播状況を示すフローチャート図も掲載されている.
【質問】
核兵器の拡散には,どのような懸念があるのか?
【回答】
NPTに批准してない国や,批准しているにも関わらず核実験を行い,査察を受け入れていない国があること.
・NPTに批准していない国で,核実験を行っている国
インド・パキスタン
・批准したにもかかわらず,核実験を行った国
イラン・北朝鮮(イラクも核実験を行ったが,イスラエルの空爆により,施設は壊滅,その後フセイン政権も倒れたため,懸念はもはやないといっていいだろう)
もう一つの脅威として「貧者の核兵器」と呼ばれる生物・科学兵器がある.
リビアやイラクは,化学兵器施設を建設し,イラクは実際にイランとの戦争でこれを使用した.
1991年の湾岸戦争後,こうした計画を査察によって発見し,解体した.
で,こういった計画が再開されるのではないか?という懸念が(実際はともかく)2003年,イラク戦争の原因の一つとなった.
旧ソ連地域からの核物質の流出・国際闇市場への流入に関する新聞報道があるように,これらは依然として緊張を生み出す要因となっており,国家を戦争へと追い詰める能力を有している.
更に言うと,こういった兵器が非国家組織に渡り,それが脅威となる.
ナイ教授はこう警告する.
日本のカルト・オウム真理教やオサマ・ビンラディンのアル・カイーダのネットワークの様なテロリスト・グループが,核・生物兵器の生産を企てていたと言う報告は,非国家主体がいつの日かこうした兵器を入手可能なことを示している.
また,こうしたWMD(大量破壊兵器)の国際社会の懸念について,ナイ教授は以下のように指摘する.
大量破壊兵器への国際的で継続的な懸念には,道義的な面とリアリスト的な側面がある.
核兵器を道義的観点から批判するのは,保有する能力を持たない国や保有を目指している国ではなく,米・仏・露のようにそれらを製造し続けている国にも共通している.
マスタードガスの使用に対して同盟国,連合国双方に広範な批判が広がった第一次世界大戦以来,生物・化学兵器は非難されるべきものとなっている.
リアリスト的側面は単純である.
大量破壊兵器は,拡散を引き起こす深刻な危険と,破壊を生み出す大きな可能性を伴う,これらの兵器の存在は,紛争の力学を変化させる.
核または非通常兵器を保有する弱体な国家は,強国を威嚇することができるようになる.
もっとも,強国がこれらの兵器を保有していれば,更に効果的に敵国を威嚇することが可能でもある.
同時に,危機が制御不能にもなれば,アメリカと北朝鮮やインドとパキスタン間などで核兵器の使用という危険を高める.
そして,テロリストが核兵器を用いるかもしれないという恐れは,抑止が十分な対応にはならないと言う震撼すべき事態を生んでいる.
冷戦は終結したかもしれないが,核兵器や非通常兵器と共存する時代は,まだ終わっていないのである.
つまり,WMD兵器の拡散は,非国家・国家両方にいきわたる可能性があり,その両方ともに脅威であると言える.
詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授「国際紛争」(有斐閣,2005.4)第5章を参照されたし.
なお,上記の中の「テロリストが核兵器を用いるかもしれないという恐れは,抑止が十分な対応にはならないと言う震撼すべき事態を生んでいる」についてですが,江畑謙介氏の『米軍再編 新版』(ビジネス社,2006.11)に面白い記述がありましたので,補足の意味で引用してみます.
脅威の対象としては国家による在来型(伝統型)のものよりも,テロリズム,大量破壊兵器によるテロ,武装勢力によるゲリラ攻撃,あるいはサイバーテロやレーザー攻撃などの新しい技術分野による非対称型攻撃などが重視されている.
これらの脅威の多くは「抑止」の概念が機能しない.
――353ページ
【質問】
情報技術革命は,大量破壊兵器の拡散にどのような影響を与えたのか?
【回答】
・大量破壊兵器の拡散は冷戦期よりもはるかに深刻となっている.
・しかしながら,情報技術革命による核拡散は,意外に進んでいない.
***
技術の脱国家的拡散は,企業と技術の熟練を移転し,貿易,移民,教育,思想の流通などを通じて行われたため,NBC兵器の大量破壊兵器を製造可能な国家は40カ国に上る.
化学兵器技術の誕生は役100年前で核・弾道ミサイルは50年前だった.
冷戦中は,不拡散政策によって,核兵器の拡散はある程度拡散したが,ソ連の崩壊して,それらの後継諸国が技術の流出を抑えられなかったため,大量破壊兵器の拡散は深刻化している.
ソ連崩壊前の核保有国は8カ国であり,そのうちの5カ国(米ソ中英仏)は,1968年の核不拡散条約(NPT)の中で正式に核保有を宣言した.
後の三カ国(イスラエル・印・パキスタン)は条約に批准せず,極秘に核開発を行ったと考えられていた.
核拡散の状況について,ナイ教授は以下のように分析している.
-------------------------------------------------------------------------
1998年に,インドとパキスタンは公然と核実験を行った.イラン,イラク,北朝鮮の三国はNPTに調印したが,なんとか核兵器を開発しようとしていると,広くみなされていた.
南アフリカ,韓国,アルゼンチン,ブラジル,そしてリビアの5カ国は,同じ道を歩み始めたが途中で方針を変更した.
興味深いことに,30カ国以上が核開発の能力を持ちながらそうはしなかった.
つまり,実際に核保有国となった国々の3〜4倍の国々が核保保有能力を持っていたのである.
1963年に部分的核実験禁止条約に署名したケネディ大統領は,1970年代までに25カ国が核保有国になると考えられていたが,そうはならなかったのである.
-------------------------------------------------------------------------
詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第9章を参照されたし.
【質問】
無政府状態の国際社会では,核兵器は究極の自衛手段であるにもかかわらず,なぜ核拡散は限定的だったのか?
【回答】
1.米ソが同盟国に何らかの安全保障を提供したから.
2.米ソが核管理に関して協力したから.
3.条約制度が確立していったから
***
3つの要因が挙げられる.
1.冷戦中に米ソがお互いの同盟国に対して,なんらかの安全保障を提供したから.
以下,ナイ教授の見解.
-------------------------------------------------------------------------
ドイツと日本が核武装しなかったのは,アメリカによって安全が保障されていたからである.
アメリカが同盟国に対するいかなる国からの核の脅威も排除することを確約したことによって,日本もドイツも核兵器を保有する必要がなかったのである.
小国との同盟にも重要なものがあった.
たとえば韓国と台湾は,1970年代にアメリカがヴェトナム戦争以後アジアから撤退すると見て核開発に乗り出したが,アメリカが反対し保護の継続を約束すると,開発を中止した.
同様にソ連も,東欧の同盟諸国や第三世界でソ連の影響下にあった諸国が核開発を行うことを阻止した.
-------------------------------------------------------------------------
2.米ソが核管理に関して協力するようになったから.
核開発の初期段階では,両超大国は極めて競争的で,お互い有利な状況を作り出そうとして,核技術を利用しようとした.
しかし1968年には両国が協力するようになり,核不拡散条約を結ぶまでになった.
1977年には米ソを含む各技術供給国15カ国が,原子力供給国グループを設立し,核開発に関する輸出規制のガイドラインを定めた.
3.条約・制度などの成立
これまでに187カ国が核不拡散条約に批准し,非核保有国の核兵器開発と,核保有国による核兵器輸出などによる移転禁止が制度化している.
非核保有国は,ウィーンのIAEA[国際原子力機関]の査察を受け入れている.
インド,パキスタン,イスラエルなどのごくわずかな国は,この条約を受け入れておらず,イラクや北朝鮮は,この制度を反故にした.
イラクの場合,湾岸戦争後に核開発計画が解体された.
冷戦後の核拡散について,ナイ教授は以下のように述べている.
-------------------------------------------------------------------------
冷戦後の世界においては,同盟や制度や安全保障の今後と,旧ソ連圏からの各技術の拡散の行方が懸案である.
ケネス・ウォルツのようなネオ・リアリスト[新現実主義者]は,核兵器の拡散によって抑止が働き,安定をもたらすと主張する.
核兵器の存在によって冷戦が熱戦になることが妨げられてきたのなら,中東や南アジアなどの地域においても,同様の水晶玉効果が慎慮と秩序を生み出すに違いない,というのである.
この考え方の問題点は,統一的単一主体間の抑止という合理的モデルに依存しすぎていることである.
もし冷戦後の世界で核兵器が管理できなくなるときこそ,最大の危険だとすれば,合理的モデルに基づいた推察は不適切である.
今後核開発を行うであろう国々の多くは,クーデタや軍部の分裂によって不安定なのである.
-------------------------------------------------------------------------
詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第9章を参照されたし.
【質問】
「核兵器を保有したい!」と思っている国々や独裁者には,どうすれば彼らに「核兵器保有断念」をさせれるでしょうか?
いつもいつもアメリカ頼みというのもまずいと思った次第でして・・・・・.
【回答】
> 「核武装はメリットよりもデメリットが多い.故に核兵器開発を断念する.」
基本的には,米国他による軍事オプション
(ロシア・中国による軍事協力の中止等も含む)
による無言の圧力を掛けつつ,国際社会一致による経済制裁しか方法がないものと考えます.
これがインドのように国内で何とかなってしまう国でしたら,効果は薄いところですが,それにしても20年以上の停滞を強いることが出来ましたので,よほどの国ではない限り,それに勝るものはないかと考えます.
