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◆戦史総記
<戦史FAQ目次
(画像掲示板より引用)
【質問】
大学に行って日本史の勉強をしたいのですが,どこの大学がいいですか?
また,そこの大学に行くには,何の勉強をしたらいいですか.
中学生です.
【回答】
まずは本を読むことが大切.
関心のあるテーマについての研究書を,分かり易いものから読んでいくこと.
自分の興味のある所から,少しずつ深く,また広く他分野にも.
同時に,大手の出版社が出してる概説書で,おおまかに通史を把握しておくことが必要かと.
まあ,興味のある時代だけ読んでもいいんだけど,いちおう流れをつかんどいた方がいいからね.
まだ中学生だから,視野を拡げる意味で,いろんなもの(歴史関係以外も)を読むべし.
今の興味ある分野以外に,もっと強く興味を持つものが出てくるかも知れませんし.
僕は元々戦国史に興味があったけど,大学入ってから古代史に目覚めたので.
時間はあるから,今は自分の知識を広げることに頑張ってください.
研究書についてどんな本を読んだらいいのかは,学校の先生に聞いてもいいし,大きな図書館や歴史資料館に問い合わせるもよし.
本を読む以外にも,史跡や博物館などへ足を運んでみるのもいいね.
あと,ふだんの勉強も,自分のやりたいことと関係ないと思っても,人並みにはやったほうがいいです.
専門バカになってもしょうがないし,なにより高校,大学へと行くためには必要なので.
とりあえず受験のためには,全教科できるようになっとかないと.
地理は最低日本地理の地名や位置関係は把握してる方が良いでしょう.
大学の講義は,とりあえず概論→史料購読→演習という風にステップアップしていきますから,今のうちから深く詳しい知識を持ってなくても大丈夫だと思います.
また,個人的ですが,大学を選ぶ基準は3種類;
・学びたい学科・専門のある大学
・感銘を受けた・直接教わりたい教授のいる大学
・東京や京都の大学(近くに史料が豊富)
参考にしてみてください.
日本史板,2003/04/08
青文字:加筆改修部分
【質問】
歴史学を独学で修めるのにオススメの書って,挙げるの無理?
やっぱ歴史学は師匠がいないと,日本じゃダメなのかな.
最近は独力でいろんな資料を,国を超えて集められるようになったから,地道に論文かけたらいいなあと思うんだよね.
ちなみに応用物理学会と機械学会には論文出してるけど,人文系の学会や論文慣習は,オープン文書で読む以外全くわからんので,先達にご意見を伺いたいところ.
【回答】
歴史学者と対等の扱いを受けるには,独学じゃ難しい,
肩書きは作家か,せいぜい郷土史研究家になると思うぜ,ってのは置いておくとして.
岩波テキストの福井憲彦『歴史学入門』は,
歴史学の考え方,研究史概説みたいな本で,ノウハウ的な本ではないが最初に読むには,言葉が堅くなくて悪くない.
もうちょっと具体的なノウハウになると,加藤陽子のホームページが手軽なところ.
日本近代史中心にはなってるが,歴史学の演習授業の進め方,資料の探し方,卒論の書き方の手順など,いろいろまとまってる.
政治的にバランスが取れた戦争の歴史を書くってのも,ポイントだろうね.
http://www4.ocn.ne.jp/~aninoji/index.html
あと,理系論文を書いたことがあるなら,わざわざ読まなくてもいいかもしれないけど,木下是雄『レポートの組み立て方』(著者は『理科系の作文技術』の人ね)は,文系学部の一年の時に指定図書で読まされて,よくできてる本だと思った.
見出しの付け方みたいな構成の方法論,調査時のメモの作り方,参考文献の引用法,原稿用紙(今は関係ないなw)の使い方などなど.
自分のテーマが絞れてきたら,その時代・地域の文献学の教科書を探すと,それに則した史料批判のお作法がまとまった本が出てくるかもしれない.
関連研究やってる研究者のテキストや,大学で講座持ってるならそこの教科書とか,その辺から探してくと良いのが出てくるかもしれない.
日本史の歴史研究で古文書扱うようなら,杉浦克己『文献学』は放送大学の文献学の教科書で,まさか悪くない.
ただ,崩した文字の読み方の話で,いわゆる「史料批判」(厳密にはそのうちの内容批判)の華々しい部分ではないので注意.
そこまで掘らないで,テキスト情報の信頼性精査(内容批判)のことになると,戦前の本だが,今井登志喜『歴史学研究法』というのが東大出版会から今も出てる.
「江戸時代に成立した本を史料として日本史研究やることが危ないよ」
という実例を通し,史料批判一般論の参考書的にもよく使われてる本だと思う.
ついでに,数年前に俺がお世話になったサイト.
http://www.fukuoka-edu.ac.jp/~tamaki/soturon/soturon.htm
軍事板,2012/04/04(水)
青文字:加筆改修部分
学部生の時に歴史学の研究室に入ってたけど,史料批判の技術は教えてもらえなかった.
代わりに,先行研究をひたすら漁り,一次史料と照らし合わせることを教えてもらった.
そうすれば
1,先行研究を補強するもの
2,先行研究を否定するもの
3,先行研究の穴を埋めるもの
が見えてくる.
1と2は,論争を土台にするから組み立てやすい.
3は,野心的.
なるべく3を目指しなさいって言われた.
軍事板,2012/04/04(水)
青文字:加筆改修部分
【質問】
受験勉強に役立つ世界史の映画教えてください.
「トロイ」は観ました.
【回答】
アミスタッド(奴隷貿易),
トラトラトラ,
史上最大の作戦(第二次大戦),
博士の異常な愛情(冷戦),
アルジェの戦い(植民地戦争),
アマデウス(文化史),
フォレスト・ガンプ(アメリカ現代史の要点整理),
アメリカン・ヒストリーX(一応公民権運動かな?),
適当なゲバラ映画一本(たまにキューバ・ネタは来るので),
地獄の黙示録(ベトナム戦争),
ランボー1(ベトナム戦争後のアメリカ社会),
近現代史では上記辺りを薦めるけど,もし点数上がらなくても責任はとらない.
ウーゴ ◆eaYqa3SeLE in 世界史板
青文字:加筆改修部分
【質問】
純軍事的に,古代から現代までの戦闘のことを書いたものが読みたいのですが,何かお勧めはありませんか?
地図が豊富にあれば尚良いのですが.
【回答】
範囲が広いなあ.
入門的なので良いなら,
学研M文庫の世界戦史1,2.
学研の「戦略・戦術・兵器事典」シリーズ.
これに新紀元社の「オスプレイ・メンアットアームズ」シリーズや,どこだかの「戦争の起源」を組み合わせれば,現代以外は大ざっぱに理解できる.
軍事板,2002/09/23
青文字:加筆改修部分
図版メインなら,タイムズアトラスに世界歴史地図とかがあったし,図版を考えないなら世界戦争事典あたりかなぁ.
但し,めちゃんこ高いけど.
(福沢諭吉さんが集団で飛んでいくかも)
眠い人 ◆ikaJHtf2 :軍事板,2002/09/24
青文字:加筆改修部分
【質問】
最近,金属加工やら冶金やらに興味あるんだが,いまいち何読めばいいのかわからんのよね.
最新の技術というより技術史(?)が知りたいんだが…….
【回答】
技術文化史なら,ルートヴィヒ・ベックの『鉄の歴史』全17巻が金字塔.
