c

「テロ別館」トップ・ページへ

「軍事板常見問題&良レス回収機構」准トップ・ページへ   サイト・マップへ

◆◆総記
<◆イスラーム過激原理主義 目次
テロリズムFAQ目次


◆◆総記


 【link】

「Guardian」:Somali pirate ransoms 'could fund terrorists'
『ソマリア海賊の身代金は『テロリストの資金源の可能性アリ』

「Guardian」◆(2010/04/12)US jihadi suspects 'set up' by police

「Jerusalem_Post」◆(2010/12/27)Package bomb found at Greek embassy in Italy

「The Hindu (India)」:Ties that bind: Lashkar and the global jihad(by Praveen Swami,12/12/2009)

「VOR」◆(2012/08/22)ロシアにムスリムのグラビア雑誌が登場

「VOR」◆(2012/08/26)第4回ロシア・イスラム聖職者評議会「イスラムのイメージ向上を」

「WP」:Suicide attack kills 3 outside Pakistani press club

「国際情報センター」:テロとの戦い(ソマリア)

「ザイーガ」:酸をかけられ顔面が崩壊してしまったパキスタン女性たちの写真

「タイの地元新聞を読む」:(2009/12/27)徴集兵,路上で職業訓練校生に射殺

「タイの地元新聞を読む」:(2009/12/28)年末年始期間中に首相を狙った暗殺計画が存在? 民主議員が明らかに

「タイの地元新聞を読む」:(2009/12/30)公安,首都圏郊外のショッピングセンターを狙った爆破を警告

「タイの地元新聞を読む」:(2009/12/30)南部の分離主義組織がバンコクで破壊活動を計画?

「中東の窓」◆(2012/09/08)シリアのテロ擁護国家への追加(カナダ)

「中東の窓」◆(2012/10/03)イスラム過激派の人質作戦(身代金)
>米国財務省のテロ対策及び財務情報次官補がベルリンで記者団に明らかにしたとのことで,イスラム過激派は過去10年で1億2000万ドルの身代金を集めたが,その中でも特に「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」が過去数年間で数千万ドル集めたと語ったとのことです

「中東の窓」◆(2012/10/11)法王のアラビア語による挨拶(キリスト教徒減少の危機感)

「日本語で読む中東メディア」:投降したアルジェリア武装集団の元指導者,武装活動への参加と離脱の理由についてアル・ハヤート紙に語る (al-Hayat紙)

「日本語で読む中東メディア」◆(2010/09/25)在仏イスラーム指導者らがニカーブ禁止法の順守を呼びかけ Al-Ahram紙

「ワールド&インテリジェンス」◆(2013/01/25) イスラム・テロの脅威は拡大しているのか

「ワールド&インテリジェンス」◆(2013/01/29) 日本人はイスラム過激派の標的ではない

●書籍

『イスラムのテロリスト』(黒井文太郎著著,講談社[新書],2001/10/20)

『グローバル・ジハード』(松本光弘著,講談社,2008.12)

『世界の宗教 知れば知るほど』(星川啓慈監修,実業之日本社,2006.5.31)

 「朋友にしてジャーナリストの金子貴一氏が共著で本を出した.
 今年に入ってから書き出し,4月まで執筆に没頭したということだ.
http://diary.jp.aol.com/v8puyc3tkc/34.html
 彼は執筆者2名のうちの一人で,実質,全体の四分の一を執筆している.
 無茶な本だが,よくぞまとめた,と敬意を表したい.
 世界三大宗教のキリスト教,イスラム教,仏教はもちろん,ヒンドゥー教,儒教に道教,神道,ゾロアスター教・・・と,268ページの本に概略概要,そして現代における状況が,コンパクトかつ図表など多用してわかりやすくまとめられている.
 特にイスラム教に関しては,金子氏で無ければ書けない「現状」のレポートもあり,読み応えがある.
 四半世紀,イスラーム世界ときっちり対峙し,最近ではアフガニスタンにもイラクにも,フリーのジャーナリストとして取材に赴いた,この彼だからこそこれが書ける,という部分もある.
 巻末にしっかりした索引がつき,各ページの下には「一口メモ」として様々な短い関連情報も添えられている.
 事典の類ではないので,あくまで概要概観ではあるが,これだけの多くの宗教の基礎情報を一冊の本でまとめてみると,突っ込んだ専門書とはまた違う視点で宗教を見られる.

 中身はみっちりつまっているから,1400円は実にオトクだと思う.是非一冊どうぞ.

―――アリーマ山口 in おきらく軍事研究会,平成18年(2006年)6月26日

『メディアのヴェール イスラム・スカーフ事件という誤った論争』書評
http://langue-fr.c.u-tokyo.ac.jp/resonances/resonances05/resonances2007_chronique_c.pdf


 【質問】
 なぜイスラームは現在も信徒数を増やし続けているのか?

 【回答】
 浅井信雄によれば,「出生率が高いから」というよりも,入信や改宗に儀式が極めて簡単なので,一向に解消されない現状に不満の人々が,決断へ誘われ易いからだろうと説明される,という.

 湾岸戦争後,米兵の間からイスラームへの改宗者が続出した事実がある.サウディアラビア政府の調査では,その数2500人以上に上り,それには佐官級から下級兵まで,白人も黒人もいる.
 ある改宗者は,
「教義の単純さと力強さに感銘した」
などと改宗動機を語っている.

(「アジア情勢を読む地図」,新潮文庫,2001/12/1,P.42-43,抜粋要約)


 【質問】
 イスラーム教が衰退する可能性はあるか?

 【回答】
 イスラーム学者,黒田壽郎はそれに否定的な,次のような見方を示している.

 元来,草の根の教えであるイスラームが,政治情勢の劣化が理由で衰退することは,先ずあり得ない.

 シャリーア実践の様態・度合いには多くのヴァラエティがある.
 しかし殆どの信者達は,内外の政治勢力の干渉にも関わらず,このシステムが自らを取り巻く社会的環境の持続可能な保全のために,何よりも有効であることを実感してきた.
 その現われはイスラーム世界において,ライフ・スタイルと大きく関わる私法の部分が,日本で言えば聖徳太子の時代以来,一貫してシャリーアであり続けている事実に,端的に示されているであろう.
 観点を変えて言うならば,シャリーアの無視はムスリムにとって,単に自分の宗教の放棄を意味するに留まらず,文化・社会的伝統の拒否に繋がるものなのである.