ただ,イランなど産油国であったり,地政学的に微妙な位置にある国はやっかいですね.
だからこそ,このイラン問題がこじれにこじれているわけですが,国際社会一致による行動こそが一見遠回りに見えても,ボディブローのようにじわじわ効いてくる方法と考えています.
そのため,このような考え方にロシアや中国を巻き込み,責任ある対応を厳しく求めることが何より重要でしょう.
この点,核不拡散については協力的なロシアはよいとして,自国の権益にとことんまで固執する傾向のある中国を如何にメンツを立てながら巻き込むか.
極めて難しいところではありますが,それなしには問題は解決できないところにありますので,粘り強い対応が必要と考えます.
へぼ担当 in mixi,2010年04月11日 16:54
【質問】
国際的な核軍縮の歴史を3行で教えてください.
【回答】
広島で第1回原水爆禁止世界大会が開催されたのは1955.8.6と比較的早いものの,その後は低調.
国連総会において核兵器使用禁止決議が出されたのは1961.11.24で,しかもこれに実効力はなく,ようやく核拡散防止条約(NPT)が調印されたのが1968.7.1.
国連総会特別本会議で包括的核実験禁止条約(CTBT)が採択 されたのは,1996.9.10とさらに遅く,しかもその後も,冷戦終結直後の一時期を除き,核兵器保有国は増加しつつある.
【参考ページ】
http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2010pdf/20100115163.pdf
http://www.pcf.city.hiroshima.jp/Peace/J/pNuclear6_2.html
http://www.ne.jp/asahi/nozaki/peace/data/bun3.html
【ぐんじさんぎょう】,2016/03/16 20:00
を加筆改修
【質問】
大量破壊兵器関連物資の輸出規制の強化が,必要ではないのか?
【回答】
もう既に実施済みです.
例えばクレーン車やタンクローリーなども対象になるのですが,詳細は「キャッチオール規制」で経済産業省の周知分などを検索していただければ幸いです.
最近では,北朝鮮へのタンクローリー輸出が摘発された事例があります.
へぼ担当 in mixi,2010年05月12日 18:13
【質問】
以下のメール・マガジンに関してですが,原子炉の「似ている/似ていない」は,どんな点から判定できるのですか?
――――――
AP通信は,ブッシュ政権がシリアの核施設と非常に類似している北朝鮮・寧辺の核施設の写真も議員らに公開したと報じ,ブッシュ政権は,シリアの核施設の外観や燃料棒注入口など寧辺の核施設と似ているとの判断を示したと伝えました.
〔略〕
寧辺の原子炉は,縦49.9メートル・横47.8メートルの四角形の建物で,シリアの核施設もまた,縦横がそれぞれ 46.9メートルで,寧辺の原子炉に類似しています.
――――――おきらく軍事研究会
【回答】
原子炉の設計が似ているかどうかは
「1.原子炉・核燃料の設計」
「2.全体寸法,原子炉廻りの他に原子炉を冷却する設備」
で判断でき,専門家から見れば,大体の情報でその技術的レベルまで簡単に推測できます.
この中で最も重要なものは「核燃料の設計」と「原子炉の設計」であり,核燃料や原子炉の寸法,核燃料の数も重要なのですが,その中でも
「核燃料(原子炉本体)の高さ」
「核燃料の数に対する原子炉の縦横の大きさ」
「核燃料あたりの原子炉冷却系統設備の規模(冷却能力=原子炉熱出力)」
が決定的な要素となります.
詳しく説明すればきりがないのですが,上記の項目はその原子炉の性質(用途),性能(熱出力→プルトニウム生産量)に直結しますので,核不拡散上,非常に重要なファクターであり,常識として,CIAとしても目を光らせているものと考えます.
〔略〕
> 寧辺の原子炉は,縦49.9メートル・横47.8メートルの四角形の建物で,
>シリアの核施設もまた,縦横がそれぞれ 46.9メートルで,寧辺の原子炉に類似しています.
まずは,原子炉とそれを格納する建物との違いを指摘すべきと考えます.
この表現では「原子炉の大きさ=建物の大きさ」となってしまい,簡単にするためとはいえ,専門家にとっては非常に奇異なものとなります.
<まあ,これはどうでも良いお話しですが.
ただ,建物の大きさの話は重要な要素となります.
上に指摘したとおり,「原子炉の大きさ≠建物の大きさ」ではありますが,当然の事ながら両者にはある程度の相関関係があります.
ここで重要となるのは,その原子炉の大きさと出力(熱出力)の関係です.
プルトニウム生産用の原子炉の場合,熱出力にして数MW〜数十MWのものが多数なのですが,日本国内で一方の主流となっているBWR(沸騰水型軽水炉)の電気出力1100MWeクラス(熱出力3293MWt)の原子炉建屋もほぼ同じ50m四方です.
すなわち熱出力にして数百〜数千倍の違いがあっても,原子炉建屋の大きさはほぼ同等.言葉は悪いのですが「天と地ほどの差違」です.
これはコンクリート構築物としての限界と言うより,原子炉の設計の違いに伴う特性
(プルトニウム生産用に設計されるような,ごく初歩的な原子炉では,原子炉出力に対して,原子炉物理学上の制約から,原子炉本体の大きさが非常に大きくなってしまう)
を如実に示しているものです.
そのため,その点に対する分析がなければ,ごく表面的な理解にとどまってします.
<報道としてはそれでもかまわないのでしょうが,軍事的な分析を加えるには,相手方の能力の分析に直結するため,絶対に無視できないところです.
そのため,数値だけで分かったようなふりをしていれば,設置されようとしている原子炉がどのようなものか.原子炉を冷却する設備等の規模とも比べて,その目的含め,技術レベルを子細に検討・推測できる専門家と,それができない非専門家の違いがどこにあるのか理解できないことになります.
へぼ担当 by mail
【質問】
召還魔ほ……もとい,質問です.
1977年以降の,米国の燃料濃縮度低減化推進政策に関して疑問がありまして.
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=03-04-01-04
これは要するに,燃料要素全体としては低濃縮度だが,燃料芯材のみ従来通りの濃縮度にしてあって,単に平均するとこれまでより低くなる,という理解で間違いないのでしょうか?
だとしますと,それに政治的ポーズ以外の何の意味があるのやら……
あのピーナッツ頭のカーターなら,意味のない政治的ポーズでも,平気でやりかねませんが.
消印所沢 in 「軍事板常見問題 mixi別館」
2010年07月18日 08:35
【回答】
はい,召還魔法で招集されましたです(笑).
> 1977年以降の,米国の燃料濃縮度低減化推進政策
ですが,専門従事者の中であっても,私個人のような「原子炉物理屋・燃料屋」と呼ばれる,一握りの専門集団には自明でも,他の方には極めて難解・かつ敷居の高い部分となっています.
まあ,この点を完全に理解できれば,原子炉の根本たる炉心設計ができますし,核不拡散上でもある一線を越えた存在
(昨今お騒がせのイラン人核科学者など雑魚.この点の実務経験があると例えは悪いが,核不拡散上ではカーン博士クラスになってしまう.)
となってしまうのですが.
(要求レベル;原子力系大学院博士号取得・もしくはそれ同等の学識実務経験クラス)
そのため,
> 燃料要素全体としては低濃縮度だが,燃料芯材のみ従来通りの濃縮度にしてあって,
>単に平均するとこれまでより低くなる,
という「誤解」に至っても,やむなきところです.
<普通の人なら,この段階で何を問題視しているのか分からないレベルに突入しているのですが.
ポイントはご紹介の
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=03-04-01-04
にある
> 高濃縮ウランを使用している研究炉・試験炉の燃料要素の設計を大幅に変更せず,
>すなわち研究炉の性能を変えず,低濃縮ウラン(ウラン235の濃縮度20%未満)に
>切り換えるには,燃料芯材中のウラン含有量の高密度化に懸っている.
の部分です.
いくら「ピーナッツ頭のカーター」とは言えども,それを取り巻くブレーンは極めて優秀で,問題意識には全くブレがありません.
要は既存の研究炉に使われていた,「ウラン濃縮度90%程度の高濃縮ウラン」は,核兵器への転用が容易なことから,全世界中の高濃縮ウランを使用している研究・試験炉燃料の濃縮度を低減化する計画RERTR(Reduced
Enrichment for Research and Test Reactors)を推進し,「ウラン濃縮度90%程度の高濃縮ウラン」全量回収を目指して,形を変えながらも現在も進行させているわけです.
そのため,一部でも「高濃縮ウラン」が残れば,その意味は大きく薄れることになります.
よって,(商業)再処理禁止政策と共に,これら政策並びに計画が強力に推進されてきたのですが,ポイントは以下の通りです.
1.何としてでも「高濃縮ウラン」を全量回収したい.
2.でも既存の研究炉は止められないから,「転用し難い20%未満の低濃縮ウラン」で何とか動かす様にしたい.
3.技術的観点からすると,核燃料に使われる高濃縮ウランをそのまま低濃縮化すると,原子炉の炉心にある核分裂するウラン235の「数(正確には個数密度)」が少なくなるから,そのままではだめ.
4.だったら,ウラン235の比率であるウラン濃縮度を落としても,原子炉の炉心にあるウラン235の「個数密度」を下げなければいい
(実際は,ウラン238の吸収効果を考えなければならないため,若干増加させる方向にしなければならないが,これは炉心設計による)
5.それじゃあ「燃料芯材中のウラン含有量の高密度化」.つまり「核燃料部分のウラン密度」を高めれば,もちろんウラン238の個数密度は増えるけど,ウラン235の個数密度減少を従来に比べ,遜色ないレベルに抑えることが出来るから良い.