大きな図書館にはあるはずだから,取り寄せも視野に入れれば,大抵の地域で読めると思う.
(俺の市の図書館にあって,ずいぶん世話になった.
製鉄製鋼の歴史だけじゃなくって,武器製造の歴史もけっこう詳しく書かれている)
東洋の鉄文化なら『中国の青銅と鉄の歴史』(北京鋼鉄学院編集部,慶友社,2011.1)がいいと思う.
古代中国の金属加工技術マジぱねぇ.
もっと軽いのから読みたければ,田口勇『鉄の歴史と化学』(裳華房,1988.7).
一般に興味を持たれるようなトピックを,膨らませる形で面白く読めるように書かれてる.
若干,古代への憧憬が強すぎるように感じたのが難点か.
近現代の日本なら,『現代日本産業発達史』の4が鉄鋼業.
技術史を学ぶにあたって,技術そのものを簡単に押さえておきたいなら,『図解入門
よくわかる最新「鉄」の基本と仕組み』が,内容的にも入手先的にもお手軽でいいんじゃないかな.
あと,日本の鉄鋼業は日本鉄鋼協会が熱心なこともあって,戦中戦後の業界動向がよく纏められた本が,何冊も出版されてるから,興味があればそっちも調べてみてもいいと思う.
軍事板,2011/02/26(土)
青文字:加筆改修部分
海軍製鋼技術物語(正続2巻) 堀川一男 アグネ技術センター
海軍装甲技術史 寺西英之 慶友社
現在,入手可能か判らんが,両方ともある程度,鉄鋼をそれなりのところで勉強していないと,理解が難しいかもしれない…
金属工学入門 西川精一 アグネ技術センター
金属工学全般の教科書的な内容をまとめた本だな.
軍事板,2011/02/27(日)
青文字:加筆改修部分
他に,検索してみた限りでは,
『はるか昔の鉄を追って イラストでみる「鉄の歴史」探偵団がゆく』(鈴木瑞穂文・イラスト,電気書院,2008.12)
中学生向けかも.
『鉄の時代史』(佐々木稔,雄山閣,2008.4)
【質問】
あんまはっきりした質問じゃないけど,アナバシスぐらい凄い,ローマか中国か近代ヨーロッパの本ってないの?
【回答】
『ガレー船徒刑囚の回想』
ジャン・マルテーユ
岩波文庫
1996.9
ルイ14世統治下のフランスで,宗教的理由から10数年に渡り,徒刑囚としてガレー船の漕ぎ手を勤めたプロテスタントの回想.
ガレー船の構造や生活が克明に記録されていて,特に戦闘の描写には圧倒されます.
当時の社会に付いても,興味深い事が色々と書かれています.
初めて読んだ時は,あまりに波瀾万丈過ぎて小説じゃないかと疑いましたが(笑)
実際,下手な海洋冒険小説より面白いかと.
また,「アナバシス」読んだのなら,トゥーキュディデース「戦史」とか,アッリアノス「アレクサンドロス大王東征記」とか,面白く読めると思うよ.
軍事板,2011/04/16(土)〜04/17(日)
青文字:加筆改修部分
【質問】
>草思社の救世主と言えば「銃・病原菌・鉄」
なんじゃ?,そりゃ.
題名から内容が想像できない.
【回答】
「銃・病原菌・鉄」知らないってマジか?
ここ数年の世界史本界隈じゃ,かなり話題になった本なんだが.
簡単に言うと,文明の興亡についての話.
西欧が他の地域を圧倒して発展した理由について述べてる.
なぜヨーロッパやアジアは発展できたのに,アフリカやアジア,オセアニアは発展できなかったのか?を,食糧生産や技術革新,生存環境やらをひっくるめて興亡を考察する.
それまで言われていたような,人種的・文化文明的な優越が勃興の原因ではなく,気候と植生(ひいては農業)の優位により発展し武器(銃・鉄)を獲得.
銃・鉄・ウマを持たない他の地域(主に新大陸)に対しては,意図する・しないに関わらず病原菌(代表として天然痘)が大いに猛威を振るったという話.
ある民族が同緯度で東西を移動する有利や,同経度で南北を移動する不利の考察も面白い.
論が正しいかどうかはともかく,読んでて面白い本ではあるぞ.
どっちかというと史料じゃなくて,資料を種にした本だけどね.
基にしてるのが植物種子の分析とかだし.
歴史学ではなく考古学・人類学寄りでは有る.
歴史学者には批判されてるらしい.
人間の選択や意志を軽視し過ぎているという批判.
その意味では,マクニールの『戦争の世界史』と合わせて読むと非常に面白いよ.
特にアジアの帝国での私有財産の在り方と,技術の発展の視点で.
軍事板,2010/05/20(木)〜2010/05/21(金)
青文字:加筆改修部分
▼ 最初の農耕と文明の発達部分に関して言えば,これも参考になると思います.
「しぃ助教授の世界史講義」(兵器史とは独立したシリーズです)
農耕と牧畜の開始
Fabius(KT) _ Felix in 「軍事板常見問題 mixi別館」
2010年06月02日 20:45
青文字:加筆改修部分
▲
【質問】
歴史小説として見た場合,司馬遼太郎作品はどうなの?
【回答】
近代戦争じゃなきゃいやという人はいいんだけど,秋山兄弟を主人公にして日露戦争を描いた『坂の上の雲』は名著.
既出の『けんけん録』で日清戦争をカバーした後,これを読むと良いと思われ.
日露戦争についていっぱしに語れるようになりますし,その後の日本軍の体たらくぶりには義憤を感じざるをえません.
初学者には最適.
あとは,『関ヶ原』はいいですよ.
戦争をするために,いかに徳川家康と石田光成が自分たちの正当性を確立していくために世論を形成していったか,ということが分ります.
戦争をするためには,という普遍性がきちんと描かれている.
あとは『項羽と劉邦』がいいですね.
軍隊をうまく運用するには,兵站を確保することがとんでもなく重要な意味をもつ.
これが原始的ですがそれゆえにリアルに認識できると思います.
「司馬遼太郎はでたらめ,うそっぱち」という批判があります.
確かにそういう一面もあるかもしれません.
『竜馬がゆく』では,その日には絶対会うはずのない桂小五郎と竜馬が,初めて出会うというシーンがあります.
だけど,擁護させてもらうなら,
「他の絶対に動かせない資料的史実は動かしていないのだから,その後のお話を盛り上げるための脚色は,許してくれたってええやないですか」
ということなんですよ.
みなさん,事実の間違いをひどくお嫌いになります.
それは,もしかしたら「何が事実かを自分で洗い出していこうとすることへの怠惰」であるかもしれないし,事実しか書いていない本を読むことが結局目的にするものは,他人と議論したときにうそだと指摘されたくない,という虚栄心か
もしれないじゃないですか.
僕は,あくまでも僕のルールでしかないけれど,他人に全部事実を言えなんてよう言えませんけどね.
間違いがあっても,自分を面白がらしてくれた小説家,作家には頭を下げたいです.
軍事板,2001/09/15
青文字:加筆改修部分
【質問】
鈴木眞哉が最近新書版の本をいろいろ出してますな.
既存の学説を否定する事に重点を置いているきらいがあって,何となく敬遠してしまうんだけど,読んでる人いる?
鉄砲と日本人は買ったけど,論証はしっかりしていると思う.
【回答】
いいと思うよ.
戦国より前の遠戦の主張には異議もあるようだが,それはよくある対立の話で,どちらかが明らかに間違ってるという話ではない.
