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「地政学を英国で学んだ」◆(2013/01/02) ジョン・ボイド

「地政学を英国で学んだ」◆(2013/04/30) 孫崎氏の『日本人のための戦略的思考入門』
>読んでみた感想なんですが,うーん,矛盾だらけですね.

「地政学を英国で学んだ」◆(2013/08/10) 偉大な本

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 孫子やらマキャベリやら漫画夜話やら

●book

『From Wealth to Power: The Unusual Origins of America's World Role (Princeton Studies in International History and Politics)』(Fareed Zakaria著)

 私が翻訳したミアシャイマーよりも前に出た「オフェンシブ・リアリズム」に関する本です.

 著者はあのニューズウィーク/フォーリンアフェアーズ等の編集者であり,ビルダーバーガーとしても有名な,インド系アメリカ人のファリード・ザカリア.

 彼の本はすでに日本では一冊,たしか民主主義に関する本が出ていたと思いましたが,これは彼の実質上のデビュー作のほう.
 ハンチントンを指導教官として書いた博士号論文を,そのまま本にしたものですが,書かれている主張は基本的に
「十九世紀のアメリカの拡大は,ネオリアリズムによって説明できない」
という単純なものです.
 彼は自分の理論を「ステートセンタード・リアリズム」と名づけて,攻撃的な大国の行動を,ウォルツ式のネオリアリズムの手法を受け継いだミアシャイマーとは対照的に,モーゲンソー式の古典式リアリズムの手法で解析しております.

 私はこの本によって,かなり多くのことを学びました.
 ザカリアがなぜこれほど出世したのか,この本を読んでみるとよくわかります.

――――――「地政学を英国で学ぶ」◆(2005-08-20)

『International Theory: Positivism and Beyond』(Steve Smith, Ken Booth, Marysia Zalewski 編)

 イギリス学派(イングリッシュ・スクール)の本です.

 完全に国際関係論の理論の本なんですが,イギリス学派の主要論者たちがが冷戦後に書いた論文をまとめたもの.
 基本的にイギリスの学者は,アメリカの数量計算やゲーム理論をはじめとする合理選択理論などを信じておらず,歴史とか哲学などを強調しますので,そこら辺からの批判がなかなか鋭いものがあります.

 かといって,コンストラクティビズムのようなものとはちょっと違った視点からものごとを捉えているという部分があり,とても興味深いものばかり.文体もけっこう読みやすいものが多いです.

 たまにはこういうものを読むのも面白いものです.
 しかし読後の感想は,なぜかちょっとむなしくなるのですが・・・.

――――――「地政学を英国で学ぶ」◆(2005-08-11)

『Offense, Defense, and War (An International Security Reader)』(Michael E. Brown, Owen R., Jr. Cote, Sean M. Lynn-Jones, Steven E. Miller 編)

 基本的に,国際関係論のネオリアリストたちが書いた戦略学系の論文を集めたものでしょうか.
 80年代くらいに流行った,いわゆる「オフェンス・ディフェンス理論」という議論が中心です.

 議論の内容を簡単にいうと,
「防衛兵器」が「攻撃兵器」の数を上回っている時は戦争が起こりにくい,またはその逆も可なり.
という単純なものです.

 ところが議論そのものは単純ではなく,「セキュリティーディレンマ」や「ゲーム理論」,に加えて軍事戦略論などが加わり,攻撃・防御陣営だけではなく,「兵器は攻撃・防衛に色分けすることなんかできるもんか!」という第三勢力もからんできてバトルロイヤル状態.

 本格的な論文ばかりなのですが,初めの解説と終わりの参考文献の紹介はかなり親切です.

――――――「地政学を英国で学ぶ」◆(2005-08-30)

『The Use of Force: Military Power and International Politics』(Robert J. Art, Kenneth Neal Waltz 編)

 戦略学,安全保障学,そして国際関係論の三つの学問を結ぶような論文のコレクションです.
 アートとウォルツという,ネオリアリズムの代表選手が編集をした,「(国際関係における)軍事力の行使・有効性」という意味の題名の本です.
 アメリカのリアリストの文献の中でも,とくに戦略学の匂いがするものばかりを30本以上集めたすぐれもの.
 著者たちもツワモノ揃いです.

 第六版まで出ていることからもわかる通り,クオリティーの高さは保証済み.
 アメリカの大学院の戦略学関連のクラスのリーダーとして活用されております.

――――――「地政学を英国で学ぶ」◆(2005-08-28)

『Man, the State, and War: A Theoretical Analysis』(Kenneth N. Waltz著)

 ご存知,二十世紀を代表する(ネオ)リアリストと言えばこの人,ケネスウォルツの実質上のデビュー作です.
 1959年の発表ですから,もう発表から半世紀近くもたつのですが,いまだにその斬新さはスゴイものを感じさせてくれます.

 内容は
「戦争の原因を三段階のレベル(人間・国家・国際システム)で考えてみよう!」
というものであり,後の国際政治学の枠組みを提供したといわれるほど影響力のある本です.
 具体的にはこれらの三つの「レベル」(ウォルツは”イメージ”という言葉を使用)において,それぞれの有名な文献を縦横無尽に活用しながら,
「戦争はなぜ起こるのか」
ということを論じております.

 この本の良いところは,論文を書くときのよい見本になる,ということでしょうか.
 新しい理論を提唱する,という類のものではなくて,むしろ既存の枠組みの中から文献を徹底的に復習するという形の論文の大成功例でしょう.

 ウォルツの博士号論文がそのまま本になったもの,というところもミソですね.

―――『地政学を英国で学ぶ』,2005-05-28-09:46

『Mastering Space: Hegemony, Territory and International Political Economy』(John A. Agnew, Stuart Corbridge)

国際関係論との関連や覇権論やグローバル化,そして経済関連の話題も絡めていて,なかなか広く論じているとこが素晴らしい

――――――「地政学を英国で学ぶ」

『Military Geography: For Professional sand the Public(Association of the United States Army S.)』(John M. Collins)

「軍人のための地理基礎知識」みたいな感じの本

――――――「地政学を英国で学ぶ」

『Offense, Defense, and War (An International Security Reader)』(Michael E. Brown, Owen R., Jr. Cote, Sean M. Lynn-Jones, Steven E. Miller eds.)

 基本的に国際関係論のネオリアリストたちが書いた戦略学系の論文を集めたものでしょうか.
 80年代くらいに流行った,いわゆる「オフェンス・ディフェンス理論」という議論が中心です.
 議論の内容を簡単にいうと,
「防衛兵器」が「攻撃兵器」の数を上回っている時は戦争が起こりにくい,またはその逆も可なり.
という単純なものです.

 ところが議論そのものは単純ではなく,「セキュリティーディレンマ」や「ゲーム理論」,に加えて軍事戦略論などが加わり,攻撃・防御陣営だけではなく,
「兵器は攻撃・防衛に色分けすることなんかできるもんか!」
という第三勢力もからんできてバトルロイヤル状態.

 本格的な論文ばかりなのですが,初めの解説と終わりの参考文献の紹介はかなり親切です.

―――「地政学を英国で学ぶ」,2005-08-30-07:29

「Strategy in the Contemporary World: Introduction to Strategic Studies」

 戦略学(strategicstudies)では,多分もっともよくまとまったものでしょう.
 執筆陣はどちらかというとイギリス系が中心です.
 章によっては多少ムラが感じられるところもありますが(例えばエリオット・コーエンのRMAに関するものやランドパワーの章は,ちょっとがっくり),その他の章は国際安全保障学の教科書としても使える,なかなか有用なものです.
 難点といえば写真や地図がなく,色も白黒ということぐらいでしょうか.
 完成度の高さではなかなか好評なようで,欧米ではかなり幅広く使われているみたいです.
 2006年の初めごろに第二版が出るらしいですが・・・.

「地政学を英国で学ぶ」

「The Utility of Force」(Rupert Smith著)

 イギリスのトップクラスの軍人が書いた戦略ものなんですが,どうやらこれはこの分野で古典になりそうな気が.
 具体的には各時代の戦争の歴史を振り返りながら,「軍事力」というものがどういう役割で政治的に使われてきたのかを論じたもの.
 私の周辺ではやたらと評判が高く,米英の戦略家の間でも近年まれにみる良質な戦略本という評価が高い.
 私も気になっていたので実際に手にとって読んで見たんですが,たしかにそううわさされるだけのクオリティが感じられる本でした.

――――――「地政学を英国で学ぶ」

「War(Oxford Readers)」(Lawrence Freedman著)

 戦略学の副読本としては,まさにゆるぎない地位を得ている本です.
 いわゆる「リーダー」と呼ばれるような,有名論文からの抜粋を集めたものなのですが,これらの論文のクオリティーの高さは絶品です.
 欧米の戦略学を教えている学校でこれを指定読書にしていないところはモグリと言ってもいいでしょう.

――――――「地政学を英国で学ぶ」,

『<ヴィジュアル版>ラルース 地図で見る国際関係: 現代の地政学』(イヴ・ラコスト著,原書房,2011.9)

 フランスの地政学って全く聞いたことがなかったんだけど,地政学の基本から全世界への応用まで,幅広く網羅していていいな.
 カラーで読みやすい点もいい.
 ただ,高い(5800円)ので,図書館で読むのに向いた本かもしれないけどね.

-------------軍事板,2011/08/29(月)

「国際安全保障学会」◆『国際安全保障』総目次

『“悪の論理”で世界は動く!』<お勧め新刊> (2010.3.20)◆「園田義明めも.」

『角さんの気くばり』を読み解く (2013/03/04)◆「国際インテリジェンス機密ファイル」

『勝つための状況判断学,軍隊に学ぶ戦略ノート』を読み解く (2013/06/17)◆「国際インテリジェンス機密ファイル」

『木を見る西洋人 森を見る東洋人思考の違いはいかにして生まれるか』 リチャード・E・ニスベット <「FSM」

『現代戦略思想の系譜』(ピーター・パレット著,ダイヤモンド社,1989/11)

 もうこれで,必要部分を読みに一々図書館いかないで済む!
 いつでも好きな時に読めるんだ…いやっほーぅ!

 用兵思想の変遷を1冊で読むには,最適の本です.
 その思想が生まれた背景や人物について記述されているので,題名の通り,それぞれの思想の変遷を見てとれます.
 理論書だけでは,なかなかその背景まで読みとるのは難しいので,これがあると,非常に理解しやすくなります.

------------Lans ◆xHvvunznRc :軍事板,2012/04/29(日)

『現代の軍事戦略入門』(E・スローン著,芙蓉書房出版, 2015.3.16)

 冷戦後の軍事戦略理論の全貌を,簡潔かつコンパクトに概観できる手引書で,戦略研究や戦争研究の世界的権威が大絶賛する内容です.

 ワイリーの「戦略論の原点」と同じ系譜の内容ですが,「戦略論の原点」が実践を前提にしたメモ,備忘録に近いのに対し,読み物としてはこちらの方が内容豊富で面白いです.

 著者のスローンさんは元カナダ陸軍士官.現在はカナダの大学教授で,軍事・安全保障を教えています.
 訳者によれば戦略研究の世界では世界的に有名な人で,著書や論文が邦訳されるのは今回が初めてということです.

