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兵器FAQ目次


(画像掲示板より引用)


 【link】

「アルファルファ」:核兵器の作り方を教えてください. ※念のためいっときますが別に作ろうと思っているわけじゃありません.

ひろぶろ」■フランスが行ってた核実験の写真4枚(everything is goneより)

『原子力と科学者 市民のための原子力5』(武谷三男著,朝日新聞社,1958)

『ぼくたちは水爆実験に使われた』(マイケル・ハリス著,文春文庫,2006.7)

 読了.

 1955年から1年弱,エニウェトク環礁に陸軍兵士として駐在し,レッドウィング作戦と呼ばれる核実験を「見せられた」著者による実話小説.

 ニューヨークで育ち,1954年にブラウン大学を卒業した「私」は兵役につき,1年間を本土ですごしたのちエニウェトク環礁の第7統合任務部隊へと赴いた.
 アメリカ本土から遠く離れた,草木がほとんどない島で,変わった同僚たちと大した作業もなく過ごしたり,軍医に同性愛を迫られたりしながら生活するのは,あまり快適なものではなかったが,核実験が始まってからは,ますます顕著なものとなり….

 前半は(3つ目の魚がいて泳げないとかそういう話を除けば),閉鎖的な空間にたくさんの人間(男)が放り込まれると,どうなるのかという典型的な話が続くが,後半になると核実験が始まり,その生活はますます追い詰められたものとなっていく.
 保安担当の大佐の家具新調のため,兵士にはゴーグルが配られず,さらに様々なミスによって,本来後ろを向いているべき核爆発の瞬間に,正面を見ていたり,錆びついて閉まらない窓に使う潤滑剤を申請すると,
「安全だから必要ない」
と拒否される.
 島に寄港する海軍部隊の,明らかにヤバそうな話は,噂となって広まる….
「自分の国の軍隊が行う核実験を見せられる」
という任務は,明確な「敵」を見いだせないという意味では,ある意味で敵と戦闘するよりも耐えがたいものだった.

 徴集されてこの島に来た兵士たちは,その心の葛藤を様々なものによって解消しようと必死になる.
 その様子がある意味で,グロテスクに描かれている.

 登場人物は「カッコーの巣の上で」の脚本を書いた,ゴールドマン(一時期この島で人事担当の軍曹だった)を除いて仮名で,各人のエピソードも,いくつかの人格を一人に統合していたりすると,冒頭に断り書きがある.
 また,一部に誤りと思われる部分も見られる(例えば配られたバッジはガンマ線ではなく,アルファ線を測っていたのだろう)が,自国の軍隊に強いられて,南海の孤島で核実験を見せつけられ,心と体を蝕まれた人々の体験談としては,秀逸なものだと思う.

 あと,この本を読むまで,エニウェトク環礁をウエトニク環礁だと思ってた….

------------軍事板,2012/01/

 【質問】
 オットー・ハーンって誰?

 【回答】
 オットー・ハーン(1879〜1968)は,フランクフルト生まれの化学者.
 ラジオトリウム,ラジオアクチニウム,メソトリウム,プロトアクチニウムを発見.
 第一次大戦中は毒ガスの技術的研究開発に従事し,また,1938年には,中性子をあてることによりウランに核分裂が起きることを発見した.


 【質問】
 北朝鮮やイランは核開発してるようですが,わざわざ核作らなくてもミサイルに生物科学兵器積めば十分アメリカをビビらせる事ができると思いますが,何故そうしないで核兵器に拘るんですか?

 【回答】
 生物化学兵器は軍事用としてはあんまり向いてないのですよ.

 1.長期保存が無理なので,発射直前で弾頭に積める必要がある.
 2.1の理由により敵の攻撃に対して即応体制が取れない.
 3.最大限の効果を発揮させるには,核兵器より高度なミサイル技術が必要.
 4..3の条件が満たされても気象条件に左右されやすく,効果が事前に計算不可能.どこまで広がるか解らないので自爆の危険がある諸刃の剣.
 5.国際的に保有が認められてないので,敵の先制攻撃の口実になりかねない.
 6.5の理由により恫喝には使えない上,1と2の理由により先制攻撃で無力化されやすい.
 7. 化学兵器は,まずサリンでもフグの毒には遠く及ばない.地下鉄の様な密閉空間ならともかく,普通の場所ではそれほど脅威とも言えない.中和剤もある.

 だから北朝鮮は,たとえ既に持ってても公表しません.
 効果も核の汚染ほどのインパクトはないでしょう.
 外交カードとしては核の方が便利です.

軍事板


 【質問】
 材料が揃っている状況で一国が本気で核兵器を作ろうとた場合,失敗することはありえないのでは?
 現在の核実験は爆発するかどうか試しているのではなく,熱核兵器を作るための実験データ採取に過ぎないこと思うのだが.
 更に言えば,日本は実験なしで熱核兵器を作ったとしても,ほぼ確実に爆発はさせられるでは?

 【回答】
 それは楽観的過ぎます.

 computer simulationなんて,アナログ技術(ウラン濃縮)がきっちりできてからの話です.
 爆縮レンズに関しては火薬の点火の問題で,点火タイミングを制御して指向性爆破を起こす,今日日,特別な技術ではありませんが,

 試作まで半年〜1年はかかると思いますよ.

(軍事板)

 物理現象のシミュレーションには,根拠となるデータが必要です.
 米ロが現在核実験なしで核兵器の開発や品質管理ができるのも,多数の核実験により蓄積されたデータがあればこそです.
 新たに核兵器を開発する国にとって,核実験は不可避です.

 頑張れる方式でも安全装置との組合せての作動実験が必要だと思われ.
 広島のリトルボーイは,最終組立を離陸後に機上でやったらしいが,安全装置をしっかりかけとかないと,弾道弾発射時の衝撃とかで,二分しといたウラン塊がくっついて連鎖反応を起こしかねないとか・・・(((;゚д゚)))

軍事板

 事実,以下の記事でも次のように述べられている.

 核爆弾の設計図もインターネットから容易に入手できるため,工学部の学生程度の知識があれば実際に製造が可能だという主張もあるが,これはあまり根拠のある話ではない.

 〔略〕

 ▲今や原子爆弾の基本原理や構造はブリタニカ百科事典や高校の物理教科書に載る程,その情報の多くが公開されている.
 だからといって原子爆弾の製造が容易になったわけではない.

 まず原料のウラニウム(U-235)とプルトニウム(Pu-239)を手に入れるのが難しい.
 特にウラン型は天然ウラニウム鉱石に0.7%しか入っていないU-235を抽出し,
 純度90%以上に濃縮しなければならず,この過程には多くの困難を極める.
 プルトニウムは原子炉に残った使用済み燃料を再処理することで得られるため,ウラニウム型よりは比較的容易だ.

 ▲原料確保の段階を越えると,ウラン型とプルトニウム型の難易度は逆転する.
 米国が広島に投下したウラン型は比較的構造が簡単であり事前に実験する必要もなかった.
 一方,長崎に投下されたプルトニウム型は瞬間的に核分裂の連鎖反応を引き起こすといった精度の高い起爆技術が必要とされる.

 核実験の目的の大部分は起爆技術を開発するためだが,今回北朝鮮が実験した核爆弾の種類は未だ明らかになっていない.

 ▲原料確保と起爆装置開発の難しさ,ミサイルに搭載するための小型化に至るまで,核爆弾の技術的なハードルは現在も相変わらず高い.
 マンハッタン計画並とまではいかなくとも,数年以上かけて国家レベルで総力を傾ける必要がある.

キム・ギチョン論説委員 in 朝鮮日報,2006年10月11日14時02分


 【質問】
 核兵器1個あたりのお値段はどれくらいが相場なんですか?
 相場がなければ,おおよその最高額,最低額なんかを教えてください.

 【回答】
 「兵器」としての有効性を考えないなら,原爆自体は約6億〜36億円で作れます.
 が,兵器として運用するためには,さらにその10〜100倍必要.

***

 「兵器」としての有効性を考えないなら,原爆自体は約6億〜36億円で作れます.
 以下引用.

【萬物相】原子爆弾の製造法

 インターネットで核兵器に関する情報を検索すると,「原子爆弾を簡単に作るための10段階の方法」といった文書がいくつも出てくる.
 その多くが500万〜3000万ドル(約6億〜36億円)ほどの資金さえあれば容易に原子爆弾を作ることができるとしている.
 その中には「プルトニウムを扱った後は,手を石けんとお湯できれいに洗うこと」などといった多分に冗談めいた記述も見られる.

 ただし,実験データの裏付けのない核爆弾が正常に作動できるかどうかは,もちろん保証の限りではありません.

キム・ギチョン論説委員 in 朝鮮日報,2006年10月11日14時02分

 が,兵器として運用するためには,さらにその10〜100倍必要.

