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「海洋戦略研究」◆(2009/07/30) 失敗国家に軍事介入するな
「ストパン」■(2010/06/15) [民族][ナショナリズム]国境,国民,国家――「民族自決」批判
「地政学を英国で学んだ」◆(2013/04/20) ルトワックの動画:外部からの介入がダメにする論
【質問】
外国軍隊駐留は内戦再発の防止に効果があるのか?
【回答】
内戦終結直後の初期段階では内戦再発のリスクが高いため,何らかの形の軍事的な解決策が必要であり,かつ,国内の軍事費増大は内戦リスクを増大させる懸念があるため,そのような軍事的強制力は外国のもののほうがよい.
しかし,それは信頼に足ると思われなくてはならないし,また,内戦の当事者と見られることがあってはならない.
信頼性は,駐留のルールと,武力行使も辞さないという姿勢にも影響される.
例えば,シエラレオネではRUFが,大規模な国連軍を人質に取ったことがあるが,抵抗がないだろうという正しい判断をしていたからである.
これに対し,明確な応戦の指示を受けていたイギリス軍が投入されると,国連軍よりずっと小規模であったにも関わらず,RUFは急速に崩壊した.
しかしながら,地域的な平和維持については成功例だけでなく,失敗例もある.
詳しくは「戦乱下の開発政策」(シュプリンガー・フェアクラーク東京,2004/8/3),p.149-150を参照されたし.
【質問】
破綻国家などに介入することの問題点は?
【回答】
「主権」とのせめぎ合いによる問題がある.
そもそも,「主権」と「非介入」こそが,無政府状態である国際社会に秩序をもたらす原則である.
だが,それと同時に非介入は,更なる混乱をもたらすこともあり,これは常にジレンマとして存在する.
この点を,ナイ教授は次のように述べている.
非介入は正義に影響を及ぼしている.
国民国家というものは,人々の共同体―一定の国家としての領域内で共通の生活を発展させる権利を正当に保持している人々の共同体でもある.
しかしながら,外部の人々は,彼らの主権と領土保全を尊重しなければならない.
しかしながら,全ての国家がこの理想に合致しているわけではない.
主権とは,たとえば,21世紀初頭のシエラレオやリベリア,ソマリアでは,グループや部族の争いで政府は有効に機能しなかった.
子供たちでさえ,戦場に駆り出された.
しばしば秩序と正義の間には緊張が生まれ,介入すべきか否かをめぐって矛盾が発生する.
国際社会においては,非介入と主権尊重が原則ではあるが,非介入が常に正しいわけではなく,目的のために,原則を破る場合も存在する・・・と言ったところか.
詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授「国際紛争」(有斐閣,2005.4),第6章を参照されたし.
【質問】
これまでにジンバブエのような経済の破綻した国を立て直すなどの名目で,他国が軍事力を伴う強制介入をしたケースはないのでしょうか?
【回答】
「悪政から民衆を解放する」は,侵略の常套句.
軍事板
青文字:加筆改修部分
【質問】
国家の主権はどこまで尊重されるものなのか?
【回答】
目的と結果のバランスが取れているのであれば,介入は正当化される場合が多い,
また,介入しないと自国にまで影響を及ぼす場合,積極的な介入が行われる.
国家における「主権」はウェストファリア体制などで中核的な概念となり,国連憲章によって確立された.
「主権」と「介入」は常に矛盾する概念であり,介入を行う際の議題の中心となる.
ただ,主権は法的には領土の保障・支配を意味するが,実際は,国家の国境権というものは,しばしば程度問題となる.
国民の支持を得ている政府であろうと,領内で起きるすべてについて,完全に支配する,などということはほとんど無い.
これについて,大きな理由として,経済的相互依存があるとナイ教授は主張する.
以下,引用.
1つの理由は,国際的な経済相互依存である.
たとえば,1981年にフランスで社会党が政権について,フランスの経済政策の大幅な政策変更を企図した.