 本著最大の特徴は,陸海空,軍事テクノロジーの進化と統合,ゲリラ,サイバー,核,宇宙,テロという軍事戦略の全分野を取り上げ,その歴史と現状を簡潔に整理して提示している点にあります.

 なかでもオススメは「統合理論」です.
 RMAの進化とともに,軍種を横断した統合作戦が主流になっていますが,統合戦理論はいまだ構築に至っておらず,一日も早い構築が求められています.
 本著は,一般人でもわかる形で統合戦理論の背景を解説しており,非常に興味深いです.

 冒頭3章は陸海空軍理論です.
 基礎中の基礎ですから,誰もが把握しておかねばならぬところで,再チェックし,熟読玩味する必要があります.

 とはいえ,やはり多くの読者の目を引くのは,それ以降の「RMAと統合」「ゲリラ戦」「サイバー戦」「核戦力」「スペースパワー」という,現在の軍事を考え語る上で目に付くところでしょう.
 これらの冷戦崩壊以後の歴史を簡潔かつコンパクトに概観できる点で,他に類書がありません.

 一般向けとはいえ,ど素人が読みこなせる内容ではありません.
 元将校さんや戦略・戦争・国際事情研究者,大学の専門課程の学生さん,代議士,メディア関係者,戦略・軍事オタクの方におススメできる内容です.
 国際事情の現状・将来分析の必要に迫られている人や,そういったことが好きな人には超おススメの軍事戦略手引き書といえます.

 それともう一つの特徴というか,お約束というか,私にとって快楽に等しいのが,訳者・奥山さんのボリュームある「解説」です.
 いつも奥山さんの訳書を紹介するときは書いてるのですが,
「あとがきを読むだけでも手に入れる価値があります」
 本著も例外ではありません.
 今回の解説は,奥山さんと関根さんの連名ですが,いつもと同じく,内容は誠に充実したものです.

 最後になりましたが,この文面を書いているなかで,「現代軍事戦略の概略」という講義名で,毎週授業する教科書として使うのがこの本にピッタリ,ということに思い至りました.
 戦略家をゼロから育成する教育の場で使ってほしいテキストですね.

------------おきらく軍事研究会,2017.1.29

『国際政治』(ハンス・J. モーゲンソー著,福村出版,1998/06; 新装版)

 著者はキッシンジャーの師匠といわれる,パワーポリティクスの提唱者.
 パワーポリティクスは,冷戦期における米国外交の指針となった外交アプローチである.
 ブッシュ新政権で国家安全保障担当補佐官となったライス氏の主張も,このパワーポリティクス路線そのもの.
 米国の行動を理解するうえで必読といえよう.

------------軍事板,2001/02/16(金)

『古今の名将に学ぶ経営戦略』(デービッド・ロジャーズ著,ミネルヴァ書房,2013/3/30)

『五輪書』(宮本武蔵著,岩波文庫,1985/02)

 著者は剣豪として有名だが,本人は一介の剣達者ではなく,兵法家を自認していた.
 書画家としても一流であったことは,知る人ぞ知る事実である.
 [中略]本書で,文人としても一流であった著者の真髄をあじわおう.

------------軍事板,2001/02/16(金)
青文字:加筆改修部分

『宰相の器,人心はどんな男に向かうのか』を読み解く (2013/01/01)◆「国際インテリジェンス機密ファイル」

『自爆する若者たち 人口学が警告する驚愕の未来』(G.Heinsohn著,新潮選書,2008)

『ジョミニの戦略理論ー『戦争術概論』新訳と解説』(今村伸哉編著,芙蓉書房出版,2017/12/20)

 こんにちは,エンリケです.

 この本は,孫子,クラウゼヴィッツと同じ程度著名な戦略思想家ジョミニの主著『戦争術概論』の,画期的な新訳とジョミニ戦略理論の詳細な解説がセットになったものです.

 ジョミニといえばなんといっても「戦いの原則」です.
 現在,各国軍のドクトリンにその法則は活きています.
 その意味でジョミニを無視して現代軍事は考えられない,と言って差し支えのない状況があります.

 とはいえ,ジョミニ自身は「戦いの原則」を自らは挙げていないんですよね.
 このあたりの事情も,この本を読むと詳細につかむことができます.

 前半の『戦争術概論』の画期的な新訳ですが,これまで「戦争概論」として知られている書(原書房版,中公文庫版)は英語版からの重訳でした.
 しかも,かなりの量抜粋された解説書でした.
 今回初めてフランス語版原著から直接訳されたのです.
(とはいえ,掲載されているのはそのなかの一部です)

 そして何よりお伝えしたいのは,後半の今村さんの「ジョミニ解説」が実に素晴らしいことです.
 本邦初の「ジョミニ研究基本書」の名に値する内容です.
 ジョミニとその戦略理論をめぐる状況がすべて把握できる研究基本書であるとともに,ジョミニ戦略理論事典といって差し支えない「ジョミニと彼の戦略理論と歴史のすべてが見える内容」でもあります.
 言い過ぎでもなんでもなく,この解説を読むだけでジョミニの何たるかがつかめます.
 極端な話,面白がって読める人なら,数時間で,にわかジョミニ研究者になれるかもしれません,,,

[中略]

 我が国では,いや世界では,孫子,クラウゼヴィッツ同様著名な戦略思想家ジョミニは正しく読まれてきたのでしょうか?
 不変の戦略原則を見つけ出したジョミニの主著『戦争術概論』の画期的新訳と,ジョミニ戦略理論の詳細な解説.
 フランス語版原著から翻訳された初めての訳書であるこの本は,そういう大きな問いに十分こたえてくれるジョミニ研究基本書,ジョミニ戦略理論事典です.
 ジョミニの考え方や原則を使う人すべてが目に通すべき内容と思います.
 読んでいて面白いから特にそう感じるのかもしれません.

[中略]

追伸

 最後に置かれている竹村さんの解説がまたいいですね.
 最後の一文をぜひあなたにも読んでいただきたいものです.

------------おきらく軍事研究会(代表・エンリケ航海王子)
http://archive.mag2.com/0000049253/index.html
2021.12.14

『進化する地政学』(コリン・グレイ&ジェフリー・スローン編著,五月書房,2009.7)
   ┃
   ┣「FSM」:書評 "進化する地政学" / "インフォメーションパワー 戦略,地政学と第五次元"
   ┃
   ┗「FSM」:書評 "進化する地政学" コリン・グレイ,ジェフリー・スローン 編著

『スパイクマン地政学 「世界政治と米国の戦略」』(ニコラス・スパイクマン著,芙蓉書房出版,2017)

 マッキンダーと並び評される地政学の父.
 それがスパイクマンです.
 どうもわが国ではマッキンダーばかりが注目され,スパイクマンはほぼほぼスルーされてきたようです.
 まあ,アメリカ大陸と欧州大陸を主役にしてものごとを考える学問ですから,軍事常識や応用力のない人はわが国に置き換えて考えることができなかったのでしょう.
 スパイクマンの主著が初めて邦訳されたのが本著という点を見ても,わが朝野の地政学への意識の低さが見て取れます.

 地政学との接点はまったくない,ハートランドとリムランドの意味が分からない人には,スパイクマンのこの本はちょっと厳しいです.
 まずは兵頭二十八さんの
「「地政学」は殺傷力のある武器である.」
http://okigunnji.com/url/171/
をお読みください.

 いかがですか?
 ここまで読まれているということは,おそらくあなたは
ハートランドとリムランドの違いはわかる
地政学の概念は把握している
地政学を使って仕事している
地政学オタクか,将校か,研究者か学生か,国政にかかわっている人かのいずれかでしょう.

 ここから先は遠慮なく,スパイクマンの初の邦訳を紹介しますね.
 封じ込め戦略の事実上の生みの親として知られるスパイクマンはアメリカの人です.
 WW2後の米の対外戦略に非常に大きな影響を与えた人で,今に至るも影響が残っているとされます.
 スパイクマンで有名なのは,第二次大戦後の世界の姿をほぼ正確に予見したことでしょう.
 その他,次のような警句などを残しています.
「ハートランドの膨張に対抗するため,日米英がハートランドの沿岸部空軍基地を殲滅できる軍事力を保有する必要がある」
「ハートランドに侵入できうる強力な陸軍兵力投入力を有さねば,ハートランド封じ込めは不可能となる」
「攻撃こそ最大の防衛なり」
「パワー」という概念
「米国と日本の同盟関係の重要性」

 本著で非常に興味深いのは,
「えっ? いまの話じゃないの?」
と錯覚するほど,そっくりな事例がそこかしこに表れることです.

 その典型がトランプの「アメリカ・ファースト」です.
 1942年に出た本なんですが,1930年代のアメリカで起こった
「介入主義か孤立主義か」
という対外政策論争は半永久的に続くだろう,とするスパイクマンの見通しは見事に的中しました.
 そもそもスパイクマンが言う通り,建国当初から米という国の対外政策は,「介入主義」と「孤立主義」という枠のなかで動いているだけのことなんです.
 トランプの「アメリカ・ファースト」は突然降ってわいてきたものではないんですね.
 トランプの姿勢って実は,オバマがシリアで示した「介入主義⇒孤立主義への転換姿勢」を,形にして引き継いだものでしかないわけです.
 変換点には動きが生まれるものです.

 ちなみにロシアは,オバマがシリアで及び腰を示した半年後にクリミアを侵攻しました.
 地政学の感覚を持つことの大切さ,わかりますよね?

 さて,マッキンダーもスパイクマン同じことを言ってるんですが,地政学が重視するのは
ハートランド
です.

 今ハートランドを支配しているのはロシアと中共です.
 ちなみにわが国はリムランドに分類されます.

 地政学で必ず出てくるハートランドという考え方は,ロシアや中共が世界の大国足り得ている理由のひとつといってよいでしょう.

 ですから,国単位で見る世界情勢の動き,流れをつかむには地政学の感覚がなければいけないことを改めて感じさせてくれます.

 地政学で有名なことばがあります.
「ハートランドのランド・パワーが大海軍力を持ったとき,地球上のいかなる国家も,独立を維持することはできない」
 中共の海軍力増強を甘く見てはいけないのです.

 21世紀以降のわが防衛を,真摯かつ合理的かつ効果的に考えるうえでも,地政学というツールを使わない手はない.
 改めてそう感じさせてくれた名著です.

 おなじみ「訳者解説」も,いつもながら非常に充実しています.
 今回は渡邉公太さんの手になりますが,「本著の内容を今のわが国安保・防衛に適用した」内容が実に興味深く,血と肉になる気がします.
 訳者解説を読むだけでも買う価値ありです!

 おススメします.

------------発行:おきらく軍事研究会(代表・エンリケ航海王子)
http://archive.mag2.com/0000049253/index.html
2018.10.2

『制限戦争指導論』(書評):「FMS」

『世界一わかりやすいドラッカー博士の戦略思考の授業』(藤屋伸二著,かんき出版,2012/9/20)

『戦争と政治とリーダーシップ』(エリオット・コーエン著)書評<「FSM」

『戦略原論 軍事と平和のグランド・ストラテジー』石津朋之 永末聡 塚本勝也 編著(2010/05/15)◆「FSM」

『戦略行動型リーダーシップ 内部管理者から内外対応型管理者へ』改訂新版(岡部博著,産業能率大学出版部,2012)

『戦略の格言 戦略家のための40の議論』(コリン・グレイ著,芙蓉書房出版,2009.8)
   ┃
   ┣『戦略の格言――戦略家のための40の議論』(コリン・グレイ著)書評<「FSM」
   ┃
   ┣「FSM」:(2010年 01月 08日)書評 "戦略の格言" コリン・グレイ
   ┃
   ┗「FSM」:(2010年 01月 10日)書評 "戦略の格言" コリン・グレイ

 コリン・グレイ教授は,現代の三大戦略思想家の一人です.
 今回は,グレイ教授の
「西洋の戦略思想を理解把握するためにとても役立つエッセンス集」
をご紹介します.

