c

「軍事板常見問題&良レス回収機構」准トップ・ページへ   サイト・マップへ

◆◆2005年
<◆諜報史
諜報FAQ目次


 【link】


 【質問】
 潜水艦資料漏洩疑惑とは?

 【回答】
 防衛庁の潜水艦に関する技術資料が,同庁研究施設の元主任研究官によって,20年近く持ち出され続け,情報が中国に渡ってていたとされる疑惑.2005/4/2発覚.
 以下引用.

――――――
 疑いが持たれている同庁研究施設の元主任研究官(63)と,持ち出しをそそのかしたとされる貿易業者(53)の交流は,二十年近くに及ぶとされる.
 持ち出された論文は,元研究官自身が作成に関与.防衛庁内で「秘」ランク以上にあたるこの秘密書類は,貿易業者に渡ったとされるが,二人の間に金銭の授受はなかったとみられ,警視庁公安部は資料流出の全容解明を急いでいる.

 関係者によると,元研究官は,「高張力鋼」と呼ばれる潜水艦の船体の鋼材と,その溶接技術などについて,防衛庁技術研究本部の研究施設で研究していた.
 平成十三年七月に研究施設の主任研究官となり,十四年三月,退職した.
 その後,総合重機メーカーに勤務し,鋼材の強度向上についての技術的な指導や,客である防衛庁に対する窓口を担当しているという.

 資料を受け取ったとされる貿易業者は,「食品雑貨の輸入の仕事」(貿易業者)で中国に頻繁に渡航しており,中国大使館にも出入り.防衛庁直営の売店にも物品を納入しており,「以前は鉄鋼関係の仕事をしていた」(警察幹部)関係もあって,元研究官と知り合ったとみられる.
 きっかけは「人づての紹介」(貿易業者)とされ,都内や神奈川県内のなじみの店で,多いときは毎週のように飲食を共にしていたという.
 こうした交友の中で防衛資料持ち出しの“算段”は行われたとみられる.

 貿易業者の周囲には,物品納入の経験から自衛隊関係者が多く,警察幹部は,
「ロシアの職業スパイとは比較できないが,貿易業者は時間をかけて自衛隊関係者から資料を得ようとしていた節があり,行動はスパイ的.
 その目的の解明が,今後の捜査の重要課題」
と話している.

――――――産経新聞,2005/4/3

▼ この手のスパイ戦は,日常茶飯事に行われているものでしてね.
 この件もきちんとした部署に相談して,欺瞞情報を相手に流すように逆工作を掛けるべきでした.

 問題は相談すべき部署があるかどうか,そういった時の対処法を教育しているかどうか,ということです.

Posted by JSF at 2005年12月27日 23:44:42
「週刊オブイェクト」コメント欄,2005年12月27日付
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 高張力鋼板は確かにかつてはハイテクノロジーでしたが,自動車等の民生品向けにも製造しているものですし,今となっては支那でも製造しており,軍事機密というほどのものでもないのでは?

Posted by 名無しT72神信者 at 2005年12月27日 17:57:12

 【回答】
 馬鹿を言うな.
 流出したのはNS110鋼の技術だぞ?
 自動車用の高張力鋼材なんかと一緒にするな.
 アメリカですら欲しがっている特殊鋼だというのに.
 高張力鋼なら何でも同じとでも思っていたのか?

 それ以前に高張力鋼の技術は溶接法こそが重要なんだが・・・
 単純に造るだけでは済まない.

Posted by 名無しT72神信者 at 2005年12月27日 19:38:55

 NS110鋼でぐぐったら,こんなのが出てきた.
http://big5.china.com/gate/big5/military.china.com/zh_cn/critical/25/20041103/11946363.html

 関心高いようです.

Posted by 名無しT72神信者 at 2005年12月27日 23:46:57

 高張力鋼板ですが,中国の物はレベルが低く,自動車にすら採用が危ぶまれる代物です.
 つーか,使い物にならん.
 自動車会社ですら高級車に採用する物は日本から輸入している.
 日本の鉄鋼会社も,これに関してはさすがに合弁会社で作る気はないようで.
 韓国ですら,その気無し.

Posted by うみゅ at 2005年12月28日 10:14:55

 ちょっぴり金属に詳しい俺が来ましたよ.
 日本の最新潜水艦に使われているのはNS110(110kgf程度)で,強度だけなら日本の自動車のドアビームに使われるハイテン(強度120kgf)よりも低いです.
 しかし高強度なハイテンの,それも大型部材だと,溶接時の余熱や冷却に関するノウハウがないと,まともに扱えないのです.
 単純な熱の膨張やゆがみの他に,溶接時の水素による割れ,冷却時の金属内微細結晶の成長や添加元素の結晶化による構造不均衡,それらの複合で強度が出なくなるなど.
 これの軍事用レベルの技術が漏れると,相手が強くなるばかりでなく,こちらの限界まで看破され得る可能性があり,大変危険で好ましくないのです・・・

 ちょっと古いですが,ここなんか解説として適しているかと↓
http://www1.cts.ne.jp/~fleet7/Museum/Hsteel.html

Posted by 名無しT72神信者 at 2005年12月29日 08:34:16

「週刊オブイェクト」コメント欄,2005年12月27日付
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 北住英樹事件とは?

 【回答】
 2005/5/30,防衛省情報本部電波部課長,北住英樹(きたずみひでき)・空自1佐(50)が,中国海軍の「明 Ming」型潜水艦が南支那海で航行不能となった件に関し,防衛相が指定する高度の秘密に当たる防衛秘密が含まれることを知りながら,中国潜水艦の行動情報を読売新聞記者に漏洩した(防衛省見解)とされる事件.
 2008/3,彼は自衛隊法違反で書類送検され,2008/10/2,懲戒免職となった.
 記事のどの部分が秘密に当たるのか,防衛省では明言を避けている(これ自体は,まあ当たり前)が,どうやら事故潜水艦の艦番号については米軍情報が元になっていたらしい.

【ぐんじさんぎょう】,2008/10/5


 【質問】
 この事件は,報道の自由を侵すもの? 戦前への逆戻り?

防衛秘密漏えいで書類送検へ=1佐,来週にも−中国潜水艦事故の読売記事・警務隊

 自衛隊の警務隊は2日,2005年に起きた中国潜水艦の事故に関して,読売新聞記者に防衛秘密を漏えいしたとして,防衛省情報本部電波課長だった1等空佐(49)=同本部総務部付=を自衛隊法違反(防衛秘密漏えい)容疑で東京地検に書類送検する方針を固めた.検察側と協議の上,来週にも送検する見通し.
 防衛秘密漏えい罪は同法の守秘義務違反罪より刑は重い.防衛秘密漏えい容疑で自衛官が書類送検されるのは初めて.自衛隊をめぐる「知る権利」や「報道の自由」への影響は必至で,法の運用をめぐり大きな議論を呼びそうだ.

2007年3月2日8時1分,時事通信

 【回答】
 明確な回答というものはないだろうが,以下に意見の幾つかを紹介する.

----

 多くのマスコミや左の人たちは防衛機密を,知られてはマズイ物を隠すための物と認識しているようだ.
 だが本当にそうだろうか?
 例えば何気ない情報だって致命的なものに繋がることもある.乗員名簿だって他国の工作員から見ればかなり有効だ.乗員の身元が割れるのだから脅迫のターゲットとしやすくなる.
 そうして得た情報で自衛隊員の生命が危険に曝される.
 マスコミや左の人たちは,自らの発言が自衛隊員達の生命を危険に曝すかもしれないという認識を持っているのだろうか?
 はなはだ疑問である.

future combat systems in FAQ BBS

 彼らはきっと自覚してやっていると思いますよ.
 それで事件が起これば,ニュースが出来ますから.

 そう考えると最悪ですね.
 まぁ,マスコミはともかく,左の人たちはそういつつもり満々で情報公開を迫っているのでしょう.

 まぁ,左翼は自国を売りたがる人が多いので.

 ただ防衛機密は知られたら不味いものだと思います.
 機密だし.その不味いをなんか陰謀っぽく考えているマスコミのマスコミ脳(とでもいうのかな)が問題ありすぎと.

通りすがり in FAQ BBS


 【質問】
 東芝ディスクリート事件とは?

 【回答】
 東芝の子会社「東芝ディスクリート」の元社員が,在日ロシア通商代表部員に軍事機密に該当する情報を漏洩し,見返りに100万円を得ていたことが分かった事件.
 警視庁公安部は20日までに,背任容疑で元社員と通商代表部のロシア人(6月に出国)を書類送検しています.

 →提供された情報は,高周波トランジスタ関連情報で民生用ですが,軍事用にも転用可能だということです.
 なお,当該ロシア人に対しては「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」として今後の入国を拒否する手続きが取られました.
 最近いろいろと自衛隊を巡るおかしな事件がマスコミを通じて報じられてきましたが,情報漏洩に関する公安の警告だったのでしょう.

(おきらく軍事研究会)


 【質問】
 韓国・「Xファイル」事件とは?

 【回答】
 韓国の情報機関,国家情報院(旧・国家安全企画部)が金泳三(キムヨンサム)政権(93〜98年)から金大中(キムデジュン)(98〜03年)政権にかけて,政財界要人に対して続けていた違法盗聴が,2005年8月に発覚した事件.
 以下各種報道から引用.

 発端は,金泳三政権時代に安企部内に結成された秘密盗聴班が,政財界幹部を対象に法的な手続きを踏まず行った盗聴テープの一部を,在米韓国人が盗聴班元責任者から入手したことだった.
 テープには財閥・サムスンの不正政治献金に絡む会話が含まれていたことから,この在米韓国人がサムスン幹部を脅して金を要求,同時に一部メディアにテープが流出した.
 7月下旬に報道されて以来,政界では過去の政権の違法盗聴の実態解明と同時に,不正献金をめぐる「真相究明」を求める声が噴出.流出情報には97年大統領選挙の直前にサムスン幹部が当時,中央日報社長を務めていた洪錫ヒョン(ホンソクヒョン)駐米大使と不正献金について会話した内容が含まれており,洪氏の辞意表 明にまで発展した.

 盗聴班元責任者は逮捕され,自宅から盗聴テープ274本と録音報告書13冊・ 計3000ページが押収されており,内容が公表されれば関係者がさらに拡大する可能性がある.
 政界では,盗聴情報を公開するかどうかをめぐる攻防が始まっている.