しかし,フランス経済は他のヨーロッパ諸国の経済とあまりにも深く相互依存したため,社会党政権が一方的な政策変更をしようとすると,資本が国外に流出してフランの価値は下落した.最終的には,フランスの社会党政権もまた,他のヨーロッパ諸国と共通の政策に戻らざる得なかった.
相互依存は,フランスの法的な主権を制約しなかったが,事実上の支配は確実に制約したのである.
フランスはあまりに深く経済的に相互依存していたため,完全に自立的な経済政策は持ち得なかったのである.
同様に,1998年のアジア通貨危機で世界市場に不安が生じ,ロシアやブラジルのように距離的に遠い主権国家の政府もこれに直面して,平価を切り下げたり経済政策を変更したりした.
また,経済的な相互依存は理由の一つにすぎない.
難民の大量流入は,安定した国家を混乱させるに足る.
ハイチとキューバからアメリカに流入した難民は,1993-1994年に政治問題化したし,ルワンダからブルンジ・コンゴへの難民流入は,紛争の原因ともなった.
さらに,麻薬や武器の密輸・密売も,主権侵害を引き起こすことになる.
以下,ナイ教授の説明.
アフガニスタンからパキスタン北部への武器流入は,国内的に法と秩序を揺るがせた.
法的には国家は主権を有するかもしれないが,外部のアクター[行為主体]が国内問題に影響を及ぼすのである.
こういう場合,逆に介入が国家の自立性を高めることもある.
破綻国家や貧困国家は,政府の力が極端に低下しているため,そもそも「自律」を保てない場合がある.
このような場合,適切な介入は政府の能力を向上させて,将来的には政府の自律性を高めることもある.
以下,ナイ教授の文章を引用.
1990年代の国連のカンボディアへの介入のように,長期的には,経済および軍事援助が国家をより独立した存在にするかもしれない.
このような事例にその一端が見られるように,主権と自律性と介入の間にはきわめて複雑な関係があると言えるであろう.
・主権低下に関しては
1.相互依存
2.難民流入
3.武器・麻薬の密売
等の理由がある.
・あまりにも国家の自律性が低い場合は,逆に介入が国家の自律性を高めることになり,結果的に国家主権の保持に貢献する.
詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授「国際紛争」(有斐閣,2005.4),第6章を参照されたし.
【質問】
国家中心主義者にとって,明確な「侵略」以外で,介入を道義的に正当化されることはあるのか?
【回答】
国家中心主義道義主義者であるマイケル・ウォルツァーによると,4つの状況があるとされる.
1.予防先制攻撃
第三次中東戦争のイスラエルのように,国家の主権にとって,明白な脅威とされた場合,国家は直ちに行動しなければならないし,そうしないと,手遅れになるという場合である.
ただ,この場合の「脅威」とは差し迫った脅威でなければならないとされる.
例えば,ソ連のアフガン戦争などは,このケースにはあたらない.
ナイ教授によれば,「予防戦争」と「予防先制攻撃」には違いがあるという.
以下引用
予防的先制攻撃は,戦争が今にも起こりそうな時に発生するのに対し,予防戦争は,今仕掛けた方が後で仕掛けるよりもよいと政治家が判断した時に発生する戦争なのである.
すでに検討したように,このような予防戦争の考え方が1914年のドイツ参謀本部に影響を与えていた.
1916年まで待っていたらロシアが強大化してシュリーフェン計画が機能しなくなってしまうと,多くの参謀たちは恐れたのである.
非介入に関するウォルツァーの第1の例外は,このような予防戦争には当てはまらない.ドイツにとって明白かつ現在の危険は存在しなかったからである.
そして,やはりすでに検討した反実仮想的事例からしても,1914年から1916年の間にさまざまな出来事が起こることで状況は変わっていたかもしれないからである.
2003年のイラク戦争において,攻撃の脅威が差し迫っていないのに予防戦争を予防的先制だと主張したことで,アメリカの新たな安全保障ドクトリンはこの古典的な区分を不明瞭なものにしてしまった.
2.すでに行った介入を相殺するために行われる介入
この考え方は,ジョン・スチュアート・ミルや19世紀の自由主義者に見られるような,民族は,自決の権利があるという考えにさかのぼる.
