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◆◆◆核兵器戦略
<◆◆核兵器
<◆WMD
<兵器FAQ目次
(画像掲示板より引用)
奥山真司 in twitter(2012/11/05)
久しぶりにローレンス・フリードマンの核戦略本を読み返したら,ヘンリー・キッシンジャーの核戦略理論本を酷評している箇所を発見.
キッシンジャーは,その当時の周囲で論じられていた議論をまとめただけで,全然オリジナリティーはない,と.
納得.
「国立国会図書館」:米国の戦略核運用政策の変遷と現状:安全保障の今日的課題
【質問】
核戦略(核戦争一般)の入門として良い本ってありますか?
【回答】
こんなのはどうですか?
1)
『核兵器との共存』(ハーバード核研究グループ著,阪急コミュニケーションズ,1984/01)
レーカ゛ン軍拡当時に左右の学者の共著として話題になった,中立的な入門書.
2)
『核戦争 ある晴れた日,地球の終わりがやってくる』(グラウンドゼロ著,サイマル出版会,(1982/08)
核戦争に関する諸問題をコンパクトに纏めた,反核の立場からの入門書.
3)
『航空ジャーナル臨時増刊 アメリカの核兵器』(航空ジャーナル社,1984.9.5)
軍オタ向け.
米核兵器のカタログだが,作動原理,核事故,核戦略も扱う.
情報は古い.
軍事板,2003/02/20
青文字:加筆改修部分
『The Evolution of Nuclear Strategy』(Lawrence
Freedman著)
この〔核戦略の〕分野ではほぼスタンダードと言えるもの.ロンドンのキングスカレッジの名物教授による(「地政学を英国で学ぶ」,2005-05-07-07:01)
『The Wizards of Armageddon (Stanford Nuclear
Age Series)』(Fred Kaplan著)
核戦略を作ってきた人々の話.これもかなり「古典」の域に達しております.(「地政学を英国で学ぶ」,2005-05-07-07:01)
『核抑止戦略の歴史と理論』(山田浩著,法律文化社,1979)
2016.1.7
【質問】
核の抑止というものは,本当に有効だったのか?
【回答】
完全に信頼できるものでもないが,一応効果はあったというのが,米戦略家の一般的見解だという.
以下引用.
抑止理論というのは,単純に言えば
「相手に対してこちらの武器をチラつかせて,手出しをさせないようにすること」
ということになるでしょうか.
核兵器による抑止理論というのは,相手に対して心理的に脅しをかけることが成功しているかどうか,というところがポイントになってきます.
ようするに,自分と敵の間で「抑止が効いている」という了解のようなものがないと成立しないわけです.
よって,その本質的なところからして「完全に信頼できるもの」ではないのです.
このような「抑止」なんですが,実際に効果があったのかというと,どうやら一応効果はあった,というのがアメリカの戦略家の間での一般的な見解になっているようです.
冷戦時代を通じて核戦争が起こらなかった,というのがその根拠.
ところがソ連が,アメリカのような考えかたで抑止理論を考えていたかどうかというのは別問題で,冷戦後の調査によると,どうやらソ連側はアメリカが考えていたようには抑止されていなかった,という話がチラホラ出てきております.
抑止理論の中心的なテーマというのは,そもそも核兵器を持っていることによる「抑止」(ディターレンスdeterrence)というものが「効く」のかどうか,という部分です.
いいかえれば,「ホントにソ連はアメリカの脅しが効いていたから核兵器を使わなかったの?」というところです.果たしてアメリカの脅しは効いていたのでしょうか?
冷戦中なんですが,実は抑止が「効いている」ということを証明する手段はありませんでした.
「なんじゃそりゃ,じゃあ抑止なんてしなくても元々同じことじゃんか!」
というツッコミも,もちろん予想範囲内です.
なぜなら「抑止」というのは「効いている」ということが元々証明しずらいものだからです.
じゃあ「効いていない」ということがわかる時はどういう時かというと,それはズバリ,ソ連に核兵器を使われた時です(笑
「おい,いい加減にしろ!そんなの理論でもなんでもないじゃんか!」
という批判もわかるのですが,そこはアメリカの頭の良い戦略家たちのこと,抑止理論には三つの側面があることを重々承知の上で,色々な抑止戦略とその改良版を提唱していたのです.