 現行法では,違法盗聴で入手した情報の公開は,通信秘密保護法や憲法18条の秘密保護条項に違反するとされる.
 しかし,政界では不正献金など違法行為を公開するよう求める特別法制定の動きも出ている.
 サムスンの李鶴洙(イハクス)副会長は9日,検察当局の事情聴取を受け,盗聴テープで脅迫を受けた事実は供述したが,洪大使の不正献金については「記憶にない」とつっぱねた.
 サムスン側は特別の弁護団を結成.あくまで「違法盗聴の被害者」との立場を貫き,不正献金疑惑に基づく捜査には徹底抗戦する構えだ.
 一方,国家情報院は5日,金大中政権時代にも02年まで違法盗聴があったと公表.盧大統領と支持基盤を一部共有する金前大統領との対決にも発展している.
 金前大統領は,「(盧政権の)陰謀工作の被害にあった」と秘書を通じてコメントを出し,10日に体調不良を理由に入院.政界では「抗議の入院」との見方も出ており,与党内にも盧政権の支持基盤内の摩擦を懸念する声が出ている.

(堀山明子 from 毎日新聞,2005/8/11)

 金前大統領は2005/8/12,「体調不良」と「微熱」の検診を理由に入院した.
 韓国国家情報院は五日の不正盗聴事件中間発表で,金大中時代も盗聴していたことを公表した.
 これに対して,金前政権与党の民主党は
「盧政権の政治的な意図」
「金前大統領の影響力から逃れようという狙いだ」
と猛反発.金前大統領の秘書は
「国民の政府(金大中政権)への冒涜(ぼうとく)だ」
などと批判,盧大統領が
「政治的な意図はない」
と弁明するなど,両者の関係は険悪化していた.

 前大統領の入院という事態を受けて,青瓦台(大統領府)は十一日,
「発表では金前政権で盗聴が行われていたとしたが,前大統領が盗聴を指示したとは言っていない」
と弁明するという気の使いようだ.
 だが,「金大中責任論」も浮上,同氏に与えたダメージは小さくない.
 韓国メディアの報道によれば,金前大統領の当時の言動には,盗聴抜きでは入手しにくい情報も含まれていたとされる.
 現職時代,「盗聴は絶対に許されない」と強調し,「人権侵害と戦った人生」を誇ってきただけに,「その心情はいかばかりか」と推察する金前大統領側近もいる.
 前大統領は最近は食事ものどを通らなかったという.

 一方,与党は困惑を隠せない.金前大統領はなお強い影響力を保持し,与党のウリ党には金大中氏の圧倒的支持基盤である韓国南部,全羅道出身議員が多いからだ.
 無言の“抗議入院”で,来春に地方選を控えた与党は浮足立ってもきた.

(久保田るり子 from 産経新聞,2005/8/12)

 今週からは当時の千容宅・国家情報院長はじめ現職,元職の検察当局による幹部召喚が本格化する.
「沈痛に憤怒….一言で言えば,びくびくしている」.
 十九日,約四十人のソウル中央地検の盗聴捜査チームによる,十時間に及ぶ捜索の際の国情院職員の様子を,韓国メディアはこう伝えた.
 名刺も持たず身分を隠して活動してきた職員は
「仲間の気持ちがバラバラになった.情報漏れが怖い」
と話した.
 不法盗聴事件は,金泳三政権時(国家安全企画部時代)の盗聴チームによるテープがマスコミに流れたのがきっかけで,韓国政財界を巻き込む大事件に発展した.
 盗聴は電話だけでなく料理店などでも行われていた.

 流出したテープでは九七年大統領選挙で与党候補にサムスン財閥の資金提供を持ちかけた洪錫●・駐米大使(当時中央日報社長)が資金話をしていたことが露呈,大使辞任に追い込まれた.
 押収されたテープは約二百七十本余だが,まだ数千本あるといわれる.
 韓国では「Xファイル事件」とも呼ばれる.
 不法盗聴なので証拠能力はないが,テープ内容の公表をめぐっての是非論も政治課題となっている.

 国民の関心は「Xファイル」の内容とともに盗聴の実態だ.
 国情院は金大中政権下でも二〇〇二年三月まで盗聴が行われていたことを発表.人々に疑心暗鬼が広がる中,真相究明と徹底調査を明言した盧武鉉大統領の意思を受け,検察が史上初めて,国情院の「聖域」に踏み込んだ.
 韓国の情報機関は,KCIAと呼ばれた中央情報部時代の拷問や不審な死など,強引な捜査方法などで過去の暗いイメージが強く,国情院もこの延長にある.
 このため,マスメディアは
「盗聴犯罪を行った機関への家宅捜索は,避けられない法執行だ」(東亜日報社説)
などと,この際,全貌公表を求める声が高い.
 ただ,金大中政権は盗聴全面禁止を行った〇二年三月,関連資料を大量に処分しており,事件がどこまで解明されるかは疑問視されている.

 その一方,捜査のやり方などをめぐり問題点も指摘されている.
 今回の強制捜査では検察関係者だけでなくコンピューター解析などの目的で民間人が加わったからで,
「国家的に最高の機密保持が要求される機関に,民間人が入る必要があるのか」
との批判も出ている.
 それだけに捜査を無言で見守っていた国情院関係者の「屈辱感」は大きかったようだ.

 また,事件の“政治性”を勘ぐる向きもあって複雑だ.盧武鉉政権は軍事政権時代の過去の清算を課題にしてきただけに,情報機関叩きは格好の的というわけだ.
 さらに,金大中政権まで標的になったことで,その“政治意図”を取りざたされた盧武鉉大統領が
「政治的陰謀説を語るのは扇動だ.事件はただ発覚した事件で,政府が暴いた事件ではない」
などと強調する場面もあった.

 検察当局は現政府も捜査対象と言明.さらに国情院の強制捜査で不十分な場合,同院の地方組織にも捜査の手を伸ばす方針を明らかにしており,波紋はさらに広がりそうだ.
     ◇
 国家情報院 大統領直属機関.1961年朴正煕政権が韓国中央情報部として創設(初代部長は金鍾泌氏),全斗煥政権で国家安全企画部に.金大中政権で大幅に縮小し国家情報院となった.73年に金大中事件を起こした.南北対峙(たいじ)のなか対北朝鮮情報,工作員捜査,左翼勢力取り締まりで権勢を誇った.現組織は危機管理と監視機能を主に国内,海外,北朝鮮の3分野.構成人数は未発表.

 ●=火へんに玄

(同,2005/8/22)

韓国:違法盗聴事件で元国家情報院長逮捕 ソウル中央地検

 【ソウル堀信一郎】韓国の情報機関・国家情報院による違法盗聴事件を調べているソウル中央地検は15日深夜,通信秘密保護法違反の疑いで林東源(イムドンウォン),辛建(シンゴン)の両元国家情報院長を逮捕した.
 地検は情報機関による政界,マスコミ関係者への組織的な違法盗聴事件を調べる過程で,情報機関トップの関与,指示があったと判断した.
 林元院長は99年12月から01年3月まで,辛元院長は01年3月から03年4月までトップを務めた.両元院長は容疑を否認している.

 調べによると,両元院長は金大中(キムデジュン)政権時代,金泳三(キムヨンサム)元大統領を含む政界の実力者,マスコミ関係者ら計1800人を対象に,毎日,無差別に違法盗聴を続けていた疑い.
 林元院長は金大中前大統領の側近で,00年6月の南北首脳会談の立役者だったが,首脳会談を準備する過程で,北朝鮮に秘密送金をした疑いで起訴,収監された.
 04年5月に恩赦を受けている.

毎日新聞,2005/11/16

韓国:違法盗聴事件で前駐米大使を事情聴取

 【ソウル堀信一郎】韓国の情報機関・国家情報院による違法盗聴事件を調べているソウル中央地検は16日朝,洪錫ヒョン(ホンソクヒョン)前駐米大使を事情聴取した.
 地検が押収した盗聴テープには97年の大統領選に絡んで中央日報社長だった洪氏が,政治資金の提供をサムスン幹部と協議している内容などが記録されているという.
 地検は洪氏が,財閥サムスンの違法政治資金の「伝達役」をしていた疑いがあるとみて調べている.
 洪氏は盧武鉉(ノムヒョン)大統領の信頼が厚く,今年2月,駐米韓国大使に抜てきされた.だが,事件発覚の責任を取る形で大使を辞任.最近,帰国したため,地検が出頭要請をしていた.

毎日新聞,2005/11/16

金大中氏,盗聴黙認か 人権大統領の名声失墜必至

 【ソウル=黒田勝弘】「世界的な人権・民主化活動家」としてノーベル平和賞まで受賞した金大中前大統領の在任中,韓国政府の情報機関が政府批判派など各界の要人に対し広範囲に不法盗聴を行っていたことが明らかになった.
 金大中氏は「事実ではない」といい,周辺も「盗聴があったとしても大統領がやらせたものではなく実態は知らなかったはず」としているが,政界などでは「黙認の可能性が強い」との見方が強く,“人権大統領”の名声失墜は避けられそうにない.

 韓国の検察当局は十五日,金大中政権下で国家情報院(国情院)の院長を務めた林東源,辛建の両氏を組織的に不法盗聴を行った責任を問い「通信秘密保護法」違反の容疑で逮捕した.
 これまでの捜査によると,国情院は携帯電話など最大三千六百回線の盗聴装置を稼働させ,約千八百人を対象に盗聴を実施し,院長は毎日六−八件の盗聴記録の報告を受けていたという.
 林東源,辛建両氏が国情院院長を務めたのは金大中政権の中後期の一九九九年十二月から二〇〇三年四月にかけてだ.
 特に,林氏は金大中大統領の側近として,二〇〇〇年六月の金大中大統領と金正日総書記の南北首脳会談実現に舞台裏で活躍したが,後に北朝鮮への秘密資金提供が違法だったとして逮捕されている.
 今回の逮捕は金大中政権退任後,二度目になる.

 検察当局は盗聴対象になった人名など“被害者”の全容は明らかにしていないが,韓国各紙によると,前任の金泳三元大統領や与野党幹部など政界要人のほかジャーナリスト,企業人,社会活動家など各分野に及んでいる.
 当時,金大中大統領に対し,対北政策などで厳しい批判を展開していた保守系雑誌「韓国論壇」の李度●代
表や評論家の池万元氏,さらに北朝鮮からの亡命者・黄長■氏なども執拗(しつよう)に盗聴されたという.
 また盗聴対象には金大中氏の三男,金弘傑氏をはじめ大統領の家族や親類なども含まれている.これは政治的,個人的利益を狙って大統領の周辺に接近する人物をチェックする意味があったといわれるが,その場合,盗聴内容は大統領に報告されている可能性は十分にある.

●=王へんに行,■=火へんに華

産経新聞,2005/11/17


 【質問】
 アラゴンシロ事件とは?

 【回答】
 チェイニー副大統領のスタッフが,フィリピンのためにスパイ行為をしていたことが発覚した事件.
 以下引用.