例えば,ある介入によって,その民族が自らの運命を決定できないような事態が起きた場合,この介入を相殺するような対抗介入は,その民族の自決権を回復させることになるので正当化されることになる.
これについて,ナイ教授はベトナム戦争の例を挙げている.
アメリカは,ヴェトナムへの介入の正当化のために,時にこの議論を援用した.
ミルの議論は,事前の介入を相殺する限度内での介入を容認したのであって,それ以上のものは正当化されない.
1979年に中国は国境を越えてヴェトナムに介入したが,2・3週で軍隊を撤退させた[実際には2月17日から3月5日].
中国は,ヴェトナムのカンボディア介入に対抗するものだと主張した.
いずれにしても,民族が自らの問題を決定できると言うことが根本原則だとすれば,介入が許容されるのは第一の介入に対抗する限りにおいてだけだ,ということになる.
3.虐殺などの脅威から人々を救助するのに介入が必要である時.
虐殺の危険に晒されている人を完全な抹殺から救えないというのであれば,民族の自律性や権利を尊重するシンボルとしての非介入とは一体何なのだ?と言うことになる.
ウガンダで独裁的指導者・アミンは,反体制派の人々を虐殺した(一説には40万人とも言われている)時,タンザニアはウガンダに侵攻したが,タンザニアはこの介入を「虐殺の危機にある人たちを救うためだ」として正当化した.
ベトナムに関しても,カンボジアへの侵攻を行う際,クメール・ルージュ(ポル・ポト派)の虐殺から民衆を救うためということを口実にした.
だが,民族虐殺が常に国家や国際社会の介入を招くわけではない.
実際,1994年・ルワンダ,1992-1995年・ボスニア,1996年・リベリア,1999年・シエラレオネ,2003年・コンゴのいずれも,虐殺が行われいるにも関わらず,アメリカは介入をためらった.
4.国家からの独立を宣言している勢力が,自らの代表性を証明した場合に,それを支援するという形の介入
このような「分離主義者」を支援することが,個人の諸権利を束ね合わせて,自律性を発展させたいという人たちを支援することになり,それが介入を正当化するというわけである.
だが,このような「分離運動」が「正当な」支援の対象になるのは,いつなのかについては疑問が残る.
これについて,ナイ教授は以下のように述べている.
分離運動が[正統な]支援の対象になりえるのはいつなのであろうか.
彼らの成功が,[国家として承認される]価値を生むのであろうか.
ミルの議論は,部分的にはそうである.すなわち,正統な国民[nation]となるためには,民族[people]は自らの救済を自ら追求し,自らの自由を勝ち取ることが出来なければならないというのである.
このような見方は,非介入の原則および諸国家からなる社会[というか考え方]と少なくとも矛盾はしていない.
しかし,道義原則としては欠陥がある.力が正義を生むということを意味しているのであるから.
纏めると,
・国家中心主義者にとっては,介入はほとんど正当化することはないが,4つの状況で,それが正当化されることがある.
・それぞれ4つの介入の形についても,正当化される場合と正当化されない場合がある.
・そもそも,その「介入の理由」自体,口実になる場合もある.
詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第6章を参照されたし.
【質問】
エスニック紛争における介入は,どのように評価されているのか?
【回答】
これは,リアリスト(現実主義者)・コスモポリタン(世界市民主義者)と,国家中心主義者とで評価が分かれる.
それぞれの立場から,介入に対する評価を書くと
1.リアリスト
リアリストにとって,介入とはバランス・オブ・パワーを維持し,秩序が保てるのであれば,介入は正当化される.
リアリストにとっては,バランス・オブ・パワーこそが秩序と平和の根幹だからである.
これについて,ナイ教授は冷戦を例に挙げている.
冷戦時代における勢力圏(アメリカの勢力圏は西半球で,ソ連の勢力圏は東欧)がその例である.
アメリカは1965年に,西半球においてこれ以上共産勢力が増えてはならないとしてドミニカ共和国に,そして1980年代に中央アメリカに介入したし,ソ連は東欧で共産制件を維持するために介入した.