 ある社会の伝統的枠組が変化するためには最低300年を要するというのはブローデルの説であるが,それも他の文明によほど理想的なものが見出される場合の話である.
 経済力,軍事力の過度の寡占が信仰する中で,一般の草の根レヴェルの民衆の生活が,著しく荒廃していく様を目の当たりにしている人々が,今更宗旨変えするとは信じ難い.
 宗教としてのイスラームばかりではなく,イスラームの文化・社会的伝統も,ムスリムにとっては既に軽軽に否定し難いものとなっているのである.

( from 「だれでもわかるイスラーム」,河出書房新社,
2001/12/31, P.43-44,抜粋要約)

 ただし,この項目はイスラーム過激原理主義については別問題と考えるべきだろう.
 黒田はイスラーム過激派を本来のイスラームからは逸脱したものとしているからである.
 以下,黒田の文章より抜粋.

 彼ら〔アル・カーイダ〕にはイスラーム過激派という呼称が用いられているが,無辜の民間人を殺傷したという理由で,既に彼らはイスラーム国際法に照らして,イスラームの名に値しない存在なのである.
 オウム真理教の言動を持って仏教を推し量ることができないのと同様に,イスラームの名を騙った非イスラーム的言動によって,イスラームが語られてはならないのである.

(from 「だれでもわかるイスラーム」,河出書房新社,
2001/12/31, P.37,抜粋要約)

 カルト宗教的傾向を指摘する声は,他にもある.

 フランス人で,イスラム地域研究の代表的な研究者,仏国立科学センター主任研究員のオリビエ・ロワ(52)は,〔911実行犯の一人,モハメド・アタの遺書を〕こう見る.
「イスラム教の教義に基づいていることには間違いがない.
 ただ,やや妄想的・病理的で,あちこちからの思想を集めて自分なりに作り上げたイスラム,といった感じがします.
 カルト的性格が強い文書だという印象を受ける.
 例えばオウム真理教や中国の法輪功,フランスやスイス,カナダの太陽寺院教団といったような」
 ロワは,アタらの集団に窺えるカルト性を,自爆テロと家族との繋がりを例にとって説明する.
「パレスチナやカシミールでの自爆テロは『殉教』です.
 そこには祖国の解放という明確な論理があり,テロリストの家族達はみんな,彼らの行為を誇りに思っている.テロリストと家族との断絶はないのです.
 一方,ニューヨークで世界貿易センターに突っ込んだテロを,誰が誇りに思っていますか.モハメド・アタの父親は『自分の息子じゃない』と〔息子の犯行であることを〕必死に否定している.
 テロリストは家族と全く切り離されている」

(朝日新聞アタ取材班著「テロリストの軌跡 モハメド・アタを追う」,
草思社,2002/4/25,p.26-27)


 【質問】
 イスラームは,停滞と,移民先における貧困と失業をもたらしているのではないのか?

 【回答】
 常にそうとは限らないという.
 相対的に世俗化し,近代化したイスラム教国であるトルコやマレーシアは,少なくともイスラム教世界的停滞からは抜け出しており,また,米国のイスラム教徒は,その中位(メディアン)家庭所得は米国の平均家庭所得を上回っているからである.
 以下引用.

------------
 その第二は,当たり前のことですが,イスラム教が常に停滞と,移民先における貧困と失業をもたらすわけではない,ということです.
 相対的に世俗化し,近代化したイスラム教国であるトルコやマレーシアは,少なくともイスラム教世界的停滞からは抜け出していますし,米国のイスラム教徒は,貧困と失業どころか,その中位(メディアン)家庭所得は米国の平均家庭所得を上回っています.
 後者については,米国のイスラム教徒の半分以上が大卒以上なので,当然と言えば当然なのです.
 これは西欧諸国が単純労働者を移民として受け入れる政策をとったのに対し,米国の移民法は金持ち・高能力者・高学歴者を優遇しており,高等教育を受けに来たイスラム教徒の多くが帰国せずに米国にとどまり,帰化してきた,という経緯があるからです.
(以上,米国のイスラム教徒事情については,http://www.atimes.com/atimes/Front_Page/GK15Aa01.html(11月15日アクセス)による.)

------------太田述正コラム,2005/11/19

「週刊オブイェクト」●軍事評論家
の,太田述正に関するエントリを見ても分かるように,自己検証能力欠如という点において,太田個人の信頼性には問題があるようだが,これは元ソースが明確であり,その限りにおいては一定の信頼性があると思われる.

 他方,西欧諸国ではイスラーム移民が,地域住民と融合できず孤立化し,失業率も高くなる傾向が見られる.

------------
 ベルギーは労働力の不足を補うため,1960年代から70年代にかけ,モロッコやトルコから移民を受け入れてきた.
 しかし,彼らがベルギー社会に溶け込むのは容易ではなく,現在に至っても孤立したままだという.
 移民人口に関する確かな数字はないが,ブリュッセルの場合,人口の25%を占めるとみられている.
http://omoroid.blog103.fc2.com/blog-entry-405.html
------------
------------
 ドイツの人口は約8200万人.
 連邦統計局によるとドイツに住む外国人は約670万人(2008年)である.
 うち約220万人はイスラム圏からの移民で,トルコ人が63%を占める.
 さらにドイツに帰化したイスラム圏出身者は180万人いるから,総勢400万人がイスラム圏のルーツを持つことになる.
 全人口の約5%だ.
[中略]
 私はドイツ在住15年目になるが,大方のドイツ人は外国人に興味がなく,中には「外国人はドイツの税金で生活し,治安を悪くし,失業者を増やしている」と偏見を持っている人も少なくない.
 実際のところガストアルバイターは不況のさい真っ先に解雇の対象になるため失業率は高く,例えばトルコ人の26%に相当する44万人が生活保護をもらっている.
 これはドイツ人の8%,外国人全体の19%という数字にくらべて高い.
 ドイツ国営放送(ZDF)によると25%のドイツ人は外国人を嫌っている.
 移民はそれを感じ取り,ますますドイツ社会から逸脱するという悪循環がある.
http://webronza.asahi.com/global/2010120300004.html
------------
------------
 このニュースはスウェーデン南部にある第三都市,マルモの惨状を伝えるものだが,イスラム教徒の人口が急増するなか治安も悪化して,警察が手を焼いているというのだ.
 彼らはイラク,イラン,レバノン等中近東からの移民であるが,彼らの失業率は90%と高く,受け入れ国であるスウェーデンに対し,非常に不満が溜まっているという.
 彼らの居住区はゲットーと化し,警察のパトカーも1台では襲撃される恐れがあるため,2台1組となってパトロールすることが多いそうである.
 また,警察の護衛なしでは救急車が立ち入れない地区もあるという.

