c
◆◆◆ペトレイアス(2007年2月)以降
<◆◆治安問題
<◆After Saddam
< Iraq FAQ 目次
「guradian」:ティム・コリンズ英陸軍大佐によるデイヴィッド・ペトレイアス将軍評
「tnfuk」:Iraq Inquiry (Chilcot Inquiry) 始まる
「VOR」◆(2012/03/02)露大統領;イラクが民主的独立国家となるよう支援を約束
「WP」◆(2010/2/19)War in Iraq will be called 'Operation New Dawn' to reflect reduced U.S. role
「WP」◆(2010.2.23)U.S. plans for possible Iraq exit delay
「WP」◆(2010.3.11)U.S. military reassesses election violence in Iraq
「ワレYouTube発見セリ」:Iraq, April 2006
【質問】
ISG報告書の内容は?
【回答】
2006/12/6にブッシュ大統領に提出された諮問委員会の提言「ISG報告書」のエッセンスは以下の通り.
・イラク情勢は深刻.悪化を続けている.
最も重要な提言はイラクと周辺国が新しく外交・政治努力を呼びかけること
・イラク駐留米軍は2008年初めを目標に,大部分の戦闘部隊の役割を完了すべし.
・駐留米軍は治安維持,戦闘主体から,イラク治安部隊訓練などの支援任務に移行
・米国はイラクで大規模部隊を無期限に展開すべきではない
・イラクのことはイラク人に任せよ.米はそれを裏から支える役割に徹するべき
・イラク国民が治安を改善できなければ,米政府はイラクの政治・軍事・経済面での支援を削減する
・イラン,シリアとの直接対話を実現し,周辺アラブ諸国を含む支援グループを形成すべき
・イスラエル,パレスチナ問題を含む包括的中東和平の実現が必要
・実現に当たっては米の行政府と立法府の協力が不可欠.米国民の連帯がすべての鍵を握っている.
〔略〕
ちなみにISGのメンバーは以下のとおりです.
共同座長
ベーカー元国務長官(共和党)
ハミルトン元下院外交委員長(民主党)
メンバー
イーグルバーガー元国務長官(共和党系)
ミース元司法長官(同)
オコーナー元連邦最高裁判事(同)
シンプソン元上院議員(同)
ペリー元国防長官(民主党系)
パネッタ元大統領主席補佐官(同)
ロブ元上院議員(同)
ジョーダン元大統領顧問(同)
この報告の問題点としては,以下のような点が指摘されている.
以下引用.
軍事専門家達に言わせると,一番の問題は,イラク軍を治安維持作戦ができるように教育訓練することが容易ではないことです.
米軍ですら,叛乱分子やテロリストの脅威と戦うのは得手ではないところ,イラク軍は文字通り1980年代のイラン・イラク戦争時代の,一般住民のことなど考えずに敵軍と戦場で戦うという観念にとらわれており,治安維持作戦においては,一般住民を敵に回さないようにしなければならない,ということを体得させることは容易ではない,というのです.
だから,イラク軍に一応の教育訓練を施した後も,イラク軍に米軍の戦闘部隊と共同作戦を行わせることによって,治安維持作戦能力の向上を図る必要があるのに,米軍の戦闘部隊を報告書のように急速に撤退させてしまうと,その機会を奪うことになってよろしくない,というのです.
2008年までに,イラク軍と連携すべきイラクの警察・ガバナンス・刑事司法システムが整備され,機能するようになる可能性がない状況下においては,なおさら,イラク軍と連携する米軍の戦闘部隊の存在は不可欠だ,と軍事専門家達は力説しています.
軍事専門家達はもう一つの問題も指摘しています.
それは,米軍の実戦部隊がイラクから撤退した後,報告書ご推賞のように,引き続き数千人の米軍顧問がイラク軍と行動を共にするとなると,彼らが狙われて殺されたり人質にとられたりする懼れがあることです.
(以上,ニューヨーク・タイムズによる.)
太田述正コラム #1554 ( 2006.12.8 )
同コラムを無条件に信頼することには問題があるが,上記引用部分に関しては,ソースが明示されており,信頼しても問題ないと愚考する.