 核兵器は一個いくらで売ってくれるものではないので,開発しないと持てません.
 米の場合,ブルッキング研究所が出した数字では,1940年から1996年の間に,開発,実験,配備,維持で600兆円ほどかかったとのことです.
 冷戦最盛期には米はおよそ5万発の核弾頭を所有していた
http://hypertextbook.com/facts/2000/FannyTsui.shtml
ようですから,仮に1955年からこの数字に達し,10年ごとに全核弾頭を新品と取り替えるとして(25年保管可能という数字やプルトニウムコアは40年以上という説もある
http://www.tms.org/pubs/journals/JOM/0309/Martz-0309.html
思い切り単価を低く見積もって一発25億円と言うことになりますか.
 実際には,その10倍ぐらいまで見ないといけないかな.
 現在から取りかかるなら,開発費は大巾に節約できますから,取りあえず持つだけであれば国連のレポート
"Economic Implications of the Acquisition and Further Development of Nuclear Weapons (1967),"
によると2〜3000億円程度で熱核弾頭を20〜30発持てると推算されているようです.

 また,当然ながら核兵器には運搬手段が必要であり,先制核攻撃に耐える設備が必要であり,たいていそれは不確実なので戦略核動力潜水艦のような報復攻撃手段が必要であり,盗難や不法使用,クーデターの防止手段が必要であり,それでやっと核均衡を作る可能性が生まれます.
 敵ミサイルの発射を感知するための早期警戒衛星や目標をセットするための偵察衛星,それらを守るための衛星防御態勢開発,確実で迅速な意志決定,情報伝達システムの構築.
 その間に,費用は10倍にも100倍にも膨れあがるものと思われます.

 核兵器は一個いくらで買って使える兵器ではないのです.

system ◆systemVXQ2 in 軍事板


 【質問】
 今の時代,秘密裏に核兵器を開発することは不可能なんでしょうか?

 【回答】
 核実験をすると地面が揺れます.
 人の起こした人工の地震ってことで,各国の地震研究をしているところで察知される可能性が出てきます.

 また,大気中に微細な粒子,放射線を発する物質が放出されます.
 従って怪しげな振動があってから暫くして,付近を飛行する航空機でチリを採取して,核実験でしか発生しないようなものが含まれていれば,実験をやったということが分かります.

 ということで,核兵器開発の最終段階である核実験はだいたいばれるかもしれません.

 とはいえど,イスラエルと南アフリカのような例もありますし,海外からの情報流入,海外企業勤務,留学などでもある程度の知識は得られるという話はあります.

 また,NPTに加盟してなくて核実験まで進んだ国もあるし,毛沢東の頃の中国のように,何はおいてもまず核兵器というような開発をするところもあるので,正直分からりません.

 ちなみにNPTに加盟していて,原子力利用をしている国は,IAEAの厳しい査察を受けます.
 非加盟国はインド・パキスタン・イスラエルのみ.

軍事板
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 ある一国が自前で報復核戦力を持つには何年かかりますか?

 【回答】
 最も参考になると思われるフランス核武装略史.

・58年,核実験を決意,核プログラムを加速.
・60年,核実験成功
・62年,原潜開発を決意.
・66年,水爆実験成功.
・67年,ル・ルドゥタブル級戦略原潜建造開始.
 71年一番艦就役.三番艦74年就役.
・ル・トリオンファン級戦略原潜一番艦86年に建造決定,一番艦は97年に,三番艦は04年に就役

 ル・ルドゥタブル級戦略原潜は騒音がひどかったそうです.
 つまりフランスが本当に自前で確実な報復核戦力を持ったのは,ル・トリオンフォン級の3隻目が就役した04年,今年です.
 58年の政治的意思決定から実に46年!

 またフランスは91年までに,南太平洋で大気中実験41回,地下核実験134回,サハラ砂漠で17回,95,96年に8回の核実験テストを行っております.
 核の戦力化には最低限これぐらいのデータが必要ということでしょうね.

軍事板,2004/09/23
青文字:加筆改修部分



 【質問】
 莫大なコストと日数がかかるにも関わらず,フランスが,あえて自前で核開発したのはなぜですか?
 【回答】
 コンプレックスの裏返し.ドゴールがカイロ会談にもポツダム会談にも呼んで貰えず,連合国首脳としての評価をされなかったから.
 最終的にドゴールに核武装を決断させたのは,スエズ動乱においてソ連が核攻撃を含む恫喝を行ったのに対して,アメリカが英仏の干渉政策に対する反対から,報復を確約しなかった事.
 このことが,最終的な政治的独立の為には核抑止力が必要との認識を生んだ.

軍事板


 【質問】
 質問です,海水からウランが取れるそうですが,これって現実的に,どのぐらい有望なのでしょうか?
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/090628/biz0906281953004-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/090628/biz0906281953004-n2.htm

鉄底海峡,2009年08月11日 06:14

 【回答】
 それ,コストパフォーマンスがぜんぜん取れないってレベルじゃなかったでしたっけ?

 記事の中に

>最大の課題である採取コストをウランの実勢価格の3倍弱に引き下げる技術を確立した.

と書いてますが,これも理論段階であり,現状は7倍以上の価格差があったかと思います.
 「3倍」としても,元が取れるとは思えないのですが.

ますたーあじあ,2009年08月11日 12:48

<小項目> ウラン等の資源
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=04-04-01-02
>海水中には平均3.34 ppbのウランが含まれている.
>その含有量は微量であるが,
>海水中のウラン総量としては約40億tに達すると推定される.

(ppb=10億分の1)

 コストの問題もそうですけど,どれだけ採掘できるの?つう疑問が.

ゆきかぜまる,2009年08月11日 13:12

 原子力発電の場合,鉱石調達・精錬・転換コストは燃料コストの一割で,総費用の3%です.ウラン鉱石そのもののコストは低いのですよ.これが三倍になっても,石油発電とのコスト差で吸収できるかもしれません.
 ウラン資源の調達先の多様化という点では海水からの抽出は捨てたもんでもないと思います.
 諸外国の批判を無視して核兵器の保有を望む国にとっても,ウランを国産化できるメリットは大きいでしょう.

原子力発電コストの内訳(原子力百科事典 ATOMICA)
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/01/01030401/02.gif

 また,十年ほど前の実験ですが,こんなのがあります.

――――――
日本で産出しない希少金属を海水から捕集(文部科学省発表)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/10/05/980530.htm#top

 平成9年には 図4 に示す装置を使用して,捕集材1〜2kg(不織布の面積では,7〜15m2を15cmの大きさにして重ねたもの)を金網の容器に入れ,深さ10m〜30mの海水中に20日間係留する試験を8回繰り返し,合計で酸化バナジウム20グラムと酸化ウラン16グラムが捕集できた
――――――

 単純に考えると,捕集材を2000トンづつ使えば,年間36トン以上の酸化ウランが採取できることになります.
 工業規模でやったら,けっこう採れるのでは.

東部戦線,2009年08月11日

 合成樹脂2000トンと酸化ウラン36トン引き換えですか.
 金勘定を計算に入れなくとも,もったいない気が.
 リサイクルできるんですかね?

ゆきかぜまる,2009年08月11日 16:50

▼ この点については,産経新聞での報道がなされた直後に以下のブログで取り上げられ,私自身の考えるところもコメント済みですので,併せて参照願います.
海水からウランを取り出して,原発の燃料にできたら - 「国際派時事コラム・商社マンに技あり!」ライブ版

 以下は私自身のコメントであり,現時点での評価も以下の通りです.

----
「長年の研究成果が実るのでしょうか」
----
 これら技術は私自身が学生時代の前から,長年研究されてきたものの,ウラン価格・需要の長期的な低迷によって基礎研究から発展できなかったものです.
 今回の実証実験によってコストは度外視しても,すぐに実用化できる物ではなく,様々な課題が現れることと考えます.
 しかし,これら課題の地道な解決が重要なのであって,希少資源(ウランに限らないことが肝要ですず)確保の有効なオプションとして開発保持する意義は大きな物と考えます.

<もっとも原子力発電コストにおける核燃料の割合は低く,ウラン確保コストも影響しますが,その後の濃縮,加工他のコストが大きなことも指摘すべき事実です.
 そのため,本技術の無制限なコスト度外視は出来ませんが,それにこだわりすぎるのも不適であり,現時点では地道な実証研究開発が重要と愚考します.>(Jul 5, 2009 04:15:05 PM)
----

 まあ,コメント欄にいる国士様は別問題として,
「手放しに評価できるものではないが,地道な努力によりここまでようやく到達したのであり,さらなる研究開発が必要.
 ただし,この段階での実用化には時期尚早」
というのが,核燃料屋――その関係上,各価格・費用も1銭単位まで承知していますが,先のatomicaでの数字以上は普通の商業機密です――も経験した私自身の冷徹な評価です.
 以上,ご参考までに.

