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◆アメリカの動機関連
イラク戦争FAQ目次


 【link】

「VOR」◆(2012/03/30)フセイン元大統領の弁護士―「アラブの春」はイラク侵攻から始まった

「VOR」◆(2012/09/02)ノーベル平和賞受賞者 イラク戦争に対する責任でブレア首相とブッシュ前大統領を法廷で裁くよう求める


 【珍説】
 アメリカは株の最安値を記録したままだ. ブッシュはイラクを攻撃しようとしているのは,これを挽回しようとしているためだ.

 【事実】
 戦争を行うことにより景気がよくなると妄想している人達はすっかり忘れているが. 湾岸戦争を行った時期.アメリカの景気は悪化した.
 これは主に石油価格の高騰.テロの恐れ・戦時体制にあるための消費心理の落ち込みなどが原因として上げられる.

 戦争を行うことにより戦闘機が作られたりして軍需産業が!といいたいのかもしれんが.現代では戦闘機や戦車つくるのには発注してから完成するまでに数年はかかる.
 しかも.湾岸戦争が勃発してから追加発注された戦闘機や戦車はない.

 だったらミサイルは!というのだろうが.ミサイルや爆弾には賞味期限がある. 戦争がなくても賞味期限が切れると廃棄しないといけない.
 湾岸戦争により生産量が増えた兵器は,陰謀論者が思っているほど多くはない.廃棄処分の予定の在庫を代わりにイラクで使ったという見方をする人も出るくらいだ.

 日本が拠出した1兆円近い金はどうなったか? あれはサウジアラビアなど現地調達にかかる費用で殆ど消えた.もし湾岸戦争が陰謀で起きたなら.サウジアラビアの陰謀であるかもしれない(笑).

 開戦前.アメリカの景気は悪化した.その理由の1つがイラク侵攻の可能性が高まっているから.
 今後.石油価格の高騰.テロの恐れ・消費心理の落ち込みなどにより景気がさらに落ち込む可能性が高い.それを反映した株価下落だ.

「戦争回避」が今や最大の好材料となったNY市場の不安
「ブッシュ大統領はいつイラク攻撃に踏み切るか」
 こういう開戦時期予測は,これまでは通常,軍事アナリスト,もしくは政治評論家の仕事であった.
 ところがウォール街では今,エコノミストや株式アナリストも,いつ戦争が始まるかをまず口にするようになっている.それだけ対イラク戦争が経済や株式の動向に大きな影響を持つと考えられているのである.
 現に1月27日,ニューヨーク・ダウが8000ドルを割ったのは,イラク情勢に対する懸念であったし,2月に乱高下しているのも,開戦時期が影を落としている.
 昨年10-12月期の米国の実質GNP成長率は,7-9月期の4.0%から0.7%に急減速している.
「マイナス成長にならなかったのは,国防支出と企業の設備投資の回復によるもの.米国経済の成長は止まっている」
 インベストメント・バンクのエコノミストがこう語っているように,対イラク戦が現実化すると,米国経済は今年1-3月期にマイナスに陥る可能性もある.GDPの約7割を占める個人消費が冷え込むものと予想されるからだ.
 テロ警報が出された米国では,万一の報復テロに備えて保存食品や薬などの売上が大きく伸びている.「USAトゥデイ」紙によれば,ニューヨーク市で売られている家庭用準備セットは,ガス・マスク,警報機,ゴム手袋,懐中電灯,多目的緊急工具,化学防護服から成っていて,価格は595ドル(約7万1400円).決して安くはないが,人々がこういう商品に殺到している事実は,消費者心理が悪化していることの裏返しでもある.
 ワシントンでは米政府が,テロに対する警戒度を上から2番目に高いオレンジに引き上げるや,ガス・マスクはあっという間に売り切れた.
 このように国民の間に不安感が拡大し,1月には乗用者販売も落ち込んでいる.
 消費も手控え気味になっている.テロの恐怖が増すと,旅行や出張が手控えられ,航空,旅行,ホテルなどの産業に大打撃となる.911テロ後と同じような状況が再現される恐れが強いのだ.
 株式市場は既にこれを織り込んでいるが,開戦間近しとなると株価は下がり,即時開戦回避かとなると反発している.戦端が実際に開かれることになると,ニューヨーク・ダウの第1の節目は,昨年来の安値7280ドル27セント,第2の節目は7000ドル割れである(2月18日の終値は8041ドル15セント).
 ブッシュ大統領の意図から見て,まずありえないシナリオであるが,もし戦争回避ということになれば,株価急騰が予想される.それが当面,米国株にとっての最大の好材料だ.

(水野隆徳 from "SAPIO" '03 Mar. 12)

 【珍説】
http://www.jil.go.jp/kunibetu/kiso/2000/americaP01.htm
「アメリカでは1991年以降景気の拡大が続いており,2000年第1四半期には拡大局面は10年目に入った」
 1991年一月に湾岸戦争は終わっており,日本からの100億ドルは6月頃に支払われている.
 湾岸戦争によってアメリカは不景気から回復基調になっていたのだ.
 しかし長い不況の後で,少々の景気回復では,アメリカの庶民にその恩恵が行き渡り実感させるには時間がなさ過ぎた.
 選挙のあった1992年のアメリカのGDP成長率も2.7%の高率の成長をしている.日本は1%位しかない.
 要するに,経済成長はしても,庶民がすぐに恩恵を受ける事がなかったから,ブッシュは負けたのだ.
 【事実】
 それは日本の融資なんかで儲かったのではなく,湾岸戦争直前から景気回復の兆しはあり,融資は戦争による穴を埋めただけ.
 戦争がなければ,もっと早く景気回復しただろう.
 詳しくは,NBERの調査報告とジョージ・ブッシュが出した経済報告書でも読むとよい.

 【珍説】
 現代だろうと過去だろうと,国家の動機は覇権(領土.資源.エネルギー.産業) と自らの権力維持以外にありえない.
 石油業界軍需産業を背後に控える共和党ブッシュ政権が.景気低迷打破と中間選挙を視野に入れ,戦争をしようとしている事までは否定できない.

 【事実】
 「軍需産業を儲けさせるため」など戦争を起こす動機とはならない.
 現代では,戦争しても軍需産業がボロ儲けするわけではない.
 また,戦費は国家財政を圧迫するし,景気が後退すれば一般の企業はかなりのダメージを受ける.

 例えば,グリーンスパンFRB(連邦準備制度理事会)議長は,'02年11月13日の米上下両院合同経済委員会での証言の中で,「現在ある米経済の重石」として,長引く設備投資調整,企業の不正行為,株価の一段の下落と共に,「緊張が高まっている地政学的リスク(イラクとの戦争懸念)」を挙げている.
 戦争開始により,さらにこの重石が重くなったことは想像に難くない.

 まともな思考力を持った政権なら,国内全体の景気より,産業界の内のごく一部に過ぎない軍需産業の利益を優先させることは無い.
 今回のイラク戦においても,ガソリン小売や運行業,サービス業は多大な損害を被り,かつ,それらに対してブッシュ大統領は公的援助しないことを名言している.
 トータルに見て明らかに損.

 石油についても,それが動機にならないことについては,「【珍説】小ブッシュ政権がイラク攻撃に固執するのは,イラクの石油利権を狙っているからである」の項参照.

 【珍説】
 アメリカの景気が悪化しようと軍需産業は潤うだろう.
 【事実】
 国内景気より.単なる産業の一部門の業績を優先させる? 書いてて自分でおかしいとは思わないだろうか?

 対イラク戦開戦の可能性に反応して.市場がむしろ冷え込んでいることは,どう説明するのか? 主要な経済要因たる貿易や金融を冷え込ませてまで.ちょっと特殊な製造業に過ぎない軍需産業を儲けさせる意義は?

 ちなみに,一大軍需企業でもあるGEは.イラク侵攻なんてされたら,肝心の軍需は殆ど増えないばかりか,他の分野での収益までぼろぼろになって踏んだり蹴ったりだろう.
 また,巨大軍需産業のボーイングが911による航空不況で酷い目に遭ったことは,どう説明するのだろう?
 ちなみに去年のアフガン空爆開始以降の,主要軍需産業の株価をチェックしてみたら?
 面白いことが分かると思うんだけどねえ.

 【珍説】
 軍需産業に軍拡の追い風
http://www.mainichi.co.jp/eye/feature/nybomb/tero/3/09.html

◇兵器開発計画.目白押し
70兆円商戦でつばぜり合いを展開したロッキード連合製JSF(右)とボーイング社製JSF=ロッキード社提供

 ワシントン郊外のメリーランド州ベセスダ.小高い丘に建つロッキードマーチンの本社2階に.2010年から実戦配備される次期戦闘機のフライト・シミュレーター(模擬操縦装置)がある.米英が共同開発した「JSF」(ジョイント・ストライク・ファイター).ハイテクを駆使した「最後の有人戦闘機」と言われる.「この2年間に.軍や議会の関係者ら国内外の約4000人がシミュレーターを体感した.我々の技術力の高さを実感したはずだ」.米空軍出身で開発に携わったウィリアム・ハレル部長は誇らしげに言った.

□     □

 米政府がロッキード連合(ロ社.ノースロップ・グラマン社.英BAe社)のJSFを次期戦闘機に決定したのは昨年10月26日.同時多発テロから1カ月半後のことだ.ブッシュ大統領が「テロとの戦い」のために200億ドルの緊急軍事支出を決め.国防予算の増額を次々に打ち出すのと軌を一にした動きだった.

 米空軍.海軍.海兵隊.それに英国の空海軍を合わせた五つの軍の要求を同時に満たす新鋭機.90年代初頭から開発競争が繰り広げられ.最後はボーイング社との一騎打ちになったが.冷戦終結後の軍縮の潮流の中で「この商戦で敗れた方が戦闘機開発部門から撤退する」(軍事筋)と言われてきた.限られた予算の中で「通常兵器の近代化を図るか.先端兵器の開発か」(同)の慎重な判断を.米政府は迫られた.その迷いを「9・11」が吹き飛ばした.

 米英軍に3000機.同盟国向けにも3000機.グローバリズムの進展で.これまでロシア製やフランス製の戦闘機を採用してきた国々も含め「最大で8500機」(ハレル部長)を見込むビッグビジネスは.あっさり決まった.総額は70兆円を超す.

 「同時テロを経て.米国民の関心は教育や健康の問題から一気に変わった.それまでトップ20にすら入らなかった防衛や安全が首位を占めるようになった.世論も味方し.軍需産業は最高の環境にある」.ロ社のロバート・トライス上級副社長は素直に「変化」を認める.

 JSFだけではない.ロ社はテロ後.崩落した国防総省の通信システム網や.炭疽菌騒動で導入された郵便識別装置を相次いで受注した.また.連邦捜査局(FBI)向けの指紋照合システムや.メキシコとの国境線上に約20機の飛行船を浮かべて不法入国を監視するシステムを国防総省に提案した.株価はテロ前から4割以上も値上がりしている.世界最大の軍事企業にとって.01年は皮肉にも「輝かしい年」(トライス副社長)となった.

「旅客機が武器に使われるとは.思いもしなかった」.ボーイング社の旅客機部門のアラン・ムラーリー社長は.自社の航空機がテロの道具になった衝撃を今も隠せない.旅客の大幅減で.機種によっては生産が半分にまで落ち込んだ.JSF商戦に敗れた痛手も重なり.株価は一時.テロ前より4割も下落した.今年末までに旅客機部門だけで3万人のレイオフに乗り出したが.「テロとの戦い」の“追い風”は間もなく.ボ社にも吹き始める.

 ブッシュ大統領は昨年12月.弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退を一方的に宣言した.年が明けると.国防総省の一部局だった弾道ミサイル防衛局(BMDO)ミサイル防衛庁(MDA)に格上げし.ミサイル防衛計画推進の方針を鮮明にした.この構想の主契約企業はボ社.さらに.フィル・コンディット会長が「誰しもがのどから手が出るほど欲しいプログラムが目白押し」と話すように.次世代の空中給油機.無人攻撃機などの開発計画が続々と控えている.

 「9・11」を境に.米国のベクトルは軍縮から軍拡へと振れ始めた.JSFの巨大な「利権」をめぐっては早くも米政界の中で.駆け引きが表面化している.ボ社の戦闘機工場のあるセントルイス(ミズーリ州)が地盤のゲッパート下院院内総務(民主党)らが「安全保障の観点から.ロ社連合に生産を独占させるのは問題だ」と主張し.ボ社に生産を分担させる法案を提出する構えを見せている.「テロとの戦い」の背後に.さまざまな思惑が渦巻く.
「この雰囲気はいつまで続くのだろうか.今は盛り上がっているが.気をつけないといけない」
 ロ社幹部から.そんな言葉が漏れた.

(毎日新聞2002年2月25日東京朝刊から)

 【事実】
 この記事には嘘・誤解が多い.日本の新聞社は軍事問題に疎いので,その記事には注意を要する.

 JSFは計画されてからすでに15年は経っている計画で.JSFの機体選定が昨年の10月に発表される事は1年ぐらい前から決まっていた話.
 ちなみに,予定発注数ががしがし削られていっている事や.米軍が戦争機購入に支出している金額が年々減少していっている事実.保有機体数が冷戦終結後もどんどん減少している事実は,この記事には一切記載されていない.

 MDは,小ブッシュが前から推進を約束していた話で.9/11があってもなくても計画は推進されていた.予算の増額もされていない.

 次世代の空中給油機については.これを導入しないと.今使っている空中給油機の老朽化のために 空中給油機が不足してしまう.今度導入する空中給油機の性能は以前のものと比べてそれほど能力が向上しているわけでもないし,しかも能力が向上している分.導入数を減らされている.

 無人攻撃機は,アメリカが9/11前から次世代の攻撃機として開発を計画していたもの.

 基本的にアメリカが兵器を新しく導入するのは.以前使っていた機体が老朽化して使用不可能になるから,その代替機を導入する必要があるという時.

 MDと無人攻撃機はその例外だが,MDは北朝鮮・イラク.またはテロ組織からの小規模な弾道ミサイル攻撃への対応ということで.9/11前から大規模に進められていた計画.9/11があってもなくても結果は変わらなかった.ABM条約からの脱退なんて話が9/11まえに出るぐらい.以前から本気だった.

 無人攻撃機は.本格的に導入するとなると,有人戦闘機,主にJSFの採用数を削って予算を 確保するなんていわれているわけで,引用された記事のJSFの項と矛盾が生じる.

 確かにテロ後.アメリカの国防費は増額されている.
 その,主な理由はアフガニスタン侵攻の際に移動やら現地で燃料やら食料やらを調達するのに使うやらして,かかった費用.アメリカ国内にそれほど金は落ちてない.
 テロが起きたから軍需産業への発注が増えた訳ではない.逆にF/A-22もRAH-66もB-1もF/A-18E/Fも配備数が減らされているような状態.

