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◆◆第2次レバノン紛争
<◆戦史
<中近東FAQ目次
(画像掲示板より引用)
米陸軍戦略研究所が無料で配布してます.
エッセンスは
・非国家主体による軍事行動の実際を,2006年の戦い時のヒズボラの戦術・戦略行動を通じて分析している.
ということです.
――――――おきらく軍事研究会,平成20年(2008年)12月22日
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http://www.idcj.or.jp/1DS/11ee_josei060825_2.htm
今回の事件のまとめとして読むがよい.(by
イスラエル交通相◆3RWR.afkME)
【イスラエルのメディア】
ハアレツ(中道左派)
エルサレム・ポスト(右派)
アルツ7(宗教紙)
イディオト・アハロノト(最大紙)
ニュースリンク
YouTube軍事動画まとめ:イスラエル
【質問】
なぜイスラエル軍はレバノンへも侵攻したのか?
【回答】
2006/7/12,ヒズボラに拉致された兵士2名を救出するため.
ヒズボラは同日朝,レバノン国境に近いシュトラ近郊で警備中の軍用車を襲撃し,2人を連れ去ったという.
……2正面作戦して大丈夫か?
ただし,紛争が突発的に始まったかのような観測は,誤りだという.
また,レバノン大学のマスード・ダーヘル教授などによれば,イスラエルの狙いはヒズボラ殲滅だという.
以下引用.
ヒズボラがイスラエル兵2人拘束,イスラエル軍はレバノン空爆
[ベイルート/マルジャユーン(レバノン)/エルサレム 12日 ロイター] レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラは12日,イスラエルとの国境付近でイスラエル兵2人の身柄を拘束したと発表した.ヒズボラ系のテレビが報じた.
イスラエルの「チャンネル10」テレビによると,イスラエル軍も,レバノンとの国境付近で兵士2人が行方不明になっていることを確認.
レバノンの治安関係者によると,イスラエル軍は同日,レバノン南部の主要な橋1つを空爆した.
イスラエル軍がレバノン侵攻=00年の撤退後初,兵士の救出目的
【エルサレム12日時事】イスラエル軍は12日,レバノン南部への侵攻を開始した.レバノン領内への地上部隊投入は,2000年に同軍が撤退してから初めて.
レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラが同日拉致したイスラエル兵2人の救出が目的.
ヒズボラはイスラエル北部の対レバノン国境地帯に展開していた軍部隊などをロケット弾や迫撃弾で攻撃し,兵士2人を拉致した.
この攻撃により,兵士3人が死亡,兵士と住民十数人が負傷した.
侵攻後もイスラエル軍戦車が攻撃され,兵士4人が死亡した.
イスラエル放送によると,ヒズボラは12日朝,レバノン国境に近いシュトラ近郊で警備中の軍用車を襲撃し,2人を連れ去った.
この後,イスラエル軍はレバノン側の橋や道路などを空爆.レバノン南部に侵攻した地上部隊は,ヒズボラとの間で激しい交戦となり,イスラエル軍によると国軍兵7人が死亡した.
また,JDW(2006/7/19) "Israel-Hizbullah
conflict threatens to envelop region"によりますと.ヒズボラがIDFの兵士2名を拉致したとき,
1.まず砲撃を仕掛けて注意を逸らしておいて,
2.イスラエル側が設置した監視用センサー網の死角で,
3.国境のパトロールを実施していたイスラエル軍のHMMWV×2両に対してRPG攻撃を行い,
こうして2名を拉致した由.
どう見ても意図的かつ計画的な犯行です.本当にありがたくありませんでした(まてこら).
井上@Kojii in mixi支隊
イスラエルのオルメルト首相は「戦争行為だ」として大規模な報復攻撃を示唆.大部隊を国境地帯に集結させ,同日夜の緊急閣議で新たな作戦を承認する意向を示した.
〔略〕
AP通信によると,軍は数千人規模の予備役を招集する方針という.
ただし,紛争が突発的に始まったかのような観測は,誤りだという.
以下引用.
そもそも,「イスラエル軍の兵士2名がヒズボラに拉致されたのが原因で,それまで平穏無事だったレバノンで突発的に本格的な戦争が始まった」と思っている時点で,すでに認識が間違っている.
ヒズボラが,イスラエル北部にロケットだの迫撃砲だのを撃ち込んでいるのは毎度恒例のイベントで,何もここ最近に始まった話ではない.
それに,イスラエル軍とヒズボラが戦闘を交える事態だって,以前から何度も発生している.
たとえば昨年6月には,レバノン南東部,ゴラン高原 Golan Heightsに接する場所にある,面積39平方キロのShebaa Farmsという場所でイスラエル軍とヒズボラの交戦が発生している(JDW2005/7/6,"IDF, Hizbullah clash in the Shebaa Farms").
さらに昨年11月には,Rajarという村落の近所にあるイスラエル国防軍の監視哨に対してヒズボラが攻撃を仕掛けてきて交戦に発展,
このときにイスラエル軍のメルカバMk.2戦車のうちの1両が,AT-3 Sagger,TOW,AT-4 Spigotといった対戦車ミサイルを合計7発撃ち込まれたものの,乗員は怪我せずに済んだ(JDW 2005/11/30,"Merkava sweat her Hizbullah anti-tank assault").
そして今年の5月末から,イスラム・ゲリラ2名が暗殺された一件がきっかけになってヒズボラとイスラエル軍の戦闘に発展,
ヒズボラが122mmロケットを撃ち込めば,イスラエル軍は戦車・火砲・航空機を組み合わせた組織的な攻撃で反撃という状況(JDW 2006/6/7, "Fighting flares on Israel-Lebanon border").
そのヒズボラは,国連安保理決議1559号に基づいて武装解除を求められており,それに対して反抗的になっているとされる.
それに,ヒズボラの後ろ盾にイランがいるのは,この辺の情勢に関心がある人なら先刻承知の事実.
先週の対艦ミサイル騒ぎだって,イランがヒズボラに供与した(?)ミサイルが使われている.
だからヒズボラは武器にだけは困らないし,どんどん攻撃を仕掛けることができる.
それは黒幕・イランの利益にもなる.
こんな調子だから,兵士2名の拉致事件だけでいきなり本格的な戦闘に発展した,まるでイントロ抜きでいきなり本番を始めてしまったような話ではないのは,状況を見ている人からすれば分かり切ったこと.
前から頻繁に撃ち合いをやっていたのに,それを誰も報じなかっただけ.
なにせ日本の新聞・TVときたら,テポドン騒動はともかく,「(どうしてこんなに話題になるのか到底理解不可能な)秋田子殺し事件」なんぞに時間と手間を冗費しているもんだから,いざレバノンで本格的な戦闘に発展すると,背景事情の説明がまったく足りない.
それを真に受ける視聴者・読者まで,レバノンではイントロ抜きで本番が始まったと思ってしまう.
そもそも,こういう事態になると国家ではないヒズボラの方が"弱者"として同情的な見方を集めやすいし,また宣伝もうまい.
アルジャジーラという強力な援軍もいる.
仮に自分がヒズボラの関係者だったら,民家が密集した住宅地のど真ん中からミサイルやロケットをぶっ放して,それに対してイスラエルが反撃してきたらアルジャジーラのカメラを呼んで
「こんなに婦女子が殺された」
と宣伝するところだが,さて真相やいかに.
2000年5月にイスラエルが南レバノンから撤退して以来,イスラエルとレバノンの間では小競り合いがひっきりなしに続いてきました.
イスラエル空軍は我が物顔でレバノン領空内を飛び回り続けましたし,2000年10月にはイスラエル軍は国境越しにレバノン領内のデモ隊を射撃し,3名を殺害し,20名を負傷させました.
他方,ヒズボラはロケットや迫撃砲をイスラエル軍めがけて撃ちかけ,これに対してイスラエル軍が砲撃したり,時には空爆したりして反撃することも繰り返し起こり,双方から若干名の死傷者が出ています.
今年5月26日には,レバノンの首都ベイルートでパレスティナ過激派の一つのイスラム聖戦機構の幹部2名が車に仕掛けられた爆弾で死亡しましたが,これはイスラエルの諜報機関モサドの仕業だと信じられています.
これに対し,ヒズボラはロケット8発をイスラエル領内に打ち込みました.その後,国境線をはさんで銃弾が飛び交い,ヒズボラの1名が死亡しています.
こうして,今次紛争の始まった7月12日がやってくるのです.
上記のような経緯から考えて,にわかに「イスラエルは侵略者」とは決め付け難いことだけは確かだろう.
(また,そのようなイスラエル指弾サイトは信頼に値しない).
ただ,イスラエルの閣議決定はいかにも急である.
それゆえ,レバノン大学のマスード・ダーヘル教授らのような,イスラエルの狙いはヒズボラ殲滅だという見方も出てくる.