 スウェーデンの難民保護法は欧州でも最も寛大だといい,その結果,今ではマルモの人口25万人のうち,4人に1人はイスラム教徒となってしまった.
 難民たちは一旦定住すると伴侶,兄弟,祖父母など身内を呼び寄せるため,マルモは難民で溢れかえっているという.
http://omoroid.blog103.fc2.com/blog-entry-403.html
------------

 各国の事例を見るに,特定の宗教固有の問題というよりも,受け入れ・融合のノウハウが,未だ確立されていない点にあるように思われるのだが.


 【珍説】
 イスラム過激派の話題が出ると,「それはごく一部」とか,ユダヤやオウムのような他宗教の例を持ち出すのは,姑息で稚拙な話のすり替えであり,隠蔽に過ぎない.
 全世界のムスリムがこぞって過激派を支持している訳ではないが,英雄視する者も「一部」などでない.
 マレーシアでもジェマ・イスラミアがかなり勢いづいている有様だし,マハティール後のあの国もどうなる事やら.インドネシアでは7割の国民が「最も信頼できる指導者」にビン=ラーディンを挙げている.

 【事実】
 第一に,いわゆるイスラーム過激原理主義は,イスラーム原理主義とは似ても似つかぬもの.

 東洋英和女学院大学大学院の元教授でもある牟田口義郎先生の著「物語 中東の歴史」(中公新書)によれば,日本は,イスラム教にある「剣かコーランか」というイメージはウソであり,正しくは「剣かコーランか税金か」であって,イスラム教は本来は,異教徒や異文化に対して寛容な宗教だそうです.
 〔略〕
 その寛容の精神や人の生命を踏みにじるテロリストの行為は,単に自由主義諸国の敵であるというにとどまらず,本来はイスラムの精神を踏みにじったイスラムの敵なのだと思います.
 さらに,本来のイスラム教が寛容な宗教であるという点に鑑みれば,ここで「原理主義とは教典の本旨に立ち返ることである」と定義すれば,原理主義であればある程本来は寛容であるべきであるので,「自称:イスラム原理主義を名乗っている輩」は,実は「本来あるべきイスラム原理主義」から最も遠い存在であると思います.

http://homepage2.nifty.com/kamitaku/POL01111.HTM

 近現代イスラーム原理主義の代表的存在であるアフガーニーやシャリーアティー,バーキルッ=サドルなどの主張は,「イスラームは決して文明的進歩を妨げるものではない」であり,ビン=ラーディンらの過激原理思想とは大きく乖離する.

 第二に,イスラーム原理主義に対する支持も,決して高いとは言えない.
 過激原理主義支持は,その決して高いとは言えない支持の中のさらに一部.

 マターリした民衆的「イスラーム」では,結構土俗的なスーフィズムが人気があり,聖者崇拝(聖者廟参拝,そこでの病気治し祈願)などが盛ん.
 それに対し,西洋文明に圧迫されて危機感を持った,近代の頭でっかちの「ムスリム」が近代イスラム原理主義を作り出して,排他的・攻撃的思想を発達させた.
 後者は,前者の民衆的土着的イスラームのあり方を不純物として毛嫌いする.

 なんとなくムスリムはたくさんいる.
 イランでさえ多くの国民はなんとなくムスリムで酒も飲む.
 実際にイランに行けば分かるが,抜け穴がたくさんある.
 だからイスラム原理主義は,中近東の一般人からも嫌われやすい.

 クルアーンやイスラム法学の字義通りの解釈,純粋な神学的論理の貫徹に拘ると,原理主義的(ピューリタン的な)イスラムを「本当のイスラム」と思ってしまう.
 でも,実際のマターリしたイスラム世界の民衆人口の大部分は,そんな正確な教義よりも,子供の頃から慣れ親しんだその地方の習慣的信仰形態を「イスラーム」であると考えて素朴に伝統を継承している.
 理屈っぽい純粋理論的イスラームなど,実は歴史的にほとんど実在しなかった.

 例えて言えば,歴史の中で様々の要素と習合して土着化した仏教の姿と,高尚な哲学的仏教思想の違いみたいなもの.

 イスラムの問題は原理主義勢力が団結して政治権力に介入するので,政治を支配しやすくする構造があることだ.だから政教分離がされにくい.
 それが,現在のイスラム圏の近代化を拒んでいる最大の要因.

(宗教板)

 考古学者の吉村作治も,エジプト在住時の経験から,次のように述べている.

「エジプトにも前世紀からモスリム同胞団という,原イスラムに帰るべきだと主張する政治・宗教団体がある.
 サダト大統領を暗殺したのも,この集団に属していた連中だった.
 最近は,現政府転覆を画しているとして,公安関係者が市中に隠れている分子摘発を行っている.

 モスリム同胞団に属していたり,それに同情的な連中に共通しているのは,女性が黒装束に身を固め,顔もベールで覆ってさえいる点だ.男は顎鬚を反らず,数珠をいつも持ち歩き,ぶつぶつと口を絶えず動かしている人に多いのだと,公安関係の人が教えてくれた.
 そういう人達は,信心深くない人に会うと,
「アラーの恵みを忘れてはならない.
 さもないと,数年の内にこの世に天罰が下ります.
 堕落した現代社会と離別しなさい.テレビも冷蔵庫も捨て,信心の毎日を送り,貧しき人々に施しを与え,利益を追求することをおやめなさい.
 町から豚肉と酒を追放し,町の空気を洗浄しましょう」
と折伏して歩く.
 電話でアポイントを取り,車で相手の家に行って説教するので,清浄な人から嫌がられる.ともかく熱心に手当たり次第に折伏するのだ.

 毎年ハッジ(巡礼)に行って身を清めるのだそうだが,ハッジには飛行機で行き,向こうでは車に乗って,電灯の輝いているメッカの神殿に詣でる.
 なんのことはない.彼らが否定している現代社会に頼っているのだ.
「物質主義的資本主義を排し,中世的精神主義社会を再現しよう」
と言っているのが嘘々しいと,友人のエジプト人は批判的だ.

