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◆◆情報パワー
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総記FAQ目次


 【link】

「FSM」:情報領域(インフォスフィア)は変化する.角度とか.

インテリジェンスと軍事など


 【質問】
 情報のパワーはどのように変遷してきたのか?

 【回答】
・情報の力は,古くから認識されていた.

・情報革命は,現代にいきなり起こったのではなく,様々な時代にもあった.

・現代社会においては,情報伝達のコストがまさしく「飛躍的」に減少している.

***

 17世紀の思想家,フランシス・ベーコンが「情報は力である」と論じたように,国家間の間でも,情報は大きなパワーであり,国内,国際問わず多くの人たちが,この力を享受している.
(そもそも,孫子の時代から言われていたことだが)
 政府は常に,この「情報」の流通/管理に腐心していて,現代だけが情報技術の変化に強く影響されているわけではない.

 これについて,ナイ教授は以下のように分析している.

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 グーテンベルグ(Bible Butenberg)による活発印刷の発明は,聖書の印刷とそのヨーロッパでの大々的な普及を可能にし,宗教改革の第一歩に重要な役割を演じたと,しばしば評価されている.
 政治的パンフレットや文通による結社は,アメリカ独立革命への道を開いた.
 コンストラクヴィスト[構成主義者]が指摘するように,情報の流通の急速な変化はアイデンティティや利害の重要な変化を導きうる.
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 現代において,この情報革命は,インターネットに代表されるコンピューター,通信,ソフトウェアの急速な技術的進歩に基づいている.
 コンピューターの処理演算能力は,過去30年間,18ヶ月ごとに倍増していて,21世紀のはじめには,そのコストは,1970年初頭の1%にまで減少した.
 もしも車のエンジンが,半導体のように急速に価格低下を起せば,今の自動車は,5ドルほどで買える計算になる.

 現在の情報技術の発展例として,ナイ教授は以下のように述べている.

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 1993年には,世界中のウェブサイトは50ほどしかなかった.
 10年後には,その数は優に500万を超えている.
 2003年までに,インターネット上の国際的情報流通は急激に拡大しており,通信コストの低下速度は,電算処理能力が上昇する速度をはるかに上回っている.
 1980年の頃でも,銅線を用いた電話は1秒でわずかに1頁ほどの情報しか伝達できなかった.
 それが今では,光ファイバーで1秒に9万冊分もの情報が伝達できる.
 1930年当時の大西洋をまたいだ3分間の電話の料金は,現在のドルに換算すれば250ドルであったが,21世紀の初めにはそれが1ドルを大幅に下回っている.
 1980年には,1ギガバイト[約10億バイト]を収納するには1室が必要だったが,アップルのi-ポッドはポケットに収まり,40ギガバイトを収納できる.
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 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第8章を参照されたし.

ますたーあじあ in mixi


 【質問】
 情報革命の特徴とは?

 【回答】
 情報伝達コストの大幅な減少.

 この130年の間,ヨーロッパと北米の間では,ほとんど瞬間的な通信が可能だった.
 しかしながら,これを共有できるのは,富者に限られていた.

 ところが,情報伝達手段の大幅な向上により,情報の伝達コストが無視できるレベルになったことにより,世界中に伝達できる情報量は,事実上,無限となった.
 これにより,情報の爆発が起きた.

 これについてナイ教授は以下のように分析している.

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 ある推計によると,現在15億ギガバイト,つまり世界全体で一人当たり250メガバイトのデジタル情報が磁気媒体によって蓄積されており,そうした情報の流通は毎年倍増している.
 21世紀の初頭にあって,コンピュータ利用者は毎年およそ4兆通の電子メールを発信し,ワールド・ワイド・ウェブは画面上に170兆バイトの情報を掲載していた.
 これは,米国連邦議会図書館が所蔵する活字文献の17倍に等しい.
 コンピュータと通信が結びついた技術の劇的な変化は,特に「第三次産業革命」と呼ばれるが,政府や主権の性質を変え,パワー[力]の拡散をもたらしている.
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まとめ

・情報革命の特徴は「情報伝達コストの減少」による,情報の爆発が起きたことにある.

・情報革命は,政府・主権の性質を変えて「パワーの拡散」を起こす.

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第8章を参照されたし.

ますたーあじあ in mixi


 【質問】
 (第三次)情報革命は,新しい世界政治を作り上げる可能性があるのか?

 【回答】
 反実仮想としての考えると,意外に可能性はある.

 現実的に,情報革命が中央政府に与える影響は初期的なものだが,人によっては,今までの中央集権的な社会を変える可能性があると,ナイ教授は指摘する.

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 ピーター・ドラッガー(Peter Drucker)や,トフラー(Heidi and Alvin Toffler)夫妻は,情報革命が,産業確革命の時代を特徴付けた階層的な官僚機構の終焉をもたらしているだろ,と論じている.
 市民社会で分権的な組織や仮想共同体がインターネット上で発展するにつれて,それらは領域的な管轄を横断し,独自の統治のパターンを形成していく.
 もしこうした予見が正しければ,その結果は,市民の重層的なアイデンティティと帰属意識に対応する,重複する様々なコミュニティと法制度からなる新しい「電脳封建制度」ということになるのかもしれない.
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 これによって,過去300年に渡って主流だった近代中央集権国家が反転することがありうる.
 「国際政治」ではなく「世界政治」となる可能性だ.