JSF
http://www.globalsecurity.org/military/systems/aircraft/f-35.htm

空中給油機
http://www.globalsecurity.org/military/systems/aircraft/kc-767.htm

ちなみに調達予定数・配備数がどんどん減らされている機体
F/A-18E/F
http://www.globalsecurity.org/military/systems/aircraft/f-18.htm
F/A-22
http://www.globalsecurity.org/military/systems/aircraft/f-22.htm
RAH-66
http://www.globalsecurity.org/military/systems/aircraft/rah-66.htm
B-2
http://www.globalsecurity.org/wmd/systems/b-2.htm
B-1
http://www.globalsecurity.org/wmd/systems/b-1.htm
MV-22
http://www.globalsecurity.org/military/systems/aircraft/v-22.htm


 【珍説】
http://kodansha.cplaza.ne.jp/wgendai/top_news/20011103/top_1/main.html (リンクが切れていたときは,こちらへ)
 週刊現代の2001年11月号でブッシュと軍産複合体との癒着についてスクープしている.

「その背景には,兵器が消費されなければ成り立たない,アメリカの巨大な「軍産複合体」の存在がある.
 在米ジャーナリストの後藤英彦氏によれば,米軍需産業の頂点に位置するペンタゴンから直接受注する米国内の企業は, 大小合わせて約2万2000社にのぼるという.
 加えて, そうした企業に融資する無数の多国籍金融機関や,各種のシンクタンク, 大学付属の研究機関も「複合体」の中に入っている.
『旧ソ連崩壊後,軍需産業は不要論に押されて窮地に陥った.
 それを救ったのが'91年の湾岸戦争でしたが,10年が経過し, 再び武器・弾薬がダブついてきていた.
 “在庫一掃”するためには,どうしても戦争が必要なんです.
 実際,ゼネラルダイナミックス,ボーイングといった軍需産業は, 最近まで数千人単位でリストラをしていた“構造不況業種”でした.
 ところが,今や株価が3〜4割も上昇し,一気に業績を回復しそうな勢いです」(前出・浜田氏) 」
と現代で軍事ジャーナリストらが断言している.

 マスコミでも次第にこういった真実が公開されてきているというのに,軍板の連中ときたら・・・.

 【事実】
 週刊現代は去年の海自派遣の際にソースを明らかにせず,「自衛隊の制服組がクーデターを画策してる」と書いたネタ週刊誌.
 しかもその記事のソースの一部の後藤英彦という「在米ジャーナリスト」も,検索してみたら,アメリカ関係の何でも屋... うさん臭いこと,この上ない.
 ジョンベネちゃん事件〔リンク切れ〕のいい加減な記事を書いてるライターが軍事ジャーナリストとは,随分軍事ジャーナリストの仕事の幅も広くなったものだ(苦笑)
 このような,週刊誌で不確定な話を吹聴するような自称「軍事評論家・ジャーナリスト」の意見では,根拠とするには弱い.
 事実,その記事は,他の項目において既に否定されていることばかり.
 例えば,江畑謙介氏がそう書いたなら,軍事板の住人も注目するだろうが,こんなことは氏は絶対に言うまい.

軍事板

 ※ その記事読んでませんし,週刊現代がいい加減なのは承知してますが,ジョンベネさんのお父さんは,元海軍士官でかなり優秀だったらしく退官後,ロッキード子会社元社長,つまり大金持ちになったという事は・・・つまりそういう事です.

 多分そういう関連で,軍事ジャーナリストに白羽の矢が当たったのだろうと思います.
 ちなみに海軍士官でいくら優秀と言っても,簡単にはロッキード子会社社長にはなれませんから,海軍内で一定以上の地位なり国家安全保障の意志決定にある程度関与していたりしていたと見なすのが自然でしょう.
 詳細は分かりませんが,ジョンベネ両親が事件後すぐ対マスコミ・スポークスマンを雇ったり,警察の捜査にあまり協力的で無かったり,といった事も安全保障関与経歴者であると考えれば納得できます.
 もっとも,ロッキードがらみとなると,調べようにも調べる事は無理でしょうが.

初通人 in FAQ BBS


 【珍説】
 アメリカは常に戦争を欲している.巨大な軍隊を巨大なまま維持するには,常に戦争が必要となるからだ.

 【事実】
 軍隊の予算は,極論を言えば国の収入から賄われる.戦争により景気を冷え込ませて収入を減らしたら,戦後の軍の予算も当然引き締められる.

 現に,イラク戦争後の予算引き締めにより,以下のような事例が発生している.

米空軍がコマンチヘリ開発中止,ボーイングに打撃

 【シカゴ=山下真一】米国防総省は23日,約20年前から開発を進めてきた総額380億ドルの「コマンチ・ヘリコプター」計画を中止すると発表した.
 すでに80億ドルを投入したが,コストが高いうえに開発の必要性が薄れた.
 開発に参加したボーイングなどの業績への影響が懸念されている.
 空軍の開発計画中止としては過去最大規模という.

 「コマンチ」は地上の偵察,攻撃を行う最新ヘリコプターで当初,空軍は5000機発注する予定だった.
 政府が無人偵察機などに開発の軸足を移すなかで開発の意義も薄れ,民間の政府監視団体からは「無駄遣い」との批判が出ていた.
 開発中止で浮いた146億ドルは「ブラック・ホーク・ヘリ」の購入などに充てるという.
 民間で開発に当たっていたのはボーイングのほかユナイテッド・テクノロジーズの子会社シコルスキー.
 ボーイングは先週も空軍の空中空輸機の発注が暗礁に乗り上げ,リストラを迫られたばかり.

日本経済新聞社 H16.2.24 (11:01)


 【珍説】
 ブッシュ政権のテキサスの石油産業や航空・軍需産業とのコネクションがあからさまだ.
 広瀬隆著「アメリカの巨大軍需産業」によれば,
チェイニー副大統領夫人は米国最大の航空・軍事会社ロッキード・マーティンの重役
ラムズフェルド国防長官は,現在ロッキード社と姉妹関係にある軍事シンクタンク「ランドコーポレーション」の理事長を80年代に努めていた.現にランド研究所がNMD理論を推奨し.NMD製造をロッキードが請け負うという構造になっている.
 そして当のブッシュ大統領は,NASA有人宇宙飛行センターがあるテキサス州知事から大統領になり. 弟ジェブ・ブッシュはNASAケネディー宇宙センターのあるフロリダ州知事だ. ブッシュ家そのものが航空・宇宙産業とは切っても切れない関係にある.
 他にもブッシュ政権内部は多数の航空・軍事コネクションからのスタッフで張り巡らせている.

 広瀬の本によるとパパ・ブッシュの親父は,上院議員を務めたプレスコット・ブッシュという人なのだが. なんとイギリス国王ヘンリー3世の末裔にあたる.
 周知の通り.欧州の王家はロスチャイルド家やユダヤ資本と密接な関係にある.
 単純にアメリカの利権で動いているという,これまでの石油産業説や軍事産業説では,なぜ戦争に動いているかが容易に見えてこない.
 ところが.世界を握る血の系譜があったとしたら?
 たとえばルドルフ1世以来.婚姻政策で全欧州の王家と縁戚関係を結び.子孫達に豊穣な土地を約束したハプスブルク一族やユダヤ系のロックフェラーなどの一部の権力者が,この地球の歴史をキャンバスにした大きな絵を書いていたらどうだろうか.

 【事実】
 広瀬隆は情報ソースとして信頼に足る存在ではない.
 例えば,朝生のテーマが原発の時.水の沸点は100度だから配管の加圧試験が出来ないなんて事を言っており,しかも討論を纏めた本でも修正しなかった.
 また,プルトニウム自体は安全だとも発言していた.

 それに,「ブッシュ政権のテキサスの石油産業や航空・軍需産業とのコネクションがあからさまだ」と言っているが,少しもあからさまではない.
 あからさまな例と言えるのは,チェイニー副大統領夫人の例だけ.
 ラムズフェルドに関する記述は,RANDの事を何も理解していないのが明白.
 RANDは軍事関係を主に扱う,アメリカでも有数のNPOの政策研究機関.アメリカ政府の政策決定にも影響力を与える優れたレポートを何本も発表している.
 ちなみにRANDと関係があるといえるのはボーイング社.もともとRANDはダグラス社が立ち上げた組織で,1947年にNPOになった.
 ダグラス社はマクダネル社に買収され.マクダネル・ダグラス(MD)社になった.MD社はボーイング社に買収された.
 当然の事ながら.あれだけ影響力のある研究所だから,中立性を保つため,軍需産業系からの資金提供は受けていない.(委託研究はしているだろうが)
 以下に,RANDのここに主なスポンサーと取引相手が載っているので,参照されたし.
http://www.rand.org/about/majorspons.html

 「NASAの基地がテキサス.フロリダの知事出身だから.航空産業と関係が深い」という言説に至っては,お笑いでしかない.
 たしかにブッシュがクリントン政権より石油・航空・軍需産業への優遇政策を取っているのは事実だが.石油・航空・軍需産業に対してだけでなく.ブッシュはアメリカ国内の大企業に対して優遇政策を次々に打ち出しており.石油・航空・軍需産業もその一環にすぎないと理解するほうが自然.

 ヘンリー三世は在位1216〜72年.
 ブッシュが700年以上前の英国王の子孫だからどうだというのだろうか.
 王家の間の婚姻による血族関係の構築は.相互安全保障の手段の一つに過ぎない.
 利害が対立すれば自分の利益を最優先する.
 例えば,第一次大戦のときの英国王.ドイツ皇帝.ロシア皇帝はヴィクトリア女王を通じた血縁関係にあったが,戦争を起こしている.
 しかも「血の濃さ」で言えば,当時の英国王はドイツの血の方が濃かった.
 さらに言えば,中世ならともかく近世以降は社会の発展により.王族の政治に及ぼす影響力はどんどん縮小し.英国でさえ王制廃止論がある.
 近代の国家関係はその時その時の状況で変化する非常にダイナミックなもので.陰謀などでコントロールできるものではない.


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 【珍説】
 小ブッシュ政権がイラク攻撃に固執するのは,イラクの石油利権を狙っているからである.

 【事実】
 以下の(1)〜(5)の理由から,ありえない.

 (1) 石油利権が望みなら,欧米や国内の石油企業がイラクの経済制裁を解けとの要求を断固反対していたのことの説明がつかない.(軍事板)

 (2) 石油利権説では,石油食糧交換計画におけるアメリカの態度が説明できない.
「アメリカで最もイラク攻撃に反対している人々,ブッシュの政策を最も猛烈に叩いている人も,この戦争は石油じゃない,今回,石油は関係ないんだと言っているんです.石油じゃない,という,反ブッシュ派から出てきた論評が幾つも,10ぐらい実例があります.
 一番大きな論拠というのは,国連が96年から始めた石油食糧交換計画.御存じのように,イラクというのは世界第2の埋蔵量を誇る石油産出国ですから,湾岸戦争の後に,国連で,勝手に石油を輸出してはいけないというように,経済制裁がかかった.
 それでは国内が貧困になって,薬がなくなる,食糧がなくなる,可哀相だからということで,部分的に石油の輸出を認めようというもの.
 しかし,その分,そのお金は国連が管理する特別な口座に入れて――これはフランスの銀行なんですが,そこで食べ物とか薬を買うようにしなさいと.
 こういう計画を先頭に立って言ったのがアメリカなんです.イラクの恵まれない人達を助けるために,自分達が管理できないところで,石油を使おうということを言い始めた.
 だから,石油が原因というような謀略説がいかにいい加減かということです」

(田久保忠衛 from 「反米論を撃つ」,恒文社21,P. 26-27)

 第3に,米政府がイラクの石油産業を占有したところで,日量250万バレルの生産量では戦争と占領のコストにとても見合わないだろう.イラクが日量600万バレル以上の原油生産能力を回復するころ,ブッシュは再選を果たしたとしても大統領の任期をとっくに終えている.
 石油は,あくまでこのグランドビジョンの一要素として,ブッシュ政権の戦略思考にかかわっているにすぎない.その傾向が強いのは,かねてからサウジアラビアに深い不信感をいだいているリチャード・パール国防政策評議会議長などの超タカ派,つまり「新保守派」だ.
 ブッシュ政権はとくに9.11テロ後,中東原油への依存度を下げるべく,アフリカやアラスカ,それにロシアの新資源を重視する姿勢を強めている.
 「アメリカは長年,中東にイスラエルとサウジアラビアという2人の愛人をかかえてきた」と,ペトロリアム・ファイナンス社のラアド・アルカディリは言う.「その一方を,永久にベッドから追い出そうということだ」
 だがアルカディリら石油専門家の大半は,供給源の多角化は新保守派の幻想にすぎないとみている.サウジアラビアを切り捨てることなどできない,というのだ.
 実際,世界の原油供給が逼迫へと向かうなか,値上がりを止めるために必要な余剰生産力の約75%はサウジアラビアが握っている(現時点でも,同国の増産が原油価格のさらなる高騰を食い止めている).ブッシュ政権のタカ派もそれは承知しており,石油は対イラク戦争の小さな一部にすぎないことを認めている.
 ある高官は,石油は黒い「余得」であると言う.「ヨーロッパのほうが(アメリカよりも)中東原油への依存度ははるかに高い.確かに,大量の石油資源をもつ国は味方につけておくに越したことはない.だが,それを戦争の戦略にする考えはない」

「そもそも,イラクの石油で儲けることなどできそうにない.
 侵攻に必要な戦費は,最大900億ドルにのぼる.
 さらに既存の油田を修復し,新しい油田を開発するには,300億〜400億ドルかかるとみられる.
 それだけの投資をしても,イラクの石油収入が年間220億ドルを超えることはなさそうだ.仮にアメリカがその半分を盗んだとしても,米英両国のGDP(Gross Domestic Product:国内総生産)の0.1%にしかならない.リスクの大きさに比べてあまりに小さな報酬だ.
 アメリカのエネルギー戦略の重点は,世界中で新しい油田を開発することにある.イラクはそのほんの一部にすぎない.また,目標は安定供給であって,できるだけ安く買うことではない.石油価格が下がりすぎれば,ジョージ・W・ブッシュ米大統領の友人達も打撃を受ける」(マックス・ブート米外交評議会上級研究員) ⇒イラク復興費データ

(from Newsweek Japanese Edition on Mar. 12, '03)

 (4) 今度のイラク征討は石油利権を求めたものではない.
 「ついでに……」という副次的動機の一つにはなるかもしれないが,もっと重要なことはアメリカの基本戦略の変化である.
 即ち古典的な「均衡戦略」,つまり中東に強国の出現を許さず,アメリカの威武が中東に及ぶようにしていた.しかし,中東での均衡戦略は限界に達しており,これを「一強戦略」即ち全ての国をアメリカに従順な傀儡にするという戦略に変えつつある.
 その手始めがイラクなのである.

