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【質問】
エコーII型原潜K-116で起きた原子炉事故について教えられたし.
【回答】
1979.7.1,同艦は沿海地方ウラジミール湾にある原潜基地にて巡航ミサイルを搭載すべく,チャジマ湾を出港したが,午前5時過ぎ,ナホトカ近くのポボロトヌイ岬に沿って潜航中,放射能警報が鳴った.
発令所の放射線量計は目盛を振り切っていた.
実はその1週間前,艦長のセスタック中佐と副長のボンダレフ少佐は,原子炉に挿入した新しい核燃料棒が,製造工場封印鉛のない不良品であることを発見,太平洋艦隊司令部の技術局長バクラソフ大佐に報告したが,
「君たちは専門家ではないから,検査方法を間違えたのだ.
その新しい核燃料棒に問題はない」
として相手にしなかった.
また,配管内のエア抜きが十分でなかったため,センサーは高出力運転時の1次冷却系の水温・圧力を,正しく表示できていなかった.
1次冷却系の水温・圧力計が不安定だったことから,誤作動を恐れた原子炉オペレーターが,自動停止装置を全て手動に切り替えていたにもかかわらず,給水ポンプの故障と誤った判断を下して,原子炉の出力を維持しながら,冷却水の供給装置を数回,一時停止したため,燃料棒が融解した.
1次冷却系の水温・圧力計が不安定だったことから,誤作動を恐れた原子炉オペレーターが,自動停止装置を全て手動に切り替えていたにもかかわらず,給水ポンプの故障と誤った判断を下して,原子炉の出力を下げる,もしくは停止しないまま,冷却水の供給装置を数回,一時停止したため,燃料棒が融解した.
原子炉の暴走を阻止するため,1次冷却系に大量の冷却水を注入しなければならなかったが,この冷却水が艦内に大量に漏れた.
冷却制御不能となり,原子炉の温度や圧力が急上昇するような事態阻止するため,1次冷却系に大量の冷却水を注入しなければならなかったが,この冷却水が艦内に大量に漏れた.
乗員は,原子炉から離れた艦首と艦尾に避難.
事故発生から6時間後,ウラジオストクから救援のミサイル駆逐艦が到着したが,放射能が強く,近づくことができなかった.
K-116は補助エンジンを使い,3日がかりでパブロフスク原潜基地に帰投.
乗員128名が被曝しており,うち9名が事故直後に放射能症で死亡した.
その後,現役に復することなく,船体は85年まで保管された後,廃棄された.
だが,その原子炉は中に核燃料を抱えたままで,ミクロの気泡となった1次冷却水漏れが止まらないため,冷却水供給も続けられた.
その後,2004年10月にパブロフスク湾からズヴェズダー工場へ回航され,2006年初頭から,ロシア科学アカデミー極東支部の科学協会の勧告に従い,原子炉区画の電気科学放射能除去作業が開始された.
これにより,原子炉からの核燃料撤去作業が可能となり,2009年9月9日から10月22日にかけて同作業は実施されたという.[1]
以上,「ほんとうにあった怖い話」でした.
【参考ページ】
『ソ連/ロシア原潜建造史』(A.V.ポルトフ著,海人社,2005.11.15),p.73-75
[1]http://blogs.yahoo.co.jp/rybachii/40913261.html
【ぐんじさんぎょう】,2010/01/09 23:00
に加筆改修
いずれも記載誤りではありませんが,誤解しやすいと思われる部分です.
注釈としてつけていただければと考えます.
> 給水ポンプの故障と誤った判断を下して,【原子炉の出力を維持しながら,】冷却水の供給装置を数回,一時停止したため,燃料棒が融解した.
おそらく【】の部分は「原子炉の出力を下げる,もしくは停止しないまま」とするのがより正確なはず.
このような場合,冷却水の供給が減れば,炉心温度や原子炉水温度の上昇により,原子炉の出力は必ず下がるように設計されています.