■グレイ教授

 著者のコリン・グレイ博士は,英国レディング大学教授です.
 本著の著者略歴を紹介します.

<コリン・グレイ(Colins S Gray)
1943年イギリス生まれ.
 英国レディング大学政治・国際関係論学院教授.
 同大学院戦略研究センター所長.
 専門は安全保障や戦略研究.
 1970年,オックスフォード大学で博士号を取得後,英・米・カナダの各大学で教員を務める.
 英国国際戦略研究所(IISS)の副研究部長就任を契機に,英米の両政府のアドバイザーとなり,ハドソン研究所の上級研究員を務め,アメリカとの二重国籍を取得.
 ワシントンにシンクタンクを設立し,レーガン政権では主に核戦略担当のアドバイザーを5年間務める.
 著書には『現代の戦略』(Modern Strategy)をはじめとして,クラウゼヴィッツ的な観点から戦略論を説いたものが多く,他にも戦略文化,シーパワー論,エアパワー論,スペースパワー論,特殊部隊論,軍備管理,軍事における革命(RMA),地政学などの分野で積極的に発言.
 邦訳には『核時代の地政学』(紀尾井出版,1982年),『進化する地政学』(五月書房,2009年)などがある.>

 訳者の奥山真司さんの手になるあとがきにも,グレイ教授のより詳細な履歴が書かれています.
(なお奥山さんのあとがきは,実に優れた内容です.ぜひお読みください.)

 現代戦略を語る上で,無視してはならない人物の筆頭に挙げられる方と個人的には思います.

■この本

 グレイ教授が40個選び出した,西洋社会で受け継がれてきた軍事戦略論のエキス・「格言」と,その解説エッセイ(小規模な論文)が付いています.
 こう書けば,あちこちで書かれた40個の格言と解説を寄せ集めた本と感じるかもしれませんが,まったくそうではありません.

 たしかにそれぞれの項目は独立していますが,すべての項目が有機的につながっているんです.
 それぞれ独立した40個の「格言とエッセイ」が,ひとかたまりになって「西洋の戦略理論」を読者に語りかけてくるんです.
 格言+解説というスタイルだからではなく,一見バラバラに見える各項目が,一体となって西洋戦略理論を訴えかけてくる.
 この点で,本著は偉大な書物だと思います.
 統合運用の極地みたいです.

 戦略という,つかみ所のない無機質で雲のようなテーマを,可能な限り具体化し,凝縮し,有機化し,飲み込みやすいサイズにまで名人がカットしてくれた.
 それでいて本格的な戦略の味がきちんとする.
 そんな本です.

 相当ボリュームがあるにもかかわらず,読後感を一言で言えば「なめらか」です.
 教授もかかれていますが,実に深く考え,練りに練られた内容,構成だと思います.

■内容

 通読して思ったのは
「戦略とは,実践そのものである」
ということでした.

 戦略を考える上で軍事は不可欠という言葉にも,大きく頷かされます.
 実践である以上,机上の空論は厳に排除されねばなりません.
 戦略家と,いわゆる学者の違いはこの点にあるのでしょう.
 グレイ教授は疑いなく実践者です.
 実践的な言葉がたくさん出てくるのがうれしいところです.

■思ったこと

 読めばお分かりいただけるでしょうが,軍事や戦略なるものに,正解はありません.
 絶対的なるものもありません.
 技術が全てを解決するわけではありませんし,政治がすべてを解決できるわけでもありません.
 軍隊が全てを解決できるわけでもありませんし,経済がすべてを解決できるわけでもありません.
 文化芸術が全てを解決できるわけでもありませんし,法律がすべてを解決できるわけでもありません.
 国家が失敗しないことなど絶対になく,できるのは,失敗を極小に抑えることだけです.
 すべては相対的で,一寸先は闇です.
 生生流転の宿命を持つ分野だと思います.

 だからこそ,少しでも軍事や戦略分野に見識を持つ,しっかりした人間が関係機関や国家の舵取りに関わり,失敗を極小化する保険をかけておく必要があるわけです.
 なぜなら,絶対的なるものや正解なるものを高らかに掲げ,仕組みやテクノロジーを神聖視する勢力が権力を握ったとき,国家は最大の失敗を犯して大火傷を負うからです.
 これが歴史の教訓です.
 そんなことを思いました.

 ちなみに私の手元にある本は,ページの角を折ったり線を引く箇所が膨大となり,かなり汚れています.
 紹介されてる各格言は,
「格言35 軍備はコントロールできるかもしれないが,「軍備管理」ではコントロールできない」
「格言21 不可能なものは不可能だ.まだ解決法が見つかっていないのは「問題」そのものではなく,その状況を作っている「条件」のほうだ」
「格言36 本当に重要なものは変化しない.近代史は「近代的」にあらず」
など,ほんとうに味わい深いものばかりです.

■素人にこそ読んで欲しい

 教授は冒頭で,「ノウハウの提供」は目的でないと記されています.
 恐らくこの言葉は,読者の戦略家に向けた言葉だろうと思います.

 しかし,読了後の今思うのは,まったくの素人がこの本を読んだとき,どれだけたくさんの「目からウロコ」や「感覚」や「見識」を得ることができるだろうかということでした.
 グレイ教授の意図は,戦略家向けの戦略理論格言集かもしれません.

 しかし私は,素人こそが読むべき本であり,現代の戦略思考とはいかなるものかを掴める,貴重な本だと強く思います.
 とくにわが国では,広く読まれることが望まれます.

――――――おきらく軍事研究会,平成21年(2009年)11月29日

『「戦略」の強化書』(西村繁樹編著,芙蓉書房出版,2009/4)

■「戦略的思考を学び身に付ける」ための道筋・ノウハウを具体的に示した,初めてのIDF事系入門書

 本著最大の特徴は,「読むだけで初歩レベルの戦略思考が身に付く入門書」であることです.
 そのための「学ぶ方法・ノウハウ」を懇切丁寧に記していることです.

 この本には確かに重要な知識が書かれているが,それをどうやって身につけたらいいんだろう?
 その手順を知りたい.どうすれば効率的に身に付けられるのだろうか?
 どこにもそんな情報はない・・・
 こんなもどかしさに襲われてきた人には福音となる書です.

 学習ガイド(思考の道筋を自分のものとするための手順の紹介)に当たる第一章は,国防・軍事・自衛隊教科書・入門書・解説書のスタンダードになってほしいほどのきわめて優れた内容です.
 大学の教科書等だと,こういう「学習ガイド」は普通についているものですが,一般人向けに提供される軍事や国防に関連する書籍で,この種のガイドが付いた本を見たことがありません.
 すばらしい試みです.
 なにはともあれ第一章を読むだけで,本著を手にする価値は十分あると考えます.

 〔略〕

■一番頭に残っているのは

戦略的思考の基本順序として上げられている

1.「戦略環境の分析」
2.「分析した戦略環境の戦略的意味合いを導き出す」
3.「戦略の骨格を練る」

です.

 中でも書かれているとおり,おそらく「2」でほとんどの人が挫折していると思われます.
 本著ではこの点をクリアするために必要な,具体的コツが「4つ」記されています.

■画期的教材として高く評価します

 本著で扱われているような,アカデミズムのプロの頭の中(思考のコツ・ノウハウ)は,そもそもほとんど形として残らず,関係する一部の人の間でしか具体的手法は伝えられてこなかったように感じます.
 口伝というものでしょう.

 しかし他の分野(経営やマーケティング,スポーツ等の世界)では,門外不出といわれていたようなコツ・ノウハウが,最近になって普通に公開されています.
 後に続くものに財産として引き継ぐために,思考や行動の経過をきちんと記録する方々が多くなってきたからです.
 面白いもので,公開すればするほど,その人のプロとしてのステイタスは高くなるという結果を生んでいます.

 今回の試みも,それと同じ流れにあるものだろうと感じます.
 口伝でしか伝えられないところは確かにありますが,口伝にしなくても伝えられる部分はあります.
 本当に広く理解してほしいのであれば,口伝でなくても伝えられる部分を広く伝える努力が必要ですが,これにはとても手間がかかり,面倒くさいため,誰も手をつけたがらないのが普通です.

 あわせて,システム化して学んでこなかった方には,修得するコツやノウハウについて,そもそも説明できないのだろうと思います.
「気付いたら分かっていた」
というのが本当のところだと思うからです.

 そんななか,国防・軍事に関連する分野で,読者が「技量を身につけること」を目的とするノウハウやコツの公開を行った本著には,頭が下がる思いです.
 おそらくこの分野でこんな入門書が出たのは史上初めてではないでしょうか?
 本著が果たした意義は,戦略的考え方の基盤作り手法を提供するなかで,
「誰でも戦略思考ができるんだよ」
というメッセージを一般国民に与えた点にあります.
 本著を通じて成果を上げるのが,たとえ一人であったとしても,この事実はきわめて重要と考えます.

 本著読者の主対象は,自衛官・大学生・指導層の人たちでしょうが,お茶の間の方々であっても,一人で学ぶことができて効果がある内容なので,画期的と考えます.

 本著のスタンスには,「これは違う」などいろいろの異論がいろんな方面から出てくることと思います.
 しかし,市井にいる心ある国民が,国防・軍事に関する力量を高める上で役立つ,自学自習できる教材であることを私は高く評価します.
 新たな試みにチャレンジした編著者と出版社に敬意を表します.
 今後,この種のコツやノウハウ公開は堰を切ったように出てくることでしょう.
 非常に楽しみです.

 コツさえつかんだら,難しいと思っていた戦略把握もこんなに簡単!という感情を実感とともに味わえる本著を,オススメします.

 第一章を読むだけでも,求める価値があります.

 再度申し上げます.

 オススメです.

――――――おきらく軍事研究会,平成21年(2009年)4月3日

『戦略の形成』(ウィリアムソン・マーレイ /マクレガー・ノックス著,中央公論新社,2007.11)

 あのでかい定番本「戦略論の系譜」に真っ向から立ち向かう試み.
 果たして本著は21世紀を切り拓く戦略論になるか?

―――おきらく軍事研究会,平成19年(2007年)12月7日

『戦略の歴史―抹殺・征服技術の変遷 石器時代からサダム・フセインまで』(ジョン・キーガン著,心交社,1997/01)

 軍事思想の比較文化論.
 軍事も文化の一つということが分かります.
 歴史好きの人にお勧め.
 でも,売ってるとこあるのかな?