 この連中の一番怖いのは,自分達が一番正しいと考えていることで,彼らの多くは車を持ったりできる中産階級の人なのだ.
 政府や会社に勤め,上役や資本家に追従する事は,神の下,全ての人が平等というイスラームの教義に反する,今すぐ政府や企業を倒そうと言っているが,どうやって生活するのか言わない.

 そう言う彼らが,どこから収入を得ているのか不思議だ.おそらく部屋を外国人に貸したり,人を使って小さな工場を経営したり,商店を商っているのだろうが,これは全て利益を得ているわけで,彼らの理論と矛盾している.
 冷静なエジプト人は冷ややかに見ているが,色々と不満を持っている貧しい人達や純真無垢な青年を煽って,社会運動を嗾けている.
 彼らの目標は,外国人に媚びて利益を得ている同胞にある.この場合,外国人とはキリスト教徒であり,既に追い出したはずのユダヤ教徒も,イスラエルとの和平条約の後,エジプトに入ってきたので含まれる.
 しかし,第1のターゲットはエジプトのキリスト教徒である.
 具体的な攻撃材料は,クルアーンで禁じられているアルコールの飲用と豚肉の食用,贅沢な暮らしに集約されている.
 今のところは,外国人やその手先(彼らが言っているところの協力者)に暴力を振るうところまではいっていないが,いつどうなるか予断は許さないとする外国のジャーナリストもいる.

 昔から温厚な性格を持っているエジプト人は,特に外国人に優しい.クルアーンにも旅人を大切にするよう書かれているし,事情の分からない外国人が,多少の過ちを犯しても,許す寛容さがあるが,彼らにはそれがない.
 最近は外国系の企業やホテル,店に労働者として入り,法的違反を政府に密告したり,労働者を煽って騒動を起こしたりして,経営を困難にしようとしている.
 それが嵩じると,外国人誘拐やテロ,暗殺,政府転覆へと進むのだろうが,そんなことにはならないことを願う.イランの過ちを再びエジプトで見たくないものである」

(「美味しいアラビアンナイト」,KKベストセラーズ,1991/8/5, p.19-22)

 ヨルダン川西岸およびガザで1986年におこなわれた調査によれば,26%の人々がシャリーア(shari'a)にもとづく国家を希望.
また同地域での世論調査によれば,ハマースおよび他のイスラーム主義組織に対する支持は,1994年に23%だったのが,1996年から97年には13%ないし18%に低下.
(ただし,ビルザイト大学の世論調査で,アラファト議長の支持率は57%.ファタハの支持率は38%,ハマスは21%で,差は縮まっている.エルサレム・ポスト 2004/02/19)

 トルコで1999年におこなわれた調査によれば,21%の人々がシャリーア(shari'a)の実施に好意的.90年代半ばにおこなわれた複数の調査でも同様の結果.

 9カ国のムスリムを対象にした米ギャラップ社の2001年末の世論調査によれば,9月11日のテロ攻撃を道徳的に正当化できるとしたのは回答者の15%のみ.

TOTAL SAMPLE 10,004
Pakistan 2,043
Iran 1,501
Indonesia 1,050
Turkey 1,019
Lebanon 1,050
Morocco 1,000
Kuwait 790
Jordan 797
Saudi Arabia 754

Top → Gallup Polls Islamic World → how the Gallup Polls of Islamic World was Conducted
http://www.gallup.com/help/FAQs/answer.asp?ID=28

 イスラーム主義を掲げる候補者および政党の得票率は,バングラデシュ,パキスタン,タジキスタンで10%以下,エジプト,マレーシア,スーダン,チュニジア,トルコ,イエメンで25%以下.

 クウェートでは1999年に議席数の40%をイスラーム主義者が獲得.ヨルダンでは1989年に穏健なイスラーム主義者が議席数の43%を獲得,しかしその次の選挙では20%に減少.

 アルジェリアでは1991年にイスラーム救国戦線が国会選挙の第一段階で議席数の81%を獲得.第二段階でも勝利する勢いだったが,軍が選挙は無効であるとして戒厳令を発布.

Charles Kurzman, "Bin Laden and Other Thoroughly Modern Muslims"
http://www.asanet.org/pubs/kurzman.pdf

 9月11日のテロについては「道徳的に正当化される」が15%,「道徳的に正当化されない」が67%.標本誤差が±1%.
http://www.cnn.com/interactive/us/0202/gallup.muslim.opinion/content1.html

 インドネシアでは,「道徳的に正当化できる」と回答したのは4%.
Gallup, USA Today, CNN Polls Come Under Fire
http://www.muslimaccess.com/news/2002/cnn_polls_fire.asp

 なお,この統計の利用上の注意が,このページに.
http://www.ncpp.org/islamic_world.htm

 イスラーム過激原理主義者は,ムスリム社会は破壊されつつあり,自分たちは敵に包囲されていると宣伝している.例えば下記のHPを参照.

Al-Muhajiroun
http://www.almuhajiroun.com/

 非ムスリムが,危険なのはイスラーム教そのものだという偏見に基づき,イスラーム諸国に対する非友好的な外交政策を主張したり,ムスリムと見れば誰彼となく冷たく接したりすれば,過激原理主義者の思うつぼ.自由や民主主義を支持し,あるいは将来支持するであろう大多数の穏健なムスリム/ムスリマを,過激原理主義者の下へ追いやる結果としかならない.

宗教板他)


 【質問】
 90年代に入って,なぜイスラーム脅威論が台頭してきたのか?

 【回答】
 米国におけるイスラーム脅威論の種は,イラン革命の時に撒かれ,その後,サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」論によって,「イスラームvs西洋文明」という二項対立的な図式が体系化されました.
 以下引用.

 イスラーム過激派の多くは,
「堕落した文明」
「反イスラーム的な政府を世界中で支援している」
といった,自分達が作り上げてきたプリズムで米国を見ており,米国もまた,
「イスラーム原理主義=テロ」
「イスラームは脅威」
という,自分達が作り上げてきたイメージでイスラーム世界を見てきました.

 いずれも,相手を見るイメージは現実からかけ離れているのに,現実の国際政治では激しい対立を生み出しています.
 まさに,バーチャルな世界が現実を動かすという,21世紀的な状況にあるのです.