【質問】
クルド人勢力がISG報告受け入れを拒否したのは何故ですか?
【回答】
イラク北部のクルド人自治区のバルザーニ議長は8日,「イラク研究グループ(ISG)」がまとめたイラク政策見直し報告書につき,「受け入れられない」とする声明を発表しました.
⇒キルクーク(産油都市)の住民投票を延期すると示唆する内容だからです.
同自治政府はキルクークの併合を目指しています.
ちなみクルドによるキルクーク併合は,イラク国内のアラブ系勢力および隣国トルコから反対されています.
特にトルコは,もしクルドがキルクークを併合する場合,軍事干渉するとの構えを見せています.
ちなみにISG報告についてもう一方の巨大勢力シーア派は受け入れる方針です.
【質問】
イラクは2007年現在,内戦なのか?
【回答】
内戦だと言える.
米国防総省が2007/3/14公表した,議会に提出したイラク治安情勢に関する報告書によれば.昨年十月から十二月の三ヶ月間での駐留米軍・民間人に対する攻撃回数や犠牲者は二〇〇三年以降最悪のレベルとなり,
「一部は内戦と表現することが妥当」
と指摘しています.
この報告書は三ヶ月ごとにまとめられるものです.
エッセンスは以下のとおりです.
1.紛争の諸相が変化している
⇒イスラーム教スンニ派武装勢力による米軍等への攻撃からシーア派,スンニ派両派の主導権争いや組織的犯罪へと変化している
2.内戦という言葉で紛争の複雑さを十分表現できないが,宗派対立,難民発生などの点で内戦に相当する.
3.バグダッドでの攻撃は,一日平均四十五件にのぼり,周辺三州を含め,攻撃全体の八割を占めている.(昨年十一月〜今年二月)
4.バグダッド等で,アルカーイダとシーア派民兵組織「マハディ軍」が影響力を誇示しあっている.
また,世界銀行による「内戦」の定義に照らしても,内戦であることは間違いない.
【質問】
ペトレイアスはどんな人物か?
【回答】
ペトラユース(David Howell Petraeus.1952年〜)米陸軍中将は,先の大戦中に米国に避難してきたオランダ人船長の息子として生まれ,米陸軍士官学校のすぐ近くで育ち,この学校に入学します.
やがて彼は米陸軍指揮幕僚大学校を首席で卒業します.
更にプリンストン大学で国際関係論の博士号を取得します.
〔略〕
その後彼は,暴発した小銃の弾が当たって緊急手術を受けて一命をとりとめたり,60フィート上空でパラシュートがこわれて地上にたたきつけられて骨盤を骨折したりします.
〔略〕
ボスニア紛争の経験があったペトラユースは,2003年の対イラク戦の時に米101空挺師団を率いて5月にイラクの北部地方の都市モスル(Mosul)を占領した際,指揮下の約20,000人の兵士でもって現地の治安を見事に確保し維持したことで一躍その名を米国で知られるようになります.
彼は,占領後わずか一週間以内に市評議会(city
council)の選挙を行い,学校の清掃,工場の再開,地面の穴ぼこの補修,レクリエーション・プログラム作成のための資金を供与しました.
しかし,そんなことは軍人ではなくソシアル・ワーカーの仕事だと考えていた,当時のラムズフェルト国防長官以下の国防省上層部は,冷ややかな目でペトラユースを見ていました.
また,ペトラユースは,米軍兵士に市街を警官のように巡回させるとともに,兵士を市街の中に分屯させました.
兵士にイラク市民に敬意を持って接するようにも指導し,ドアを蹴破るのではなく,ノックをするように改めさせました.
作戦行動をとった後には,近隣地区に特殊任務部隊を送って残骸を片付けさせたり損害賠償を行わせたりしました.
要は,作戦行動で敵を一掃する際には,それより多くの敵を生み出さないように細心の注意を払ったということです.
こうしてペトラユースは,フセインの二人の息子を追いつめ,射殺することができたのです.
ところが,2004年1月にラムズフェルトは,モスル地区駐留米軍を101空挺師団から,できたてほやほやのストライカー旅団(コラム#1616)に置き換えたのです.