副大統領元スタッフ,ホワイトハウスでスパイ

 【ワシントン=坂元隆】米ABCテレビが5日,複数の米政府当局者の話として報じたところによると,ホワイトハウスでチェイニー副大統領のスタッフとして勤務していた男が,スパイだったことが明らかになった.
 ホワイトハウス内でのスパイ行為が発覚するのは,米近代史上初めてという.

 この男は,フィリピンから米国に帰化した元海兵隊員レアンドロ・アラゴンシロ容疑者(46)で,1999年から約3年間ホワイトハウスに勤務し,ゴア副大統領(当時)のスタッフなどとして働いたが,チェイニー副大統領のスタッフだった間に,副大統領の事務所から機密書類を盗み出していた.
 書類の中には,フィリピンのアロヨ大統領に不利な文書なども含まれており,同容疑者はそれをフィリピンでクーデターを起こそうとしていた複数の野党政治家に送っていたという.
(略)

(読売新聞,2005/10/6)


 【質問】
 鈴木宗男逮捕に連座する形で失脚した佐藤優は,政治の犠牲者なのか?

 【回答】
 異論を唱える向きもある.
 以下引用.

 私の外務省における勤務経験から言っても,日露外交を巡る佐藤優氏の働きぶりには目を見張るものがったことは事実であり,そのことは,依然として省内から「異能の人」との高い評価が聞こえてくることからも明らかだろう.
 しかしその一方で,佐藤氏の一件を含めた一連の外務省不祥事の内部調査を担当したことのある私の経験から言うと,佐藤氏の外務省における「横暴ぶり」もまた事実であり,そのことが彼の「異能さ」を歪めてしまっている.
 様々な証言や資料から浮かび上がってくるのは,「いったい誰のための活動なのか」という疑問であり,そのことが佐藤氏と,愛国心だけを拠り所に米軍とのるかそるかの攻防を繰り広げ,一札取ったゲーレンとの間に隔たりを感じざるを得ないのである.

(原田武夫〔外交シンクタンク代表〕 from 「中央公論」2005年7月号,p.170-171)


 【質問】
 在上海日本総領事館員自殺事件とは?

 【回答】
 在上海日本総領事館に勤務していた40歳代の電信官が2004年5月,中国側から外交機密に関連する情報などの提供を強要されていたとする遺書を残し,総領事館内で自殺した事件.女性関係をネタにゆすられたためと見られている.
 2005年12月になって事件が一般に知れた.
 館員は外交機密に関する情報は男に伝えなかった,とする見方もあるが,確たる根拠はない.
 これについて,佐々淳行は,事件が週刊誌にスクープされるまで外務省が官邸に報告しなかったことを問題視している.

 以下引用.

上海総領事館員が昨年自殺,「中国が機密強要」と遺書

 中国・上海の在上海日本総領事館に勤務していた40歳代の男性館員が昨年5月,中国側から外交機密に関連する情報などの提供を強要されていたとする遺書を残し,総領事館内で自殺していたことが分かった.
 外務省は館員が死亡したことは認めているが,「遺族の意向があり,詳細については話せない」としている.
 複数の政府関係者らによると,館員は,総領事館と外務省本省との間でやり取りされる公電の通信技術を担当する「電信官」だった.
 自殺後,総領事や家族などにあてた遺書が数通見つかっており,このうち総領事あての遺書の中に,中国人の男から交友関係を問題視され,総領事館の情報を提供するよう求められたという趣旨の内容が記されていたという.
 要求された項目は,総領事館に勤務する館員の氏名や,外交機密に属する文書などを上海から日本に運ぶ際に利用する航空便名――などだったといい,男は情報機関関係者だった可能性が高いとみられている.
 遺書の中に,「国を売ることはできない」などとも書かれており,館員は外交機密に関する情報は男に伝えなかったとみられる.

読売新聞 2005年12月27日3時11分

 要求されたのは,総領事館員の氏名や,日本に外交機密に属する文書を運ぶ際に使う航空便名−などだったとみられる.
 日中関係筋は,中国人の男は情報機関関係者だったのではないかとしている.

産経新聞 2005年12月27日15:58

自殺した総領事館員と接触の男,中国工作員か

 在上海日本総領事館の男性電信官(当時46歳)が昨年5月,中国側から外交機密関連情報などの提供を強要されたとする遺書を残して自殺した問題で,電信官に接触してきた男は,沖縄県・尖閣諸島の魚釣島を巡る問題に対する日本側の方針や,総領事館員の出身省庁などの情報も提供するよう求めていたことが分かった.
 男は電信官に,中国の警察当局にあたる「公安」の職員と名乗っていたことも判明.
 外務省など日本側関係当局では,この男は,外国人に対する諜報(ちょうほう)活動を行う中国側の工作員だったとみて,情報収集を進めている.
 政府関係者によると,電信官は,総領事館と日本の外務省が連絡を取り合う際に使用する暗号の組み立てや解析を担当.当時の総領事にあてた遺書に,自分が受けた強要などの内容を詳細に書き残していた.
 外務省の調査などによると,電信官は昨年初めごろ,知人の中国人女性に男を紹介された.
 男は,中国人女性が違法行為を行ったとして「(知人は)罰せられる」と電信官に告知.
 さらに違法行為の“共犯”として,電信官も処罰や強制送還の対象になると告げた.
 そのうえで,中国が領有権を主張する魚釣島を巡る日本政府の方針を尋ね,
「教えなければ(知人と電信官の)2人とも罰せられる」
と迫ってきたという.
 男はその後も電信官に情報提供を求め続け,要求項目の中に,総領事館員の氏名や出身省庁,機密文書を運ぶ航空便名などが加わっていった.
 電信官は当時,別の国の領事館への異動が内定していたが,男は
「異動先にも追いかけていく」
などと話していたという.
 電信官は,遺書の中で,総領事館員の氏名は答えたものの,他の情報については回答を拒否したと記しているという.

読売新聞 2005年12月29日03:05

領事館員自殺「女性問題で情報強要」 麻生外相初めて内情明かす

 麻生太郎外相は十八日,都内で開催された外務省タウンミーティングで,在上海総領事館の男性館員が自殺した問題に言及し,館員が中国側に女性問題で付け込まれて情報提供を強要されていたことを明らかにした.
 政府はこれまで「プライバシー」や「遺族の意思」を理由に,問題の詳細を明らかにしてこなかったが,麻生氏は
「それ(女性関係)をネタに揺する.揺すって暗号の乱数表を渡せとかって話」
として,中国側が館員に暗号電文解読の情報提供を強要していたと説明.中国側が館員を自殺に追い込んだとして今後も抗議し続ける考えを示すとともに,
「この種の話は一番ひっかかりやすい話.危ねえなあと思う訓練をしておかないといけない.外務省は真摯(しんし)に反省すべきだ」
と述べた.

西日本朝刊 2006年02月19日02:13

領事館員自殺,女性問題で付け込まれる…外相認める

 麻生外相は18日の外務省タウンミーティングで,在上海日本総領事館員の自殺事件について,領事館員が女性問題で中国側に付け込まれ,暗号電文の情報提供を強要されたことが原因であると明らかにした.
 政府はこれまで,遺族の意思などを理由に,「中国公安当局に遺憾な行為があった」とだけ説明していた.
 外相は「暗号の乱数表(を要求された).(領事館員は)国を売るわけにいかないから自殺する.遺書も残っている.外交官は,いい女性が近づいたら,おかしいと思わなきゃダメだ」と述べた.

読売新聞 2006年02月18日21:09

麻生外務大臣は,中国・上海の日本総領事館の職員がおととし自殺した問題について,自殺した職員が女性問題を理由に暗号の解読に使う乱数表などを提供するよう脅されていたと明らかにしたうえで,
「遺書もあり,中国が国際条約に違反したのは明確だ」
と述べ,引き続き中国側に事実の究明を求めていく考えを示しました.

NHK 2006/02/18/21:06

中国側,機密執拗に要求…自殺上海領事館員の遺書入手

 2004年5月,在上海日本総領事館の館員(当時46歳)が自殺した問題で,館員が中国の情報当局から外交機密などの提供を強要され,自殺するまでの経緯をつづった総領事あての遺書の全容が30日判明した.
 本紙が入手した遺書には,情報当局者が全館員の出身省庁を聞き出したり,「館員が会っている中国人の名前を言え」と詰め寄るなど,巧妙かつ執拗(しつよう)に迫る手口が詳述されている.
 中国側が館員を取り込むために用いた中国語の文書も存在しており,これが,日本政府が「領事関係に関するウィーン条約違反」と断定した重要な根拠となったこともわかった.
 中国政府は「館員自殺と中国当局者はいかなる関係もない」と表明しているが,遺書と文書はそれを否定する内容だ.
 自殺した館員は,総領事館と外務省本省との間でやり取りされる機密性の高い文書の通信を担当する「電信官」.
 遺書は総領事と家族,同僚にあてた計5通があり,パソコンで作成されていた.
 総領事あての遺書は計5枚の長文で,中国側の接近から自殺を決意するまでの経緯が個条書きで記され,最後に「2004年5月5日」の日付と名前が自筆で書き込まれている.
 それによると,情報当局は,まず03年6月,館員と交際していたカラオケ店の女性を売春容疑で拘束.処罰をせずに釈放し,館員への連絡役に仕立てた.
 館員は同年12月以降,女性関係の負い目から当局者との接触を余儀なくされた.
 接触してきたのは「公安の隊長」を名乗る男性と,通訳の女性の2人だった.
 館員は差し障りのない話しかしなかったが,04年2月20日,自宅に届いた中国語の文書が関係を一変させた.
 文書は,スパイの監視に当たる「国家安全省の者」を名乗り,「あなたか総領事,首席領事のいずれかと連絡を取りたい」と要求.携帯電話番号を記し,
「〈1〉必ず公衆電話を使う
 〈2〉金曜か日曜の19時―20時の間に連絡せよ」
と指定してあった.
 館員は「隊長」に相談.すると約2週間後,「犯人を逮捕した」と返事がきた.
 文書を作った者を捕まえたので,問題は解決した,との意味だった.
 館員はこの時初めて文書は「隊長」らが作った可能性が高く,自分を取り込むためのでっちあげと気付いた.
 遺書には,「(文書は)彼らが仕組んだ」と悟った,と書いている.
 「犯人逮捕」を期に,「隊長」は態度を急変.
 サハリンへの異動が決まった直後の同年5月2日には
「なぜ(異動を)黙っていたんだ」
と恫喝(どうかつ)した.
 「隊長」は,総領事館の館員全員が載っている中国語の名簿を出し,
「全員の出身省庁を答えろ」
と詰め寄った.
「あなたは電信官だろう.報告が全部あなたの所を通るのを知っている.
 館員が会っている中国人の名前を言え」
と追い打ちをかけた.
 最後には,
「今度会うとき持ってこられるものはなんだ」と尋ね,「私たちが興味あるものだ.分かるだろう」と迫った.
 約3時間,恫喝された館員は協力に同意し,同月6日午後7時の再会を約束した.
 館員は,「隊長」は次には必ず暗号電文の情報をやりとりする「通信システム」のことを聞いてくると考え,面会前日の5日に遺書をつづり,6日未明,総領事館内で自殺した.
 遺書には「日本を売らない限り私は出国できそうにありませんので,この道を選びました」などとも記している.