------------軍事板,2001/05/05(土)

『戦略論 新約版』(B・H・リデルハート著,原書房,2010/4/23)

 著者はジャーナリスト.
 間接的アプローチという手法を,この本で主張した.
 「大した内容はない」と批判する人も多い.
 しかし,戦間期において軍事に関し,最大級の影響を持った著者の著作であるから,一読の価値はあるだろう.
 本人は英国人であるが,敵となったドイツ人も注意深く,その言論を読みとっていたといわれる.

------------軍事板,2001/02/16(金)
 新約版は旧訳に当たる森沢訳に比べて,訳語や表現がより現代的になっていて,凄く読みやすく感じられる.
 ただし,人名及び地名の索引がない点と,「本訳書の主題の明確化と,訳出のコンパクト化を図るために」付録2編
(それぞれ「1940-42年の北アフリカ・キャンペーンにおける間接的アプローチの戦略」と「アラブ-イスラエル戦争(1948-49年)」という題で,森沢訳に収録されている)
が割愛されている点が,旧訳に比べてちょっと不満かもしれん.
 旧訳読めば済むんだけどな.

――――――軍事板,2010/05/30(日)
青文字:加筆改修部分

『戦略論の原点』(J. C. ワイリー著,芙蓉書房,2007.4)

■クラウゼヴィッツ以来の戦略家

<成功する戦略家というのは,戦争の性質,配置,タイミング,そして「重心」をコントロールし,そしてそれによって生まれた戦争の流れを自分の目的のために利用できる人のことを言うのだ.>(J.C.ワイリー)

 ワイリーさんという米海軍の元少将が書いたこの本.
 出版されたのは1966年(昭和41年).
 原著は小冊子?とみまがうばかりの小さな本です.
 ところが出版当時から,古典として通用する内容をもっていたようです.

 海外の戦略アカデミズム動向に詳しい訳者の奥山さん(地政学者)によれば,
「業界での扱いも実に地味で,マイナーな部類に入る本」
だそうですが,内容はきわめて秀逸,というより突出して優れた内容といわれます.

 実際読んでみると,あっけないほど読みやすいのに,これまでにない何か新たな視野が開けた感を持ちます.
 これまでの経験からみて,これは特別に優れた内容であることを示す証左です.

 本著あとがきでは,現在世界最高の戦略家とされるグレイさん(『戦略の格言』の著者)が,提出された戦略総合理論の重要度順でクラウゼヴィッツ以下の戦略家9名を評価した番付が紹介されています.

(1)クラウゼヴィッツ
(2)J.C.ワイリー
(3)エドワード・ルトワック
(4)バーナード・ブロディ
(5)B・H・リデルハート
(6)ラウル・カステックス
(7)レジナルド・クスタンス,ジョン・ボイド,毛沢東
(ちなみに7位の3名は上位6名とは格の違う存在として扱われているようです)

というもので,ワイリーさんはクラウゼヴィッツに次ぐ存在として評価されています.
 本著についてグレイさんは,
「ワイリー以前の理論のエッセンスを簡潔,かつ見事にまとめ上げて解説したこと」
「自らの総合理論を提出したこと」
という二つの偉業を高く評価し,
「過去百年以上にわたって書かれた戦略の理論書の中では最高のものである」
と絶賛しています.

■J.C.ワイリーという人

 元米国海軍少将で,大東亜戦争にも出征しています.
 本著より履歴を転載します.

<J.C.ワイリー(Joseph Caldwell Wylie)
 1911年生まれ.
 米国海軍の元少将.
 1972年に退役.
 マハン,ルース以来の現役軍人としての戦略思想家.
 第二次世界大戦の太平洋戦線では,ガダルカナルの諸海戦や硫黄島戦で最新のレーダーを駆使して日本海軍と対峙.
 戦後は陸海空の指揮系統を統一して,相互の協力関係を進める統合作戦の推進者として有名になる.
 本書の他にも数多くの論文を専門誌に発表しており,米国軍内,特に海軍の士官教育や現代の軍事革命(RMA)の議論における思想的影響は大きい.
 1993年没>

 まえがきでワイリーさんは,
<私はアマチュアの戦略家を批判しない.
 その逆に,私はむしろ戦略というものは,すべての人々が関心を持つべきものと確信している.
 戦略にはあまりにも多くの人間の命がかかっているため,合法的で公共的な問題であることが認識されなければならない>
と述べ,
<しかし私は,社会の動向にハッキリとした影響を及ぼす,この戦略というものが
「でたらめで規律のない,単なる知的な遊びである」
という意見には反対である.
 なぜなら私は,この知的活動を進歩向上させることができると強く信じているからだ>
と続けます.

 そして本著が模索するものは,
<理路整然としていて,建設的な戦略の考え方の基礎となる戦略の総合理論>
であると明言します.

■戦略とは

 ここで,戦略という言葉の定義が必要になると思います.
 わが国では戦略なる言葉が非常に情緒的に使われており,その意図するところが使う人ごとに微妙にずれているのが実情と思います.
 「戦略」に関わる語彙が少ないのは,執筆当時の西洋でも同じだったようで,ワイリーさんも本文中で嘆いています.
 ここで使われている「戦略」という言葉は,本文でワイリーさんが,そしてあとがきで奥山さんも指摘するように,「戦争で最終的に勝つためのアイデア」であり,「戦争に勝つための理論」という意味です.
 「敵との戦闘に勝つために必要な計画である【戦術】」とは,明確に区分しておかなければいけません.

 これは非常に重要です.
 はじめにこの定義を頭に叩き込んでおかないと,とんでもない誤読をしてしまいかねません.
 よくよくご注意ください.

 逆にいえばこの点さえきちんと抑えれば,大変大きな知的資産をゲットできるということになります.

■まったくなかった戦争研究

 ワイリーさんはまず最初に,戦略のコンセプト・理論の存在に気づいた人(=戦略思想家)は歴史上確かにいたが,その数はあまりに少なかった.
 こういう戦略思想家の頭脳の動きを少しでも理解できれば,その理論を詳しく分析できる,と考え,戦略思想家が使う考え方のパターンを分析し,彼らがどういう考え方を使っているかを推測したいと述べます.

 具体的にいえば,
「戦略思想家のよりよい理解」
「彼らは何故このような意見にたどりついたか?」
「なぜ将軍は兵士のように考えるのか?」
「なぜ提督は水兵のように考えるのか?」
「なぜ飛行機乗りは水兵や兵士とは別の考え方をするのか?」
「これらのうちどの考え方が,どの状況に一番当てはまるのか?」
といった疑問に応える内容となります.

 ひとことでいえば,軍種ごとの意識や考え方の相違の根本を見極め,よりよい戦略づくりに資するための「総合」に必要な理論枠組みをいかに作るか,が理論立ち上げに当たっては重要なんだ,ということでしょう.

 残念ながら学者はこういう事から目をそむけ,無視を続けてきたため,「戦争研究」はそれまでまったく行われてこなかったとも指摘しています.
<すべての社会的知識の発展というのは,あるひとつの分野において人間の考えと行動の謎を解明しようとした人物達により,体系化された研究の成果としてあらわれてきたのだ.
 しかしこの中にはたった一つだけ,ある分野の研究が欠けている.
 これは驚くべきことなのだが,人間の活動のさまざまな分野,たとえば政治,経済,社会,精神などの研究の中には,社会的混乱を巻き起こす「戦争」というものの研究が含まれていなかったのだ.
 研究(そして実践)する人々によりよい理解を与え,しかも今までやこれからの戦争にも影響を与えることにつながる考え方の基本パターンや理論というものを,根本的かつ体系的な客観性にもとづいて行う,「戦争の研究」というものは,これが国民や国家が生きるか死ぬかという根本的なところに影響を与えるにも関わらず,今までまったく行われてこなかったのである.>

 クラウゼヴィッツやマハン,ジョミニ等の偉人とされる人の研究成果については,こう評価しています.
<彼らにほぼ共通して言えるのは,特定の戦争の細かい事実や,統計などを研究してうまくやりくりした,ということだけなのだ.
 彼らの中では,なぜ戦争がそのようなやり方で行われるのかという疑問を,明瞭にした者は一人もいない.
 なぜ兵士は兵士のように考えるのか?
 なぜ水兵は水兵のように考えるのか?
なぜ飛行機乗りは飛行機乗りのように考えるのか?>

■3つの柱

 ワイリーさんは本著で何をしようとしているのか?の柱は以下のとおりです.

1.戦闘について議論するのではない.
 扱うのは「戦争」だ.
 「根本的かつ実践的に戦争を研究することは可能である」ことを示したい.
 戦争全体が研究される必要があるのに,その研究は驚くほど数が少ない.
 大きな戦争研究の枠組みを作り上げる必要がある.
 そのため戦争という現象を一般化し,概念を形成し,誰も足を踏み入れたことのない研究分野にリスクを恐れず挑戦したい.

2.根拠もなく「戦略研究は門外不出だったので,今まで誰も研究を行うことができなかった」といわれているが,戦略には秘密などない.
 戦略研究に当たっては,閉鎖的な知的活動ではなく,外部からのアイデア受け入れが必要である(もちろん国家機密漏洩は論外だが).
 戦略的思考の基本パターンを,何か秘密のものとして考えるべきではない.
 こういうパターンを多くの人が知れば知るほど,戦略的決断を行う際の民主制度は健全となる.

3.戦略を自然や物理のような「科学」にすることができるとは主張しない.
 戦略そのものは科学ではないが,戦略判断は科学的であるといえるかもしれない.

 次に,それまで使われてきた手法の批判を経て,自分が採用する分析手法を提示します.
 ここにワイリーさんの独創性が顕れてきます.
「累積戦略」と「順次戦略」です.

■累積戦略

 戦争は「順次戦略」と「累積戦略」がお互いに依存しながら,同時進行で行われるもの.
 しかし,こういう観点から戦争を分析した戦略書は存在しない,とワイリーさんは指摘します.

 そして,目に見えない「累積戦略」を目に見える形にして,的確に判断できるようにすれば,これまで偶然に任せられていた「戦略の重要部分」のコントロールが可能になる,とします.
(本著は本編以外に,20年後に書かれたあとがきも含まれていますが,そのなかでコンピュータ技術の発達が,累積戦略の実用化に多大な好影響を与えることになろうとしています)

 「累積戦略」の理解はきわめて重要と思います.
 21世紀の戦争は,この理解なしに把握することは不可能ではないかとすら思います.
 本著のようなわかりやすい解説書で,累積戦略を学ぶことができは本当にありがたいことです.

 累積戦略を取り上げたのは,海軍出身のワイリーさんならではの視点と思いますが,その典型は潜水艦戦です.
 マーケティングの世界にお詳しい方でしたら,「ティッピング・ポイント」という言葉で示される,「積み重ね効果」がピッタリくるかもしれません.
「それまで何の効果も認められないままひたすら小さな成果を積み重ね,ある段階に達したところで突然一気に効果を発揮する」
というものです.

 累積戦略のもたらす効果や意味については,専門家の世界ではすでに常識でしょうが,アマチュアレベルでこの戦略を意識的に把握している人は,いまでもほとんどいないのではないかと思います.

 順次戦略については,本著をご覧ください.

 あわせて重要なのが,本著のテーマともなっている「総合戦略構築」に向けた,既存の戦略理論の考察です.