 中世のヨーロッパでは,地元の領主・君主・国王・ローマ法王に同様の忠誠心を有していた.
 将来のヨーロッパにおいては,宗教・仕事,それに電脳共同体と並び,パリやベルリンに帰属意識を持つかもしれない.

 現在においては,主権国家こそが国際関係の主要なパターンではあるが,1648年のウェストファリア条約で,国家の主権を決定付けた以前の状況ににて,共同体や統治を横断して,政治的な境界を越えた脱国家的な接触が多くなっている.
 これは,中世には多く見られたが,中央集権政府の台頭で,徐々に制限されていった.

 また,主権自体の形が変化しつつあるとナイ教授は述べている.

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 30年前にも脱国家的な接触は既に増大しつつあったが,それは多国籍企業や科学者の集団,研究機関などにかかわる比較的少数のエリートによるものであった.
 今では,何百万人もの人々に,インターネットが低コストで脱国家的なコミュニケーションの道を開いているのである.
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まとめ

・情報革命が,政治に対して決定的な影響を与える可能性はある.

・国家の主権を超えた脱国家的な接触が多くなってきている.

・国家の主権自体,変化してきている.

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第8章を参照されたし.

 私見:少し急進的な見方だとは思うが,たしかに「脱国家的な接触」は善悪織り交ぜて増えていると思う.

ますたーあじあ in mixi


 【質問】
 情報革命は,国家間のパワーにどのような影響を与えているのか?

 【回答】
 情報革命は善悪は別として,非国家的主体にパワーを与え,中央政府による統制を弱めることで,国際政治を複雑化している.

 また,情報革命は国家間のパワーにも影響を与えているとナイ教授は指摘する.

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 この局面では,アメリカが利益を得て貧しい国々が後塵を拝している.
 中国やインド,マレーシアのように,貧しい国々の中でも,情報経済に参入するのにかなりの成功を遂げてきた国々もあるが,インターネットに接続できる人々の87%は脱工業化社会の住人である.
 情報化時代の世界といっても,依然として農業中心経済,工業中心経済,サービス中心経済の混合したものなのである.
 情報化時代に最も影響を受けた脱工業化社会とその政府は,情報革命に殆ど影響を受けていない国々と共存し,相互作用している.
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 このような情報格差は,技術の発展と伝播によって,コストの低減が起き,貧しい国々でも馬跳びのように発展のある種の段階を飛び越えることができるかもしれない.
 たとえば,無線通信がすでにコストの高い有線に変更されていっているし,音声認識技術の普及により,文字が読めない人でもインターネットへのアクセスを可能にしてきている.

 インターネットは,さまざまな産業に知識を与え,恩恵を受ける人々を増やすだろうし,情報が増えれば,中間搾取も減少する可能性がある.

 E-Learningに代表される遠隔学習やインターネット接続は,貧困で孤立した国々の医療や科学技術の進歩に寄与する可能性もある.

 だが,ひとつ忘れてはならないのは,貧しい国が欲しているのは「インフラ」と「基礎教育」である.(情報を得るためにも,当然必要になるだろう)
 技術は時間とともに拡散して,多くの国々では独自の「シリコン・バレー」を欲するだろう.

 これについて,ナイ教授は以下のように分析している.

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 ハイテク王国への仮想の鍵を確認するのは容易である.
 難しいのは,実際に門を開けることなのである.
 十分に発展した通信インフラ,安定した所有権,理にかなった政府の政策,新たなビジネス形成を奨励する環境,成熟した資本市場,そしてその多くが英語を解する熟練労働力(ウェブ・ページの80%は英語である)−こうした条件は,貧しい国々にもやがて到来するであろうが,すぐにではない.
 こうした条件のいくつかを満たすインドですら,ソフトウェア企業は何十万人を雇用しているものの,10億人の人口の半数はまだ文字が読めないままなのである.
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 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第8章を参照されたし.

(まとめ)

・情報革命は善悪は別にして,非国家主体にも強国にも力を与える.

ますたーあじあ in mixi


 【質問】
 情報革命は国家間のパワーを平準化させるだろうか?

 【回答】
 情報革命は,全般的に見ると分権化・平準化の効果があるが,国家間のパワーまで平準化するかどうかはわからない.
 情報革命が市場参入へのコストを引き下げるにつれ,大国のパワーを減少させ,小国や非国家主体のパワーを増大させるはずだが,実際には,国際関係は技術決定論が示唆するよりも複雑で,情報革命の側面がある小国は利益を得るが,別の側面では既存の大国を利する.

 これには3つの理由があげられるので,1つずつ例を挙げて説明してみると.

●規模の問題

 規模は,依然として重要なファクターであり,経済学者が参入障壁とと呼ぶものや,規模の経済などは,情報に関連するパワーのいくつかの側面を持っている.

 これについて,ナイ教授はソフト・パワーの例を挙げて説明している.

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 例えば,ソフト・パワーは,放送や映画,テレビ番組の文化的コンテンツ(内容)に強い影響を受ける.
 既存の巨大なエンターテイメント産業はコンテンツの製作や配給面で,しばしば多大な規模の経済の便益を享受している.
 世界市場における映画やテレビ番組でのアメリカの支配的な占有は,この事例である.
 新参者がハリウッドと肩を並べることは困難である.