 「領事関係に関するウィーン条約」は第40条で,領事官の身体や自由,尊厳に対する侵害防止のため,受け入れ国が「すべての適当な措置」を取るとしている.
 遺書の内容は具体的で,それを裏付ける中国語文書も存在しているため,中国側の条約違反の疑いが濃厚だ.
 〔略〕

読売新聞 2006年03月31日03:02

安部氏発言に「憤り」 中国,総領事館員の自殺で

 【北京31日共同】安倍晋三官房長官が在上海日本総領事館員の自殺をめぐり,中国側を批判したことを受け,中国外務省の秦剛副報道局長は31日,
「われわれの調査では中国政府職員による脅迫はなかった」と反論,「日本政府高官が根拠もなく中国を非難することに憤りを表明する」
との談話を出した.
 副局長は,自殺について「中国政府は無関係であることを何度も表明している」と強調.総領事館員が生前,誰と接触があったかも把握していないとした上で,領事関係に関するウィーン条約違反との日本側の見解は「まったく根拠がない」と指摘した.
 さらに「日本側が再三,中日関係の雰囲気を壊すような挑発を行っているが,これをやめるよう要求する」と述べた.

共同通信 2006年03月31日20時41分

内調「機密流出の恐れ」,首相に届かず…領事館員自殺

 2004年5月に在上海日本総領事館の館員(当時46歳)が自殺した問題で,自殺の2か月後に現地で調査にあたった内閣情報調査室が,「我が国の機密情報が漏れた恐れがある」とする報告書をまとめ,二橋(ふたはし)正弘・内閣官房副長官に提出していたことが明らかになった.
 報告書は,自殺の背景に,中国の諜報(ちょうほう)機関「国家安全省」の脅迫があることも指摘し,機密流出の有無を徹底調査するよう求めていたが,1年半近く小泉首相に伝わっていなかった.
 官僚の判断だけで,外交機密が漏えいしたかどうかの検証が行われなかった可能性が高く,首相官邸の危機管理のあり方に批判が集まりそうだ.

 読売新聞が3月末,自殺した館員が上司の総領事にあてた遺書の全容を報じたのをきっかけに,複数の政府関係者が,報告書の存在を明らかにした.
 それによると,04年7月初め,内閣情報調査室に,上海総領事館の館員が外交機密の提供を強要されて自殺したとの情報が入った.
 外務省がこの問題で,中国側に口頭で抗議を伝えただけで事実を解明しようとしないことについて,事情を知る同省職員が不満を抱き,政府関係者に相談したことがきっかけだった.
 これを受け,同月中旬,同調査室の担当者が上海入りし,問題の館員が同年5月に総領事館の電信室内で自殺していたことや,遺体のそばに5通の遺書があったこと,さらにコピーをしてあった5通の遺書の内容をそれぞれ確認した.

 同調査室がこの結果をもとにまとめた報告書では,自殺した館員に外交機密の提供を強要した「公安の隊長」について,外国に対する諜報活動を行う国家安全省の工作員だった可能性が極めて高いと指摘.5通のうち,自殺に至る経緯をつづった総領事あての遺書も,内容が正確かどうか詳細に検討する必要があると分析している.
 特に報告書が不自然だと指摘しているのが,
〈1〉自殺した館員が,「公安の隊長」と初めて接触した03年12月から,自殺する04年5月までの経緯が詳細に記されている中,同年2月からの約1か月間分だけが,接触の日時や回数を「自分でも分からない」などとあいまいになっている
〈2〉同僚への遺書には「総領事には例のナンバーは言っていない」といった文言があり,総領事あての遺書に真実がすべて書かれていない可能性がある
――といった点.
 総領事や同僚への遺書などには,「日本を売らない限り私は出国できそうにありません」など情報漏えいを否定する記述があり,報告書は「意図的な漏えいがあったと断定はできない」としている.
 しかし,館員が暗号コードなどを扱う「電信官」の立場だったことから,「館員が日常的に触れていた機密情報について,相手との一般的な会話の中で漏れた可能性もあり,再度,徹底調査する必要がある」と結論付けている.
 同調査室は,この報告書がまとまった直後,首相官邸の二橋官房副長官に提出した.
 しかし,報告書は小泉首相だけでなく,当時の細田博之官房長官にも届かず,本紙や一部週刊誌が昨年暮れに取材を始めるまでの1年半近く,二橋副長官は指示を出さなかったとされる.
 この問題を巡っては,鹿取克章・外務報道官が1月11日の会見で,昨年暮れの報道があるまで,自殺の事実を官邸に報告しなかったことを公表.安倍官房長官も同日,「官邸に報告はなかった」と述べている.
 読売新聞の取材に対し,二橋副長官は10日,
「個別の事案にはお答えできない.この問題については何度も記者会見で答えており,改めて話すつもりはない」
と述べた.

読売新聞 2006年04月11日03:03

上海総領事館員自殺で政府が答弁書を決定

 政府は16日の閣議で,一昨年5月に在上海日本総領事館の男性職員が中国当局の脅迫により自殺した事件に関する答弁書を決定した.
 答弁書によると,事件が発生した直後,外務省が首相官邸に報告しなかったことについて
「外務省の担当部局が判断したものだ」として,当時の北島信一官房長と藪中三十二アジア大洋州局長の判断だったことを明らかにした.鈴木宗男衆院議員(新党大地)の質問主意書に答えた.
 外務省の担当部局は,川口順子外相(当時)には事実関係を報告したものの,官邸に報告したのは週刊誌報道で事件が表面化した直後の昨年12月末だった.
 この事件を契機に,外務省は諜報(ちょうほう)活動に関する事案の官邸への報告について,主管する部局長が外相,事務次官と協議したうえで判断することを決めている.

産経新聞,2006/05/16/21:01

 外務省は事件当日に川口順子外相(当時)に報告したが,首相官邸への報告は昨年12月27日だった.
 これまでは報告の範囲について
「外務省として適切に判断した」
とするだけで,だれが判断したかは明らかにしていなかった.

日経新聞,2006年05月16日12:01

 これについて,佐々淳行は,事件が週刊誌にスクープされるまで外務省が官邸に報告しなかったことを問題視している.

【正論】初代内閣安全保障室長・佐々淳行 許しがたい領事館員の自殺事件隠し

今こそ内閣中央情報局の創設を
≪国民不在の不遜なる発言≫
 上海日本総領事館の電信官が総領事館内で縊死(いし)したことが一年半も経(た)ってから明らかになった.遺書によると,中国公安当局のワナに陥ち,女性問題をネタに,秘密情報の提供を迫られ,自らの死を以てこの問題に決着をつけたのだという.
 諜報(ちょうほう)活動の世界ではよくあることとはいえ,亡くなられた電信官には心から弔意を表する.
 だが,問題は,この事実が週刊誌にスクープされるまで外務省が官邸に報告しなかったことである.

 事実が明るみに出た後の記者会見で安倍晋三官房長官は,
「事件発生当時,(外務省から)官邸には報告はなかった」
と不快感をにじませた.
 小泉総理も,このことを知って激怒したという.
 一方,鹿取克章外務報道官は,
「外務省の責任において対応することを決定したので,首相官邸へは報告しなかった」
と記者会見で語り,現地調査をした上で,当時の上海杉本信行総領事が中国外務省に抗議している旨の説明をしている.外務大臣名での抗議はなかったようだ.
 これに対し,当時の外相だった川口順子参議院議員は,
「コメントは一切差し控えたい」
という談話を発表した.
 冗談ではない.国民の「知る権利」を無視する,外務省至上主義の僭越(せんえつ)といってよい行為である.
 マスコミもだらしがない.そう言われて引き下がったのだろうか.
 議院内閣制において,行政の最高責任者は内閣総理大臣である.
「外務省の責任において対応」
とは,総理大臣不在,国民不在の不遜(ふそん)な発言である.外務省は,“無責任官僚内閣制”時代の終熄(しゅうそく)が,まだ分かっていないらしい.
 明治維新以来,太平洋戦争まで,官僚機構,とくに内務,外務,大蔵の三省は,陸海軍に対して「天皇の股肱(ここう)」としての三大天下国家官庁といわれ,「国家の藩屏(はんぺい)」であることを誇りにしてきた.
 このうち,敗戦で内務省は解体され,戦後五十年経って,日本を支配した大蔵省もまた,その傲(おご)り故に自滅し,いま外務省も「藩屏」どころか,改革を邪魔するだけの「壁」に成り果てた.

産経新聞 2006年01月23日

 【質問】
 館員の自殺について,総領事館側が遺体引き取り時に中国当局に対し,自殺の動機について「仕事の重圧」と説明し,関係書類に署名していた,というのは本当か?

 【回答】
 安部官房長官は否定しているが,外務省幹部はその可能性を示唆しており,可能性は比較的高いと推測される.
 以下引用.
館員自殺は「仕事の重圧」=上海当局に当初説明−総領事館

 2004年5月に中国・上海の日本総領事館員が自殺した問題で,総領事館側が遺体引き取り時に中国当局に対し,自殺の動機について「仕事の重圧」と説明し,関係書類に署名していた可能性があることが15日分かった.
 中国側は,この署名文書を「自殺は中国政府と無関係」とする主張の根拠としており,総領事館員の対応は論議を呼びそうだ.
 これに関し,外務省幹部は同日,
「自殺者が出た当日の混乱の中で,自殺の背景事情を何も知らない上海総領事館の館員が,遺体を引き取るために自殺の動機を『仕事の重圧』と説明したかもしれない」
と指摘し,総領事館員が一時,中国当局に自殺原因を「仕事の重圧」と説明した可能性を認めた.
 ただ,同幹部は
「日本政府の公式見解ではない」
として,これを根拠とする中国側の主張は
「受け入れられない」
と強調した.
 別の外務省筋によると,04年5月6日に自殺した館員を上海市内の病院に運んだ後,総領事館員が中国当局に遺体の発見から病院に運ぶまでの事情を説明し,関係書類に署名したという.
 一方,安倍晋三官房長官は15日午前の記者会見で,総領事館員が「自殺の動機は仕事の重圧」とする書類に署名したかどうかについて
「当時行われた監察査察担当参事官による調査結果でも,中国側が作成した外国人死亡書にも(そういう内容は)含まれていない」と指摘.「中国側の主張は根拠がない」
と改めて強調した.