ただ,本人の仕事は「鉄砲と日本人」で尽されている感がある.
別の本に資源を回すのがいいかも.
藤本正行「信長の戦国軍事学」や川合康「源平合戦の虚構を剥ぐ」は読んだ?
軍事板,2002/02/08
青文字:加筆改修部分
【質問】
アレクサンドロス大王とかの「大王」と「王」との使い分けは,何か明確な定義はあるのでしょうか?
あるとしたら大王の定義を教えてください.
【回答】
アレクサンドロス大王の「大」はMegas.
つまり「偉大な」アレクサンドロス王ということ.
ヨーロッパではこんな感じに,君主や傑出した人物に尊称や渾名をつけることが多い.
君主号自体が「大王」であるペルシア帝国などは別とすると,大王・大帝の基本条件は,「武力で領土を広げまくった人」.
アレクサンダーとか超典型.
明確な基準はなくて,習慣的なもの.
同時代から偉い王様だと思われてそう呼ばれていた,とか,後世にそう呼ばれるようになった,とか.
関係ないが「大教皇」というのも二人だけいて,うち片方は「口先八寸でアッティラ大王を追っ払った人」.
ペルシャ帝国の場合は,皇帝の称号がシャー・ハン・シャーで,訳すれば「王の中の王」「王達の上に君臨する王」という意味になる.
ゆえに王の上位者,すなわち大王.
とりあえず一民族のトップが王で,複数の民族の上に立つのが大王と思えば良いさ.
ペルシャ帝国は20の民族からなるんだってさ.
世界史板,2010/01/27(水)
青文字:加筆改修部分
【質問】
世界史上,一勢力によって最大の版図を治めたのはどの国家・勢力ですか?
本国・植民地・実質上の領域,すべてを含めたものでお願いします.
【回答】
過去の巨大帝国の面積や,都市人口の推定
第1位 大英帝国 35,500,000 km2 (1920年)
第2位 モンゴル 24,000,000 km2 (1309年)
第3位 ロシア/ソ連 22,800,000 km2 (1895年)
第4位 清/中国 14,700,000 km2 (1790年)
第5位 スペイン 13,700,000 km2 (1780年)
第6位 フランス 11,500,000 km2 (1946年)
第7位 イスラム 11,000,000 km2 (720年)
第8位 アメリカ 9,670,000 km2 (1899年)
第9位 匈奴 9,000,000 km2 (紀元前176年)
第10位 ポルトガル/ブラジル帝国 8,510,000
km2 (1889年)
第11位 漢 6,500,000 km2 (100年)
明 6,500,000 km2 (1450年)
第13位 突厥 6,000,000 km2 (557年)
第14位 アケメネス朝 5,500,000 km2 (紀元前500年)
第15位 唐 5,400,000 km2 (715年)
第16位 オスマン朝 5,200,000 km2 (1683年)
マケドニア 5,200,000 km2 (紀元前323年)
第18位 ローマ 5,000,000 km2 (117年)
第19位 吐蕃 4,600,000 km2 (800年)
第20位 ティムール 4,400,000 km2 (1405年)
やっぱり大英帝国らしいね.
【質問】
なぜ自虐史観だの自慢史観だのといったものが飛び交うのですか?
【回答】
普通の人々は誰も歴史を知らないし,知らないことを知らないからです.
普通の人々が歴史だと信じ込んでいるものは,歴史によく似た神話に過ぎないのです.
学校では細部まで詳しく教えられませんし,日常でも殆ど必要ではありませんから,大まかな流れしか知らない人が大半ですし,人によってはその大まかな流れさえ知りません.
そういう人たちが「歴史」だと思い込んで吸収する知識は,小説だったり,マンガだったり,映画だったり,週刊誌だったりします.
そこでは創作や思い込みが容易に入り込むので,史実と似ていても史実ではない「神話」を,「歴史」と取り違えて覚えてしまうことになります.
そのような思い込みを育てるのは世相であったり,アジテーションだったりします.
マイケル・イグナティエフ著『仁義なき戦場』では,旧ユーゴスラヴィアの内戦直前の状況について述べられていますが,当時,セルビア人の間では,史実に反してセルビア人の被害者意識を煽るような「神話」が,「歴史」として蔓延していたそうです.
セルビア人の当時の世相として,ユーゴスラビアでの優位が崩れるという危機感が,そのような神話を定着させることを可能にした背景にはあったそうです.
また,韓国在住歴の長い黒田勝弘は,韓国における様々な歴史歪曲例を挙げています.
これは政治的アジテーションが背景にあると考えられています.
その結果,「古代大韓帝国」のような妄想が教科書に載ったり,世論調査で半数近くが「朝鮮戦争は日本との戦争」と答えるような状況が生じているそうです.
このようなことは,どこの国でも起こりえることです.
アラブ諸国における事例は池内恵著『現在アラブの社会思想』を,アメリカにおける事例は町山智浩著『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』をご覧いただければ幸いです.
そのほかの地域については寡聞にして存じませんが,おそらくは大差ないでしょう.
一般的傾向として識字率が低ければ低いほど陰謀論がはびこる傾向にありますが,識字率の高い日本でもその例外ではないことは,例の田母神「論文」が示すとおりです.
ですから,せめて知らないことを知っておきましょう.
以上,中村うさぎ風に答えてみました.
……やはり,3行には収まらないなあ.
>……やはり,3行には収まらないなあ.
歴史上の出来事には,今の私たちから見て 『いいこと』 『わるいこと』 があり,自己の好む片方だけ見て,歴史を語ろうとするから.
綺麗な山も,反対側から見れば,採石場だったりするのです.
――では,ダメか? (w`;
ベタ藤原 in mixi, 2008年11月20日 23:02
>……やはり,3行には収まらないなあ.
学問と趣味の区別がついていないのです.
自分の考えていることこそがこの宇宙の真実だ!と勘違いすることが多い.
多くの場合,自分にとって小気味良い情報だけを取捨選択することで,偏った事象に至ってしまう.
実際問題,本当にこれまでの歴史研究を蔑ろにして議論するからな〜・・・・・・
歴史学者涙目,
あ,でも歴史学者にも似たようなやつはいるから,真っ当な歴史学者が涙目です.
葉月@ in mixi, 2008年11月21日 00:02
人間は分かりやすいフィクションを,現実に対しても求めてしまうからです.
以上.
クローム・ツァハル in mixi, 2008年11月21日 18:06
現代史学がイデオロギー闘争の戦場であった名残でしょう.
客観的・実証的であるよりも,戦闘性が高くヒステリックなものに,より価値があったわけで.
しまだ in mixi, 2008年11月21日 22:28
▼
――――――
「歴史とは,常にいいかげんなものだよ.
重要なのは
『真実をどうやって伝えるか』
ではなく,
『何を自分達の都合のいいように伝えるか』
だからね」
――――――『アリソン』(時雨沢恵一著,メディアワークス,2002.3),p.55
キスケ(希助) by mailform
▲
推奨する史観「子猫史観」
(画像掲示板より引用)
【質問】
中国軍や韓国軍の幹部候補生達は,きちんと戦史について学んでいるんでしょうか?
例えば共産軍が国民党軍よりも日中戦争で勝利に貢献した等の,プロパガンダを学ばされていたりはしないんでしょうか?
【回答】
プロパガンダを学んだ上で戦史は戦史として,戦訓は戦訓として学んで研究してる.
上の人がおちゃめして思想教育が吹き荒れる時期は別だけど.