そのため,手動・もしくは機械的自動操作により,「制御棒を引き抜く」などの人為的操作でより悪い方向に介入しない限り,「原子炉の出力を維持(一定)」に保つのは不可能です.
ただ,そこまで厳密に書くと分かりにくくなるために,現在の記載となったと考えます.
要は
「安全側の判断として,原子炉の出力を下げることをしなかっただけで,意図的に原子炉の出力を厳密に維持しようとしたわけではないし,そこまで応答できるものでもない.」
ということです.
また,このような状況下では,発令所などは原子炉の出力を下げるために,減速の判断・指示をしなければなりませんが,
「このような事態を想定しなかったために減速の指示を出さなかった.
つまり,意図的に原子炉の出力を下げたり,原子炉を停止させる措置を執らなかった.」
と推測されます.
> 原子炉の暴走を阻止するため
このような事故の場合,「原子炉の核分裂が増加する方向の暴走」は考えられません.
ただ,ここで言っているのは,「冷却制御不能となり原子炉の温度や圧力が急上昇するような事態」.
つまり「原子炉の空だき状態」による炉心溶融,最悪の場合である水蒸気爆発事故を阻止することに,主眼がおかれた対応となります.
一見似たような書きぶりではありますが,厳密な意味で言う「原子炉の暴走」は一般的に前者であり,後者はその後のお話(ただし,これから終わることのない修羅場になりますが)であることに注意が必要です.
へぼ担当 in mixi,2010年01月09日 16:43
【質問】
何か原子炉の核燃料を取り出す方法ってないんですかね?
いつまでも冷却水を入れるわけにもいかないでしょうに.
バルセロニスタの一人 in mixi,2010年01月09日 05:50
【回答】
この手の炉心溶融事故(いわゆるメルトダウン)を起こした原子炉の場合,下手に原子炉や核燃料本体に手をつけることは,致命的な破局をもたらす,と考えられています.
1つは,ただでさえ一歩間違えば致命的となりうる,大量の放射線どころか放射能漏れを警戒しなければならないところに手を出すと,そこで損傷を起こした場合より事態が悪化すること.
2つめは,原子炉停止も発生し続ける崩壊熱除去を適切に行わなければ,1と同じ結果になること.
よって,お金に糸目をつけないのであれば,本事例の場合,漏れ出し量を最低限に抑えている原子炉本体を,丸ごと水を張ったコンクリート製(強度を保てれば鉄鋼製でもかまわないが,ステンレス鋼内張は必須条件)の容器に収納し,完全に隔離することが必要でしょう.
そして手をつけるのは,核燃料本体の放射能が減衰するか,遠隔操作等でまともに作業が出来るようになってからの方が,遙かに無難と考えます.
同じようにPWRで炉心溶融事故を起こしたTMI事故の場合,陸上にある原子炉だったため,必要とする空間確保や原子炉本体の完全な隔離の問題などへの措置も,その点本事例に比べれば楽な部類に入りますが,それでも非常に難しい措置を要求されているのは変わりありません.
へぼ担当 in mixi,2010年01月09日 16:18
ありがとうございます.
核燃料取り出しは一歩間違えると,チェルノブイリの二の舞になりかねないとは.
対応が難しいですね.
バルセロニスタの一人 in mixi,2010年01月09日 17:46
もうこの段階では原子炉の核的暴走(核分裂数の暴走)や,水蒸気爆発による惨事は考慮しなくてもよいのですが,原子炉が膨大な放射能を抱えているのは事実であり,その放射能漏れをいかに完全に防ぐのか.
また,チェルノブイリ事故の場合は,「ヒューマン・ロボット」として破局的な事態を避けるために,無茶な人員投入を行い,その放射線被曝の影響が無視できない状況となりましたが,それをいかに防ぎ,なおかつ作業員も原子炉も安全な状態に持って行くのか.
ことは重大であり,非常に厳しいところにあると考えます.
へぼ担当 in mixi,2010年01月10日 00:27
▼
【追記】
上記では,K-116の核燃料撤去の困難さについて延々と述べられています.
