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◆◆グローバリゼーションの影響
<◆戦略
<総記FAQ目次
グローバリゼーション概念図
(うそ)
『グローバリゼーション事典 地球社会を読み解く手引き』(A・ジョーンズ著,明石書店,2012/11/14)
『ワインで考えるグローバリゼーション』を読み解く (2012/11/10)◆「国際インテリジェンス機密ファイル」
【質問】
グローバル化の定義とは?
【回答】
「グローバル化で,世界はどう変わるのか」(ジョゼフ・S・ナイ,ジョン・D・ドナヒュー編集による<ガバナンスへの挑戦と展望 プロジェクト>による研究では,以下のように定義されている.
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グローバリズムとは,相互依存関係の網の目(ネットワーク)がいくつもの大陸にまたがって広がっている世界の状態を言う.
これらのネットワークは,資本や財,情報の考え方,人や力,環境や生物学に関連する物質(たとえば酸性雨や病原菌)の流れや影響によって繋がっている.
グローバリズムが拡大するのがグローバル化,縮小するのが反グローバル化だ.
相互依存と比べて,グローバリズムには二つの特徴がある.
(1) 複数の関係
グローバリズムは単なる一対一の繋がりではなく,つながりのネットワークを指している.
たとえば,「日米間の経済面や軍事面の相互依存」という言い方はできるが,「日米間のグローバリズム」とは言えない.
日米間の相互依存は現代のグローバリズムの一部だが,それ自体はグローバリズムではない.
(2) 距離
ある関係の網の目が「グローバル」とみなされるには,単なる地域のネットワークではなく,いくつもの大陸にわたる距離を伴っていなければならない.
距離は当然ながら連続型変数であり,隣同士(たとえば米国とカナダ)から,地球の反対側(たとえば英国とオーストラリア)までさまざまだ.
したがって,相互依存を「遠距離」と「地域内」に画然と分けることはできず,たとえば日本とインド,エジプトと南アフリカと言った,中間的な距離の関係をグローバルとするかどうか決めるのは意味のないことだ.
そうは言うものの,「グローバリズム」という言葉は,近隣の地域的な関係にはそぐわない.
距離が大々的に縮まるのがグローバル化(グローバリゼーション)である.
対照的な語に,「地方化(ローカリゼーション)」「国家的・全国的にすること(ナショナリゼーション)」「地域化(リージョナリゼーション)」がある.
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いくつか例を挙げてみよう.
イスラム教がアラビアからアジアを横断して,現在のインドネシアまで急速に普及したのは,グローバル化の明らかな例だが,ヒンズー教が最初にインド亜大陸に広まったときは,私たちの定義ではグローバル化ではない.
アジア太平洋経済協力会議(APEC)にはアジアとオーストラリアに加えて,アメリカ大陸の国々が参加しているので,APEC諸国間の関係は複数の大陸にまたがる相互依存だが,東南アジア諸国連合(ASEAN)は地域的なものだ.
グローバリズムは普遍性を意味しない.
2000年の時点で,米国は人口の25%がインターネットを利用していたが,南アジアでは0.01%にとどまっていた.
現在,世界の大半の人が電話を持っておらず,何億もの人が,世界市場や世界的な情報の流れとはほとんど無縁の辺鄙な農村で暮らしている.
グローバル化は多くの点で貧富の差を拡大させ,均質化や公平を意味するものではない.
(略)
統合された世界市場では,財や人や資本が自由に移動し,金利は同じになるはずだ.
しかし現状は,まったくそのようになっていない.
20世紀後半,世界の生産高と比べて世界貿易は二倍,海外直接投資は三倍の伸びを記録したが,今の英国とフランスの貿易生産高に対する貿易の比率)は,1913年のレベルよりわずかに拡大した程度で,日本はそれ以下である.
見方によっては,資本市場は20世紀初頭の方が統合されていたし,労働力の可動性は6000万人がヨーロッパから新世界へ渡った19世紀後半のほうが高かった.
社会的には,宗教的信条や他の基本的価値観の異なる人たちが接触したことによって,しばしば衝突が起こった.
こうした衝突の象徴ともいえるのが,イランのイスラム教原理主義者が米国を「大悪魔」と称したことと,1989年,天安門広場で民主化を要求する学生たちが,自由の女神像の複製を作ったことである.