中国なら大躍進や文化大革命,韓国なら前大統領の人事方針がそれに当たるな.
北朝鮮? 年がら年中思想教育だらけですが何か?
過去にはスターリンの大粛清のように,有能だからという理由で大量の軍人が殺される事もあったが,今では軍人はリアリストでないと出世できないぞ.
>共産軍が国民党軍よりも日中戦争で勝利に貢献した
これ,意外と否定できない.
つか国民党は,日本は皮膚病だが共産党は癌って方針だったので,中国が日本に抵抗できる体力があるうちに,共産党の芽を摘み取って,そのあと反攻する方針だった.
ただ,アメリカの支援を受けていたのは国民党だったので,日本軍に対抗するための火力の充実の面で見れば国民党だな.
軍事板
青文字:加筆改修部分
【質問】
「スレッジハンマー(Sledgehammer)」とはどういう意味なんでしょうか?
▼ 【回答】
仁川上陸作戦.
機動力の有る部隊と,重装備の部隊とで,敵軍を挟み撃ちにする様を形容している.
日本語では「金床と鉄槌」という訳が使われる.
世界の戦史で古くから見られる戦術を表した言葉.
(1)
両手で持って使う大槌.
http://store.shopping.yahoo.co.jp/kougu/ea642kl-6.html
(2)
WWIIにおける連合軍の作戦名.
ソビエトまたはドイツが崩壊した際に発動されるはずだった戦争計画.
フランスのシェルブールまたはブレストに侵攻し,ソビエトまたはドイツのうち,残された国が欧州に手出ししないよう牽制することを目的とした.
英国の反対にあったために,侵攻地点はアフリカ北部に変更され,ジムナスト(体操選手)作戦(後のトーチ[たいまつ]作戦)として実行された.
http://en.wikipedia.org/wiki/Operation_Sledgehammer
(3)
2007年,イラク戦争における米軍の作戦名.
サドル軍民兵の影響力を削ぐためにジャベラ(Jabella)の町で行われた武器などの捜索・押収活動.
http://en.wikipedia.org/wiki/Operation_Sledgehammer_(2007_Iraq)
(4)
アフガニスタン・ヘルマンド Helmand 州における,ISAFによる一連のタリバン掃討戦の一つ,Operation
Palk Wahel(パシュトゥン語)の英訳「スレッジハンマーの一撃」作戦.
Gereshk渓谷からタリバンを放逐することに成功した.
http://www.kojii.net/news/news070928.html
http://en.wikipedia.org/wiki/Helmand_province_campaign#Operation_Sledgehammer_Hit
(5)
米陸軍第3機械化歩兵師団第3旅団の愛称.
http://www.globalsecurity.org/military/agency/army/3id-3bde.htm
なお,朝鮮戦争における「スレッジハンマー作戦」というのは日本語だとちらほらあるのですが(ウィキペディア等),英語では朝鮮戦争関連ではまったく引っかからないです.
ハンマー違いなんじゃないかなあ.▲
たれ(黄文字部分) & バグってハニー in
「軍事板常見問題 mixi支隊」
青文字:加筆改修部分
【質問】
トランプの絵札のモデルは?
【回答】
スペード
キング:ダビデ王(古代イスラエル国王)
クイーン:バラス・アテナ(ギリシャ神話の戦いの女神)
ジャック:オジェ・ル・ダノワ(カール大帝の騎士)
ハート
キング:カール大帝(フランク国王)
クイーン:ユディト(ユダヤの女戦士またはカール大帝の子の妻)
ジャック:ラ・イル(ジャンヌ・ダルクの戦友)
ダイヤ
キング:カエサル(古代ローマの軍人,政治家)
クイーン:ラケル(旧約聖書のヤコブの妻)
ジャック:ヘクトル(トロイの王子)
クラブ
キング:アレキサンダー大王(マケドニア国王)
クイーン:アルジーヌ(シャルル7世の妻,アンジュー公女マリーまたは愛人のアニェ・ソレル)
ジャック:ランスロット(アーサー王に仕えた円卓の騎士の1人)
世界史板
青文字:加筆改修部分
【質問】
日本の戦国時代みたいな感じで,諸将が覇権をかけて戦った時代って,各国それぞれにありますよね?
その中でも,この国はこの時代の人気がある!って時代を教えて下さい.
例えば中国の三国時代みたいな感じで,イギリスは〜時代が人気がある〜みたいな.
【回答】
●中華
・隋末.各地に軍閥が勃興.魏が天下を獲ると目されたが,思わぬ不覚で崩壊.最終的に唐が生き残る.
「隋唐演義」という小説になっているが,小説のデキ自体はイマイチかも.
・元末.各地に軍閥が勃興.貧農出身の朱という男が郭子興の軍でノシ上がる.
郭軍閥を相続し,隣接の群雄を撃破・吸収.遂には強大な異民族の王権を追い払ってしまう.
また政治家としてはかなりの暴君でもあり,ネタとして面白い.漫画・銀河戦国群雄伝ライみたいな話.
この時代の適当な読み物は,あったかな…?
・『朱龍賦』って作品が元末明初の小説で,貧農出身の朱という男が主役の話.
朱という男の息子の永楽くんの話も面白いけど,小説になってるかは分からない.
●ブリタニア
・ばら戦争
●ガリア
・フランクの成長期.シャルルマーニュという興味深い人物が中心.
読み物で言えば,「ローランの歌」が絡む.叙事詩の方ではシュルルマーニュの周囲の人物たちが中心だが.
●西アジア
・モンゴル帝国崩壊期.ティムールがノシ上がる話.
適当な読み物は,ちょい思いつかんが.
●北アジア
・モンゴル勃興期.滅亡寸前の氏族から,テムジンという男がノシ上がり,周辺の各氏族を吸収していく.
有能な幼馴染で親友であったジャムカが宿敵に回るという数奇な流れも泣ける.
読み物で言えば,「蒼き狼」が適当かな.
●東南アジア
故郷を追われたならず者(出自の家柄は良いパラメスワラという人物だが,腹黒い)が,マレー半島に流れ着き,マラッカという港町を建設.
これが成長し,それまで東南アジアの中心都市だったパレンバンと抗争した挙句,経済の中枢の地位を奪うという七転び八起きな物語があるが,読み物のことはわからん.
●インド
ヒンドゥーの領主たちがイスラムの侵攻に抵抗し,最終的には征服されてしまうという悲劇調の叙事詩がある.
しかしこれは,後年のイギリスの植民地化に不満を抱いた執筆者が,過去のイスラム侵攻に対する抵抗勢力に想いを挿げ替えて書いたものとされる.
心情的にはイスラム侵攻当時を反映していないのでは?
●アラビア
アラブが歴史の表舞台に立つことになったイスラム勢力の勃興が,そのまま胸ときめく物語といえる.
ペルシアの従属的影響下にあったアラビアの一角にすぎない一地方都市で,預言を受けたと主張する男が出現する.
胡散臭い奴だと追い払われるが,亡命先で年上の妻の協力も得て力をつけ,軍事的にも故郷を奪回する.
周辺の都市国家を次々と併呑し,アラビアを統一.
さらには文化的も先進国だった宗主国ペルシア,文化揺籃の地エジプトをも呑み込んでゆく.
大体は,その宗教団体の教祖であるムハンマドの伝記そのものと重なる.
読む機会は多いはず.
世界史板
青文字:加筆改修部分
【質問】
明治以前の皇居や皇族の守護はどうなってたんですか?