6.でも,そんなに簡単に言われても...
「従来のU−Al合金燃料(最高ウラン密度0.75g/cm3)」から見直して,材料研究開発から始める必要があるね.
↓
(研究進行)
↓
アルミナイド(UAlx,最高ウラン密度2.3g/cm3)およびシリサイド(U3Si2,最高ウラン密度4.8g/cm3)燃料出来たよ!使ってみて.
7.いろいろやってみたけど,とりあえず難しいのはシリサイド(U3Si2,最高ウラン密度4.8g/cm3)燃料で行こうか(もっとハードルの低いアルミナイド燃料で済むものは,アルミナイド燃料で済ましています).
昔の高濃縮ウラン返還よろしく!
↓
(燃料低濃縮化転換作業進行)
↓
アメリカ行きの船が来たよ.
今まで使っていた高濃縮ウランは,特別の事情が無き限り,全部契約通り返還してね.
(と言うわけで,日本国内でも返還輸送が行われました)
8.【今ここ】
シリサイド燃料自体に今特別の問題があるわけではないけど,シリサイド燃料の場合,使用済研究炉燃料処理のための再処理は難しい.
じゃあ,ウラン密度を6〜7g/cm3以上に高めたUMo合金(Mo:5−10%)−Al分散型燃料の技術開発行ってみようか!
以降は機微情報のため伏せます.
要は
「核燃料に使われるウラン濃縮度そのものを,低減させなければ意味がない」
「でも,単純にそれを行えば原子炉が動かなくなるため,"ウラン濃縮度"を落として,その分"個数密度"でウラン235を詰め込めばいい」
「現在はそれに掛かる作業が一段落.次を視野に入れているところ」
というわけであって,
「燃料要素全体としては低濃縮度を実現すべく,燃料芯材を材料そのものから抜本的に改良し,ウラン個数密度を増加.それによって原子炉の大幅な変更無くして,ウラン濃縮度低下と研究炉としての機能維持の両立を実現させている.
すなわち,原子炉炉心にあるウラン235の数は全体として変わらないか,微増程度で留まるのに対し,ウラン238の数は増加することとなる.すなわち,低濃縮化とウラン装荷量(重量・個数)の増加はセット物であり,原子炉の性能を落とさず,かつ大幅な変更なしに済むように,それを実現できる材料・技術開発が成された.」
と言えます.
以上,長くなりましたがご参考まで.
追伸.
この点の詳細が,実際に研究炉等に適用された技術を除いて,「機微情報の扱い」になっているのは,実はこの考え方.
米軍の原子力空母や原子力潜水艦などに用いられる,軍用舶用炉のRCOH間隔延長に,直接・間接に結びついているから,とも言われています.
実際の所は軍事機密の壁の向こうですが,空母エンタープライズ等のRCOH間隔延長ぶりが,その威力を存分に物語っています.
また,日本国内では軍事研究誌などであっても,良く世間一般に
「RCOH間隔延長」は単純な「ウラン濃縮度向上による」
という偽情報(状況証拠から「偽情報」と断定して良い)が出回りますが,これは軍用舶用炉と商業発電用原子炉との違い,並びに上記の考え方・技術方策が実現していることを全く知らない,またその意義を理解できないためとも言えます.
(もっとも原子力専攻の学生であっても,何故それが成立するのか,学士卒の段階で完全に理解するのは,かなり難しいことなのですが.)
さらに米国民主党・共和党両党の政権交代により,民生用原子力政策が二転三転するながらも,これら政策だけは強弱は有れども,常に一貫して堅持されたこと.及び米国エネルギー省(DOE)の姿勢が非常に強固に関与し続け,代替技術の開発に極めて熱心だったことも指摘できます.
以上,追伸部分でした.
へぼ担当 in 「軍事板常見問題 mixi別館」
2010年07月18日
【質問】
2010.4.12に鳩山首相(当時)が核保安サミット(ワシントンDC)の全体会合で表明する,「鑑識システム」とはどのようなものか?
【回答】
報道によれば,
(1) 核物質の製造元を追跡,確認できる「核鑑識システム」を,日本を中心につくる
(2) 日本の原子力の発祥の地である茨城県東海村に,外国人の核管理の技術者を受け入れて養成する
――ことなどが柱であるという.
政府関係者によると,核保有国から国際的なテロ組織などに核物質が流出することを防ぐため,日本が持つ物質分析や情報通信技術を生かし,核物質の製造元を追跡,確認できる核鑑識のシステムを構築することを提案するという.
【参考ページ】
2010年4月10日3時1分,朝日新聞社
「如何に運用するかが死活的に重要」というのが,まとめ.
当該,「核鑑識システム」や技術者養成などの構想は,従前から専門従事者(関係者)の中で検討が進められてきたものであり,核不拡散・原子力安全の世界の中では目新しいお話しではありません.
それが首相提案という形で,ある程度の形が出来上がったところがこのニュースのミソであり,ここ数ヶ月で急速に具体化してきた,というのが正直な印象です.
ただ,この手の提案の常として
「如何に中立的に,実効的に,国際的な信用を得る形で運用するかが重要」
と言うことで.
基本原則として,これら提案や活動は主に日本国政府の出資による物と考えられていますが,それを組織として動かしたりするためには,国際的な取り組みが不可欠です.
ちょうど,そのためにNPT体制とIAEAが存在するのであって,恐らく大部分はIAEAの査察官他の手によって採取された試料を分析していくことになるでしょうし,人材育成の点においてもIAEAの関与が不可欠である,と個人的には考えています.
まあ,IAEA以外で独自に,と言うことも不可能ではありませんが,重複する部分が多く,全く持って非効率,無駄以外の何物でもないでしょうし,国際的な信頼等を担保する意味ではIAEAの関与は不可欠でしょう.
その点,現在IAEAのトップに日本人初となる天野之弥事務局長が就任していることは,力強い材料であり,だからこそ日本の役割拡大が求められているところとも言えます.
一方,日本はIAEAに多大な支出とともに,従前,非常に多くの査察マンパワーを必要としていたことは比較的よく知られています.
しかし,肝心要の日本のIAEAに対する人的貢献.つまり,IAEA職員に占める日本人の割合は,極めて小さいことが指摘されており,以前から改善すべきとされてきました.
残念ながら,私個人も含めて語学力(基本的には英語ですが)の問題から,他の国連組織と同様,日本人の応募者自体が少ないことも同じく指摘されるところですが,今回の
「お金を出すだけではなく,知恵も,人も出す.」
という姿勢は極めて重要かつ貴重.
これで国際的な合意が得られれば,マンパワー他の慢性的なリソース不足に悩むIAEAにとっても,願ってもない提案となることだけは間違いないでしょう.
そのため,形はともあれ如何に運用し,実効性を図っていくかが,今後の重要な課題と考えます.
この手の活動は,一時的な政治的パフォーマンスではなく,永続的に腰を据えて行うべき物であり,国際機関であるIAEAに対する,日本の極めて重要な貢献となりうることから,如何に的確に運用していくか.
我々専門従事者(核不拡散・核物質防護関係者)にとって,正念場であると考えます.
技術的な評価としては,従前からおおよその基礎技術はありますが,それを実効性のある物として機能させていくには,悪用防止のため,ある程度の機密を保った上で,地道な研究と試料採取活動等の実行動を的確に進めていくべき所.
そのため,日本だけが努力をしてもどうしようもないが,IAEA他の国際機関や,場合によっては大気圏中の試料サンプリングなど自衛隊・他国軍などの協力を仰ぐ必要もあります.
よって,当該組織がどのように運用され,どのような活動方針をとるかによって,軍事的技術評価も変わってきますが,軍事的側面をそぎ落とした形ではとても完結しないことだけは確か.
日本国内でそれを言うと,「自衛隊等による原子力の軍事目的使用」云々を喧伝する向きも出るでしょう.
しかし,これらの活動には軍事的側面が必要不可欠であり,それらからの考察も含めた多角的,かつ柔軟な分析,運用が必要なのは明らか.
そのため,無益なイデオロギー的平和・反核運動とは距離を置き,地道ではあるものの,着実に科学的な取り組みを永続的に続けていくことが必須と考えます.
なお,個人的な感想・印象としては,所謂,原子力ルネサンスとも呼ばれる,国際的な原子力の見直し機運の中,産業としての貢献だけではなく,平和目的の原子力には欠かせない核不拡散・核物質防護においても,貢献が求められていたところ.
これを露骨に自国の実産業の受注に絡めるのは,あまり適切ではないと考えます.
しかし,原子力の平和利用の表裏一体として,その先導に立つ日本の立場は極めて重要になってくることだけは変わりありません.
そのため,原子力の安全確保も含め,日本国政府としての役割,そして我々専門従事者の役割・期待事項が近年,格段にそして急速に重くなったことを実感すると共に,気が引き締まる想いでいます.
皆さんは如何お考えでしょうか.
へぼ担当 in mixi, 2010年04月10日17:00
【質問】
日本の人的貢献は「ヒト・カネ・モノ」だけではなく,万が一,核テロやダーティーボムの物質がテロリストに強奪された時に備えて,「追跡可能な諜報機関」と「核関連物資の武力による奪還可能な特殊部隊の創設」も是非やっておくべきではないでしょうか?