しかし,このやり取り(2010年01月09日〜10日)が行なわれる1ヶ月以上前,彼らが事実上不可能と見ているK-116の核燃料撤去作業は,完了していたのです・・・
(写真は,取り出されたK-116の使用済核燃料)
ボリショイ・カーメニ市の極東艦船修理工場「ズヴェズダー」公式サイトより.
「ズヴェズダー」は,除籍原潜の解体を手掛けています.
核燃料取り出しは成功裡に実行された
2009年11月10日
「第一世代潜水艦プロジェクト675の,建造番号541号」の核燃料が撤去されるというニュースです.
「プロジェクト675の建造番号541号」は,K-116を指しています.
http://deepstorm.ru/DeepStorm.files/45-92/nsrs/675/list.htm
このページのリストの12番目,「K-116」の右に「541」と書かれています.
要約すると,こう書かれています.
――――――
「この潜水艦は,2004年10月にパブロフスク湾からズヴェズダー工場へ回航された.
しかし非常に困難な問題があった.
同艦は,有害な放射線環境にあったのである.
困難な状況(1979年の原子炉事故)により,同艦は,長い間,原子炉から使用済核燃料を取り出す事が出来なかった.
2006年初頭,ロシア科学アカデミー極東支部の化学協会の勧告に従い,原子炉区画の電気化学放射能除去作業が開始された.
放射能除去作業の結果,原子炉区画の放射線状態は大幅に改善された.
これにより,原子炉からの使用済核燃料撤去作業が可能となった.
作業は,2009年9月9日から10月22日にかけて実施された」
――――――
「ズヴェズダー」は,"электрохимической дезактивации"(エリクトラヒーミチェスコイ・ヂェザクチヴァツィー,電気化学による放射能除去)を行なったとの事です.
つまり,電気化学的方法による原子炉区画の放射能除去作業を2006年初頭から開始し,2009年9月初頭頃には,原子炉区画の安全が確認されたので,使用済核燃料を取り出したという事です.
おそらく,この「電気化学による放射能除去」は,約3年半に渡って行なわれたのでしょう.
「ロシア・ソ連海軍報道・情報管理部機動六課」
2010/3/14(日) 午前 11:58
個人的な感想として,うまく行って良かった.また,それで何とかなるレベルであったのも幸い.と言うところですね.
ですので,個人的には下記にもあるように最悪の場合を想定して書いた先の分と,シア氏の指摘には決定的な差異(欠陥)や矛盾はないと考えるところであり,最新情報をアップしてくださり有り難い物と考えています.
> 原子炉区画の電気化学放射能除去作業が開始された.
なるほど.ロシア(旧ソ連)は「電気化学的処理」にて放射能を,その核種ごと除去する技術に定評がありますが,幸いにして,その範囲で対処できる物であった(当然かなりの工夫は必要)と言うことでしょうね.
陸上の事故で同様の物は,スリーマイルアイランド(TMI)原子力発電所の事故が挙げられますが,その事故の程度と,舶用炉における対処(燃料撤去手法)と発電炉におけるものは当然異なりますので,そのようなことが可能であったとしても不思議ではありませんし,困難なことをやり遂げたロシア側スタッフの奮闘をたたえるべきでしょう.
よって,個人的には先に指摘したこと(基本的に,習慣として最悪の場合を考慮)の間に矛盾があるとは考えていません.
なお,お願いとしてご紹介の内容を詳しく記載していただければ,今後の参考(処理有効成功例)にも出来るため,有り難いと考えます.
へぼ担当 by mail,2010年03月17日 23時29分
なお,一つ注意しなければならないのは,このような燃料破損・融解の事故の場合でも,その様相によってどこまで(どれだけ)破損・融解しているのか,と言う点が重要なポイントとなります.
燃料が破損していても,原型をある程度とどめていれば,ご紹介のような手段によって撤去は十分に可能ですし,破損していない大部分の燃料は,作業が出来るだけの環境(放射線量の低下)になれば全く支障がありません.