 米国におけるイスラーム脅威論の種は,イラン革命の時に撒かれたものです.
 エドワード・サイードは,イラン革命に関する米国の報道を詳細に検討,
「マスコミや政府,戦略専門家らは誰もが,イスラームは西洋文明への脅威だという立場に立っている」
と述べています.

 米国の保守派のコメンテーター,パトリック・ブキャナンは,1989年,
「隆盛しつつあるイスラームは,いずれ西洋を凌駕するだろう」
と,早くも「イスラームの脅威」を説いています.
 94年にワシントンで開かれた,「中東におけるイスラームの再興」と題するシンポジウムでは,保守派の中東学者ダニエル・パイプスが,
「イスラーム原理主義者の間には異なったイデオロギーがあるが,彼らは全て我々の文明を軽蔑している」
「原理主義者は米国に標準を合わせたネットワークを形成している」
と,「イスラームvs西洋文明」という対立構図を強調しました.
 この二項対立的な図式を体系化しようとしたのが,サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」論です.

 しかし94年の同じシンポジウムで,ジョージタウン大学のジョン・エスポジートは,イスラーム脅威論が現実をあまりに単純化しすぎていることを強く批判,個々の紛争を見ると,歴史的経緯・背景は異なっており,必ずしも宗教が対立の決定的原因となっているわけではないとの見方を示しています.

(立山良司〔中東現代政治専門家〕 from 「『新しい戦争』を知るための60のQ&A」,
新潮社,2001/11/15, p.164-166,抜粋要約)


 【質問】
 イスラーム過激派は,何故かくも「過激」なのか?

 【回答】
 『軍事研究』誌アナリストの黒井文太郎によれば,イスラーム過激派が「過激」な理由も,もっと複数の要因が働いているのではないか?という.
 テロリズムが先鋭化する地方には,似たような好戦的部族慣習が残されている場所が少なくないという.

 以下,抜粋要約.

 宗教がすべからく,ある種の排他性を持っていることは,古今東西共通することではある.
 そして,宗教が社会共同体の求心力の一つとなっている場所には,対立・衝突は珍しくないとも言える.
 それが「過激派」による暴力行為にまで行きついてしまった例も,インドのヒンズー教徒vsシーク教徒,北アイルランドのカトリックvsプロテスタントのように,世界では決して珍しくない.
 一般に思われているように,イスラーム過激派自身も,基本的には対キリスト教徒,対ユダヤ教徒との聖戦をしているという意識でいるのだろう.

 ただ,例えそれが殺意の源泉だったとしても,あれほどの熱情をテロに注ぐエネルギーというのは,やはり納得し難いものがある.
 イスラエルとの絶え間なき実戦により,現実に肉親を殺害された経験者の多いパレスチナを別とすれば,彼らはそれほどまでに「異教徒に蹂躙されている」と実感しているのだろうか?

 実は,イスラーム過激派以外にも,自爆テロを行ってきたテロ組織は世界にある.有名なところでは,スリランカの少数民族タミル人のゲリラ組織「タミル・イーラム解放の虎」と,トルコの左翼系クルド人組織「クルド労働者党」だ.
 彼らとイスラーム過激派の置かれた状況で,どこか共通したものがあるのだろうか?

 おそらく,イスラーム過激派が「過激」な理由も,もっと複数の要因が働いているのだと思う.
 何故なら,イスラーム教徒の殆どは「過激でない」からだ.
 イスラーム過激派が「過激」なのは,宗教だけが原因とは考えられない.

 一つだけ指摘しておきたい.

 エジプトのイスラーム・テロ組織に過激性を持ち込んだ要因の一つは,エジプト中南部に位置する上ナイル地方に古くから伝わる「血の復讐」の社会慣習である.
 ミニヤ,アシュートといったそれらの地域には,キリスト教の異端派と言われるコプト教の村が点在しており,昔から周囲のイスラーム教徒村と激しい抗争を繰り返してきた.
 氏族の団結が強く,「血の復讐」の慣習が根付いているのは,ソマリアやジブチ,イエメンの遊牧民族などとも共通する「アフリカの角」文化圏独特の民族性とも言えるだろうが,そこに宗教戦争の要素が加味された上ナイル地方では,過激原理主義あるいは宗教テロリズムは必然的に先鋭化する運命にあったのかもしれない.

 ムスリム同胞団の過激指導者サイード・クトブが,この地方の出身者だったことは,典型的な例だが,それ以降も,特に攻撃性の強いテロ・グループの多くが,やはり上ナイル地方を母体に生まれており,現在に至るもその傾向は変わっていない.
 中でも突出していたのが,アシュート出身の元ムスリム同胞団活動家シュクリ・ムスタファがミニヤで結成した「タクフィル・ワル・ヒジラ」だろう.
 現在のエジプトのイスラーム・テロ中核組織「イスラーム集団」も,70年代半ばにアシュートの学生組織として発足したものである.

 他にも,テロリズムが先鋭化する地方には,似たような好戦的部族慣習が残されている場所が少なくない.
 例えば,フィリピンのアブ・サヤフを構成するタウスグ族という部族は,その戦闘性から,近隣の他のイスラーム系住民からも恐れられている.
 チェチェンの戦闘的氏族集団は,ゲリラとなる以前,既にチェチェン・マフィアとしてロシア裏社会に君臨していた.
 ビン・ラーデンの下に集結したイスラーム義勇兵達が出会ったのは,アフ【ガ】ーニスタンのパシュトゥン人という,これまた「血の復讐」で知られる戦闘的部族である.
 こうした出会いが,アラブ人イスラーム義勇兵達に何らかの精神的影響を与えたと言うことはなかっただろうか?

 筆者〔黒田〕は,何も人種差別の考えに与するものではないが,ある民族社会には独特の好戦的慣習があり,それが紛争の底流に息づいているケースを,実際の取材現場を通してしばしば目撃してきている.
 もしも,宗教の殉教思想が,こうした「復讐主義」とシンクロしたなら,これはかなり『過激」にならざるを得ないことは言うまでもない.
 しかも,さらにそこに,従来の閉鎖的な部族社会が持たなかった「国際的な行動力」が加わったのだとしたら…….

 これが全てとは思えないが,少なくとも,彼らが「過激化」した一つの要因として,考えられることではないか,という気がしてならない.