■4つの分類

 ワイリーさんは戦略理論を,次の4つに分類して深く考察を加えます.
「クラウゼヴィッツやジョミニに代表される陸軍の大陸理論」
「マハンやコーベットに代表される海軍の海洋理論」
「ドゥーエに代表される空軍の航空理論」
「毛沢東・ゲバラ・ザップに代表されるゲリラの毛沢東理論」

 ワイリーさんの目指す総合戦略理論は,「戦争に勝つためのアイデア」ですから,各軍種がそれぞれ「戦争に勝つための理論」を持つわけで,それぞれを深く考察することが,総合戦略理論構築には必須となります.

 ここでは,著者も想定しなかったであろう思わぬ拾い物がありました.
 陸海空のそれぞれの理論のエッセンスを通じ,各軍の相違の何たるかが,きわめて明快かつ論理的に説明されていることです.
 これに類するものを,私は見たことがありません.
 相違点がどこにあるかがわかれば,総合への道は開けますし,軍事について語る専門家たちが,いったいどの理論のところに所属する人かをわきまえてその発言を受け止め,咀嚼できるようになります.

 この第5章は,予期せぬおまけがある,お得な章といえましょう.

■オススメです

 その後,総合理論構築に話は進み結論が導かれます.
 ここから先は本著でお確かめください.
 なお,冒頭から結論が出るまでのページ数ですが,なんと121ページしかありません.
 本当に薄いです.
 でも内容は本当に濃いです.

 本著では本編の他,先ほどチラッと書いた「20年後のあとがき」や,参考記事3篇,ワイリーさんの詳細なバイオグラフィーが書かれたイントロダクション,そして最大の売りとも言える「奥山真司さんの解説」があります.

 奥山さんの解説は,まさに手取り足取りで痒いところに手が届くものとなっています.
 本の冒頭から読み始めるのもいいでしょうが,私個人としては,奥山さんの解説から入り,見取り図を手にしてから本編を読み始めると,より多くの養分が吸収できると思いますので,こちらがオススメです.

 本著は,「総合戦略の設計をいかに行うか」の手順を一から示した,総合戦略のパイオニアの手になるたたき台です.
 それでいながら抽象化が十分なされており,実務的であることと理論的であることのバランスの取れた「一級の仕事師の作品」と感じる内容です.

 びっくり仰天するような新理論が提示されているわけではないので,誰かの理論に寄りかかって楽をしたいという人には向かないかもしれませんが,総合戦略理論はどのようにして生まれ,どのように発展し,どのように落とし込まれてゆくかの道筋をトレースし,その過程で軍事リテラシーを満たしたい人にとっては,これ以上ない作品といえます.

 戦略思考のパターン習得を通じ,コントロールの妙味を会得したい方すべてにも読んでいただきたい本です.

 索引がきちんとついているのもうれしいです.

(エンリケ航海王子)
――――――おきらく軍事研究会,平成22年(2010年)4月15日(木)
 ようやくにして読んでみたよ.
 なるほど,理解しやすい.
 ちょっと疑問に思った概念が,「累積戦略」というものだけど,あれは戦略のカテゴリーではなく,戦術の一環ではないだろうかと.
 更には,潜水艦戦の例で言えば,数学的にもっと整理も出来たものではないだろうか.
 例えば,時間tと撃沈t数を反比例のグラフに描いて,攻勢点はここだったとかの考え方.

 これを戦略f(t)の式で表現するけど,tに数字を代入すると戦術になって,tのままだと戦略という風に変わるのは,少し概念に統一性が無いのではないだろうか.

――――――名無しの愉しみ in 軍事板,2010/11/20(土)

『戦略の本質』(野中郁次郎著,日本経済新聞出版社,2008.8)

『戦略論体系7 毛沢東』(戦略研究学会,芙蓉書房,2004.3)

『戦略論体系8 コーベット』(戦略研究学会,芙蓉書房,2006.10)

『戦略論大系(8)コーベット』(書評):「FMS」

『戦略論大系9 佐藤鐡太郎』(戦略研究学会,芙蓉書房,2006.11)

『戦略論体系10 石原莞爾』(戦略研究学会,芙蓉書房,2007.1)

『戦略論体系11 ミッチェル』(戦略研究学会,芙蓉書房,2006.12)

『戦略論体系別巻 戦略・戦術用語事典』(戦略研究学会,芙蓉書房,2003.2)

『大魔法峠』(大和田秀樹著,角川書店,2002.12,帝王学関連書(うそ))

『戦いの論理と競争の論理 企業と国家のニューパラダイム』(三代憲良著,芙蓉書房出版,2009/8/20)

 今回ご紹介する本は,ビジネス書に分類される本です.
 しかし,一般的にいわれる「ビジネス書」の枠に嵌り切らない面白さを持っています.

■面白いです

 戦略系の経営書には,「競合他社との競争に勝つにはどうするか」という,「競争戦略」をテーマにする本が多いです.

 しかし本著は,企業の競争を「戦い」と見ます.
 戦いの対象となる敵は,「顧客」「競合他社」「内外環境」の3つに分類されます.
 非常にユニークな観点です.

 「戦い」ということばは,「現状を打破する行動」という意味あいで使われています.

 正直言って,とっつきにくい表情の本です.
 近くの書店では,ドラッカーさんのマネジメント本周辺にありました.
 見つけにくいのです.笑

 でも手にとって読むと,これがまた抜群に面白い内容なんですね.
 噛めば噛むほど味わいが出てくる,買ってうれしくなるタイプの本です.

 何が面白いかというと
1.軍略が商略に落とし込まれる痛快さ
1.退役将校が軍事知識や常識,防衛省や自衛隊の現状を指摘している
1.わが軍の教育の歴史や,自衛隊・イスラエル軍人のプチ伝記が読める
1.宣伝謀略心理戦の観点から,現状改革への道を覗ける
1.武器の進歩が情報戦に与えた効果
など,軍事や自衛隊・国防や情報に関心をお持ちのあなたならどこかで必ず引っかかるフックがあるのに,全体としてはビジネス書であるという点です.
 不思議な本ともいえます.

■本の概要

 本著のテーマは,「企業が戦いに勝つための戦略思考枠組み提供」です.
 核心は「軍略と商略の融合」です.
 キーワードは「戦い」「改革」「3つの敵」です.

 対象読者は,各分野で組織を率いている方・その予備軍です.
(組織には家族も含まれます)
 お子様向けではありません.

 本は第一章から第五章で構成されています.
 詳細目次はあとでご覧いただくとして,内容を大まかに言えば,以下のとおりです.

第一章は「戦場における軍の戦いと市場における企業の戦いの比較」
第二章は「軍略の商略への適用の実際」
第三章は「情報活動」
第四章は「組織改革の分析」
第五章は「組織改革に必要なファシズムとリーダーシップ」

 ふんだんに紹介される戦史や軍事知識・常識の紹介は,軍事に関心がある人にも,経営戦略に関心がある人にも同等に,養分を有機的に吸収するうえで大きな助けになることでしょう.

 第一章と第二章では
「軍事的考え方・軍事常識の解説」「商略と軍略のすり合わせ」
について,初心者でも理解しやすい形で紹介されています.
 また第一章は,本著全体の見取り図のような存在です.

 戦いの原則や,内戦戦略・外線戦略など,有名な軍事常識や用語が企業活動ではどういうことに相当し,活用できるかが分かります.

 第三章は,「情報収集,心理戦・謀略」について解説されています.
 おそらく多くの方は,この章を一番関心をもって読むと思います.
 ビジネス活動で言えば,マーケティング(調査,集客,広報宣伝)に相当します.

 圧巻は「心理戦」です.
 心理戦には「対内心理戦」と「対外心理戦」のふたつがあり,「対外心理戦」は「戦略的心理戦」と「戦術的心理戦」に分類されます.
 商いの心理戦は二正面作戦であり,「戦術的心理戦」が宣伝に相当し,「戦略的心理戦」が広報に相当する.と著者は指摘します.

 そして第四章です.
 これは圧巻です.
 恐らくこの章が,本著の中で最も重要な章と言えましょう.
 話が企業のみならず,防衛省や自衛隊が抱える構造的問題点・国家・わが現代史・東アジアの現代史レベルにまで広がり,読み手にとって実にエキサイティングな内容となっています.

 高橋2佐の『なぜ空軍は独立できなかったか』(芙蓉書房出版)では,組織改革にあたって内部要因という存在を忘れてはならない,という極めて貴重な指摘がキモになっていましたが,本著でもよく似た指摘がなされています.

 第二,三章で取り上げられたテーマは,敵が「顧客」と「競合企業」の二つである「市場における戦い」に勝つことでした.

 本章そして次の第五章では,もうひとつの敵「組織の内外環境」との戦いに勝つために必要なことが,詳細に述べられています.

 重要だなあと思ったキーワードは,「体質研究」「法旨国家」「宗旨国家」「組織IQ」でした.
「軍には体質改革はないが,自衛隊は体質改革を迫られる存在である」
との指摘もあります.
 これは重い言葉です.

 顧客という敵を味方にするのがITビジネスであるとの箇所も,実に鋭い指摘ですね.

 そして章の最後で著者は,重要な指摘をしています.
<政治・経済・社会,いずれにおいても,現在の日本国民の判断基準は,自我と利己である.
 (中略)
 こうした判断をする集団脳をここでは性向脳と呼ぶことにする.
 この性向脳を良識脳の国民,社員に変えなければならない.
 その教育を行い,国民,社員自らが良識を高める教育の場を提供し,そのリーダーシップを振るうのは,国のリーダーであり企業トップの責任である>(P189)
 この指摘が,つぎの第五章の具体的提言につながります.

 第五章のキーワードは「教義とリーダーシップ」になろうと思います.
 強い体質にするための組織改革には,「下から盛り上がるファシズム」が必要であり,その圧力をコントロールできるリーダーが不可欠.
 それには決まりごとや組織を整備するだけでは不十分で,教義が絶対必要となる,と著者は指摘します.

 教義の重要性の背景は
・強い組織は「良識脳を持つ宗旨化組織」が理想.
・宗旨化組織とは,法が全ての基礎となる法旨組織とは異なり,組織,リーダー,構成員がそれぞれ統一された義やモラルで動く組織を意味する.
・宗旨化組織を目指すには,その意志を示す教義,リーダー(煽動者),その媒介者,実行者の四つの要素が必要である
ということです.

 また,わが国の推移も例として取り上げ,わが国再生に向けた提言もあります.

・明治維新以来わが国は,軍人勅諭・教育勅語を教義とする宗旨国家であった
・しかし戦後になると宗旨体質から180度変わって法旨国家になった
・今のわが国の教義は憲法そのものである
・現状を見る限り,法や組織の整備のみでは体質まで創生できないことを示している
・憲法はあくまで法であり教義ではない.
・国づくりには法整備の前に,将来を見据えた日本人としての精神的な教義が必要である

 最後に,理想の軍人改革者としてイスラエルの独眼流 モシェ・ダヤン将軍が取り上げられ,リーダーシップの具体的発露になだれ込み,本著は大団円を迎えます.

第一章・第二章:起
第三章:承
第四章:転
第五章:結
といった感じの構成です.

 軍の論理はビジネス分野でも,立派に通用することを確信できる一冊でした.