 これは,元は誰にも相手にされなかったウォルフォヴィッツ Wolfowitz の案が,共和党政権の土台になったもので,彼がラムズフェルドらと組んだグループ「ホークス」が,大統領選中にテキサスに滞在してブッシュに叩き込んだ戦略.
 基本的には,冷戦後の唯一の超大国の地位を徹底的に追求して,少しでも軍事的にアメリカを脅かす勢力は許さないという立場だ.(軍事板)

 例えば,ジョージタウン大学のジョン・アイケンベリーは,『フォーリン・アフェアーズ』誌に寄稿した論文(「新帝国主義というアメリカの野望」)において,1990年代初頭のチェイニー(現副大統領)指導下の国防省で,冷戦後の国際社会においてアメリカが軍事的優位性を維持すべきという現在の安全保障戦略が既に練られていたことを指摘.
 その上で,9・11後の世界において,伝統的な抑止力の効かない「ならず者国家」やテロリスト集団からの脅威に曝される中で,軍事的優位を維持するだけではなく,軍事力を実際に行使してアメリカの安全と国益を保障する世界を創り出すという「新帝国主義」の発想が政権中枢部に浸透するようになったと論じている.

(ちなみに,アイケンベリーは,新帝国主義の戦略に基いてアメリカがこのまま突き進めば,
 (1)アメリカがこれまで培ってきた同盟関係(日本やNATOなど)を形骸化する,
 (2)アメリカ中心の善悪の基準で世界を見ることによって,分裂と対決を加速させる,
 (3)そして結果的には,アメリカにとってより危険な国際環境を創り出す
と警告している)

 (5) ラムズフェルドはイラク問題を提起した.アルカイダだけではなく,イラクも攻めればいい.イラク問題に関するラムズフェルドのこの発言は,一人だけの意見ではなかった.ポール・D・ウォルフォヴィッツ国防副長官も,テロリズムに対する戦争の第1ラウンドで,イラクを主要攻撃目標にするという方針を唱えていた.
 9.11同時テロ以前,ペンタゴンは長期に渡り,イラクに対する軍事選択肢を検討していた.会議の出席者は皆,大量破壊兵器を入手して使用すべく血眼になっているイラクのサダム・フセイン大統領を脅威と見なしていた.
 テロリズムを相手に本腰で総力戦を行うのなら,イラクをいずれは攻撃目標にせざるを得ない.
 9.11は,直ちにフセインを征討する好機を提供してくれたわけで,それに乗ずることもできるのではないかと,ラムズフェルドは提案した.
 パウエルは,その時点でイラクを攻撃することには反対で,アルカイダに焦点を絞るのは,アメリカ国民の視点がそこに集中しているからだと反論した.
「どのような行動にも大衆の支持が必要です.それを支えるのは各国の連合だけではありません.それは国民が支えることを望むものでなければならない.国民は,我々がアルカイダに対して手を打つことを望んでいます」
 今はその問題の結論を出す時期ではないと,ブッシュは窘めた.自分の今の主な目標は,テロリストをとことん締め付けて根絶やしにするような軍事計画を示すことだ,と強調した.(ボブ・ウッドワード『ブッシュの戦争』 p.66-67)

 【参考文献】
 ブッシュ政権の戦略転換
http://www.jmrlsi.co.jp/menu/btrend/2003/trend2003_02.html


 【質問】
 以下のような報道についてはどうなの?

――――――
「イラク開戦の動機は石油」=前FRB議長,回顧録で暴露

 【ワシントン17日時事】18年間にわたって世界経済のかじ取りを担ったグリーンスパン前米連邦準備制度理事会(FRB)議長(81)が17日刊行の回顧録で,2003年春の米軍によるイラク開戦の動機は石油利権だったと暴露し,ブッシュ政権を慌てさせている.〉
(時事通信2007年9月17日)
――――――

 【回答】
 グリーンスパンは所詮経済官僚であって外交,国防に対して直接的な情報取得手段を有していない.
 したがって彼は一次ソースにはなりえない.
 その分野における国家意思中枢の決定に携わる人々の証言であれば,また話は別だけど.
 つまり彼の当該主張が事実であると裏付けるには,そのソースの明示がなければ,フルフォードやチョムスキーあたりが金目当てに振り撒く妄説となんら変わりない.

 例えば,エリツィン時代プーチンのチェチェン政策(マンション爆破テロとか)について,当時エリツィンの側近で政治にも深く関与してたベレゾフスキーが,色々吹いてるけど,それも一次ソースになりえるかってぇとそうじゃないだろ?

 緑爺もメッキが剥がれて,当時のてめえの舵取りをいろいろ言われ始めてる時だからなあ.
 矛先逸らしとも言えなくも無いというか.

 まあ,俺がうがったような見方をしてしまうのは,一連の金融危機の今までの米国のグダグダさ加減に 怒りを感じてる所為か.

軍事板
青文字:加筆改修部分


▼ 【質問】

▼ 一方,「石油を含む複合的な要因」で始まったとする見解もあるが?
 以下は,(いくつかの点で疑問はあるものの),そうした見解の中では,これまで見た中では一番真っ当と思われるもの.

――――――

 イラク戦争は「複合的な要因」で始まったというのが正しい表現だと思います.
 参考までにwikipedia「イラク戦争」の「それ以外で語られるアメリカの開戦理由」をご覧下さい.

 なお戦争の採算が「簡単には計算出来ない」というのは事実でしょうが,占領政策の失敗によってトータルコストが赤字なのは間違いないでしょう.
 イラク戦争を中心とした対テロ戦争では既に91兆円を支出しておりベトナム戦争を大幅に超過しています.
 戦争が2017年まで長引けば,約2兆3640億ドル(金利分含め約270兆円)という試算があります.
 おまけにイラク戦争から帰還した負傷兵の治療費,社会保障費が確定してる段階で200兆円という試算もあります.
http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe4500/news/20070203it12.htm
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2005-09-01/2005090107_01_0.html

 ドルの基軸通貨としての地位を維持することも戦争目的の一つであったという説もありますが,仮にそうだったとしても戦争の失敗によって「逆効果」になったのは間違いないでしょう.
 サブプライム問題も加わってアメリカの経済力が低下し,ドルに対する信用不安が生じたこともあり,2007年ロシアは原油・天然ガスなどの輸出をルーブル建てに切り替えていく方針を示しました.
 また今年に入ってイランは原油取引での米ドル決済を全面的に停止しました.

 ベトナム戦争で財政赤字に苦しんだアメリカはブレトン・ウッズ体制を終了させ変動相場制へと移行し,大幅なドル安によって世界におけるアメリカ経済の地位低下を招きました.
 現在のイラク戦争はベトナム戦争以上の失敗であり,ドルとアメリカの地位の崩壊をもたらすかもしれないという指摘が多くなされています.

――――――経済板住人 in 軍事板初心者質問スレまとめ(2008/6/23アクセス)▲

▼ 【回答】
 一番論理的に見えるが,しかし残念ながら根拠が見つからない.
 頭の中で想像を巡らせているに過ぎない.

 たとえば,ボブ・ウッドワードの『攻撃計画』(日本経済新聞社,2004.7)には,イラク戦の攻撃計画についてのブッシュ政権の会合の内容が掲載されているが,第1回目の会合の際に出された計画は,以下の通りとなっている.

――――――

 1. 動的作戦である<炎作戦>は,従来型の大規模な空爆を含むが,艦艇もしくは航空機から発射するトマホーク巡航ミサイルに加え,射程距離150kmないし300kmで全長約4mの地対地ミサイルを発射する陸軍戦術ミサイル・システム(TACMS)のような長距離地対地システムも使用する.
 総合的には,敵地深くに向け精密兵器を投(発)射するものである.

 2. イラク領内奥深く潜入する特殊作戦部隊を使用する非正規戦――一例を挙げるなら,イスラエルやサウジアラビアに向けてスカッド・ミサイルを発射するのを阻止するため,小部隊による殺傷兵器を使用する襲撃.
 これもアフガニスタンで速度と隠密(ステルス)性を高められることが実証済み.

 3. 戦闘機動(敵に対して有利な位置を占めるための部隊などの移動).正規部隊の従来の地上戦を陸軍および海兵隊が実行する.

 4. 影響力作戦――情報の流布および幅広い心理戦・欺騙工作.

 5. イラク反体制派の支援.北部のクルド人と現政権に不満を抱く南部のシーア派組織に加え,場合によってはイラク軍部も含む.
 CIAとの全面的協力のもとに行う.
 この支援には,武器の供給から反体制派の情報収集,戦略偵察,破壊工作などの能力の向上も含まれる.

 6. 外交手段の政治・軍事面.戦闘終了後のイラク国民との協働を目的とする軍民協同作戦を含む.

 7. イラク国民への人道支援.

――――――p.73-74

 つまり,どこにも油田確保などという言葉は出てこない.
 石油利権確保が目的であると仮定するなら,肝心の油田を無傷で確保しないことには意味がない.
 したがって高い確率をもって,その仮定は誤りだと言うことができる.

 基軸通貨云々も同様.
 本書の始めからどこにも出てこない.
 すなわちその説を肯定する具体的な証拠を,どこにも見つけることができない.

 同書によれば,イラクは湾岸戦争が終わっても,相変わらずアメリカにとって脅威だったという.
 少なくとも米国政府はそのように認識していたという.
 そのため,「サダム・フセイン政権打倒」が,クリントン政権時代から法律の形で存在していたという.

 そしてブッシュ大統領はクリントン政権の外交を
「リスクを毛嫌いしていた」(p.36)
と元々感じていたが,9.11テロにより,
「アメリカ国民の安全が最優先事項になった」(p.37)
と考えるようになったという.

 「弱腰ではない態度」で,「最優先で」イラクという脅威を除く,となれば,ブッシュにとっては開戦も辞さずという態度が当然の帰結になったものと見られる.▲

▼ なお,クロス・チェックは今後,着手も続行の予定.
 その結果次第では,回答もまた変わりうる.


 【珍説】

中村敦夫参議院議員
 アメリカからすれば,反米姿勢を明確にしているイラクとアフガニスタンを潰し,親米国家に作り変えれば,ほぼイスラム国家群を支配下に収めることができるわけです.
 だからイラクのフセイン政権を倒せば,中東制圧は完了する.
 また,アフガニスタンを事実上の植民地にすれば,中央アジアやアゼルバイジャンから石油のパイプラインを通過させ,パキスタン経由でインド洋で受け取れるという計算ですね.

 だからブッシュ政権にとって,「報復」や「戦争」は,アメリカ国民の感情を満足させて政権強化を図るだけでなく,石油メジャーの利益拡大とアメリカの覇権主義を遂行するために重要なイベントになるわけです.

本多勝一
 2代の大統領になったブッシュ親子は,背後にテキサス州の石油資本があることからしても,これはブッシュ得意の筋書きでしょうね.

(from 「無差別テロと無差別戦争 貧困なる精神P集」
朝日新聞社,2002/1/5,p.41-42)

 【事実】

>イラクのフセイン政権を倒せば,中東制圧は完了する.

 ええと,シリアは? イランは? 全然完了しませんけど?
 他のイスラーム国家群も,単純に親米国家で括るのは,大雑把過ぎる話なんですが.例えばレバノンはシリアの影響下にあったりしますし…….

>パイプライン

 石油ではなく,天然ガスの話のはずですが…….
 しかも,その天然ガスの主要消費国としては現在,インドが想定されているんですが.
 この戦争はインドの陰謀なのかも(笑).

 なにより,この説の根本的にダメなところは,
「そんなことのために莫大な戦費を費やすなら,その戦費分を減税や補助金等の形で直接,石油業界に還元してやったほうが,よほど確実で,しかも戦争不況も起きない」
「石油業界だけのためにそんなことをしたら,戦争不況でダメージを受ける,他の数多くの業界が黙っていない」
ということですな.


 【質問】
 では,イラク戦争の目的は何なのか?

 【回答】
▼ 「脅威の排除」.

(1) 湾岸戦争後もイラクはアメリカの脅威と考えられており,フセイン政権転覆はブッシュ・パパの時代から続いてきた政策だった.
(2) ブッシュ・ジュニアは「クリントンの弱腰姿勢」は間違いだと考えていた.
(3) 9.11テロやカーン博士の核兵器闇市場などが,ブッシュ・ジュニアをして,より強硬な姿勢に出るべきだという考えにさせた.
(4) サダム・フセインの側も,ブッシュ・ジュニアの「恐怖」をさらに増大させた.

***

 まず,湾岸戦争後もイラクはアメリカにとっては脅威と考えられてきた.
 ボブ・ウッドワード著『攻撃計画』(日本経済新聞社,2004.7)によれば,フセイン政権転覆はブッシュ・シニアやクリントンの政権の時代からの政策であり,ブッシュ・ジュニアの政権に至り,秘密工作など他の手段が放棄され,軍事的手段に訴えることにしたに過ぎないようだ.
 同書によればブッシュ・ジュニア政権時代にCIAは,
>「秘密工作ではフセインを取り除くことはできない」という結論を下した(p.94)
という.

▼ かねてから▲アメリカがイラクに対していた疑念については,
アメリカ的見方による「イラクとアルカイダの繋がり」
を,また,アメリカがイラクに不信感を抱くに至ったイラクの行為の数々については,
年表:サダムの欺瞞と抵抗
を,それぞれ参照されたし.

 加えて,同書や『ブッシュの戦争』(ボブ・ウッドワード著,日本経済新聞社,2003.2)によれば,ブッシュ政権は,クリントン政権の対テロ政策はあまりに弱腰だったと見ており,その弱腰が911を招いたと考えているようである.
 以下引用.

――――――
 1998年,フセインが大量破壊兵器の製造施設に関する国連査察を拒否すると,クリントンは「砂漠の狐」作戦を命じた.
 3日間に延べ650回の出撃が,爆撃機と巡航ミサイルによって行われたが,フセインは国連査察官の入国を許可しなかった.