 さらに情報産業では,規模を増すにつれて見返りの高まる「ネットワーク効果」がある.
 われわれもしるように,1台の電話は無益である.
 2台目から価値が生じ,ネットワークが拡大するにつれ価値は高まるのである.
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●投資

 現在では,既存の情報を伝播することは簡単でコストもかからないが,新情報の収集・生産といった場面では,大きな投資を必要とすることがある.

 多くの競合的な状況でもっとも大事なのは新しい情報である.
 ただし,ある種の側面では,情報は非競合的な公共財であって,ある人が情報を消費したからといって,他の人の消費分が減るわけではない.

 これについて,ナイ教授はトマス・ジェファーソンのことばを引用しつつ以下のように述べている.

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 トマス・ジェファーソン[Thomas Jefferson]は蝋燭の例えを用いた.
 自分が他人に明かりを提供しても,自分の明かりが減るわけではない.
 だが,競合的な状況では,自分が明かりを得て物事を人より先に見れば大きな相違が生じるかもしれない.

 情報収集はこの好例である.
 米露仏英は,他国の能力を凌駕する[情報]収集・生産能力を有している.
 公開情報によると,アメリカは情報活動に年間約300億ドルを用いている.
 ある種の商業活動では,先導者よりもすばやい追随者の方が有利になることがあるが,国家間のパワーの観点に立つと,通常,先導国の方がすばやい追随国よりも有利である.
 インターネットが距離を短縮しているあらゆる議論にもかかわらず,いわゆる「カクテル・パーティ効果」のゆえに[インターネット関連の]企業がサンフランシスコ南のシリコン・バレーという小さな地域に密集しているのは,皮肉ではあるが偶然ではない.
 成功を収める秘訣は,公開前の新情報を何らかの形で入手することである.
「新技術がたえず時代遅れになってしまう産業では,企業は需要を認識し,資本を確保し,製品を市場に速やかに持ち込まなければならない.
 さもなければ,競争相手に打ち負かされてしまう」.
 市場の規模と競争相手,供給者,顧客との近接性は,情報経済にあっても依然として重要なのである.
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●先導

 先導者は,しばしばシステム基準と構造の創出者になる場合がある.

 ナイ教授は,アメリカの詩人ロバート・フロストの詩を引き合いにだしながら,以下のように述べている.

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 ロバート・フロストの有名な詩のように,森の中の道が分かれていて,いったんそのうちの1つを進むと,他の道にとって返すことは困難である.
 時として,粗雑な低コストの技術が近道を切り開いて,先導者を追い越すことが可能になることもあるが,多くの場合,情報システムの経路依存型の発展は,先導者の有利を示している.
 インターネットに関する英語の使用とトップ・レベルのドメイン名のパターンは,この事例である.
 部分的には1980年代のアメリカ経済の変容のゆえに,そして部分的には冷戦による軍事的競合に触発された大規模な変容のゆえに,情報技術の広範な応用の面でアメリカはしばしば先導者であったし,依然としてリードを保っている.
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●軍事力

 未だに軍事力は,国際政治の決定的な局面で重要な要素だ.
(ソフトパワー「信者」に言っておきたいが,ナイ教授は著書の冒頭に「軍事力が決定的な役割を果たす」と述べている,
 というか,ソフトパワーという言葉を使いたい人はまず著書を読んでくれ・・・)

 情報技術は,武力行使を巡り小国を利する効果と,大国を利する効果の両面がある.

 小国や非国家的主体に有利な面としては,かつて,非常にコストが高く,大国がほぼ独占していた軍事技術はマーケットで販売されている,という面がある.
 これによって,小国や非国家的主体が比較的容易にこれらを手に入れることができ,大国の脆弱性(攻撃を受ける可能性と言い換えてもいいかな?)は増大する.

 現在では,だれでも他国の解像度1mレベルでの衛星写真を,安価に(Goole Earthなどでは無料で)手に入れることができる.(解像度1mは言い過ぎかもしれないが)

 企業や個人は,数年前には最高機密で,政府が数十億ドルを投じていた衛星写真を,インターネットを通じて手に入れることが可能である.(中国の潜水艦をみつけたのも個人だったし)

 ナイ教授は,北朝鮮での衛星写真の例を挙げて,以下のように述べている.

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 数年前にあるNGOが,アメリカの北朝鮮政策は誇張されていると感じた時,北朝鮮のロケット発射台の民間による衛星写真を公開したことがあった.
 明らかに,他国もアメリカの基地に関する同様の写真を購入することができる.
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 正確な場所を測定できる全地球測位技術は,かつては軍部だけのものだったが,今では電気屋に行けば購入できる.(GPS技術)
 さらに,テロリスト集団の格好の標的になるという意味で,情報システムは豊かな国々にとって脆弱な面を生み出している.

 ナイ教授はサイバー攻撃を含む脅威について,以下の分析を行っている.

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 来るべき25年のうちに(サイバー戦争能力を備えた小国を含む)洗練された敵対者がアメリカを脅迫できると考える可能性は,十分にある.
 フリーランスのサイバー工g系〔引用者の表記ママ〕も考えられないわけではない.
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 だが,別の側面では強国に有利に働く.

 情報技術は「軍事技術革命」(RMA)を生み出し,宇宙配備のセンサー,直接放送,高速コンピュータ,複雑なソフトウェアは,広範囲の地理的な複雑な情報を収集して分別し,処理して転送を行い,流布する能力を持っている.
 精密誘導爆弾とあいまって,戦場でこのような優勢的情報把握能力は,非常に軍事的な優位を生み出している.