もっとも,平時からそのようなプランを立てておくのは,どこの国の軍隊でもやっていることであり,「計画は前からあった」ということが直ちに非難対象にされるというのもおかしな話なので念のため.
以下引用.
<イスラエル>「ヒズボラの殲滅目指す」とダーヘル教授
イスラム教シーア派民兵組織ヒズボラによるイスラエル兵拉致に端を発したイスラエル軍のレバノン攻撃について中東専門家が情勢を分析する緊急討論会「中東戦争の深淵―イスラエルの対レバノン攻撃をめぐって」が21日,東京都内であった.
講演したレバノン大学のマスード・ダーヘル教授はヒズボラとパレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの間の「相互支援関係」の存在を指摘,イスラエルの狙いは兵士奪還だけでなく「ヒズボラをせん滅することだ」との主張を展開した.
ダーヘル教授は東アラブ現代史,日本・東アラブ比較史が専門.7月から9月まで日本に滞在して研究活動をしている.
イスラエルは「兵士解放と北部国境付近のテロリストの脅威の排除」が軍事行動の目的と説明しているが,ダーヘル教授は,イスラエル軍の攻撃が大規模かつ用意周到だったことなどから,
「拉致事件の発生前からレバノンを攻撃する計画はあったはずだ」
との主張を繰り広げた.
その上で,ヒズボラを武装解除し,ヒズボラの拠点のレバノン南部にレバノン政府軍を駐留させ,国境画定の不安定要素を取り除くのがイスラエルの狙いだと分析した.
実はイスラエルは,かねてからヒズボラを壊滅させる機会をうかがっていたのです.
2004年からイスラエルは,ヒズボラを,空爆から始まって地上部隊の進撃へと3週間で壊滅させる作戦の立案を開始し,何度も机上演習やシミュレーションを繰り返し,昨年には米国政府にも,いずれこの作戦を発動する旨を伝えていたのです.
米国政府は,この作戦の発動に暗黙の了解を与えていた,ということになります.
イスラエルは,建国以来,最も周到に準備した戦争を遂行したのです.
(以上,
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/story/0,,1839280,00.html
(8月8日アクセス)による)
今回の件は,レバノン側の甘さが際立っているね.
イスラエルに対して自国が武力に劣ることは明白でありながら,その危険性に無自覚のまま,ヒズボラに”聖域”を提供していた.
「あの」イスラエルが,”聖域”をいつまでも”聖域”のままに放置する訳がない.
武力侵攻を予測できなかったのなら,レバノン政府の失態と言う他ない.
武力侵攻の可能性が念頭にあったのなら,国際社会やアラブ域内で根回しを済ませておくべきだったのだし,多数派工作に失敗したらしたで,無策のままヒズボラを野放しにしておいて良い筈がなかった.
イスラエルが”聖域”の存在に対し無策であろうと甘く見ていた.
”国際世論”が味方になってくれるだろうと,根拠もなく楽観視した.
レバノンの2つの過誤が重複して,現在の事態に至った.
善悪の問題ではなく,ただレバノン政府は無能無策であった.
さらに稲坂硬一が「軍事研究」2006年10月号で述べているところによると,イスラエルは数年後にはイランの核兵器がヒズボラへ渡るだろうと予測しているためだという.
もっとも,こんなことを述べておられる方もおられますが……
イスラム教シーア派民兵組織ヒズボラによるイスラエル兵拉致に端を発したイスラエル軍のレバノン攻撃について中東専門家が情勢を分析する緊急討論会「中東戦争の深淵―イスラエルの対レバノン攻撃をめぐって」が21日,東京都内であった.
〔略〕
黒木英充・東京外語大教授は
「交渉がないまま一気に(イスラエル軍の)攻撃が行われたにもかかわらず国際社会は沈黙してきた」
と批判した.
ええと,全然沈黙などしていませんが,国際社会.
それどころか,国連が非難決議を出したり,UNIFILを増員したり…….
【質問】
なぜヒズボラはイスラエル兵を拉致したのか?
【回答】
レバノン大学のマスード・ダーヘル教授によれば,ハマスとヒズボラの間には協力関係があり,今回の拉致は,イスラエル兵を拉致したハマスを支援するためだという.
以下引用.
イスラム教シーア派民兵組織ヒズボラによるイスラエル兵拉致に端を発したイスラエル軍のレバノン攻撃について中東専門家が情勢を分析する緊急討論会「中東戦争の深淵―イスラエルの対レバノン攻撃をめぐって」が21日,東京都内であった.
講演したレバノン大学のマスード・ダーヘル教授は〔略〕ヒズボラによるイスラエル兵拉致は,パレスチナ自治区・ガザ地区で同じように兵士を拉致したハマスを「支援する行動だった」と説明した.
さらに,ヒズボラは
(1)00年に始まったパレスチナの第2次インティファーダ(反イスラエル抵抗闘争)を指導してきた
(2)数年前からハマスとの相互支援関係ができている
――と指摘するなど,ヒズボラとハマスの「連携」を強調した.
あるヒズボラ幹部は,イスラエルはこれまで,ヒズボラによる攻撃に遭っても大きな反撃を控えて来たため,今回も攻撃してはこないだろうと思っていた,イスラエルの反応を読み違えた,と,ぼやいているとか.(ハアレツ,エルサレム・ポスト,2006年7月26日)
日本でも,同様の分析が見られる.
以下引用.
今回のレバノンの戦闘激化は,■ヒズボラ側はまったく意図しないことだったというのが定説■だ.
APによれば,レバノン議会のキリスト教系政党のカーゼン議員も「ヒズボラが判断ミスをした」と語っている.
戦闘の発端は7月12日,レバノン南部で,ヒズボラ部隊が国境を越えてイスラエル軍の歩哨所を攻撃,イスラエル兵2人を拉致したのがきかっけ.
カーゼン議員によれば,拉致した兵士とイスラエルが拘束している政治犯の交換が目的だったという.
停戦後には,ナスララまでが同じことを言い出しています.
以下引用.
ヒズボラの指導者のナスララは,8月27日,
「われわれは<イスラエル軍兵士の>拉致が,あの時点でかくも大規模な戦争をもたらすとは1%も考えていなかった.
・・7月11日に私が,拉致がこのような戦争をもたらすと知っていたら,私は絶対に拉致を行わなかっただろう」
と述べました(ガーディアン,8月28日アクセス).
少なくとも,ヒズボラがイスラエルの本気度を甘く見ていたことは確定ですね.
なお,稲坂硬一が「軍事研究」2006年10月号で述べているところによると,シリアへの威嚇飛行をIDFが行ったことが,シリアをして子分のヒズボラを動かすことになったのではないかと推測している.
【質問】
リタニ川って「天然の要害」になりえるの?
【回答】
リタニ川は,西岸が台地になっていて,そこを過ぎると西に大きく流れを変える場所がある.
アルノウンは台地上の小さな村のようだ.
地図で見るとリタニ川の川幅は狭い.数十メートルじゃないかな?
簡単な架橋機材で突破できるし,浅いところがあれば徒歩でも渡れるんじゃないか.
あと,レバノンのような地中海性気候では,夏の降水量はゼロに近い.
河川というより溝程度の地形障壁にしかならんと思われ.
【質問】
レバノンへのイスラエル軍侵攻後,なぜか釣り具の上州屋の株が急上昇したそうですが,いったい何故?
【回答】
避難民への支援として釣り具提供を国連採択.
競争入札により,上州屋リョービブランド釣具事業部のザウバーSS1000/1500-LB、CRSレボリューション磯F/FFの配給が決定したため。
Dauer in mixi支隊
イスラエルに飛んできたカチューシャが,実は上州屋のカジキだったので,被災地中心に,突然サマーバケーション気分.
片羽絞め by mail
ヒズ鯔を釣るために釣竿が売れたから.
らふぁえる by mail
【質問】
今回のイスラエルとレバノンの戦いは,第五次中東戦争と呼べますか?
【回答】
規模的には1982年のガリラヤの平和作戦,つまりレバノン侵攻とレバノン南部の安全保障地帯創設(2000年に撤退),PLO本部のチュニスへの追放が似ている.
現状,レバノン領内のヒズボラとイスラエル軍との戦闘でしかなく,シリアやエジプトといった中東戦争の常連も参戦していない.参戦する見込みも無い.
このまま推移すれば,せいぜい『第二次レバノン侵攻』あたりが関の山.
なお,予備役の動員が掛けられているのは,イスラエル国防軍は予備役で充足することを前提とした態勢をとっているから.
軍事的には砲兵と歩兵用の重APCの画像がガザ自治区侵攻でもレバノン国境でも目立ったように思える.