へぼ担当,2009年08月12日 00:08

 海水からの資源回収については,こちらのCOEプログラムの資料がわかりやすいかと.
http://anachem.env.kitakyu-u.ac.jp/research/Lithium.pdf

 ウランではなくアルカリ金属の話ですが.
 最近は吸着剤として,合成樹脂だけでなく,リサイクルや元素回収が容易なスピネルやゼオライトの多孔体が検討されているようです.
 採算ベースに乗るかどうかは,リチウムの市況次第というところですが.

 また,資料内に各元素の価格と,海水中での濃度を表にしたものがありますが,ウランは少々厳しいようです.
(海水中の濃度に比べて価格が安すぎる)

出稼ぎ労働者,2009年08月12日 23:27

以上,「軍事板常見問題 mixi支隊」より
青文字:加筆改修部分

▼ 補足情報です.
 「ホンダワラ」という海藻に遺伝子組み換えを施して,吸着能をあげるという計画があるそうです.
「日本海の浅瀬(排他的経済水域)を利用.6500万トンのホンダワラを養殖し,年間2000万キロリットルのバイオエタノールや1950トンのウラン(国内原発利用量の4割に相当)を回収する」
という計画だそうで.
 「アポロ&ポセイドン構想2025」という名で,三菱総研から提案されています.
http://r25.jp/b/honshi/a/link_review_details/id/110000003826

HDK in FAQ BBS,2009年8月23日(日) 15時18分
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 海水からのウラン採取ですが,金銭的な面はおいておくとして,合成樹脂をそれなりに消費するであろうと言うことから,エネルギー収支の面でプラスになるのかどうか疑問です.
 昔の錬金術師見方からすれば,まさに,福音かもしれませんが,現代に生きるエンジニアの端くれとして非常に気になります.

ゆきかぜまる,2009年08月12日 01:40

 【回答】
 本来は厳密な計算をしてみなければなりませんが,
「合成樹脂2000トンと酸化ウラン36トン引き換え」
という2桁程度の差であれば,技術的にはエネルギー収支が黒字になる可能性は高いと考えます.
 実際の化学反応におけるエネルギー放出と,原子力(核分裂・核融合)によるエネルギー放出は,おおざっぱに言って6桁の違いとなりますので,その間の様々なロス(さすがに天然ウランが全て燃えるわけではありませんし,合成樹脂生成に要するエネルギーも加味しなければなりません.)を考え合わせても,何とか釣り合いがとれるのかもしれません.
 もっとも理論上の最高値と,実際の技術の間には,大きな差異がありますので,
「うまくやれば黒字になりうるポテンシャルを持つため,運用形態含めてさらなる研究開発が必要」
という評価となるわけです.

<逆に海流や発電所の温排水等の既存・未利用の流れを使うのではなく,海水のくみ上げなどの方法を採るのであれば,いくらお金があっても足りず,エネルギー収支もマイナスとなる可能性が大です.
 この例を採るだけでも,これからの研究開発が不可欠なのは言うまでもありません.>

へぼ担当,2009年08月12日 02:09

 「合成樹脂2000トンとU235約0.3トン引き換え」 という話にはなりませんか?

ゆきかぜまる,2009年08月12日 06:04

 基本的に仰る通りかと思います.
 6桁というのは,原子核1つの化学反応と核分裂・核融合反応を比較した理論上の最大値ですので,(この場合は)核分裂側,また同様に化学反応側でどのような技術を用いるのかで,大きく左右される問題だと考えます.

 よって,
----
もっとも理論上の最高値と実際の技術の間には大きな差異がありますので, 「うまくやれば黒字になりうるポテンシャルを持つため,運用形態含めてさらなる研究開発が必要.」
----
との評価になります.
 そして,本当に黒字になるかどうか,運用形態・前提条件も含め詳細な検討が必要と考えています.

 以上より,現段階では
「さらなる研究開発が必要」
と私個人は判断しているわけであり,これ以上語れる具体的な試算もしくはデータを持っているわけではありません.

 もちろん,いくらポテンシャルがあっても,それを引き出すことが出来なければ実用化以前の問題となってしまうことは言うまでもありませんが,その結論を出すのも,また時期尚早と愚考します.

 以上,ご参考まで.

へぼ担当,2009年08月12日 19:46

以上,「軍事板常見問題 mixi支隊」より
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 ケーキの作り方を教えてください.

 【回答】
 皆様,こんばんは.
 「マヨリーン 最短で3分,下手すりゃ3世紀クッキング」の時間です.
 今日はケーキの作り方を紹介いたします.
 では,さっそく作っていきましょう.

 こちらが材料となる鉱石です.
 この鉱石を,よーく砕いて粉にします.
 できたものが,こちらにございます.
 そして粉にしたものをですね,20〜30g/リットル程度の稀硫酸と混ぜ合わせます.
 溶けが悪いようでしたら,酸化剤も加えてください.
 できたお汁が,こちらにございます.
 このお汁,このままでは味が薄くて使えませんので,イオン交換樹脂法か溶媒抽出法によって濃度を高めてあげましょう.
 できたものが,こちらにございます.
 これに硫酸を加えて,残留する炭酸塩を分解しましてですね,アンモニアや水酸化ナトリウムなどの強アルカリを加えて,重ウラン酸塩とするか,または過酸化水素を加えて過酸化ウランとして沈澱させます.
 そしてそれを乾燥させて完成です.
 これが完成したイエロー・ケーキです.
 ウラン含有率は80%程度に高まっていますので,ご家庭で美味しくいただけます.

 それでは,みなさん,また来週〜.

「この番組は,皆様の食卓をヌルテカにする,マヨリーン・マヨネーズがお送りいたしました」

 【参考ページ】
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=04-04-01-01
竹田敏一『図解雑学 知っておきたい原子力発電』(ナツメ社,2011),p.108-109

硫酸およびアルカリ浸出によるウラン粗精錬
(こちらより引用)

【ぐんじさんぎょう】,2012/05/09 20:10
を加筆改修


 【質問】
 原子炉を作って核兵器級プルトニウムを生産する場合,実験用原子炉を単にスケール・アップしただけで,ディモナ級の原子炉は建設可能なのでしょうか?
 政治的問題は抜きに,純粋に技術的問題として.

 【回答】
 結論から先に言うと,その元となった原子炉の性能にも依りますが,一般論として
「実験用原子炉をうまくスケール・アップすれば,ディモナ級の原子炉は十分に建設可能」
です.
 以下は根拠です.

 元となった原子炉が「大学の実験炉レベルのもの」と言っても,「臨界集合体」と呼ばれる「原子炉を臨界にして特性を確かめるのが目的(そのため出力はせいぜいW(ワット)単位)」の特殊な原子炉でない限り,数百から数千kWレベルの物が大勢であり,設置されている冷却装置そのものは別としても,原子炉の炉心自体には十二分な余裕を持つものがほとんどです.

 一方,一説に依れば「核兵器級プルトニウム」を生産する原子炉は,数千から数万kWレベルの物と言われています.
 もちろん,それ以上でもそれ以下でも「核兵器級プルトニウム」の生産が出来ない訳ではないのですが,必要とする生産スピードにはそれくらいで十分なようであり,後処理の問題も考えると,それくらいが妥当と考えられています.
(あまり出力が大きすぎると,量も多く,処理しきれないまま,せっかく出来たプルトニウムが原子炉内で燃えてしまったり,核兵器としては不適なプルトニウムが出来上がってしまったりします.
 一方,出力が小さい方は,単に必要とする量のプルトニウムの出来上がりに時間がかかるだけです.)

 そのため,元々が「大学の実験炉レベルのもの」であるなら,せいぜい数倍程度のスケールアップにとどまり,桁がさほど異なる物ではないため,比較的対処は容易なものと推測されます.

 では,スケールアップにはどうしたらいいのでしょうか.
 ここが各国の技術レベルの差であり,洗練された物となるか,無駄に豪華な物となるかの分かれ目となります.

1.最も簡単な方法;原子炉を横の方向に大きくする(装荷する核燃料の数を増やす)
 →原子炉は運転制御や冷却の面は別として,同じ燃料ならその数を増やせば増やすほど臨界に成りやすくなるため,単純に並べる核燃料の数を増やせばそれだけ出力を増すことは簡単に可能です.
(実際は課題もありますが,技術的には対応は比較的容易(説明は難しいのですが)です.)
 ただし,原子炉はその分単純に大きくなりますので,新たに原子炉を作り直すなどにしても,コストは高く付きます.

2.次に簡単な方法;原子炉をそのまま3次元各方向に大きくする.
 →本来なら真っ先に思いつく方法でしょう.
 しかし原子炉の場合,冷却を考えるのは必須です.
 一方,カナダのCANDU炉など特殊な例外を除き,原子炉炉心では下から上向きに冷却するのが一般的です.
 そのため,単純に上下方向に大きくしてしまうと,原子炉炉心上部で温度が上がってしまうため,冷却が厳しくなります.
 すると,安全確保のため,様々な解析や解決手段(技術)が必要となり,話は早々簡単には済みません.