 2度の湾岸戦争において,戦車や飛行機などの兵器は単純な能力だけではなく,この「情報を統合する能力」を含まないと正確な戦力分析ができない.
 フセインや,アメリカ議会はこの点を軽視,もしくは間違っていた.(治安維持活動は別のお話)

 確かに,軍事技術そのものは民間を通じて入手可能であり,弱小国はこれらを購入することはできるが,鍵となるのはこれらの「システム間のシステム」を統合する能力であって,この分野ではアメリカは他に対して優越を維持するだろう.

 情報戦争では,わずかな情報的な優位がですべてが異なってくる.

(まとめ)

・情報革命は,分権化と平準化の能力を持っているが,これは小国・火国家主体にも,強国にも有利な面がある.

・規模,情報の伝播,先導者の存在,軍事力が情報革命にとってのファクターとなる.

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第8章を参照されたし.

ますたーあじあ in mixi


 【質問】
 情報革命は,国家間のパワーをどのように変化させたか?

 【回答】
 まず,国家間のパワーを均等にすることは現在のところできていない.
 それどころか,逆に強国に有利に働いており(戦争などはその顕著な例だろう),リアリストたちは汚名をそそいだと感じているかもしれない.

 しかしながら,政府の役割と国家のパワーを低下させたのも事実で,この面ではリベラリルやコンストラクティヴィストの予見が正しい.

 社会間の色々な伝達経路という面からみると,複合的相互依存は大きく進行していると見ることも可能だ.

 「情報の氾濫」が起きて,これは人々に「豊穣のパラドックス」をもたらした.
 ナイ教授は以下の見解を述べている.

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 情報の過剰が関心の希少化をもたらしたのである.
 人々は膨大な情報に直面したとき,何に焦点を当てるべきか見極めることが困難になる.
 情報よりも関心が希少資源となり,背後の雑音から価値ある情報を区別できるものが,パワーを得る,
 編集や進行にかかわる者の需要が増し,このことは,どこに注目すべきかの指示を出せる者にといったものを授与する能力が,ますます重要になるのである.
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 情報が氾濫することによって,世論はプロバガンダに対して,より慎重で敏感となった.
 無料情報の一形態としてのプロバガンダは,新しいものではなく,ヒトラーやスターリンが1930年代にこれらを有効活用した.
 1990年代には,ミロシェビッチによってテレビの統制が行われ,セルビアで権力を維持するためには必要不可欠だったし,1993年にはモスクワで権力闘争がテレビを通じて行われた.

 現代では「信憑性」が決定的な要素であり,ソフト・パワーの重要なパワー源となる.
 「評判」は以前よりはるかに重要になっていて,信憑性を作り上げたり,それを破壊したりするような政治闘争が起きている.
 政府は,他の政府だけではなく,ニュース・メディア,企業,非政府組織,科学共同体ネットワークなど,広い範囲で選択肢と信憑性を競い合っている.

 伝統的な政治とは,軍事的に,もしくは経済的に「誰が勝つか」というものだったが,情報化時代になると「究極的に誰の物語が勝つのか?」が焦点となるかもしれない.
 その意味で,政治とは「競合する信憑性のコンテスト」のようなものになる.

 これについて,ナイ教授は以下のように述べている.

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 政府は他の政府と,また他の組織と,事故の信憑性を増し相手のそれを弱めようと競争している.
 1999年のコソヴォでの出来事や翌年のセルビアでの出来事の解釈をまとめるために,セルビアとNATOが展開した闘争を想起すればよい.
 2000年10月のスロボダン・ミロシェヴィッチ失脚にいたるデモに先立って,セルビア人の成人の45%がラジオ・フリー・ヨーロッパやヴォイス・オブ・アメリカを聞いていた,
 これとは対照的に,国家が統制するラジオ局ラジオ・ベオグラードを聞いていたのは,わずか31%に過ぎなかった.
 さらに,国内の別のラジオ局B92は西側のニュースを提供しており,政府がこれの閉鎖を試みた時にも,インターネットでこうしたニュースを提供し続けた.

 プロバガンダと映る映像は,軽蔑されるだけではなく,その国の信憑性についての評価を害するとすれば,全く逆効果となるであろう.
 2003年に,サダム・フセインの大量破壊兵器やアル・カーイダとのつながりを誇張された主張は,イラク戦争のための国内的支持を獲得する助けになったかもしれないが,世論調査が示しているように,この誇張が後に判明すると,米英の信憑性は大きな打撃を被ったのである.
 新しい条件の下では,物柔らかな販売法の方が強引な販売法よりも効果的であるかもしれない.
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 イラクの事例を見れば分かるように,パワーは必ずしも情報を手元に留保している者に流れるわけではない.
 非公開情報は,これを保持している者の信頼性を損ないうる.
 これについて,ナイ教授は以下のように分析している.

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 ノーベル賞受賞者ジョージ・アカーロフ(George Ackerloff)の指摘するように,中古車のディーラーは,自分が扱っている中古車の欠陥を,顧客よりもよく知っている.
 さらに,悪い車の持ち主の方が,いい車の持ち主よりも,車を売ろうとするものである.
 こうした事実から,知られざる欠陥に適応するために,顧客は自分が払おうとする価格の割引を求める.
 したがって,ディーラーがより多くの情報を持っていることは,彼が受け取る平均代金を上げるには役立たないばかりか,よい中古車を真価で売れなくしてしまうのである.
 貿易を巡る非対称的相互依存では,貿易をしなくて済む者や貿易を断つことに耐えうる者がパワーを掌握するが,それとは異なり,情報力は,何が正しく重要かを編集し認証できるものに流れるのである.
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<まとめ>

・情報革命は,国家のパワーを均質化せず,却って強国を有利にしているが,それでも国家の役割とパワーは低下している.