明らかに,グローバル化は社会的にも経済的にも均質化をもたらすとは限らない.
---------------------------------「グローバル化で世界はどう変わるか」 14-16ページ
以下私見;
以上から「グローバル化」は保守よりも,むしろリベラル寄りの考えでありはするが,そこにイデオローグの入る隙間はなく,単なる「現象」と取られるのが適当かと思います.
グローバル化って,さも最近できたように言われているけど,実はWW1当時くらいからある言葉なんだよね.
ただ,定義が曖昧で単に「地球化」みたいに言われてたとは思う.
一つだけ言えるのは,「グローバル化」は単なる現象であって,そこにイデオローグはそもそも関係ない.
グローバル化は均質化を意味しないので,貧富の格差に関係するのは間違いないけど,それは「結果」なのであって,そもそもの意味合いとは違う.
グローバル化に功罪があるのは間違いないし,アメリカがよく言う「グローバルスタンダード」は自分達の都合のいいようなルールを押し付けるってのと意味合いは変わらんが,そもそもの意味とは違う.
まぁ,グローバルスタンダードにしたところで,そもそも「対等な関係」の経済的相互依存はありえない以上,どうしても「力が強いほうの意思が通りやすい」っていうのは確かだけどね.
ますたーあじあ in mixi,2009年08月24日23:14
【質問】
安全保障の考慮やグローバリゼーション,情報革命はどのように21世紀の世界政治に影響をもたらすのか?
【回答】
経済・政治・安全保障のネットワークは,国境を越えての結びつきが強くなっており,脱国家的な領域はますます広がってきている,
以下,1.安全保障 2.情報革命 3.グローバリゼーションの三つにそれぞれ回答をつけると.
1.安全保障の考慮について
9.11の例をみるように,国際的なテロリストは「非国家的主体」が,想像より遥かに安全保障の脅威であることを示している.
2.情報革命について
インターネットに代表される技術革新は,様々な影響を世界に及ぼしている,
以下,ナイ教授の文章を引用
「インターネットのような技術革新は,さまざまな効果を有している,
テロリストの破壊活動を利するためも,中国で民主主義的理念を広げるためにも,アジアやそれ以外の地域で経済交流を促進するためにも,さらには揺籃期の「地球市民社会」の源泉としても,用いることができるのである」
3.グローバリゼーションについて.
上記1.2.の例を見るように,現在は「グローバリゼーション」のネットワークが,過去のどの時代に比べても,お互いに深く結びついており,しかも,その伝達速度は,極めて早くなってきている.
詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授「国際紛争」(有斐閣,2005.4)序章を参照されたし.
ますたーあじあ in mixi
【質問】
では,現実主義者の言うような,均衡外交はやはり時代遅れではないのか?
【回答】
完全に時代遅れになったとは言い難い,
例えば,日本・アメリカ・中国それぞれの戦略的関係や,外交関係についての知識は,現在の東アジアを巡る国際政治の構造やプロセスを理解する必須の要素である.
詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授「国際紛争」(有斐閣,2005.4)序章を参照されたし.
【質問】
グローバリゼーションは,紛争にどんな影響を与えるか?
【回答】
功罪半ばする.
経済上のメリットという観点から,紛争より経済メリットを重視した妥協が行われ,戦争が回避されることもある.
しかし一方,グローバリゼーション・キャップを生み出し,貧困層はデマゴーグに引かれ易くなる.
以下引用.
〔資源を巡る〕このような3大要因――世界需要のあくなき増加,深刻な資源不足の表面化,所有権を巡る争いの拡大――は,国際システムに新たな緊張をもたらすことになるはずだ.
最初の2要因は,死活的に重要な資源を巡る国家間の争いを激化させ,第3の要因は摩擦と対立の新たな原因を生み出す.
さらに,これら3要因は互いに不安定性を増幅し合う関係にある.
資源消費が増えるにつれ,不足の表面化は早まり,各国の問題解決への圧力が高まる.
これにより各国は,係争下の資源に最大限の支配権を握ろうとするため,資源を共有する国家間の紛争の危険が高まることになる.