自走榴弾砲はともかく歩兵用の装甲車両の充実振りは,前回のレバノン侵攻では欠けていたと言える.
軍事板
レバノン大学のダーヘル教授も,戦闘が拡大する気配はないとしている.
以下引用.
今後の戦況見通しについてダーヘル教授はヒズボラを支援するシリアやイランを巻き込んで戦闘が拡大する気配はないとの見方を示し,「解決策は(国際部隊のレバノン南部派遣を含む)アナン国連事務総長の提案を関係国が受け入れることだ」と述べた.
【質問】
レバノン侵攻はどれだけ長引くと予想されるか?
【回答】
それは,ヒズボラがどれだけ長く抗戦できるかにかかっている.
彼らのロケット弾の備蓄は向こう一カ月は十分あるが,一方,レバノン内部の補給線を寸断され,ヒズボラは国外から兵器を輸入することが困難になっている.
一方,イスラエルはヒズボラ殲滅まで戦い続けるだろうと見る意見もある.
以下引用.
これまでのところ,ヒズボラはうまくやってきたが,イスラエル軍の猛攻をどこまで支えることができるかは,これからの問題である.
レバノン内部の補給線を寸断され,ヒズボラ側は国外から兵器を輸入することが困難になってくる.
しかし,イスラエルの報道によれば,ロケット弾の備蓄は向こう一カ月は十分あるという.
〔ジェーンズ・デフェンス・ウィークリー誌のレバノン駐在分析員,ニコラス・〕ブランフォード氏は
「7月19日以来,ロケット弾の発射頻度は下がっています.それが戦術なのか,供給が少なくなってきたのかは言うのは無理です」
と語った.
今後の推定では,ヒズボラは全面的な侵攻を待ち構え,イスラエル軍と地上で交戦し,レバノン南部のワディ(低地)や山間部でゲリラ戦を仕掛けるだろう.
〔略〕
イスラエル政府は2000年に18年にわたるレバノン国境の占領を終わらせ,時には「イスラエルのヴェトナム」とも言われる紛争に再度,かかわることはありそうにない.
〔略〕
なお,
>ワディ(低地)や山間部でゲリラ戦を仕掛けるだろう.
だが,実際には街を地下道で結んで要塞化し,そこで待ち構えてゲリラ戦をしかけたのは,すでに周知の通り.
それにしても,紛争終了後に改めて振り返ってみれば,分析の意外な正確性に驚かされる.
一方,イスラエルはヒズボラ殲滅まで戦い続けるだろうと見る意見もある.
以下引用.
いずれにせよ私は,一旦討伐を開始した以上,イスラエルにとっては,ヒズボラを壊滅させるまで戦い続けるという選択肢しか残されていない,と考えています.
以前(コラム#1350)述べたように,アラブ民衆は,圧倒的にイスラム世界におけるファシスト勢力〔ハマス,アル・カーイダ等のこと〕にシンパシーを寄せているのであって,ヒズボラのイスラエルに対する「健闘」ぶりを目の当たりにして,アラブ諸国の民衆のヒズボラに対する熱狂は高じるばかりです(注5).
(注5)ただし,イランの民衆は,反アラブ意識が邪魔をして反イスラエル一辺倒にはなり切れず,アラブ人集団であるヒズボラの「健闘」に対して醒めた見方をしている
(http://www.time.com/time/magazine/printout/0,8816,1218048,00.html.7月24日アクセス).
このままでは,エジプト・ヨルダン・サウディ等のアラブの伝統的独裁諸国家の支配層は,民衆が早晩蜂起するのでは,と戦々恐々としていることでしょう.
しかも,レバノンからの撤退を余儀なくされて地盤沈下していたシリアが,汎アラブ主義の名残で,今次紛争によって発生したレバノン難民を積極的に受け入れ,保護している
(http://www.nytimes.com/2006/07/25/world/middleeast/25refugees.html?ref=world&pagewanted=print
.7月26日アクセス)
こともあり,アラブ民衆の間でシリア人気も高まりつつあります.
また,シーア派のヒズボラとは反りが合わないスンニ・テロリスト集団であるアルカーイダも,ヒズボラ人気による存在感の低下を挽回すべく,今次紛争にテロで「参戦」してくる可能性が出てきたのではないでしょうか.
つまり,イスラエルがヒズボラを壊滅させない限りは,アラブ世界でファシズムが勝利を収め,パレスティナ紛争が泥沼化する,という恐るべき事態が出来しかねないのです.
(以上,特に断っていない限り
http://www.nytimes.com/ref/opinion/26haykel.html
(7月27日アクセス)による.)
こちらは予測を外してしまい,ヒズボラ完全撃滅を果たせぬまま,IDFはレバノンから撤退している.
初期の投入兵力を考えれば,完全撃滅などできない数だろうことは予測できてもよかったのかもしれない(自戒を含め)
+
【質問】
レバノン危機に関するイラク・シーア派のスタンスは?
【回答】
イラク・シーア派の大半がヒズボラに同情するものの,シーア派コミュニティーの一部は,ナスララHassanNassrallahがイスラエルを挑発し,今回の災難を引き起こしたと非難している.
また,イラク・シーア派の指導的権威,シスタニ師Alial-Sistaniが出したファトワでは,ヒズボラに対する財政支援提供に留め,ヒズボラのためのジハードを宣言していないという.
以下引用.
コミュニティーとしてのシーア派
世界中のシーア派コミュニティーは自分たちについて,所属する国家に強い国民的愛着心は持つものの,地理的な国家の境界によって(その国家に)一体化されているユニークなグループと見なしている.
イラクのシーア派も同様で(イラクと言う)国家と土地の一部である.
同時にシーア派は,教義と心理的レベルで(アラブ・イスラム世界の諸問題に)巻き込まれている.
だが,スンニ派的性格が一般的なアラブ世界では,自分たちは少数派だと感じている.
この感情によって,アラブ世界のシーア派は同派間の知的・精神的繋がりを強め,直面する挑戦と困難に関し共通の関心を抱く.
こうしたイデオロギー的根拠から,アラブ・シーア派のマジョリティー,とりわけイラクのシーア派はたとえナスラッラーの考えに同意しないにしても,イスラエルの激しいヒズボラ攻撃に深く心を揺さぶられた.
しかも,ナスラッラーは預言者ムハンマドに遡る家族の末裔である.
そのため,頭にはーー全シーア派の賛嘆と畏怖の対象となるーー黒いターバンを巻いている.
支配的な多数派のシーア派
イラク・シーア派は,イスラエル軍がレバノンのシーア派に及ぼした損害,破壊,追放に苦しさと怒りの感情をあらわにした.
〔略〕
レバノンでのイスラエルの行為に対するシーア派の怒りと批判は,イラク首相ヌーリ・マリキNurial-Malikiの2つの声明で繰り返された.
マリキはさらに,イスラエルの執拗なレバノン攻撃に米国政府と議会が与えた支援をとりわけ強く非難した.
ヒズボラ支援のため自らの権力を使用する
イラク・シーア派は国家の資産に対する影響力と支配権を利用して,レバノンに対する緊急支援2500万ドルの貢献を決定した.
この同じ月,イラクの外相ホシヤル・ゼバリHoshyarZibariは日本から,崩壊しつつあるイラクのインフラ支援のため3000万ドルの借款に調印している.
現在,イラク・シーア派指導部は党派の違いを越えて,イスラエルの対ヒズボラ戦争に怒りの声を強めている.
これは,ナスラッラーに対するイランの強力な支援に足並みを揃えた立場だ.
イラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)所有のテレビ局アル・フラートal-Fourat(ユーフラテス川の意味)は,レバノンのシーア派が被った殺戮に関し,詳細なレポートと映像を放送している.
SCIRIは統一イラク同盟(UIA)の強力な構成分子である.
アル・フラートはまた,そのプログラムのかなりの部分を使い,ヒズボラ支援の行進を鼓舞し,また,その指導者ナスラッラーの演説や民兵部隊のパレードを放送した.
テレビ局がそのニュース番組で,イラクのホットなニュースよりもレバノンとイスラエル北部で行われている戦闘を優先したことは重要だ.
これに,世俗的なシーア派が運営する公式のイラク・テレビも,追随した.
タラバニがヒズボラに寄金
さらに,「シャヒード・アル・ミフラブ」(預言者ムハンマドの婿で,第4代カリフのアリーを指す)の名前で知られるNGOは,寄金箱を用意した.
最初の寄金者はイラク大統領ジャラル・タラバニJalalTalabaniだった.
シャヒード・アル・ミフラブの運営者アンマル・ハキームAmmaral-Hakimは,SCIRIの指導者アブドルアジーズ・ハキームAbdulal-Azizal-Hakimの息子だ.
全員がナスラッラー支援ではない
(ヒズボラとナスラッラーは)イラクのシーア派共同体でこうした強力な支援を受けている.