中世や近代については高校の資料集に載ってたんですけど,近世にも禁衛府みたいなのあったんですかね?
【回答】
八瀬童子というのが居て(以下略
と言うのは冗談で,幕府から禁裏付と言う老中差配の役人が居て,その配下に御所の警備,公家衆の監督をする人間がいました.
また,上皇の警備に関しては,仙洞付と言う役人が担っています.
維新直前は,十津川郷士が禁裏の警備を行っていたこともありましたっけ.
京都所司代は,警備と言うより行政のような気がするのですが.
眠い人 ◆gQikaJHtf2
一応,平安時代から江戸時代末期まで,御所の守護は衛門府だったと思う.
http://www.sol.dti.ne.jp/~hiromi/kansei/o_fu_emon.html#Fu
http://www.sol.dti.ne.jp/~hiromi/kansei/o_fu_eji.html
京都所司代は京都市内の治安維持と宮廷の監視だから,ちょっと違うかと思う.
近衛府なんか江戸どころか平安時代中期には既に形骸化してる.
平安中期は検非違使,後期院政期は北面の武士西面の武士,
鎌倉時代は大番役,室町時代は禁裏五番,そして江戸時代は所司代.
要するに平安中期からずっと武士にやらせてたわけ.
今流行の外注だな.
幕末の京都だと,防衛と治安の最高責任者が禁裏御守衛総督.
軍事面から主に京都を守っていたのが京都守護職.
京都守護職の指揮下にある京都所司代と京都町奉行は,主に司法と治安維持を担当.
【質問】
日本で初めての全国政権ってどれになるの?
聖徳太子のころの大和王権って,蝦夷はともかく,東北も含めた全国の豪族を傘下に収めていたのでしょうか?
【回答】
どこまで征服すれば「全国」と言えるかの定義次第.
聖徳太子の頃だと,東は関東・越後あたり,西は北九州あたりまでか.
南九州は大隅国設置が713年,隼人の反乱が720年,
種子島・屋久島の大隅編入が824年.
東北は…東北の全豪族が傘下に入ったのは平安時代以降だな.
”全豪族”という縛りをつけないなら,飛鳥〜平安時代にかけて徐々に傘下に入れていった.
日本史板,2010/01/04(月)
青文字:加筆改修部分
【質問】
予備校の世界史の先生が
「アジアの小国日本が大国清,ロシアを倒した」
とある良く見る記述について,少なくとも7世紀から日本は,アジアの大国としての力と文明があったから,日本が清やロシアを倒したことは不思議ではないといい,モンゴルの侵略も2回防いだことにも,
「ベトナムとエジプトもモンゴルを破っているが,日本がモンゴルを破ったのと意味が違う.
国力がモンゴルや宋やアッバース朝,さらに元を上回って…」
といいます.
また,
「よく,植民地化を逃れたアジアア・フリカの国として,タイやネパールをあげるけど,タイやネパールが植民地にならなかったのと,日本が植民地にならなかったのは訳が違い,やはり西欧列強並みの国力が日本にあったから」といいます.
実際どうなんでしょうか?
【回答】
その先生おかしんじゃないかな?
エジプトのマムルーク朝は,独力でフラグの軍を破り,カリフを擁立してイスラムの盟主になったし,ベトナムもモンゴル軍を破り,むしろ追撃までしている.
植民地化について言えば,国力の有無と植民地化とは,必ずしも相関関係があるとは限らない.
ご指摘のネパールとタイは確かに植民地化を免れたけど,うまい外交政策の結果.
属領カンボジアとミャンマーをくれてやることにより,伝統的タイ民族の居住地域を保持.
ネパールはイギリスの宗主権を認めていない.
ネパールはグルカ戦争の結果,形式としてイギリスの宗主権を認めたが,王国としての自治は保たれた.
欧米諸国は機会主義で,日本は,明治政府が法制度や殖産興業など,何から何まで西欧諸国の真似事に走ったために,西欧化という名目で植民地化された他の轍を踏まずに,何とか逃げ切ったのだよ.
だから日本を過剰評価し,よその国を下に落とすのはどうかと思うな.
しかも先生がね.
日本史板
青文字:加筆改修部分
【質問】
軍事政権につていの質問.
自称歴史オタクの友人曰く
"「鎌倉幕府」から「大政奉還」まで,日本は軍事政権国家だったと色々なサイトに書かれているが,実際はクーデターで「幕府」がなくなって代わりに天皇中心(建前)の「地方軍事国家連立政権」になっただけで,軍事政権は先の大戦終了までが本当の歴史"
と言っていました.
これって現代日本史では主流意見なのでしょうか?
【回答】
国内に無数の小国が分立し,そのそれぞれが幕府とは別に武装していた体制が「軍事政権」ねえ.
つうか軍事政権という近代的な概念を,それ以前の体制に無理やり当てはめること自体がおかしい.
それを言ったら世界のたいていの君主制国家は,その発祥において軍事力を背景に主導権を掌握したわけだから,「軍事政権」ということになる.
軍事板
青文字:加筆改修部分
▼【珍説】
【質問】
日本国際ボランティアセンター著『NGOの選択』(めこん,2005.11.6),p.161に以下のように引用されている西嶋説とは,いったいどんなものですか?
――――――
日本は,東アジア世界から離脱して近代世界に参加することによって,その解体を積極的に進めたのである.
いわば日本は,東アジア世界が産み落とした鬼子であり,この鬼子は自己の母胎を食い破ることによって,東アジア世界を解体させながら,近代世界の一員となったのである.
――――――西嶋定生著「古代東アジア世界と日本」(岩波現代文庫)
西嶋説は歴史についての説明を試みているだけですか?
それともそこから理論を拡張して,現代日本と東アジアとの関係論についても踏み込んでおられますか?
西嶋説を引用している,『NGOの選択』の該当箇所では,以下のような論理展開がなされているのですが.
(1) 日本は東アジアの「鬼子」であり,日本の侵略の繰り返しの歴史が,戦後日本でもしばしば「負の遺産」として働いている
(この部分で西嶋説をも引用)
(2) 中でも朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との関係が著しく歪んでいる.【国名表現は原文ママ】
「遅れた,貧しい,専制的な東アジア」という偏見をもって日本は北朝鮮を見ている.
(3) その中で行われる北朝鮮への人道支援は,北朝鮮への日本不信と,日本の北朝鮮への敵意という困難さに直面している
(4) 市民レベルのNGO支援は,市民対市民の関係を作ることにより,(3)のようなステレオタイプを打破できる
(5) 東アジアのナショナリズムを克服するのは,(4)のような打破である
怪人ヒトデ・プーチン in 「軍事板常見問題 mixi支隊」
【事実】【回答】
……絶句.▲
ええと,近代日本の歴史を,そない単純に纏められるものなら,日本史の試験は誰でも満点を取れるでしょうね,としか…….
西嶋さんは政治的立場で言えば左だったけど,彼の古代東アジア世界論は東洋史の立場から広域史の中に日本を位置づけようとしたちゃんとした学説ですよ.
無論「ちゃんとした」ってのは,「どこにも間違いがない」という意味ではなくて,「学問的に検討に値する議論」という意味です.
彼の議論には提出当初からいろいろと批判も出されてますが,それは正常な学問の進展であって,珍説扱いするのはちょっと,いやかなりひどすぎます.