 そのため,1.のように単純に装荷する核燃料の数を増やす方が,何かと簡単・安心です.

3.原子炉炉心の出力(出力密度)を大きくする.
 →最も洗練された方法です.
 うまくやれば原子炉はそのままにして,冷却装置を大型化すれば済むだけに,最も安価で,何とかなりそうな感じを受けられるかも知れません.
 しかし,臨界維持や冷却・運転制御,安全解析など様々な課題が大きく,それを克服するのは容易ではありません.
 ぶっちゃけ,原子炉炉心そのものを新たに開発するのも同然,と言えるぐらいのものです.

 これが出来うるのは,原子炉を単に国産化できるだけではなく,独自開発が出来るところのみであり,原子力(核兵器)開発揺籃期の国ではとても無理です.

 また,核兵器級プルトニウムを生産するには,
「無駄に中性子を当てず,ほどほどの所で取り出す」
ことが必須です.
 この「ほどほど」というのが非常に重要であり,原子炉の出力密度を増す方向ではどんどん難しくなっていきますので,その意味においてはあまりうまい手段ではないと言えます.

 <逆に発電炉や舶用炉など,原子炉を動力源として用いるには,経済性を増すためにも,この方向は必須開発事項です.
 また,経済性とは無縁のように思える軍事用原子力推進艦船にしても,「原子炉区画のコンパクト化」は常に要求される事項でしょう.

 以上,1.〜3.の方法がありますが,中国が初期に用いたのは1.の方法と,元々ある原子炉炉心の余裕代の範囲内での増出力の組み合わせでしょう.
 数倍程度のスケールアップなら,その程度で十分対応可能と愚考します.

へぼ担当 by mail,2008年04月12日 10時02分


 【質問】
 原子炉への核燃料注入口はどこ?

 【回答】
「燃料棒注入口」
とは酷い表現です(笑)
 核燃料がガソリンのように液体で,ぼとぼと「注入」されるわけではありません.

 「溶融塩炉」と呼ばれる例外中の例外や,特殊な実験炉を除き,核燃料は「燃料棒」とあるように「固体(金属形態であったり,セラミックのような酸化物形態であったり,こちらは色々です)」です.

へぼ担当 by mail・改


 【質問】
 黒鉛炉は「運転中に核燃料交換が可能」だそうですが,具体的にはどのように交換するのですか?

 【回答】
 「運転中に核燃料交換が可能」というのは,聞こえは簡単なのですが,高性能の原子炉になればなるほど,

・熱(下手だと,核燃料を急加熱,急冷却して破損させる事故になる)
・圧力(下手だと,原子炉冷却材が漏れることとなり,大事故となる)

などの問題があり,なかなか公開文献で「運転中に核燃料交換が可能」とするメカニズムの図解がない
(メーカー・ノウハウとなってしまう)
ことがあります.

 実際,「運転中に核燃料交換が可能」というのは,うまく動作すれば大変なメリットなのですが,高性能な原子炉になるほど,上記のような技術的なハードルが高くなり,機構が大変複雑となる上に,トラブル・メーカーにもなります.
(実際にGCR(英国MAGNOX炉)を採用した日本原子力発電鞄穴C発電所でも,最後の最後まで燃料交換機にかかるトラブルが発生しました.)

 また,「運転中に核燃料交換が可能」というのは,技術的なメリットもさることながら,悪意を持てば

「原子炉に入れて(専門用語で「装荷する」と言います)中性子を照射しておき,核兵器用プルトニウムとして理想的な組成となった時点で,原子炉の運転を止めずにタイミング良く取り出すことが出来るため,核兵器用プルトニウムの生産に都合がよい」

(参考:イラクの破壊されたオシラク原子炉は研究用原子炉ですが,「ある運転方法+手法」を用いれば,小規模でも上記と同様のことが可能となります.)

という核不拡散上大きな問題があります.

 そのため,「運転中に核燃料交換が可能」な燃料交換機は,その旨,明文化されていないとしても,「取扱注意」となる傾向があり,それにより簡略図等でも公開文献での入手が困難になっています.

 そのため,当該原子炉については,どんぴしゃりの図面が無くて恐縮なのですが,おなじみATOMICAから
(現在整備中閉鎖のため,別ミラーサイトへのリンクです)

黒鉛減速炭酸ガス冷却型原子炉(GCR)
http://219.109.2.236/atomica/02/02010106_1.html
の以下の記載,図面
(図面は先のページ内リンクの以下3つが最適)

図1 東海発電所の建家断面図
(http://219.109.2.236/atomica/pict/02/02010106/06.gifより引用)

図2 東海発電所の原子炉構造図
(http://219.109.2.236/atomica/pict/02/02010106/07.gifより引用)

図4 東海発電所の原子燃料要素構造図
(http://219.109.2.236/atomica/pict/02/02010106/09.gifより引用)

が参考になると考えます.

(以下,必要部分抜粋;注釈部分は筆者文責)

----
1.GCRの構造
 GCRの例として東海発電所を掲げる.
 表1 に設計要目を, 図1に建家断面図を示す.
 図2 に原子炉構造図を示す.
 基本構成はコールダーホール型(CH)と同じであるが,発注当時の日本における原子力安全の考え方から,東海発電所ではいくつかの改良点があり,改良コールダーホール型炉と呼ばれている.
 とくに,六角形黒鉛ブロック積層キー構造(耐震設計上頑丈,CHでは正方形黒鉛ブロック),中空円筒形燃料(核熱特性上有利,CHでは中実燃料),後備原子炉停止装置(ボロン鋼球の落下による),緊急時炭酸ガス注入装置(非常用炭酸ガス系とも呼ぶ,原子炉冷却系主配管破損事故対策)などを採用している.
 なお,GCRではいくつかの炉型があり,たとえば原子炉容器の形では球形(東海発電所)と円筒型(コールダーホール)があり,燃料棒では中空円筒型(東海発電所)と中実円筒型(コールダーホール)があり,燃料冷却フィンではら旋型フィン(東海発電所)とヘリボン(herringbone魚の骨,ヒンクレーポイント−A)型フィン,横型フィン(コールダーホール,チャペルクロス)があり,黒鉛ブロックも正方形(コールダーホール)と六角形(東海発電所)がある.
 燃料チャンネルを有する正六角形断面の黒鉛ブロックが約2,000個円形状に並べられ,この黒鉛ブロックが10層(この内2層は反射体)に積み重ねられ,炉心を構成している.8体の燃料要素が黒鉛ブロックにスタック状に詰められ燃料チャンネルを構成している.
 燃料チャンネルの間隙に中性子吸収材(ボロン鋼管)をもつ制御棒チャンネルがある.

(注記:「燃料チャンネルを構成」し,その燃料チャンネル毎に閉鎖・解放できることが,「運転中に核燃料交換が可能」とする絶対条件です.)

(中略)

5.燃料の取替
 燃料の取替は原子炉運転中に行なわれる.新燃料は燃料倉庫から燃料装填準備室に運ばれ8体づつマガジンチューブに装填される.
 燃料取替機(C/M)はマガジンチューブを取り込んだ後,目標の燃料取扱用スタンドパイプ位置まで移動し,原子炉容器に接続される.
 燃料取替機内は原子炉と均圧にした後,使用済燃料を炉心から取り出し新燃料を挿入する.
 この際,新燃料は挿入前に予熱され,使用済燃料は取り出し後は冷却される.

(注記:このようにさらっと書いてありますが,「新燃料の予熱」「使用済燃料の冷却」「目標の燃料取扱用スタンドパイプ位置まで移動し,原子炉容器に接続される状況(特に接続密閉構造)」がノウハウの固まりです.
 また,使用済燃料を抱えるわけですので,その状態で止まってしまうと,非常に強い放射能を抱えてしまい,その修理が困難になること.接続が不完全で,原子炉の冷却に用いている炭酸ガスが漏れると,原子炉にとって大きな事故になることなどから,複雑な構造ながら非常に高い信頼度が求められることになります.
 そのため,最後の最後までトラブルが発生したわけで.
 「運転中に核燃料交換が可能」は,非常に大きなメリットですが,そのためへの設計配慮・制作・メンテナンス共に大変難しいこと.
 さらに,現在のように高温化など,設計が高度化されると技術的にさらに難しくなるため,よほどの特殊な目的・必要性がない限り,現在ではそのような設計を出来る限り避ける傾向があります.

 <逆に,敢えてそこにこだわると,IAEA査察の絶好のターゲットとなり,核兵器開発疑惑などを招きかねない結果となります.