時事通信,2006/05/15/13時2分

 外務省の査察チームが現地で自殺の経緯を調査してまとめた内部報告書などによると,中国国内で外国人が死亡した場合,火葬や遺体の引き取りには中国警察当局が発行する「外国人死亡書」が必要となる.
 今回のケースでは,04年5月6日,総領事館が自殺した館員を病院に搬送した後,上海市の警察が遺体を検視し,この書類を作成した.

読売新聞,2006年05月15日03:03


 【質問】
 科協事件とは?

 【回答】
 日本国内の有名大学の博士号を持つ在日朝鮮人の科学者らからなる,在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)傘下の団体「在日本朝鮮人科学技術協会(科協,東京都文京区)に対し,警視庁公安部が2005年10月,一斉に家宅捜索したところ,東京都内の関係先から,陸上自衛隊の地対空ミサイルシステムの資料など,複数の防衛情報に関する資料が押収された事件.
 警察当局は,「科協」がさまざまな日本の防衛情報を収集していた可能性があると見て,組織の実態解明に向け全国規模で捜査を進めている.

 以下引用.

「科協」顧問宅を捜索 「知」の流出解明急ぐ

 日本に1200人弱のネットワークを持ち,北朝鮮の軍事技術を支える「知の集積」とみられている科協への警察当局の強制捜査が続いている.
 27日に警視庁が薬事法違反で摘発した女の夫は科協理事.神奈川県警に摘発された顧問は現在も科協に影響力を持つという.
 核実験の実施で北朝鮮をめぐる緊張が高まる中,政府関係者は「警察の狙いは,北への『知の流出』の実態解明」と言い切る.

 「北の科協への期待は相当だ」.昨年10月の科協本部の捜索で押収した文書の名前をみて,捜査関係者は痛感した.
 文書には「姜周一」の名前があった.
 北ウオッチャーで知らぬ人はいない.有本恵子さん拉致にも関与したとされる朝鮮労働党の工作機関「対外連絡部」の部長.万景峰号に乗ってきて,新潟港に朝鮮総連幹部を呼びつける「船内指導」を行ってきた人物.
 姜部長は,金正日総書記の威光を盾に「強盛大国」への寄与を求めた.
 指示は絶対である.
 北は軍事優先の「先軍政治」体制下,「強盛大国」のスローガンで運営されている.
 強盛大国は核やミサイルの技術向上を指すとみられる.

 捜査で幹部級は約300人と判明している.
 複数の関係者によると,押収された幹部級名簿は比較的詳細で,「学歴」も朝鮮大学校のほか,日本の旧帝大の校名が記載されていた.
 工学や化学,農学などの分野で専門家がそろい,軍事技術に転用ができる分野の会員もいた.

 ただ,幹部級以外の大半は,昨年10月の捜索で発見された名簿も空欄が目立ち,専門なども未解明という.「機関誌購読だけの会員もいるかもしれないが,正体が見えない会員の詳細解明が全国警察の課題.それで強制捜査が続いている」

 小さなコンピューター会社を経営する会員も確認された.
「そうした会社が政府機関の下請け,孫請けに入った場合,北への情報流出はないのか.こうした潜在的脅威も解明されなければいけない」(公安関係者)

 一方,政府関係者は「物資持ち出しは外為法などの強化で対応できるが,科学者の頭の中の知識は人の往来を止めない限り流出する.相次ぐ摘発には,科協側の活発な活動を阻止する狙いもある」と解説している.

産経新聞,2006年11月30日8時1分

陸自の最新型ミサイルデータ,総連団体に流出

 在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)傘下の「在日本朝鮮人科学技術協会(科協)」(東京都文京区)が,陸上自衛隊の最新型地対空ミサイルシステムに関する研究開発段階のデータなどが記載された資料を入手していたことが二十三日,警察当局の調べで分かった.
 データはすでに北朝鮮に送られているとみられ,警察当局は資料の流出経路などについて捜査を進めている.
 警視庁公安部は昨年十月,無許可で医薬品を販売したとして,薬事法違反容疑の関連先として科協を家宅捜索.その過程で資料が発見された.
 このシステムは「03式中距離地対空誘導弾システム」(中SAM)で,陸上自衛隊が平成十五年度から順次配備を始めている.
 防衛庁の技術研究本部では六年から七年にかけて,開発に向けた研究を実施.研究開発段階から,三菱電機や三菱重工,東芝など国内の大手防衛関連企業が参画していた.
 科協が入手したのは,この研究開発段階で,三菱総合研究所が戦術弾道弾(TBM)への対処能力を含む性能検討用に作成していたシミュレーションソフトに関する説明資料.資料の表紙には作成日として「平成七年四月二十日」と記載されている.
 資料の中では,中SAMの展開・運用構想▽要撃高度▽要撃距離▽援護範囲−などに関する数値が記載.また,戦闘爆撃機に対する性能数値も記載されている.
 結果的に,配備が始まっている中SAMでは,戦術弾道弾への対処能力を考慮しての設計は行われなかった.
 しかし,この資料に記載されている戦術弾道弾に対する要撃高度や援護範囲などの考え方からは,陸自が中SAM以降の地対空ミサイルシステムで整備を進めるとみられる戦術弾道弾への対処能力を予測できることから,北朝鮮側に対抗手段を示唆しうる内容となっている.
 科協をめぐっては,警視庁が十四年に摘発した事件で,元幹部が北朝鮮やイランへの精密機器の不正輸出に関与していたことが判明している.

産経新聞 2006年01月24日03:27

 陸自はSAMの後継として,2003年度から最新式の「03式中距離地対空誘導弾(中SAM)」を順次配備しており,防衛庁は「流出した情報から中SAMの性能を類推できるとは思わない」と説明している.
 報告書の機密レベルは,上から3番目の「秘」に指定され,契約した業者とは秘密保全に関する特約条項を結んでいた.

東京新聞 2006.1.24,12:52

 防衛庁などによると,この研究開発は1993〜95年,将来配備予定の地対空ミサイルに関して三菱電機に委託されたもの.
 三菱電機は同研究に絡み,社内報告書の作成を三菱総合研究所に委託.
 三菱総研はさらに,〔科協の幹部だった〕男性が社長を務める東京・豊島区のソフトウエア会社に,報告書作成関連業務の一部を委託していた.
 報告書には,敵の戦闘機を撃ち落とせる距離など,ミサイルの性能に関するデータが記載された図表があり,図表と同一の内容のデータが記載された資料が,男性の会社から見つかった.
 防衛庁は,同社に業務の一部が委託されていたことは知らなかったという.

読売新聞 2006年01月24日14:49

 「科協」は,日本国内の有名大学の博士号を持つ在日朝鮮人の科学者らからなる団体で,警視庁公安部は去年10月,一斉に家宅捜索しました.
 〔略〕
 こうしたことから,警察当局は,「科協」がさまざまな日本の防衛情報を収集していた可能性があると判断,組織の実態解明に向け全国規模で捜査に乗り出す方針を固めたものです.
 来月初旬にも捜査責任者を集めて緊急に会議を開き,情報収集の強化を指示する方針です.

TBS 2006年01月24日11:18

流出時期は古いとみられ,慎重に捜査を進めている.

時事通信 2006年1月24日12時1分

 科協をめぐっては,北朝鮮の核問題で朝鮮半島の緊張が強まっていた94年春,都内の機械メーカーに科協の当時の幹部が働きかけ,ミサイル開発に転用可能な超微粉砕機「ジェットミル」を万景峰号で北朝鮮に運んだことが判明している.

毎日新聞 01月24日14:40

 【珍説】
 「ミサイルデータ」は,在日朝鮮人が経営する民間会社が業務委託を受ける中で提供された資料に含まれていたもので,この資料が科協に渡った事実はない.
 しかも,「朝鮮総聯の傘下団体,科協の幹部だった男性が社長を務める会社」などとして,この会社を「朝鮮総聯系企業」だと断定的に記述しているが,この会社は科協とは関係なく「朝鮮総聯系企業」でもない.
 事実関係があるとするなら,この会社の元社長が科協の非専従役員を務めていただけに過ぎない.
 それだけの理由で「朝鮮総聯系企業」と断じるのはこじつけも甚だしいといえる.

朝鮮新報,2006/1/31

 【事実】
 その「民間会社」役員6名のうち3名が科協役員.
 誰が見たって総聯系・科協系.

 以下引用.
 これは強弁というべきだろう.その「民間会社」役員六名のうち三名が科協の役員(顧問二名,副会長一名)であることもちろん,昨年十月の社名変更後に就任した現代表取締役を含む三名が京大工学部出身だ.
 誰が見たって総聯系・科協系であることは言うに及ばず,「科協京大工学部系企業」と呼んでもおかしくない役員構成である.
 と同時に総聯系IT企業のうち,最初期から活動してきたのは青商会(在日本朝鮮青年商工会)などの商業団体ではなく,京大出身の科協人士であったことが,おぼろげに推測できる.

North Korea Today 2006/04/20/07:21:35JST


 【質問】
 慕可舜事件とは?

 【回答】
 2005年11月,台湾出身の武器商人,慕可舜が,F-16戦闘機のエンジンや各種ミサイルを中国に密輸しようとして逮捕された事件.
 その後,裁判での罪状認否において慕は,中国政府のために活動していたことなど,起訴事実を全面的に認めたという.

 以下引用.

中国への武器輸出未遂で起訴

 アメリカ司法省は17日,中国へアメリカ軍の戦闘機の部品やミサイルなどを違法に輸出しようと試みたとして,台湾出身の男を起訴したことを明らかにしました.
 この男は密輸の準備を進めましたが,協力者にふんしたおとり捜査官によって去年11月逮捕されました.

 起訴されたのは,台湾出身の慕可舜被告(58)です.
 司法省などによりますと,慕被告は武器商人として知られ,2004年の2月ごろから,アメリカ軍のF16戦闘機のエンジンや巡航ミサイルなどさまざまな種類のミサイルを中国に密輸する計画を企てたということです.
 そして,去年2回,アメリカを訪れ,密輸の準備を進めましたが,協力者にふんしたおとり捜査官によって去年11月逮捕され,中国への輸出を禁じた軍事部品の輸出未遂の罪で起訴されました.
 17日,フロリダ州の連邦地方裁判所で行われた罪状認否で,慕被告は,中国政府のために活動していたことなど,起訴事実を全面的に認めたということです.