ソ連が宣言したプレジネフ・ドクトリンによれば,自らの勢力圏の中で社会主義を維持するためにソ連は介入する権利があるのであった.
また,リアリストの中には,このような介入が秩序を維持するのに貢献し,戦争・・・特に核戦争につながる誤解・誤算を防いだという観点から,介入を正当化する者もいる.
2.コスモポリタン
コスモポリタンの根本は「正義」であって,国際制度の根幹になるものは「個人」の集合からなる「世界社会」である.
ゆえに,介入が個人の正義と人権を守り,促進するのであれば,介入は正当化される.
彼らにとって「善き」者の介入は許容される.
だが,これには問題が残る
「善い」とは一体なんであろうか?
それは,どういう風に定義されるのか?
これについては,コスモポリタンの中でも意見が分かれるようだ.
これについて,ナイ教授は以下のように述べている.
冷戦の最中には,自由主義的なコスモポリタンにとって,フィリピンのマルコス(Ferdinad Marcos)政権や南アフリカのアパルトヘイト政権などの右翼政権に対する介入は正当なものとされ,保守的なコスモポリタンにとっては,左翼政権に対する介入は正当なものとされた,
保守的なコスモポリタンにとっては,左翼政権に対する介入は正当なものとされ,保守的なコスモポリタンにとっては,左翼政権に対する介入は正当なものとされた,
1980年代には,一部のアメリカ人によって,レーガン・ドクトリンなるものが宣言された.
それによれば,ニカラグアのサンディニスタ政権やアンゴラやモザンビークの共産政権に対する介入は,これらの政権が民主権利を侵害しているのだから,正しいということになる.
冷戦の終結にともなって,1990年代には,コスモポリタンは飢餓拡大の阻止のためにソマリアへ(1992年),民主的に選出された指導者を政権に戻すためにハイチへ(1995年),そして,セルビアのスロボダン・ミロシェヴィッチ(Slobodan Milosevic)政権が引き起こした「民族浄化」を阻止するためにコソヴォへ(1999年),人道的介入を行うように訴えた.
コスモポリタンにとっては,左右いずれであれ,個人と正義と人権を促進する限り,介入は正当化されるようである.
3.国家中心主義者
国家中心主義者にとっては,国民と国家の「自律性」こそが根本であり,彼らにとっての「国際社会」とは,国際法にともなう「諸国家からなる社会」である.
その中で,最も重視されるのが「他国に対する不介入」(不干渉)なので,介入が正当化されることはほとんどない.
彼らにとって戦争とは,国家の領土・国としての一体性を守るため,もしくは,外部からの侵略に対して,自らの主権を守る時のみに正当化される.
しかしながら,現実の世界とは複雑で,外部からの侵略そのものが曖昧に定義されることが多い.
これについて,ナイ教授は以下の様な例を挙げている.
例えば,1967年6月にイスラエルは国境を越えてエジプトを最初に攻撃した,
しかし,イスラエルの行動はまさに起ころうとしていたエジプトの攻撃をあらかじめ阻止するために行われたものであって,我々は侵略者ではないとイスラエルはしばしば主張している.
一体誰が侵略者なのだろうか.
国境に軍隊を大挙終結させ,イスラエルへの攻撃準備をしているように見えたエジプトだろうか.
それとも,エジプトが攻撃可能になる寸前に攻撃したイスラエルであろうか.
以上を纏めると,
1.リアリストにとって,介入はバランス・オブ・パワーの秩序を維持する時に正当化される.
2.コスモポリタンにとって,介入は,人権・正義を促進するのであれば正当化される.
3.国家中心主義者にとって,他国に対する介入とはほとんど認められることはないが,彼らにとって「国家主権の危機」とは,現実世界とは乖離することがあるので,曖昧な部分がある.
詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第6章を参照されたし.
【質問】
介入を行う正当性について,判断基準になるものとは?
【回答】
介入には,論理的整合性が(国際法上からなど)難しいため,動機・手段・結果という3つの基準が大切な基準であり,それぞれ単一の理由から判断するのは,間違った結論を誘発する.