この三つとは,すべての頭文字がCではじまります.
@Communication(コミュニケーション:意志伝達)
ACredibility(クレディビリティ:信憑性)
BCapability (ケイパビリティ:能力)
まず抑止が成立するためには,相手側(ソ連)に,「こういう核兵器を持ってるぞ!」ということが伝わっていなければなりません.
ようするに核兵器を持っているだけではダメで,自分が持っていることを相手が知っていなければなりません.
変な話ですが,やはりコミュニケーションが必要なんですな.
もちろんこのために,わざわざ守りをゆるくしてスパイをさせる,という裏技などもありでした.
次に大切なのは,信憑性です.
どういうことかというと,つまり相手に「たしかに手出ししたら自分のところにこういう被害が及んできそうだな」ということを信じさせなければダメだ,ということです.
歴史の例から見てみましょう.
たとえばアイゼンハワー大統領の政権時代に「大量報復戦略」という戦略が提唱されましたが,これは中国共産党が北朝鮮と共に朝鮮半島で南下してきて朝鮮戦争が勃発した反省を受けて
「西側諸国に少しでも侵入してきたら大規模な核攻撃をしかけてやるぞ!」
という脅しのためにこういう戦略を唱えだした,ということはすでに述べた通りです.
ところがこれは「ハエを殺すのに大砲を使う」ということと同じで,信憑性にかけます.つまりソ連に「大ボラ吹いてやがる」としかとられかねないのです.
そこでこの「信憑性」をアップさせるためにケネディ政権になって考えだされたのが「柔軟反応」という戦略,ということです.
もちろんこの「柔軟反応」をするためには,アメリカ側にも「限定核兵器」などを作れるだけの技術力がなければなりません.これが三番目の「能力」ということになります.
抑止理論というのは,以上のような三つの要素によって「効いている」と考えられていたわけで,アメリカ政府もこのような考えを元にして,様々な戦略変更を実際に行っていたことがわかります.
まあ,100%完璧なものなんてありえないからね.
【珍説】
「次なる戦争は,破滅的な全面核戦争になる.それだけは避けよう」
という論理で,つまりは抑止力が働いて,第3次世界大戦は避けられてきたのだ,というのは,俗耳に入り易い議論である.
しかし,この議論は間違いなのだ.
米国が,広島・長崎への原爆投下を,なんと言って正当化してきたか,考えてみていただきたい.
「原爆投下がなかったら,日本列島での本土決戦となり,そうなれば,米軍側にも日本側にも,より多くの死者が出ていたに違いない.
原爆には,戦争を早期に終結させる効果があった」
こういうことでは,なかったろうか.
兵藤氏の著書の中にも,こんな一節がある.
「第2次大戦でドイツの諸都市を瓦礫の山に変えるためには,英米合わせてなんと12万人の,また日本の81都市を焼け野原にするためには2000人以上の米軍の爆撃機のクルー,ならびに護衛機パイロットが死なねばならなかった.
水爆ミサイルならば,そんな犠牲についても検討する必要はない」(17頁)
核兵器は,兵器それ自体として考えた場合,つまり,核開発に伴う様々なリスクを度外視して考えれば,コスト・パフォーマンス(費用対効果比)に優れていると言うことができ,為政者ないし戦争指導者にとっては,
「できれば使ってみたい」
という誘惑に駆られる兵器なのである.
もちろん,その破壊力ゆえに,壊さなくてよいものまで壊してしまい,なおかつ放射能汚染によって,占領にも支障をきたしかねない「過剰破壊兵器」ではある.
しかし,クラウゼヴィッツの「戦争論」にあるように,戦争行為の目的が「敵戦闘力の撃滅」にあると考えた場合,これは,使用をためらう決定的な理由とはならない.
早い話が,核兵器の存在が,先進国に第3次世界大戦を引き起こすことをためらわせた,とする根拠など,どこにもない.
先進国にとっては,もはや戦争をしても領土が増えるということはなくなり,また,近代戦は恐ろしくコストが高いので,「国家事業」として,割が合わなくなった.