大半の場合,当時各国は交渉による解決を図るため,対立は暴力を伴うことなく解決される.
また,グローバル市場の力も,そうした解決を促す方向に作用する.戦争よりも妥協のほうが,経済的にメリットが大きいため,大半の国は合理的な配分が確保されれば,最大限の要求から退く道を選ぶのだ.
しかし,交渉と市場の力が,どんな場合にも機能するわけではない.
争われている資源が国家の存亡や経済の維持に関わる場合,妥協は問題外となる.
例えば,アメリカがペルシャ湾を敵対国の支配下に置かせたり,エジプトがスーダンやエチオピアにナイル川の水利権を握らせることは考えにくい.
こうした状況においては,常に国家の安全保障という観点が,交渉による解決――死活的に重要な国益の断念を伴う――よりも優先する.
グローバル市場の力にしても,紛争の可能性を高める方向にも働きうる.特に,係争下の資源が,多大な金銭的価値を持つと見なされ,当時各国が損失を受け入れようとしない場合がそうだ.
コンゴ民主共和国(旧ザイール)のケースが,これに当て嵌まるだろう.南部および西部の金と銅の鉱山の支配権を巡って,国内外の諸勢力が戦っているのである.
シエラレオネでも,同様の状況が長年続いている.こちらはダイヤモンドの鉱脈を巡る国内紛争だ.
この種の争いは,鉱物資源や油田の所有が,富の蓄積の唯一の現実的選択肢と見なされている,貧しい低開発国で生じることが多い.
資源を巡る国内紛争の危険は,多くの開発途上国における貧富の差の拡大――グローバル化によるところが多い――によって,さらに高まっている.
こうした国々では,豊かな層が生活の基本物資に事欠かないのに対し,底辺層は食糧や土地・住居・安全な飲料水といった,生活に不可欠なものを手に入れる事すら,ますます困難になっている.
供給が減って多くの物資の価格が上がる中,貧困層は更に絶望的な状況に陥り,反乱や民族分離を通じて苦しみからの解放を約束するデマゴーグ,原理主義者,過激派の主張に惹かれ易くなる.
「〔経済的〕競争力の分布は偏っている」と,米国家安全保障研究所は1999年に指摘している.「この構図が,勝者と敗者の『グローバリゼーション・ギャップ』という不安定要素を生み出している……敗者の指導者達は,経済的困難を外的要因や国内の異分子集団のせいにすることが多い.
失業や飢えから民心をそらすために,危機を煽る事もある」
(Michael T. Klare =「平和と世界安全保障に関する5大学研究プログラム」理事,
「世界資源戦争」,廣済堂出版,2002/1/7, P.42-44)
また,世界銀行によれば,グローバルな開発の進展は限界途上国(良好な経済成長を遂げて中所得国になる軌道に乗り損ね,一次産品輸出に依存したままの諸国)をほとんど素通りしてきており,換言すれば,グローバルな経済成長は確かに内戦の発生率を低下させつつあるものの,極めてむらがあり,平和な世界を確実なものとするには頼りにならないという.
詳しくは「戦乱下の開発政策」(シュプリンガー・フェアクラーク東京,2004/8/3),p.92-93を参照されたし.
【質問】
現在におけるグローバリゼーションとはどのようなものか?
【回答】
世界最大の相互依存ネットワークとして定義されてはいるものの,決して普遍性があるわけではない.
例えばアメリカでは21世紀初頭,既に国民の半数がインターネットを利用しているが,南アジアでは,人口の0.01%が利用しているに過ぎないし,そもそも,世界のほとんどの人たちは電話すら持っていない.
何億人もの人たちが,グローバリゼーションとはほとんど関わりのない辺境の村で農民として暮らしているし,グローバリゼーションが貧富の差を拡大しているのも事実で,これは決して均質化も平等化も意味しない.
さらに,先進国の間でも思っているよりグローバル化は進んでいないとナイ教授は指摘する.
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豊かな国の間でさえも,グローバリゼーションは見た目ほど進んではいない.
本当にグローバル化された世界市場とは,物,人,資本の自由な流れと,ほぼ共通の利子率を意味しよう.
実際には,まだまだそこまで到達していない.