個人的に気になるのは,原形をとどめない核燃料物質がもしあれば,そこまで完全に撤去できたのか,撤去した後の原子炉容器への接近は可能なのか,それとも残存があるために困難なのか,どうなのか,と言う点が主要な関心事となります.
よって,「完全撤去」なのか,「合理的に可能な範囲での撤去(ただしこれによる恩恵は大ですが)」と言う点は,極めて興味深い点であり,電気化学的処理で回収された物の処理と含めて注目すべきと考えます.
へぼ担当 by mail,2010年03月18日 00時58分
重要なポイントは,電気化学放射能除去作業が開始され,安全な作業が遂行できたのが「原子炉区画」であって,「原子炉容器」ではないということに着目しています.
これが「原子炉容器」であるなら,非常に好ましいことであり,その旨明記するはずです.
一方,TMIでも同じく「原子炉区画」では同じように安全に作業できる環境にありますが,「原子炉容器」に残存する核燃料物質その他により,原子炉容器へのアクセスや解体撤去が極めて困難な状況にあります.
その点の区別を明確に付けるべきであり,使用済核燃料の撤去が完了したから,といっても健全な物のみに留まる
(基本的に事故を起こした原子炉でも,健全な核燃料が大多数であるが,1つでも破局的な物が有れば,最後までその処理に翻弄される)
のであれば,扱いは先の指摘のままともなりかねません.
その意味において,当該原子炉において「使用済核燃料を取り出した」と,「使用済核燃料『物質の完全な撤去』が完了した」は似た記載ではあるものの,実務では非常に大きな違いを生みかねないことは指摘すべき事かと考えます.
▲
【質問】
エコーII型原潜K-175の原子炉事故について教えられたし.
【回答】
1985.9.29,紅海南部海域,ダフラック諸島近海で作戦行動中に起こしたうっかり事故.
加圧水型原子炉の2次冷却水の腐食を防ぐための,ヒドラジン注入作業において,乗組員が不注意から消火器用の4塩化炭素を誤って注入,これが遠因となって燃料棒破断を引き起こした.
加圧水型原子炉の2次冷却水系統の腐食を防ぐための,ヒドラジン注入作業において,乗組員が不注意から消火器用の4塩化炭素を誤って注入,これが遠因となって燃料棒破損を引き起こした.
原子炉は直ちに停止されたが,乗員137名は大量に被曝.
K-175は事故後,補助艦PM-74によって,1カ月がかりでカムラン基地まで曳航されたが,艦内には核弾頭を装着した巡航ミサイル6基と魚雷4本が搭載されたままと,危険な状態にあったという.
同艦は1990年4月19日に除籍され,リバチイ湾で保管中.[1]
以下はK-175を撮影した映像.
http://www.youtube.com/watch?v=t1uoIUew-Hk
(うそ)
【参考ページ】
『ソ連/ロシア原潜建造史』(A.V.ポルトフ著,海人社,2005.11.15),p.77
[1]http://www.geocities.jp/aobamil/KL.html
【ぐんじさんぎょう】,2010/01/15 23:00
に加筆改修
A.V.ポルトフ氏にしては珍しい誤訳の様子.以下【】内修正部分です
「加圧水型原子炉の2次冷却水【系統】の腐食を防ぐための,ヒドラジン注入作業において,乗組員が不注意から消火器用の4塩化炭素を誤って注入,これが遠因となって燃料棒【破損】を引き起こした.」
修正理由
1. 冷却水そのものが腐食(腐敗)するわけではなく,2次系にヒドラジンを注入するのは,以前は西側PWRでも行われたもの
(ちなみに火力発電所のボイラー水には,今でもヒドラジンを注入)であり,「系統機器」の腐食を抑制するためのもの(水質管理と呼ばれる分野).
よって修文.
2. このような事故の場合,核燃料本体が「破断」することは,相当なことがない限りなく,その前に「(燃料被覆管の)破損・損傷」が起こるのが通常.