ただそれだけの話なのだ.※1
第一,核兵器による報復が,核の先制使用をためらわせる理由であるなら,核武装していない国を相手とした戦争(ベトナム戦争,フォークランド紛争など,実例はいくらもある)で,核が使用されなかったのは,いかなる理由か.
あまりにも非人道的な兵器である,との認識が共有されるようになったため,国際世論の反発を考慮して,使用を控えたに過ぎないのではないか.※2
林信吾著『反戦軍事学』(朝日新聞社,2006/12/30),p.144-146
脚注番号は編者が付与
【事実】
なんだか論旨が支離滅裂なんですが.
※1では「割が合わなくなったから核兵器が使われなかった」
※2では「非人道的な兵器だから核兵器が使われなかった」
著者はどちらを主張したいのでしょうか?
別項目で述べられているように,抑止力は一応効果があったというのが,一般的見解とされています.
ユニークな自説を打ち出したいのは分かります――そのほうが目だって,本が売れるかもしれないからね――が,論旨がこのように分裂していては,一般的見解に対する有効な反論とは言えないでしょう.
消印所沢・改
林氏が挙げた例が示すのは,核抑止の他にも核の使用を制限するパワーは有るということですよね.
何で核抑止論の否定にいってしまうのかが分かりません.
ゲッピー
仰るとおりだと思います.
林氏の議論は核が持つ戦略的な意義と戦術的使用をごっちゃにしているので分かりにくくなっていると思います.
戦略的な側面に関して言えば,核による報復・相互確証破壊があまりにも明白であったために使用をためらわせたと.
これに異を唱える人はいないでしょう.
それで,戦術兵器としても用いられなかったのは,やはり核のタブーがあったから,と考えるのが自然だと思います.
バグってハニー
核のタブーなのですが,これがある程度の抑止に繋がったのは事実だと私も思います.
特に小規模な紛争でしたら,核の使用による軍事的メリットを,国内的,国際的批判等の政治的デメリットが凌駕するでしょうから,抑止力として機能するということではと思います.
ただこの政治的タブーによる抑止が,大規模紛争で機能するかどうか微妙なんですよね.
例えば冷戦期にソ連がアメリカ軍主力を壊滅させることができるのであれば,メリットがデメリットを凌駕してしまう可能性があります.
批判を内外から受けても割に合うと考えれば核を使用することは充分有り得るわけです.
もちろん核を向け合っているわけですから,この仮定は成立しないわけですが,この観点から相互確証の意義はやっぱりあると考えるべきでしょう.
林氏の意見も,いわゆる核抑止を否定している所を除けば,間違っているわけではないのですがね.
ゲッピー
また,暇があったら翻訳したいのですが,ロバート・オーマンと一緒にノーベル経済学賞を受賞したトーマス・シェリングは,この問題を受賞記念講演で扱ってるんですよ.
広島・長崎の後,米国は実は核兵器使用の誘惑に何度も駆られているんですね.
朝鮮戦争とかベトナム戦争(の前,ディエン・ビエン・フーの闘い)とか.
それでも,核兵器は一度も炸裂しなかった.これは核兵器が「非人道的な兵器だから」(※2の指摘)ではないかと.
この論点を米国首脳の言葉を引用することによって証明しようとしてるんですね.
バグってハニー
>フォークランド紛争
アルゼンチン如きに貴重な核をぶち込んだら,英国はソ連の核に対してどう対峙すればよかと?
虎が後ろで睨んでるのに,木っ端相手の小競り合いでジョーカー切るわけにはいかんだろ.
メッサー=ハルゼー
【質問】
>核兵器は一度も炸裂しなかった.
>これは核兵器が「非人道的な兵器だから」(※2の指摘)ではないかと.
来るべき第三次欧州大戦でNATOはソ連軍に対し戦術核の先制使用を前提にしていませんでしたか?
結局のところ,戦術上の必要性が薄かったから使われなかった,というところに落ち着くのでは?
また,朝鮮戦争の時点では,「非人道的な兵器」という認識は無かったはずです.
アトミック・ソルジャーなんて朝鮮戦争後増えていきました.