だが(同時に)イラク・シーア派のかなりの部分が,ヒズボラとナスラッラーを無視,あるいは,彼らに重要性を認めていない.というのは,ヒズボラこそ,イスラエル兵士2人を拉致したことでイスラエルの攻撃を招いたからだ.
これらシーア派の多くは,イスラエル軍による殺害と野蛮な砲撃に対して怒りを隠さない.
しかし,本当はナスラッラーを動かしているイラン人に責任があるとする.
レバノンの状況に関するシスタニ師のファトワ
イラク・シーア派の最高宗教権威であるアヤトラ,アリ・シスタニAliSistaniは世界とその自由な人々に対し,イスラエルの侵略停止を訴えた.
師はこの呼び掛けに続き,ヒズボラとレバノン人被害者支援のためのザカート(喜捨,全てのムスリムに要求される)の支払いを認めるファトワ(宗教命令)を発出した.師はヒズボラと,戦争の結果難民となった家族たちに対し,あらゆる形態の支持と支援を与えるよう,自分の代理人たちに呼び掛けた.
しかし,ヒズボラ支援のジハード展開の指示は抑制した.
一方,シーア派の急進的な聖職者ムクタダ・サドルMuqtadaal-Sadrは米国とイスラエルに対し過激な立場を取り,支持者にイスラム抵抗運動の支援を呼び掛けた.
師の支持者はバグダッドの大規模デモの際,自分たちをヒズボラの延長と見なすようサドルに要求.
また,「アルムサッラス・アルマシューム」(不吉なトライアングル,主として米国,イスラエル,スンニ派諸政府を指す)と名づけるものへのヒズボラ(の戦い)に参加する純粋な意欲を表明した.
イラク・シーア派は,イラン・イスラム共和国の最高指導者アリ・ハメネイAliHameneiのベラヤティ・ファギ(イスラム法学者による支配)理念を支持するヒズボラの政治イデオロギーには同意しない.
しかし(同一の)シーア派信仰のため一種の兄弟愛をヒズボラに感じている.
こうしたイラク・シーア派のナスラッラーとヒズボラ支援は,一部アラブ指導者が(ヒズボラとナスラッラーに対し)明らかに宗派主義的な立場を取ったことに反発して,一層強まった.
一部アラブ指導者は,シーア派がイスラエルとの戦いで勝利することへの恐れを公然と表明している.
また,サウジアラビアのワッハーブ派の聖職者はファトワを発し,シーア派のヒズボラが勝利を得ることへの支援を禁止した.
これをめぐっても,イラク・シーア派の(ヒズボラとナスラッラーに対する)支援は一段と強まった.
【質問】
イスラエルのヒズボラ掃討作戦に対して,レバノン政府が宣戦布告しないのはなぜですか?
【回答】
・レバノン政府にとってもヒズボラは勝手に居座った厄介者.保護する必要がない.ヒズボラ支配地域は事実上国家内国家.
・宗教モザイク地帯であるレバノンは非常に複雑な政治体型であり,身動きが取りにくい
・そもそもレバノン軍にイスラエル軍に対抗できる実力はまるで無い,対抗しても火傷が広がるだけ
こんなあたり.
居候のチンピラと隣のヤクザが大げんか,
しかも,チンピラのバックには別のヤクザがついているので大炎上.
とばっちりをくらいまくっているが,喧嘩を止める腕っ節などあるわけないので,警察(国連)に泣きつくことしかできない……というのが今のレバノンの現状.
【質問】
「レバノン政府は何も出来ない」どころか,本来親米反シリアだったはずの首相がヒズボラ支持を打ち出してるけど?
【回答】
そりゃ,「支持する」って言うだけならタダですから.
レバノン政府も親米反シリアなだけで,親イスラエルでは無いですし.
本気なら,レバノン軍の戦線加入は不可能でも,ヒズボラの後方支援くらいしても良いでしょうよ,
しかし現状,その動きはありません.
シリアはそれなりの支援はするみたいですが,兵員とかの人的支援まではしないでしょう.
レバノン政府としては,厄介なヒズボラ軍事部門がイスラエルに叩き潰された方が自身の為にもなる,程度にしか考えていないかと.
【質問】
モサドに伝わるという「モ茶道」,日本の茶道にはない特徴は?
【回答】
秘密主義が徹底し過ぎて,誰にも何も振舞われず,しょんぼり.
片羽絞め by mail
客人ではなく暗殺対象に振る舞う。
Dauer in 「軍事板常見問題 mixi支隊」
▼ お茶受けがヘキサグラムの形.
水上攝提 by mail ▲
【質問】
イスラエルが今回の紛争にかけた費用は?
【回答】
報道によれば,少なくとも約6630億円.
【イスラエル】レバノン・ヒズボラとの戦闘での推定費用250億シェケル(約6630億円) 政府年間予算の約10%[08/16]
15日付のイスラエル紙イディオト・アハロノトによると,レバノンの民兵組織ヒズボラとの約1カ月にわたる戦闘で,イスラエル側の戦費や建物の修復費などは推定250億シェケル(約6630億円)に上った.
政府の年間予算の約10%,軍事予算の半分以上に当たる.
内訳は戦費が100億シェケル,損害を受けた建物などの修復費60億シェケル,経済成長の損失60億シェケルなど.
今後,経済成長の損失推定額が増え,全体で300億シェケルに上る可能性があるとしている.(共同)
ちなみに,イスラエルは常に国家財政にしめる安全保障予算の比重が大きく(2001年度では約16%),農業補助金と並んで財政赤字の元凶.在外ユダヤ人からの送金・寄付や,アメリカからの経済援助で凌いでいる状況にある.
ムーディーズによる格付けではA2と,ギリシャ,ボツワナと同じレベルとされている.
IDFが短期決戦指向なのも,このため.
コスト・パフォーマンス面でも,今回の紛争には議論の余地が大いにあるだろう.
【珍説】
軍事産業が儲かる以外に,誰にとっても―もちろん,米国やイスラエルにとっても―得にはならないのだ(シバレイのblog)
【事実】
軍需産業が戦争で儲かると思っている,化石のような軍事認識でもって紛争を語っている時点で,まあ論外ですね.
http://www.kojii.net/opinion/col060814.html
でも読んでください.
同サイト曰く,
「あなたたち,『エリア88』の読み過ぎです」
また,
http://okwave.jp/kotaeru.php3?qid=2297449
では,具体的に数字を挙げて詳細に述べられている.
【余談】
>「あなたたち,『エリア88』の読み過ぎです」
ゴルゴ13などの他の漫画にも似たような描写がある点から考えて,これは一種の都市伝説ではないだろうか?
新谷センセの名誉の為に付け加えておくと,エリ8でも
「戦争はコントロールが難しい=戦争で利潤を得ることには無理がある」
という割とシビアな結論が出ております.
軍事板
【珍説】
なんとかの一つ覚えというかなんというか.
シバレイ氏がアメリカのイスラエルに対する軍事支援や兵器の売上高が急増していることを数値を出して示しているのに,それが目に入らないのでしょうか.
戦争は確実に軍事関連企業の需要を増やします.
ただ,冷戦後の低強度紛争では冷戦型大型装備の需要は増えず,冷戦型軍事関連企業にとっては焼け石に水というだけの話.
【事実】
何か忘れていませんか?
そう,「現代の軍需産業はたいてい,民需部門も抱えており,利益に占める割合は民需部門のほうが大きい」ということを,この人は忘れていますね.
意図的に無視しようとしているのかもしれませんが.
したがって,戦争特需で幾ばくかの利益があったとしても,そんなものは戦争による景気後退により相殺されるか,むしろ景気後退の分だけマイナスになる場合が多い.
今回のイスラエル・ヒズボラ紛争でも,そのためにますます原油高が進み,景気後退の不安材料として扱われていたことは,紛争たけなわの頃の経済紙を見れば一目瞭然.
むしろ,あの程度の軽めの紛争で済んでくれたことに,軍需産業関係者も安堵しているかもしれませんね.
シバレイの数字は一見もっともらしいのですが,この紛争の開始前と開始後の,企業全体としての利益総額,およびそれに軍需が占める割合,原油高による予想損益,なども出さないと,「戦争で軍需産業が儲かる」ことを証明できたことにはなりません.(あと,軍需産業の定義もよろしくね).
同じことは,米国防費の伸びだけをピックアップした表――戦争で儲かる」の証明にはなってませんよ――や,911直後の株価だけを並べた画像――株価は「人々の期待の大きさ」の反映ですから,単純に「戦争になるぞ! 軍需産業の株を買おう!」と考えた人が多かった,ということの証明にしかなりません――についても言えます.これらはよくあるパターンですが.
「自分にとって都合のよいデータしか出さない」
というのは,典型的なデマ・パターンですので,皆さんはくれぐれも騙されないようにしましょう.