この旅団には兵士が5,000人しかいなかったこともあり,市街を歩いてパトロールをすることはなくなり,装甲車両で駆け抜けるだけになってしまいました.
そして米軍は,建設者としてではなく占領者として,市民生活を全面的にイラク人の手に委ねたのです.
この結果,何ヶ月も経たないうちにモスルはむちゃくちゃになってしまいました.
その年の6月にペトラユースは,イラク軍を訓練する多国籍軍部隊(the
Multi-National Security Transition Command)の責任者に任命されます.
そして2005年9月には彼は米陸軍統合軍事センター(U.S.
Army Combined Arms Center=CAC)(注2)の司令官に任命され,ここでペトラユースは,対叛乱作戦教範(The
counter-insurgency warfare manual)の編纂を行うのです.
(注2)指揮幕僚大学校のほか17の学校,センター,訓練プログラムを所管している.
昨2006年に出版されたこの教範には,
「より多くの部隊を用いれば用いるほど,その効果は減少する」
とか,
「部隊を守ろうとすればするほど安全ではなくなる」
といった禅問答めいた箇所が含まれています.
また,教範の中で具体的に記述されている戦術は,1990年代にニューヨーク市警等で採用され,犯罪防止に劇的な効果があったとされる戦術と似ています.
そして,このような戦術をとるためには,兵士はこれまでのように命令に従っているだけではダメで,創造的な意思決定ができなければならないことが強調されています.
今回のイラク米軍増派案は,将官クラスではペトラユース自身の他,(ブッシュ大統領が昨年12月に面談した専門家達の1人である)キーン(Jack
Keane)元米陸軍参謀副長,佐官クラスでは(ペース統合参謀本部議長が昨年秋に設けた佐官諮問会議のメンバーである)マクマスター(H.R.
McMaster)(コラム#1615) やマンスール(Pete
Mansoor),そしてキーンとともにイラク戦略に係る提言を発表してきたアメリカン・エンタープライズ・インスティテュート(AEI)のネオコン研究員のケーガン(Fredrick
Kagan)らのアイディアです.
(以上,
ワシントン・ポスト(1月8日アクセス),
タイムズ(1月13日アクセス),
ガーディアン(1月13日アクセス),
BBC(1月27日アクセス),
及び
英語版ウィキペディア(1月28日アクセス)
による.)
〔略〕
太田述正コラム#1641(2007.1.29)
同メール・マガジンは,情報源としては問題ある部分もあるが,上記情報についてはソースが明確であり,事実関係については特に疑う理由はないと愚考する.
ネットでは,
イラク多国籍軍司令官・Petraeusの記者会見ビデオ(63分34秒)
Pentagon Briefing 26 April 2007
GEN David Petraeus
Multi-National Force-Iraq Commander GEN David
Petraeus speaks with reporters at the Pentagon,
providing an update on ongoing security operations
in Iraq.
というPetraeusの記者会見ビデオが公開されている.
これはペンタゴン・チャネルで,下部のリストから「Pentagon Briefing 26
April 2007」を選ぶことで見ることが出来る.
これを見ると,この人のスタイルが伺えて大変興味深い.
派手な格好をつけるタイプの軍人の逆で,ローキーなスタイルだけれど,イラクで起こっているポジティブな変化をしっかり述べながら,
「しかしまだまだやるべきことが山積している,今後被害も増えるだろう」
と,全く楽観的ではないコメントをするあたりが実に渋い.
Q&Aの中で,イラクのアルカイダがシリア経由で国際的なアルカイダのネットワークに深くつながり,世界的アルカイダ運動の中の中心的戦闘地域になっていて「センセーショナルなテロ」を繰り返している,と述べている. 月当たり何ダースもの外国人テロリストがイラクに来ているという.
また,アルカイダの「センセーショナルなテロ」が,多国籍軍の一歩一歩積み上げているポジティブな動きをメディアから見えにくくしている,とも述べている.
この,記者とのQAは,しばしば(周波数が)食い違っているような気もする.
Petraeus は現場のファクトベースの現実的な話(慎重な)をしているけれど,メディアは政治的スピンで,何らかの原質をとろうとしていて滑稽に見える.