たとえば,北米地域でさえ,その距離が同じで,かつ関税が最小であるも関わらず,トロントはシアトルよりもヴァンクーバーと10倍の貿易をしている.
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グローバリゼーションによって国の境にはますます隙間ができるだろうが,意味がなくなるというわけではない.
グローバリゼーションは,普遍的共同体を設立するものではないのである.
社会的には,宗教やイデオロギーなどが複雑的に絡み合って紛争が多く起こった.
中世の十字軍がその一例であるし,中東のイスラム原理主義者がアメリカを「グレート・サタン」と呼んでいるのも一つの例になる.
グローバリゼーションは,社会的にも経済的にも「均質化」をもたらすものではない.
今回のまとめ
・グローバリゼーションは「世界最大の相互依存ネットワーク」と定義されている.
・グローバル化は同質化・均質化をもたらすものではない.
・先進国の間でも,グローバリゼーションは思ったよりも進んでいない.
・グローバリゼーションは「世界連邦」や「世界共同体」のようなものの創立に寄与するものでも,影響を与えるものでもない.
詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.
【質問】
>・グローバリゼーションは「世界最大の相互依存ネットワーク」と定義されている.
これは,ナイ教授以外でもそのような定義なのでしょうか.
消耗戦争を第4次中東戦争と,レバノン紛争を第6次中東戦争と呼ぶ等,ナイ教授は一般的な定義からいささか外れた定義を使うことがあるので,疑問に思いました.
【回答】
基本的に「グローバリゼーション」は相互依存祖を深めるという意味合いが多いですね.
そもそも「グローバル化」自体,「人・物・金」を円滑に動かしていくということですから.
有斐閣Sシリーズの別の本から引用を
そして諸国家間の相互依存は,単にモノの交易だけでなく,カネの移動すなわち投資の顕増によって深化し,ヒトや情報やテクノロジーに網の目を広げ深めている.
国際関係のいわゆるグローバル化(グローバリゼーション)の進展である.
進藤栄一著『現在国際関係学』(2001.10),138ページより
【質問】
いまだに,数学の如き明確な定義はない,と言う理解でよろしいでしょうか?
(もっとも,国際政治における用語において,数学的明快さを持った定義なんぞ無かったと言われれば,その通りであると思いますが)
【回答】
ええ,仰るとおりで,国際政治の世界において,明確に定義されるものの方が少ないですね.
理由として,状況によって左右され,その時々の為政者が自分の都合のいいように使う場合もありますから.
ただ,一般的にはグローバル化と相互依存はセットで考えられています.
【質問】
グローバリゼーションとは世界経済とイコールで結ばれるものか?
【回答】
それはグローバリゼーションの一部にすぎない.
経済学者は一体と表現しているが,グローバリゼーションとは多元的なものであり,経済だけを示すものではない.
グローバリゼーションの中で最古のものは環境である,とナイ教授は述べている.
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たとえば,最初の天然痘の流行は紀元前1300年のエジプトで記録され,西暦49年に中国,700年後にヨーロッパに伝染し,1520年にアメリカ,1789年にはオーストラリアに達した.
ペストすなわち黒死病はアジアに起源があったが,14世紀のヨーロッパの人口の4分の1から3分の1を死滅させた.
15.16世紀には,ヨーロッパ人がアメリカに持ち込んだ病気で現地人の95%近くの命が奪われた.
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また,近年はそのスピードが驚異的な速度になっているようだ.
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1973年以降,それまで知られていなかった30の感染病が出現し,周辺の病気でも薬に抵抗力を持つ形態のものが地理的に広がってきた.
1980年代にAIDSが確認されてから20年の間に,世界中で2000万人がこれでなくなり,他に4000万人がこれに感染した.
2010年までにこれらの数字は倍増する.と見る専門家もある.
新たな地域への外国種の動植物相の拡大は,在来種を絶滅させてきたし,数年間数千億ドルの損害をもたらしている.
他方,環境グローバリゼーションのすべての影響が有害というわけではない.
たとえば,ヨーロッパもアジアも,ジャガイモやトウモロコシやトマトなど新世界の食物をもたらせることで利益を得たし,過去2,30年にわたって緑の革命による農業技術は世界中の貧農を助けてきた.