ゆきかぜまる
【回答】
はい.通常兵器でNATO軍を圧倒的に凌駕するソ連/ワルシャワ条約機構軍はNATO軍がそう出ると思っていたので,対抗して中距離弾道弾SS-20を配備しました.
それに対して西側はパーシングIIの配備でやり返すと.これが撃ち合いになると米国本土は無傷のままソ連はウラル以西が壊滅することになり,ソ連にとってはたまりません.
だから,やはり核による報復が怖かったので,核は使用されないまま,ソ連は自身に不利なINF撤廃条約を飲むことになったのだと思います.
ワルシャワ条約機構軍が通常兵力だけで侵攻してきた場合,西側(米軍と自衛隊)は極東で反転攻勢に出ることによって,NATO軍が核を使用することなく欧州の劣勢を挽回するという,水平エスカレーション戦略なるものも米国にはありました.
>朝鮮戦争
に対するシェリング教授の見立ては次のようなものです.
まず,広島・長崎の後,初めて核の使用が検討されたのは朝鮮戦争が始まってすぐ国連軍が釜山まで追い詰められたときです.
このとき,核の使用を巡って米国と英国議会で議論になりました.
クレメント・アトリー英国首相はワシントンDCに飛んで,トルーマン大統領に核を使用しないように嘆願しました.
英国下院は核開発のパートナーであり,米国に注文をつける権利があると考えたからです.
もちろん,実際に核が使用されたなかったのにはそれ以外にもいろいろな理由はあるでしょう.
核をタブー視する考えをどうにかせにゃならんという認識が米国政府内に出てくるのは,もう少し時が過ぎて,大統領がアイゼンハワーに代わった直後の1953年2月(つまり,朝鮮戦争が停戦する少し前)の国家安全保障会議での核にまつわるアイゼンハワー大統領とダレス国務長官のやりとりからはっきりとします(McGeorge Bundy著Danger and Survival: Choices About the Bomb in the First Fifty Yearsという本からの引用).
"Secretary Dulles discussed the moral problem in the inhibitions on the use of the A-bomb. ... It was his opinion that we should break down this false distinction"
「ダレスは原子爆弾の使用を制限する道義的側面について議論した.
我々はこの誤った考えを叩き壊す必要があると彼は考えた.」
つまり,この時点で国務長官さらにはNSC全体も,核の使用がタブー視されているという認識があり,そのような兵器の区別の仕方は間違いであり,取り除く必要がある,と考えていたことが分かります.
この時点では具体的にどうやって取り除くのかは議論されませんでしたが.
バグってハニー
【質問】
核ミサイルを大量に所持すれば,それが他国に対しての大きな抑止力になるから,通常兵器は削減できるんでしょうか?
【回答】
一般論ですが,削減はできません.
キッシンジャーは核兵器の登場にもかかわらず,北部インドシナの喪失やスエズ危機を防げなかったことに着目し,
「特定の政治目的のため・・・・・相手の意思を押しつぶすのではなく,影響を及ぼし,課せられる条件で抵抗を続けるより魅力的であると思わせ,特定の目的を達成せんとする」
”限定戦争”には,いまだに軍事力が必要だとされる.
(『軍事学入門』より.一部改変).
と唱えました.
戦略核兵器は,双方が十分な量保有することにより,相互破壊確証という「使えば相手も自分も破滅」な状態に陥るため,「みんな俺とも道連れ覚悟だ!」でないと使用できない兵器となってしまいます.
そういうわけで,自国領外でのちょっとした紛争や局地戦争には,あまりに大げさすぎて使えなくなるわけです.
巨大な核戦力をそろえられる国ってのは,大国と呼んでよく,そのために国外にも権益を大量に有していたりするわけですから,自国の安全が直接侵害されなきゃそれでいいや,と座視することも出来ません.
というわけで,大なる戦略核戦力があったとしても,それなりの通常兵力の整備もまた必要なのです.
それと,冷戦期の米ソは,戦略核兵器で敵国を焼き払ってから通常兵力で侵攻して制圧する,というのを想定していたりしますので,このためにも通常兵力は必要になる‥と考えられていました.