例えばの話,介入を結果からのみ判断するのは「力だけが正義だ」と言うことに等しくなってしまう.
だが,動機が正しいからといって,介入が常に正当化されるわけではない.
ナイ教授は,ヴェトナム戦争を例に挙げている
例えば著述家のノーマン・ポドホーレッツ(Norman Podhoretz)は,アメリカのヴェトナム介入は正しかった,なぜならアメリカ人は南ヴェトナム人を全体主義統治から救おうとしたからだ,と主張している.
次のたとえ話を考えてみよう.
まず,ある晩,友人が,あなたの子供を車で送ってあげると言ってくれたとしよう.
その晩は雨であった.
友人は飛ばしすぎて道から跳びだし,貴方の娘は死んでしまった.
友人はこう言った.
「私の動機に非の打ち所はないと思う.受験勉強のために,出来るだけ早く帰してやりたかっただけなんだ」
と.
ポドホーレッツが正しく,ヴェトナムでのアメリカの行動が彼の言うところの「浅慮ではあっても道義的」なものだったとしても,意図がよいものだったというだけで,アメリカの行動が正しかったということになるのであろうか.
やはり,動機以上のものを考えなければならない.
結果もまた考慮されなければならないのである.
ヴェトナム戦争について,アメリカが北ヴェトナムの共産主義者の犯していた惨事から南ヴェトナムをすくおうとした,というだけでは充分ではない.
仮に意図が正しかったとしても,手段がどうだったかはまた別の問題である.
問わなければならないのは,
他に選択肢はなかったか?
介入は最後の手段だったか?
無実の生命を保護する努力が行われたか?
介入は釣りあいの取れた−いわば罪に罰は適合した―ものだったか,それとも過度のものではなかったか?
中立公正さを保つ手順が確保されていたか?
このような考慮について,自らに有利なように判断しがちな傾向をチェックするような国際的多角的な手続きについて,どの程度注意が向けられていたか?
結果についてはどうだったか?
成功の見通しについてはどうだったか?
現地の事情への理解が不十分だったことや,一般住民とゲリラを識別することの困難などから発生する,意図せざる結果という危険についてはどうだったか?
明らか過ぎるほど明白であるのだが,恐ろしいほどの複雑性ときわめて長い因果連鎖が存在する状況については慎重であるべき事を,繰り返し指摘しておこう.
判断を下す前には,動機と手段と結果の全てが考慮されなければならないのである.
私見だが,このヴェトナム戦争への介入に,アメリカが行う介入の問題点が凝縮されているように見える.
詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第6章を参照されたし.
ますたーあじあ in mixi
【質問】
国として自立・独立を目指す際の「自決権」における問題点は?
【回答】
自決権とは,基本的に「民族」が国家を形成する際に問題となるが,これが曖昧になる場合が多いこと.
そもそも「民族」自体の定義が曖昧な場合が多い.
一体,誰と誰とが共通の生活・価値観を共有するのか?
また,共通の生活・価値観を有する共同体が,共通の理念をもって,どうやって,国を形成するのかを,外部の人間がどうやって知りうるのか?
自決とは,一般的に「民族」が自分達の「国家形成することだが,個々で問題になるのが「いつ,だれが」をれを決めるのかということだ.
これについて,ナイ教授は,以下のようにソマリアとアイルランドの例を挙げて説明している.
ソアリアの例を考えてみよう.
ソマリアは他のアフリカ諸国の多くとは異なり,ほぼ同一の言語的・エスニックな特徴を持っている.
隣国のケニアは,植民地統治によって,異なる言語や習慣をもつ10以上の民族あるいは種族を束ねて形成された.
ケニア北部のソマリア人とエチオピア南部のソマリア人はソアリアと一体の国民を成すのであるから分離すべきだ,と主張した.
これに対しケニアとエチオピアは,今,両国は国民形成の過程にあるのだと言って拒否した.
その結果,ソマリアの民族問題巡って北東アフリカで何回も戦争が起きることになったのである.
ソマリア自体がその後,部族と軍閥指導者間の内戦で分裂してしまったことは,皮肉な帰結であった.