Petraeusの立場は政治的スピンや,そういう議論に踏み込まないし興味も無い,と言った風に見えて,軍人と,スペキュレーション命のメディアの食い違いがくっきりしている.
イランの工作部隊のイラクでの活動についても明確に述べていて,イラクでのイランの撹乱工作の文書などの証拠を押収していると言っている.
シリアについてはアルカイダのテロリストの主要なイラクへの移動径路になっていると明言している.
Petraeusは,イラクでのテロリストの壊滅作戦をこれから拡大するので,その作戦に伴い,アメリカ軍やイラク軍の被害は大きくなる,と明言している.こういうことを記者の前で平気で言うあたりが,この人の面白さとも思える.
この1時間余りの記者会見ビデオを見た,全体としての感想は,アメリカ軍は大変優秀な,面白い指揮官を持っていて,ラッキーなことだ,といったもの.
この人は,アメの大企業や組織の高位にいるような大物ぶったキャラクターではなくて,一見したところ爪を隠すタイプのようで,話し方にも慎重なところがあるけれど,知識と経験は矢鱈豊富でアタマの回転はすばらしく速いというもので,到底記者(ごとき)のかなうところではないような.
マックス・ブートが
「ブッキッシュな知識人(国際関係学のPh.D.)でありながら,行動派の現実的な軍人」
と書いていることの意味がわかるような気がする.
Can Petraeus Pull It Off?
A report on the progress of our arms in Baghdad,
Baqubah, Ramadi, and Falluja.
ウイークリー・スタンダード:イラクの現状評価,Petraeusは上手くやれるか?
by Max Boot 04/30/2007, Volume 012, Issue
31
という記事は,CFR(外交評議会)のシニア・フェローで外交,政治評論を書いているマックス・
ブートによる,イラクの現状評価.これは4月初旬に2週間のイラク視察を行なった結果をまとめたもの.
視察(取材)とはいえ,部隊と行動を共にしてバクダッド,ラマディ,ファルージャ他をみており,イラク多国籍軍Petraeusの指揮官と会談していて,マジなレポートになっている.
現地取材して前線の部隊と行動を共にする外交評論家というのもアメリカらしい話なのだけれど,マックス・ブートのイラク取材は何年も前から定期的にやっていて,Petraeus司令官とは数年前からの知りあいだという.
ラマディ,バクダッド,ファルージャの現状が楽観でも悲観でもないタッチで書かれている.
ラマディはアルカイダ(Islamic State of
Iraq.)がその「首都」を宣言していた根拠地であるが,3月には完全にアルカイダ勢力を駆逐して安全になったと書いている.
バクダッドも市内からはアルカイダなどの過激は勢力が駆逐されたが,バクダッド郊外からの自動車爆弾攻撃は続いている.
スンニ派のマジョリティを占めるラマディの報告が興味深くて,地域の住民は多国籍軍が「完全に」勝利することを確認するまでは協力しない,と書いている.さもありなん.
地域の住民が(アルカイダの復讐を怖れず)多国籍軍に協力したり,諜報情報を提供するようになっているのは完全な駆逐の証拠なのだという.
後半部に,マックスブートの知り合いであるPetraeus司令官について書いていて,この軍人の姿を印象的に描いている.
文武両道の人のようでプリンストンで国際関係学のPh.D.をもち,本も書いているというブッキッシュな面と,若い部下と力比べを楽しむような
行動派の軍人の両側の側面がある.ローキーな姿勢でもったいぶらない男だと言う.
何度かの事故で命を落としそうになって,大きな手術を受けて回復している.
Petraeus司令官はブッシュ大統領と,週一回,衛星回線のビデオで報告をかね会議をすると書いている.
この報告は,イラク特殊部隊の養成の現状(上手く言っていると書いている)からイラクの政治情況まで,様々な要素に言及していて,イラクの現状の明るい面と暗い面を書いているけれど,全体の評価は悪くないもので,困難が続くが新しい希望がある,といったところ.
【質問】
イラクに配備されたV-22 オスプレイは使い物になるのか?
【回答】
Combat, With Limits, Looms for Hybrid Aircraft
NYT:V22のイラク配備で懸念が広がり,用途は限定的
By LESLIE WAYNE Published: April 14, 2007
という記事によれば,この開発中の航空機が,如何に問題が多いかを書き連ねている.