史実でも第2次世界大戦の直後は,「核兵器持ってれば通常兵器は不要」みたいな説もあって,実際米軍などは通常兵器にかける予算減らしてます.
しかし,朝鮮戦争のような,地域紛争の抑止には核兵器は役に立たないことが明らかになり,結局通常兵器の増強も大切ってことに.
【質問】
極端な見方をすると,核保有国が戦争に勝つには,作戦を練って,大量の軍隊や兵器を送り込むより,核弾頭装備の大陸間弾道ミサイルを数発撃ち込む方が早くて安上がりですか?
【回答】
そうとも言えない.
例えば相手国も核兵器を持っていて,核攻撃の結果,報復合戦にでもなったら,双方とも「安上がり」には程遠い損害を受けることになる.
さらに,何のための勝利か,という観点でも考える必要がある.
核兵器の使用は,戦争を激化させてしまうかもしれない.
戦争はいつか終えねばならないが,核兵器は相手国に過剰なまでの破壊をもたらすため,相手国の感情を悪化させて,停戦交渉の余地を狭めることになるかもしれない.
こういうケースだと,核攻撃はとても安上がりとは言えない.
軍事板,2009/06/24(水)
青文字:加筆改修部分
【質問】
原爆1発だけでも抑止力として有効ですか?
【回答】
1発ではダメ.
外れたり作動しなかったら役に立たないから.
少なくとも相手にそう思われたら抑止力としての役に立たなくなるので,最低でも3発は必要か.
結局倍々ゲームで国力の許す限界まで核兵器を持とうとするハメになる,いうのは歴史が証明してる.
でも,
「相手の国を焼き払えても,こっちの首都が消し飛んだんじゃ割に合わねぇよなぁ・・・」
と思わせて抑止力にするだけなら,相手より遥かに核戦力で劣っていてもある程度までは対等な関係性が維持できる.
だからこそ,北韓をはじめとして世界中の国は核兵器持とうと躍起になるわけで.
軍事板
【質問】
「大量報復」理論とは?
【回答】
「西側に侵入してきたら大量の核兵器使ったるぞ!」という脅しをかけることによって,相手からの手出しを抑止できるとする理論.
アイゼンハワー時代に提唱された.
以下引用.
第二次世界大戦が終わった直後のアメリカは,核による抑止がソ連に対して有効であると思い込んで,単純に「核を持っているだけで抑止」(existential deterrence)していると考えていたわけです.
このアイディアを考え付いたのが歴史家だったバーナード・ブロディーという人で,この人は”Absolute Weapon”という本の中で論じております.
ようするに彼が言っているのは,核兵器というのはあまりにも破壊度が大きいので,武器としての存在だけですでに戦略レベルで革命を起こしてしまった(核革命)という議論です.
これがアイゼンハワー大統領政権時代になると,核兵器をアメリカが持っているにも関わらず,中国が北朝鮮をそそのかして南進してきたわけです.朝鮮戦争の勃発(1950年)ですな.
これによって「ただ核兵器を持っているだけじゃダメだ!」ということになり,ソ連に対して「どこでも西側に侵入してきたら大量の核兵器使ったるぞ!」という脅しにかわったわけです.
これがいわゆる”Massive Retaliation”(大量報復)という抑止理論です.
【質問】
柔軟反応理論とは?
【回答】
戦略核兵器だけではなく,通常兵器や戦術核兵器を組み合わせることにより,ソ連の手出しを抑止しようという理論.
ケネディ時代に提唱された.
以下引用.
この〔大量報復〕理論の問題点は,たとえばソ連の軍艦が北海道の沖合いなんかにちょろっと顔を出した場合でも核兵器を使って報復するのか?という疑問を引き起こしました.
これをたとえるならば,一匹のハエを退治するのに大砲を使って殺す,と言っているようなものです.
これじゃあちょっと大げさだ,一匹のハエだったらエアゾールを使えばいいじゃないか,ということになり,60年代にケネディ政権が生まれてからできたのが”flexible response”(柔軟反応)という抑止理論です.
これによって,アメリカは従来の大型核兵器だけじゃなくて,「通常兵器」(conventional weapons)や,小型の核兵器である「戦術核兵器」(tactical nuclear weapons)も組み合わせてソ連の拡大に対応していこうということになったわけです.