投票がつねにこのような問題を解決するわけではない.
まず,一体どこで投票するか,という問題がある.
アイルランドの問題を考えてみよう.
北アイルランドという政治的区分で投票が行われたとすれば,3分の2を占めるプロテスタントが多数派として支配するであろう.
他方,もし地理的な区分であるアイルランドという島全体で投票が行われたとすれば,3分の2の多数を占めるのはカトリックで,彼らが支配するということになろう.
投票が行われる地域を決めるのは誰か?
数十年にも及ぶ係争の後,ついに外部からの仲介が役立った.
また,いったいつ投票をするのが良いのか?
1960年代にソアリア人は直ちに投票することを望んでいたが,ケニアは自らの国民形成,あるいは,部族のアイデンティティに変容するのに,40-50年後を望んだのであった.
更にいうと,これらの「分離・独立」は分離される側において危険は発生しないのか?という問題も常に付きまとう.
資源を持っていかれたらどうなるのか?,国内に混乱は起きないのか?という問題も考える必要が出てくる.
1918年にオーストリア=ハンガリー帝国が解体されたとき,ズデーデンランドは,その大半がドイツ人であったが,チェコに編入された,
1938年のミュンヘン協定で,ズデーデンランドのドイツ人は,チェコから分離して,ドイツと合体した.
だが,この分離により,これまでの国境地帯だった山岳地帯がドイツの物となり,チェコスロバキアの防衛にとっては,致命的な損失となった.
チェコスロバキアの防衛を破綻させるリスクを取らせてまで,ズデーデンランドのドイツ人に自決を認めたのは正しかったのだろうか?
もっと最近の事例でいうと,1960年代に東部ナイジェリアが分離独立し,ビアフラという国家を作りたいと言い出したが,他のナイジェリア人たちは,これに反対した.
この大きな理由の一つとしては,この地域にナイジェリアの石油の殆どがこの,ビアフラ地域に属しており,これらの石油は,全てのナイジェリア人の共有財産であって,東部地域だけのものではないと主張したからである.
以上を纏めると
・民族自決は曖昧さが多い.
・自決は,分離元の国に混乱を引き起こす可能性がある.
・自決権は,安全保障の観点からも考える必要がある.
詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第6章を参照されたし.
ますたーあじあ in mixi
【質問】
“エリア88”では,戦争で負かしたブラシアの大統領以下,政治関係者をすべて公開銃殺したとの記述がありましたが,他国を丸ごと乗っ取るつもりなら,そうするのが手っ取り早いのですか?
プロジェクト4の神埼がアスランの実権を握る
→何の問題も起きていない隣国に,難癖つけて電撃的侵略
→隣国の政府関係者と軍人を皆殺し
て感じだったと思うのですが.
【回答】
逆,逆.
元首周辺を一掃するのがクーデターの王道なんじゃなくて,元首周辺を一掃するだけで国を乗っ取れてしまう「失敗国家」が世界にはあるの.
日本みたいな恵まれた先進国にいると分からないかもしれないけど,大衆どころか役人さえ政府に何の希望も抱いてなくて,上は上で懐を肥やす事しか考えてなくて,国を統治する意思がまるでない国がね.
そういう国では冗談抜きで,大統領官邸を制圧するだけで政権が変わったりするし,実際にそうなった例もいくつもある.
つうか,ついこの間もあったし.
実はこんな国はブラック・アフリカでは珍しくもない(むしろデフォルト)
中東もアフリカと似ていて民主主義が定着しているとは言い難く,王族や有力者の独占・寡占的支配はよくある話.
そんな国だと国民が現支配者を支持してなかったり,不満を持ってたりしても不思議じゃない.
だから頭が挿げ替わっても,「ああ,そうなのね」で済んだり,むしろ新支配者を喜んで受け入れたりする.
というわけで,状況によるとはいえ乱暴な手法もそれなりに有効.
ただ短期的にはさくっと実効支配出来るメリットがあっても,長い目で見ればあまり上手い手とはいえないかもしれない.