もし「破断」したのであれば,それは結果的にそこまで行ったものであり,いきなり破断ではなく,破損・損傷がはじめに起こるのが普通.
よって修文.
以上です.
へぼ担当 2010年01月14日 20:01
【質問】
ソ連原潜の事故は,ヒューマン・エラーが多いですね.
ヒューマン・エラーをフォローする機能とかないのかな?
バルセロニスタの一人 2010年01月14日 06:00
【回答】
正確には
「ヒューマン・エラーが大規模原子炉事故に直結したケース(割合)が多い」
と考えるべきであり,それほどロシア人がヒューマン・エラー自体を,極端にたくさん起こしたわけではありません.
ただ,設計上の不備や余裕の無さ,その他の条件によって,ちょっとしたことが大規模事故につながったケースが,民生用原子炉も含め,過去には多かったわけです.
そして,その反省を生かした,旧ソ連・ロシア原潜の第三世代原子炉以降では,簡単なヒューマン・エラー起因で,そこまで致命的な事故は発生していないことが指摘できるか,と考えます.
詳しくはシア氏にお聞きになってはいかがかと考えます.
当該分野の場合,機器設計の段階で,それ〔ヒューマン・エラーに対するフォローが出来る〕だけの余裕代を持たせておくことが必須です.
もちろん,人間系のバックアップやフォローも大事なのですが,問題はそのような人間系に頼ることなく,重大なものは機械的に,原理的に発生伝搬を阻止することにあります.
この点,区別がつきにくいところではありますが,非常に重要なところであり,チェックシートでどうにか運用でカバー,ということと,物理的・機械的に起こりえないと言うことには,天と地ほどの違いがあることを指摘すべきかと愚考します.
へぼ担当 2010年01月14日 20:01 & 21:02
また,上掲『ソ連/ロシア原潜建造史』,p.130-131によれば,少なくとも'80年代前後には,海軍の規律が乱れていった模様.
例えば1976年6月には,「チョコレート・アラーム」事件というものが起こっている.
これは,K-424(デルタIII型)のある水兵がチョコレートの箱をモーターの脇に隠したため,モーターの熱により焦げ,艦内にチョコレートの匂いと煙が広がり,緊急浮上する羽目になったという事件.
同艦では1981.1.18にも,トイレで煙草を吸った水兵が,吸殻の処分に困って空気フィルターに隠したため,火災が発生.
艦の上には氷原が広がっていたものの,艦長は艦の損傷覚悟で浮上させている.
その後も,医務官が注射針を加熱消毒中,職場を離れ,それが原因で火災が発生したり,原子炉区長がアルコールを密造するなどの事件が起きたという.
【質問】
エコーII型原潜K-431で起きた,原子炉暴走事故について教えられたし.
【回答】
1985.8.10,乗員10名がチャジマ湾の第30原潜修理工場にて,核燃料の交換作業を行っていたときのこと.
新しい核燃料は一度は原子炉に挿入されたものの,原子炉側に不備が発見され,再び引き出されることになり,原子炉の覆いをクレーンで吊り上げ始めたところ,突然覆いが傾いた.
制御棒が完全には切り離されていなかったのだろうと,ポルトフは推測している.
だが,原因を調べずに作業を続けたため,制御棒まで一緒に引き上げてしまい,原子炉が暴走状態に陥り,沸騰した冷却水が水蒸気爆発を起こした.
覆いは隣の工作艦にぶつかった後,再び原潜の原子炉室に落ちて船体を突き破った.
また,新しい核燃料棒20本は原潜から1〜1.8kmのところに吹き飛ばされ,チャジマ湾に水没した.
原子炉室周辺は壊滅し,爆発と同時に火災が発生,4時間後に鎮火した.
爆発と共に大量の放射性物質が,原潜周辺50〜100mに降り注ぎ,さらにウラディヴォストーク方面へと飛散していった.