戦術核兵器
(画像掲示板より引用)
【質問】
「相互確証破壊」理論とは?
【回答】
どちらが先に攻撃を仕掛けても,お互いに大きな損害を被ることになるので,それによって互いに手出しできないだろうとする抑止理論.
ロバート・マクナマラ提唱.
以下引用.
ケネディ政権になって柔軟反応(flexibleresponse)という概念が生まれたところまで話をしましたが,このケネディ政権が誕生した前後に出てきた新しい理論があります.
これはあの「キッシンジャー博士」ことヘンリー・キッシンジャーや,天才と呼ばれ,21世紀は日本の世紀だと発言して有名になったハーマン・カーンらの提唱した,intra-war nuclear deterrence (戦争中核抑止?)という理論です.
これは一体どういう理論なのかというと,もし米ソ両国が核戦争になったとしても,限定核兵器の出現により,お互いの都市を攻撃するようなアホなことまではしなくなったから,戦争中でも抑止は効いているのだ,というなんとも「ホンマかいな」といいたくなるような理論です.
ところがここらへんで,核兵器の分野におけるアメリカの優位がソ連に追いつかれてきたために,アメリカはソ連と手を打っておかなければヤバイ,と感じはじめたわけです.
ここで出てきたのが「戦略的安定性」(strategic stability)というアイディア.
これはようするに
「お互い核兵器を持ちすぎちゃって,どっちが有利だかわからない状態だなぁ」
「だからどちらが有利ということはなくて,逆に関係が安定しているんじゃない?」
という考えから生まれてきた「核の安定状態」のことです.
ここまでくると,まるで西部劇の決闘シーンのように,どちらも先に抜くに抜けない状態が生まれてきた(とアメリカ側は考えていた)わけです.
ようするどちらが先に攻撃を仕掛けても,お互いに報復できるだけの核兵器を備えているので,損害を被るのはお互い様,ということです.
これがかの有名なロバート・マクナマラ国防長官(ケネディ政権)による,「相互確証破壊」(Mutual Assured Destruction:MAD)という理論です.
ちなみにマクナマラ元国防長官は,最新号のフォーリン・ポリシー誌で「核兵器を廃絶せよ!」という論文を書いて話題になっております.
人の考えというのものは変わるものですな.
「相互確証破壊」は,頭文字をとって「狂っている」という意味のMADという略語で親しまれた(?)わけですが,この理論を提唱したマクナマラは,たしかに狂っているともとられかねないことを言っております.
どういうことかというと,
「ソ連は人口の20%〜30%が死滅し,50%〜75%の工業基盤が破壊されるレベルまで行くと耐え切れなくなる」
ということなのです.
日本の場合に当てはめて考えてみると,人口の20%といえば,一億二千万人のうちの・・・・二千四百万人ですか.
そりゃ日本でも耐え切れませんな(苦笑
こういうことを考えたマクナマラは,けっこう少ない数の核兵器でもかなりの損害をソ連に与えることができる,だから今のままでも充分ソ連を抑止できているのでは?と考えたわけです.
【質問】
「シュレジンジャー・ドクトリン」とは?
【回答】
柔軟反応理論の一つのヴァリエーション.
エスカレーション・コントロールや敵兵力徹底破壊などが加味されているというもの.
ジェームス・シュレジンジャー提唱.
以下引用.
それ〔「相互確証破壊」理論〕から十年後,今度はジェームス・シュレジンジャー国防長官によって「シュレジンジャー・ドクトリン」(the Schlesinger Doctrine)というものが提唱されました.
これは別名「国家安全保障決定書242号」(NSDM−242)と呼ばれているのですが,ここではケネディ政権以来から続いている,ソ連からの攻撃に柔軟に対応するという方針に加えて,エスカレーションをコントロールすることや,いざ核戦争が始まった時には敵の兵力を徹底的につぶすことなどがアドバイスされております.
【質問】
相殺戦略とは?
【回答】
核攻撃の対象をソ連指導部とソ連軍に絞ることにより,抑止を効果的に行おうというもの.
ハロルド・ブラウン提唱.
以下引用.