――――――『ブッシュの戦争』,p.434-435

 国家安全保障チームのメンバーの大多数とブッシュは,ウサマ・ビン・ラディンと国際テロリズムに対するクリントン政権の対応が,特に1998年のベイルートにおけるアメリカ大使館自爆テロ事件以来,あまりにも弱腰だったため,彼らがアメリカ合衆国を再び攻撃することを促した,いや実質的に招待したようなものだ,と思っていた.
「巡航ミサイルを誰かの,えー,テントに打ち込むというような,自分の手を全く汚さない発想は,まったくのところ,お笑い種だよ」
と,ブッシュは後にインタビューで述べている.
「つまり,そういうふうなアメリカだから,無力だと見られたんだ……
 だって,潜水艦から巡航ミサイルを発射して,それで御終いにするような国は,確かに科学技術力は高いが,なよなよしている.強い国とは言えない.
 アメリカは物質万能主義に支配され,快楽主義的で,確固たる価値観もなく,殴られてもやり返さない国だという印象を,向こうは抱いているはずだ.
 ビン・ラディンが図に乗って,アメリカなど危険ではないと考えたのははっきりしている」

――――――同;P.52-53

――――――
 クリントンはリスクを毛嫌いしていた,というのがブッシュの考えだった.
 1998年,アルカイダがアフリカ東部のアメリカ大使館2ヶ所に自爆テロを行ったあとで,クリントンはアフガニスタンのビン・ラディンの拠点を巡航ミサイルで攻撃した.
 コソボ紛争では航空作戦に米軍を限定的に参加させただけだし,1993年には,モガディシオでの熾烈な市街戦で米軍兵士18名が死亡するという悲惨な作戦が原因で,ソマリアから尻尾を巻いて逃げ出した.

 ブッシュはこう言っている.
「ラムズフェルドは,他の地域でも軍を活発に活動させたいと考えていた.
 わたしの意見は,最初の戦いで勝利を重ねるために,多少なりともハードルは低くしたほうがいいというものだった」

――――――『攻撃計画』,p.37

 そんな中,9.11テロが起こり,ブッシュ・ジュニアの姿勢を強硬姿勢寄りに変化させたという.
 彼は言う.

――――――
「9.11同時テロは,大統領の責務についての私の考えを,明かに大きく変えた.
 9・11によって,アメリカ国民の安全が最優先事項になった……
 大統領にとって神聖な使命となった.
 大統領にとって最も必須の使命だ.
 だって,大統領がそれを引き受けなかったら,いったい誰が引き受ける?」

 それによって,「サダム・フセインの危害をもたらす能力」に対する自分の姿勢が変わったと言い,こう付け加えた.
「フセインの恐ろしい面が全て一段と脅威的になった.
 フセインを囲い込んでおくのは無理ではないかとますます思えてきた」

――――――『攻撃計画』,p.37

 また,カーン博士の核兵器闇市場の存在が明らかになったことも,ブッシュ・ジュニアに大きな影響を与えたという.

――――――
 パキスタンの官憲は,科学者数名を拘引して事情聴取し,ひとりがアルカイダのメンバーと会ったことを突きとめていた.
 〔略〕
 サウジアラビアも含め,5ヶ国の情報機関が,汚い爆弾か本式の核爆弾かは分からないが,なんらかの形の核兵器1個が所在不明になっている可能性があるという情報をつかんでいた.
 〔略〕
 この情報もまた,ブッシュにすさまじい衝撃をあたえた.
 ブッシュは万全の対処をはかろうとした.
 「脅威の質とレベルは通常より上」で「数週間のうちに攻撃が行われるかもしれない」という漠然とした警告を,〔2001年〕12月3日月曜日に,新たなテロ警報として全米に発令することになった.
 チェイニー副大統領はワシントンを出て,安全な場所へ避難したので,アメリカを訪問した外国の要人とは,秘話テレビ電話で会議を行わなければならなくなった.

――――――『攻撃計画』,p.63

 そして,ロシア諜報機関からの情報も,ブッシュ大統領に影響を与えた模様である.

――――――
「フセイン政権が対米テロ準備」 ロシア大統領明かす
asahi.com 2004/6/18


 ロシアのプーチン大統領は18日,中央アジア・カザフスタンのアスタナで記者会見し,03年のイラク戦争の開戦前に,旧フセイン政権による「対米テロ計画」に関する情報をロシアの情報機関が入手し,米国に伝達していたことを明らかにした.イタル・タス通信などが伝えた.

 プーチン大統領は「ロシアの情報機関は,フセイン政権が米本土と国外の施設を標的にしたテロを準備していることをつかんだ.
 こうした情報を(01年の)米同時多発テロからイラク開戦までに数回,米政府に提供した」と語った.
 また,ブッシュ大統領がロシア情報を「重要視した」とも指摘.「ブッシュ氏はロシア情報機関の幹部に個人的に礼を述べた」とも明らかにした.

 その一方で,プーチン大統領は「フセイン政権が(実際に実行された)テロに関与したという証拠は無い」という点も強調した.

――――――
Putin Says Russia Warned U.S. on Saddam
By REUTERS
Published: June 18, 2004
Filed at 3:58 p.m. ET


ASTANA, Kazakhstan (Reuters) - Russia warned the United States after the Sept. 11, 2001 attacks that Iraq's Saddam Hussein planned to hit targets on U.S. soil, Russian President Vladimir Putin said Friday.
Putin's remarks looked certain to help President Bush, but officials at the State Department expressed surprise, saying they knew of no such information from Russia.
Putin said Russian intelligence had been told on several occasions that Saddam's special forces were preparing to attack U.S. targets inside and outside the United States.
``After the events of September 11, 2001, and before the start of the military operation in Iraq, Russian special services several times received information that the official services of the Saddam regime were preparing 'terrorist acts' on the United States and beyond its borders,'' he told reporters.
``This information was passed on to our American colleagues,'' he said. He added, however, that Russian intelligence had no proof that Saddam's agents had been involved in any particular attack.
State Department spokesman Adam Ereli told reporters he did not know anything about the information that Putin said Russia passed on. No such information was communicated from Russia through the State Department, he said.
``Everybody's scratching their heads,'' said one State Department official, who asked not to be named.
But the Kremlin leader's comments seemed certain to bolster Bush, whose campaign for re-election in November is under pressure from the Iraq crisis.
Bush has been on the defensive at home for insisting -- against the findings of an independent commission -- that Saddam had links with al Qaeda, the militant group behind the 2001 airline attacks in the United States that killed nearly 3,000 people and prompted the U.S. war on terrorism.
Putin's remarks were all the more unusual since Russia had diplomatic relations with Saddam's Iraq and sided with France and Germany in opposing the invasion.

POSITION UNCHANGED ON IRAQ INVASION

Speaking to reporters in the capital of ex-Soviet Kazakhstan, he went out of his way, however, to say Russia's view of the 2003 U.S.-led invasion of Iraq was unchanged.
``Our position has not changed. We indeed passed this information on to our American partners but we consider that there are rules, defined by international law, for using force in international affairs and these procedures were not observed,'' he said.
It is not the first time that Putin, who has forged a strong personal bond with Bush despite opposing him diplomatically over Iraq, has come to his defense on the issue.
At a summit of G8 world industrialized powers at the U.S. resort of Sea Island last week, where he met Bush separately, Putin stepped into the U.S. campaign by chastising U.S. Democrats for attacking the Republican president on Iraq.
He said they had ``no moral right'' to do so since it had been the Democratic administration of Bill Clinton that had authorized the 1999 bombing of Yugoslavia by U.S. and NATO forces.
Bush, speaking in Washington Thursday, strenuously asserted there was a link between Saddam and al Qaeda even though the independent Sept. 11 commission reported, a day before, that there was no such evidence of collaboration.
Intelligence reports of a link between Saddam and al Qaeda were part of Bush's rationale for the invasion of Iraq where more than 830 U.S. soldiers have died after 14 months of violence.
――――――

▼ しかもサダム・フセイン自身,対米テロを示唆するかのような発言をたびたび繰り返していたという.
 以下引用.

――――――
サダム・フセインおよびイラク国営メディアからの引用集

2002年10月18日

下記の日本語文書は仮翻訳で,正文は英文です.

 長年にわたり,サダム・フセインとその政権は,イラクの国営メディアを利用して,嘘の情報を広め,近隣諸国と世界を脅かしてきた.これまでの主な出来事に関するサダム・フセインおよびイラク国営メディアの発言の一部を以下に引用する.これは,10年以上に及ぶ脅威のパターンを示すものである.

湾岸戦争(1991年2月)

  「 われわれはどこまでも,常に(米国人を)追い続ける.いかなる鋼鉄の高層ビルも,彼らを真実の炎から守ることはできない」   サダム・フセイン,バグダッド・ラジオ,1991年2月8日  (国営)

  「(米国は,)アラブおよびイスラムのムジャヒディン(イスラム聖戦士),そして世界中の誠実な闘争者による作戦や爆破から逃れることはできない」   国営イラク通信,1991年1月30日 (国営)

 「ブッシュおよびその共犯者に残されているのは,自分たちの犯罪に自らが責任があることを認めることである.
 彼らが公職を去り,忘れられた存在となろうとも,イラク国民は彼らを追及する.
 彼らが,アラブ人にとって復讐とは何かを理解するならば,われわれの意図を必ず理解するだろう」   バグダッド・ラジオ,1991年2月6日 (国営)

 「イラクの子ども,女性,老人は皆,復讐の方法を知っている・・・.
 彼らは,いかに長い年月がかかろうとも,流された純粋な血に対する報復を実行する」   バグダッド国内通信,1991年2月15日 (国営)

クウェートに対するイラク軍の結集(1994年10月)

  「(米国は,)イラク国民一人一人がミサイルとなり,他の国や都市へ飛んでいけるということの意味を理解しているのだろうか?」   サダム・フセイン,1994年9月29日

「国民が集団的な死の淵に到達したとき,彼らは全ての人々に死をもたらすことができる・・・」   アルジュムフリア紙,1994年10月4日 (国営紙)

「われわれの攻撃の手は,(米国,英国,サウジアラビアが)何が起きたのかを意識する間もなく,彼らを襲う」   アルカディシャ紙,1994年10月6日 (国営紙)

 「われわれが絶望の一瞬に発射する化学兵器は,何十万もの人々に死をもたらすことができる」   アルクッズ・アルアラビ紙,1994年10月12日 (国営紙)

国連大量破壊兵器廃棄特別委員会 (UNSCOM) 報告書発表(1995年4月10日)

「イラクの選択肢は,限られてはいるが,存在する・・・.
 イラクの現状は,手負いの虎のようなものである.
 その一撃は,たとえそれが最後の一撃であっても,痛烈なものであり得る・・・」   アルクッズ・アルアラビ紙,1995年6月9日 (国営紙)

コバールタワー爆破事件(1996年6月25日)

 「(米国は,)サウジアラビアに送る棺桶の数を増やすべきである.
 今後何が起きるか,誰にもわからないからである」   サダム・フセイン,イラク・ラジオ,1996年6月27日

「砂漠の狐」作戦(1998年12月)

「(他のアラブ諸国が)誤った道を進み続けるならば,われわれは彼らの首にジハードの剣を振り下ろすべきである,
 いや,そうしなければならない・・・」   サダム・フセイン,1999年1月5日

「アラブとアラブ湾の息子たちよ,外国人に対して反乱せよ・・・.
 自らの尊厳,聖地,安全,利益,そして崇高な価値のために復讐せよ」 サダム・フセイン,1999年1月5日

「(サウジアラビア人とクウェート人の)血は,たいまつに火をつけ,芳香を放つ植物を育て,自由と抵抗と勝利の木に水を与える」   サダム・フセイン,イラク・ラジオ,1999年1月26日

「イラク国民に対するこの卑劣な侵略戦争に追従者として関与し続ける者は,この侵略行為には大きな代償が伴うことを認識しなければならない」   サダム・フセイン,1999年2月16日

「今必要なのは,米国と英国の国益に強力な打撃を与えることである.
 これらの打撃は,彼らの国益が言葉だけでなく行為によっても実際に脅かされていることを,彼らに実感させるだけの強力な打撃であるべきである」  アルカディシャ紙,1999年2月27日 (国営紙)

――――――「駐日米国大使館」:サダム・フセイン語録

▼ なお,最近の報道によれば,サダム・フセインの残したファイルから,実際にイラクとアルカーイダがつながっていたことが明らかになっている.
 さらにまた,サダム・フセインとアル・カーイダの結びつきを示唆するかのような情報も,当時は数多く出ていた.
 9.11テロ実行犯がイラクと接触していた,という情報もあった.
 また,イラク戦争後になっても,以下のような報道もなされた.▲

――――――
Saddam's Files
サダムのファイル


 サダムフセイン政権が倒されてわかったことのひとつは,この独裁者が膨大な記録をきちんと残していたことだった.連合軍はサダムの記録の,数百万の書類をいまだに整理中であり,分類して翻訳する作業が続いている.

 この書類の調査から解ったひとつの衝撃的な事実は,アルカイダの幹部,Ahmed Hikmat Shakirがサダム政権のフェダイーンの名簿に登録されていたことである.翻訳文書を見た政府筋のソースによればShakirはウダイの率いるエリート部隊の中佐として記録されている.
 これがなぜ大問題かといえばShakirがフェダイーンの中佐であれば,イラクの独裁政権とアルカイダの関係を証明することになるためである.
 Shakirは有名な2000年1月の,マレーシア,クアラルンプールで開かれたアルカイダのサミットに出席しており,そこで9・11計画が相談された.ソースの調査した文献の正当性は確認されており,文書はアメリカ軍の管理下にあって判明した事実には疑いをさしはさむ余地が無いので,事は重大である.

 別の報告に拠れば,Shakirはクアラルンプールのサミットの時期には,イラクの諜報機関から雇用されて仕事についていた.このサミットには9・11でアメリカ航空のフライト77を乗っ取ったKhalid al MidharとNawaz al Hamziも出席している.
 他のメンバーは9・11を計画したRamzi binal ShibhやUSSコールの爆破事件を起こしたTawfiz al Atashなどがいた.Shakirはサミットの4日後にクアラルンプールを離れている.

 Shakirのアルカイダとの関係は深く,1993年のWTC爆破事件,1995年の太平洋上での航空機のっとり未遂事件,2001年のカタール事件などに関与している事がわかっている.2001年にはShakirはヨルダンのアンマンで逮捕されたが,サダム政権からの抗議とアムネスティ・インターナショナルの抗議で後に開放されている.彼が最後に目撃されたのはバクダッドの自宅に戻るところである.

 ブッシュ政権は多額の予算を使ってイラク占領をしているのだから,こうした文書記録などの調査とか,アルカイダとサダム政権の関連を調査させるべきである.
 最近,ウイークリー・スタンダードのStephen Hayes がサダムとアルカイダの関係を示す本を書いたのは良いことだ.
 最近のアメリカ民間人の首切りビデオを制作したアルカイダのAbu Musab al-Zarkawiも,負傷をサダム政権下のバクダッドの病院で治療している.彼はサダム政権からの特別の高度治療を受けたわけで,こうしたつながりがもっと明確に調査され,報道されるべきである.