【回答】
> 核テロやダーティーボムの物質がテロリストに強奪された時
基本的に
「これらの対応は事前に,確実に阻止すること」
が絶対条件であり,その点だけは間違えてはならないと考えています.
もちろん,万が一の事後対応では,軍事力の緊急投入も躊躇すべきではありませんが,これは世界最強クラスの特殊部隊の出番であり,その実態を明らかにすべきではないでしょう.
その意味においては,日本国内での対応が気になります.
一応,陸上自衛隊化学科の出番ではあるのですが,古くはオウム真理教(現アーレフ)によるサリン事件などを経験しておきながら,それに対する備えは消防含め万全とは言えません.
消防は災害対応のため,この点では一旦除外しますが,いかんせん化学科はそれまで光が当たることが少なかったことも手伝い,各師団,旅団単位での対応では手薄なことは隠せない事実.
一応,中央即応集団による対応が考えられているようです.
しかし,万が一の際のことの重大さを考えると,現在開発中の新型NBC対応車以外にも,装備及び人材の抜本的強化.並びにヘリやXC-2輸送機等による緊急対応能力の向上などの対策が必要不可欠と考えます.
へぼ担当 2010年04月11日 01:56
【質問】
>核鑑識システム
先の,「ウランにも国籍がある」というお話から考えますに,すでにそのような鑑識は,ある程度確立されているように考えておりましたが……?
消印所沢 in mixi,2010年04月11日 03:42
【回答】
基本的にはこの「国籍」は帳簿上の概念であり,それを担保するための同位体組成(基本的にはU-235,238,Pu-239他)の内訳を明記する物となっています.
そのため,上記の枢要な物質についてはg以下の単位(詳細は伏せます)までしっかりと管理されているのですが,今回提唱されたものはそれ以外の指標となる核物質・放射性物質(例:上記以外のU同位体元素,U-236,237その他)に掛かる管理によって,さらに識別管理・追跡調査を可能としようとするものです.
これら指標となる核物質・放射性物質は,一般的な「U-235,238,Pu-239他」に比べ,ごく微量ではありますが,例えばウランの濃縮工程や,原子炉内での中性子照射履歴(時間,中性子エネルギー分布他)等に依存するもののため,その精度は今後の課題としても,その核物質が巡った履歴を追跡,推測することが可能となることが,基本的な技術的原理となります.
本来は,もう少し詳しい説明が必要なのですが,あまり詳細な説明をしてしまうと,現在のIAEA査察における秘密事項を暴露してしまう恐れがありますので,この程度のご紹介として,詳細は伏せさせていただきたいと考えます.
以上,ご参考まで.
へぼ担当 in mixi,2010年04月11日 05:07
【質問】
自衛隊の対NBCの兵器の充実も,必要なのでは?
【回答】
あまり詳しいことは書けませんが,以下,典型的な問題として.
自衛隊他の隊員各位の対NBC装備について,私個人はコメントする立場にありませんが,対一般人への対応として汚染物質の除去(除染)が有ります.
一応,自衛隊も消防も温水シャワー設備等を装備しているのですが,極めて当たり前のお話しとして,汚染物質が付着した衣服は,脱ぎ捨てて処分する必要があります.
そこまでは誰しもが発想するところなのですが,問題は
「その後の着替えをどうするのか?」
と言うこと.
自衛隊の訓練では,隊員各位の被服を用いていましたし,消防等もほぼ同じなのですが,自衛隊にしても消防にしても,一般の方の着替えをどこかに備蓄していたりする,というお話は,未だかつて聞いたことがありません.
当然ながらある一定程度以上の用意が必要でしょうし,いくら温水シャワーで除染したとしても,その後の着替えがなければ,寒空に裸で放置するわけにもいきません.
そのため,備えは確実に必要なのですが,その対応が出来ているか,大きな問題となりかねません.
まあ,最悪の場合は汚染除去最優先で,その後は毛布等にくるまって何らかの形で保護するしかないのでしょう.
このように技術的な問題ではなく,決めてしまえば実に簡単に用意できることでも,その実施主体がはっきりしていなければどうしようもない,という典型例のご紹介まで.
へぼ担当 in mixi,2010年04月11日 05:07
――――――
兵器転用困難な核燃料を開発
2008年9月16日 4時26分,NHK
〔略〕
東京工業大学の齋藤正樹教授と日本原子力研究開発機構のグループは,プルトニウムの中で核兵器の原料になりにくいタイプがあることに着目し,この割合を増やすことで核兵器に転用しにくくする技術の開発を進めていました.
その結果,核燃料に特殊な放射性物質を加えて燃焼すると,核兵器の原料になりにくいタイプのプルトニウムが大幅に増えることを,日本とアメリカの原子炉で行った実験で初めて確かめました.
この技術が実用化できれば,使用済み核燃料から取り出したプルトニウムで核兵器を作ることが難しくなります.
温暖化やエネルギー不足を背景に世界的に原発の利用が広がる中,核の拡散が懸念されており,IAEAは「プルトニウムの軍事転用を技術的に防げるという点で大きな意味があり,強い関心をもっている」
と話しています.
――――――
マジでか!?
【回答】
何か魔法を掛けたように思われるかも知れませんが,原子炉物理学を専攻し,実際に研究に従事・発表を継続して見てきた者にとっては,有る意味,当たり前すぎるお話しです.そこで以下に,その原理と狙い,意義等を簡単に紹介します.
NHKによるこの報道に,事実関係には間違いは一つもありません.
ただ,伝えていなかった点があるとすれば,これら核不拡散のためにプルトニウムに特殊な核種(Pu239,241以外のPuやそれ以外の核種)を添加する(もしくは元々ある物を取り除かない:専門用語では「低除染」といいます)構想は,私個人が学生であった15年以上前から存在し,長年研究が為されていたことです.
核不拡散のために混ぜる核種の選定(まず最初は核分裂連鎖反応を取り扱う原子炉物理学の範疇)は比較的簡単で,早期から研究が進んでいました.
ポイントは以下の通りです.
1.核分裂連鎖反応を妨害するため,核分裂を起こさずに中性子の無駄食いする割合を多くする.
2.核兵器としては,急激に中性子の数が増加させて,一気に爆発に至ることが必須です.
そのため,途中,生半可に中性子が出てしまうと,十分な核分裂の数となる前に「ボヤ」(未熟爆発)で核兵器としては不発弾と同じになってしまうため,わざと中性子を放出する物質(自発核分裂(SF)核種)を混ぜる.
NHKによる報道ではそこまで触れられていませんが,今回の研究では上記1と2の両方が用いられていることが容易に推測できます.
一方,難しい課題であったのは,せっかく核不拡散用にブレンドした物であっても,実際にそれを「実際に原子炉の燃料として使いこなすための技術(材料的なもの・加工/製作/取り扱いに関するもの)」点にありました.
ぶっちゃけ,PCが有れば学生でも概念設計が出来る前者に比べ,後者の方は日本国内では実際にプルトニウム他原材料を保有,取り扱い技術他を持つ日本原子力研究開発機構(JAEA)が関わらなければ事実上不可能であり,各研究とJAEAが連携して技術開発を進めてきた経緯があります.
<ちなみにニュース映像には,当該研究にかかる私個人の大学時代の後輩らしき人物が写っており,非常に感慨深いものがありました.
今回大きな進歩であり意味があるのは,発想の転換を図って下流側で苦労するのではなく,上流側で工夫することにより,物性としてよく調べ尽くされ,研究データも豊富なウランとプルトニウムを用いるだけで上記1と2の両方をクリアしたことです.
<旧来は下流側で苦労して余計な核種を混ぜたり,残したりしようとするのが中心でした.
それにより余計な核種を混ぜた場合に,「実際に原子炉の燃料として使いこなすための材料的な課題」がネックになるところを,比較的対処の容易な上流側で「特殊な放射性物質を加えて燃焼させる」ことで,「プルトニウムの中で核兵器の原料になりにくいタイプ」を増やし,下流側では使い慣れたウランとプルトニウムのみで目的が達成できるように解決したことにあります.
もっとも,この技術も残念ながら万能ではなく,従事者であるならニュース映像から容易に指摘できる課題が残るのですが,これ以上は核不拡散の観点から言及を控えさせていただきます.
以上,ご参考まで.
【質問】
『プルトニウムの中で核兵器の原料になりにくいタイプ』というのは同位体のことでしょうか?
【回答】
本技術の詳細な発表は,いずれ学会もしくは学術論文(日本原子力学会・米国原子力学会他)で明らかにされるものと考えますが,ごく常識的に考えれば
「プルトニウムの同位体.それも先述の1と2の要素から質量数が偶数のものが主(原子核物理学のうちパリティの考え方に由来)であり,質量数が奇数の方は自発核分裂を期待するなど,この技術では従の存在.」
と言えます.
質量数が異なれば原子核の挙動(核分裂・中性子の吸収他)は大きく異なりますが,化学的な挙動はほぼ同じ(異なるのは質量の違いに伴う化学反応速度の違い等の特殊例のみ)こと.
つまり,質量数が異なってもプルトニウムはプルトニウムですので,核不拡散と従来のウラン・プルトニウム利用技術の両立が容易となるポテンシャルを持つことが,当該技術の最大のキモと愚考します.
【質問】
.『核燃料に特殊な放射性物質を加えて燃焼する』というのは,化学的な燃焼でしょうか,核反応のことでしょうか?
(多分後者だとは思うのですが)
【回答】
ここでの言及部分は後者(核分裂反応・核変換反応)以外の何物でもありません.