・現代の政治では「信憑性」をうる事が大事なファクターとなりつつある.

・プロバガンダは,政府の信憑性を落とす可能性もある.

・情報は,手元に留保していれば有利とは限らない.

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第8章を参照されたし.

ますたーあじあ in mixi


 【質問】
 (インターネットなどによる)無料情報が豊富になることと,情報の信頼性の重要度が増すことによって,ソフトパワーはどのように変質するのか?

 【回答】
 情報を生み出し,広める能力が限られた状態では,雑誌や新聞などのメディアを統制すればよかった,
 例えばラジオ局を武力制圧するといったハード・パワーの行使によって「ラジオ」というメディアのソフトパワーを得ることができた.
 世界的規模を持つテレビ局では,財力そのものがソフトパワーを生み出す源泉となる.

 これについて,ナイ教授はCNNの例などを挙げている.

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 例えば,産業・技術でのアメリカの指導的地位のゆえに,CNNはアンマンやカイロではなくアトランタを拠点にしていた.
 1990年にイラクがクウェートを侵攻した折,CNNが基本的にアメリカ企業で合った事実が,世界中でこの事件を,(1960年代に広く受け入れられたインドによるポルトガル領ゴア「解放」との類比で)植民地支配の屈辱を晴らす正当な試みとしてよりむしろ,(1930年代のヒトラーの行動との類比で)侵略として位置づけるのに役立った.
 だが2003年までには,アルジャジーラやアルアラビアのような地域のケーブル・ネットワークが台頭し,アメリカの独占を切り崩し,イラク戦争に関する諸問題の地元の特徴づけに貢献した.
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 情報化時代における複合的相互依存の状況では,ハードパワーとソフトパワーの密接な関係は,多少とはいえ弱まるだろう.
 当然,放送のパワーは残るだろうが,他に多様なコミュニケーション・チャンネルが存在し,互いを支配するために武力行使が不可能な多様なアクターに統制されていく,インターネットの力が強まっていくだろう.

 ひとたび過剰な情報源ができると,テレビ・ラジオ,ウェブサイトを誰が(どのアクターが)所有しているかよりも,どの情報源や誤情報に誰が関心を払うかが,紛争に影響を与えていくだろう.(ブロガーがデマを暴いていく事なども例としてあげていいかな?)

 放送は,古くから世論に影響を与えている情報流通の一つだった.

 これについてナイ教授は以下のように分析している.

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 ある紛争や人権問題に焦点をあてることで,放送者は他のことではなくある外国での紛争に(たとえば,1990年代の南スーダンではなくソマリアに)対応するよう政治家に圧力をかけてきた.
 政府がテレビやラジオ局に影響を及ぼし,操作し,そして統制しようとしてきたことは,驚くには当たらないし,比較的少数の放送局が同じメッセージを多くの人々に伝えているうちは,それに相当成功してきた.
 しかし,大規模な放送[ブロードキャスティング]から多様で個別の伝達[ナローキャスティング]への変化は,重要な政治的意義を持っている.
 ケーブルとインターネットによって,送信者は受信者を細分化して狙いを定めることができる.

 政治にとってさらに重要なことは,インターネットの相互作用である.
 それによって関心が集まるのみならず,国境を超えた行動の調整が促進される.
 低いコストでの相互作用は,新たな仮想共同体の発展を可能にし,物理的に遠く離れているもの同士にも1つの集団の一員だと想像させるようになる.
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<まとめ>

・各人が得られる情報量と信頼性の重要さが増すことによって,ハード・パワーでソフト・パワーを得られるような場面が少なくなってきた.

・インターネットなどの多様なコミュニケーション手段の存在は,単純な武力では統制できないであろう.

・情報源の多様化,共有化は,紛争に影響を与えていくだろう.

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第8章を参照されたし.

ますたーあじあ in mixi


 【質問】
 情報革命と民主化にはどういう関係があるのか?

 【回答】
 情報革命が起きている国家は,ほとんど民主主義国家であり,これは偶然じゃない.

 民主主義は基本的に「自由な情報交換」が可能であり,政治体制や統治がそれによって脅かされない.
 民主主義国家は,情報の入手が限りなく自由に近いので,情報の形成も可能であり,発展途上国のような権威主義的国家には,このような状況を見ることは少ない.

 例えば,中国ではインターネットのプロバイダを政府が管理し,比較的少数の利用者をモニターすることで,インターネットの市民からのアクセスを統制することができる.
 このような制限を潜り抜けることは可能だが,リスクが大きく,コストが高くなる.

 また,政治的に効果的であるためには,完全な統制が必要とも言えないとナイ享受〔原文ママ〕は述べている.