――――――WSJ, 2004/5/27; Page A20

▼ そうした諸条件が重なり,ブッシュ・ジュニアは軍事行動に踏み切ることを決断したようだ.
 フセイン政権の軍事的排除は,フセインという脅威を取り除くのみならず,以下のようなメリットをもたらすと考えられた.▲

――――――
 フセインの追放とその後に見込まれるイラクの民主化は,テロを看過している他国の独裁者達に二つのメッセージを送ることになる.
 まず,大量破壊兵器の製造は決して許されないこと.そして,国を開放して政治体制と社会を改革しなければならないことだ.

 この考え方は,ブッシュが先週の演説で示した中東のグランドビジョンに通じる.
 ある高官の言葉を借りれば,凍りついたイスラム世界の機能不全を打開するために「氷を砕く」必要がある.
 サウジアラビアのような前時代的な独裁体制は,イスラム過激派を勢いづかせるだけの存在なのだ.

――――――『Newsweek Japanese Edition』,2003/3/12

 【質問】
 ブッシュ政権はなぜ戦略転換したのか?

 【回答】
 もともと共和党内部では,キッシンジャーが広めた「バランス・オヴ・パワー」の世界観を外交戦略の中核とする現実主義者が主流であった.ブッシュ政権も,発足当時はより現実主義的な立場に立っていた
 この点は,「ブッシュ・ドクトリン」後の強硬路線が強調されるあまり看過されがちであるが,ブッシュ政権の安全保障に関する最初の文書は,ライス補佐官が『フォーリン・アフェアーズ』誌に寄稿した論文で,そこでは古典的なバランス・オブ・パワーの世界観が述べられている.

 また,現実主義者の他にも,日本や台頭しつつある中国を重視せよと主張するビジネス志向の国際主義者や,国際関係より国内問題を優先し,アメリカの対外的拡大政策への懸念を強調するグループなどがあり,こうしたグループは冷戦後のアメリカ外交の方向性を巡ってしばしば激しい対立を繰り返してきた.
 例えば,国際主義の広い枠組みの中に位置づけられる新保守主義者と,現実主義者及びビジネス志向の国際主義者の間でも,前者が現時点こそ世界をアメリカ流に変革できる歴史的転機だと考え,アメリカの覇権的地位を維持・拡大することに積極的であるのに対して,後者がより現実的な観点からアメリカの役割・利害を規定する点などにおいて,根本的な相違がある.

 こうした共和党内部の不協和音を解消し,新保守主義者の求心力を一気に高めた出来事が,言わずと知れた「9・11」である.同時多発テロ事件によって,反米という共通の利害関係を持つイスラム急進派とアラブの独裁政権,或いは「ならず者国家」がアメリカにとっての最大の脅威となり,こうした勢力を抑止するためには,微妙なバランス・オヴ・パワーを保つのではなく,世界各地でアメリカのパワーを使うべきだという新保守主義者の考えを浮上させた.そして,そこには軍事力の行使も含まれるのである.
 このように,アメリカの外交戦略は比較的短期間のうちに,そしてダイナミックに変容した.チェイニー副大統領やウォルフォヴィッツ国防副長官など,少数派であった新保守主義者の主張が本流となり,ライス補佐官も立場を大きく変えた.

JMR生活総合研究所 政治・経済研究チーム 青葉
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 【質問】
 なぜブッシュ政権はサダムに対し,徹底した不信感を抱いたのか?

 【回答】
 ホワイトハウス報道官室,2002年9月17日付によると,過去のサダム・フセインの言動の積み重ねが,不信を増幅させてきた模様.

 以下,引用.
 記憶が確かならば,出典は駐日米国大使館サイトより.

――――――
年表:サダムの欺瞞と抵抗―−「無条件」という言葉は聞き飽きた

 ブッシュ大統領は先週,イラクが国連決議に抵抗を続けていることに世界が注目するよう呼びかけた.
 フセイン政権は昨日,イラクが国連決議を無条件で受け入れると発表した.この声明は国際的な圧力があれば,フセイン政権は対応を余儀なくされることを示したものだが,これまでのやり方の繰り返しでもある.
 イラクによる「無条件」という言葉は,これまでも欺瞞や時間かせぎ,そして国連の軽視を意味してきたからである.

「イラク共和国政府は,国連の兵器査察団のイラク再入国を無条件で認めると決定した」
― イラクのナジ・サブリ外相,2002年9月16日 (下線追加)

 以下の年表では,イラク政府がこれまで再三再四,査察を「無条件」で受け入れておきながら,その後,多くの場合ピストルで脅すような形で,条件をつけてきた行動様式を列挙する.
 年表に盛り込まれた情報は,国連大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)が1998年10月にまとめた報告書,および
http://cns.miis.edu/research/iraq/uns_chro.htm
に掲載されたデータに基づいている.

1991年4月3日  国連安保理決議687号(1991年)C項により,イラクは国際的な監視のもとで,大量破壊兵器と射程距離150キロ超の弾道ミサイルを「破壊,撤去,無効化」することを無条件で受け入れるよう求められる(下線追加).イラクは1週間後,この決議を受け入れる.687号の規定は,国連が1991年6月と8月に取った措置の中でも繰り返され,強化された.

1991年5月  イラクはUNSCOMとその職員が特権・免責を持つことを受け入れる.その特権には「UNSCOM職員の出入国,および設備・機材などの搬出入を,妨害を受けず遅滞なく行なえる無制限の自由の権利」が含まれている.(下線追加)

1991年6月  イラク兵士が,査察官が車両に近づくのを妨害するため威嚇射撃を行う.

1991年9月  イラク政府職員が,査察官の書類を没収する.査察官が残りの書類の引渡しを拒否したため,イラクは査察団による施設からの書類持ち出しを禁止する.膠着状態が4日間続いたが,国連安保理が強制措置を取るとの声明を出したため,イラクは査察団が書類を持ち出すことを認めた.

1991年10月11日  国連安保理は決議715号を採択し,UNSCOMとIAEA合同による継続的な監視・検証計画を承認する.UNSCOMの計画は,「イラクはUNSCOMが指定した査察官とその他の職員を無条件で受け入れなければならない」とした(下線追加).

1991年10月  イラクは,決議715号によって採択された継続的監視・検証計画は違法であり,この決議に従うつもりはないと述べる.

1992年2月  イラクは,禁止された計画に使用された一部の施設および関連物資を破壊するとしたUNSCOMおよびIAEAの決定に従うことを拒否する.

1992年4月  イラクは,航空機とパイロットに危険が及ぶ可能性があるという理由で,UNSCOMによる監視飛行の中止を求める.国連安保理議長は,UNSCOMが監視飛行の実施権限を有することを再確認する声明を発表する.イラクは,UNSCOMの監視飛行に対するいかなる軍事行動も考えていないと回答した.

1992年7月6日〜29日  イラクは,査察団による農業省への立ち入りを拒否する.UNSCOMは,農業省には禁止された活動に関連する文書が保管されているとの信頼できる情報を得ていたと主張する.査察団は,国連安保理理事国が強制措置を取るとの圧力をかけた後,農業省への立ち入りを認められた.

1993年1月  イラクは,UNSCOMが自らの航空機でイラク入りすることを拒否する.

1993年6月〜7月  イラクは,UNSCOMの査察官がミサイル・エンジン実験台2基に遠隔監視カメラを設置することを拒否する.

1993年11月26日  イラクは,決議715号と継続的な監視・検証計画を受け入れる.

1994年10月15日  国連安保理は決議949号を採択し,イラクに対しUNSCOMに「全面的に協力する」こと,およびイラク南部に展開する軍隊を撤退させ当初の配置に戻すことを求める(下線追加).イラクは軍隊を撤退させ,UNSCOMとの協力を再開した.

1996年3月  イラク治安部隊は,UNSCOMの査察団が指定された施設5カ所に立ち入ることを拒否する.査察団は,17時間後に施設に立ち入りを認められた.

1996年3月19日  国連安保理は議長声明を発表し,イラクの行動に対する懸念を表明するとともに,これを「イラクによる関連決議に対する明白な違反」であるとする.安保理はまた,イラクに対しUNSCOMが査察対象施設すべてに即時,無条件かつ無制限に立ち入ることを認めるよう求めた(下線追加).

1996年3月27日 国連安保理の決議第1051号により,イラクの輸出入を監視するメカニズムが承認された.同時にイラクに対しては,このメカニズムによって課せられる義務をすべて無条件で果たすこと,およびUNSCOMとIAEA事務局長に全面的に協力することが求められた(下線追加).

1996年6月  イラクは,禁止条項の「隠蔽の手口」を調べるためにUNSCOMの査察団が施設に立ち入ることを拒否した.

1996年6月12日  国連安保理は決議第1060号を採択し,イラクの行動は国連安保理のこれまでの決議に対する明らかな違反であると断定した.国連安保理はまた,イラクに対してUNSCOMが査察を行うために指定したあらゆる施設への「即時かつ無制限の立ち入り」を許可するよう求めた(下線追加).

1996年6月13日 決議第1060号の採択にもかかわらず,イラクは新たな査察団の立ち入りを拒否した.

1996年11月  イラクは,UNSCOMがイラク国外で綿密な分析を行うためにミサイル・エンジンの残骸を持ち出すことを阻止した.

1997年6月  UNSCOMのヘリコプターに同乗したイラクの護衛兵は,パイロットが予定された目的地に向かうのを妨害しようとした.

1997年6月21日  イラクは,UNSCOMの査察団が査察のために施設に立ち入ることを,再度拒否した.

1997年6月21日  国連安保理は決議第1115号を採択してイラクの行為を非難し,イラクに対してUNSCOMが査察のためにあらゆる施設に即時,無条件かつ無制限に立ち入れるようにすることを求め,イラク当局者との面談についても同様のアクセスを求めた(下線追加).

1997年9月13日  UNSCOMのヘリコプターに乗っていた査察官は,査察指定施設内で不審な動きをしていたイラク車両の写真を撮ろうとしたところ,イラク軍将校から暴行を受けた.

1997年9月17日  イラクが「機密区域」であるとする施設に立ち入ろうとしたUNSCOMの査察官は,イラクの護衛兵がファイルを持ち出し,書類を焼却し,灰の入った缶を近くの川に捨てているところを目撃し,その様子をビデオに撮影した.

1997年11月12日  国連安保理は決議第1137号を採択し,UNSCOMとの協力に対して条件を課そうとするなど,イラクは義務に違反し続けていると非難した(下線追加).同決議では,義務違反について責任のある(またはそれに関与した)イラク当局者の移動も制限された.

1997年11月13 日  イラクは,UNSCOMで働く米国民に対して直ちに国外に退去するよう求めた.

1997年12月22日  国連安保理は,イラクに対してUNSCOMに全面的に協力するよう求める声明を発表し,イラクが施設への即時,無条件かつ無制限の立ち入りを認めないのは,国連安保理の決議に対する容認不可能な明らかな違反であると強調した(下線追加).

1998年2月20日〜23日  イラクは,1998年2月23日,国連との覚書に調印し,国連安保理の関連決議をすべて受け入れること,UNSCOMやIAEAと全面的に協力すること,およびUNSCOMとIAEAに,査察のための「即時,無条件かつ無制限の立ち入り」を許可することを約束した.(下線追加)

1998年8月5日  イラク革命評議会とバース党指導部は,制裁措置の終了へ向けた第一歩として国連安保理が原油の輸出禁止措置の解除に同意するまで,UNSCOMやIAEAとの協力を停止すると決定した.

――――――

 これに恣意的な情報収集活動が加わって,開戦に至る一つの主要な動機となった模様.


 【質問】
 なぜアメリカ国民はイラク戦争に賛成したか?

 【回答】
 米国世論は流動的であり,かつ,米国国民は戦争遂行に必要な人的資源というより,政策の支持を取りつけるための顧客的立場にある.
 よって,マーケティング戦略によって「戦争を売り込む」ことが可能であるため.



 各種の世論調査を見ると,今回のイラク攻撃に関する国民世論の状態は,湾岸戦争直前と類似していることが理解できる.
 ギャロップ社が1991年1月末と2003年1月初旬に行った世論調査によると,「現在のイラク情勢おいてはアメリカ軍(地上軍)を派遣してフセイン政権を打倒する必要性を感じる」と答えた人の割合は,
1991年が49%,
2003年が53%
と,12年前よりも今回の方が国民の支持率は若干高いが,それでも大きな差はない.
 また,8割近い国民が,イラクとの戦争に「勝利する」と確信していることも1991年と2003年では一致している.

 今回のイラク攻撃に関しては,まず政党支持・イデオロギー別に見ると,共和党支持者で保守派を自認する人ほど攻撃を支持する傾向が強く,無党派層(中道派),民主党支持者(リベラル派)になるにつれ,攻撃への支持率は低くなる(不支持率は高くなる)傾向がはっきりと出ている.
 人種別に見ると,白人とヒスパニックの間で支持率が高く,黒人の間で最も支持率が低い(黒人の間では不支持率が過半数を超えている).
 性別では,男性の方が女性よりも積極的であり,教育水準で見ると,教育水準が高い人ほど不支持率が高くなる傾向がある(大学院生の間では不支持率が過半数を超えている).
 ヒスパニック系アメリカ人に関するデータを入手することはできなかったが,全体として見ると,イラク攻撃に関する国民感情は1991年の時点とさほど変わりはなかった.

 むしろ興味深いのは,1991年の場合,イラク攻撃に対する世論が開戦直後から比較的短期間のうちに大きく変わった点である.
 1991年の例を見ると,開戦前の3ヶ月間,イラク攻撃への支持率はほぼ一貫して50%前後であった.
 しかし,開戦直後の2月初旬に行われた調査では,支持率は一気に71%に跳ね上がった.
 ところが,終戦後,半年経って行われた7月の調査では,「イラクへの軍事介入の必要性はあった」と回答した人は66%に止まり,一年後の1992年1月の調査では57%へと更に減少した.
 そして,周知の通り,前ブッシュ大統領は湾岸戦争時に90%近い支持率を獲得していながら,翌年の大統領選挙で敗れてしまった.

 もちろん,現ブッシュ大統領が同じ轍を踏むとは限らない.
 ただ,一つ言えるのは,世論は非常に流動的であり,そのため政権担当者としては戦争理由と成果を国民に「売り込む」,いわば「戦争のマーケティング戦略」が重要になるということである.
 現代のアメリカにおける戦争は(「テロとの戦争」を例外として),良くも悪くも,かつてのような大がかりな国民動員を必要としない.
 一方,アメリカ市民(民間人)が犠牲になる,または国土が攻撃される可能性も極めて低い.
 こうした状況では,国家から見た国民は戦争遂行に必要な人的資源ではなく,戦争遂行の了承を得る対象であり,最も身近な顧客となるのである.

JMR生活総合研究所 政治・経済研究チーム 青葉
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 【質問】
 開戦前のアメリカ国内の反戦状況はどうだったか?