「イスラムのテロリスト」,講談社,2001/10/20),p.24-25 & 189-191


 【質問】
 イスラーム過激原理主義を支持する人々は,なぜそうするのか?

 【回答】
 社会に対する不満のはけぐちになっているのではないかと思います.というのは,いくつかのイスラーム主義団体の主張を見てみますと,カリフ制というユートピアの説明にかなり力を入れているわけです.
 それに比べると,いまどういう政策をやるべきかという具体的な政策提言は非常に少ないか,まったくありません(下記のサイトを参照).

Al-Muhajiroun
http://www.almuhajiroun.com/
Hizb ut Tahrir
http://www.hizb-ut-tahrir.org/

 そういう主張をしている団体にひきつけられる人々は,生活上何らかの困難に直面しつつも具体的な解決策を見いだせず,閉塞感をもっている人々ではないかと思います.

 もっとも,上記のイスラーム主義団体はいずれも数カ国にまたがって活動している団体なので,各国の国内のイスラーム主義団体とは違うかもしれません.
 国内で選挙に参加していれば,支持層の分析などがおこなわれている可能性がありますが,わたしはまだまとまったものを見つけていません.

宗教板他)


+

 【質問】
 なぜ近代化に対して否定的な見解が存在するのか?

 【回答】
 日本の場合は植民地化されることもなく,近代性をある意味で純化して,しかも自分で取捨選択して取り入れたために,西洋近代をかなり美化して捉えていると思いますが,軍事的に征服されて植民地として支配されたほうは,そうはいきません.
 今,〔欧米の〕ダブル・スタンダードということがいわれていますが,植民地支配というのはダブル・スタンダードの権化のようなものです.
 自分達には人権を言いながら,植民地に対しては,遅れているからそんなものは要らないという.
 それを肌身で感じてきた人達は,手放しで近代は素晴らしいとは言いません.

(小杉泰=京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授 from「収縮する世界 閉塞する日本」,
日本放送出版協会,2001/12/25, p.183)


 【質問】
 イスラーム過激原理主義者と和解することはできないのか?

 【回答】
 彼らは自由民主主義を否定し,彼らの価値観以外の価値観を排斥しているため,非常に難しい.

 ビン=ラーデンの側近ナンバーワンのザワヒリ医師は,「神の主権論」の中で,「主権は唯一,神にあるものであり,立法は神の専権事項である.民主主義は,神から立法権を簒奪するものであり,また,そうすることによって人民を神格化している.まさに偶像崇拝だ」と述べている.
 彼ら〔アルカイダ〕のイスラム〔過激〕原理主義というのは,民主主義に対して決定的に敵対思想を持っている思想だから,我々は立ち上がらなければいけないんです.

(田久保忠衛 from 「反米論を撃つ」 恒文社21,'03,p. 137)

 ビンラディンやその仲間だけでなく,アメリカ国籍のイスラム〔過激原理主義〕教徒でさえ,アメリカ人は全員イスラム教に改宗すべきだと信じている.彼らのスポークスマンの一人,シラ・ワハジャは,代議院に招待され,初めてイスラム教の祈りを捧げる栄誉を得たが,ごく最近,
「アメリカに住むイスラム教徒は,現行の立憲政府に代わり,カリフを設置し,エミールを選出しなければならない」
と宣言している.

(J.-F. Revel「インチキな反米主義者,マヌケな親米主義者」,
アスキー・コミュニケーションズ,2003 May 10)

 ウサーマは,民主主義体制はムスリムにとって利益とならないと考えている.
 それを以下のように表現した.
「イスラームでは,『諮問(Shûrâ)』が重要であるが,『諮問』は,敬虔な賢人が支配者とならない限り,実現しない.
 議会は反イスラーム的な法を制定し,ラムジー・ユースフのような人物を米国へ引き渡す※.
 私の4人の息子は,米国の指示により,サウディアラビアで投獄された……民主主義は,ムスリムにとって何ら良い事がない※2」

 ※ パキスタン政府によって身柄拘束された後,ニューヨークのワールド・トレード・センター爆破に関する容疑で,米国にて裁判を受け,無期懲役に服役中.

 ※2 "Islamabad Pakistan, 18 May 1997"

(中村覚=サウディアラビア学者 from 「だれでもわかるイスラーム」,
河出書房新社,2001/12/31, P.97)

 一方,「過激」という言葉がつかないイスラーム原理主義者,アリー・シャリーアティーなどは,最初期のイスラーム共同体において,ムハンマドが合議制で物事を決めていた事を引き合いに出し,
「民主主義はイスラームの教えに叶うものだ」
としている.
 要は解釈次第,ということ.

 もちろん,他人は違う解釈だからと言って,その他人を爆破していい等とは,クルアーン(コーラン)のどこにも書かれていない.


 【質問】
 イスラーム過激原理主義テロは,貧困を撲滅すれば解決できるのか?

 【回答】
 貧困はテロの一因でしかなく,やり方によってはかえってテロを助長する可能性があるという指摘がある.
 以下引用.

 〔略〕
「社会的・経済的貧困が原理主義やテロを生み出す」
と言われるが,確かにイスラム社会やヒンドゥー社会は相変らず貧困で苦しみ,貧富格差は解消されず,それが一つの要因にはなっている.
 しかし,インドの例を見れば明らかだが,急激に経済成長が進んでいても,それが血縁社会・地域社会の解体をもたらし,宗教ナショナリズムの台頭を招いている.
 オウム真理教に入信し,テロに走った青年たちも,経済的に困窮していたわけではなく,一流大学を卒業したインテリが多くいた.
 それが麻原彰晃という人間にからめ捕られていった背景には,コミュニティの解体によるアイデンティティ不安があり,それはテロに走る中東の青年たちと同根なのだ.
 大きな社会変動の中で人々のアイデンティティが不安定化している状況が,今の宗教ナショナリズム台頭の背景にある.

 だから,「貧困がなくなれば原理主義やテロがなくなる」という発想は危険である.
 アメリカは経済復興を主眼に置いた対中等構想を持っているが,細心の注意が必要であることは言うまでもない.
 それは,今述べた理由に加え,イスラム社会には西欧近代に対するコンプレックスがあり,それに対する配慮が必要だからだ.