ただし,核燃料の成形加工プロセスにおいて「焼成(焼結)」として酸化物のセラミックスが得られるよう,高温で焼き固めることが数多くあります.
現在用いられている原子力発電所の大多数(例外はガス炉など僅か)では,このような酸化物燃料を使いますが,その際の「焼成(焼結)」と核的な燃焼(核分裂反応・核変換反応)を厳密に区別して考える必要があります.
<もっとも,私個人含め原子力従事者はそれらのことを自明として省略する傾向があるため,このような核燃料の生成プロセス等では,成形加工プロセスの高温加工と間違われないよう,細心の注意が必要なのですが.
以上,返答が遅れましたがご参考まで.
【質問】
メガポート構想とは?
【回答】
核兵器や放射能を撒き散らす「汚い爆弾」の原料となる,放射性核物質の米国内持込を防ぐため,米国向けのコンテナ等を積み出す世界各地の主要港に「放射性物質の探知機」を配備する構想のこと.
03年にはじまった.オランダ,スリランカなど4カ国で開始,中共など約10ヶ国とは基本合意.
わが国など約20カ国とは実施に向けた協議中.
米は探知機供与のほか,検査官の訓練を実施.その見返りとしてスクリーニング結果のデータ提供を義務付けている.
日米間では,名古屋港で試験を実施するということで話し合いが行なわれているようだ.
他の主要港,東京・横浜・神戸などでも,この構想の実施が予定されている.
【質問】
「核燃料バンク」とは?
【回答】
2010.12.3のIAEA)の定例理事会において設立が採択されたもので,IAEA主導の国際的な枠組みで核燃料の低濃縮ウランを管理,供給する機構.
決議は米国や日本,ロシアなど10カ国以上が共同で提案し,採決では28カ国が賛成した.
核兵器開発につながりかねないウラン濃縮技術獲得に向けた各国の動きを抑え,核の拡散防止につなげるのが狙い.
IAEAは,国際情勢の影響などで低濃縮ウランを購入できない国から要請を受けた場合,事務局長の指示の下に市場価格で供給する.
原発導入を目指す発展途上国はこれまで,バンクが先進国の核技術独占につながり,核拡散防止条約(NPT)が定めた「原子力平和利用の権利」が脅かされると主張してきた.
このため,決議は各国に核技術開発の「放棄を求めるものではない」と明記,途上国の理解を得た.
この設立について,「日刊 アジアのエネルギー最前線」は2010.12.4付で,
――――――
核燃料バンクの構想は,素晴らしいと思う.
しかし問題は需要と供給のバランスの問題であろう.
今のところは,ウランに関しては熾烈な資源獲得競争は起こっていないが,将来,資源に不安が出てきた段階では,このような大人しい考え方で世界が合意するかどうか,問題である.
メジャーから石油を買っている日本と,自らの力で原油を漁る中国.
同じような状況が,核燃料にも出てきそうな感じがする.
――――――
と,疑問を呈している.
【参考ページ】
2010/12/04 08:33,共同通信
【質問】
「拡散対策センター」とは?
【回答】
核や生物・化学などの大量破壊兵器の拡散阻止を目的とした,CIA内の新組織.
大量破壊兵器そのものの密輸,関連技術や物質の流出にかかわる情報を事前に察知し,取引を阻止する役割を担うとされており,CIAの現場担当,情報分析官,技術専門家,現場支援部隊などが所属し,従来よりも連携を強化した体制づくりを目指すという.
ただし,既存の組織「国家テロ対策センター」との役割分担がどのようになるのか不透明であり,縄張り争いが激化するとの指摘もあるという.
【参考ページ】
日経新聞,2010/8/19 9:43【ワシントン=弟子丸幸子】
◆◆◆◆核査察
【質問】
核査察について詳しく書かれた本を教えてください.
【回答】
「詳細」かつ「本」としては,
今井隆吉著『IAEA査察と核拡散』(日刊工業新聞社,1994.12)
が,ほぼ唯一と言っていい模様.
bk1のサイト内検索で「核 査察」で検索したところ,3冊しか出てこず,しかも本書以外の2冊は,査察を本の主題としておりませんでした.
>名前:岩見浩造 日付:2012/1/17(火) 0:38
[中略]
>あと唯一とかあんまり安易に使うべきじゃないな.
と言って岩見君が,当方の書評にけちをつけたい一心で,他にもないかと一所懸命調べてくれたようですが,発見できたものは残念ながら,
a) 内容的にも分量的にも不十分(たった10ページ!)なものであったり,
>『プルトニウム 超ウラン元素の正体』(友清裕昭著,講談社ブルーバックス,1995.7.20)
(詳細はこちら参照)
>名前:岩見浩造 日付:2012/1/17(火) 0:38
[中略]
>それに書評日時は2010/07/27 23:28:43だが,この時点で
>『原子力の国際管理―原子力商業利用の管理Regimes』
>という本が売られているんだが.法律文化社に行けばはしがきも見れるね.
>制度よりとはいえ,査察本のひとつには違いない.
>書評スレでは高いのとまだ精読してないから紹介しなかっただけなんだが?
↓
↓
>名前:岩見浩造 日付:2012/2/4(土) 12:23
>[中略]
>その後調べた結果,高価な反面査察の具体的な中味には余り触れてないようなので別に無理して買わなくても良さそうだが.
b) 本でなかったり,
>名前:岩見浩造 日付:2012/1/17(火) 0:38
[中略]
>例えば子供向けでも十分に詳しいサイトなら用意されている.
>http://www.atomin.go.jp/reference/atomic/nuclear_inspection/index01.html
c) 通常の書籍流通に乗っておらず,国会図書館にも存在しない――近在の図書館に問い合わせ,確認済み――ようなブックレットであったり,
>名前:岩見浩造 日付:2012/1/17(火) 0:38
[中略]
>核物質管理センターについては言うまでも無し.
>ここの出版物を誰も何一つ読まないかのような書評だがその根拠は?
>俺ですらすぐ見つけたのに.
>http://www.jnmcc.or.jp/booklet/index.html
↓
↓
>名前:岩見浩造 日付:2012/2/4(土) 12:23
>[中略]
>只でpdfをダウンロードできるよね.
>それを印刷してホチキスで止めればPCの操作に疎い人にも見せてあげる事が出来る.
>啓蒙や学習と言う目的からすればたいしたことはない.
>お前の言ってることは正に揚げ足だ.
>ちなみに,「本」ならこちらで販売している.
>http://www.jnmcc.or.jp/sales/index.html
(しかもこのブックレット,子供向けの内容でしかなし)
と,徒労に終わった模様.
やはり上述の本が,「詳細」な「本」としては,「ほぼ」唯一と言えるでしょう.
なお,今後,そのような本が発見されましたときには,追記させていただく予定.
岩見君のガンバリに期待しましょう.
消印所沢,2012.2.14
【質問】
NPTとIAEA査察の関係は?
【回答】
NPTは本来,IAEAとは関係ないところで進められていた.
だがNPTを作る段になって,平和利用の原子力と兵器としての核のつながりをどうやって断ち切るかという課題に直面し,IAEA保障措置制度が役に立つことに気づいて,これを勝手に第3条に取り入れてしまった.
そのためIAEA査察も,1968年より制度を客観的・科学的なものにする努力が始まり,今日に至っている.
【参考ページ】
『IAEA査察と核拡散』(今井隆吉著,日刊工業新聞社,1994.12),p.53-57
【ぐんじさんぎょう】,2010/08/12 21:45
を加筆改修
【質問】
核査察では,どんなことが行われるのか?
【回答】
査察では,国とIAEAの担当官が保障措置の適用されている施設や場所に赴いて,設計情報の完全性および正確性並びに,保障措置が有効に適用し得ることを確認するための設計情報の検討,核物質の記録の確認および報告された計量管理報告書との照合,在庫および移動の検認,封じ込め・監視手段の設置,整備および検認が実施される.
また,追加議定書の冒頭報告の完全性および正確性を確認する為の補完的アクセスおよび管理アクセスも実施される.
なお,保障措置の適用範囲は全ての平和的原子力活動に係わる全ての核物質であり,査察の根拠はNPT第3条1項などに基づく.
【参考ページ】
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=13-05-02-02
http://www.rist.or.jp/atomica/dic/dic_detail.php?Dic_Key=1421
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/atom/iaea/kyoutei.html
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/npt/gaiyo.html
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/mondai/siryo/mondai02/siryo4.pdf
【質問】
核燃料サイクルって何?
【回答】
核燃料サイクル nuclear fuel cycle とは,天然に存在するウラン,トリウム資源が採掘,精錬,転換,濃縮,加工され,核燃料として原子炉で使用され,さらに原子炉から取り出されたあと再処理,再加工され再び原子炉で使用され,残りが廃棄物として処理処分されるまでの一連の循環のこと.
具体的には,
(1) ウラン鉱山からウランが,このサイクルにインプットされる.
通常は酸化ウランUO2とUO3の混合で,イエローケーキと呼ばれる.
(2a) 天然ウラン燃料を使う原子炉に対しては,イエローケーキから天然ウラン金属が精製され,アルミニウム,マグネシウムなどの被覆材(金属)に包まれ,燃料体として原子炉に供給される.
(2b) 軽水炉など低濃縮ウランを燃料とする原子炉については,イエローケーキをいったんフッ化化合物に転換して後,ウラン濃縮工場(ガス拡散法,遠心分離,電磁分離,レーザー分離など)で,ウラン235が3%前後に濃縮され,二酸化ウランに転換されて,燃料加工工場に送られる.