繰り返しますが,要するに現代の軍需産業の構造は
(1)「軍需部門の中には,戦争で利益が出るものもある(といっても,消耗品中心)」
(2)「しかし民需部門は戦争による景気減退で利益が減る」
(3)「現代では民需部門のほうが大きいので,企業全体で見ると儲からない」
(4)「軍需部門でも大型機材分野では,戦争が起こると,消耗品に予算を取られた皺寄せを被るので,なおのこと儲からない」
というものになっています.
模型ダイアリーやシバレイは,(1)だけを強調し,(2)〜(4)を忘れているか,何らかの含むところがあって意図的に無視しているだけなのです.
【珍説】
戦闘機などの兵器の発注数の減少にしても,それを必要とするような脅威が存在しないからであって戦争が始まったからではありません.
むしろ,JSF(F-35)は911事件により首がつながり,対テロ戦争により削減数が緩和されているような状態なわけで,テロや低強度紛争はそういう冷戦型軍事関連企業の延命に役立っています.
ただ,その程度では冷戦型軍事関連企業を支えるには需要が少なすぎるだけ.
利益の問題より企業体質の問題.利益が出ることと経営状態が悪いことは矛盾しません.
冷戦型軍事関連企業が赤字なのは,冷戦終了後の脅威の喪失に伴う市場規模縮小の影響が大きいわけで,もし低強度紛争すらなければ冷戦型軍事関連企業はもっと酷い赤字でしょう.
実際に数値で事実を示しても伝わらない人には伝わらないのだなというのが正直な感想.
戦闘機などの兵器の発注数が減っているのは事実ですが,それは冷戦終了による脅威の喪失と因果関係があり,冷戦後の武力紛争はむしろ発注数の削減を緩和する方向に働いているという現実は,冷戦後の世代には感覚として分かり難いのかもしれません.
【事実】
なんでやねん.
以下に引用するように,JSFが延命したのは,ターリバーン戦争の「戦訓」によるものです.
もしこの戦訓が要求するものを満たすことができなかった機材だったならば,JSFがキャンセルされた可能性は高かったと言えます.軍の要求に応えられないモノを調達するほど,米軍は予算が余っているわけではありませんので.
要するに,「運が良かった」というだけですね,JSFの延命は.
さらに空母や陸上の発進基地から攻撃目標まで,非常に距離が遠い.パキスタン南部の海岸線からカンダハルまで片道700km,首都カブールまで1,000kmを超えるから,使用航空機の本来の攻撃距離をはるかに超えている.そこへ重装備をして,暗闇にまぎれて飛んで行き,小さな目標を正確にとらえなければならない.
戻ってきたパイロットたちも「テロ撲滅の闘いに参加できて誇りに思う」と語ったりしているが,そう言わねばならぬほど困難な任務なのであろう.
そこで,もしここにジョイント・ストライク・ファイター(JSF)があればどうだったか.パイロットは鼻歌まじりでとはいわないけれども,もっと楽に任務の遂行ができたかもしれない.
というのは,目下開発中のJSFは航続距離が長いから近隣諸国に航空基地を置く必要がない.
これで軍事的な問題ばかりでなく,政治的にも厄介な問題を避けることができる.
また超音速で,敵に見つかりにくいステル性を有するので,敵地上空へも難なく進入できる.
さらに,標的に対して正確なねらいをつけることができるので,誤爆などの問題もなくなる.
そのうえ,海軍向けの機体はホバリングと垂直着陸が可能だから,狭い戦場でも大きな柔軟性をもって運用できる.
そう思ったかどうか,米国防省はかねて評価試験をしてきたJSFについて,ボーイング社とロッキード・マーチン社の競争提案の中からロッキード案を採用すると発表した.
http://www2g.biglobe.ne.jp/~aviation/jsf011029.html
また,以下の引用のように,対テロ戦争では,航空機や船舶による大掛かりな装備は「貢献度がほとんどない」とされていますので,これから先,JSFのような大型装備は,調達数は減ることはあっても増えることはないでしょう.
これのどこが,「テロや低強度紛争はそういう冷戦型軍事関連企業の延命に役立って」いることになるのやら.
数十年は対テロ戦中心 英戦略研が年次報告
【ロンドン25日共同】英国際戦略研究所は25日,各国の軍事動向や地域情勢を分析した年次報告書「ミリタリー・バランス2005−2006」を発表し,西側諸国にとっての紛争は「今後数十年」は対テロ戦が中心になると分析.ハイテク技術を駆使し目標をピンポイント爆撃する米軍の軍事技術革命(RMA)の有効性は「疑わしくなった」と指摘した.
報告書は,アルカイダに代表される国際テロ組織がゲリラ的な戦術を取っている現在,必要とされる戦力は特殊部隊などの地上戦力が中心で,航空機や船舶による大掛かりな装備は「貢献度がほとんどない」と強調.
(共同通信,2005/10/25)
事実,無人機のための予算に食われて,調達を適当な数でやめられるかもしれないので,焦ったロッキード・マーティン社が,JSF無人機型を自主開発しているとか……,
アメリカの無人機戦略は2001年,911同時多発テロによって触発され,急速に拡大してきた.2001年度予算で無人機の研究開発予算は3.6億ドルだったが,今年は20億ドルを超えた.
その結果,小型の攻撃機があるかと思えば,プレデターやグローバル・ホークのようにボーイング737に相当するような大型無人機も生まれてきた.
F-35無人機はそれらに対抗しようというものである.
それが現実になれば,いずれ軍用機はすべて無人機になるかもしれない.というのも,2,000機の調達が予定されているF-35だが,コストが上がり過ぎて政府の手に負えなくなってきた.
調達数が適当な機数になったところで,政府はこれをやめて無人機へ向かうかもしれない.
そのとき,「いや,F-35だって無人機ですよ」と言えるようにしようというのが,ロッキード・マーチン社の魂胆ではないか――米ワシントン・ポスト紙の見方である.
http://www2g.biglobe.ne.jp/~aviation/mujinka.html
JSF F-35A CTOL(通常離発着型)が調達数の削減,或いは開発そのものが凍結されるんじゃないか?とかいう話まで出てきてます.
詳しくは
Air Force version of F-35 may be eliminated
参照.
対テロ戦争はまだまだ続きそうですが,「冷戦後の武力紛争はむしろ発注数の削減を緩和する方向に働いている」と見るのは非常に難しそうですね.
消印所沢
そもそも,この「模型ダイアリー」の人は,戦争があろうがなかろうが,時間が経過すれば手持ちの戦闘機は老朽化するし,飛行機には累計飛行時間の制限がある,という基本原理を忘れてますね.
たとえば,1970年代から1980年代にかけてNATO諸国が大量導入したF-16は,もう導入から30年あまり.これから必然的に代替の次期を迎えるから,対テロ戦争があろうが無かろうが,どっちみち代替機となるJSFは必要だったのです.
これに限らず,1980年代の「レーガン軍拡」の次期に導入した装備をシコシコと延命改修してつないでいるのが各国の現状.
でも,電子機器やエンジンは換装できても機体構造の疲労なんかはどうにもならないから,戦争があろうが無かろうが,いずれは代替機を計画せにゃならんのです.
井上@kojii.net in mixi支隊
【余談】
グーグル検索していたら,たまたま上述のような意見を見付けましたので,軽く反論してみました.
それにしても,反論するなら堂々とFAQ BBSに言いに来るか,さもなきゃ,kojii.netにでもトラックバックすればええのに.
コメント欄も閉じているようですが,何を恐れているのでしょうかね(笑).
当サイトに間違いがありましたら喜んで訂正に応じますので,自説に自信がおありでしたら,ぜひどうぞ.
【強制】
やはり,少しは息抜きが欲しい.……というわけで,レバノン・バトン作りました.
やはり全員強制.
Q1 レバノンへのイスラエル軍侵攻後,なぜか釣り具の上州屋の株が急上昇したそうですが,いったい何故?
Q2 モサドに伝わるという「モ茶道」,日本の茶道にはない特徴は?
Q3 あなたの身近で起こったユダヤの陰謀について教えてください.
例えば
「テストで解答欄を間違えて,答えが一つずつずれてしまって30点しかとれなかった」
とか,
「お風呂で転倒した」
とか.
Q4 デマに躍らされ易い人達に言いふらしてあげたい,あなたが考えた「イスラエル軍の超兵器」を教えてください.
Q5 イスラエルを国ごとどこかよそへ移転させるとしたら,どこがいい?
Q6 「嘆きの壁」って,なんか水木しげるっぽいネーミングだけど,それってどんな妖怪?
Q7 アラブの小学校の教科書には,「ユダヤ人が10人います.3人殺すと何人残るでしょう?」みたいな言葉がいっぱい載ってるそうですが,では,イスラエルの教科書の中で目につくフレーズは?