すなわち,核分裂生成物が(穴の空いた原子力潜水艦の原子炉室消火の際に生じた廃水と共に)外界(大気中と湾の海水)に噴出.
霧状の噴出物が風に乗って,工業地区(ロシア海軍船舶修理工場)を通り,さらにドゥナイ半島沿岸部を越えてシコトヴォ第22居住区(現フォキノ市)を通って運ばれ,ドゥナイ居住区住民がヨウ素放射性同位体を肺に吸引して内部被曝した.[2]
霧状の噴出物が風に乗って,工業地区(ロシア海軍船舶修理工場)を通り,さらにドゥナイ半島沿岸部を越えてシコトヴォ第22居住区(現フォキノ市)を通って運ばれ,ドゥナイ居住区住民が被曝した.[2]
事故後,太平洋艦隊は,爆発現場の大量の建材,土,コンクリート,アスファルトを,高中放射性廃棄物として,ドゥーナイ半島の核廃棄物処分場へ運び込んだ.
K-431の原子炉とその破片は,現場近くに建設された,コンクリート製の施設に封印された.
隣に停泊していた627A型(ノヴェンヴァー型)原潜も,同時に廃棄された.
交換作業を行っていた乗員10名の姿は,爆発によって跡形もなくなっていた.
また,15日間に渡る処理作業により,多数の将兵・作業員が被曝した.
しかし国防省や海軍総司令部は,爆発事故を隠蔽するため,被曝負傷者を登録せず,現場の様子や調査活動を公開しなかった.
これはゴルバチョフが,事故の隠蔽を指示したためだった.
現場周辺は立ち入り禁止となり,パニックを防ぐ目的で,「伝染病が発生した」とニセ情報が流された.
ドゥナイ居住区における外部被曝線量は.10μrem以下に留まったが,肺内部被曝量は10mremあった.
この際,甲状腺の被曝量は0.3シーベルトに達した可能性がある.
ただし地方保健部のデータによると,ドゥナイ居住区における悪性腫瘍による死亡率は沿海地方全体の平均よりも低いという.[2]
そしてポルトフによれば,太平洋艦隊司令部は現在も,事故の真相の全てを明らかにしてはいないという.
なお,西側では,この原子炉事故は,ヴィクターI級原潜K-314が起こしたものと誤って伝えられた.[1]
そうした誤情報や真相隠蔽のためか,
「1985年12月に,ウラジオストクの外側にある基地にもどる途中,原子炉が過熱状態となった」
といった,出所不明の「情報」が載ったサイト
もある.[3]
【参考ページ】
『ソ連/ロシア原潜建造史』(A.V.ポルトフ著,海人社,2005.11.15),p.76
[1] http://blogs.yahoo.co.jp/rybachii/40630650.html
[2] http://www.joho-kyoto.or.jp/~acdfo/kaigi/97sp1.htm
[3] http://www.antiatom.org/GSKY/jp/Rcrd/Politics/j_belona.htm
【ぐんじさんぎょう】,2010/01/11 23:00
に加筆改修
要修文の部分を修正した上で,以下の部分を「注釈」という形で注意喚起をした上での掲載が適切でしょう.
【注釈部分】
「カチュール アナトーリ(ロシア科学アカデミー極東支部 太平洋地理学研究所 副所長)」氏の講演部分
[2] http://www.joho-kyoto.or.jp/~acdfo/kaigi/97sp1.htm
は,氏が「地理学」が専門のためか,原子力・放射線防護分野(被ばく評価)について,その講演の中で矛盾を起こしていたり,以下の明白な間違いや問題点がある.
1.事故メカニズムについて完全な誤り
(「炉心部の崩壊に伴って原子炉が制御不能になり暴走したこと」など;「炉心部の崩壊」が先であれば原子炉は臨界以上になり得ないため,この事故はあり得ず,明らかな誤りである.;ただし翻訳ミスの可能性あり.)
を記載している.