 アメリカは,中国による急速な軍備の増強が台湾海峡での軍事バランスを崩すおそれがあるとして警戒を強めており,アメリカ国内で今回のような取締りを強化するとともに,EU・ヨーロッパ連合などに対して,天安門事件以来続けている中国への武器の輸出禁止を継続するよう求めています.

NHK 2006/05/18/16:00


 【質問】
 ヤマハ無人ヘリ不正輸出事件とは?

 【回答】
 ヤマハ発動機が軍事転用可能な無人ヘリコプター11機を中国に不正輸出していた事件.
 ヤマハは当初,中国への輸出は「航空写真撮影会社への9機のみ」と説明していたが,後に,不正輸出したヘリは十数機で,このうち1機は直接,中国人民解放軍系列の武器製造企業に送られていたと判明.
 また,ヤマハはヘリの代金とは別に,中国側から「役務代」として毎年数千万円が送金されていたという.
 このヘリは,偵察・観測など軍事目的への転用は容易で,生物・化学兵器を搭載することで,大量破壊兵器になる危険性も指摘されている.
 ヤマハは軍用に転用可能であることを知りながら輸出した疑いもある.

 北京BVE創基科技有限公司などでは同ヘリを基に,独自の国産無人ヘリを開発し,同ヘリについて「軍事面で重要な価値がある」と評価しているという.

 以下引用.

ヤマハ発動機,捜索無人ヘリを中国に不正輸出

外為法違反の疑い

 ヤマハ発動機(本社・静岡県磐田市)が生物化学兵器の散布など軍事転用が可能な無人ヘリコプターを中国に不正輸出しようとしたとして,静岡,福岡両県警は二十三日,経済産業省の告発を受け,外為法違反(無許可輸出)容疑で同社スカイ事業部をはじめ静岡,福岡両県内などの関係先約二十カ所を家宅捜索した.
 一部が中国人民解放軍に渡っている可能性もあり,両県警は資料を押収・解析し容疑の解明を急ぐ.
 調べなどでは,ヤマハ発動機は昨年十二月二十一日,輸出にあたり,法定の除外事由がないのに経産省の許可なく無人ヘリを中国・北京の航空会社に輸出しようとした疑い.
 ヤマハ発動機は同型の無人ヘリを昨年三月以降,米国,韓国などに十三件輸出していた.

 経産省などによると,不正輸出の疑いが持たれているのは,農薬散布や空中撮影などに使う多目的用途の無人ヘリコプター「RMAX L181」型(全長約三百六十センチ,全高約百二十センチ).排気量二四六ccのガソリンエンジンを搭載し,販売価格は一機あたり約千五百万円.
 同型機種では,衛星利用測位システム(GPS)を搭載するなど高性能機がある.

 外為法では,国際的な平和や安全の維持を妨げる特定地域への特定貨物の輸出について経産省の許可を受けなければならないと規定.特定貨物は輸出貿易管理令などで規定され,噴霧機能を持つ無人航空機で,噴霧される粒子や液体を二十リットルを超えて運ぶことができるもののうち,自律的な飛行制御や航行能力などを有するものは,大量破壊兵器関連として全地域を対象に輸出許可が必要となる.
 今回の無人ヘリは,これに該当.
 この規定は昨年一月に導入されたばかりで,経産省は「ヤマハ発動機は規定について熟知していた」とみている.

 ヤマハ発動機によると,これまで中国向けには平成十三年以降,「RMAX L181」型を,北京の航空会社に九回に分けて九機輸出していた.
 昨年十二月に,十機目の輸出を名古屋税関に申請していたという.

 ヤマハ発動機の大坪豊生・広報担当取締役の話
「お騒がせしたことを申し訳なく思っている.
 告発,強制捜索を受けているが全面的に協力していく.
 今回の輸出が違法なものとは思っていなかった」

 〔略〕

産経新聞 2006年01月23日15:51

 両県警は,輸出先のBVE社が自社のホームページで,ヤマハ発動機製の無人ヘリコプターを示し,
「軍事分野への転用が可能」
などとしていることなどから,無人ヘリコプターの一部が中国人民解放軍に渡っている可能性もあるとみて調べる.

産経新聞 2006年01月24日03:27

ヘリの性能,過小申請か ヤマハ発動機外為法違反

軍事転用の可能性認識

 ヤマハ発動機が軍事転用可能な無人ヘリコプターを中国に不正輸出しようとした事件で,同社が輸出規制を逃れるため無人ヘリの性能を実際よりも低く申請していた疑いのあることが二十四日,静岡,福岡両県警捜査本部の調べで分かった.
 捜査本部は,同社が陸上自衛隊に同型ヘリを納入していた実績などから,軍事転用の可能性を認識していたとみて,同型ヘリを押収し,性能の確認などを進める.

 外国為替法は輸出に経済産業相の許可が必要な航空機について,液体を噴霧できるようにした無人航空機で二十リットル超の液体を運搬でき,自律的な飛行ができるものや視認範囲を超えて操縦できるものと定めている.
 同社は輸出しようとした「RMAX TypeIIG」の改良型「RMAX L181」は
「目視で操縦するマニュアル式で自律飛行できない」
「最大積載量は十キロで,二十リットル超の液体は積載できない」
などとして,規制対象にあたらないと主張している.
 しかし捜査本部は,「RMAX TypeIIG」が基本モデルの「TypeII」に衛星利用測位システム(GPS)を追加し,自動的に一定速度を保つ機能を付与したモデルであることから,事実上,自律的に飛行できる性能を有していた可能性もあるとみている.
 外為法違反の罪で同社を刑事告発した経産省は,無人ヘリの最大積載量が,申請書にある数値より高い可能性が強いと指摘.
 輸出の可否についても,社の輸出管理部門ではなく,研究開発部門などが判断しており,検査態勢もずさんだった疑いが持たれている.

 ヤマハ発動機は無人ヘリの一年ごとに必要となる機体のメンテナンスの際に,過去に中国・北京の航空会社「BVE社」に輸出した九機はすべて同社が保有していることを確認.軍事目的に転用しないと誓約書を取っていると説明している.

産経新聞 2006年01月24日15:38

ヤマハ発動機,輸出ヘリは十数機…高性能機種も

 ヤマハ発動機(静岡県磐田市)が産業用無人ヘリコプターを中国に不正輸出しようとした外為法違反(無許可輸出)事件で,中国に輸出した無人ヘリは十数機だったことを示す書類が残っていたことが26日,静岡,福岡両県警の合同捜査本部の調べでわかった.
 同社は,北京市の「北京必威易創基科技有限公司(BVE)」に,多目的ヘリ「RMAX L181」を計9機輸出したとしている.
 しかし,通関手続き書類の輸出先には,別の中国企業が1社あり,高性能の機種も含まれていたという.
 捜査本部は,食い違いについて裏付けを進める.
 また,同社内の管理部門によるチェック機能が働いていなかったことも判明.2004年以前の顧客からの発注書類も保管しておらず,捜査本部は,不正輸出を図った背景に,ずさんな管理体制があったとみている.

 同社では,無人ヘリを担当するスカイ事業部が,経済産業相の許可が必要な規制品かどうかを判定.さらに,管理部門で判定の是非を審査する.
 しかし,実際には,同事業部が「非該当」と判定した機種の審査は行われず,輸出先が適正かどうかの判断も輸出開始時だけだったという.
 一方,同社が昨年12月,名古屋税関に提出した書類には,現物と違う機種の型式を記載していたこともわかった.

読売新聞 2006年01月27日03:36

中国軍系企業にも1機…ヤマハ発動機ヘリ不正輸出

 ヤマハ発動機(静岡県磐田市)製の無人ヘリコプターを巡る外為法違反(無許可輸出)事件で,同社が中国に不正輸出したヘリは11機で,このうち1機は直接,中国人民解放軍系列の武器製造企業「保利科技有限公司」(ポリテク,北京市)に送られていたことが27日わかった.
 ヤマハ発動機はこれまで,中国への輸出は「航空写真撮影会社への9機のみ」と虚偽の説明をしていた.
 静岡,福岡両県警の合同捜査本部と経済産業省は,ヤマハ発動機が,ヘリが軍事転用される危険性を認識しながら不正輸出していた疑いが強いとみて,詳しく調べる.

 ヤマハ発動機が中国側と取引を始めて以降,ヘリの代金とは別に,中国側から「役務代」として毎年数千万円が送金されていたことも新たに判明.
 捜査本部は,その趣旨についても調べを進める.

 関係者によると,11機が輸出されたのは2001年から昨年にかけて.
 このうち,2003年11月に輸出された1機が,ポリテク社に送られた.
 このヘリは「自律航行型RMAX」.ヤマハ発動機のホームページによると,初めてGPS(全地球測位システム)を搭載し,あらかじめ入力すれば無人で自動飛行する.
 偵察・観測など軍事目的への転用は容易で,生物・化学兵器を搭載することで,大量破壊兵器になる危険性も指摘されている.
 当時の経産省令は,自律航行が可能な無人航空機を輸出する際,同省の許可が必要と定めていたが,同社は許可を得ていなかった.

 他に輸出された10機は,いずれも航空写真撮影会社「北京必威易創基科技有限公司」(BVE,北京市)向けだったが,これも無許可で輸出されていた.
 輸出の手続きが行われたのは,11機すべて名古屋税関浜松出張所で,いずれも航空貨物便で運ばれていた.
 一方,ヤマハ発動機が2001年以降,中国側から送金を受けていたのは毎年3000〜5000万円.こうした取引の実態は,同社が保管していた契約書類などで判明した.
 捜査本部は,BVE社に輸出されたヘリについても,ポリテク社など軍事関連組織に流れた可能性があるとみて,輸出経路を調べている.

 ヤマハ発動機広報グループは
「9機をBVE社だけに輸出したとの認識に変わりはない.詳細なコメントは控えたい」
としている.

読売新聞 2006年01月28日03:01

「軍事面で重要な価値」 無人ヘリで中国新華社

 中国国営の新華社通信が2002年5月,ヤマハ発動機が中国に輸出した無人ヘリコプターを基に,中国の北京BVE創基科技有限公司などが独自の国産無人ヘリを開発したと報じ,同ヘリについて「軍事面で重要な価値がある」と評価していたことが23日,分かった.
 02年5月23日の新華社電(電子版)によると,中国が国産無人ヘリの開発に当たって参考にしたのはヤマハ発動機の無人ヘリ「RMAX」.ヤマハ発動機が01年以降,中国向けに輸出した「RMAX L181」を指しているとみられる.
 同電はさらに02年5月23日に北京で開幕した国際科学技術産業博覧会で,同ヘリが注目を集めている,と伝えていた.
 一方,中国側が開発した無人ヘリは「空中機器人」(空中ロボット)と名付けられ,全長約3・6メートル,全幅約70センチ.ヤマハ発動機の無人ヘリとほぼ同じ大きさで,(ヤマハの無人ヘリを参考に開発したことにより)「視界外まで飛んでいったヘリを再び帰還させるという難題を解決した」などと説明している.