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 シンガポールは政治的には統制が強く,経済的には自由主義の国家であり,これまでのところ,政治的統制をゆるめずにインターネットの役割を増大させている.
 だがシンガポールのような社会は,より広範な知識労働者が「ネット」への規制緩和を求める発展段階に達しており,シンガポールは,情報経済での競争にとって最も希少な資源である創造的な知識労働者を失う危険を冒している.
 したがってシンガポールのディレンマは,一方で情報経済が求める個人の創造性を奨励するために,教育制度を再編しつつも,同時に,情報の流通を巡る既存の社会的統制を維持しようと格闘していることである.
 閉鎖的システムはより高くつくようになる.
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 上記のような閉鎖的なシステムのコストが高くなる要因として,重要な決定が不透明である権威主義的国家では,外国人が投資のリスクを大きく見積もることがあげられる

 透明性は,投資を求める国々にとって重要な資産になりつつある.

 かつては,情報を手元から話さない,開示しないことは権威主義的国家にとって価値あるものだと思われていた.
 だが,いまや地球的規模の競争で,投資をひきつけるのに必要な透明性や信頼性を損なう要因となってしまう.

 これは1997年のアジア通貨危機の際に明らかとなった.
 透明性が低い政府は信頼されない.
 そうした政府は提供する情報が偏っていて,開示する情報を選択しているように思われるからである.

 さらに,経済発展が進んで中間層が増えるに従い,抑圧的手段は,国内のみならず国際的な評価にも反映する.
 これについてナイ教授は台湾と韓国の例を挙げている.

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 民主化と表現の自由を求める要求の高まりを押さえつけることは,評価とソフト・パワーの点で高くつくと言うことを,台湾と韓国は共に1980年代後半に認識した.
 民主化を始めることで,両者は経済的危機に対処する能力を(たとえば,インドネシアと比べて)強化したのである.
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 相互作用と仮想共同体が将来にどのような影響を与えるかは,未だに不確定だが,様々なチャンネルを通じて,無料の情報が流通していくことの政治的効果は,すでに明瞭になっている.

 国家は,社会に関する情報を統制できなくなりつつあり,発展を望む国家は,外国の投資や技術,組織などを必要とするので,結果として透明性の高い国家の方がより発展のチャンスを得られることになる.

 地理的な共同体(国家など)は引き続き最も重要な要素だが,急速な発展を望む政府は,自国内の官僚を守るような情報の隔壁を放棄せざるを得ない.
(上記のように,透明性を確保しないと,外資がよってこないため)

 高度発展を望む国家は,もはやブラックボックス化して安心するような余裕はない.

 現在は情報革命の初期段階であって,どんな結論だろうが,それは暫定的なものに過ぎない,
 だが,ナイ教授は4つの議論にまとめることができると主張している.

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 第一は,国家間のパワー配分に関して,情報・通信革命が均等化効果を持つと予見した点で,一部のリベラルは誤っている.
 1つには,規模の経済と参入障壁が,通商・戦略情報に関して残存するからであり,また1つには,無料の情報に関して,大国がしばしば信頼性の競合で有利な地位を占めているからである.

 第二に,情報の安価な流通は,国境を超えた接触経路に重要な変化を引き起こした.
 国境を超えて活動している非政府組主体は,自らの見解を組織し宣伝する上で,はるかに大きな機会を持っている.
 主権国家はますます容易に浸透されるようになり,ブラックボックスとは程遠くなりつつある.
 政治指導者は,外交問題で一貫した方針を維持するのがより困難になっていることに気づくであろう.

 第三に,情報革命は変容しつつある政治過程であり,そこでは,信頼性という主要なパワーの源泉をめぐって,開放的な民主主義的国家や脱国家的主体が権威主義国家よりもうまく競争を展開している.

 最後に,政府とNGOの双方にとって信頼性が主要なパワーの源泉になりつつある.
 より多元的で浸透性の高い国家では,政府の政策上の一貫性は減少しつつあるが,その同じ国家が信頼性とソフト・パワーで優位に立つかもしれない.
 つまり,リアリストが強調するように,地理的基盤を持つ国家は情報化時代にも政策に枠組みを提供し続けるであろうが,コンストラクティヴィストが指摘するように,その枠組みの中での世界政策の過程は,深刻な変化にさらされているのである.
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<まとめ>

・情報革命がおきている国家に民主主義国が多いのは偶然ではなく,必然的要因があるからである.

・透明性は,外部からの資金,技術,組織を呼び込むために必須となりつつある.

・国家のような地理的共同体は引き続き最も重要な要素だが,それだけで発展は望めない.

・高度発展のためには,情報的な隔壁を除かざるを得ない.

・情報革命の議論は四つに分類することが可能である.

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第8章を参照されたし.

ますたーあじあ in mixi


 【質問】
 最近では,情報こそが経済の基盤であるという説があるが,これは正しいのか?

 【回答】
 かなりの面において正しくなりつつある.

 最近では,コンピュータによるコミュニケーション(インターネットなど)が経済成長の中心的な役割を果たしている,
 このような経済は「軽量」経済とも呼ばれる.
 これらは,生産品に内蔵された「情報の価値」がしばしば原材料よりもはるかに大きな価値を持つからである.

 これらの変化は,世界経済における原材料の価格をさらに引き下げることがある.
 ただ,石油だけは例外だとナイ教授は述べている.

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 石油は数少ない例外であり,ほとんどの先進経済,とりわけ輸送部門で,重要な役割を果たしている.
 それゆえ,世界で今日知られる石油埋蔵量の大半を占めるペルシャ湾は,戦略的な拠点なのである.
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<まとめ>

・製品に付加される情報は,しばしば製品そのものよりも大きな価値を持つ.

・ただし,石油だけは例外である.

 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.