 オサマ・ビンラディンは大富豪の息子で,経済的な欠乏感はないが,イスラム社会はアメリカによって卑しめられているという屈辱感が根底にあった.
 イスラムは遅れている,非人間的な暴力的な宗教であるといった偏見をもって,経済援助という名の施しを与えるという態度をとれば,彼らの誇りをいたく傷つけることになる.
 傲慢な開発をやれば,むしろ原理主義が激化する可能性が高いと言える.

 戦前の日本が過剰なナショナリズムに走った背景にも,日露戦争に勝って一等国になったのに,相変らず差別があって認めてもらえないという屈辱感があった.
 だから,イスラムに対する蔑視を改め,イスラムという宗教に対する尊敬,非西欧社会に対する尊敬が回復されることが重要なのだ.
 経済成長と同時に,もともとあった伝統や誇りとどう折り合いを付けていくか.
 イスラムにしてもヒンドゥーにしても,単に西欧のシステムをコピーするのではなく,取り入れるものは取り入れ,同時に自分たちの伝統との調和を図る必要がある.

 たとえば,ここ数十年の間にイスラム社会の中から,リベラル・イスラム的な思想を唱える研究者が出てきている.
 コーランの一部は7世紀のアラビア半島の人々への教えであり,それを金科玉条にするのはおかしいという考え方で,どの時代にも当て嵌まる普遍的な教え,本当の神の意志を読み解くべきだとする.
 そうすれば,イスラムは男女平等や融和を説く平和的な宗教であることが分かると彼らは主張する.
 彼らは決して主流派ではないが,こういったリベラル・イスラムをサポートしていくことで,イスラム自身が内から変革していくような戦略が必要であろう.

 〔略〕

小川忠=国際交流基金企画評価課長 in 『SAPIO』 2005/3/23号,p.33-34

 上記記述の信頼性だが,具体例に裏打ちされており,疑う材料も特にない.
 また,上記記述を傍証するように,黒井文太郎はテロの要因の一つに「地域特性」を挙げているが,その中で,「氏族の団結の強い地域」との記述がある.
 これは,上述の中の
>コミュニティの解体によるアイデンティティ不安
とも符合する.
 ゆえに,上記記述の比較的信頼性は高いと愚考する.

 そもそも「貧困の撲滅」というが,一国の経済の舵取りさえどの国も苦慮している現状がある以上,国家が経済を浮揚させようとしても限界があり,まして,法治主義も徹底されていないために腐敗の度も高い,中東の多くの発展途上国の経済に関与してそれを発展させることは,なかなか困難である.
 現実不可能な「テロへの解決策」ばかり連呼するのは,思考停止に等しいと思うのだが,どうだろうか.


 【小林主体思想】(別名:マルチ・スタンダード)

 「対テロ戦争」でテロリストは増殖した.
 アメリカ・ロシアの圧倒的軍事力による国家テロによって,追い詰められた弱小民族はテロしか選ぶ道はない.
 「テロには強硬策で」というドグマは崩れた.
 チェチェンの「黒い未亡人」の気持ちはよくわかる.
 チェチェンでも民間人が20万人虐殺されて,5人に1人は子供だった.

小林よしのり in 『SAPIO』 2004/10/13号,p.61枠外

 【事実】
 まず,20万人というのは戦闘による死者を含んでおり,全てが虐殺ではありません.
 戦闘による死者まで「虐殺」呼ばわりしてしまったら,南京事件における中国側の主張も認めなければならなくなりますよ?
 ダブスタはやめたほうがいいですね.

 また,この20万人という数字は,林克明などチェチェン人支援者側が発表している数字に過ぎません.
 大量の死者が出ていることは間違いないでしょうが,実数は不明です.

 さらに,自爆というのは要は自殺攻撃であり,普通のムスリム/ムスリマにとっては自殺はクルアーン(コーラン)により御法度とされています.
 その点から過激原理主義者の策動が疑われています.
 過激原理主義者はイスラーム教徒の中では異端であり,極めて少数派であることはいまさら言うまでもないでしょうが,そう考えると,「追い詰められた弱小民族の抵抗」と自爆テロとは明らかに異質のものであることが分かるでしょう.
(もちろん,プーチン政権の強硬策が普通のイスラーム教徒だった人を過激派側に追いやっていることは否定しません)

 さらにまた,「テロには強硬策で」が有効ではないという言説にも首をかしげます.
 たとえば「ハマの虐殺」という有名な事例があります.
 これはシリアがハマという街で,テロリスト容疑者を街ぐるみ大虐殺した結果,シリアではイスラーム過激原理主義者のテロがなくなったというものです.
 もちろん米露がこんなことを真似るわけにはいきませんから,強硬策と融和策を交互に繰り返すことになります.
 私見では,エジプトなどがやっているような,正統派イスラーム法学者による過激派への「教化」が,米露のテロ対策では著しく不足しており,対テロ戦争の有効性を大きく損なうものとなっているようですが,しかし,テロを危機管理上の最重要問題ととらえ,それに国家の持てる力を総動員するという考え自体が間違っているとは言えません.
 それは,どちらかと言えば米露の「対テロ戦争」への協力に消極的な国々でも,積極的な国々と同程度のイスラーム過激原理主義テロが起こっていることを見れば明白でしょう.


 【質問】
 パレスチナ和平推進は,イスラーム・テロ防止に有効か?

 【回答】
 松井茂〔軍事・外交評論家〕によれば,現在のイスラーム・テロは,パレスチナ問題とは関係がなく,有効ではないという.
 以下引用.

イスラム・テロ防止のために,パレスチナ和平を推進すべきだという声が上がっている.
 だが,これを唱える人々は,テロ問題の本質を理解していない.

 70〜80年代前半にかけて,シリア国内におけるテロは,凄まじいものがあった.
 サダト大統領を暗殺した,エジプトの「ジハード」,同じく,エジプトで外人観光客(日本人10名を含む)を大量殺戮した「イスラム集団」.
 これらは,パレスチナ闘争とは直接の関係はない.
 エジプトの両組織は,ウサマ・ビン・ラディンが結成を呼びかけた「反ユダヤ・十字軍闘争の国際イスラム戦線」の有力加盟団体となっている.
 さらに,イスラム組織によるテロと言えば,アジアにおいても,タイ南部のパッターニ解放戦線,フィリピンの「アブー・サヤフ・グループ」が近年,活動を拡大しているが,両組織ともパレスチナ闘争とは無関係である.