 ちなみに,同じ「黒鉛減速ガス冷却炉」でもHTTR(高温工学試験研究炉)
http://219.109.2.236/atomica/03/03040207_1.html
http://jolisfukyu.tokai-sc.jaea.go.jp/fukyu/mirai/2007/12_8.html
はその構造上,「運転中の核燃料交換は不可能」です.

 また,その技術レベルは
天(HTTRは現在開発中:最新;ヘリウムガスを冷却材として使用し,原子炉取り出し温度が950℃を達成した高性能炉)

地(GCRは原子力黎明期;原型は半世紀も昔)
ほど異なります.

へぼ担当 by mail



 【質問】
 軽水炉の燃料棒交換の場合は,この模式図
(http://www.iae.or.jp/publish/tenbou/1999-GENSIRYOKU/siryou/z3-3.gifより引用)
から推測するに,燃料棒を交換するには原子炉容器の天蓋全体をあけなければならない,と愚考しますが,それで合っていますでしょうか?

消印所沢

 【回答】
 ご推察の通りです.
 より正確には,軽水炉の場合「燃料棒」ではなく「燃料集合体」の交換になります.
 ぶっちゃけて言うと「燃料棒」を束にしたものが「燃料集合体」であり,BWRの場合60本以上が束になっています(PWRでは最大17×17で289本が束になっています).
 ちなみに軽水炉や,現存する高速炉では,その構造上(核・熱水力設計含む)このように核燃料棒を束ねた「燃料集合体」とするのが得策であり,ガス炉との大きな違いとなっています.

<これには,もちろん合理的な理由(技術的・運用上双方とも)があるのですが,説明するととても長くなるため,省略します.

 そして,GCRとの大きな違いとして,GCRでは使用済燃料の交換中,非常に強い放射線(まともに近づくと被曝で死亡するほどです)を燃料交換機で遮蔽しますが,軽水炉の場合,深く水張りを行い(約10m以上),その水で遮蔽して使用済燃料を移動させます.
 なお,このことを指摘できるか否かで,その人が原子力を本当に理解しているか否か判断できます.
 深いプールに使用済燃料を沈めて取り扱っているのは,単に使用済燃料を冷やしているだけではありません.
 そのため,とてもこのような状態で原子炉の運転を継続することが出来ないことは,誰の目にも明らかです.

<上記を指摘できない人間は,文献上理解しているつもりだけで,実物を見たり,扱ったりしたことがない証拠です.
 もし扱ったとすれば,それは単なる「知らぬが仏」であるだけで,全く理解していないことから,その証言には全面的に疑問符が付けられることとなります.

<余談;この水張りを省き,原子力空母の燃料交換では遮蔽不要とした電波記事を掲載したのが,月刊の「軍事研究」誌.
 あまりの間違いのため,私からその点を指摘.当該部分は「軍事研究 2007年8月号別冊 21世紀の原子力空母」で削除修正された.
 しかし,その際,良く理解していない状態で,同じ原子力船なら良いだろうと,「原子力船 むつ」の特異な前提条件における状態での文献を無理解に引用して,このような遮蔽の必要がないが如く記載している.

 本来,引用された文献自体,それ自体は全く正しいが,それが適用できる事態が非常に特異な事例
(原子炉をほとんど動かしていない状態で,そのまま10年以上停止・冷却したため,放射能がほとんど問題にならない,極めて希で特異な事例であった.)
にも関わらず,その点について全く知識を欠いていたため,そのまま一般化して掲載してしまったもの.

 実際には,同じ「原子力船 むつ」であっても,原子炉を動力源として実験航海を行い,解役された際には,使用済燃料は当然ながら強い放射能を持っていたため,厳重な遮蔽操作がなされており,現在も遮蔽容器(使用済燃料貯蔵(保管)容器)の中に保管されている.

へぼ担当 by mail


 【質問】
 再処理とは?

 【回答】
 再処理とは使用済核燃料中に含まれているウランとプルトニウムとを化学的にそれぞれ回収し,さらに分離された残りの核分裂生成物を安全に処理すること.
 その方法は大別して湿式法と乾式法があり,湿式法には沈澱法,溶媒抽出法,イオン交換法があり,乾式法にはふっ化物揮発法,乾式高温法がある.
 溶媒抽出法(ピューレックス法)は現在実用化されている唯一の方法である.
http://www.rist.or.jp/atomica/dic/dic_0317_01.html

 核物質は核兵器へ転用される可能性をもっているので国際的な規制が行われており,国際ルール上はそれに対応しなければ取り扱うことができない.
 日本では再処理実施者は国内法により,計量管理規定を定めて,国の査察と国際機関(IAEA)の査察に対応できるよう,計量管理の質を維持しなければならない.
 すなわち1970年に採択された核拡散防止条約(NPT)の下では,保障措置の手段として適切な質の計量管理が根幹となるという合意があり約束ごとになっている.
 しかし施設の大型化や複雑化に際して,計量管理すなわち物質収支の定量的把握のみでは,核物質の転用の推測さらに不転用の確認には不充分であろうと言うのが,現在の保障措置システムの構築に当たっての定説になって来ている.
 特に施設が大型になり,核燃料物質の取扱量が増すと,在庫差の数値が大きくなる可能性があるので,対応手段として計量期間を短縮していけば在庫差が小さくなり,在庫差の異常の発見も早くなり得るという考え方がある.
 この考え方に沿いながら,プラントの操業を止めて実施する在庫調査を必要としないことを目指した近実時間計量管理(NRTA)という手法が研究されている.
 更に施設(物質収支区域)の境界に於ける物,人(物を携帯している可能性)の出入りを直接,間接に取り締まる封じ込め・監視方式(C/S)を計量管理方式に重ねることなどが検討されている.
http://www.rist.or.jp/atomica/04/04070303_1.html

 近年では「プルトニウム分離に反対」というこれまでの核不拡散政策の延長上において,「核拡散抵抗性の高い先進リサイクル技術」の開発も行われている.
 先進再処理技術として国際原子力パートナーシップ(Global Nuclear Energy Partnership:GNEP)が上げているのは,UREX+法,または乾式再処理技術であり,ともにプルトニウムを単体で分離せず,超ウラン元素とともに回収することにより,放射能レベルが高く,テロリストが扱うことも困難であり,核兵器製造も困難であるとしている.
 ただ,この技術であっても,あらたな国への技術移転を禁止していることから考えると,やはりこの技術も核拡散リスクはゼロではない,ということになる.
http://www.rist.or.jp/atomica/14/14040144_1.html

 また,IAEAでは最近の核不拡散問題を憂えて,ウラン濃縮及び再処理の国際管理構想を提案している.
http://www.rist.or.jp/atomica/13/13010105_1.html

【ぐんじさんぎょう】,2009/4/26 21:00
に加筆


 【質問】
 ウラン濃縮度って何?

 【回答】
 2種以上の同位体で構成される物質中のひとつの同位体の濃度を,天然の比率より増加させることを濃縮といい,濃縮後のウラン中のウラン235の含有率をウラン濃縮度という.
 天然ウランは質量数234,235.238の3種類の同位元素からなり,U-235は0.7%しか含まれていない.
 素地がアルミニウムで構成されている板状燃料としては,かつては高濃縮度(濃縮度20%以上:45%,93%など)のウラン・アルミニウム合金が主流であったが,米国の低濃縮化政策の強い要請により,一部の研究炉を除いて,濃縮度20%のウラン・アルミナイド−アルミニウムまたはウラン・シリサイド−アルミニウム分散型燃料に替えられた.
 他方,核兵器用ウランは,ウラン−235の濃縮度が90%以上と言われている.

 要するに(ウラン濃縮度)=(U-235の質量数)÷(ウラン全体の質量数)?

 【参考ページ】
http://www.rist.or.jp/atomica/dic/dic_detail.php?Dic_Key=224
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=04-06-01-04
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=07-02-01-08

【ぐんじさんぎょう】,2010/07/30 21:00
を加筆改修

> 要するに(ウラン濃縮度)=(U-235の質量数)÷(ウラン全体の質量数)?

 ほぼ正しいのですが,これら原子力(原子炉物理)の世界では「原子核の個数」が頼りです.そのため一般には
(ウラン濃縮度)=(U-235の個数(密度))÷(ウラン全体の個数(密度))
となります.
 もっとも,これは定義の問題
(プルトニウムの富化の場合は極めて難しい定義が必要であり,各文献によって微妙に,しかし致命的に効いてくる場合があるため,極めて重要;ウランの場合でも回収ウラン利用の場合は複雑そのもの)
なのですが.
 以上の定義にしておくと,ウラン濃縮度を変化させた場合,ウランの平均質量が変わっても
(U-235の割合が増えることから,同じ個数ならごく僅かに軽くなる)
ウランの総数を変えずに済みますので,複雑な計算をせずに済む利点があります.