ますたーあじあ in mixi


 【質問】
 情報技術の革命による「分権化」は,どのように進行しているのか?

 【回答】
・情報革命による「分権化」には肯定的な意見と否定的な意見がある.

・否定的な見解は,テロなどの新たな脅威を,肯定的な見解では,交易の無国境化があげられている.

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 元々はジョージ・オーウェルの小説「1984年」のように,コンピュータ技術は中央集権化をもたらすと思われていたが,情報技術の革命によって情報通達のコストが劇的に下がることにより,権力は逆に分散化している.

 情報革命がどれくらいの範囲と速度で分権化を推進するかは,国によって異なるし,これに対して対抗勢力が台頭するかもしれない.

 しかしながら,政府は外交政策の独占を失いつつあり,世界政治の舞台は非国家主体と共有せざるを得なくなる.

 この「権力の分散」メリット・デメリットについて,ナイ教授は以下のように述べている.

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 権力の分散は,肯定的な帰結と否定的な帰結の双方をもたらしうる.
 肯定的な見解では,技術が経済発展を促進し,権威主義体制を揺るがすことになる.
 その結果,民主主義的平和の諸島が拡大する速度が増すであろう.

 否定的な見解では,破壊的意思をもった個人やテロ集団,さもなければ弱小国家が大量破壊兵器を入手して,国家間システムの無政府状態ではなく真の無政府状態を作り出す,つまり新しい封建主義の出現ということになる.
 こうした不安定な世界では,経済のグローバル化は遅れ,基本的な人身の安全を図るためにホッブス流の専制的政府が必要となり,市民の民主主義自由度は犠牲にされるかもしれない.
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 肯定的な見解では,コミュニケーション手段の発達で,国境を超えたやり取りが容易となり,地球上のほかの地域で起こっていることの情報へのアクセスが簡単になるし,地球規模での組織化もより可能となった.
 NGOは環境・人権といった大義の為に脱国家的キャンペーンを展開できるし,インターネットは市民に情報を提供することで,権威主義体制を弱めている.

 脱国家的主体で最も注目を集めるのは,多国籍企業だ.
 世界中で投資を拡大し,いろんな世界の市場で利益をあげながら,多国籍企業は従来とは異なる世界経済を形成している.
 各国の政府間では,国際投資の誘致をめぐって競争が行われており,世界貿易の大部分は,多国籍企業によって担われている.

 これについてナイ教授は以下のような例を挙げている.

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 ホンダは,今では日本国内よりもアメリカ国内でより多くの自動車を生産しており,アメリカ製の自動車を日本に逆輸出している.
 アメリカ政府は,EUにアメリカ製のホンダ車を受け入れるように圧力を掛けている.
 つまりアメリカは,アメリカ製の日本車をヨーロッパに輸出することがアメリカの国益であると考えているのである.
 同様に,IBMはに日本における大型コンピューターの最大の生産者なのである.
 日本IBMは日本で研究を行い,日本人を雇っている.

 このような中でロバート・ライシュ(Robert Reich)元労働長官は,「われわれは何者なのか」という疑問を投げかけた.
 企業の本社の所在地を重視すべきであろうか,それとも,研究を生産を行う場所を重視すべきであろうか.
 彼は,アメリカ国内で生活する人々にとって重要なのは,日本にあるアメリカ企業よりも,アメリカ国内で活動する外国企業であると主張する.
 ライシュに異を唱える者たちは,彼が必要以上に先を見すぎていると批判する.
 多国籍企業の大分文意は基本的に国籍があり,アメリカ国内生産の4分の3はアメリカ国内に本社を置く企業によってなされているのである.
 けれども,ライシュの主張は将来を考える上での興味深い示唆ではある.
 国境を超える投資の増加に伴って,アイデンティティが混乱し,「我々は何者なのか」という問題が複雑化しており,環境問題での相互依存の深化とともに,これが長期的な地球規模の問題に影響を与えるであろう.
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 もし,アメリカが国内市場から「外国企業」を締め出したらどうなるか?
 多分,世界規模での競争に耐えられない非効率的な企業を生み出すだけだろう.
 保護主義的な政策の問題は,それが相手だけではなく,保護対象にもダメージを与える可能性があるところだろう.

 この対応問題について,ナイ教授は1990年代の日米両国の貿易障壁についての交渉を例に出している.

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 アメリカは日本の国内管轄問題に関して,強く圧力をかけた.
 日本にはスーパーマーケットの規模に関する法律や,外国企業の市場への参入を阻む習慣があった.
 このアメリカの外圧は日本の消費者を利することになったで,多くの日本の政治家と消費者はそれを歓迎した.
 いわばアメリカの生産者と日本の消費者との間に,国境を越えた連合ができていたのである.

 その代わり,日本政府はアメリカに財政赤字の削減を求めた.
 アメリカの貿易赤字は財政赤字と関連しているからである.
 つまり,日米の官僚は皮相な交渉をしていたのではなく,両国の主権に深くかかわる問題について交渉していたのである.
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 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第9章を参照されたし.

ますたーあじあ in mixi


 【質問】
 グローバルな情報時代におけるパワー分布とは?

 【回答】
・現在のパワー分布は3層に分かれたチェス・ゲームのようなものである.
・3層のパワーのうち,最上位ではアメリカは帝国的単極化を達成できるものの,2層目,3層目となるにつれ,その力を行使できる場面は限定される.
・アメリカは「帝国」の定義とは異なる.