〔略〕
「鬼子」という語を,「日本鬼子」を意識して使ったかどうか分かりませが(私は「おにご・おにっこ」かと思った),「東アジア世界から離脱して近代世界に参加することによって,その解体を積極的に進めたのである」
という前段を踏まえれば,西嶋氏が言わんとすることの中身は,それほど奇異なものではないと思いますが.
要するに,アジアの中で日本一国のみが近代化を達成して,半島・大陸へと進出し,それまでの中国中心の地域秩序(対等な国家間関係は理念上存在しえない)の破壊を,欧米と一緒になって進めたってことでしょう.
「自己の母胎」という表現が,日本は自己の内的条件のみから成長して近代化していったのではなく,日本自身が周辺諸国を含んだ東アジア世界の中で,相互交流し自己形成してきたのだ,という西嶋氏の認識を示しているわけです.
これを,「東アジア世界」の方を主語にして単語を過激にすると,ああいう表現になったんではなかろうかと.
おちゃらけて言えば,
「ハルヒ作っちゃったよ! でもキョンがいないから世界が滅ぶ,長門は俺の嫁」
って感じでしょうか.
西嶋説(古代東アジア世界論,冊封体制論)は,隋唐の頃の東アジアの国際秩序をモデル化したものなのですが,キーワードである「冊封」や「朝貢」を媒介とした国家間関係が,表面上は日清修好条規まで続いちゃったために,ある種,非歴史的な理解になってしまう危険性を孕んでいて,近現代史にそのまま当てはめるとおかしなことになる部分があるのは確かですけど.
▼>西嶋説は歴史についての説明を試みているだけですか?
そうです.
但し,固有名詞が出てくるのはせいぜい太平洋戦争までですが,現代を視野に入れていないわけではありません.
> それともそこから理論を拡張して,現代日本と東アジアとの関係論についても踏み込んでおられますか?
触れていると言えなくもない部分もゼロではありませんが,一般論的なものです.
そもそも当該書籍(『NGOの選択』)が引用している,西嶋氏の元の文章は1975年に執筆されたものです
(一般向けの文章で,学術論文ではないことにも注意).
よって,この文章で「現代日本と東アジアとの関係論」に触れていたとしても,該書とはかなり文脈が違ってきます
(西嶋氏は1998年までご存命ですから,よその媒体で触れている可能性はありますが,それは措いておきます).
北朝鮮のキの字も出てきません.
(2)については,西嶋氏の該当論文をそういう目(例えば「日本を中傷する意図」ではないのか?という疑いの目)で読めば,そういう風に解釈できなくもない文章も無いではありません.
生産的とはとても思えませんが.
(3)以下は西嶋氏の文章とは無関係で,賛成反対はともかくとして,該書に即して理解すべきでしょう.
西嶋説は再々申したようにいろいろ批判もされてますが,いいこと・重要なこともたくさん書いてますので,岩波現代文庫は図書館でも備えているところが多いでしょうし,一読することをオススメします.
▲
【質問】
西嶋氏の専門は東アジアの古代史ですよね.
〔略〕
極東が抱える現在の問題に関して,彼の学問的業績はあまり参考にならんと思うのですが?
古代の世界観を現代に当てはめようとする時点で,珍説にしかならんと思うのですが?
【回答】
今月いっぱいは出張中で,ちゃんと原典に当たって答えられないのですが,西嶋氏の元々の専門は中国近代史です.
江南の綿業史が元々の専門です
(イギリスの綿業が産業革命の象徴だった時代).
そこから古代へとさかのぼっていったのです.
> 極東が抱える現在の問題
そりゃそうですし,私もそう書いたと思うのですが,歴史的な展開,すなわち日本はいつ中華王朝の主催する世界秩序から離脱したのかという問題もあるわけです
(もちろん天皇という称号の発明も含まれる).
そして近代人はしばしば,古代の状況(例えば聖徳太子の「対等」外交)なんかを敷衍して,日本は常に大陸との距離を保っていたと,国史と東アジア史を分離してはばからなかったわけです.
例えば遣唐使とか勘合貿易といった言葉を使って,かつては決して朝貢貿易とか言わなかったわけです.
そういった長期的な歴史のなかで,日本を東アジアに位置づけるという発想は,西嶋さんが嚆矢に近いと思います.
でもって私が何を言いたかったかというと,西嶋説におかしなところがあっても良いのですし,実際あるわけですが,それは正常な学問の進展であって,学問的成果を無視して好き放題言ってる,どこぞの自虐史観とか自慢史観みたいな珍説ではないということなのです.
【質問】
日本の歴史でナショナリズム意識が高まったのはいつの時代ですか?
【回答】
日露戦争のときの逸話ですが,出征する中国地方の兵士に
「何故戦争に行くのか?」
と問うと,
「三百年前の殿様の恥を雪ぐためだ」
と答えた例もあります.
徳冨蘆花が東京近郊の農村で村人に明治帝が崩御されたことを伝えると,村人は
「その人に子供はいるのか? 亭主に先立たれておかみさんはさぞかしたいへんであろう」
と,東郷大将を知っていた村人が天皇を知らないことに驚いた,と『蚯蚓の戯言』で述べています.
明治政府は維新後,国民に国家意識を浸透させようと,巡幸を繰り返すなど様様な手立てを行いますが,日本国民の多数が真の「ナショナリズム意識」を持つと言えるのは,詔勅の内容から鑑みても昭和初期のようです.と,専門外の漏れが戯れに言ってみる(苦笑
詳しい人,補足よろしく.
日本史板
青文字:加筆改修部分
【質問】
Wikipediaの「米」のページのところで
「米は,日本においては非常に特殊な意味を持ち,長らく税(租・あるいは年貢)として,またある地域の領主や,あるいは単に家の勢力を示す指標としても使われた.
これは同じ米を主食とする国でも,日本以外ではほとんど例がない」
と書いてあるのですが,他の米を主食とする国では農民は何で税を納めていたのでしょうか?
また,米が主食ではない国の農民はどうだったのでしょうか?
【回答】
単にそのWikipediaの解説が間違っている.
シャムのサクディナー制なんか身分の高下を田んぼの広さで表してるし,北タイのランナー王国は直訳すれば「100万の田んぼ」.
ベトナム語では食事と飯米は,日本の「ご飯」がそうであるように,同じ単語.
要するに「非常に特殊な意味を持ち」というのは程度問題であって,日本において特殊なら,タイやベトナムにとっても特殊.特殊さ加減の表現方法に違いがあるだけ.
支那では宋の時代に銀で納めるようになり,金銭での納税になったくらいで,大体,前近代では,農耕経済圏ではどこでも,その土地の主たる生産物で徴税・貢納が行われていた.
土地のみの価値の指標として穀物の収穫高を用いることも普通だった.
領土の大きさ・価値を示すときに,戸数・人口で表すことも多いが,これも間接的に食糧生産高に比例している.
米のとれるところが,支那で銭納になり,朝鮮は前近代では米のとれるところが少なく粟ばっかりだっし,ベンガル湾〜インドシナ方面をについてWikipediaに手を入れた人たちが単に無知だったからで,別に,米穀での徴税・貢納は珍しくもなんともなく.西はマダガスカルのメリナ王朝から,北は日本東はマリアナ諸島まで,前近代には広く存在していた.
世界史板
青文字:加筆改修部分
【質問】
領地持ちが武士や騎士でok?
平安時代のさぶらうものは武闘派でok?
【回答】
平安時代に軍隊が廃止になったから,自衛の為に郎党などを武装させてガードマンみたいな感じにしたのが,武士の起源.