 さらに言うと,世界最大のテロ頻発国といえばインドである.
 この,北はヒマラヤ山脈から南はインド洋に至る,亜大陸と呼ばれる広大かつ多様な地形と気象を擁する,この国のテロ組織は,大小合わせて実に39団体(法務省外局の公安調査庁作成の「国際テロリスト要覧」2000年版による).
 これらの取り締まりのため,警察が実に12種類もある.
 〔略〕
 もしインドに行かれる機会があれば,英字新聞に目を通されたい.そうすれば,連日のようにあちこちでテロが横行しているのがお分かりになろう.

 テロを生み,育てているのは,宗教やイデオロギーよりも,抑圧,貧困,無教育である.
 パレスチナにおけるテロは,イスラエルによる占領と抑圧が原因だ.
 エジプト,パキスタン,インドなどのそれは,貧困,無教育が主因である.
 特にパキスタンでは湾岸戦争のときも,「サッダーム・フセインは我が友だ!」とのスローガンを叫ぶ大規模なデロガ,連日渦巻いたことを忘れてはならない.※

「21世紀のグレート・ゲーム」,光人社文庫,2002/1/18,p.108-109)

 ※ ただし,パキスタンではこうしたデモは,単なるレクリエーション代わりに過ぎないという情報もある.詳しくは別項参照.


 【質問】
 過激原理主義テロリストは現在,どこで訓練を受けているか?

 【回答】
 以下の記事によれば,パキスタンやカシミールの施設にて.
 その資金の一部は,アルカーイダやサウディアラビアから出ている.

    Islamic radicals are being trained at terrorist camps in Pakistan and Kashmir as part of a conspiracy to send hundreds of operatives to "sleeper cells" in the United States, according to U.S. and foreign officials.
    The intelligence and law-enforcement officials say dozens of Islamic extremists have already been routed through Europe to Muslim communities in the United States, based on secret intelligence data and information from terrorists and others detained by U.S. authorities.
    A high-ranking foreign intelligence chief told The Washington Times in an interview last week that this clandestine but aggressive network of training camps "represents a serious threat to the United States, one that cannot be ignored." The official said as many as 400 terrorists have been and are being trained at camps in Pakistan and Kashmir.
    U.S. intelligence officials said the camps, located in the remote regions of western Pakistan and in Pakistan-controlled Kashmir, are financed in part by various terrorist networks, including al Qaeda, and by sources in Saudi Arabia. February 10, 2004

Washington Times Feb. 10, '04

 また,アジアタイムズの
「ハイパーテロリズムの台頭 The emergence of hyperterrorism By Pepe Escobar」
という記事によれば,
「専門家によれば,テロリストの移動が以前よりは不自由になってきたため,最近のテロは地元でリクルートした人材をテロに使う傾向があるという」

http://www.atimes.com/atimes/Front_Page/FC17Aa04.html


 【質問】
 イスラーム過激原理主義組織の資金移動手段となっている「ハワラ」とは?

 【回答】
 中東社会に古くからある,一種の信用手形による送金システム.
 手数料が安く,秘密が保たれる仕組みになっている.
 具体的には以下のようなシステムになっている.

――――――
 まず,Aという「ハワラ」業者に送金を依頼する.
 Aは同業者Bに,手形のようなものを送付する.
 するとBは,それをCへ転送する.
 さらにCは,それをDへ転送する.
 DはEへと転送され,最終的には,受け取り人の近くにあるHへと転送される.
 そしてHのもとで,手形に記されている金額を受け取り人は現金で手にできる.
 この場合,最初の業者A以外は送金の依頼者を知らないことになる.

 「ハワラ」業者間では,いちいち送金はせず,一定期間が過ぎると帳簿上で互いに決済を行う.
 相互の信頼と信用がなければ成立しないシステムである.

 現在でも,海外で出稼ぎしている中東の人達の殆どが,本国の家族への送金にはハワラを利用する.
 ハワラ業者の動かす金額は膨大なもので,その総体となるとかなりな巨額となる.
 そのため従来から,世界の金融センターであるロンドンのシティには,ハワラ業者がちゃんと看板を掲げている.

 アメリカ政府は財務省を総動員して,送金ルートのあぶり出しや資金凍結を行わせている.
 「アル・カーイダ」と関係があると見られる,幾つかの金融業者の営業の差止めや口座の閉鎖を行っている.
 しかしハワラを使われれば,とうていその全容の解明はできないであろう.

――――――松井茂〔軍事・外交評論家〕著「21世紀のグレート・ゲーム」(光人社文庫,2002/1/18),p.155-156

▼ そしてウィキリークス経由の情報によれば,2009年になってもいまだに,中東諸国の支援者らから年間数百万ドル規模と見られる資金が,アル・カーイダをはじめとする国際テロ組織に流入し続けているという.
 以下引用.

――――――
テロ組織に中東から依然,資金数百万ドル流入
読売新聞,2010年12月6日(月)18時15分


 【ワシントン=山口香子】米ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)は5日,内部告発サイト「ウィキリークス」が入手した米政府公電数百本の分析結果をもとに,サウジアラビアなど中東諸国の支援者らから年間数百万ドル規模と見られる資金が,アル・カーイダをはじめとする国際テロ組織に流入し続け,米政府がいら立ちを強めていると報じた.
 同紙によると,クリントン米国務長官は2009年12月の公電で,
「サウジが世界中のスンニ派テロ組織の主要財源となっている」
 と指摘.
 資金供給に歯止めをかけるためのサウジ高官説得は,「難航している」と述べた.
――――――

――――――
サウジは過激派の最大資金源=アルカイダやタリバンに―米公電
時事通信,2010年12月6日(月)6時11分


 【カイロ時事】サウジアラビアの資金提供者が,国際テロ組織アルカイダやアフガニスタンの反政府勢力タリバンなどテロ組織の主要な資金源になっていると米政府が分析していたことが,内部告発サイト「ウィキリークス」が最近公開した,昨年12月のクリントン米国務長官名の公電で分かった.
 米政府は,サウジからパキスタンの過激組織「ラシュカレトイバ」や,パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスにも資金が流れていると分析.
 イスラム系慈善団体を通じ,イスラム教の断食月(ラマダン)や巡礼(ハッジ)期間中に活発な寄付金活動が行われているとしている.
――――――


目次へ

「テロ別館」トップ・ページへ

「軍事板常見問題&良レス回収機構」准トップ・ページへ   サイト・マップへ