Q8 夏の夜中,浜辺でロケット打ち上げて喜んでる,ヤンキーふうの連中をよく見かけるけど,あれってヒズボラ?
Q9 ヒズボラがロケット弾の次に好きなものって何? お菓子? 果物? それとも他の何か?
Q10 VOXX星人の特徴は「頭がでかい」.では,ヒズボラ星人の特徴は?
Q11 ヒズボラはイランに応援されてるそうですが,応援団の団長はやっぱり学ランに鉄ゲタ?
Q12 ヒズボラの乗る悪役メカには,やっぱり自爆スイッチが標準装備ですか?
Q13 「役立たず,邪魔」と言われてばかりの国連軍ですが,彼らを役に立てる方法を教えてください.
【質問】
イスラエルとヒズボラ,どっちが勝ったの?
【回答】
痛み分け,ないしヒズボラの辛勝.
まず,イスラエル軍が開戦前に意図していたらしい「3週間でヒズボラ殲滅」は達成されていない.拉致された兵士も戻ってきていない.
3週間経過した時点で,ヒズボラのロケット攻撃はやまず,IDFは予想以上の損害を出している.明らかに事前の情報収集・分析のミス.
中途半端に国際世論に配慮して,兵力を小出しになどせず,動員可能な全兵力をもって一気にカタをつけてしまうべきだっただろう.
停戦の条件であるヒズボラの武装解除も,国連による停戦決議の内容から見ると,実効性が疑問詞されている.
一方,ヒズボラだが,こちらも被害は大きい.
中・長射程ロケット用発射台70〜80%,
短射程ロケット用発射台の50%,
保有していたロケットやミサイルの50%以上
が破壊され,民兵約530人が死亡したとされる.
しかし,無敵IDFの神話を撃ち砕き,支持率を多いに高めた点では,戦略的に勝利したと言える.
事実,レバノン南部ではヒズボラの影響力はむしろ強まっているという.
以下引用.
レバノン ヒズボラの影響力強まる 停戦発効で
「ヒズボラの勝利だ」−−.レバノン南部最大のヒズボラ拠点としてイスラエル軍の激しい攻撃を受けたナバティエでは停戦発効後の14日,多くの市民が記者の取材にこう答えた.
だが,一部住民の言葉の端々には1カ月余の戦闘を通じてレバノン社会で発言力を増した「ヒズボラの影」に対するおびえも感じられた.【ナバティエ(レバノン南部)澤田克己】
レバノン南部の地中海沿岸の町サイダから内陸のナバティエへ向かう道ではヒズボラの支持団体が南部へ帰還する避難民の車に“お祝い”のアメを配っていた.団体幹部のターリクさん(35)は「イスラエルは市民を殺し,戦争に負けた」と上気した表情で話した.
比較的安全なレバノン北部に避難する資金がなく,4人の子供とナバティエに残っていたアブドラマン・ハルシさん(48)は最初,「停戦になってホッとした.ヒズボラは住宅地からロケット弾を撃っていた」と話していた.
だが,突然,口をつぐむと「イスラエルは虐殺した.ヒズボラのやったことは大きな問題ではない」と付け加えた.
人々に話を聞いていると精かんな若い男が背後に近寄ってくる.ハルシさんも男の姿を見て口をつぐんだようだ.
町の中心部に爆撃で大破したビルがあった.危険で使用に耐えないことは素人目にも明らかだ.
1階の洋品店をのぞくと,「店の主人」を自称するハリリ・タロイニさん(50)が姿を現し,流ちょうな英語で「先週の月曜日にやられたんだ.ヒズボラとは全然関係ないのに」とイスラエル非難を繰り広げた.
だが,私は20分ほど前,避難先から戻ってきた店主とみられる男性が店の様子を見てぼうぜんと立ちつくす様を目の当たりにしていた.
家族の待つ車に戻り,運転席のハンドルに顔をうずめておえつしていた姿はハリリ・タロイニさんとは似ても似つかぬ姿だった.
アラブ・メディアの中には,もっと大喜びしているものもあるという.
以下引用.
*周辺諸国が一斉にロケットを撃ちこんでいたら,イスラエルは潰滅
エジプトの半官紙Al-Ahramで,コラムニストのアル・ナッジャル(Zaghlul Al-Najjar)は,ヒズボラが勝ったとして,次のように論じた.
「私は双方(レバノン,パレスチナ)の勇気ある抵抗(戦士)に,よくやったと言いたい.君達はアラブとイスラムの二つの世界に,大いなる誇りをもたらしたのだ…
私は,アラブ,ムスリム双方の人民に言いたい.ガザ,西岸,レバノンに対するイスラエルの侵略は,シオニスト存在体とその軍隊のもろさを,如実に示してくれたのだ.一握りのジハード戦士が,制空権を持つ敵の(侵攻)意図を,ものの見事にくじいたのである….
考えても見給え.石油禁輸を導入し,奇襲で空軍を撃破し,更に周辺諸国が一斉にロケットをうちこめば,この抑圧的存在体がどうなるか.犯罪と汚物にまみれた存在体は,勿論消滅する.大量破壊でこの地域に脅威を与えていた犯罪集団は,盗んだ大地の上から消えてなくなる」※1.
*イスラエルには抵抗が最も有効な武器―ヒズボラが証明
サウジのコラムニストアル・ワディ(Musfir bin Saleh Al-Wadi’i)はサウジ日刊紙Al-Yawmに,「おめでとう!ヒズボラが勝った」と題して,次のように書いた.
「政治レベルでイスラエルは何も達成しなかったし,目的も果せなかった.
ヒズボラは今後も存在する.益々その力は強くなり,存在感も大きくなる.
(拉致された)兵隊は釈放されなかつたし,アラブ人囚人との交換交渉をせざるを得なくなった.
国内をみると,戦争と敗北で現政権は大混乱,イスラエルの蛮行を非難するグローバルな声は,(反イスラエルの)立場をいよいよ強固なものにした.
イスラエルや帝国主義者の拡張計画に対する最も有効な武器は抵抗である.
ヒズボラは期待されていたように,再度その有効性を実証した.
抵抗の弱さに賭けこの作戦は抵抗を抹殺する機会と期待した者は,面白くない立場に追いこまれた.抵抗が二重に勝利したからである.
南レバノンだけでなくガザでも勝ったのだ.(ガザでは)イスラエルが捕虜交換に応じたのである…」※2.
*レバノンの抵抗はレバノン史の華
エジプトのコラムニストアル・バナ(Ragab Al-Bana)は,前出Al-Ahram紙に抵抗賛美の記事を書いた.以下その内容である.
「レバノン人民の抵抗が示した決意と勇気は,アラブとレバノンの歴史の華であり,永久にその光を放つ.
新しい時代の始まりである.アラブの政治的過ちがもたらした逆境から立直り,新しい中東≠ニいう帝国主義者の計画を打破する機会が生まれた….
イスラエルは,レバノン侵攻がアメリカの強力なテクノロジーで武装する兵隊の活躍の機会になる,と考えた. しかし,レバノンの決然たる意志と強烈な抵抗に直面して愕然となった.
この戦争は,イスラエルが経験したどの戦争よりも長く続いた.損害も一番大きい.アラブのどの軍隊と戦った時より損害が大きいのだ.
一番重要な点は,不敗と称せられるイスラエルの軍隊とその長距離打撃力は神話にすぎぬことが再度証明されたことだ….
ヒズボラは孤立しなかった.(レバノン)政府と(レバノン所在の)さまざまな組織,党から支援されたのである.レバノン人民も期待以上に忍耐強く支援してくれた.
イスラエルと米政権は,賭けに負けたのである」※3.
※1 2006年8月14日付Al-Ahram(エジプト)
※2 2006年8月15日付Al-Yawm(サウジ)
※3 2006年8月13日付Al-Ahram
もちろん,アラブ・メディアにももっと冷静な意見もある.
*全員が戦争に負けた
ヨルダンのコラムニストアル・ファネク(Fahd Al-Fanek)はヨルダン紙Al-Raiで次のように論じた.
「どちら側も勝った 勝ったと言っている.
では負けたのは誰なのか.三者(イスラエル,レバノン,ヒズボラ)はいずれも潰滅的打撃をうけた.そして三者三様に失敗の数々をかぞえ,敗因をさぐり,教訓に学ぶのであれば,賢明といえよう.
イスラエルは戦争に負けた.多数の兵隊,戦車,航空機(ママ)を失い,その抑止力はきかなかった.それも失ったのだ.
更にイスラエルは,北部の諸都市や村落へのロケット攻撃を防止できず,数千数万の住民が疎開し或いは防空壕暮しを余儀なくされた.