70年代に入るとハロルド・ブラウン国防長官によって,今度は「相殺戦略」(countervailing strategy)というものが提唱されます.
これは抑止を効果的に行うためには,核兵器のターゲットをソ連の指導者と軍部に絞れ!という,なんとも過激なもの.これは「大統領決議59号」(PDー59)という文書が元になっております.
その代わりの特徴といえば,なんといってもソ連の市民や都市に対しては被害を与えないようにするという,やや人道的(?)な配慮がなされていたことでしょうか.
【質問】
限定核オプション limited nuclear options
とは?
【回答】
ソ連の核戦力破壊を目的とした核戦略.
『安全保障学入門(新版)』(2001年 亜紀書房)によれば,以下の通り.
「(1970年代のソ連戦略核戦力の充実に対し)米国内には
『ソ連は対米核優位と米国の核戦力破壊を目的とした限定核攻撃能力の整備を通じて,核戦争での勝利をめざしているのではないか?』
という疑心が高まり,これに対抗して74年1月,ソ連の都市や産業の破壊(counter-value)ではなくミサイル・サイロなどソ連の核戦力破壊を目的とした対軍事力攻撃(counter-force)に限定した『限定核オプション』(Limited Nuclear Option)戦略を採用した」
(98頁)
【質問】
G. W. ブッシュ政権のNPRは,具体的にはどのようなものか?
【回答】
冷戦後のWMDや弾道ミサイルの拡散という事実に直面した同政権が,戦略攻撃核戦力のみに依存する核抑止戦略の欠陥を是正した,戦略攻撃戦力と戦略防御戦力を併せた「拒否的抑止力の保持による抑止」という新理論.
以下引用.
02年1月に発表されたNPR(Nuclear Posture Review:核態勢見直し)は,従来の核の3本柱――ICBM, SLBM, 戦略爆撃機――に代わる新たな3本柱として,
(1) 核および通常兵器による攻撃能力
(2) 防御能力
(3) 防衛基盤改良
が提示されている.
弾道ミサイル防衛を念頭に置いた「防御能力」を核戦略の一つの柱に据えた背景には,自国民を危険な状態に晒しておく不安定な状態に立脚する「MAD(Mutual Assured Destruction:相互確証破壊)理論」に基づく戦略的安定論に対する根本的な疑問がある.より確実で安全な状態に立脚する安定を図るべきだという考えである.
すなわちG. W. ブッシュ政権は,冷戦後の核兵器などのWMDや弾道ミサイルの急速な拡散という事実に直面し,従来の戦略攻撃核戦力のみに依存する核抑止戦略の欠陥を是正して,通常型を含む戦略攻撃戦力と戦略防御戦力を併せた「拒否的抑止力の保持による抑止」という新理論を構築.
これにより,21世紀の安全保障環境に適応するためのグローバルな戦略転換を意図しているのである.
(金田秀昭〔元海将〕 from 「世界の艦船」,海人社,2003/9, p.71,抜粋要約)
【質問】
ブッシュ大統領の「先制攻撃論」は,どう画期的なのか?
【回答】
冷戦時代から続いていた抑止戦略の本格的な修正をしたという点.
その中身は,「脅威に対して積極的に攻撃を仕掛けていくことによって抑止しよう」という代物.
以下引用.
〔核抑止戦略は〕冷戦後,とくに2001年のテロ事件以降に,大きな転換期を迎えました.いわゆる,ブッシュ大統領の「先制攻撃論」です.
これが核戦略の文書としてまとまった形で出で来たのは,2002年の一月に発表された「核戦略の見直し」(Nuclear Posture Review)というものです.
この文書は,冷戦時代から続いていた抑止戦略の本格的な修正をしたという意味でかなり画期的であり,従来の重量級の核兵器による抑止に加えて,通称バンカーバスターとして知られる地中貫徹型の小規模核ミサイルを使え,ということを提唱しております.
ここからわかるのは,今までのように核兵器を持っているだけで敵を抑止できる時代は終わった,
これからは脅威に対して積極的に攻撃を仕掛けていくことによって抑止しよう,というアメリカ政府の姿勢です.