へぼ担当 in mixi,2010年07月24日 02:12


+++

 【質問】
 電磁法によるウラン濃縮について教えられたし.

 【回答】
 電気的に解離された分子や化合物をイオンという.
 このイオンを電磁場を通すことにより,質量の異なるイオンを分離する方法である.
 ウラン濃縮の場合には,六フッ化ウランを使用してU−235 とU−238 を分離する.
 すなわち,六フッ化ウラン(ガス状)をイオン化した後,電磁場に通すことにより,U−235 とU−238 の質量の違いで分離したガスを捕集する.
 工業的規模においては,この装置を多段に用いてカスケードに組上げて,所望の濃縮ウランを生産する.

 マンハッタン計画では,ウランの濃縮法に関し,電磁分離法の他,ガス拡散法,遠心分離法の3種類の方式の開発が進められたが,電磁分離法については,ストーン・アンド・ウェブスター社が設計建設を担当し,1943年春からY−12と呼ばれた工場群の工事がオークリッジで開始された.
 主要工程は巨大な電磁石を楕円形に配列したカルトロン(184inchサイクロトロン)と呼ばれる電磁イオン分離装置で,電磁石はミルウォーキーのアリス・チャルマー社で製造された.
 工程の一部は1943年末に完成したが,その後いろいろなトラブルや障害にあい,全体が完成し,安定した運転ができるようになったのは1945年春ころからであった.

 イラクの秘密核兵器開発でも,ジャファール・ジャファールとサルマン・ラシードとが電磁分離法の開発を担当したが,設計上の複雑な段階で多くの問題にぶつかった.
 このためイラク核センターは,設計支援のため,ジュネーヴにあるスウェーデンの会社,ブラウン・ボヴェリと契約を結んだ.
 しかし1980年8月,ラシードは突然,毒性の強いインフルエンザに感染して死亡した.
 モサドによる暗殺が疑われている.

 【参考ページ】
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=04-05-01-08
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=16-03-01-09
『イラク原子炉攻撃! イスラエル空軍秘密作戦の全貌』(ロジャー・クレイア著,並木書房,2007.7.15),p.87-88
http://ukiukiblog.seesaa.net/article/4660567.html(画像引用元)


【ぐんじさんぎょう】,2010/05/22 21:00
を加筆改修


 【質問】

――――――
 Pu239の純度を上げたければ,中性子の照射時間,つまり原子炉の運転時間を短くすれば良いのです.
 Pu中の不純物は,主として質量数が偶数番号のもの(240Pu,242Puなど)ですが,これらは239Puが中性子を吸収して,しだいにできるので,早めに燃料を原子炉から取り出してしまえばよいわけです.

――――――(引用 原子力発電がよくわかる本 榎本聰明著 P184)

というのは本当ですか?

 【回答】
 簡単に論点を.

・Pu-239をどのように作るのか.各原子炉の特性は?

 各原子炉では中性子のエネルギー分布が異なります.
 そのため,同じ中性子照射量であっても,生成されるPuの各同位体の割合は当然異なることとなります.また,照射量が異なれば,その違いはさらに際だつこととなります.
 Pu-239生産に最適なのは...の問いには,核兵器拡散防止の観点から,敢えて答えませんが,上記の事実を無視した議論には大きな落とし穴があると考えます.
(少なくとも核不拡散・原子炉物理屋には相手にされません.)

へぼ担当 in FAQ BBS,2009年6月30日(火) 2時46分
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 アメリカその他各国は北韓に軽水炉の建設を提案していたが,なぜ軽水炉なら核兵器開発が困難なのか?

 【回答】
 いわゆるKEDOによる1000MWeクラスの韓国型PWR建設の件ですが,これは技術的にも以下の通り,主な点だけでも何重にも伏線があります.

1.軽水炉(この場合PWR)を運用するには「濃縮ウラン」が不可欠.

 細かな技術的理由は省略しますが,軽水炉を運用するには「濃縮ウラン」が不可欠です.
 これが,核不拡散上において技術的な最大の障壁となっており,イランのように蛮勇をふるい,全てを犠牲にしても国産化に突っ走るか,輸入するかのどちらかです.
 そして,何らかの問題(核兵器開発疑惑などの国際問題)がある場合,原子力発電所が有っても運転できなくなると言った,まさに首に匕首を突きつけられた状態になります.

 そのため,あのインドですら軽水炉を泣く泣く諦め,従来,経済性に劣る国産重水炉路線(+トリウムサイクル開発)を採ってきた訳で.
 米国・インド原子力協定の意義は「濃縮ウランの確保」が最大の眼目となります.
<だからこそ,イランが偏執狂的に自前のウラン濃縮に拘泥する訳ですが.

2.発電用軽水炉(BWR,PWR)では核兵器用プルトニウムの生成が困難

 発電用軽水炉ではその構造上,核燃料を取り出すためには,運転を停止して,設置されている遮蔽物を移動させ,原子炉全体のふたを開けるといった大がかりな作業が必要となります.
 通常の発電をする場合は,1−2年に1回(日本国内では法令上13ヶ月までが原則)の定期検査の際に行う話ですので全く問題にならないのですが,熱中性子炉で核兵器用プルトニウムの生成を行う場合は,早期に原子炉から核燃料を取り出さなければならなくなるため,「極端に短い間隔(ここが最大のミソ)」で運転(発電)を止める必要があります.

<本来はもう少し説明すべきなのですが,大変長くなります故....

 そうすれば,その痕跡は隠しようがなく残るわけで,電力の供給問題はもちろんのこと,IAEAの査察が入れば一発ですし,衛星写真でも「有る部分」に着目すればカモフラージュはほぼ不可能であり,監視可能です.
 よって,まともな国ならば軽水炉で「核兵器用プルトニウムの生成」をしようとは考えないことになり,何らかを犠牲にしなければ核兵器開発は原子力開発と共に頓挫することになります.

3.そもそも軽水炉建設・運転・保守などの運用には高い技術が必要.

 あのインドですら技術的な問題から,従来ごく小規模な原子力発電所しか運用できなかったわけで.
 軽水炉の運用には高い技術が必要であり,仮に軽水炉の原子力発電所が完成したとしても,濃縮ウランを必要とする核燃料の調達,設備のメンテナンスだけでも,新興国ですら最初から全て自前で行うことは不可能です.

<韓国ですら,ウラン濃縮やその他枢要な点で不可能なほど.むしろ,非核保有国のうち,「天然ウラン」調達を除き,全て自前で行うことが出来る日本やドイツが「例外中の例外」と言っても過言でないほど.

 そのためのKEDOによる〔北韓での〕韓国型PWR建設だったわけであり,危険なおもちゃを独裁者の手に委ねるような真似をするわけではなく,きちんと技術的な担保を取る形であったわけです.

 以上,長くなりましたが,ご参考まで.

へぼ担当 in 「軍事板常見問題 mixi支隊」


 【質問】
 以下の記事は信頼できるか?

―――――――
Q 〔施設周辺の土壌の〕サンプリングで何が分かるのか.
A 例えばプルトニウムの場合,核兵器製造に適した「プルトニウム239」のほか「プルトニウム240」など「同位体」と呼ばれる多くの種類がある.
 採取した物質を調べ,どのプルトニウムがどれだけの濃度だったか,などが分かれば,核物質を作った過程がどんなもので,いつ目的にしていたかを特定する手がかりを得られる.
 そのデータと施設の運転記録などを照合し,食い違う点などがあれば,理由を問う.

―――――――日本経済新聞(2008/7/11)朝刊「核計画の検証―土壌分析,核物質の目的特定(Q&A)」

 【回答】
>核物質を作った過程がどんなもので,いつ目的にしていたかを特定する手がかりを得られる.

 日本語の問題でもあるが,意味がこれでは通じない.正確には以下の通り.

「どのような過程で核物質が原子炉内で作られ,取り出されたのかを特定することで,その運転操作の意図を推定(判断)することが出来る」

>そのデータと施設の運転記録などを照合し,食い違う点などがあれば,理由を問う.


 間違いではないが,上記の修正と併せると,より正確には以下の通りとなる.

「また,これにより申告された原子炉等の核関連施設の運転履歴と比較することで,その申告の正確性(虚偽申告の有無)を判断する.
 そして,合理的に説明できない差違があれば理由を問う(再申告を求める)と共に,しかるべき場(国連他)に報告,査察事項追加などの必要な処置を講ずることとなる.」

 記事の内容はほぼ正しく,今後の理解に資する物と高く評価できます.
 しかし,残念ながら字数の都合からか,誤解を招きかねない表現もあるため,どうしても引っかかる点のみ,以下修正を試みることとしました.