■教義を思う

 企業戦略を「同業他社との競争に勝つこと(=競争戦略)」としかみない狭い視野が,ビジネスの世界に蔓延し,真の戦略思考をさえぎってます.
 著者の三代さんは
「この視野の狭さが,企業組織のいろんな問題を生む背景にあるのではないか?」
といいます.
 倫理観に欠ける企業人が産まれるのも,そのひとつの現れでしょう.
 優良企業(有名企業だけじゃないですよ)の多くは,倫理観が高いです.
 本著で指摘されている「教義」を会社がきちんと整備し,社内で周知徹底する努力をしています.
 中小企業の場合,社長や創業者自らが先頭に立ってこれをやっています.

 もう一つ言いたいのは,家族も,忘れてはならない大切な組織だということです.
 家族も,利益ではない価値を追求する一つの組織です.
 お父さん(お母さん)は家族の指揮官です.
 家訓の意義は,想像以上に大きいという事です.

 企業人でなくても本著から得られるものは多いはずです.
 このことを忘れないで欲しいです.

■最後に

 著者の三代さんの紹介をしておきます.
 本著の著者略歴より

<三代憲良(みしろけんりょう)

 昭和25年大分県生まれ.昭和48年防衛大学校卒(17期応用化学専攻).
 陸上自衛隊普通科部隊勤務,防衛庁長官官房広報課勤務,陸幕調査課勤務,外務省出向,在英国日本大使館一等書記官兼ロンドン総領事館領事,陸上自衛隊富士学校勤務.
 防衛庁退職後,警備企業勤務.
 その後,製造販売会社勤務.
 同社において経営企画部門,海外販売部門,経済産業省法人出向,社内総合研究所勤務,営業ラインリーダーなどを歴任し,現在営業推進担当部長.
 著書に『戦いの本質』(中経出版),論文に「NATO及び英国の防衛戦略と日本の防衛」(ロンドン大学提出)「戦略なき組織は滅びる」(先見経済)などがある.
 これまでイスラエル(ガザ地区)等を含み,世界約30カ国訪問.
 スポーツ:剣道(7段),趣味:座禅>

 出版社さんからいただいたご案内には,軍事の世界とビジネスの世界がほぼ同年数とありました.
 ある意味,埋もれることを強制されているかに映るわが将校の才能が,民の分野で発揮されるのは,わが国にとって実に良いことですね.

 軍事と経営といえば,兵法経営の大橋さんが思い浮かびますが,三代さんには,わが国のビジネス参謀として,ビジネスの世界での今後ますますのご活躍と,後に続く人へのリーダーシップ発揮をお願いしたいところです.

 オススメです.

――――――おきらく軍事研究会,平成21年(2009年)11月28日

『戦略論の原点』重版決定! (2013/03/08)◆「地政学を英国で学んだ」

『戦略論の名著.孫子,マキアヴェリから現代まで』を読み解く (2013/05/09)◆「国際インテリジェンス機密ファイル」

『組織のルール,あたりまえだけどなかなかわからない』を読み解く (2012/12/02)◆「国際インテリジェンス機密ファイル」

『知財戦略の教科書:工夫と知識はお金に換えられる』を読み解く (2013/05/28)◆「国際インテリジェンス機密ファイル」

『地政学と国際戦略』書評<「FMS」

『闘戦経 武士道精神の原点を読み解く』(家村和幸著,並木書房,2011.11)

『日本人としてこれだけは知っておきたい外交の授業』(佐藤優著,PHP研究所,2012/06/14)

『人間の叡智』を読み解く (2012/10/11)◆「国際インテリジェンス機密ファイル」

『人間の器量』を読み解く (2013/02/26)◆「国際インテリジェンス機密ファイル」

『文明の生態史観 改版』(梅棹忠夫著,中公文庫,1998.1)

『米国世界戦略の核心──世界は「アメリカン・パワー」を制御できるか?』 (2009/4/1)◆「ものろぎや・そりてえる」
 ウォルトの概念まとめ

『平和の地政学 アメリカ世界戦略の原点』(ニコラス・スパイクマン著,芙蓉書房出版,2008/5/20)

 〔略〕
 地政学の根本にあるのは
「世界を一つの単位で見る」
「国家の地理的特徴はほぼ一定で変わらない」
「常に動的で総合的」という感覚です.

 それがよくわかる本著からの抜粋です.

<地理的面から安保問題を考慮することは可能で,ここからの分析結果は国家意思決定者にすぐ利用できるものとなる.
 世界は単一の勢力として見る必要があり,自国の平和に影響を与える要素への関心を,地球の地表全体や国家の強さと弱さに影響を与える全ての要素にまで拡大する必要がある.
 世界規模の平和と安保を求めるには,地球の表面全体を一単位として分析されなければならない.

 最も顕著な特徴は,静的状態より,パワーの中心地における動的な状況を考慮する点にある.
 政治世界の変化は,ある瞬間重要だった要素が時とともに変化して,その後の物事の成行きに影響を与える.
 技術面の変化は.特にパワーが実践される場の状況を変える.
 これにより,地理的事実は変化しないがそれらが対外政策に与える意味は変化する.>

<地理,人口密度,国の経済構造,民族構成,政府体制,外相の偏見・好み,国民の価値観などとの関連なく,要素単独で分析することは不可能.あわせて「地理」のような「全てを含んだ一般原則」に単純化されてはならない.>

<地球表面全てが政治勢力の活動するたった一つの舞台になった.
 ある場所の勢力バランス変化が他地域の勢力に影響を与えるようになった.>

 ご覧いただければおわかりのとおり,地政学は対外行動を考察する際に必須の感覚といえるもので,理論というのとは少し違います.
 武士たちが学んだ四書五経が,理論ではなく行動原理を養う注釈に過ぎなかったのとよく似ています.

 ですから,地政学を「モデル」とかいう風に理論としてみるのは非常に危険であると同時に,その持つ一番滋養に富むエキスを奪う行為と考えます.

 ひとりの人間の中で感覚・常識というレベルにまで染み込ませることで,はじめて意味を持ってくるもので,一理論としてもてあそぶと,あまりに使いやすい道具のため,朝から晩までその種の仕事についている人以外,よほど注意しないと「硬直公式君」に堕ちてしまうでしょう.
 一寸先は闇という現実を無視し,机上の公式に基いただけでいとも簡単に結論づけて良しとする人間を産む危険があります.
 この点,十分注意しておく必要があります.

 この毒を十分認識した上で,地政学のエキスを身に付けることは,要路にない我々にとってもきわめて益の多いものとなります.

 〔略〕

■本著を見れば,いろいろな事が見えてきます

 たとえば,最近の英メディアが「ジンバブエ」を臨時ニュースやトップニュースで報じている理由が理解できます.
 英にとって重要なのは地中海を維持することなんですね.
(地中海要衝のジブラルタルは未だ英領です.)
 そのためにはアフリカの情勢安定が重要になります.

 英の志向は,まさに「唇滅べば歯寒し」という治乱興亡の理に基づくもので,地政学的な観点からみて本当によく理解できます.

 英のアフリカ重視は,わが国の場合豪重視になります.
 その根幹にあるのが,本著によれば「地中海」という感覚です.

 安倍前政権は豪州を重視し,同盟関係強化を行いました.
 地政学を十分理解・把握した行動といえましょう.

 アジアの緊要である地中海とはどこでしょうか?
 本著の中でお確かめ下さい.
 ヒントはシナのつく海です.

 そういえば,シナの最新鋭原潜「晋級(094型)」が,●海艦隊の主要基地である●●島基地に配備されたとの新聞報道がありましたね.
 この海で展開するためですね.

 あわせてわが国は,幾度も煮え湯を飲まされているのに,アフリカを必要以上に重視する対外政策を変えていません.
 なぜこんなことになるのでしょう?
 どうも,心理的「錯覚」が要因の一つにあるようなんですね.
 本著では目に見える形でそれが示されています.
 是非ご覧ください.

 わが国にとってのアフリカは,●シナ海と豪州ほど重要ではありません.
 アフリカに向ける力があれば,豪州,●シナ海に向けるべきなんですね.

■活きた示唆を汲み取れる

 第二次大戦,大東亜戦争終結後,アメリカは対外政策をいかにすべきか?という内容の本で,昭和十九年に出版されたものですが,今も活きる極めて示唆に富む内容があちこちにあります.

 特に数年前に米が国防方針として発表した「不安定の弧」ということばは,名前は異なりますが本著の中で同じ概念が出ています.

 現在の米国は本著でかかれているとおりの行動をとっているように思えてなりません.

 もう一つ重要なのは,海外の国・勢力は全てここで書かれている原理を理解吸収していると思われることです.
 特に西洋諸国の場合はそれが顕著に顕れているようです.
 ロシア,中共,アルカーイダ,ハマス,イラン,北鮮,韓国,台灣,フィリピン・・・も皆,同じ原理で動いていますね.

 これは何を意味するか.
 先ほども書いたとおり,この原理に基かない行動は理解・評価してもらえないということです.

 本著を読み,地政学的感覚を血肉化する人が増えることを望みます.

 なお,本著で導き出された米の対外方針提言は,概略以下のようなものです.

・対外戦略の根本は,ユーラシア大陸東西で圧倒的なパワーを持つ国が出ないよう警戒すること.
・ユーラシア大陸にある国が欧州とアジアで圧倒的かつ支配的な立場を獲得するのを不可能にする.
・自らの安全を図るため,欧州・アジアの政治に積極的に協力しなければならない

■抜書き

 以下,ご参考までに抄録を一部ご紹介します.

・地政学者により一般化された理論が実際の政策に適用される場合には,常に善悪の倫理判断が考慮される必要がある

⇒過度の一般化は学者の弊です.それを鵜呑みにすることなく,意思決定者たる政治は自らの見識・胆識で決心すべしということですね.

・ユーラシアの国々のパワーは実質的に海を通じてしか我々に届かない.
 エアパワーが発達してもこれは変わらない

⇒海運に取って代わる輸送手段が出てくるまで,この言葉は通用することでしょう

・国家のパワーにとってより重要なのは鉱物埋蔵量よりも実際の産出量

⇒中東ではサウジが何より重要ということですね

・根本的で変化しない要因では地理的要素が最も重大.
 歴史的に,人があふれかえるところに強力国家は出現する.
 そして,もっとも国力と近い関係にあるのは工業生産力である.
 人口密度と工業生産力の間には一定の関係がある.

⇒わが国の少子化,中共・インドの人口増大は無視できませんが,アフリカの人口爆発は少なくとも国家のパワーという点で見れば無視できるということです.

・歴史の理論を一括して適用するのは間違い

⇒先ほども書きましたが,現実をモデルや公式で解こうとする姿勢は不可です.

 〔略〕

 コンパクトで中身が濃く,より実際的な地政学入門書です.
 全ての方にオススメします.

――――――おきらく軍事研究会,平成20年(2008年)6月27日
『平和の地政学』のまとめ<「地政学を英国で学ぶ」

『名軍師の知恵』を読み解く (2013/05/10)◆「国際インテリジェンス機密ファイル」

『名著で学ぶ戦争論』(石津朋之編著,日本経済新聞出版社,2009.6)

 流し読みしてきた.
 この手の物は,孫子とクラウセヴィツくらいしか紹介しないが,これは一味違う.
 リデルハートやマハンに毛沢東,ゲバラなど兵書の代表格を全て押さえている.
 あと,原書を紹介してるのが好印象.
 戦略,戦術入門に最適な一冊だと思う.