 【回答】
 2003/1/18には全米で大小合わせて200以上の反戦集会が開催された.中でも特に規模の大きかったのは,首都ワシントンとサンフランシスコで開催された集会であり,2集会への合計参加者数は警察発表では約10万人,主催者側の発表では約85万人であった.
 いずれの数値であれ,1969年のベトナム反戦集会(参加者数推定60万人)以来の大規模な反戦集会であったと言って差し支えないであろう.

 サンフランシスコにおける反戦集会を取材したコラムニストのルース・ローゼンが指摘しているのは,この反戦運動を統一することに関して,インターネットが決定的役割を果たしていたということである.
 サイバースペース上には,反戦のメッセージを伝える数多くのウェブサイトが存在した.
 その中には,「ユナイテッド・フォー・ピース」,全国的な労働者団体,環境保護団体,人権擁護団体など左派系の団体のものから,保守派のシンクタンク「ケイトー研究所」や宗教団体,小規模な市民グループや学生組織,さらに海外の平和組織など,人種・宗教・イデオロギーの違い,そして国境を越えた多種多様な団体・個人によって運営されているウェブサイトが含まれる.
 こうしたウェブサイトが情報提供や大衆動員の機能を果たしたことによって,大規模な反戦集会が実現したとローゼンは指摘している.

 もっとも,こ戦争反対の声はアメリカの単独行動や先制攻撃による戦争に対して上がったもので,戦争そのものに反対する主張は少数派だったようである.

JMR生活総合研究所 政治・経済研究チーム 青葉
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 【珍説】
 アメリカのアキレス腱は,埋蔵石油資源があと1300億バレルしか確認されていないにもかかわらず,年間消費が現時点で70億バレル という冷厳な事実に尽きる.つまり現在以上に石油の需要が伸びな いと仮定しても,アメリカは自前の石油ではあと18.6年しか生きら れないのである.
 翻って,アメリカ以外の世界には石油があと2兆 3000億バレル埋蔵されていると確認されており,現在の世界の消費 は年間200億バレルだから,100年以上は保つ.
 チェイニーの「長期的にはアメリカ資源の増産を推進し,将来の需要増に備える」との政策は構造的に破綻しているばかりか,アメリカを10数年足らずの うちに外国依存の資源小国に陥れることになる.http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/kak3/1305282.htm
 この事実と,イランとイラクを含め,中東には地球の大半の石油が眠っていることとを考えれば,石油以外に理由が無い事は明らか.

 【事実】
 アメリカの石油輸入相手国は二宮道明編 『データブック・オブ・ザ・ワールド」(二宮書店)によれば,7割以上が中南米,カナダであり,中東には約2割しか依存していない.
 さらにアフリカ,東南アジア,北海油田からも低い割合ながら輸入するなど,リスク分散を図っている.
 仮に,現在消費量の5割を賄っているアメリカ国内産の石油が枯渇したとしても,各地域へ分散して輸入が図られるのは確実であり,戦争をしてまでアメリカがイラク・イラン2国に,その5割分を肩代わりさせるとは,リスク分散の観点から言っても,非常に考えにくい.その戦費を油田開発に充てたほうが,遥かにリスクが少ない.
 日本も,このような狡猾さには学ぶべきであろう.

 「石油の枯渇」自体,ありえないとする説もある.
 「このままのペースで石油を消費すると〜〜」というのは,現実的にはありえず

石油が少なくなる

石油の希少性が増し,高くなる

石油の消費量が減る

 また,石油の希少性が増せば,安価なエネルギーを作る競争が起き,結果的に石油よりも良いエネルギーが作られる可能性が高くなる,という説である.⇒more

 オイル・ショック後の傾向から見ても,この説は一定の説得力を持つ.


 【珍説】
 サウジアラビアとイラク,そしてイランの石油を抑えることで,アメリカは裏でOPECを支配することができる.現在アメリカはそのために,サウジ,イラクを手に入れ,イランも手中に収めようと,現在外交攻勢を強めているのである.(イラク情勢板他複数)

 【珍説】
 現状において,アメリカがイラクの石油を全て手に入れられるとでも思っているのか?まことにおめでたい事だ.
 イラクの石油をなかった事にする.これだけで先進国全てに対し,どれだけのアドバンテージを得られると思っている?(地政学太郎?)

 【事実】
 そのアドバンテージとは,もしかして石油を武器とした恫喝戦略のことかな?
 OPEC操作どころか,石油恫喝戦略そのものが現代では成立しにくい状況となっているのだが.

 これは,ロシア石油を安く売ってくれるようになったりとか,各国の中東依存度が昔より低くなったりしたことによる.

 サウジアラビアのヤマニ元石油相がいいことを言ってます.
 サウジは石油採掘のコストが格段に安いため,今の情勢下でOPECの石油減産協定には反対なんです.オイル・ショックの頃とは違って,OPECが減産して原油の値段が上がると,先進国はすぐにエネルギー源を石油以外の資源に求めますからね(これもオイル・ショックから先進国が得た教訓から可能になったことですが).
 で,ヤマニ曰く.
「石器時代は,石が枯渇する前に終わりを告げた.
 石油時代も,石油が枯渇する前に終わるかもしれない.」
 自国の国益を,壮大な文明論で表現したものです.
『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書)に載っています.

 だいたい,現状,なしんこにされたフランスとロシアから,徹底して協力拒否というディスアドバンテージ食らってますが?

軍事板他)


 【珍説】
 産油国のユーロへのシフトがアメリカに危機感を与え,イラク攻撃へ駆り立てた.

 米国指導者は,ユーロが欧州の地域通貨にとどまり,ドルと同格の機軸通貨になることを望まないといわれる.
 中でも,米国は,産油国が原油価格をユーロ建てに切り換えるのを嫌がる.お膝元の産油国ベネズエラでチャベス政権が登場した.この政権は石油輸出国機構(OPEC)のなかで原油を減産するほうのグループに加わっただけでなく,ユーロ建てに切り換えようとした.ベネズエラは米国の嫌がることを他にも沢山したかもしれないが,米国はクーデターまがいのことを画策したといわれている.

 イラクのフセイン政権は2000年11月6日をもって,原油取引きをドルからユーロ建てに切り換えた.これは,自国を敵対視する米国の通貨を嫌うためである.産油国イランも「悪の枢軸」にリストアップされているが,以前からユーロ切り換えを検討している.また中東の産油国のなかには,資産保存のために不安定なドルからユーロに切り換えようとする国が今後かなり出てくるといわれている.
 米国は何が何でもイラクを攻撃しなければいけない重要な理由は,イラクをここで叩いて示しをつけ,軍隊を駐留させて中東産油国がドルを離れないように牽制するためではないのだろうか?

 〔略〕
 この事情は中東の産油国が原油取引きをドル建てからユーロ建てに切り換えて,何が起こるか想像したら理解できる.
 中東原油の主要輸入国は日本や中国などの東アジア諸国である.原油がユーロ建てになると,これらの国がドル離れのテンポを早める.貿易で米国に対して出超の日本や中国などから輸出代金が米国にだんだん還流しなくなる.これは米国に都合が悪いのではないか?
 米国の貿易赤字も,経常赤字も,財政赤字も凄まじい.通貨の専門家は,マネーゲーム・バブルのためにドルの垂れ流しになり,流通量は気が遠くなるほど膨張していると指摘する.米国の通貨政策を「錬金術」と断言する人は少なくない.

 経済の数値から見れば,普通なら米国は通貨危機とか,超インフレとかいわれて大騒動になると思われる.そうならないのは,ドルの一極支配で米国の通貨が世界中で使われているからである.これは,広い海に流し込んだ公害の有毒物質が薄まるのと同じ理屈ではないのか.
 この結果,米国は株価が下がったくらいで涼しい顔をしていることができる.このような特権は誰だって手離したくない.(ドイツ在住ジャーナリスト 美濃口坦

 【事実】
 どっかのビジネス誌が何週間か前に,こういう痴的ファッションの犠牲になって,社説欄に「ユーロで変わる国際貿易のグローバルスタンダード」なーんてのを載せてるではないの.
 その記事の意見はこんな具合だ.「ドルがリザーブ通貨の役割を担ってきたおかげで,アメリカはほかのどの国にもできないことができる――つまり,輸出するよりも多額の財を輸入し続けられるということだ.(中略)アメリカは外国のドル資産を持つ人達に,5 兆ドルもの借りがあるのである」
 うーむ,その人達がユーロに乗り換えたら,いったいどうなってしまうんだろう?

 うん,心配するほどのことは起きないのだ.
 まずそもそも,輸出する以上に輸入できるというのは,アメリカの専売特許なんかじゃないんだよ.1980年以来,アメリカの経常赤字(これは貿易収支に加えて,サービスや投資収益なんかも含めた数字)は平均で GDP の 1.5% だった.
 これはイギリスの平均と同じくらいで,カナダの 2.2% より小さいし,オーストラリアの 4.2% とは比べものにならないくらい低い.この国達も,アメリカと同じやり方で輸入の超過分を支払ってる.外国人に,株や債券や不動産なんかを売ってるんだ.
 唯一のちがいは,この国達の赤字のほうが大きくて,だから GDP 比で見ても債務が大きいってことだ.
 一方のアメリカは,そんなにでかくないの.少なくとも,ネットでみてやれば.
 確かにアメリカは,外国人に 5 兆ドルほど借りがあるんだけれど,外国人のほうはアメリカに 4 兆ドルほど借りがあるの.その差額は,8,000 億ドルほどで,アメリカの GDP の 10% くらい.

 でも,ドルの特別な立場のおかげで,少しはメリットってないの? 殆どない.
 ドルの国際的な役割の殆どは,「会計上の単位」――つまりは国際取り引きの物差しとして使われるという点にある.
 例えば,日本の精油会社がクウェートの原油を買ったら,契約はドル建てでやるかもしれない.これは確かに,アメリカの経済的な影響を裏付けるものではあるんだけれど,そういう煽てはさておき,この取り引きで実際にアメリカが一銭でも儲かるかというと,そんなことはない.

 でも,アメリカはドル建てでお金が借りられて,外国人にドル建ての債券を売れるではないのって? そうだけど,他の国だってそのくらいやってるんだよ.
 でも,アメリカの対外債務はアメリカの通貨だてじゃないか!
 うん,でもそれがどうしたの? どのみち利息はちゃんと払わなきゃいけないんだよ.
 確かに,アメリカがすごいインフレを起こして対外債務を目減りさせることは,できなくはない.
 でも,アメリカはそんなことはしない――そして投資家がそんな兆候をかぎつけたら,連中はもっと高い利息を要求するようになる.

 でもでも,という人もいるだろう.ドルの国際的役割のおかげで,外国人も取り引き用にドルをもたざるを得なくなるのは確かでしょう?
 うん,そのとおり.
 でも目に見える形でではない.韓国の大宇(Daewoo)が三和銀行にドル建てローンを返済するときには,どっかの国際銀行にある自分の口座から小切手を振り出すわけだ.
 確かに,その国際銀行はニューヨークに口座をもっていて,その口座の一部は,連邦準備銀行におかれてる無利子の準備金に裏書きされてはいる.だからアメリカは実質的に,ドルの国際的な役割のおかげで無利息の融資を受けていることにはなる――でもたぶん,その金額はほんの数十億ドル程度だろう.8 兆ドルのアメリカ経済にとっては,小銭程度でしかない.

 外国人がドルを喜んで受け取ってくれるので,アメリカがかなり得をしている部分は,確かにある.それは,現金取引.外国人は,ドルの現金を 2,000 億ドル以上も持っている.
 そして,大金を現金払いしなきゃならない商売とか,外貨保有の制限にとらわれない連中の商売ってのがどんなものか,考えてみてよ.そう,ご想像のとおり.ドルは非合法取り引きでいちばん大量に使われる現金なんだ.アメリカは毎年外国人に,現金 150 億ドルほど(GDP の 0.2% くらいにあたる)を送り出して,かわりに各種の財やサービスを受け取っている.どんな財やサービスかって? 知らないほうが身のためよ.

 というわけで,ユーロの登場によってアメリカが被る脅威ってのはこんな具合だ:いまから 5 年たって,ウラジオストックのイカサマ師どもがあなたに何かとんでもないものを売りつけようとしたら,そのときには支払いは 100 ドル札じゃなくて,100 ユーロ札ですることになるかもしれない.こういう商売をユーロに取られたら,アメリカ経済の GDP には 0.1% くらい影響がでる可能性がある.
 うーん,ぼくはそんなの平気だとしか思えないんだけど,なぜだろうね.

訳注

*1 国際リザーブ通貨っていうのは,いろんな政府や企業が「外貨準備高」と称して外貨をある程度手元に持って置くんだけれど,そのときにあんまりマイナーな通貨をいっぱいもっててもしょうがないので,まあでかい代表的な通貨をいくつか持つんだよね.そのときに使われる通貨.

 で,なぜそんな「準備高」を持つかというと,まず国や企業としていろいろ外国に支払いをしなきゃいけないでしょう.借金を返すとか.で,為替レートはすごく変わりやすいから,場当たりで両替してると,返済計画がとってもたてにくい.だから,少し外国のお金を手持ちで持って置くわけ.海外旅行のときを考えてみてよ.その日,使う分のお金くらいは現金でもって置いて,あとはでかい買い物とかするときには,必要に応じて両替する(クレジットカードで払うってのは,その場で両替してるようなもんだ).その,手持ちの現金分が「外貨準備高」だ.

*2 ユーロは予定通り,1999 年に導入されて,クルーグマンの指摘してる「痴的ファッションの犠牲者」は日本にも山ほど出てる.でも結局,導入されても為替相場ではじりじり下がってて,だれもあまり将来に期待してないのがわかってしまった.ユーロそのものがそんなにいい考えかどうかも,実ははっきりしない.ユーロって要するに,ヨーロッパの中ではこれ一本ですみます,という話だ.すまなきゃどうなの? はあ,マルクとかフランとかたくさんあって,両替に手間がかかります.ふむふむ,それでその両替の手間って,そんなに大きかったの? それは・・・そりゃ出張精算で外貨の精算は面倒だけど,世の中が決定的に変わるほどのもんかぁ? さらに統一通貨なんかができたおかげで,ヨーロッパ各国はマクロ経済政策を自分では持てなくなっちゃた.金融引き締めでバブルを絞め落としたり,金融拡大で景気刺激をしたりとか,できなくなっちゃったんだよ.これのデメリットがこれからどう出てくるのか,かなり怖いものはある.ユーロもヨーロッパ共同体の見栄でやってる部分のほうが大きいのね.だからたぶん,これで経済が大きく変わったりはしないし,変わるとしても,マイナス方向に変わる面がでかい可能性だってかなりあるんだ.