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まとめ
・[世界経済]はグローバリゼーションの一部に過ぎず,グローバリゼーションは多元的なものである.
・グローバリゼーションで最も古いものは病原菌である.
・病原菌の広まる速度は驚異的に上がっている.
詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.
【質問】
軍事的なグローバリゼーションとは?
【回答】
これについてはナイ教授の意見をそのまま引用する.
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軍事的グローバリゼーションとは,軍事力あるいは軍事力による脅威が用いられる相互依存のネットワークである.
20世紀の二つの世界大戦が,まさにこれを示している.
冷戦の間,米ソ間のグローバルな戦略的相互依存は深刻であり,充分に認識されていた.
それは世界にまたがる同盟を生みだしただけでなく,いずれの陣営も30分以内に相手陣営を大陸間弾道弾で破壊できる状況を作り出した.
冷戦の特徴は,その新しさにあったのではない.
それは,軍事的相互依存から生じる潜在的な紛争の規模と速度のとてつもなさにあったのである.
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これは,抑止力の概念(バランス・オブ・パワーに従っての)を理解するのに分かりやすいだろうと思う.
私見だが,互いの兵器があまりにも破滅的な威力を持つがために,お互いの直接的な対峙が避けられたということより,それは核兵器という「使えない兵器」によってもたらされたんだろう.
ただし,この「バランス・オブ・パワー」も平和維持の一手段に過ぎず,万能ではありえない.
詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.
【質問】
社会的グローバリゼーションとは?
【回答】
人や文化,思想が拡散し,国境を越えて行く事.
「移住」などはこの「社会的グローバリゼーション」に当る.
19世紀には,すでに8000万人の人たちが海を越えて新天地に渡った,
これは20世紀よりもはるかに多かった.
21世紀初頭には,3200万人のアメリカ居住者(人口の11.5%にあたる)は外国生まれだし,毎年3000万人の学生・ビジネスマン・旅行者がアメリカに入国している.
また,思想の拡散も,グローバリゼーションの一部であるとナイ教授は指摘する.
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思想も社会的グローバリゼーションのもう一つの重要な形である.
世界の四大宗教である仏教,ユダヤ教,イスラム教は,科学的思考法と世界観が過去数世紀そうであったように,過去2000年に渡り長い距離を越えて広がってきた.
(社会的グローバリゼーションの一部である)政治的グローバリゼーションは,立憲制の広がり,民主主義国家へ移行する国家数の増加,国際的規則や制度の発展などに表れている.
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また「国際社会」や「国際的な組織」を軽視する人々に対しては以下のように反論している.
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国際的コミュニティについて語ることなど意味がないと考える人々は,19世紀の奴隷制反対運動,第二次世界大戦後の反植民地主義,今日の環境運動やフェミニズム運動のような政治思想のグローバルな広がりの重要性を無視している.
もちろん世界は,一族や部族,国家への忠誠心をグローバルな共同体が取って代わるような状態にはほど遠いが,このような脱国家的な政治理念は,諸国が国家目標を構成し,ソフト・パワーを行使するに際して影響を及ぼしている.
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まとめ
・社会的グローバリゼーションには「移住」や「政治」といった要素がある.
・国際組織について過信することも,過小評価することも共に間違いであり,脱国家的政治理念は,ソフト・パワーを行使する際に影響を与える.
詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.
【質問】
すでに20世紀前半には,グローバル化という言葉は存在していたはずだが,21世紀におけるグローバリゼーションはそれと何が違うのか?
【回答】
その「素早さ」(輸送のみならず情報の伝達速度)と「深さ」(お互いの結びつきの)が20世紀前半とは比べ物にならないほど大きい.
20世紀前半のグローバリゼーションは,ヨーロッパ帝国主義が政治機構の大半であり,輸送と情報の伝達コストが高かったため,他の文化圏に触れることができる人は限られていた.
しかし,いわゆる「情報革命」によって「より遠くへ,より早く,より安く,より深く」グローバル化が進行していると,コラムニストのトーマス・フリードマンなどは述べている.
経済学者は「ネットワー効果」(より多くの人たちが使うほどにその価値が高まる効果)という用語を用いている,インターネットがこの急速な変化をもたらしている.