ヒズボラは戦争に負けた.リタニ川以北へ撤退せざるを得なくなり,ヒズボラ囚人を取戻すこともできなかった.
シャバ農場の解放どころか,南レバノンを再占領されてしまった.
ヒズボラの施設や事務所そして幹部達の住居は破壊され,無数の戦闘員が殺された.
そして,レバノン破壊の責任を問われているのである.
レバノンも戦争に負けた.
人口の3分の1が疎開の憂目にあい,インフラも破壊された.観光産業は閉店休業,経済は大きな打撃をうけた.1000人を越える住民が殺され,居住地が破壊された.
三者はそれぞれに,相手の失敗,被害をベースにして勝った勝ったと主張しているのだ.
何も達成していない.
三者共に何も達成せず,失敗だけ.相手の失敗はこちらの成果とみているだけのことである」※4.
*何を以て勝敗の基準とするのか―アラブ知識人の困惑
コラムニストのアル・セイフ(Muhammad Al-Seif)はサウジ紙Al-Iqtisadiyyaに次のように書いた.
「最近のレバノン戦争で,アラブ知識人の多くが,勝敗の判定基準をめぐって深刻に悩んでいる.
なかには,ヒズボラが損害をうけたものの,イスラエルに面目丸潰れの屈辱的敗北を与え,イスラエル不敗の神話を粉砕した,と信じる知識人もいる.
アラブの戦争が発生する度に,全く同じパターンでこの問題がむしかえされる.
勝利の基準は象徴を重視し,
『人民の生命財産,或いは継戦能力等(の被害)からみみた戦争の帰趨はどうでもよく,旗印か英雄的指揮官が生残っていれば,勝利』
である.
エジプトのナセル大統領はアラブ諸国を率いて戦争し,あの1967年の戦争でアラブ諸軍は潰滅的敗北を喫した.
しかし我々のなかには,それを敗北と認識しない者がいた…
ナセルは,この敗北にも拘わらず,アラブの象徴(としての地位)を保持し,絶対不敗のアラブ側指導者(としてのイメージ)を持ち続けたのである.
私は,ヒズボラが勝利したとは全然思っていない.更にその損害は,ヒズボラよりレバノンがこうむったと言ってよく,戦争のツケはレバノン国民が払わされたのである」※8.
*イスラエルは現実的,アラブは幻想にしがみつく
サウジ日刊紙Al-Watanの前編集者アル・ガームディ(Qeinan Al-Ghamdi)は双方の戦争観の違いについて,同紙に次のように書いた.
「オルメルトは,停戦は(イスラエルにとって)外交上の勝利と述べ,自分と政府はこれから困難な自己点検のプロセスに入るが,その点検はイスラエル社会のあらゆるレベルで実施される,と言った.
一方ヒズボラ書記長ナスララは,歴史的戦略的勝利と宣言した.(この勝利なるものは)レバノン国民とレバノンの国土を犠牲にして成り立っているのである.
レバノン国民は恨みを晴らす場,思いあがった発表の場に住んでいただけなのに,ツケを払わされたのである.
(シリアの大統領)アサドは,この自己陶酔的戦略的歴史的勝利≠ノ満足するにとどまらない.
それなら戦争初日に片手でもぎとったと考え,自己陶酔的勝利を背景にほかのアラブ諸政権を向うにまわして,舌戦の火ぶたを切った.
アサドは,歴史的敵(イスラエル)に対し歴史的勝利≠かちとって,今度は不実な兄弟達に説教することにした.名誉≠ニ抵抗≠頭の中に叩きこんでやるというわけである.
この際古代怪獣の言語≠ニ,大衆を犠牲にした不当利得の稼ぎ方を教えたらどうだ.
ここが双方の違いである.
イスラエルは現実を直視し,データーを冷静に分析する.
一方アラブは幻想をやりとりし,英雄的大ウソを聖別し,最早隠し通せなくなったスキャンダルの数々をカバーアップするために,戦乱をたくらむのである」※9.
*レバノン人は,責任回避のため敗北を認めたくない
評論家アル・ラシド(’Abd Al-Rahman Al-Rashed)は,ロンドン発行紙Al-Sharq Al-Awsatに「敗北のツケを払うのは誰か」と題し,次のように書いた.
「この地域では,首尾よく負けた者は,市内練り歩きの行列の栄に浴する.肩にかつがれ,長寿万歳の言葉を雨あられと浴びせられる.そして誰もツケを払わない.例外なしである.
レバノンで起きたことは,勝利≠ニか敗北=C不退転≠ネどどんなレッテルを貼ったところで,大きな悲劇であったのだ.
しかし,誰か責任をとるとは思えない.
全く逆で,(責任のある者は)自分の宣伝機関を使って正当化をはかり,あのようになったのは想定内,もっと悪くなるのを防いだのだ,と主張する.
更に問題なのは,人民が開戦,停戦いずれにも関与しないことである.誰も…手短かに言えば,数百数千万の人民の意見を求めない.自分の子供の命がかかっているのに,その声は軽くあしらわれる.
レバノンでは誰も彼も,戦後真剣な調査が実施されると,約束した.
しかしそれは空手形である.ナスララは,選挙をしない党の党首だから,辞任しない.首相シニオラは,戦争と平和に関する政策決定に何の役割も演じてないから,辞任しないだろう.政府は,敗北を認めたくないから総辞職はしない.たとい認めても,最悪なのは,誰もそれを敗北と呼ばず,責任をとるなどと口走るものは,まず皆無だろう」※10.
*アラブは調査委を設置せよ
アル・アハラム政治戦略研究センターの所長サイード(’Abd Al-Mun’in Sa’id)はエジプトの半官紙Al-Ahramに,「レバノン危機に関するアラブ調査委員会」と題し,次のように書いた.
「この危機と戦争で何がおきたのか.
直ちに調査に着手したのは,イスラエル側だけである.オルメルトは,イスラエルの行動成果が不満足であったことを認め,国防相ペレツ(Amir Peretz)は,軍の行動に関する調査委員会を設置した.イスラエルの社会と報道機関は沈黙せず,政府と軍の行動を批判した.
イスラエルの社会全体が,連帯の状態から異議を呈し調査する過程に移ったのである….
我々もまた,公式非公式のいずれにせよアラブ調査委の設置が必要である.イスラエルがやっているように,危機と戦争を調査するのである.戦争の最初から最後まで起きたこと総てについて,疑問を呈するのである.
最初の疑問は,開戦決定の問題であろう.
開戦当初ナスララは,パレスチナ解放に自分の党がアラブ,ムスリム世界の第一線に立つと言った.誰が彼にこの役割を与えたのか?…
シャバ農場解放に,たといレバノン政府がヒズボラにその任務と権限を与えたとしても,ヒズボラはイスラエル兵拉致の決定時状況を正確に読んでいたのかどうか.
ヒズボラは…銃後の準備を全然しなかった.これは証明済みである.
この点をたずねられた時,ヒズボラはこれならレバノン政府の責任と答えた.首相シニオラが言ったように,戦争(勃発)について一番知らなかった政府,にである….
ヒズボラの軍事行動について,沢山の疑問がある.
例えばヒズボラは,ベイルートが攻撃されれば報復のため発射すると約束していたのに,何故チルツアル,ファジル3,ファジル5ミサイルを使用しなかったのか.
ついでに言えば,レバノンの首都は繰返し攻撃され,特にヒズボラ国家¥轄ン地の南部域が度々やられたのである.
なかでも一番大きな疑問が,ヒズボラの撃ったロケットが,何故限られた効果しかなかったのかである.
イスラエルの犠牲者(アラブ系国民も含む)1名につき,30発程撃っている.
この比率は,戦争に金がかかることを物語る.精度を向上するメカニズムが必要ではないか…」※11.
※4 2006年8月17日付Al-Rai(ヨルダン)
※8 同日付Al-Iqtisadiyya(サウジ)
※9 2006年8月16日付Al-Watan(同上)
※10 2006年8月14日付Al-Sharq Al-Awsat(ロンドン)
※11 2006年8月21日付Al-Ahram
*レバノンが破壊されて何でヒズボラの勝利といえようか
クウェートの日刊紙Al-Siyassa及び英字紙Arab Timesの編集長ジャララー(Ahmad Jarallah)は,後者の社説で,次のように論評した.ちなみに両紙はシリアとイランに反対する立場をとっている.
「レバノンが破壊されて,何でヒズボラの勝利といえようか.
国連安保理決議1701が採択された後となっては,文言をかえたり意味を変えたりして勝利したようにみせかける権利は,誰にもない.
我々アラブは再びレバノンで敗北した.
レバノンを破壊しその将来をもて遊んだ責任は,レバノンの一部即ちイランの欲望に奉仕する者共にある.