Who's Afraid of the Euro? ( Fortune, 1998 年 4 月)
Paul Krugman
山形浩生 訳

 また,対外債務の絶対金額ではアメリカは最大の借金国だけど,GDP比でいったら46%もあるオーストラリアの方が重症(アメリカは20〜30%).
 もちろん,オーストラリア・ドルは基軸通貨ではない.どこの国でも,金を貸してくれる国さえあれば,赤字を垂れ流し続けることは可能.アメリカだけの特権じゃない.

 さらに,EURO加盟国の経済状態も悪い.
とくに,ドイツやフランスはデフレ寸前まで状況が悪化しているし,逆に,スペインやアイルランドでは,
インフレ率が高い水準でとどまっている.
 EURO加盟国は,ECBに金融政策を一括して運営させているが,各国のインフレ率は乖離しており,それぞれの国にとって必要な金融政策を行う事を阻害してしまっている.
 そして,このような問題を解決可能な方策の一つである財政政策による介入も,安定成長協定のおか
げで行う事が一切不可能になってしまっている.
このままでは,バブル後に金融緩和を行えなかった日本と同じ道を独仏は辿りかねない.

 EURO加盟国は,ちょっと通貨を甘く見たようにしか思えないね.
 インフレ率が,将来,収斂しきるまでは,この手の問題にEURO加盟国は直面していく事になる.
 そして,その時に発生する妥当でない金融政策はEURO加盟国を蝕んでいくでしょうな.

 ある国は,高いインフレ率のもとでの利下げを強要され,また,ある国は,デフレを前にして金融緩和を
行えなくなるのだ.
 まあ,安定成長協定を叩き潰せば,もう少しましになるかもしれないけれども,もし,財政拡大が遅くなるようだと,金融緩和無き財政拡大をやってもろくに景気回復に繋げられなかった日本の二の舞になる可能性大.

 ついでに言っとくと,もし,EUROが基軸通貨になったとしても,毎年得られるシニョレッジなどの利益は,EURO圏全体のGDPから換算すると,目糞ていど.何の助けにもならないよ.
 基軸通貨のために自国経済を危機に陥らせるなんて,もう,アフォかとバカかと.(by "急速不良型おきゅきゅきゅきゅ〜" from 国際情勢板)


 【質問】
 これ,ホント?

――――――
 ドルが機軸通貨〔原文ママ〕でなくなるかも,なんて前から言われてること.
 イラク戦争でそのリスクを低くしようとした可能性はある.
――――――

――――――
>リスクを低くって具体的にどうやって?

 イラクは原油決済をユーロにするつもりだったがアメリカは占領後ドル決済にした.
――――――

 【回答】
>イラクは原油決済をユーロにするつもりだったがアメリカは占領後ドル決済にした.

 それさ,永続的にイラクに親米政権ができていないと保障されない話だよね?
 つまりさ,君の話が正しいとすると,たった何年間かばかしドル決済をイラクに続けさせるために開戦したってことになっちゃうよ.

 あとさ,確かイラクの石油収入って最盛期で200億ドルくらいじゃなかったかな?
 アメリカ経済自身だけでも8兆ドルくらいあったし,ドル建てで回ってる経済はもっと多いよね?

「たった2.5%がユーロ建てに変わるぞ!」
「そいつは大変だ!戦争しなくちゃ!」
ってアメリカが考えたってこと?
 そんな馬鹿な.

 【反論】
 経済オンチはそう思うだろうね.

 ある日を境に機軸通貨〔原文ママ〕がいきなりドルからユーロに代わるわけではない.
 何かをきっかけにして徐々に代わっていく.
 イラクがそのきっかけだったかもしれない.
 ちなみに1年で2%代わったら,30年足らずで機軸通貨はユーロに代わる.

 算数の出来ないやつは「たった2%だから安心だ」と思うだろうが(笑)

 【再反論】
 おいおい,それじゃ桶屋理論そのものじゃないか.
 説得力がまるでない.

軍事板
青文字:加筆改修部分



 【珍説】
 ドルの基軸通貨たる地位が揺らぎ始めたのは,ユーロ登場の頃から.

 【事実】
 ドルの基軸通貨たる地位が揺らいだのは,かのニクソンショックのときからだアホ.
 いつもながら,まったく今の学校は何を教えているんだろうか.

軍事板
青文字:加筆改修部分


 【珍説】
 中東が不安定になれば原油はあがる.それが米国の石油業界が便乗しているのこともあるでしょう.
 とにかくサウジはブッシュさん家と仲が良い.
 そして中東の依存が高い日本は,テキサスに関係なく高値になるのは当たり前.

(ぼたんの花)

 【事実】

>テキサスに関係なく高値になるのは当たり前.

 先物取引の概念をご存知でしょうか?
(参考)ジェット証券株式会社
かぶ入門講座 時事編
http://www.jetsnet.co.jp/nyumon/jiji/bn/jiji_37.html

 ブッシュとサウジが仲が良いから値を上げていると言いますが,むしろ,仲が悪いから原油価格が引き上げられるという説もありますが?
 しかし,仲良いサウジからの輸入量は減って,ベネズエラからの輸入量は増えているように,サウジを軽視する方向にあるのですが.
 田中宇の記事は陰謀論が多いですが,中東依存度の低下や事実の部分の資料は参考になります.
(参考)田中宇の国際ニュース解説
ベネズエラとアメリカ
http://tanakanews.com/c0509venezuela.htm
サウジアラビアとアメリカ(下)
http://tanakanews.com/c1209saudi.htm
石油大国サウジアラビアの反撃
http://www.tanakanews.com/e0528oil.htm (October 7, 2004 20:00)

 あと,政府が原油高を引き起こしているのはむしろロシア.
 野党側の最大の支援企業であるユコスに対して,強権を発動して経営社を逮捕,資産凍結などを行い破産に追い込もうとしています.
 そのため,供給能力に不安を持つ人が多くなり,先物取引市場における原油価格が高騰する現象が起きております.
(参考)毎日新聞
露ユコス事件 政権介入で石油業界統制=モスクワ支局・町田幸彦
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/archive/news/2004/07/24/20040724ddm004070098000c.html

 他には長期的なエネルギー需要増と供給能力の限界があります.
 特に,中国の急速なエネルギー需要の増加などがあり,これが将来にわたる原油価格の高騰の予想を裏付ける根拠として取りざたされております.
(例え今の需要に比べて明白に高い取引き値だとしても,将来の中国の需要増により高騰するから元はとれるとの判断)
(参考)日本エネルギー経済研究所
特別速報 高騰する原油価格の背景と今後の展望 (2004/09/03)
http://eneken.ieej.or.jp/data/pdf/921.pdf
原油価格高騰は「投機」ではなく「根拠ある熱狂」だ (2004/09/27)
http://eneken.ieej.or.jp/data/pdf/931.pdf
中国の石油需給動向について (2004/09/02)
http://eneken.ieej.or.jp/data/pdf/919.pdf (October 7, 2004 20:01)

(Gainer)


 【質問】
 第二次湾岸(米・イラク)戦争は,証拠もなく大量破壊兵器があるかもしれない疑惑だけで攻撃したものですよね?
 それで戦争を起こして押し通す(大国としての)アメリカの行動は,これまでそれはいけないとしていた世界秩序を崩す行為であり,世界の治安を脅かすものにならないでしょうか?

 【回答】
 当時を考えると非常に難しいところで,
・国連による査察は「米軍の武力なしには機能せず」
・米軍が査察をイラクに遵守させるためだけのために湾岸に大軍を貼り付け続けるにも限界があり,
・地上戦闘を不能にする砂嵐が迫っており,
・WMDテロを阻止できるほかの有効な手段を,他のどの国も提案できず,それどころか,責任を持って解決しようと言う国がなく
…といった状況では,戦争にならないほうがおかしいかと.

(私見を述べさせていただくなら,当時ロシアやサウディアラビアが提案していた,秘密工作によるサダム・フセイン政権転覆が,正面切った武力よりもマシなやり方だったと考えますし,アメリカはロシアの秘密工作を最大限サポートして政権打倒を目指すべきだったと愚考します.
 ですがこれとて成功したかどうか,成功したとして,その後のイラクがどうなっていたか,は歴史のIFに属する話であって,
「確実にアメリカのやり方よりもマシなものとなっていたか」
については,保証の限りではありませんので念のため)

 戦争抑止の観点からイラク戦争を反省するならば,
・核査察において,必要最低限度の強制力(軍事力)を持たせる
というところになるのではないでしょうか.
 今,問題になっている北韓の核兵器開発も,KEDO合意のような安易な妥協はせず,核査察を断固として勧めていたならば,今日のような混迷を招かなかったでしょう.

 …そんな動き(強制力を持った核査察部隊の編成)は全く見えませんけどね.

 イラク戦争の不当性を訴える方々が,本気で戦争抑止を考えているのか疑問に思うのは,そういう点です.

消印所沢 in mixiに加筆

なお,上記文中の「私見」には,当方がプーチンびいきであるがゆえのバイアスが,無意識のうちに混入している可能性もありますので,これまた念のため



 【質問】
 なぜイラクより先に北朝鮮を叩かないのか? 北朝鮮のほうが差し迫った危機と言えるではないか.
 そんなダブル・スタンダードをアメリカがやっていることにも気付かない軍板住人は,兵器のデータを覚えることに汲々としすぎて思考力が退化しているに違いない.

 【回答】
 アメリカが北を叩きたがる理由は,自身の安全保障の為に北の核武装を阻止することだが,同盟国,韓国と日本が「北の核武装阻止の為の戦争」 に反対してるから.

 その理由は,
 1.韓国は,北の核武装阻止の為に戦争する理由がない. 既にソウル周辺を含め,韓国の人口の40%近くが北の重砲の射程内にある. だから,戦争になれば甚大な被害が確実.
 つまり,韓国から見れば,北の核保有で脅威が格段に増える訳ではないので,軍事解決の選択はしたくない.
 2.日本の反対理由は,ノドンに化学弾頭が装備されている可能性が高く,被害が大きいと予想されるから. 
 ただし,化学兵器や生物兵器は,被害が状況により大きく左右され,核ほど確実な脅威ではない.
 だから,日本について言えば,北の核武装は格段の脅威増加となる. だから,核武装阻止の為の戦争は,悩ましい選択となる.
 尚,北が日本のみを攻撃する理由は小さく,対韓国戦の後方基地としてになり,北にとっても最終局面の選択となる.
 但し,対日本の恫喝の道具として使用される可能性は大きい. 
 3.北とは50年間一応休戦が維持されている.(この3がアメリカの公式説明)

国際情勢板

 4.北朝鮮は,国内の銀行に発行させた大量の国債を,破格の安値で売り捌いている.購入者は主にヨーロッパやアメリカのマフィアに近い金融ブローカー達.
「『ブローカー達の狙いはこうです.北朝鮮が発行した国債なんて誰も買わないから,額面の2〜3%で購入できる.
 そんなクズ債券を買い集めて彼らが何をしようとしているのかというと,ズバリ,北朝鮮崩壊を待っているわけです.北朝鮮が崩壊して南北統一してくれれば,韓国が債務を引き継いでくれるはずという計算が,金融ブローカー達にはあるのです.
 実際,ドイツが東西統一したとき,東ドイツが抱えていた233億ドルの債務は全て西ドイツが引き継ぎました』(李英和・関西学院大学助教授)」
「北朝鮮債券の場合は全額補償されることはなくても,10%でも戻ってくればめっけものだ.なにしろ購入価格はタダ同然なのである.
 仮に北朝鮮が崩壊しなくても,購入者に損はない.米朝関係が改善し,北朝鮮がソフト・ランディング路線を歩めば,債券価格が急上昇する可能性は大いにある.
 実際,かつてベトナムが解放路線に切り替えたとき,額面8%で取引されていた債券が,86%に跳ね上がった例がある」
「そして,北朝鮮側からすれば,例え額面の数%であっても,印刷機を動かして証文を印刷すれば,外資が入ってくる計算になる」(「北朝鮮利権の真相」宝島社)
 韓国としては,急に北朝鮮が崩壊されて巨額債券が自国に振りかかってくるような事態は困る.

 他にも,北朝鮮を緩衝地帯としたい中国の思惑もあり,この中国という核保有国の意向をアメリカも無視するわけにはいかない.
 さらに,「既に北朝鮮は核兵器を保有している」という情報もあり,そうなると韓国や日本にとってのリスクはさらに高くなる.
 国際的に孤立していたイラクとは,状況が異なる.
 まるで化学反応のように,どんな国に対しても一律に適用できる対策が存在するなら,過去現在未来において外交など必要としない.

▼ そもそもアメリカは北朝鮮を,イランなどと格の「悪の枢軸」とは見てない.

 悪の枢軸(Axis of Evil)という言葉は,ブッシュ政権下でスピーチライターを務めたデイビッド・フラムの原案によるが,そのフラムが回顧録でAxis of Evilという言葉が生まれた経緯を書いている.

 フラムはまず,「イラクなどのテロ支援国家は憎しみの枢軸(Axis of Hatred)」という言葉を考えたが,当時のライス補佐官がイランも名指しで入れるよう提案し,さらにイラクとイランだけだと,イスラム圏に対する敵意が露骨に表れてしまうため,北朝鮮が加えられて最終的に「悪の枢軸(Axis of Evil)」となった.

 要するに悪の枢軸発言が飛び出した2002年の一般教書演説では,北朝鮮はおまけで加えられただけで,アメリカは北朝鮮を当時のイラクやイランのように重大な脅威とは見ていなかった.

 現在も北朝鮮は,独裁政権を維持するのが精一杯のジリ貧の国家.
 他国を攻撃する余力は無いし,もし攻撃すれば金王朝の消滅は必至で,それを自覚してるから援助や譲歩を引き出すために,テポドン2発射実験などの瀬戸際外交をやっている.

 アメリカにとっての危険度の順位は,イスラエルを地上から抹殺したいという願望を抱いてるイランなどよりずっと下.
 アメリカとしては北朝鮮の核兵器を封じ込めれば十分で,韓国や中国が多大な被害・迷惑を蒙る事が必至の体制転覆なんてやりたくない.
 それに石油があるわけでもなく,レアメタルが多少あると言われてるものの,攻撃によるメリットよりデメリットの方が大きすぎる.

経済板住人 ◆ebHA.RI.WI in 軍事板
青文字:加筆改修部分



 【珍説】
ブッシュが言っていたように,イラクにwmdがあったら,戦争を始めることにより,他の中東の親米国(とくにイスラエル)も,韓国と同じように被害を受ける可能性があった.(軍事板)

「〔NBC兵器があったとしても,〕自らが滅ぶに至っても使わなかったのだから,フセインは危険な人物ではなかったことになる.
 かつてクルド人には使ったことはあるが,国際的な監視の下では使えないという理性はあったことになる」(小林よしのり『戦争論3』 P.38)
 【事実】
(1) ブッシュの言によれば,核兵器はまだ研究・開発段階で,実用には程遠い.
 化学兵器は,それを使えば化学兵器による報復を招き,それは対化学戦装備の貧弱なイラク軍をかえって不利にする.使うわきゃない.
 これは湾岸戦争でも言われていたこと.