これについて,ナイ教授は経済学者のジョセフ・スティグリッツ〔Joseph stigiltiz〕の意見を引用しながら以下のように述べている.
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知識を基盤にした経済には「強力な波及効果があって,しばしば爆発的に広がり,更なる発明を生みながら新開発の連鎖反応を引き起こす・・・.
しかし知識と比べて,製品はつねに爆発的に広がるわけではない」と主張する.
さらに,相互依存がより厚みを増し,より早くなればなるほど,さまざまな異なるネットワーク間の相互連絡がますます高まるのである.
その結果,システムの一部分における小さな撹乱が全体にあっという間に広がるという「システム効果」の重要性が増すのである.
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また,現在の対外政策は,このグローバリズムが厚くなることと無関係ではいられない,
相互依存のネットワーク密度が上昇することによって,ある地域の出来事や経済・環境などの諸問題が,他の地域での軍事的・社会的な問題に重要な影響を与える.
こうやって国際システムにおけるネットワークはますます複雑化する傾向にあり,この影響を予測するのはほとんど不可能である.
これについて,ナイ教授は以下のように述べている.
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そもそも,人間から構成されるシステムにおおいては,人々はまさに予測不可能な行動を取ることで,経済的社会的あるいは軍事的優位を得ようと,互いに出し抜こうと努めるものである.
結果として,グローバリゼーションには大きな不確実性が伴う.
一方で増大した複雑性と不確実性,他方では,自分たちのためにこれらますます複雑な相互結合システムを理解,操ろうとする政府,企業,その他による努力との間で,競合関係が生じる.
しばしば引き起こされる金融危機あるいは失業の急増は,相互依存の制限を求める大衆運動を促すかもしれない.
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また,情報の伝達速度の向上など「スピード」も大きな影響を与えると指摘している.
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スピードもまた,政策を形成する際に一層の不確実性と困難をもたらす.
上に述べたように,現在のグローバリゼーションは,その以前の形よりもずっと速いペースで稼動している.
天然痘が人間の生活するすべての大陸に広がり最終的に1775年にオーストラリアに達するのに,ほぼ3000年かかった.
エイズは,アフリカから全世界に広がるのに,30年足らずしかかからなかった.
本当のウィルスではないが,フィリピンのハッカーが発明した"love bug"コンピューター・ウィルスは,地球を駆け巡るのに3日しか必要としなかった.
3000年から30年へ,そして3日へ―それがグローバリゼーションの速度のものさしになる.
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今回のまとめ
・21世紀のグローバリゼーションとそれ以前の最大の差は,その速度と深さにある.
・グローバリゼーションの進行にともない,対外政策が複雑化してきている,そのため,とある地域の出来事が,全く別の地域に影響を与えることもある.
・グローバリゼーションは複雑化すればするほど「確実性」が上昇する.(より自体が複雑化する)
・スピードも20世紀に比べると驚異的な速度で情報や病原菌などが伝達している.
詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.
【質問】
グローバリゼーション=地球化と言われているが,それは世界共通の価値観や運営方法で進んでいるのか?
【回答】
いや,そうではなく,それぞれの国の特性がある.
先進国と呼ばれる国の間では,グローバル化はほぼ共通のものであり,それは技術・金融・情報の「民主化」と呼ばれるものにより発達してきた.
(ただし,それは「金次第」という側面もある)
だが,その特性はさまざまである.
韓国や,東ヨーロッパといった民主化しつつある資本主義国家は,先進国の成功例を模倣しているが,国によっては独特の方法でグローバル化を適用していっている.
これについて,ナイ教授はオランダとスカンディナビアなどの例を挙げている.
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たとえば,オランダやスカンディナビアのようは小さなヨーロッパ諸国は比較的大きな政府を維持し,不利なセクターのために補償を重視してきた.
他方,英米系の産業国家は概して,市場,競争,規制緩和を強調する.
資本主義は決して単一ではなく,ヨーロッパ,日本,米国の間にかなりの違いがある.
グローバル市場に対応し,資本主義経済を経営する方法は一つではないのである.
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また,グローバル化に対抗する勢力も存在する.