後に便利な存在だからと,朝廷や貴族は警護に武士を採用.
番人として詰める事を侍(さぶらう)と呼んだのが転じて,武士の別称がサムライ(侍)となった.
また,厳密に言えば騎士も武士も,必ずしも領地持ちとは限らない.
封地の代わりに給金を貰ってる場合もある.
世界史板
青文字:加筆改修部分
【質問】
歴史上の有名な女騎士を探しています.
ジャンヌダルク以外で誰かいますかね?
この際,物語上の空想人物でも.
【回答】
中華に於ける主な女傑
殷の婦好(帚好)
晋の荀灌
東晋の朱序の母の韓氏
北魏の楊大眼の妻の潘氏
北魏の任城王元澄の母の孟氏
梁の馮宝の妻の洗夫人
唐の高祖(李淵)の三女の平陽公主
唐の燕国公李謹行の妻の劉氏
唐の飛狐県令の古元応の妻に高氏(徇忠県君)
唐の平州刺史鄒保英の妻の奚氏(誠節夫人)
唐の剣南西川節度使崔の妻の浣花夫人
南宋の韓世忠の妻の梁夫人
元初の民叛乱の首領の許夫人
馬復宗の妻の韓娥
林三の妻の唐賽児
明の田州土官岑猛の妻の瓦夫人
沈至緒の娘の沈雲英
南明永寧王世子の妃彭妃
李文成の妻の張氏
『嚢仙』と称された王嚢仙
太平天国の女将軍の洪宣嬌と楊二姑
紅軍の女将軍
李貞・賀子珍・李珊・烏蘭・郭長春・聶力
中国以外では……
呂母…知名度中
姓は呂,名前は不詳.
新朝に対する反乱軍である赤眉軍を創設した,軍運営者.
徴姉妹…知名度特大
徴側・徴弐の姉妹.
漢の支配下にあったベトナムで反乱を指導した,軍指導者.
ラクシュミー・バーイー…知名度大
領主の妻になっていた人.ついでに美人との評.
英国の支配下にあったインドで反乱を指導した,軍指導者.
甲斐姫…知名度小
後北条家に属する地方領主・成田氏長の娘.ついでに美人との評.
羽柴秀吉が主導する小田原の役で,父の留守中の城を守りきった,武芸達者の女傑.
ゼノビア…知名度中
古代の都市国家・パルミラの女王.ついでに美人との評.
亡命ギリシア人を参謀に抜擢すると自ら軍を指揮し,エジプトまで攻め込んだ,征服者.
※以下,物語上の女性武将
花木蘭…知名度中
隋末唐初の頃に転戦したとされる伝承上の人物.
質問者が抱く騎士のイメージに近いと思われる.ディズニー社も興味を持ち,アニメ映画化された.
シャ賽花…知名度中
実在の人物がモデルだが,楊家将演義という小説の中でかなりの脚色が施されている.
血族中心の半私兵の軍閥のような組織を支える.個々の武芸では,賽花以上の女傑も登場するが.
世界史板
青文字:加筆改修部分
▼ 上記回答に含まれて然るべき人物が抜けているので,追加を御願いいたします.
秦良玉:
字は貞素.明代末期の人.
三品官,四川総兵,都督僉事.明史の列伝第一百五十八に伝記あり.
中国史上唯一,正史に列伝を持つ女将軍であり,
「良玉為人饒胆智,善騎射,兼通詞翰,儀度嫺雅」(胆力,智謀に優れ騎射が得意であり,詞文にも通じ,また立ち振る舞いは優雅であった)
と称された文武両道,才色兼備の人物.
楊応龍の乱に,夫の石x宣撫使馬千乗とともに出陣.
これの鎮圧に尽力し,南川においては戦功一等とされる.
その後,夫の馬千乗が冤罪で獄死したため,彼女が石xの統治を引き継ぐこととなる.
対後金戦でも活躍し,また奢崇明の乱を鎮圧,羅汝才を撃破するなど,明朝のために戦い続けたが,「蜀碧」で有名な張献忠との戦いでは,用兵に関してフリーハンドの権限を得られず,また献策も受け入れられず,結果,張献忠に四川を制圧されることとなった.
後,南明の弘光帝に仕え,石xを保持して張献忠に対抗し続けた.
老衰によって死去.享年は74歳.
名無しルーデル神教教徒 in FAQ BBS,2011/9/20(火)
12:23
青文字:加筆改修部分
▲
【質問】
中世風ファンタジーを書いてるんですが,堅固な山城に千に満たぬ兵力で籠城し,万を越える大軍相手に半年粘るが,落城という状況は不自然でしょうか?
本編ではなくプロローグのみの描写で,『主人公の死んだ親父さん(城主)すげー』ってシーンなんですが,あまり荒唐無稽だとアレなんで.
【回答】
少なくとも城内に備蓄食糧の他,井戸が必要.
櫓を使い川から水を汲むのは妨害できるし,その例もある.
また,山腹に穴を掘って城の下に爆薬を仕込んで破壊,という手段も実際に試された例があるので,城が岩山の上にあってそれが困難,または事前に射線を遮る木を伐採してあった等の設定があると,説得力が増す.
樹木の少ない岩山の細い一本道の先に城があれば,重武装の敵兵は姿を曝したまま,一列に進んでくるしか無く,兵力の集中投入ができないまま弓や銃の狙撃により撃退できる.
ただし,水,食料,矢など備蓄が十分あれば理論上は無限に篭城できると思えるかも知れんが,実際問題として閉息され圧迫された環境は精神を酷く傷める上,殺人(同種殺し)は人間の本能が嫌悪する最大級のものだから,蓄積されるストレスを考えると,心身共に屈強な精鋭でも,戦力として維持できたのが半年というのは妥当.
むしろ千以下の少数集団である事を考えれば,後世に語り継がれる故事になるほど.
親父さんが中世(欧州?)の城主だという設定から,集めた兵力の平均練度や士気が低かったとしたら(地方豪族レベルで精鋭1000を常時維持とか無理),歴史上ちょっとした英雄になれるぐらい統率力ありすぎ.
マサダのように狂信者に近いほど熱心な信仰心を持った集団が,弾劾絶壁の要塞に守られてたとかならまだしも.
軍事板,2009/05/10(日)
青文字:加筆改修部分
▼ 日本においては,南北朝騒乱時の楠木正成なんかどうでしょ?
まさにそのものだと思いますが.
最初に篭城した赤坂城は陥落してますが,でも正成自身は生き延びてます.
で,糧食や武器の準備もそうですが,正成などがそうだったように,日本なら山の民や修験,中世の欧州なら山岳民や山間で生き延びている異端者や異教徒のネットワークを活用し,抗城側を苦しめぬいた,なんてエピソードを入れると,伏線にも使えるんじゃないでしょうか.
閻魔さくや,2009年07月03日 13:01
▲
▼ 堅固な山城であれば,入口が幅1mの階段しかないとか言うのも珍しくない.それ以外が断崖絶壁なら,搦手からの寄せも難しいから,寄せ手が万単位の頭数いても力攻めできない.
篭城側の数が少ない事は,食料や水の確保からはむしろ有利に働く.
篭城期間を決めるのは,どっちかと言うと
・寄せ手がどんだけ長期に渡って包囲を続ける余裕があるか
・篭城側に降伏しないモチベーションがあるか(宗教,民族が違って降伏したら全員殺される,援軍の来るアテがあるなど)
あたりかねえ.