2.通常では混在させない単位を平気で羅列
(Gy,Svもしくはrad,remの並記はあっても,両者の間で混在させることは普通行わない.さらにremとシーベルトと単位の記載方法まで異なるから,複数の年代が違う情報源から都合の良い数字を引用したことは明白.)
している.
その他細かな部分を指摘すればきりがないが,以上のような誤り,もしくは報告の信頼性不足により,「地理的な位置関係」以外,風聞情報以上の信用はできない,と見なすべきである.
【要修文部分】
> 霧状の噴出物が風に乗って,工業地区(ロシア海軍船舶修理工場)を通り,さらにドゥナイ半島沿岸部を越えてシコトヴォ第22居住区(現フォキノ市)を通って運ばれ,ドゥナイ居住区住民が【ヨウ素放射性同位体を肺に吸引して内部】被曝した.[2]
→【】内全削除.
おそらく内部被ばくをしたことは間違いないだろうし,放射性ヨウ素が主因との主張もあり得る.
しかし,このような形態の事故の場合,放射性ヨウ素の他に放射性希ガスによる被ばく影響も考えなくてはならない.
後は肺の中に何処まで留まり,どちらの方が被ばく量が多いのかを検討しなければならないが,この文章ではそこまで読み取れない.
他の文献の引用混在などを考えると,この点について有効に評価したとは読み取れないため,誤解が生じないように当該部分は削除.
> ドゥナイ居住区における外部被曝線量は.10μrem以下に留まったが,肺内部被曝量は10mremあった.
この際,甲状腺の被曝量は0.3シーベルトに達した可能性がある.
→全削除.
情報としては興味深いところであるが,同じ概念のremとシーベルトを混在して記載している段階で,記載年代の違いはおろか,それらの単位や数字について全く理解していないまま複数文献を参照して,混在して記載したことは明白である.
これは,remとSv(シーベルト)は非常に細かな厳密さにこだわらなければ,簡単に換算できるものであり,同じ概念を表す単位であることから,同一論文内での並記はよほどの理由がない限り認められない.
そのため,複数文献を良く検討しないままに,参照して記載したのは明らかであり,信頼性に欠けると言わざるを得ないため,全削除.
へぼ担当 in mixi,2010年01月10日 09:40
【質問】
ご指摘ありがとうございます.
日本の場合,覆いが傾いたら即,作業停止,調査開始ですか?
消印所沢 in mixi,2010年01月10日 11:55
【回答】
作業管理としては最悪の状況発生となりますので,当然,覆いが傾いたら即,作業停止で,作業員全員の緊急避難が行われるのが普通の発想です.
そして,放射線レベルに異常がないこと,さらに傾いた状態を遠隔操作等で確認の上,検討を行い,人間立ち会いでの確認調査作業に安全上問題がないことを確認できるまで,現場には誰も入れさせないと考えます.
原子炉下部から制御棒を挿入するため,同作業による制御棒及び臨界安全への直接の影響が考えにくいBWRの場合でも,これだけの警戒感を持って作業を行います.
しかしそれがPWRの場合,一歩間違えば今回の制御棒誤引抜きのような致命的な事態になりかねない危険性を否定できませんので,その点は極めて慎重に行うのが常識です.
ただ,同じPWRと言っても,発電用原子炉と舶用原子炉(以下;舶用炉)ではその周辺構造が異なるため,作業手順は一概に言えません.
ただ,発電用原子炉の場合それなりの措置を執ることが出来ますが,舶用炉の場合,そのスペースの問題から各々事情が若干異なることが指摘できます.
また,軍用舶用炉の場合,その周辺構造は当然の如く機密事項になりますし,原子力潜水艦の場合,特に船体の耐圧構造も明らかになってしまうため,秘密保持は最大限に徹底されると考えます.
そのため,日本の舶用原子炉が搭載されていた「むつ」の資料とその考え方を,米国原子力空母等に援用できても,原子力潜水艦の場合は適用外になる可能性があり,一概に考え方も同じとは言い難いところです.
へぼ担当 in mixi,2010年01月10日 17:51
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