産経新聞(共同通信) 2006/01/23/23:43

 また,外国為替及び外国貿易法を徹底的に適用し,軍事転用が可能な機器が北朝鮮に輸出されないよう日本の輸出関連企業100社に対する抜き打ち検査を行うことにした.

朝鮮日報 2006/03/14/07:14

 【質問】
 なぜヘリ不正輸出を防止できなかったのか?

 【回答】
 ある製品がどれほどの性能をもち,軍事転用される危険があるのかは,実際に製造した人にしか分からず,企業の倫理感が頼りな状態になっているためだという.

 以下引用.
 もちろん日本政府も,軍事転用の危険がある製品・技術の輸出を見過ごしにしてきたのではない.
 経済産業省が主管となり,大量破壊兵器の開発,貯蔵に使われる可能性がある汎用(はんよう)品の海外流出に監視の目を光らせている.今回,ヤマハ発動機の事件もこの中で浮かび上がってきた.
 ただ,輸出規制品の情報提供を行う財団法人安全保障貿易情報センター(東京)の幹部によれば,
「ある製品がどれほどの性能をもち,軍事転用される危険があるのかは,実際に製造した人にしか分からない」
のが実態で,結局,最後の歯止めは企業が自らに課した倫理なのである.
 軍事転用の可能性を認識していたかどうかについてヤマハ発動機の広報担当者は
「捜査中なのでコメントできない」と言葉を濁すが,「契約時に軍事転用しないという誓約書を取っている」とも言う.
 しかし「中国では契約書通りに物事が進むとは限らない」(宇佐美氏)のは,もはや常識に属する.

 今回の事件は中国に対する民間の技術協力にどんな影響を及ぼすのか.
 宇佐美氏は
「日本の各メーカーはヤマハ発動機が当局からどのような処分を受けるかを注視している.
 処分が厳しいものになれば,軍事転用の恐れがある技術の輸出には抑制がかかるだろう」
とみる.そのうえで日本企業の基本姿勢をただす.
「こちらが悪気がないのに技術が軍事転用された場合でも,日本企業が法律的,道義的責任を問われる.
 それを常に念頭に置いて行動しなければならない」
※〓はにんべんに分

浅井正智 from 東京朝刊 2006年02月06日

 〔略〕
 このようなあきれたことが行われる原因の
第一は,利益のみを追求する経営陣の拝金主義.
第二は,企業内の「コンプライアンス(法令順守)・プログラム」の杜撰(ずさん)さ.
第三は,国益を損なうことに対する警戒感や危機感の欠如だ.
第四は,不正輸出を監視する国側の体制の不備だ.
 しかし,一日に何千何万件となる,わが国からの輸出品目の監視を,国だけで行うことは無理がある.
 専門知識を持った正規な要員も不足しているし,委嘱している安全保障貿易管理調査員の数も少ない.人員の増強は急務である.

≪頭隠して尻隠さずの現状≫
 若年定年制を敷いている自衛隊の幹部退職者の中には,この調査員に適した者が多いので,彼らを大量に再就職させる方策も一案だ.
 さらに注意すべきことがある.安全保障輸出管理の対象は,必ずしも「機器」だけではなく,これに関連する「技術」もある.
 わが国には,多くの外国人留学生が,宇宙開発分野や電子通信分野で学んでいる.
 学問の自由という聖域だから,学んだことを母国へ持ち帰ることに何の規制もない.
 しかし,留学生が帰国後,その国の軍事分野に職を得て,通常兵器や大量破壊兵器の開発に携わらないという保証はない.
 わが国の大学で行われている宇宙技術の研究は,平和目的のものであるから,留学生が学ぶことは規制の対象とならない.
 米国では,留学生を受け付けない研究テーマを指定して,研究を委託した省庁が,微妙な技術の流出を厳重に規制している.
 安全保障輸出管理は,経産省だけではなく文科省など,省庁を横断した監視体制を構築しなければ,「頭隠して尻隠さず」となる.

志方正之 from 産経朝刊 2006年02月27日

 企業の中には,自主的に防衛策を講じるところも出始めている.

●森精機,工作機械の軍事転用防止機能を製品に付加

 工作機械大手の森精機は,輸出した製品が軍事転用されるのを防止すべく,設置場所から異動すると使用できなくなるという新しい機能を10月出荷分から搭載し,年度内に全輸出品に広げるそうです.

 ⇒技術の軍民区分は非常に難しく,この場合も,社員が立ち会えば移動ができることとなるため,社員に各種工作の手が伸びるのははっきりしています.
 工作の手を払いのけるための情報(防諜)機関はわが国には存在しない(公安や公安調査庁はあくまでも国内法に基く警察機関にすぎません)ので,より大きな規模で北鮮のような国々への輸出事故が発生してゆくことでしょう.

 この問題の基幹にあるのは,自国に情報機関が存在しない,ということです.
 どこの国のどういう業者がどういうルートを使ってどういうものを集め,何をしようとしているのか?
 権威ある情報機関がなく,国家がその種の基礎情報をもたないのに,営利を追求する企業のサラリーマンに「世界のルールを守れ」といっても,守りようがないじゃないですか.ハナから無茶な話でしょう.

 秘密情報を収集する手段・機関もなく,関係者を保護する体制もない.
 そんななか,グローバル化した経済社会で,丸裸で世界の情報戦の真只中に放り込まれ,骨の髄までしゃぶられ尽くしている組織人が,哀れでなりません.

 国家に軍事と情報がないと,こういう事態になるのです.

おきらく軍事研究会,平成18年(2006年)9月11日


 【質問】
 CIAの対テロ担当部門のトップ,ロバート・グレニアーが辞任したのは何故か?

 【回答】
 アル・カーイダへの追及が「手ぬるい」と批判されたり,上司との衝突があったと見られるという.
 以下引用.

CIAの対テロトップ辞任 追及「甘い」と解任か

 【ワシントン8日共同】米中央情報局(CIA)の対テロ担当部門のトップ,ロバート・グレニアー氏(51)が7日までに辞任した.米メディアによると,国際テロ組織アルカイダの追及が「手ぬるい」(ワシントン・ポスト紙)などとの批判や,上司との衝突があったとみられ,事実上の解任との見方もある.
 米軍は1月,アルカイダのナンバー2,ザワヒリ容疑者を狙ってパキスタンを空爆したが失敗し,住民多数が死亡.CIAの情報に基づく攻撃とみられており,幹部の辞任は憶測を呼びそうだ.
 グレニアー氏は海外で秘密工作などに携わり,2001年9月に起きた米中枢同時テロ当時のCIAイスラマバード支局長.その後はアフガニスタンの旧タリバン政権の打倒に関与した.

(共同通信) - 2006年2月8日16時43分


 【質問】
 グルジア,ウクライナ,キルギスで,アメリカはどのようにして独裁政権打倒を成功させたのか?

 【回答】
 アメリカや欧州の息のかかった国際選挙監視団に,「選挙で不正が行われた」と声明を出させ,親米大統領候補や政党に,「選挙には不正があった!」と大々的なデモを起こさせ,選挙をやり直させたり,現職大統領を辞任させたりするのだという.

 以下引用.

▼ワンパターンの罠

 アメリカの革命工作には決まったパターンがあります.
 選挙の時が狙われるのです.
 そのパターンとは,

1,議会選挙か大統領選挙がある

 これで親米勢力が勝てばOK.

 問題は,反米大統領候補や反米政党が勝った場合.

2,親米大統領候補や政党は,「選挙には不正があった!」と大々的なデモを起こす.

 しかし,これだけでは負け犬の遠吠えにすぎません.論拠が弱いのです.

 そこで...

3,アメリカや欧州の息のかかった国際選挙監視団が,「選挙で不正が行われた」と声明を出す.

 これで,野党の要求に国際的正当性が与えられます.
 さらに,EUやアメリカ政府が,「不正があった! 選挙をやり直せ!」と大騒ぎする.
 他にも出口調査を使うというやり方もあります.
 ソロス曰く,
「選挙が実施されたとき,公式にはシュワルナゼの与党が勝利したと発表された.
 しかし,私の財団が行った出口調査では,サアカシビリ派が勝利していたので,結果を発表した.
 それが革命につながった.」
(06年2月11日,テレビツェントル「ポスト・スクリプトン」のインタビュー)

4,大規模なデモの結果,大統領が辞任したり(例,グルジア・キルギス)選挙がやり直しになり,親米候補が勝つまでつづく(例:ウクライナ)

 さて,アメリカはこんな感じで,旧ソ連諸国で3つの革命を成功させました.
 03年11月にはグルジアでバラ革命を,04年12月ウクライナでオレンジ革命を,05年3月キルギスでチューリップ革命を.

北野幸伯著「ロシア政治経済ジャーナル」No.384 2006/3/27号


 【質問】
 アンジジャン暴動とは?

 【回答】
 2005/5/13から始まった,独裁者「カリモフ大統領」退陣を訴えたデモ.
 デモ参加者は数万人に上ったが,ウズベキスタン,カリモフ政権は武力で鎮圧すると共に,中露の支持を取り付け,政権維持に成功した.
 デモにアメリカの関与があったかどうかは,現時点では明らかではないが,グルジア,ウクライナ,キルギスの例から推測するに,その可能世は高いと思われる.

 以下引用.

 ところが,05年5月から流れが変わりました.
 きっかけは革命があったキルギスのお隣のウズベキスタン.
 この国の東部アンジジャン市で5月13日,大規模な大衆デモが起こった.
 要求は,独裁者「カリモフ大統領」の退陣.
 デモに参加する人数はみるみる増え,一時数万人にもなったといわれています.

 で,カリモフさんはどうしたか?
 横山ノックさん似のアカエフ・キルギス大統領は,さっさと政権を放りだしてモスクワに逃げてしまいました.
 ところが,カリモフさんは,まったく異なる行動に出ます.
 軍が出動し武力で鎮圧したのです.
 犠牲者が数百人でたそうです.
 結果としてカリモフさんは,武力で暴動を鎮圧し,政権を維持することに成功しました.

 ウズベキスタンでの暴動に,アメリカが関与していたか,直接の資料はありません.
 しかし,その後の米中ロの対応の違いが,流れを変える結果になりました.

 まずアメリカ.
 ライスさんは05年5月20日,カリモフ政権に真相究明のための調査を受け入れるよう求めている」と述べ,国際調査団を受け入れるよう要求しました.
 カリモフさんは悪いことしてるし,グルジア・ウクライナ・キルギスの二の舞にはなりたくない.
 当然拒否します.
 ライスさんは,さらに冷たい対応もしています.ウズベキスタンへの支援を凍結することを明らかにしたのです.