不幸なことに,シリアとイランは国連決議を一方的内容とみなす.つまり,安定したレバノンの夢はこの先ずっと実現しないということである….
このような状況にある時,勝利したなどと語るのは,まともではない.
シリアは,国連決議がヒズボラの勝利に見合った内容ではないと主張しているが,これはまさに茶番である.
シリアは,公式に参戦したわけではないから,勝利を宣言することはできない.もっともダマスカスが,ヒズボラは代理戦争をやっていると考えているのなら別であるが,勿論代理戦争であれば,はっきりと非難されるべきでる」※6.
*イスラエルは科学と知識でしか負かせない
前出 Al-Siyassaで評論家アル・イサ(Dr.Shamlan Yusuf Al-‘Isa)は次のように論じた.
「レバノン人は戦場で独りだった.
この困難な時にアラブ或いはムスリムの誰ひとりとして,支援の手を差しのべなかった.口先だけは勇ましいアラブの相互防衛の話など,実現する筈もなかった…エジプト,サウジ,ヨルダン,湾岸諸国,モロッコ,チュニジアに代表される穏健派ムスリムは,即時停戦を求め,無謀な戦争に終止符をうつように要求している.尤もな話である.
我々は新生レバノンの誕生を支持する.
その支持の一環として,我々アラブは集団として,個人とその自由を尊重する人道上,文化上,科学上の覚醒を必要とすることを認め,科学と知識によってしかイスラエルを負かせないことを認識すべきである.
そのためには,民主的で個人を尊敬する国と社会の建設を通して,アラブ人を個人として育てなければならない」※7.
※6 2006年8月14日付(クウェート)Arab Times
http://www.arabtimesonline.com/arabtimes/opinion/view.asp?msgID=1276
※7 2006年8月14日付Al-Siyassa(クウェート)
もっとも,IDF勝利とする見解がないでもない.
以下引用.
ヒズボラ側は,その指導者であるナスララも,民兵達も,異口同音に自分達は勝利したと言っています
(ガーディアン紙,8月15日アクセス).
他方,ブッシュ米大統領は
「ヒズボラがイスラエルを攻撃したことによってこの危機を始め,ヒズボラはこの危機において敗北した」
と語っています
(ワシントン・ポスト紙.8月15日アクセス)
し,,イスラエルのオルメルト首相も慎重な言い回しながら,イスラエル軍はヒズボラの戦闘能力を大きく減殺せしめた結果,この民兵はもはや「悪の枢軸の走狗として国家内の国家」であるかのように行動することはできなくなり,この地域における「戦略的バランス」はヒズボラに不利な方向に傾いた,と述べたところです
(ガーディアン紙.8月15日アクセス).
どちら側の言い分が正しいかは,事実が証明しています.
米・イスラエル側の言い分が正しく,ヒズボラは甚だしく弱体化したのです.
イスラエルは「防衛的」軍事作戦の一環として,停戦発効以降ヒズボラ要員を6名殺害するとともに,東レバノンのバールベックでヒズボラの弾薬輸送車を攻撃炎上させ,その一方でイスラエル政府は,ヒズボラの指導者達をあらゆる場所で追い求め続けるし,かつヒズボラへの補給を断つためのレバノンの空海域の封鎖を続ける,と言明しています
(ガーディアン上掲及び
http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,,1844321,00.html
(8月15日アクセス)).
それなのに,ヒズボラ側は,レバノン領内とどまっているイスラエル軍への攻撃を続けるというナスララの宣言(コラム#1375)を忘れたかのように,停戦を基本的に守っているからです.
34日間にわたったイスラエル軍の「反撃」の結果,2000年のイスラエル軍の南レバノンからの撤退以降,ヒズボラが6年間にわたって営々と整備にこれ努めてきたインフラは壊滅し,シリアとイランからの武器補給ルートもずたずたになり,発見しやすい中・長射程ロケット用発射台の70〜80%と,発見しにくい短射程ロケット用発射台の50%は破壊され,保有していたロケットやミサイルの半分以上は破壊され,民兵約530人が死亡しました(注8).
(以上,特に断っていない限り,
http://blog.washingtonpost.com/earlywarning/2006/08/did_israel_win.html,
ニューヨーク・タイムズ
(どちらも8月17日アクセス)による.)
(注8)これに対し,イスラエル側の損害は,兵士の死亡が118名,ロケット攻撃による一般住民の被害が39名だった
(http://www.time.com/time/world/printout/0,8816,1227264,00.html
.8月16日アクセス).
今度は,数字で表せない部分に目を向けてみましょう.
ヒズボラは,イスラエルが南レバノンから撤兵した2000年5月以降,南レバノンのほぼ全域をコントロール下に置いてきました.
その上で,ヒズボラは,パレスティナ過激派諸派がイスラエルに対しテロ攻撃するのを支援してきました.
7月にイスラエル兵(8名を殺害して)2名を拉致したのは,ヒズボラの指導者であるナスララの声望を更に高めるため,イスラエルに収容されているレバノン人やパレスティナ人のテロリストと交換するためであったと考えられています.
しかし,イスラエルの「反撃」によって,この目的は達成されず,また安保理決議によって,ヒズボラはリタニ川以南における支配的地位を失うに至ったのです.
シリアのアサド大統領を除き,おおむねアラブの指導者全員がヒズボラを走狗とするイランのシーア派勢力拡大戦略に対する警戒心は一層強まっています.
より重要なのは,ヒズボラが引き起こしたイスラエルの「反撃」によって,レバノンの人命・住居・インフラに大きな被害が生じたことは,ヒズボラの支持母体である貧しいシーア派住民を含むレバノンの広汎な人々のヒズボラ離れをもたらす可能性が大きい,という点です.
(以上,
http://www.csmonitor.com/2006/0817/p09s02-coop.html
(8月17日アクセス)による.)
イランは既にヒズボラに復旧資金1億5,000万米ドルを提供したと目されています
(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/08/15/AR2006081501413_pf.html
.8月17日アクセス)が,ヒズボラは,これらイラン等からの資金とノウハウ・マンパワーを動員して,2〜3年はシーア派住民を対象とする復旧活動に専念することによって,上記ヒズボラ離れの食い止めを図らざるをえない上,今回のイスラエルによる「反撃」が身にしみて,仮に武装解除を免れたとしても,今後少なくとも10年くらいは,イスラエルに対する挑発行動を控えざるをえないだろうという観測がもっぱらです
(ニューヨーク・タイムズ.8月17日アクセス).
もうこれくらいでよろしいでしょう.
間違いなく,今次紛争においてイスラエルは勝利し,ヒズボラは敗北したのです.
余談だが,この勝利は戦争によって達成されるものではない,とする,以下のいような見解もある.
以下引用.
ビュフェットとヒズボラ
ニューヨーク・タイムズ8月9日付,トーマス・フリードマンの「Buffett and Hezbollah」より.
「今日のイスラエル・ヒズボラ戦争について知っておくべき,最も大事なことは,ウォーレン・ビュフェットだ.」
「なぜか? ヒズボラとの戦争が始まる前,イスラエルでの最大の話題は,5月5日に,バークシャー・ハサウェー会長で,世界で最も成功している投資家であるビュフェット氏が,イスラエルの精密機械会社イスカー・メタルワーキングの株の80%を,40億ドルで買った,ということだった.これはビュフェット氏にとって,アメリカ外での最初の買収だった.」
〔略〕
「5月,イスラエルの新聞は,ウォーレン・ビュフェットが買いたくなるような先端企業を,イスラエルが造り出したことを大きく褒め称えていた.これはイスラエル中で話題にされ,テルアビブ株式市場の株価は歴史上の最高値になった.」
「これが,戦争前に,イスラエルが目指していたものだ.
そして,これが,戦争開始後にイスラエルを訪れた際に,私が感じたことを説明している――誰もこの戦争をしたくなかったし,誰もこの戦争のために準備していなかった.
〔略〕
「若いイスラエル人は発明家になることを夢見ており,彼らの目標はナスダックに上場したイスラエルのイノベーターだ.ヒズボラの若者は,殉教者になることを夢見ており,彼らの目標は天国に行ったイスラム・テロリストだ.
過去6年間,イスラエルはビュフェットが買いたくなるような技術を創ってきた.
過去6年間,ヒズボラはこの戦争のために準備してきた.」
「ヒズボラのリーダー,ナスララが倒される時ではなく,ビュフェットの会社が操業を再開する時に,イスラエルは勝利する.
この勝利は戦争によって達成されるものではない.アラブ人が目を覚まし,ナスララが単なるインチキであり,ナスララの戦略はアラブの若者の将来を封じるものだ,と気づく時にのみ達成される.
イスラエルの若者の将来が封じられれば,それがナスララにとっての究極的な勝利になる.
そうさせるな,イスラエルよ.」
これが一番の卓見と言えよう.
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