(軍事転用をするならば,濃縮度90%以上のものを生産して,金属に転換して爆弾生産施設に送る,隠れたチャンネルがあるはずである)
(3) 加工された燃料集合体は,原子炉に装荷・燃焼される.
核分裂の連鎖反応でウラン235が分裂する一方,プルトニウム239などプルトニウムが生成される.
(4) 使用済み燃料は再処理工場に送られ,プルトニウムが分離される.
プルトニウムの管理が不十分であると,核兵器用プルトニウムの転用が,再処理工場で発生する.
(5) プルトニウムは燃料加工工場にリサイクルされ,混合酸化物(MOX)燃料として原子炉(軽水炉,高速増殖炉)に使われる.
一方,ウラン235含有量の減った減損ウランは,再びフッ化物になり,濃縮工場で再濃縮される.
(6) 原子炉,再処理工場からそれぞれ低レベル,高レベルの放射性廃棄物が発生する(このサイクルからのマイナスのアプトプット)
このサイクルを核燃料が流れる模様を監視し,高濃縮ウランや兵器用プルトニウムの産出がないことが確認できれば,保障措置の目的が達成されるとするのが,統合保障措置以前のIAEA査察の基本概念.
なんとなく,流しそうめんを連想したのは秘密.
【参考ページ】
『IAEA査察と核拡散』(今井隆吉著,日刊工業新聞社,1994.12),p.58-61
http://www.rist.or.jp/atomica/dic/dic_detail.php?Dic_Key=1857
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=13-05-02-21
【ぐんじさんぎょう】,2010/08/08 21:00
を加筆改修
【質問】
上掲書におきまして,発生した電力のことをアウトプット,放射性廃棄物のことをマイナスのアウトプットと記述しているのですが,後者にわざわざ「マイナスの」とつけているのは,いかなる理由によるものでしょうか?
【回答】
単純に経済的利益の元になるもの(電力)と,経済的損失の元になるもの(廃棄物)だからではないでしょうか?
クローム・ツァハル in mixi,2010年07月29日 21:56
クローム・ツァハルさんにプラスするなら,放射性廃棄物はリサイクルされる核物質から確実に質量で減少することの二重の意味もあるのでしょう.
第一義的には有価物か否か,第二義的に質量として失われる(取り除く必要がある)かどうか,という視点で考えればよろしいかと.
(IAEA査察では後者の意味の方が大きいように考えます)
へぼ担当 in mixi,2010年07月29日 23:21
【質問】
核物質収支区域とは?
【回答】
物質収支区域(MBA:Material Balance Area)とは,IAEAの保障措置の目的のために物質収支を算定するため,次のことを行うことができる施設内又は施設外の区域.
(a)その区域の内へ又は外への核物質の移転毎に,その量を量定すること.
(b)必要に応じ,その区域における核物質の実在庫を,定められた手続きに従って量定すること.
IAEA査察においては,核物質が加工,処理,その他の目的で出入りする工場,作業所,原子炉などについて,入り口と出口を明確に定め,物質がそこを通るたびに計算を行う.
戦略的価値の高い核物質(例えばプルトニウム)の移転(輸送)については,査察側が払出施設において輸送容器に封印を取り付け,受入施設においてその輸送容器と封印の健全性と同一性を検証することにより,核物質の輸送中に転用がなかったことを保障する手段も採られている.
物質管理区域には,所定の出入り口以外の場所から核物質が出入りしない保障が必要である.
あるいは軽水炉の燃料のように,1年に1回だけ燃料交換が行われるものについては,そのときには査察員が立ち会うことにし,それ以外のときに冷却池の扉が開かれないように確認を取る必要があり,無人カメラによる監視や封印によって,封じ込めの完全性を保障する手段がとられる.
また,半年とか1年といった期限を切り,内部の核物質の棚卸し(inventory
taking)も行われる.
【参考ページ】
『IAEA査察と核拡散』(今井隆吉著,日刊工業新聞社,1994.12),p.67-75
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=13-05-02-15
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=13-05-02-04
【ぐんじさんぎょう】,2010/08/10 21:00
を加筆改修
専門従事者向けには細かな手直しが必要ですが,一般の方向けにはこれで全く問題ないと考えます.
後はターゲットを何処にするかですが,私個人が独走してマニアックな返答とならないよう,十分に注意したいと考えます.
へぼ担当 in mixi,2010年07月31日 05:06
【質問】
核査察にはどんな種類があるのか?
【回答】
査察の形態上,「冒頭査察」「特定査察」「通常査察」「特別査察」「訪問」に分かれる.
「冒頭査察」は,査察対象となる原子力施設が,IAEAにより検討された設計通りである事を検認するために実施される.
「特定査察」は,施設の操業前や国家間の核物質の移転時等に行われる.
「通常査察」は,施設現場において,核物質に関する各種の記録の検討,報告された計量管理報告書との照合,核物質の所在箇所,同一性,量および組成等の在庫および移動の検認を行う他,封じ込め・監視手段(監視カメラ等)の設置,整備および検認が実施される.
「特別査察」は,定められた限度を超える量の核物質の在庫差等,保障措置の評価結果で異常や違反の疑いが認められた場合等に実施される.
「訪問」とは,保障措置査察以外の目的で査察員が原子力施設に立ち入る事で,施設付属書或いは施設設計情報の完全性および正確性並びに,保障措置が有効に適用し得ることを確認するための設計情報の検討を行うために実施される.
【参考ページ】
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=13-05-02-02
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=13-05-02-01
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=13-05-02-03
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=13-05-02-14
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=13-05-02-17
【質問】
冒頭査察とは?
【回答】
「冒頭査察」は,INFCIRC/66/Rev.2の協定でのみ実施されるもので,対象となる原子力施設がIAEAにより検討された設計通りである事を検認するために実施される.
INFCIRC/66/Rev.2は,基本的にはIAEAとの計画協定や,二国間の原子力協定により供給された核物質や原子力資材を対象とする,IAEAの保障措置の任務を実施する上での具体的な細目を表した文書のことである.
1992年の後半から,北朝鮮の冒頭査察とIAEAの特定査察の結果に齟齬がみられたことが,米国が偵察衛星からの建物の写真を公表したことと併せ,北朝鮮の核兵器開発の発覚につながったという.
【参考ページ】
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=13-05-02-02
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=13-05-02-01
http://www.chugoku-np.co.jp/kikaku/nuclearpower/asia_africa/040222_02.html
http://www.cnfc.or.jp/j/proposal/asia96/kurosawa.html
【ぐんじさんぎょう】,2009/9/19 23:10
に加筆
【質問】
特定査察とは?
【回答】
特定査察は,IAEAが行う査察の一種で,施設の操業前や国家間の核物質の移転時等に行われる.
核物質が移転した際には,払出施設,受入施設それぞれで特定査察が行われ,封印が実施される.
査察側は次に掲げるような査察方法を用いて,核物質の量および所在を独立に検認する.
−計量記録と操作記録の検査,
−計量報告と記録との比較,
−帳簿在庫の更新,
−在庫および在庫変動の検認,
−独立の測定,
−計測器およびその他の計測制御装置の操作および校正の検認,
−可能性のあるMUFの発生原因,受払間差異および帳簿在庫の不確かさに関する情報の検認,
−保障措置協定に規定されているその他の活動.
また,ウラン濃縮施設については,IAEAは通常査察を実施することが出来ない状況にあったことから当初,特定査察を実施していた.
ちなみに,北韓に対しては1993年までに,7次に渡る特定査察を終えていたという.
【参考ページ】
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=13-05-02-02
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=14-04-01-22
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=13-05-02-15
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=13-05-02-13
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/13/10/011003.htm
【ぐんじさんぎょう】,2009/10/3 23:00
に加筆
【質問】
通常査察とは?
【回答】
「通常査察 Routine Inspection」は施設現場において,核物質に関する各種の記録の検討,および報告された計量管理報告書との照合,核物質の所在箇所,同一性,量および組成等の在庫および移動の検認を行う他,封じ込め・監視手段の設置,整備および検認が実施される.
原則として年1回の棚卸し(PIT:Physical
Inventory Taking)時に実施する実在庫検認(PIV:Physical
Inventory Verification)と,探知時間を考慮した年何回かの中間在庫検認(IIV:Interim
Inventory Verification),および在庫変動検認(ICV:Inventory
Change Verification)の為の中間査察があるが,その査察業務量や頻度は,施設の種類(研究炉,発電炉,核燃料加工施設,再処理施設,濃縮施設など),取り扱う核物質の種類(プルトニウム,高濃縮ウラン,低濃縮ウラン,天然ウラン)と量(有意量以上か,以下か)などによって異なり,IAEAの保障措置クライテリア(Safeguards
Criteria 1991−1995)に詳細に定義されている.
また,最近では査察の効果・効率の向上のための施策の一環として,環境サンプリング(ES:Environmental
Sampling)や遠隔監視(RM:Remote Monitoring)などの新しい保障措置手法が採り入れられるとともに,定期的な中間査察の代わりに,低濃縮ウラン転換・燃料加工施設において短期通告無作為査察(SNRI:Short
Notice Random Inspection)が実施されている.
通常年1回のPIVは,施設が操業・運転を停止して定期検査をする時やPIT時に実施され,一方中間査察は,PIVとPIVの中間に施設ごとの施設付属書に定める頻度に従って実施される.
しかしながら,両者の査察業務量を足しても通常査察業務量(ARIE)を超えないことになっている.