 因みに日経ビジネス文庫から出てるのに,ビジネスのビの字もなかったりする(笑)

――――――軍事板,2009/07/04(土)

『毛沢東選集』(毛沢東著,外文出版社,1968)

 日中戦争で勝てなかったのは土地が広大だったからとか,人口がとにかく多すぎたとか,アメリカの物資援助のせいだとか語られることが多い.
 しかし,本書は指導者の知的水準,ことに洞察力において決定的に負けていたことを教えてくれるだろう.
 「戦略なき日本」などといわれて,
『戦略がないからアメリカにいいようにされるのだ.
 それにくらべて,戦前の日本にはちゃんと戦略はあった』
と語られることが最近多い.
 しかし,その戦前の日本もあれだけあなどってばかにしていた中国にさえ,戦略的思考という点では完全に負けていたということが分かる.
 また,毛がなぜあれだけのカリスマ的指導者になりえたのかも,本書を読めば分かるだろう.

 もちろん,本人に都合よく編集されているだろうから,割り引いて読む必要はある.
 しかし,本書を読む限り,並ぶ者のない賢者として状況を洞察し,神がかった予言者として人々に進むべき道を示し,こと戦争に関しては,彼の言った通りになったことが分かる.
 どういう編集がされているかは分からないから,眉につばをつけて読む必要はある.
 しかし,たんなるエロ親父でなかったのはたしかだろう(笑
 「ミネルバのふくろうは夕闇に向かって飛び立つ」という名言があるように,後知恵で賢げに書かれた本は数多い.
 しかし,これは指導者本人の,戦争当時の論説である.
 「銃口から政権が生まれた」という名言を残し,曹操を意識していたともいわれる著者の,この著作は,こと軍事に関しては必読の書であると私は考える.

------------軍事板,2001/02/16(金)

『ランチェスター戦略の教科書』(矢野新一著,日本実業出版社,2012.1)

『リーダーの掟』を読み解く (2013/05/19)◆「国際インテリジェンス機密ファイル」

『レアメタル資源争奪戦』(中村繁夫著)書評 石油の枯渇も心配だが,レアメタルも相当な懸念材料だ > JOEL

『歴史と戦略の本質』<「源清流清 ―瀬畑源ブログ―」◆(2011/04/17)

●Mahan

「FMS」:マハンと地政学

「FMS」:マハンと地政学 その2

「FMS」:マハンと地政学 その3

「FMS」:マハンと地政学 その4

「地政学を英国で学ぶ」:マハンの地政学:その1

「地政学を英国で学ぶ」:マハンの地政学:その2

「地政学を英国で学ぶ」:マハンの地政学:その3 『アジアの問題』

「地政学を英国で学ぶ」:マハンの地政学:まとめ

●Think Tank

Army Environmental Policy Institute

Council on Foreign Relations(外交問題評議会;CFR)(Foreign Affairs誌を発行しているシンクタンク)

Center for Strategic and International Studies(CSIS:戦略国際問題研究所)
(米国を代表する有力シンクタンク)

日本人研究員による面白い形でのCSIS紹介(PRANJ)

Hoover Institution on War, Revolution and Peace (Stanford Univ.)

NIRA(総合研究開発機構)シンクタンク・リンク集

(財)エネルギー経済研究所

(財)ディフェンス リサーチ センター(防衛戦略,防衛政策.研究員は将官や佐官クラスの幹部自衛官OB)

(財)日本国際フォーラム

(財)日本国際問題研究所

防衛庁防衛研究所

三井物産戦略研究所

有事戦略研究会


 【質問】
 戦略に関する本で,おすすめはないでしょうか?

 【回答】
 武径七典,戦争論,戦争概論,戦略論,海上史権論,戦略論の原点,戦略の形成,エアパワー,シーパワー,制限戦争指導論.

石津朋之著『リデルハートとリベラルな戦争観』
サミュエル・ハンチントン著,市川良一訳『軍人と国家』
清水多吉,石津朋之編『クラウゼヴィッツと「戦争論」』
スイス政府編纂,原書房編集部訳『民間防衛』
西村繁樹編著『「戦略」の強化書』
野中郁次郎,戸部良一,鎌田伸一,寺本義也,杉之尾宣生,村井友秀著『戦略の本質』
防衛大学校・安全保障学研究会編著『最新版 安全保障学入門』
防衛大学校・防衛学研究会編『軍事学入門』
マーチン・ファン・クレフェルト著,佐藤佐三郎訳『補給戦』
H・J・マッキンダー著,曽村保信訳『マッキンダーの地政学』

「戦略の形成」ウィリアムソン・マーレー,「新戦略の創始者」エドワード・ミード・アール,「戦争の達人たち」マイケル・ハンデル,この辺もお薦めできるかと.

 「新戦略の創始者」の新版的なピーター・パレット編「現代戦略思想の系譜」もいい.
 ただ前者は4,5000円だけど,後者は万超え確定(定価がすでにそう)なのが難点.

 現代戦略なら
『超限戦 21世紀の「新しい戦争」 』
を推奨する.

 この前のハードとしての人民解放軍の著しい発達に加え,ソフト面でも同軍のレベルが高いことの一端を知ることができる.
 おそらく自衛隊の軍事ドクトリンを遥かに引き離していくことが予見される一書だ.

軍事板,2009/10/10(土)
青文字:加筆改修部分

 また「戦略論大系 コーベット」が忘れられたはる・・・

整備兵@携帯 in 軍事板,2009/10/10(土)
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 世界各国の軍事戦略や外交,政治,などをより知るうえでオススメの本はないですか?
 本屋でタイトルや作者等を見ても過激なタイトルばかりで,正直どれを選べばいいか全く分かりません.

 【回答】
 う〜ん・・・
 幅広すぎなんだけどね(笑)
 君はその中でどの地域に特に興味あるの?
 日本含めるならアジアになるけど,それなら日本史と日本の近代史を調べて,中国やロシアなどの歴史へと裾野広げる方が良いと思うよ?
 中立的な,学術的レベルまで昇華した文献って結構歴史を経ないと,出て来ないと思うのだけどね?

 まぁ,そだねぇ・・・
 全般的に捉えるというか戦略視点というか,切っ掛けになるかもだけど,
「三千年の海戦史」 著者 松村 励 中央公論新社
ってのがある.
 海から見た戦略,シーパワーの移り変わりを解説してる本だけど,これは海洋戦略の歴史解説みたいな本だけど面白いし,こういう視点もあるんだっていう意味でどうかな?

 国際関係学という意味でなら,ジョセフ・ナイ「国際紛争」が定番.
 あと,地政学というものを,意識して一冊は読んでおいた方がいい.
 本自体少ないんだけど.
 奥山真司「地政学―アメリカの世界戦略地図」とか.

 国際関係論はおおまかに言って歴史と軍事,地政学に集約される.

 次点
ゴードン・A・クレイグ/アレキサンダー・L・ジョージ 「軍事力と現代外交」
ヘンリー・キッシンジャー「外交」
曽村保信「地政学入門」
高坂正尭「国際政治―恐怖と希望」

 基礎データとしては,共同通信社「世界年鑑」ならば,世界各国ほぼすべて情勢を,前年の2月頃からその年の2月頃までのを網羅してある.
 イミダスみたいなでかい本で,公立図書館なら置いてあると思う.
 まず貸し出し禁止だろうけど.買いたい場合は本屋で注文取り寄せになるうえ,1冊5000円近くする.

 なお,これは俺の主観だが,発行元自体が左翼くさいので,軍事戦略面では情報が薄く,さらには特定アジアマンセーな臭気もただよう.

 だがそれでも,他に代わりうるものがないのも事実かもしれない.

>過激なタイトルばかりで

 見るコーナー間違っとる.

戦争・国防板,2009/08/27(木)〜08/28(金)
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 佐藤守氏の『国際軍事関係論』を読んだ人いますか?

 【回答】
・地政学的に物を考えるときは,地図じゃなく地球儀を見よう
・仮に現行憲法が押し付け憲法だとしても,戦後改正してないのは国民の総意,
 結果不利益を蒙っても,悪いのは日本人で,アメリカに文句を言うのは筋違い
・F-1戦闘機がボロのせいで,アメリカ空軍にナメられた屈辱は絶対に忘れない

などなど,パイロット時代の恨み節を除けば無難な内容.

 ただ,松村氏の著作と比べると重要度は落ちるんで,読まなくてもよさげ.

軍事板,2010/02/08(月)
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 戦略研究学会の出している戦略論大系シリーズは買いでしょうか?
 マハンとかクラウゼヴィッツとかシリーズ中にあるますが,戦略論や海上権力論を別に買うのとどちらが良いのか.
 大系〜シリーズの中身が抜粋であって,原著が全部読めるわけではないのなら別ですけれども.

 【回答】
 お金に余裕があって,そっち方面を真面目に読みたいなら買いかなと.

 戦略論体系のほうは要旨部分+専門家の解説.
 原著の抜粋は,たとえばリデルハートなら,4部構成の「戦略論」のうち戦史の3部分をはぶいた理論部分だけ.
 マハンは「海上権力史論」のシーパワー概念の定義と,「海軍戦略」のおおよその部分.

 解説部分は,その戦略思想がどのような背景・意義を持っていて,その主張をめぐって過去どのような論争が行なわれたか,どんな理論的限界があるのかを説明してるから便利だと思う.
 クラウゼヴィッツとか論争が多い人の解説は重宝.

 古典は通読するのも色々発見があるけど,要所のエッセンスをきっちり抑えるのも大事だと思う.
 古典を注釈無しで読むのはなかなか大変かと思うから.

軍事板
青文字:加筆改修部分

▼ 余談だが自分はこれで,
「モルトケが40代の時に十代の少女に一目ぼれされて結婚.
その妻が早世した後90歳近くまで生きたモルトケが臨終の時,妻の肖像画を見ながら息を引き取った」
という話を読んで,一気にモルトケ萌えになった.

軍事板


 【質問】
371 名前: 名無し三等兵 [sage] 投稿日: 2009/04/20(月) 10:27:18 ID:???

 『戦略論大系』で,フラーなりグデーリアンなりを合わせて出せば良かったのに.

 【回答】
372 名前: 名無し三等兵 [sage] 投稿日: 2009/04/20(月) 10:58:47 ID:???

 フラーしかりグデーリアンしかり「戦術」レベルであり,「戦略」レベルではあるまい.


378 名前: 名無し三等兵 [sage] 投稿日: 2009/04/20(月) 23:41:49 ID:???

 フランス一つを潰した戦術ってのも,大層なものだと思う.


373 名前: 名無し三等兵 [sage] 投稿日: 2009/04/20(月) 15:07:58 ID:???

 個人的にはゼークトを希望<戦略論大系


374 名前: 名無し三等兵 [sage] 投稿日: 2009/04/20(月) 23:26:46 ID:???

 戦略論大系なら,俺はルーデンドルフかジョミニ希望.


379 名前: 名無し整備兵 [sage] 投稿日: 2009/04/21(火) 00:04:53 ID:???

 グデーリアンはともかく,フラーは国家戦略まで言及していますね.
 「制限戦略指導論」.

 ちうか,なぜトハチェフスキーが出てこないんだろうか・・・


380 名前: 46式 [sage] 投稿日: 2009/04/21(火) 00:09:48 ID:???