(2) Coalition Forces側から見ると,彼我の力関係を分析すれば,イラク軍の通常戦力は問題ではなく,直接的な脅威はスカッド等の弾道ミサイルだけだった.
 が,これらも開戦当時には,ほとんど無力化されていた(最初から持ってなかったという話もある).
 さてイスラエル本土を攻撃するには,ミサイルの射程を考慮すれば,イラク西部の砂漠地帯から発射する必要があるのだが,同地域にある主要拠点は開戦と同時にCF側の特殊部隊がことごとく制圧してしまった.
 これでイスラエルが攻撃される可能性は,ほぼなくなった.
 結局イラク軍による他国への攻撃は,クウェイトのショッピング・センターに「シルクワーム」ミサイルを撃ち込んだぐらいで終了.
 逆に言えば,ここまで完全に脅威を排除できると判断したからこそ,アメリカは開戦に踏み切ったと言えるだろう.
 余談だが,イスラエルの大衆には,開戦当初を除き,全くと言っていいほど緊張感がなかった.ホームフロントコマンドの命令により,全国民に外出時にガスマスクの携行が義務づけられていたのだが,大半の人間がそれを守らなかった(国会議員でさえも!).
 野党からは,存在しない危険に対して過剰反応ではないか?と,HFCを批判する声も出たくらいだ.

(イスラエル国防相 ◆3RWR.afkME)

 フセインが毒ガス使ったタイミングは,
・欧米の援助をバリバリに受けてたイ・イ戦争の時.
・湾岸戦争時ブッシュが攻撃中止を発表した直後,舌の根が乾かんうちに再攻撃だ,とは言えない時期.
であって,結局自身の保身の方が優先度高というだけ話.
 自分の首を絞めなきゃいくらでも使いたがってるのが本当の所だったろう.

(コヴァ板)


 【質問】
 なぜアラブで最も近代化したイラクという開発独裁国家を破壊したのか?
 なぜ北朝鮮という完全に失敗したカルト独裁国家を延命させるのか?
 この2国へのアメリカと日本の対応は全く理解できない.

小林よしのり in 『SAPIO』 2005/1/5号,p.66欄外

 【回答】
 「敵と味方」「善と悪」の単純な概念しか持っておられなさそうな人には,確かに理解は難しいでしょうな(笑)

 対象国の近代化の有無は,国家戦略の中に於いてあまり大きな意味を持ちません.
 たとえば台湾がいくら近代化されているからといって,中国が台湾の「解放」の意思を放棄してくれるわけではありません.
 ベルギーなんぞはどれだけ近代化していても,通り道になるからという理由だけで,2度も侵略されていますね.

 また,独裁国家であるか否かも,国家戦略の中に於いてあまり大きな意味を持ちません.
 たとえばジンバブエがいかに経済崩壊していても,スーダンがいかに住民を虐殺していても,介入することに国益を見出せないために,どの国も本腰を入れて介入しようとはしていません.
 むしろ独裁国家を支援することのほうに国益を見出す国すら存在しますね.
 スーダン・バシール政権やミャンマーの軍事政権を支援している中国が好例です.

 同じp.66の最初のコマで小林は,
「今,やっと国際法が浸透してきた時代」
と描いていますが,実態としてはそんなものなのです.
(むしろ,マイケル・イグナチエフが『仁義なき戦場』で指摘しているように,表向き政府とは関係ない武装勢力に違法行為を肩代わりさせることによって,国際法を出しぬく手口が増えてきているのが現状です)

 各国はそれぞれ国益を計算しながら,それぞれの事案についてケース・バイ・ケースの対応をしているだけであり,イラクと北朝鮮との対応の違いは,そのケース・バイ・ケースに他なりません.


 【珍説】
 ただ,ただ,アラブの国の中で大量破壊兵器を持つ者があってはならない…
 それはイスラエルにとって脅威になるから!
 イスラエルはすでに核を持っているけれども!

 …そういうアメリカの理屈なのである.

(小林よしのり from SAPIO 2003/4/23, P.59)

 【事実】
 ブッシュ政権に親イスラエル傾向があるのは確かだが,それだけで一国が巨額の戦費を費やして動くほど,国際社会は甘くはないよ.

 イスラエルにとって脅威になるからではなく,マックス・ブートらが説明している(上述)ように,テロリストを通じてアメリカ自身の脅威になるから(と,アメリカが感じていたから)である.
 ちなみに,大量破壊兵器である化学兵器なら,対イスラエル強硬派一番手であるシリアも開発中とされているが,現在までアメリカは言葉による威嚇以上の行動に出ていない.
 また,上述のように,イスラエル自身はイラクのWMDの脅威など,大して感じていなかった.


 【珍説】
http://tanakanews.com/c0722jordan.htm
 上記のニュース記事によると,アメリカとイスラエルには,ガザ・西岸のパレスチナ人をヨルダンに追放して,アラファト以外のパレスチナ人指導者を立てて,ヨルダン(すでに住民の過半数がパレスチナ人)を名実ともに「パレスチナ人国家」にして,フセイン打倒後のイラクにヨルダン王家を迎え入れ,ハーシム家の王様をイラクの元首にする計画があるとか.
 一見するほど突飛な計画ではありませんな.イラクはもともとハーシム家の王国で,革命以降のイラクに対する宗主権をヨルダン王家は捨てたとは思っていないはず.
 ハーシム家としでもヨルダンにくすぶっているよりは,アッバース朝の首都バグダードの方がシャリーフたる自分達にふさわしいとお思いでしょう.
 ジョージ・W・ブッシュはキング・メイカーの夢を見るか?!

http://www.mainichi.co.jp/eye/feature/nybomb/tokusyu/power_1/04.html
 毎日新聞「民主帝国アメリカン・パワー」より.「◇「イラクにヨルダン王家」構想も 」
「ワシントンのユダヤ系シンクタンク「高等戦略政治問題研究所」(IASPS)が96年6月に出した政策提言が今,亡霊のように息を吹き返している.
 「クリーンブレーク」(完全なる決別)と題された文書は,「フセイン政権を倒し,イラクにヨルダンのハシム家を復活する」ことに言及,イスラエル中心の中東の再編構想を描く.
 注目されるのは,イスラエルと関係が深いパール国防政策委員長,ファイス国防次官らの署名があることだ.
 「フセイン後」のイラクに,イスラエルと国交を持つヨルダンのハシム王家を据えるというもくろみは,この構想を支持する中東専門家マイケル・ルービン氏が昨年10月,イラク担当官として国防総省入りしたことで,再び注目を集めた.
 ハシム家は58年の革命で王制が倒れるまでイラクも統治した.
 パール氏とともに国防長官の諮問機関,国防政策委員会のメンバーを務めるエリオット・コーエン氏(ジョンズホプキンズ大教授)は
「ハシム家がイラクに戻って王制を敷くという考えには大賛成だ」と語る.
http://www.mainichi.co.jp/eye/feature/nybomb/iraq/200211/26-02.html
「フセイン体制崩壊後は―― ヨルダン紙・論説委員長インタビュー 」
「◇イラク反体制派まとめ役・ヨルダン元皇太子に注目−−「象徴的な国家元首にもなりうる」
「元皇太子はイラクのスンニ派,シーア派などと良好な関係を保持している.
(1)イラク反体制派を糾合する(2)イラクの新政権・新憲法構想を提示する
(3)体制変更後のイラクで象徴的な元首や国会議長の役目を果たす――などだ.」

 【事実】
 それら記事からだけでは,ブッシュがはたして本当にそんなことを考えているかは分からない.
 田中宇のコラムをよく読んでみよう.
 クリーンブレークなる文書がある.これは事実だ.
 マイケル・ルービンがイラク担当官に就任した.これも事実だ.
 だが,この2つの事実があるからといって,
「アメリカがハシム家をイラク王に据えようとしている」
 これはただの推測だ.
 しかも根拠は,大学教授が賛成した,ということでしかない.

 毎日新聞の引用記事のほうは,それを裏付けているとは言えない.
 ハーシム王子が議会に出席した=計画を持っている
ではない.
 そういう方法をやってみたらどうだ?と主張する人がアメリカにいる,ってだけの話を,田中サカイが想像で膨らませているとしか思えない.

(世界史板)

 さらに言えば,ブッシュ政権はイラクを復興・民主化することで,イラク攻撃への批判をかわそうとしている(B. ウッドワード著『ブッシュの戦争』 日本経済新聞社)ため,王制復古などまずありえないと考えてよい.


 【珍説】
 昨日DTの松ちゃんがラジオで,兵器の使用期限が10年くらいで,そのために今回戦争起こしたとか言ってましたが,この意見は合ってますか?

 【事実】
 兵器の使用期限は,兵器の種類によって大きく異なります.
 B-52なんか半世紀前のモンだし,生物兵器には有効期限が1週間を切るモンもありますから,その見解は明確に誤りです.


 【珍説】
「内政不干渉,
他国の主権に介入せず」という
ウェストファリア条約(1648年)
以来の国際法をアメリカは
公然と破壊してしまった!

それができたのは
アメリカが,
必ず勝者になるテクノロジーを
独占してしまったからである!

(小林よしのり「戦争論」第3巻37ページ目)

 【事実】
 内政干渉の原則論に関しては,まだ流動しています.

 確かにウェストファリア条約を継承した内政不干渉・民族自決の原則は,国際法や国連憲章でも保証されたものですが,今日国家主権が絶対不可侵と言い得るかには問題があるからです.

 一つには秩序の問題.
 例えばマイケル・ウォルツァーという政治学者は,上記の内,政不干渉を国際政治における絶対原則として主張していますが,一方で戦争や介入を正当化できる例外として,「自国に明白な脅威が差し迫っており,選択の余地が無い場合」は「予防的先制攻撃」が認められるとしています.
(政治的に選択性が残っている「予防戦争」とは別なので念のため).

 この論に従えば,今回のイラク戦争は,イラク政府の継続的な国連査察団妨害,湾岸戦争後も禁止されていたNBC兵器の開発を継続するなど,国連決議1441の履行が不完全であったことからも,9.11テロ後の英米にとってイラクは英米,国際秩序にとって「明白な脅威」と認識されること,予防的先制攻撃が行使されることもおかしくないと解釈できます.

 一方で正統性の観点から見れば,小林氏のように内政不干渉を犯しているという批判もできます.
 しかしながら,この内政不干渉を絶対とすれば,先に挙げた「予防的先制攻撃」としての武力介入,ある国内での弾圧などに対する人道主義的観点から行われる「人道的介入」なども否定され,ただ国際社会は静観しなければならなくなるというディレンマを抱え込みます.

 ついでに,「公然と破壊した」と言われても,この種の内政不干渉を無視した「強度の介入(武力侵攻)」は,アメリカの中央アメリカ政策やら,ソ連のブレジネフ・ドクトリンに限らず,アジア,アフリカ諸国間でもしばしば発生しているという事実もお忘れなく.

 内政相互不干渉で有名なA.S.E.A.N.でさえ,内政不干渉という17世紀以来の国家主権に結びついた伝統は時代遅れになりつつあります.
http://www.gispri.or.jp/newsletter/1999/9903-1.html

 その是非はともかく,少なくとも「他国の主権を侵すから駄目なんだ!」の一言で停まるのは思考停止の一種ではあります.

 それから,「必ず勝者になるテクノロジー」なんてのは,実際にはありえません.「戦争論」と題打った本にあるまじき表現です.
 ベトナム戦争やソマリア介入のように,戦略がチグハグだったり要らぬ制限が多かったりする場合は,撤退に追い込まれる場合もあるからです.

 拳銃や短機関銃で武装した一隊が,不意打ちや油断等の要因で,槍や拳のみの部族民に負ける場合だってあります.第二次世界大戦直前の話ですが,イタリアがエチオピアに侵攻して負けかけています.
 結局,毒ガスを使って勝利するのですが.

 青銅器や鉄器,銃砲など,技術革新は数あれど,「勝者になる可能性を高めるテクノロジー」は存在しても,「必ず勝者になるテクノロジー」などは本質的にありえません.
 それを「アメリカが独占した」などと言われても…….

 【参考文献】

 ジョゼフ・S・ナイの『国際紛争 理論と歴史』(有斐閣)
 当人はリベラリストに属する学者さんですが,もともと大学生向けのテキストなので,国際政治学上の論点について,中立に,かつ体系的に理解できるよう書かれています.

 最上敏樹『人道的介入』(岩波新書)
 今回のイラク問題とは若干ずれますが,主権と介入の問題についてはこちらも参考になります.

 どちらもさして値も張らず,合わせても小林よしのり「戦争論」シリーズ3冊より遥かに安く,価値があることは請け合いです.

(軍事板出張スレッド in コヴァ板)


 【珍説】
 イラク戦争も終息に向かっているのに,第4歩兵師団と第1騎兵師団の展開準備は停まっていない.
 イラクでの余勢を駆り,引き続いてシリアに攻め込もうとしているに違いない.

 【事実】
 そうはならないだろう.理由は以下の通り.

 (1) 既に国家財政・経済がイラク戦争によって悪化していること.
(イラク戦争は景気浮揚のためだ,なんて言ってたやつは誰だ?)

 (2) シリアはイスラエルと直接に国境を接しており,容易にイスラエルを戦争に巻き込むことができること.つまり,イスラエルVSアラブの図式を容易に作れる.

 (3) イラクの場合と異なり,シリア空軍・防空部隊は健在であり,制空権を取るのがイラク戦争よりも難しいであろうこと.

 (4) イラク戦争後のイラク統治が,アメリカ思惑通りに運ぶとは思えないこと.

 (5) イランや北朝鮮の核問題にも同時に対処せねばならないこと.

(6) 米海軍空母は続々と湾岸から引上げつつある.キティホークには13日に横須賀への帰還命令が,コンステレーションには14日にサンディエゴへの帰還命令が出た.

(7) 今回のイラク戦(とアフガン戦)で使った精密誘導兵器と巡航ミサイルの補充に,相当な時間がかかる.
 開戦前,Pavewayの在庫は5万以上,JDAMの在庫は9万弱だったが,バグダット攻囲前の段階で1万発以上の「精密誘導弾」を投下したと米軍は発表している.
 トマホークは在庫の1/3を使用したと言われる.
 もう1戦できない残量ではないが,その「一戦」の後のことを考えると,迂闊には開戦できない.
 これを予備定数まで補充するのに2年はかかるとされているので,当面,物量にものをいわせた力押しは無理.

 ゆえに現在のアメリカの言動は威嚇以上の何物でもない.


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