査察はその趣旨から考えると,本来抜き打ち的に実施するのが望ましいが,実施上の制約からPIVは,施設が操業・運転を停止して実施する定期検査やPIT時にあわせて実施される.
中間査察についてはそのような制限はないが,施設の操業計画や探知時間を考慮して,通常1か月前には通告して実施される.
査察は施設付属書に従って実施されるが,まず施設からの報告と施設側の記録とが一致しているかどうかを,施設の計量記録や操業記録を見て確認する.
次に核物質の所在箇所,同一性,数量,重量,組成などを,目視や非破壊測定によって確認する.
この場合の測定試料数(抜き取り率など)や測定項目は,「査察目標」を満たすように統計的に定められる.
封じ込め・監視については,核物質の施設内および工程中の移動の監視結果を調べるとともに,監視カメラのフィルム取り替えなどの保守作業や,封じ込めのために核物質を収納している容器類への封印の取り付け,その健全性の確認などを行う.
その他,少量の核物質の抜き取り・改ざんによる転用がないことを検認する為の核物質の破壊分析用試料の収去(採取)を行う.
さらに,在庫差や受け払い間差異を生じた原因などを明らかにするため,記録の誤り,測定誤差の検討,工程ロスの調査などを行う.
原子力発電所が燃料を交換することなく1年を超えて稼動する時は,炉心を含む実在庫検認は,本来は1年に1回の筈の所を,運転停止後実施する.
その代わりに,原子炉圧力容器を開かないで行う「等価棚卸し検認」が50%の施設をランダムに選んで行われる.
通常の棚卸し検認は,原子炉圧力容器が開かれる前と閉じられた後とに行われる.
また,原子炉圧力容器が開いている間に,20%の確率で設計情報の検認が行われる.
IAEAは査察の実施に当たって,保障措置クライテリアに基づいて,施設の種類毎に査察も含めた保障措置実施計画や査察方法,結果の有効性や妥当性の評価に係る判断などを定める.
これに従って各施設について査察が行われ,有意量以上の核物質の転用の有無などが評価され,その年次結果を保障措置達成報告書(SIR:Safeguards
Implementation Report)で報告する.
北朝鮮の場合,1985年に核兵器不拡散条約(NPT)に加入したが,同国が国際原子力機関(IAEA)保障措置協定に署名し,発効したのは1992年4月である.しかし,その後も北朝鮮の核兵器開発に対する国際社会の懸念は払拭されず,IAEAは,未申告施設の特別査察を要求したが,これに対し北朝鮮は,1993年3月にNPT脱退を宣言した.
IAEA定例理事会は1993年12月3日,IAEAの核査察を拒否している北朝鮮に強い懸念を表明し,核査察協定に基づいた特定・通常査察をも拒否し,核査察対象を監視するカメラや電池交換など保守・点検作業に限定していることに,核施設,核物質の平和利用が確認できないとして懸念を表明した.
国連安全保障理事会は,北朝鮮に脱退宣言の再考を促す決議を行い,これを受けて米国は数回にわたり北朝鮮と協議を行い,1994年3月,北朝鮮の申告済み施設の通常査察を受け入れさせた.
IAEAの査察不十分報告を受け国連安保理は査察を再勧告し,北朝鮮は,IAEAの即時脱退,査察拒否を表明した.再度,米国は北朝鮮と協議し,1994年10月に軽水炉転換を主内容とする核凍結に合意した.
その後の合意の具体的詰めで,北朝鮮は韓国型軽水炉の受入れを拒否し,1995年3月現在,交渉は中断している.
【参考ページ】
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=13-05-02-02
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=13-05-02-11
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=13-05-02-09
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=13-05-02-08
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=14-04-01-22
【ぐんじさんぎょう】,2009/10/12 23:00
に加筆
以上,チェックしました.
内容が従来型の査察に基づくもので記載されているため,日本国内での最新の状況とは一致しない部分が一部有りますが,それは当事者でなければ知り得ない部分であり,公にするには支障があること.
及び,本筋からかけ離れる物ではないこと.
さらに,他国ではこちらの方が多数(日本が例外)のため,このままで十分かと考えます.
へぼ担当 in mixi,2009年10月11日 23:58
働いている人の数(と名前)も棚卸したほうが良さそうだけど,してるかな?
赤の9番 in mixi,2009年10月12日 00:37
> 棚卸し
詳細は実務担当経験者でしたので承知していますが,残念ながらその内容について開示許可が得られる見込みがないため,一切お話しできません.
これについては,事が日本国内だけで完結するのでしたらまだしも,国際的な取り決めに基づき,IAEAだけではなく,それを通じて他国等も絡む(影響を及ぼす)ことから,開示許可が得られることはまず無いと考えます.
ちなみに開示許可の判断をするのは,基本的に原子力事業者(電力会社等)ではありませんので,恐縮ですがその旨ご承知おきください.
へぼ担当 in mixi,2009年10月12日 01:38
【質問】
特別査察とは?
【回答】
特別査察は,定められた限度を超える量の核物質の在庫差等保障措置の評価結果で,異常や違反の疑いが認められた場合等に実施される,IAEAによる査察.
IAEAは全てのNPT加盟国について自らの評価結果を,年1回,保障措置実施報告書(SIR:Safeguards
Implementation Report)にとりまとめ各国に送付するが,IAEAはこの評価および査察時に,異常や違反が認められた場合には,直ちに国に通報して説明を求めることとしている.
その結果によっては,IAEAによる特別査察が行われる.
しかしながら,たとえ違反があった場合でもIAEAには罰する権限がなく,違反の事実を国に通知するのみである.
そのため,国は違反を犯した施設を国内法に従って処罰することになる.
また国について違反があったときには,IAEA理事会が対処し,必要な場合は国連の安全保障理事会にも報告され,その判断で関係諸国が原子力に係る資材等の輸出や援助の停止を各国の判断で行うことになっている.
なお,1992年2月のIAEA理事会において,現行保障措置協定の範囲内で,申告された施設のみならず未申告の施設に対しても特別査察を実施し得ることが確認された.
北朝鮮の場合,1985年の核兵器不拡散条約(NPT)加入後も,核兵器開発に対する国際社会の懸念は払拭されなかったため,IAEAは未申告施設の特別査察を要求したが,これに対し北朝鮮は1993年3月にNPT脱退を宣言した.
その後の交渉の結果,1994年2月15日,IAEAは北朝鮮の申告施設7か所のフルスコープ査察受入れを発表した.
ただし,IAEAの要求する寧辺近郊の核廃棄物貯蔵施設2か所への査察,5,000kWの実験用原子炉からの燃料棒のサンプリングは含まれなかった.
IAEA査察団は3月3日,北朝鮮の申告済み核関連施設7か所に対する核査察を開始し,3月14日終了したが,査察団が1993年核施設に施した封印が一部破損しており,一部核関連施設からのサンプル採取が妨害された.
1994年3月16日,IAEAは北朝鮮の申告済み核関連施設7か所で実施した査察について,核物質の軍事不転用が十分確認できないとする声明を発表し,寧辺地区にある放射化学研究所での査察拒否を指摘した.
【参照ページ】
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=13-05-02-02
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=13-05-02-01
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=14-04-01-22
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=13-05-01-03
【ぐんじさんぎょう】,2009/11/12 23:00
に加筆
【質問】
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=13-01-01-17
において言及されている抜き打ち査察は,「冒頭査察」「特定査察」「通常査察」「特別査察」のどのカテゴリーに入るのですか?
【回答】
「抜き打ち査察」については基本的に「保障措置「追加議定書」」に署名,発効した諸国への対応となりますが,この内容については「抜き打ち査察」の有効性に関わってきますので,公に解説された物はまず無いかと考えます.
私個人はこの「抜き打ち査察」等「保障措置「追加議定書」」導入に辺り対応した経験を持ちますので,ある程度の知見を持っていますが,残念ながら機微情報(特に外務省や文部科学省が厳しい)となってしまいますので,子細についてはお話しできません.
そのため,事項の紹介にとどめ,詳細については
「査察有効性担保のため,その活動について公にはあまり公表されていない」
としていただければ幸いです.
へぼ担当 in mixi,2009年11月08日 23:15
【質問】
統合保障措置以前のIAEA査察の限界は,どのような点にあったか?
【回答】
今井隆吉によれば,主権国家が事前に合意をした以上のことは行えず,それを行おうとするなら制裁行動発動を待たねばならないという.
また,IAEA査察は本来,NPTとは別個に存在したものであり,軍事転用を疑って監視するのではなく,もし有為な量の核物質が転用されれば,早い時期に疑念がもたれるようにしておき,そのようなシステムが存在することによって,軍事転用そのものを「抑止」することに意味があるとされる.
ゆえに,その対象は「平和利用原子力活動」であり,軍事利用には保障措置は適用されない.
さらに,査察員の入国を許可するかどうかも,国家の主権の行使の範疇であり,突然何か情報が入っても,明日すぐに査察,というわけにはいかない可能性もある.
さらにまた,原子力施設の安全上の判断をするのも,国家の権限,実際には所長の権限であり,所長が安全上の理由を盾に,査察員の立ち入りを拒むことも可能だという.
そもそも査察は「違反か違反でないか」という単純な判定の手段ではなく,統計的な手法を用い,疑わしさの信頼度を算出,もし疑わしい行為があった場合には,それをできるだけ早期に探知する可能性を作り出すものでしかない,と今井は述べている.