へぼ担当 in 「軍事板常見問題 mixi支隊」


 【質問】
原子炉実験所において,世界初の加速器駆動未臨界炉実験を開始しました.(2009年3月4日)
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news7/2008/090304_2.htm

エネルギー収支はどうなんだろ…

ゆきかぜまる in 「軍事板常見問題 mixi支隊」

 【回答】
 ぶっちゃけ加速器の性能(効率)次第です.
 本計画には恩師や後輩他多数が携わっておりますが,エネルギー収支の目標としてはイーブン程度.維持費用をまかなえたらもっと良いな,程度でしかありません.
 本原子炉の目的は,あくまで通常の原子炉から出る高レベル放射性廃棄物の元となる,長半減期の核種(マイナー・アクチニド;MA)の消滅を早める「消滅処理」にあり,エネルギー生産は二の次でしかありませんので,その程度で十分と見なされています.
 もちろん,エネルギー生産も出来ればよいのですが,現状では加速器の効率及び容量が悪すぎます.
 その点の改善は必須なのですが,まずはこのような原子炉のそもそもの成立性(挙動他)の立証がメインです.

へぼ担当 in 「軍事板常見問題 mixi支隊」


 【質問】
 兵藤28のひとのロボット本が届いた.

 原子力に関する話で,黒鉛の減速材を球状にしたペブルベッド炉の話が出てたが,これってまともな原子炉なんでしょうか?
 減速材と燃料が一体になってるから,制御をどうするのかが想像つかんのだが( ・・)/

 いちおうこの辺にあがってるから,まるっきりヨタなものではないと思うんだが.
http://www.nr.titech.ac.jp/~hsekimot/fission_energy.html

緑川だむ,2009年12月07日 02:00

 【回答】
 写真をちらっと見たことがありますが,普通に制御棒突っ込んでたはずですよ.
 圧力容器の中に制御棒通すための管が最初からあって,その中に突っ込んだり入れたりしてたはず.
 炉心って系全体で中性子を制御できればいいわけですし.
 多分.
 原子炉物理学は難しいので分かりません!

 南アフリカなんかが結構積極的にやってたはずです.
 高温ガス炉って言うくくりであれば,日本とかでもやってますけどね.
 出口温度が高いので,最近ではその熱を利用して直接水素を作ろうとかそう言う話も.

 まー,流行りのキーワード持ち出して知名度上げたり,予算貰おうとするのはいつものことです.

で,お約束のATOMICAのページを
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=03-03-07-03

D.B.,2009年12月07日 02:49

 原子力関連技術者(原子炉物理・核燃料・原子炉運転専門)が身も蓋もない,極めて厳格かつ冷徹な評価をすると
「ウラン系列の核燃料を用いる場合,一般の軽水炉より非常に高いと言えるウラン235の濃縮度が必要となることが一番の問題.
 現状の市場を見る限り,商業用原子炉では極めて特殊と言える濃縮度の高さへの要求に対する,供給余力は少なく,事実上,それに応えるには世界最大級の濃縮能力を持つロシアの支援が欠かせないであろう.
 ちなみに日本国内による,それに対応する濃縮役務提供は,IAEA査察協定上でも,設備の面でも無理である.」

「また,基本的にワンススルー(核燃料サイクル)が前提条件で,使用済核燃料の再処理は期待していない
(全く不可能というわけではないが,技術的に使用済みの黒鉛の分離・処理は極めて大きな問題であり,ワンススルーが合理的.あり得るとすれば炉内でのトリウム使用による増殖など,その燃料形態を変えないなどの工夫が必要).
 よって,事実上,使用済核燃料からプルトニウムを取り出すのは不可能といった,核不拡散上での大きな利点があり,中進国での導入において,物理的な核不拡散抵抗性とその経済性の両立に大きな魅力があるが,信頼できる先進国ではその魅力は薄い.」

「安全性の面で言えば,大きな出力反応度負の特性や,黒鉛の熱容量,余剰反応度が少なさなど,魅力は極めて大きく,その点でも中進国でも安心して任せることが出来ると言える.」

「基本的に南アフリカのPBMRは,
ドイツでの発電用実験炉AVR(熱出力:46MW,電気出力:15MW,定格運転期間:1967〜1988年)
や,
発電用原型炉THTR−300(熱出力:750MW,電気出力:300MW,定格運転期間:1986〜1989年)
の建設および運転経験が元となっており,原子炉側で特に安全性について問題が起こることは考えにくい.」

「一方,発電タービン側は『高温ヘリウムガスタービン』という,ほとんど未開発の技術開発が必要であり,縦型タービンの実現のため磁気軸受けなどの要素研究が行われたが,結局は技術リスクの高さから,従前の横型タービンに落ち着き,各建物施設の小型化などのメリットが失われつつある.」

「また,従前の考え方では原子炉圧力容器を取り囲む,原子炉格納容器の存在が安全確保の鍵を握っていたが,PBMRではその安全性から削除されている.
 このことが,本来持つPBMRの安全性を根底から脅かす可能性もあり,その場合は原子炉格納容器が必要となる.
 これはPBMRの安全性を強化する上では大きな意味があると考えるが,同時に巨額の建設費用を必要とすることになる.」

「これは,小型で簡素,モジュール化で量産が効き,安価のため,小型炉の経済性を担保できるというPBMRの基本コンセプトを根底から脅かすものとなりかねず,その絶妙なバランス感覚の確保が求められるところである.」

「なお,PBMRに対する日本国内企業の関わり合いとして,(株)東芝がWH社の資本参加企業の形で加わっている事が特記される.
 これは二重の意味で重要であり,現状,当該核燃料の製造技術を持つ(正確には撤退せずに生き残ったと言える)世界唯一の民間企業である原子燃料工業(株)がWH社の子会社化したことも,機械要素だけではない重要性を持っている.
 また,日本から三菱重工業がベンダー(ガスタービンと炉心槽を受注)として参加しており,成功への鍵を握るガスタービン部分を担当していることは重視すべきと考える.」

 以上,身も蓋もない評価ではありますが,原子力従事者として部内向けに極めて冷徹な評価を下すと,以上のようなことになる次第.

 なお,以上の評価は私個人が所属する企業,団体の意見を代表する物ではないことをお断りしておきます.
 また,この情報
(技術的評価であり業界評価は少ないため,インサイダー取引を問われる可能性はほぼありませんが)
による株取引などで損失等を被った場合も,一切関知しないことをお断りしておきます.

 さらに,一切の解説をせずに,専門用語の羅列で終わったことをお詫びします.
 これを丁寧に解説すると,論文が一つ書けるほどの量になってしまいますので,その点はご容赦ください.

> 東京工業大学関本教授

 このような小型炉における原子炉物理や熱力学の権威であり,原子炉概念設計のスペシャリストと言えます.
 私個人は関本先生の足元にも及ばないところですが,日本原子力学会等では十二分に論戦に参加することの出来る力量だけは備えており,核不拡散抵抗性などへの考慮など,小一時間どころか,数年にわたっても議論できるところであり,絶対の信頼に足る先生だと考えています.
 まあ,出来ることなら社会人博士号の取得を...という野望があるのは内緒です(爆).

 以上,完全に仕事モードで恐縮ですが,専門従事者としてマジに対応するとこのようになると言う,ご参考まで.

へぼ担当,2009年12月07日 23:04

以上,軍事板常見問題 mixi別館」より
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 原発内部でのマスクって,そもそも何だろ?
 電離則に,マスク程度で防げる特定作業なんてあったかな?
 普通の防塵マスクだったらお笑いだな.
 請け負い業者で,本当に当該作業に短時間しか従事しないなら,じん肺のリスクは相対的に下がるから,薬局のマスクでもアリ.
(見学者にその手のマスクを配ることはよくある)
 見栄えが悪いからカメラの取り合いになったのかもね.

元のスレに居た人 in FAQ BBS,2009年12月11日(金) 0時6分
青文字:加筆改修部分

 【回答】
 「普通の防塵マスク(,もしくはそれ代替の薬局マスク)」の着用ならあり得るかと考えます.
 ただ,これは溶接やガス溶断などのヒュームなどの,一般に有害なガスを防いだり,グラインダーなどでの鉄粉を吸わないようにする,一般産業の防護用であり,放射能(内部被ばく)防護という面では,ほとんど意味がありません.
 まあ,対象物等が汚染されていて,それらに対し上記の加工を行った際に,「ついでに」内部被ばくのリスクを低減できる可能性は否定しませんが,そのような状況下では,活性炭付きの専用のマスク等を着用すべきなのであって,「普通の防塵マスク(もしくはそれ代替の薬局マスク)」の着用では,普通の作業でののどや肺を痛めない程度の役割しかないことが指摘できます.
 以上,ご参考まで.

へぼ担当 in FAQ BBS,2009年12月13日(日) 16時7分
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 『原子炉被爆日記』や『原発ジプシー』という類の本に対する評価を,お聞かせ願えれば幸いです.
 両者は内容的には似たようなものではないかと想像いたしますが,後者は当時けっこう反響を呼んだらしく,山岸凉子のマンガにまで登場してきたくらいでして.