 カリモフさんも,「金をくれないアメリカ」に用はありません.

 ロシア.
 さて,中央アジアでアメリカ・中国と覇権を争うロシアはどう対応したか?
 ロシアのチジョフ外務次官は5月25日,「国際組織による独自調査は必要ない」と断言.ロシアは,カリモフさん支持を明確にしました.

 中国.
 カリモフさんは05年5月25日,中国を訪問.
 とてもあたたかい歓迎を受けます.
 中国外務省の孔泉報道官は5月26日,「中央アジアではテロ,分裂主義と過激勢力の脅威にさらされている.共同でテロに打撃を与えることが地域だけでなく世界の利益だ」語ります.

 つまり,カリモフさんの武力鎮圧を圧倒的に支持したのです.

 さて,これで旧ソ連の独裁者達は何がわかったか?

1,デモや暴動を決心して武力で鎮圧すれば,革命は阻止できる.
2,アメリカとつきあっているといいことがない.同じ独裁国家でやさしいロシア・中国とつきあおう.

 アメリカの対応にいかったカリモフさん.05年7月30日,ウズベキスタンに駐留している米軍の撤退を要求.後に実際に追い出すことに成功しました.

北野幸伯著「ロシア政治経済ジャーナル」No.384 2006/3/27号


 【質問】
 ベラルーシでは,どのようにして「オレンジ革命」を阻止したのか?

 【回答】
 NGO・NPO関係者を摘発し,一般民衆に対しては「武力」「逮捕」を言明することで,その気概を挫いたという.
 また,ベラルーシが「食えているほう」な国であることも大きかった.
 以下引用.

 やり方がワンパターンというのは,ある面対処するのが簡単です.
 ロシアとベラルーシは,だいぶ前から革命に備えて準備を開始しました.実をいうと,10ヶ月くらい前から.

 始まりは,ロシア連邦保安局(FSB=旧KGB)パトルシェフ長官の一言.
 パトルシェフ長官は05年5月12日,下院公聴会で,「非政府組織(NGO)を装った外国の情報機関が,ベラルーシで政権転覆を画策している」と証言しました.
 これは,いうまでもなくアメリカのことを指しているのです.

「名指しこそ避けたが,米国など西側の情報機関がベラルーシで民主革命を狙っているとの見方を強く示唆した.」(毎日新聞-05年5月13日)

 この後,両国がどのように準備を進めていたかは,もちろん公表されていません.
 しかし,だいたい予想することはできますね.
 カラー革命の資金は,アメリカ政府やソロスから,革命を起こす国で活動しているNGOあるいはNPOを通し,革命を起こす主体である野党勢力に流れています.
 であるならば,この流れをカットすればいい.
「金がなくても自由を求める国民の強い意志があれば,革命は成就する」
と,こう考えるのが平和ボケ.
 ウクライナのオレンジ革命の様子を皆さんもごらんになったでしょう.オレンジ色の旗,オレンジ色のテント,食費,動員等々で革命には金がかかるのです.
 オレンジ革命の光景は,ビジュアル的にも素晴らしくオーガナイズされたものでした.
 だって,見渡すかぎりオレンジの旗が振られているのですから.

 しかし,今回のベラルーシ選挙後のミーティングを見ていると,「青が革命のシンボルだ!」なんていいながら,青い旗は準備されていません.
 テントも数えるくらいしかありませんでした.
 なぜでしょう?
 金の流れが悪かったってことです.
 この辺,日本の新聞もちょろっと指摘してました.↓

手弁当の野党集会に限界も ベラルーシ,参加者じり貧

 ルカシェンコ大統領が3選を決めたベラルーシで,野党陣営は21日夜も首都ミンスク中心部の広場で3日目となる抗議集会を開催した.
 だが参加人数は約3000人で,日を追うごとに減少.
 野党はウクライナのオレンジ革命再現を狙うが,国民を挙げた気運につなげるには限界がありそうだ.」

(共同通信3月22日)

「雪が舞い昼間でも氷点下の冷え込み.熱いお茶や毛布を知人らが徹夜組のために手弁当で持ち寄る.
 財閥や企業の巨額支援による食料や寝具などの補給を得ることができたウクライナとは大きく異なる.」(同上)


 少ない金で,革命をすることが,いかに困難かってことですね.
 やはり革命参加者には,少なくともお弁当と住みか(テント)くらいは支給しないと.

 さて,FSBの長官が警告するまでもなく,アメリカがベラルーシで革命をする意志があることは明らかになってきました.
 というのも,バラ革命で政権をとったグルジアのサアカシビリ大統領とオレンジ革命で政権についたユシチェンコが会うたびに,「ベラルーシの独裁を倒さなければならない!」と公言していたから.
 革命というのはこっそり準備して,迅速にやるものでしょう.
 それを,ベラベラとしゃべる奴がいる場合は,事前にたくらみが発覚して失敗するものです.

 今年1月.
 ロシアはウクライナへのガス料金を1000立方m50ドルから230ドルに引き上げました.
 一方ベラルーシは今までどおり,ソ連価格の48ドル.
 ロシアは,反抗したウクライナを懲罰し,オレンジ革命政権を危機におとしいれます.
 ベラルーシ国民はどう思ったでしょうか?
「革命してもガス料金が5倍あがったりして,いいことがない」
と考えなかったでしょうか?

 2月3〜5日,ミュンヘンで安全保障会議が開かれました.
 ここで,ロシア次期大統領の最有力候補セルゲイ・イワノフさんは,ベラルーシの選挙について,「ルカシェンコの勝利を疑わない」と発言.
 そして,「他のCIS諸国のような混乱が起きれば,モスクワは黙っていない」と宣言します.
 国際会議で,ベラルーシの野党に警告するはずがありません.
 これは明らかに,旧ソ連諸国での革命をオーガナイズするアメリカ政府を牽制したのです.

 3月16日.
 アメリカ政府は,「2006年国家安全保障戦略」を発表.
 究極の目標は,「世界の圧政打倒だ」と宣言します.
 で,圧政国家ってどこ? 北鮮,イラン,シリア,キューバ,★ベラルーシ,ミャンマー,ジンバブエ.
 ベラルーシもちゃんと入っています.

 こんな風に,ごちゃごちゃしながら,ベラルーシの大統領選挙日が近づいていったのでした.

北野幸伯著「ロシア政治経済ジャーナル」No.384 2006/3/27号

▼カラー革命の動機

 さて,これまで起こったカラー革命でわかったこと.

1,アメリカの革命資金は,NGO・NPOを通して野党に流れている
2,国際選挙監視団の「選挙では不正が行われた」という発表が,野党の政権奪取に国際的正当性を与えている

 もう一つウズベキスタンの事例でわかったこと.

3,暴動・デモは武力で鎮圧できる

 ここでちょっと人間の欲望について考えてみましょう.

 今まで革命が起こったグルジア・ウクライナ・キルギスを見てみると,共通点がうかびあがってきます.
 つまり,独裁者が支配し,私腹を肥やしているせいで,国民は貧しい生活を強いられている.
 日本人は,「民衆は自由と民主主義を求めて独裁者を打倒したのだ」とかんがえがち.
 しかし,同じ独裁でも,食わしてくれるプーチンさんのロシアやナザルバエフさんのカザフスタンでは,政情が安定しています.
 どういうことでしょうか?
 民衆の「自由・民主主義!」という叫びは,言論や信教の自由以上に「ゆたかな生活」を求めているってことです.

 一方で,フランシス・フクヤマさんは「歴史の終わり」の中で,「気概が歴史を動かす原動力である」といっています.
 この場合,飯とかちょっとした生活レベルの向上が動機ではありません.
 例えば坂本龍馬は,地元の豪商の子で,そのまま土佐にいればリッチに暮らすことができた人です.
 命がけで革命に身を投じたのが,「飯」が動機であるとは考えられません.
 旧ソ連諸国の革命でも,主導したのは政府で高い地位にいた人ばかり.
 それをアメリカから金をもらっているとはいえ,リスクを背負って革命をおこすのは,やはり気概といえるでしょう.

 しかし,一般人は飯.
 私腹を肥やしている独裁者がいなくなれば,「欧米から支援が来てもっと楽に暮らせるだろう」と考えている.
 こういう動機ですから,ウズベキスタンみたく「武力」が登場すると困る.だって,「腹いっぱい飯が食えるようになりたい」と思って出てきたら,殺されてしまうリスクがあるのですから.
 そんなわけで,旧ソ連のカラー革命は,「武力」「逮捕」という言葉に弱いのです.

▼脅迫

 さて,こんな事実をふまえて,3月16日.ベラルーシのKGB・最高検・内務省のトップが,共同記者会見を開きました.
 バラ革命が起こったグルジア,オレンジ革命が起こったウクライナからきたテロリストを逮捕したとの発表.
 そして,KGBトップのスホレンコさんは,「テロを準備している勢力の背後に,野党のトップ,ミリンケビッチとレベディコがいる可能性がある」と語ります.
 そして,この犯罪に対する罰は,「死刑」にすることもありうると宣言したのです.
 まあ,現政権から見たらの話ですからね.
 実際に,グルジアやウクライナから「カラー革命」支援にかけつけている可能性もあるでしょう.
 現政権からみれば,「革命分子」「政権転覆を狙うテロリスト」ということもできます.

 ところが,この記者会見は「もう少し豊かな生活がしたい」と思っている一般人に対し,政権側の決意を伝えるのに十分でした.
「刑務所に入ったら,豊かな生活どころじゃない」(涙)
「死刑にされた日にゃあ」(涙)

 というわけで,これまでの流れを見ると.

1,ロシアとベラルーシは,革命阻止の準備を昨年5月からしていた
2,そのメインはおそらく,アメリカからNGO経由で野党に流れてくる資金をカットすることであっただろう
3,現政権の代表者は,選挙直前に「革命参加者は死刑もあり得る」と脅し,一般人の気合をそいだ.

 さらに,今度は大統領自身がとどめの脅しをしました.
 17日,ルカシェンコさんは,
「騒ぎを起こせば子ガモのように首をねじり始末する」
と,野党陣営を脅迫.
 まあ,野党のトップもびびったでしょうが,困っちゃうのは一般大衆ですね.
 こんなこといわれた日にゃあ,「当日は自宅でピロシキでも食っておとなしくしておこう」ってことになります.

 こんなゴチャゴチャした状態で,選挙当日がやってきたのです.

北野幸伯著「ロシア政治経済ジャーナル」No.385 2006/3/30号


目次へ

「軍事板常見問題&良レス回収機構」准トップ・ページへ   サイト・マップへ