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イラン,アフガニスタン,スーダンのような社会では,保守派がグローバリゼーションに対し強硬かつ暴力的にさえ抵抗してきた.
グローバリゼーションへの反動は,原理主義を刺激し助長する.
国内の制度と分裂――経済的またはエスニックな――は,国内紛争を招きかねないが,それは深遠かつしばしば予期しがたい方法で,エスニック・政治的アイデンティティを再構成することがある.
ボスニアでは政治指導者は,都市部で発展しつつあったコスモポリタン〔世界市民主義者〕的なアイデンティティを圧倒し解体すべく,農村部での伝統的なアイデンティティに訴え,破局的な帰結をもたらした.
イランでは,イスラム原理主義と,ムスリム〔イスラム教徒〕だが西洋思想により理解を示す,よりリベラルな反対派との間で闘争が続いてきた.
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20世紀の前半には,不平等の拡大(いわゆる,ブルジョワジーとプロレタリアート)によって,グローバリゼーションの波はせき止められた.
また,WW1以前の半世紀のように,最近のグローバリゼーションも国家間や国内で,不平等の増大,つまり格差の拡大と連動してきた.
最も裕福な国に住んでいる,20%の人たちの収入と,最貧国と言われる国に住む人たちの20%の収入の差は,1960年の30対1から,1997年の74対1に増大している.
過去の例を挙げると,1870年と1913年で同様のケースだと,7対1から11対1に増大していた.
これについて,ナイ教授は以下のように分析している.
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いずれにせよ,不平等は,仮にそれが増大していなくても,政治的影響を持ちうる.
「その結果は多くの怒れる若者である.新しい情報技術は彼らが生活する社会の安定を損ない,富裕層の国の社会的安定を損なう手段さえも,彼らにもたらす.」
情報流通が増加するにつれて,人々は不平等にますます気づき,その結果,抵抗するものが出てきても驚くにはあたらない.
不平等のこうした変化に伴う政治的帰結は複雑ではあるが,経済史家カール・ポランニー(Karl Polanyi)は古典的な研究『大転換』の中で,19世紀の産業革命とグローバリゼーションによって,開放された市場の力は,単に巨大な経済的利益を生み出すだけでなく,深刻な社会的混乱と政治的反発を生み出したということを強く主張した.
不平等と政治的反発の間に自動的な関係は存在しないが,前者が後者をもたらすことはありうる.
とりわけ,不平等が人々から仕事を奪う金融危機と景気後退のような不安定と結びつくなら,このような反発は,ついには世界経済のグローバル化の速度を制約することにつながりうる.
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<今回のまとめ>
・グローバリゼーションは,国や地域よって,いろいろな適応方法が取られている.
・グローバリゼーションに反発する勢力も当然のことながら存在する.
・グローバリゼーションは「格差」の問題を必然的に抱え込む
・それによって生じた「不平等」は政治的影響をさまざまにもたらしている.
詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.
【質問】
グローバリゼーションに対する反抗は,何によって拡大しているのか?
【回答】
部分的には,相互依存が進んでいることへの「変化への反発」,経済学から見れば,国際市場の不完全性がもたらす「有益な非効率」が原因とされている.
また,あまりにもグローバル化が進むと,政治的な変化を遅らせて,矛盾を緩和してしまうところにある.
さらに,経済的な相互依存が,政治的な非効率を取り除いてしまうと,経済的成功が政治的大問題を引きこしかねないし(政治的な問題点が「経済の成功」でスルーされてしまう),グローバルなネットワークは複雑になればなるほど,摩擦を引き起こす原因になりかねない.
ナイ教授は以下のような意見を述べている.
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WTO[世界貿易機関]で論争となった,貿易や環境のさまざまな事例に注目するといい.
経済的相互依存は,利益とともに政治的問題を生み出しうるのである.
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ぶっちゃけ,普通の人でグローバル化に反発しているのは「変化への反発」だろうと思う.
「格差の拡大」やら「貧富の差」なんかは,グローバル化の「事象の一つ」かもしれないが,「原因」とは思えない.
なぜなら,グローバル化が始まる前からそれらは存在していたから.
詳しくは,ジョゼフ・S・ナイ教授『国際紛争』(有斐閣,2005.4),第7章を参照されたし.
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