消印所沢 in mixi,2009年12月09日 23:24
を元に改修

 【回答】
 まあ,1980年代初めぐらいまではそのようなことはあったのかも知れませんが,今となっては約30年前と,現在で同じ事があるわけ無かろうに.
 そもそも私個人が足をつっこんだ1990年代以降,同じようなことがあったら大騒ぎなのだが,というのが正直な評価.
 真偽はともあれ,その内容は議論するまでもなく.
 現在に至っては前提条件が違いすぎて,ためにする物でしかあり得ない.
 おまけに無意識のうちの差別感情丸出し(「黒人」が作業するから危険な作業のはずだ...など現代で同じ事を記載した場合,その人種差別的な傾向だけでも徹底的に叩かれるような拙い部分も多々見受けられます)で,見苦しい以外の何物でもなく.
 まあ,懐疑的な皆さんは,「危険な話(広瀬隆著)」や「原発がどんなものか知ってほしい(平井憲夫著作)」等と同じく,バイブルとしてあがめているのかも知れませんが,少なくとも現在の姿からは滑稽ですらない,というところでしょう.
 これは自動車工場の内幕を描いたという,鎌田慧著「自動車絶望工場」と,同じような流れをくむ物であり,当時の一部文壇のはやり(確かに売れたとのこと;逆に言えばそのような性格を持つ本と考えていただければ正解)だったのでしょうが,それ以下でもそれ以上でもない,というのが評価です.

 あまり人様の著作について否定的な評価をしたくありませんが,これらについては「読むに堪えない」「正直放置」,現在に至っては「時代錯誤」という,私個人としては最低ランクの評価が正直なところです.

へぼ担当 in mixi,2009年12月10日 00:33



 【質問】
 ご回答ありがとうございます.
 出版当時にはありえたかもしれないということでしょうか?

 黎明期の日本の原発事情に関する書籍として,
『新・原子炉お節介学入門』(柴田俊一著,一宮事務所,2000.11)
をざっと流し読みしてきたのですが,当時としても,どうもありえなさそうな雰囲気が.

消印所沢 in mixi,2009年12月13日 23:46

 【回答】
 基本的にこれらの問題について,私個人は全く信用していませんが,それら信憑性については
「極めて疑わしい(もしくは何らかの誤解やトラブルを針小棒大に伝えているだけ)が,全くなかったかどうかまでは悪魔の証明となってしまうため,証明できない.
 しかし,少なくとも,まともな論評としてこれらを扱うことは絶対に避けるべきであり,それを引用することはそれだけの無用で無益なリスクを負うことになる.
 そのため,絶対にお勧めできないし,私個人が添削するとすれば,当該部分については全面削除もしくは見え消しを行う」
というところが,私が述べることの出来る見方です.
 もともと,当該著者に対しては「全く信用に値しない」というのが,私個人の評価ですので.

 なお「新・原子炉お節介学入門」の方は自信を持ってお勧めできます.
 黎明期の牧歌的雰囲気と緊張した雰囲気が,当事者ならではの視点で良く記載されており,技術史として歴史的な価値も高い物と考えています.
 ちなみに私個人が初めて原子炉に触れ,操作したのもこちらのところです.
(原子炉の直接利用という面では,過去に横須賀市内で稼働していた立教大学原子炉が事始めですが,1年ほどの違いでしか無く,その内容の差は段違いだったりします.)

へぼ担当 in mixi,2009年12月14日 00:27


 【質問】
 チェレンコフ光を肉眼で見ることはできるのか?

 【回答】
 チェレンコフ光とは媒質中を,光の速度よりも速い速度で荷電粒子が通過した場合に発生する物.
 そのため,普通の大気中では見ることが出来ず,通常は使用済燃料プールや原子炉など水中奥底でしか見ることが出来ません.

 ただし,JCO臨界事故の際にこの青い光を目撃したとの証言があります.
 これは眼球内の水晶体(まあ水の固まりです)の中で発光した物と推測されており,そこで発光するほどの放射線を被曝してしまった場合,その結末は既に予想されている物と言えます.

 ですから,同じく大気中でそれを確認した場合は,同じ結果になるわけで.

へぼ担当 in 「軍事板常見問題 mixi別館」,2009年12月06日 15:33
青文字:加筆改修部分



 【質問】
>チェレンコフ光とは媒質中を,光の速度よりも速い速度で荷電粒子が通過した場合に発生する物.

 光よりも速い速度ってのが,一般常識から外れていると思うのですが.

OOM-7大佐 in FAQ BBS,日付:2010/2/28(日) 18:0
青文字:加筆改修部分

 【回答】
 物質中を伝播する光の速度は,遅くなる模様.
http://www.atomin.go.jp/yougo/syosai.php?type=2&id=252

 ウィキペディア(Wikipedia)によると,水中の伝播速度は0.75c

仮 in FAQ BBS,2010/2/28(日) 20:57
青文字:加筆改修部分


 【質問】
 妻が,北朝鮮が核実験をしたら,死の灰が降ってくると思うけど,どうやって防ぐか?と問います. 私もわかんない.
 身重の妻を守るイイ知恵はないでしょか?
 総連施設に避難させて,なんていったら断られるんだろうか?

 【回答】
 やるとしてもたぶん地下実験でしょう.死の灰が撒き散らされるおそれはありません.
 よしんば地上実験だとしても,アメリカでは実験場から数百キロの地点でフツーに人が住んでたりします.
 統計的に多少健康によくはないかな,程度です.

 例えば60年ほど前に,とある極東の島国で2発の空中核爆発が起きたことがあります.
 もしお暇でしたら,どの程度の範囲で被害が起きたかを調べてみてください.

 それよりもそうやって気に病むことのほうが母体にはよくありません.
「専門家に訊いたら,全く問題ないといっていた」
とでも言っておくとよいでしょう.

 どうしても心配なら,こんな感じの放射線測定器を持って
「ホラ,今日もも大丈夫だYO!」
と安心させるのもいいかもしれませんね.
 ただ,くれぐれも,イラクで劣化ウラン弾取材した奴らのように感度最大にしないでね.
 自然界の放射線で反応しまくるから.

軍事板


 【質問】
 実際に爆発させなくても,未臨界核実験だけで核兵器開発を行うことはできないの?

 【回答】
 未臨界核実験,すなわち劣化ウランを使用した実験なら,実際に連鎖が始まるまでは,かなり実物に近いところまで持って行けるので,信頼性は高い.
 ただし核爆発させるだけの濃縮ウランを入手するのがたいへん.
 U238とU235は化学的な手段で分離できないため,大規模な施設とエネルギーが必要.おまけに濃縮ウランならガンタイプの原爆を作ることができ,これは実際上実験なしでまず確実に作動する.
 未臨界核実験の価値は,ぎりぎりの量の濃縮ウランしかない場合に,なんとか爆縮型で起爆させようとするとき,
 あるいは節約,ブースト原爆の作成などを狙うときということになる.

 プルトニウムは原子炉で燃やした燃料棒から化学的に容易に分離できる.
 同位体組成も原子炉の構造と燃焼時間で制御できる.
 しかしプルトニウムには劣化ウランのような爆発しない同位体がない.
 このため未臨界核実験が極めて困難.
 実物を使うしかなく,基礎データがないと意味ないレベルの低質量になったり,逆に起爆させてしまうこともあり得る.
 おまけにプルトニウムは作るしかないので高価であり,そのような実験で消費するのはたいへんもったいない(回収はたいへん困難).
 というわけで,なにも基礎データを持たない国が未臨界核実験を行うととても能率が悪い.
 無意味だということではないが,全然万能ではないということです.

 こう書くと劣化ウランを使えば臨界核実験は必要ないように見えるが,実際は核分裂反応によりウランが飛び散ろうとするので,正確な実験にはならない.
 まあスパコンをつかえばある程度補えるが,それでも百回ぐらいの臨界実験が欲しいところだ.
 それに地政学的条件からしてミサイル原潜が必要だが,原潜を実戦配備するには最低でも十年,常識では二三十年必要になる.
 総動員法でも制定しないかぎり,一世代かかるわけだ.

 まずは戦略爆撃機と並んで原潜の開発に乗り出すべきだろう.
 原潜の燃料を大義名分にすれば高濃縮ウランの大量保有も出来るだろう.
 原子炉を小型化する必要から兵器級ウランを使うからね.
 再突入については有人宇宙飛行を名目にするのがいい.
 シナが今頃始めたのもこれが一因.正確な技術を誇示したのだろう.

 ロケットは太さではなく高さ制限をすればよかったのだが・・・
 原潜に搭載するなら十bが精一杯だろう.
 固体ロケットの商用利用を名目に造り置きにする必要もあるだろう.
 長期保存技術及び大量生産技術を手にすることができるだろう.

軍事板


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