なんとも物騒な考え方なんですな(苦笑
その帰結がどうなったかは,イラクの現状を見れば分かる通り.
「戦略」と呼ぶには,ちと杜撰過ぎたかもしれない.
【質問】
万一西側と,モスクワを争奪するほどの戦争になったとしたら,それはもう核の投げあい以外想像がつかないのですが,そのような状態で戦略縦深に意味があるんでしょうか?
唯野
【回答】
唯野さんの意見は「核兵器があるなら通常兵器なんて意味が無い」という極論に非常に近いのだと思うんですが,そういう発想以前に核戦争でも通常戦争でも縦深はとても重要です.
核戦争になったら世界が終わり,という発想を米ソはしていなかった.
彼らは本気で核兵器を普通に撃ち合う戦争を想定していた.
戦略核兵器だけで戦争が決まるなら,首都正面の縦深などあまり意味は無いでしょう.
しかしその後に攻め込む気なら大きな意味が出てくる.
戦術核兵器を使用する戦いは通常戦闘の延長です.
JSF
【質問】
うーん,ちょっと納得しきれなくて…….
私の認識としては,「核兵器は核保有国との全面対決用,通常兵器は,全面対決に至らない紛争もしくは非核保有国との戦争用」というものなんですよ.
モスクワ戦が起こるとしたらそれは「核保有国との全面対決」で通常兵器の出番は無くなっちゃうんではないかと思いまして.
戦略核を撃ち合った後に,通常戦力で戦争する余裕があるってことですか?
あるいは,モスクワを失うぐらいは,ロシアにとって,戦略核を使うほど深刻な事態ではない,ということなんですか?
唯野
【回答】
事態が深刻だからこそ戦略核兵器を使う…という発想は間違いではないと思います.
但し,戦略核兵器とはその名の通り,国家間戦争に於ける長期戦略で自国が有利になるための兵器であり,その目標は大規模な軍施設及び銃後の支えたる都市群です.
平たく言えば敵の国力を殺ぐ兵器です.
その点では生物兵器や化学兵器と同様であり,それ故に大量破壊兵器として指定されています.
そして戦術核はその名の通り,国家間戦争に於ける限定された一戦術面で使用し,正面装備を含む敵軍隊(もしくは自軍にとって直積的な脅威となるもの)を破壊する為の兵器です.
その点ではJSF様が仰るように,火砲や爆弾・ナイフと何ら変わりません.
仮にモスクワに敵軍が迫っているならば,使うべきは通常兵器による軍隊であり戦術核兵器です.
その時点で戦略核兵器を敵国に見舞ったところで,目の前の敵軍は消えません.
更に激しく攻めてくるだけです.
戦争に於いて,敵軍が首都に迫り来る事態を未然に防ぐために,または,その侵攻を少しでも弱めるためにあらかじめ打つ一手,それが戦略核兵器の意義と言うことです.
〔略〕
実際に派手なパイ投げをやったら,唯野様の方が正しいという結果になるかも知れません.
でも,ならないかも知れません.
やってみなければ結果は出ません.
だからこそ,国はパイ投げ後を想定して様々な準備を整えるのです.
その点で縦深は,戦略核戦争でも意味があるのです.
更に言えば,軍は派手なパイ投げをやっても,自軍の戦力を維持する手を打っており,それならば敵も同様であろうと想定しているが故に,パイ投げで雌雄は決しないという前提があるのです.
ちなみに1メガトンの核弾頭は,半径7km程が直接的な破壊圏であると言われていますが,耐核地下シェルターが相手ならば破壊圏はもっと狭いでしょう.
その所在が隠蔽されている場合,当たるかどうかも定かではないですね…
佐倉河
そもそも戦略核兵器では戦術目標を叩くことは出来ない(出来ない事も無いが効率が悪い)です.
だから戦略核の威力が多かろうが少なかろうが,軍隊は移動して攻撃する事が出来ます.
戦略核の威力が大きく本国のダメージが大きければ,満足な補給は望めず侵攻限界点に達するのは早くなりますが,距離が短ければ限界に達する前に占領が可能となります.
JSF
「週刊オブイェクト」コメント欄,2005年04月24日付
青文字:加筆改修部分
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