篭城兵力は数千あったけど,西南戦争の熊本城がこれに近いような.
この場合も,「篭城側に援軍のくるアテがある」状況だったし.
緑川だむ,2009年07月04日 09:51
あ,「半年後に落城」か.
パターンとしては,食料が尽きたか,または身内から裏切り者が出たかだねえ( ・・)/
緑川だむ,2009年07月04日 09:53
ですね.
それと,外部との連絡も重要だったと思うのですよ.
おそらく戦国末期あたりの組織的大動員と,その維持ができるようになるまでは,包囲も結構ザルではなかったかと思われるので.
閻魔さくや,2009年07月04日 12:35
マサダ要塞
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%B5%E3%83%80
のお話なんかは,参考になりそうですね.>
篭城戦
極東の名無し三等兵,2009年07月04日 13:34
篭城側が雨露をしのぐ建物の中にいるのに比べて,どうしても寄せ手は露天で野営になりますから,消耗が激しくなる.
そうした点からも,包囲を続けるのは以外としんどいんですな.
大きな城を攻める時は,手前に前線基地として簡易な城を作る事もありますし.(秀吉の墨俣城なんかはこういう野戦築城の例)
緑川だむ,2009年07月05日 15:03
▲
【質問】
第1次・第2次大戦と,ボーンチャイナの関係について教えられたし.
【回答】
さて,骨を焼くと骨灰と骨炭が出来ます.
骨灰の主成分はハイドロキシアパタイトであり,これは生体の骨や歯の主要構成物として,最近では,歯磨き粉にも添加されていたりもします.
これは歯磨き粉に添加するだけでなく,文字通りの品物にも用いられています.
18世紀に英国で開発された磁器であるボーンチャイナがそれです.
Boneと名が付いているように,これは獣骨灰を磁土とカオリンに混ぜて焼成したものであり,乳白色で透光性に優れ,しかも衝撃に強いと言う特性を持っていて,日本でも高級洋食器に用いられています.
当初は種々の獣骨が用いられていましたが,酸化鉄が少なく白色に焼成出来るという点で,牛骨が適しているとされ,盛んに用いられています.
骨灰は焼成中1,000度で分解が始まり,ボーンチャイナ特有の反応を示すようになります.
なお,JIS規格に於いては,ボーンチャイナは30%以上の燐酸三カルシウムを含むものとされています.
英国では1749年に,ボウ窯のトーマス・フライと言う人が,初めて骨灰を用いた磁器の特許を取ったと言われ,更にStalk
on Torrentのスポード窯でもボーンチャイナが製造される様になり,骨灰と磁土を混ぜ合わせ,これに鉛釉をかける事によって,白色磁器の焼成に成功しました.
その後,Wedgwood,Royal Worcester,Royal
Clown Derby,Mintonを始め,英国の代表的な磁器として広く愛用されています.
元々,ボーンチャイナの起原というのは,15〜16世紀に欧州にもたらされるようになった中国磁器の素地の白さ,透光性,強度に優れた特性を模するものとして開発されました.
骨を利用するのに着目したのが何故かは伝わっていませんが,仮焼し,沸騰水で良く洗滌した羊骨を加熱すると透明なガラスになる事が古くから知られており,1670年頃にはボヘミアやシレジアでは,骨灰を使って乳白ガラスが作られていたと言われています.
日本では日本陶器(今の株式会社ノリタケカンパニーリミテド)が,1935年にボーンチャイナの製造を開始したのが始まりです.
元々,第一次大戦による欧州の疲弊に伴い,日本陶器はその隙間をついて欧米に盛んにディナーセットを輸出したのですが,1926年以降には欧州も持ち直してくると共に,米国ではヴィクトリアスチャイナの著しい進歩,更に世界に於ける日本の国際環境の悪化に伴って,日本商品が売れなくなってきた事から,独特且つ高級品を開発する必要が生じ,目を付けたのがボーンチャイナでした.
日本陶器では1932年から研究を開始します.
当初,骨灰の製造は屠場から牛骨を仕入れて工場内で焼成していました.
しかし,日本陶器の周辺は都市化が進み,悪臭の為,近隣から苦情が出た事から,東京八王子の人家の少ない場所を選んで,処理を依頼する事になりました.
その後,牛骨灰の処理,素地に於ける骨灰の割合,成形,釉薬の調合など数々の問題を解決して,1935年2月からいよいよ本格的に生産が開始されました.
当初は花生け,置物が製造されましたが,1938年からティーセットを大量に輸出し好評を得る事に成功し,その後注文が増加して,1939年には窯を増設するほどでした.
この原因は,英国の製品が,象牙品を模した薄クリーム色の落着いた光沢のものでしたが,日本陶器では,白色透明度の高いボーンチャイナを開発した為です.
白色度が高い方が一層高雅且つ色彩効果も上がり,優雅な乳白色,清純な透明性,艶麗な光沢,柔和な触感と芸術品の域に達しているとの評価を得たりしています.
但し,時代は第2次大戦に入っていく,そして,日本は経済制裁で輸出が困難な時代に突入していくので,その真価と技術は歴史の闇に埋もれるところでした.
日本陶器でも,特呂の部品などを生産することになり,一般陶器の生産が停止されていきましたが,ボーンチャイナだけは,1943年に技術保存の指定を受けたことから戦争中も生産が続けられ,戦後も装飾品から始めて,1970年代にはディナーセットの製造が急増しています.
このボーンチャイナに用いられる牛の骨は膝から踝までのものを用います.
その骨灰を生産する方法は,以下の通りです.
――――――
・脱脂を完全に行うと却って骨の成分を損なう為,簡単に煮沸する程度で釜に入れて焼く.
釜は窯業の一般的なものである.
・焼成時間は夕方から開始して2〜3時間で骨の中の脂肪が燃え尽きるまで焼く.
・脂肪が燃え尽きたら一旦火を消して,朝までそのまま置く.
・翌朝,1,200度の高温で焼き上げる.
――――――
焼き上げた骨は,冷めてから指で弾くと,チンチンと高い音がするようになります.
膝から踝までの部位は骨の密度が高く,これを高温で焼き上げると硬質の骨灰となる訳です.
これを粉砕したものが用いられましたが,骨を割った際に断面の全体が真っ白なものが良質で,焼き方に問題があると,真ん中が炭化して黒っぽくなります.
こうした骨の焼成には試行錯誤が続きましたが,2度焼きを行ったのは極めて偶然からだったそうな.
当初燃料に石炭を用いていたのですが,これを電気バーナーに切り替えた後のこと,ある日焼いている最中に停電があり,仕方がないので,復旧するまで途中で焼けたままにして放っておき,翌朝もう1度焼くと出来映えが良かった為に2度焼きを開始したと言います.
尤も,最近では,骨灰そのものを用いる事はありません.
1950年に東京工業試験所の伊藤亮と言う人が,ゼラチン製造工程中に生じる副産燐酸カルシウム化合物に石灰石を加えて強く焼き,ボーンチャイナの素地に配合する方法で特許を得ました.
これは骨を塩酸で処理してゼラチンを分離後,石灰乳を加えて沈殿させ,乾燥させたものです.
更に,1963年には磯野赳夫と言う人が,副産燐酸カルシウム化合物を1,000〜1,250度で軽く焼き,焼成第二燐酸カルシウムにしてから原料を配合し,素地焼成中に燐酸三カルシウムを合成すると言う方法を開発しています.
眠い人 ◆gQikaJHtf2,2010/03/22 20:46
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