外国勢力の支配に対する国内の反発や,国際世論からの非難や糾弾が発生する可能性がある.
そうなると国内の治安維持や,諸外国との通商・外交関係を構築するのに非常に大きなコストが掛かるので,結局は大損なんて事になりかねない.
この辺はアフガンやイラクなんかを見ると理解しやすいかも.
というか,エリ8の作中でもそんな展開になってた気がする.
ただ,死の商人側から見れば治安の安定が目的じゃない事もあるしな.
武器商人的には,決め手がなく,首まで泥沼に嵌り込んだ消耗戦が一番おいしいだろうからな.
買わされる方や使わされる方は,たまったものじゃないだろうが.
けど,近所の問題国家が精々北朝鮮程度しかない日本で発売する漫画にしては,説明不足のような気がしないでもない.
●国をのっとる方法:
アメリカ式:
無理矢理選挙を行って,親米指導者を無理矢理勝たせる
または
政権に不満のある軍部を裏から支援して,クーデターを起こさせ,現政権には自国への亡命を保証する
中南米の国へやってたのはほとんどこれ.
チリみたいに相手が亡命の保証を断って,玉砕しちまう例もあるが・・・.
ロシア式:
傀儡政権を自前で用意して,軍事侵攻後に「その政権が軍事支援を要請した」と言い張る
中国式:
とにかく旧政府関係者はぬっ殺し,「自治政府」を丸ごと中央から送り込む
住民もドンドン送り込む
大英帝国式:
ローカル指導者を買収,軍事力を背景にしてそいつを王座に就ける
結婚式:
弱小国の首長と婚姻関係を結び,その婚姻関係をたてにして王権を奪う
ねじ式:
他にやり方がないと思わせることにより,客観的に見れば異常な解決案をねじ込む
軍事板,2009/09/04(金)〜09/05(土)
青文字:加筆改修部分
なお,回答では,バンバラの大統領とブラシアの大統領とが混同されていました――既に修正済み――が,家庭的云々の描写があったのはバンバラの大統領で,ブラシアの大統領はそんな描写もなく,クーデターでいきなり死んでます.
劇中,バンバラはブラック・アフリカの国で,ブラシアはアスランの隣国(中東,イスラエル付近)です.
ブラシアを如何扱うかの描写は特にありませんでしたが,アスランに併合かなにかする予定だったっぽいです.
バンバラは結局,以下の流れ.
大統領一家の身辺警護に傭兵をやとう.
↓
傭兵が大統領一家を殺したことにする
↓
傭兵は公開縛り首
↓
内務大臣が大統領の意思を引き継いで,次代大統領となる
殺された大統領は独立運動の英雄で,国民からは神聖視されていた模様.
クーデターが起こるというような話はありましたが,結局,大騒動はおきていません.
あと,内務大臣つうのは闇の陰謀団のひも付きです.
クーデターも闇の陰謀団が引きこす予定だったのですが,金がなくて止めたらしい.
闇の陰謀団は,バンバラのダイヤとウランが目当てだったそうで.
ゆきかぜまる in 「軍事板常見問題 mixi支隊」
2009年10月30日&11月01日
青文字:加筆改修部分
ブラシアの描写はこんな感じです.
捕まえた傍から即刻処刑したという感じですね.
ナオ in 「軍事板常見問題 mixi支隊」,2009年11月02日 00:26
あの漫画じゃ,大統領は家庭的ないい人的に描写されてたけど,ちょっと裏を読むと,国家予算をがっぽがっぽ横領しつつ,インフラ整備などの国家運営には関心がまるでない,典型的な駄目大統領という設定が裏でされてるのがよく分かる.
助けてもらったお礼に,と主人公に渡した「個人資産」が数百億ドルある時点で,あの大統領が汚職や国家予算の着服を繰り返してたことは疑いないしなぁ…
そんなに金が余ってるんなら,軍や支配階層の掌握くらいやっとけよ,と.
北韓の場合,何だかんだいってもそういうことに抜かりないからね.
軍事板,2009/09/04(金)〜09/05(土)
青文字:加筆改修部分
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