***

 従来の上から下への垂直式のパワーに加え,横のつながりによる水平のパワーが展開され,それぞれが複雑に絡み合う事によって「3層のチェスゲーム」のようなパターンが諸国家間に展開している.

 この「3層のチェス」の1層目は「政治・軍事」であり,これが垂直方向の最上位に位置していて,この場面において,アメリカが軍事的な単極を展開している.

 チェスの2層目は「経済」であって,この場面では,アメリカの単極と言えず,例えばEUが足並みをそろえた時は,アメリカも対等の立場での交渉を強いられる.

 これについて,ナイ教授は以下のように例を挙げる.

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 たとえば,反トラスト問題や貿易問題では,合意に達するために,アメリカも半ば妥協しなければならない.
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 チェスの最下層,3層目は,政府の統制が届かない脱国家的主体がメインであり,テロリストから銀行家まで色々なアクターが存在してる.
 この層では,パワー分布はかなり広くなっているとナイ教授は述べている.

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 テロ以外の例を少し挙げるなら,国際資本市場での個人投資家の動き次第で金利によるアメリカの経済運営が制限されたり,麻薬貿易,エイズ,移民,地球温暖化が2国以上にまたがる深層の社会的原因を持ち,アメリカ政府の統制の及ばないものとなっている事が挙げられる.
 こうした問題を論じるのに,1極構造や覇権,アメリカ帝国と言った伝統的な用語を用いる意味はない.
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 さらに,アメリカ「帝国」論に関して,以下のように批判している.

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 伝統的な軍事力基盤に帝国を論じる者は,一面的な分析に頼っている.
 だが,3層構造のゲームでは,1つの層だけに集中して他の層や3層間の垂直の連関に注意を怠れば,失敗する.
 テロとの戦いで最上位での軍事行動では,アメリカがイラクの専制体制を倒したが,同時に最下層の脱国家的局面では,アル・カーイダのネットワークが新たな志願者を募る能力を高めているという連関が想起されよう.

 グローバリゼーションの闇の部分を代表するこうした問題は,本質的に多国間のものであり,問題解決のためには協力が必要とされる.
 こうした世界をアメリカ帝国と表現しては,アメリカが直面している世界の実態を見誤ることになる.

 さらに,そうした分析の別の問題として,アメリカの世論が古典的な帝国の役割に耐えうるか否かというものがある.
 1898年に世界大国として浮上した時に,アメリカは一時的に真の帝国に陥る誘惑に駆られたが,公式の帝国の幕間は長く続かなかった.
 イギリス人とは異なり,帝国主義はアメリカ人にとって,快適な経験ではなかった.
 一貫して帝国への関心がほとんどない事を,世論調査は示している.
 むしろ,世論は引き続き多国間主義に好意的であり,国連の活用を望んでいる.
 おそらく,帝国と言う比喩を用いるよう勧めるカナダのマイケル・イグナチョフ(Michael Ignatieff)が,世界のアメリカの役割を「軽い帝国」と呼ぶのもそのためである.
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 詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第9章を参照されたし.

ますたーあじあ in mixi


 【質問】
 もしこの先,ネットが普及している国同士(例えば日本と韓国とか)が戦争になったとして ,ネットの規制はどのようになると思いますか?
 国内では2chのように好き勝手に言える掲示板があるし,韓国と日本ならネットで会話も出来る.
 韓国のサイトへ行けないようにしても,アメリカの掲示板とかで韓国人と話そうと思えば話せる.
 戦時下に敵国の国民と話せるという状況は,国としてはだめなんじゃないですか?

 【回答】
 以前NATOがセルビアを爆撃した時,セルビアでネットに繋いでるセルビア人の日記サイト(当時はまだブログという単語は一般的ではない)に空爆下の日記が綴られて,「自業自得」という英仏独の閲覧者と開設者の間でBBSで論戦が繰り広げられた,という例もある.
 実際そのような形で国民個人レベルで外国の反応が直接聞けた,というのが,セルビアの政権が内発的に打倒された原因として大きい,と言われる.

 なので敵国政府の情報統制を無効化する手段として,ネットは大いに用いられるのではないだろうか.

 マトモな政府なら,もはや国民を露骨に情報統制することなど出来ないということは解っているはず.
 もし仮に,法律などで他国との通信を制限しようとしても,インターネットはもともと中央の存在しない分散構造になっているし,さらには先進国の国民であれば世界最高の暗号が容易に手に入る.
 Freenetなどの高い匿名性を実現するソフトなども開発が進んでいる.
 そのことから,ネットの完全な情報統制は不可能,ということを前提に各国は情報戦略を練るだろうと予想はできる.

 そこでむしろ,敵国の国民向けにも自国の国民向けにも情報をコントロールする手段の一環としての利用法を考えると思われ.
 イラク戦争で,米軍はネット経由の情報操作を試みたが,イラク国内は端末が少なく影響力は限定的だったと思われる.

 これ以上はなんとも.

軍事板

 イラク戦争におけるバグダッド在住イラク人blog上の交流例をまとめた本として
「サラーム・パックス バグダッドからの日記」
があります.

 あまりにもファンキーな兄ちゃんだったので,一時は実在してんのかと疑われたほどでした.
 だがそれだけに,彼の戦争に対する皮肉には痛烈なものがあり.

イスラエル交通相 in 「軍事板常見問題 mixi支隊」


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