 粛清の影響で,著作(訓令含む)が散逸しているからでは?


382 名前: 名無し整備兵 [sage] 投稿日: 2009/04/21(火) 01:06:34 ID:???

 まとまった赤軍戦略及び作戦術の本となると,スヴェーチンあたりになりますか・・・


383 名前: 全裸黄金 ◆d8Xqc/vVP2 [sage] 投稿日: 2009/04/21(火) 01:14:50 ID:???

 ド・ゴールを忘れないでくだしあ・・・


384 名前: 名無し整備兵 [sage] 投稿日: 2009/04/21(火) 01:26:25 ID:???

 泉の女神:
「貴方が欲するドゴールは,WW2緒戦時のドゴールですか?
 それともアルジェリア紛争時のドゴールですか?

軍事板
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 外交関係で古典と言われるような本はないのかな?

 【回答】
トゥキュディデス『戦史』
ニコルソン『外交』
カリエール『外交談判法』
ケナン『アメリカ外交50年』
カー『危機の二十年』 ※原著で
高坂正尭『古典外交の成熟と崩壊』

軍事板
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 経済と軍事の関係をまとめてある書籍は,何かありますか?
 陰謀論とかそういうのではなくて,石油資源などをめぐる各紛争・戦争や,戦争にかかるコストと,その戦争の結果での利益の収支など.
 似たようなものでもありましたら教えて下さい.

 【回答】
 そのものズバリ,ポール・ポースト『戦争の経済学』

 また,もう学んでいるのなら失敬ですが,ケインズ経済学の基本を抑えておくと,戦時経済のことは判りやすい.
 今書名が出てこないが,日本の戦時経済をまとめた本があって,経済学の基本を知らなかったころに読んで,単に資料となっていたが,あとから読み返すとよくわかった.

荒川憲一『戦時経済体制の構想と展開――日本陸海軍の経済史的分析』
 これは良書.

 革新官僚についての「日本株式会社の昭和史」や「日本株式会社を創った男」もおすすめ.
 その方面に興味あるなら――もう内容は古いので自己校正は要る.

 なお,マルクスとケインズの入門位は押さえないと戦前の革新官僚(軍人含む),思想家を戦後から見た右・左だけで分けがちと,今更ながら気が付く.
 その意味で岩波も,あたりをつけ読んで置かないと,自己撞着する気がする.
 づづうがいたひ.

軍事板,2012/05/09(水)
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 中国の古典は,現代の戦略にも通用するのか?

 【回答】
 以下の記述を見るに,今日でも学ぶところ大だと思われる.

――――――
 これは西洋の戦略学をやっているドクターコースの香港人の友達も行っていたことと符号します.
 彼の専門は「戦略とはそもそも何か?」ということの研究なんですが,曰く,
「西洋の戦略の理解は単純だからな〜」
ということでした.

 たしかに追求してくと,クラウゼヴィッツよりも孫子や呉子,六韜三略などのほうが深くて面白い.
 これは私も国際関係論で感じたことなんですが,たとえばここで紹介したこともあるケネス・ウォルツの"Man, the State, and War"という名著がありますが,これは戦争の原因を理解するのに三つの階層で考えよう,という内容でした.
 つまり単純にいうと,

国際政治
  ↓
国内政治
  ↓
個人

ということだったのです.

 ところが,こういう考え方はすでに東洋哲学であったもので,西洋のようにたった三つとは言わないで,なんどデラックスなことに,階層は四つ(もしくは八つ!)ありました.なんとも太っ腹(?)です.

平天下
 ↓
治国
 ↓
斉家
 ↓
修身
 ↓
正心
 ↓
誠意
 ↓
到知
 ↓
格物

 これは江戸時代のサムライが,今の小学生くらいまでに暗記させられていた『大学』という本にある,「大学の八条目」というやつですね.
 戦前の「修身」という教科はまさにここから来たものです.
 この「大学」のスゴイところは,なんといっても「個人」だけでは終わらず,その先の心とか意志みたいなところまで階層を突き詰めているところでしょうか(笑)
 それに家族の平和(斉家)みたいなところまで考慮されているのも素晴らしいアイディアです.

 残念なのは,東洋哲学のほうが,この縦の階層を使いつつも,水平方向の広がりに向かって分析を行わなかったところでしょうか.
 ウォルツ,しいては国際関係論の優れているところはこのあたりかも知れませんね.

 いずれにせよ,単純な西洋のものよりも,東洋もののほうがはるかに深みがあって面白い.
 問題はこれが西洋のモデルで体系化できるかどうか,というところに勝負があると思うんですが.

――――――「地政学を英国で学ぶ」,2005-08-01 06:56

 上記ブログの著者は,英国留学中の専門家であり,その記述は信頼できると考えられる.
 ……もっとも,同じ英国留学とはいっても,ホホイのようなのもいるが.


 【質問】
 ワイリーは,いきなりマキャべり,クラウゼヴィッツと同列に毛沢東を持ってきて,論じていた最初で萎えた覚えが.
 ヒトラーやチャーチルのような(扇動?)政治家にカテゴライズされて語れているんなら解かるんだけど,職業軍人としてのカテゴリーで語られてると感じたことに違和感.

名無しの愉しみ in 軍事板,2010/09/17(金)
青文字:加筆改修部分

 【回答】
 そういう違和感もってるなら,赤の軍事思想関係書とか毛沢東の伝記とか,中共関係の歴史書を読んでみ.
 なじみがないから,そう思うんだと思う.
 たぶん,違和感が消えるはず.

 というのも毛沢東は元々,抗日軍の指導者だから,
 元々の立ち位置的には,ヒトラーよりもマンネルヘイムやゲバラに近い.
 赤系軍隊の軍事方針と本人の趣味で,軍人よりも,軍事指導もする革命家・軍師になりたかったようだ,と一般には言われてるね.
 だから階級としての大元帥位もことわったと思われている.
 まあ,政治委員だし短い師長経験もあるんだけどね.
 ケ小平とか一般に日本では政治家と思われている大物達も,だいたい軍階級持ってるんだけどね.
 赤系諸国ではチラホラ見られる傾向.

 そして毛沢東の戦略論は東西問わず,通常高く評価されてる.
 一遍,関連著作読んでみれば,名文だし,結果論的にもこういう考えだったから,天下を取れたとうことが分かると思う.
 既読なら「ああ,そうですか」としか言えないけど.
 戦略論大系にも入ってたと思う.

 あと,赤系軍事理論の系譜は,クラウゼヴィッツを始祖・源流にしている.
 毛沢東は赤系でも直系じゃなくて,変化型・傍系になるけどね,一応.

軍事板,2010/09/17(金)
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 グレイの「戦略の格言」を読んでいたら,トゥキディデスを読みたくなったんですが,amazon見ると全然お手軽に手に入りそうに無いですね.
 普通に本屋で見つけられるだろうか…

 【回答】
 京都大学学術出版会から出ている「歴史」が,まだ手に入る.
http://ja.wikipedia.org/wiki/戦史_(トゥキディデス)
を見ると,岩波の「戦史」と同じ本だな.
 ちょっと値が張るけど,岩波文庫『戦史』よりは読みやすいと思う.
 もっとも,古代ギリシア語は分からないので,訳が良いのかどうかは判断できないが.

 英語が解るんなら,英訳版を買うと言う手もある.

軍事板,2010/09/21(火)〜09/22(水)
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 マキャベリ「君主論」について教えてください.

 【回答】
 マキャヴェッリがフィレンツェ共和国で失脚し,隠遁生活中の1513〜1514年にかけて書かれたとされる,政治学分析書.

 外交・国家戦略についての古典.
 国家指導者はどうあるべきか,どう行動すべきかについて,指針となる知恵が詰まっている.
 現代においても,正しいかどうかはともかくとして,国家理性が求める正解の一つを示す本.

軍事板,2001/02/16(金)
青文字:加筆改修部分


 【質問】
ttp://gigazine.net/index.php?/news/comments/20101102_ten_books_of_destructive_consequences/
世界をめちゃくちゃにした,書かれるべきでなかった10冊の本

>◆「君主論」(1532年,ニッコロ・マキャヴェッリ著)
>
>「慈悲深く,人を裏切らず,人道的で,正直で,信心深い.こういった資質は君主にとって必要不可欠では
>ないが,これらの資質を持っているように見えることは,必要不可欠である.これらの資質は実際に持つと
>君主にとって邪魔にしかならないが,見かけ上これらの資質を持っておくことは実に有用である」と説く
>マキャヴェッリの政治書はナポレオンやムッソリーニ,ヒトラーなどさまざまな独裁者にインスピレーション
>を与え続け,中でもスターリンは毎晩枕元に置いて愛読していたほどとのことで,後世の多くの人々の死に
>つながった本と言えます.

軍ヲタが有り難がるような政治・軍事書は悪逆非道な独裁者御用達の犯罪書籍であることが証明されたな.
いくら精巧な技術論を振りかざそうと,信仰心や道徳を否定するような書は社会に害しかもたらさないのだ.

「世界の人々が正しい信仰,正しい道徳を持てば世界から争いは無くなり,軍事書など無用になる」

軍ヲタはこの言葉をよく噛み締めて聖書や四書五経などの宗教書や道徳書を読んで健全な人間に立ち戻らな
ければならない.

 【回答】
 君主論のそこを抜粋してくるやつって,間違いなく君主論読んでないわ.

 そもそも,延々ローマと神聖ローマとの間で翻弄され共和制闘争に明け暮れたイタリア各都市の歴史的事情を勘案せずに,普遍的事項として引用するのが間違っているんよ.
 あれちゃんと適用できたの,王妃マルゴの母ちゃん(初期)ぐらいだろ.

 マキャベリは
「イタリアには強い統一国家が必要なんだ!
 このままじゃ他国にいいように喰われてしまうから統一された国が必要なんだ!」
という意思もあって君主論を書いたからなあ.
 無論,自分の売り込みもあった.
 フィレンツェ出身のレオーネ何世だかがローマ法王になった時の猟官文書みたいなもんだからな
 世界中がノー・モア・チューザレって気分の時に,チューザレ・アゲインってぶちあげたんだから,よくまあ生きて後にはメディチ家から修史の仕事までもらえたもんだわ(笑)
 当の法皇は贅沢三昧で免罪符大量発行の,マキャベリの理想とは正反対のダメ君主だしなあ(笑)

 それから,四書五経を注意深く読んでみよう.
 一部は間違いなく東洋版君主論と言うことがよく分かるぞ.
 そして「聖書や四書五経を読んだら健全」(笑)?
 んなわけあるか,人によっては徳が全く無い奴も生まれるわ.

 もちろん,
「本人が何を言おうとしたのか」

「周りがどう受け取ったのか」
が違うこともあるから,後者に注目すれば当然,書かれるべきでなかった本という評価につながる.

 ただ,「ナポレオン,ヒトラー,ムッソリーニ,スターリンが君主論を読んでいたから,後世の多くの人々の死につながったんだ」とは思わないけどね.
 読まなくても多くの人の死につながったと思う.
 ポルポトとかプランバカランなんかは,バカだった方が救いがあった気がする.
 結局どんな本も,読み手次第としか言い様がない.

軍事板,2010/11/03(水)
青文字:加筆改修部分


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