【参考ページ】
『IAEA査察と核拡散』(今井隆吉著,日刊工業新聞社,1994.12),序文
& 第6章
上記の回答単体に間違いはありませんが,現行の改定された運用では大きく異なる点も多い(上記欠点を補うように改定されたため)ため,下記の注釈を付けて「注意喚起」する必要があると考えます.
> 今井隆吉氏著作物
出版当時の知見としては極めて画期的な啓蒙書であり,私個人もそれにて自学自習を行った(多くは私個人の学生時代とラップ)ところです.
しかし,その後にIAEA査察が激変したため,現段階では旧来の問題点を指摘するには正しいものの,現状の記述とするには抜本的な改訂が必要であり,誤解を招かないためにも重版すべきではない,ということが指摘できます.
公に日本語にて入手できるもののうち,詳細はお馴染みatomicaの
統合保障措置
が最も詳しいところであり,うまくまとまっています.
(その他,外務省が掲載している原文等がありますが,上記atomicaほどまとまっている物はなく,上記が理解できるのであれば外務省掲載物も理解でき,外務省掲載物が理解できるのであれば,上記atomicaの文脈も理解できる関係にあります.)
重要な点はそこにある
『統合保障措置(Integrated Safeguards:IS)とは,追加議定書(Additional
Protocol:AP(INFCIRC/540))に規定されている措置と手段が包括的保障措置協定のそれと統合し運用することではじめて,十分な「保障措置の強化と合理化」を可能にするものであり,そのため包括的保障措置と追加的議定書に基づく新しい保障措置を一体化したものである』
と言う,極めて難しく,抽象的な一文が,「実際には如何に担保されているのか」の,完全なる理解が必要というところ.
逆に言えば,それを完全に理解している人間は,機微情報(管理されるべき情報)にアクセスできる立場であるのも同義であり,その末席にいる私個人も,その取り扱いには細心の注意を払っているところです.
本来ならatomicaにその解説をお願いしたいところですが,
「今後更新されない」
とされているように,慎重な情報の取り扱いが必要なために,一般向けの啓蒙書等が期待できないのが残念です.
そう言う私個人も,動きが鈍ってしまうのが何とも歯がゆくも,職責上,どうかご容赦いただきたいところです.
へぼ担当 in mixi,2010年07月28日 19:54
【質問】
統合保障措置以前のIAEA査察が,軍事利用には適用されなかったというのは,いわゆる5大核保有国にだけ適用されないということなのですか?
【回答】
いいえ,IAEAには加盟しているが,NPTには批准していない国にも当てはまります.
たとえばパキスタンは,商業炉について査察を受けていますが,ラワールピンディーにあるプルトニウム抽出施設や,クジャブにあるプルトニウム生産炉などは,査察の対象外とされています.
長らくNPTに反対し続けているインドは,IAEAとの間に2009年2月5日,ようやく新保障措置協定に調印しましたが,対象は,「民生用原子力施設とそこで使われている核物質」に限られています.
これらの国は2011年現在,包括的保障措置協定の追加議定書にも批准していないため,同協定ができた後も,軍事施設への査察は行われていない模様.
【参考ページ】
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=14-02-12-01
http://www.jaif.or.jp/ja/asia/india_data4.html
パキスタンの核施設と,査察対象の有無
(Atomicaより引用)
【ぐんじさんぎょう】,2012/02/13 20:40
を加筆改修
ほぼ間違いないのですが,基本的にIAEA査察は当事国の当該原子力活動が平和目的であることを検証(誤解承知なら証明)するためのものであり,非軍事-非警察的なものです.
つまり,IAEAに加盟していても,IAEA査察にその国が応じないことは,十二分にあり得る物.
身の潔白を証明したければ,IAEA査察に積極的に協力して,お墨付きを得ることが出来るが,協力が得られないなら,これこれが疑わしい(査察等で平和目的完結を確認できず)と報告されるだけです.
統合保障措置導入後は,疑わしい国に対して,より厳しくなっていますが,現在出先休憩中のため,またいずれ.
極言すれば,IAEA査察は当事国の身の潔白を証明するためのものであり,それが不十分なら幾ら受けても疑わしい,と報告されるだけです.
それが嫌なら,全面的に協力しなければならず,不十分なら不利な扱いを受ける.
ただし,独自の警察力や軍事力を持っている訳ではないため,あくまでも当事国の態度そのものが,そのまま根拠をつけて報告されるだけです.
後は国際社会がそれをどうするか.
これは国連安全保障理事会他に舞台が移ります.
取り急ぎ出先休憩中から.
へぼ担当 in mixi,2012年02月07日 18:06
【質問】
統合保障措置って何?
【回答】
統合保障措置に関する解説は
「最近の我が国における保障措置の実施状況」
が,そのものずばりのものであり,以下の通り,非常に良くまとまっています.
「統合保障措置とは,IAEAが保障措置活動を実施する上で,利用可能な資源の範囲内で最大の有効性及び効率を達成するために,包括的保障措置協定及び追加議定書に基づきIAEAが利用できる全ての保障措置実施手段を最適な形に組み合わせたもの」
であり,
「従来の保障措置(包括的保障措置)と追加議定書による保障措置を最適な形で組み合わせ,最大限の有効性と効率を目指す」
ものです.
そのためには
「従来の包括的保障措置に加え,「未申告の核物質・原子力活動は存在しない」との追加議定書,の結論が得られることが条件」
となっています.
へぼ担当 in mixi,2009年08月23日 21:51
従来の包括的保障措置との違いは,従来のものが,申告された核物質の転用がないことを,計量管理に基づいて検認するものであるのに対し,統合保障措置は,IAEAが新たに付与された権限を行使し,当該国に未申告の核物質および原子力活動がないことを確認するもの.
(1) アクセス権の強化
(2) 補完的アクセス
a.サイト,鉱山,選鉱工場並びに核物質が存在すると申告されているその他の場所に,未申告の核物質および原子力活動が存在しないことを確認する.
b.以前に核物質を保有していた原子力施設,およびその他の場所の,デコミッショニング状態を確認する.
c.当事国から提供された情報に関する疑義,および不一致を解決する.
(3) 無通告査察の強化
【参考ページ】
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=13-05-02-21
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=13-05-02-20
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=13-05-02-18
【質問】
統合保障措置において,軍事施設の査察はできますか?
【回答】
基本的には可能です.
拒否された場合は,その旨の報告が成されるだけです.
統合保障措置はその活動の一つとして,「あらかじめ申告された原子力施設外であっても」,フリーアクセスによる環境サンプリングにより,未申告の核関連活動がないことを確認するためのものであり,イラク戦争前の危機などの反省をふまえてのものです.
あの場合,核兵器など大量破壊兵器の有無が焦点となりましたが,それを察知するためには「軍事施設」として査察を拒んでいるものに対しても,半強制的に査察を行う必要があり,その権限を付与するものです.
そのため,必ずしも全て受け入れられる可能性はないのですが,受け入れなければ「怪しい」という報告がIAEAから国連安全保障理事会に成されることとなり,その旨の処置が成されるだけです.
IAEAは捜査機関ではありませんが,その国々の透明性確保状況を担保,報告するものです.
そのため,協力すればその状況に応じてその潔白を証明しますが,協力を拒めばその旨,黒もしくはグレーと報告するだけ.
後に制裁論議に発展するかは,国際社会の問題です.
へぼ担当 in 「軍事板常見問題 mixi別館」,2010年08月17日 03:36
【質問】
原子力供給国会合(NSG)って何?
【回答】
核兵器開発に用いられる資機材・技術を供給する能力のある、いわゆる原子力供給国の国際組織であり,同機材・技術の輸出管理を,それら各国が協調して行い、実態として核兵器の拡散を防止しようとするためのもの.
インドが1974年,IAEA保障措置下にあるカナダ製研究用原子炉から得た使用済燃料を再処理して得たプルトニウムを使用して,核爆発実験を行ったことを契機に,1978年に原子力技術を輸出する際のガイドラインとなる協定が結ばれ、IAEAによってINFCIRC/254として公表された。
しかしその後,1991年の湾岸戦争後のIAEAの査察により、イラクの核兵器開発計画が明らかにされたが、そこで使われていた資機材の多くが、英、米、独、日等、NSGメンバーを中心とした先進国から輸出されたものであった.
イラクは輸出規制対象資機材を密かに調達する努力を行うとともに、自らウラン濃縮技術やプルトニウム生産技術を開発していたが,そこに用いられたのが、先進国から輸入された一般の資機材(汎用品)であったことが判明.
これを受けて、1977年のガイドライン合意以来,開催されたことがなかったNSGの会合が、1991年、オランダの呼びかけにより、13年ぶりにハーグで開催された.
これをNSG part-2と呼ぶ.
そして翌1992年4月には、原子力汎用品の規制を行う,NSG
part−2のガイドラインと規制対象リストが合意された。
【参考ページ】
http://www.nuclearsuppliersgroup.org/Leng/default.htm
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/nsg/
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=13-05-01-04
http://en.wikipedia.org/wiki/Nuclear_Suppliers_Group
http://www.npa.go.jp/archive/keibi/syouten/syouten269/sec02/sec02_0702.htm
NSG part2ガイドラインの規制品目
(Atomicaより引用)
【ぐんじさんぎょう】,2012/02/14 20:50
を加筆改修
「軍事板常見問題&良レス回収機構」准トップ・ページへ サイト・マップへ
軍事板FAQ
軍事FAQ
軍板FAQ
軍事まとめ