NYTの記事だけあって,思いっきりネガティブなものになっている.
この記事には7分51秒のビデオが添付されている.
これはV22の飛んでいる映像や,事故を起こした際の映像などとともに,V22計画を批判するコメントのちりばめてあるもの.
批判はともかくとして,飛んでいる映像や事故映像は興味深い.
【質問】
イラクに増派された米兵は,どういう任務に投入されるのでしょうか?
武装集団対策なら,ヘリボーンできる部隊とか特殊部隊の増派のほうがいいのでは?
【回答】
バグダッドに5個旅団,アンバル州に2個大隊投じられる予定.
バグダッドへ向かう部隊は,ごく小さい単位でイラク治安部隊の警察署などに拠点を構えて,地区を巡回する.
つまりおまわりさん役というか,イラクのおまわりさんや軍部隊など各種治安部隊と組んで治安を回復するのを目的としている.
特殊部隊はすでに手一杯.
アフガニスタン,フィリピン,アフリカの角,ソマリア,グルジア,イラクとあちらこちらで使われまくっているので,規模を増強する掛け声はあれども,増派というのは難しいというのと,特殊部隊の派遣はあまり声高に叫ばれないので報道で追いにくいというのがある.
また,ヒット&アウェイのテロリスト相手には,ヘリボーンのしようがない.
地元軍は敵対宗派に対抗するのに大忙しの民兵集団だったりする上,やはり急ごしらえで,能力は優れているとは言い難い.
誰かが『軍事研究』に書いてたが,撤退するにしても一旦きっちり締め上げて,なんだか治安ができたみたいにしてから逃げないとかっこ悪い〔国家の威信に関わる〕.
で,イラク・クオリティの治安維持をしようとすると軍隊と言うことになる.
【珍説】
■ラムズフェルド追放くらいで満足するな
〔略〕
〔ラムズフェルド国防長官〕更迭劇もフセイン裁判と同じく,批判をかわすためのパフォーマンス的な色合いが濃いと思われる.
イラク戦争開戦,そして占領の継続を推し進めてきたのは,他でもない大統領その人なのだから.
【事実】
第1に,ラムズフェルドは以前から辞職を求めており,辞任はそれが認められたに過ぎません.
第2に,ラムズフェルド辞任後の,ペトレイアス司令官任命,および3万人増派を見るに,単なるパフォーマンスではなく,
「今までのやり方は失敗だった.やり方を変えよう」
というものである可能性が最も高いでしょう.
詳しくは上記のそれぞれの項目を参照されたし.
written by エリック・シンセキ(うそ)
【質問】
2007年からの米軍の兵力増強に対する評価は?
【回答】
比較的リベラルで,外交評論のベテランであるDavid
Ignatiusでさえ,バグダードで宗教対立暴動が減少した点については評価している.
だが一方,困難なことはイラク国内の宗派や民族の和解と,統合政府の構築にあると見ている.
After the Surge
The Administration Floats Ideas for a New
Approach in Iraq
WaPo」イラクへの兵力増強作戦の後で
By David Ignatius Tuesday, May 22, 2007;
Page A15
という評論によれば,ひとまず宗教対立暴動の沈静化(特に首都において)が成功しているので,今後の政策
オプションをどうするかについてブッシュ政権内部で幾つかの政策議論があると書いている.
(全面撤退ではなく,妥当な程度の安定を保ったアメリカ軍の削減の有り方とか)
David Ignatiusによれば,こうした安定化コースが上手くいくかは,二つの点にかかっている.
第一はマリキ政権がイラク国内のコンセンサスを作り上げ,より強い政権基盤や支持を得られるか.
第二にはアメリカ国内でブッシュ大統領とペロシ議長などの民主党が適切な(国益上の観点からの)妥協に進めるかどうかだと言う.
以下引用.
----------------------------------------
The wild cards in this new effort to craft a bipartisan Iraq policy are the Republican and Democratic leaders, President Bush and House Speaker Nancy Pelosi.
They both say they want a sustainable, effective Iraq policy, but each is deeply entrenched in a partisan version of what that policy should be.
America is in a nosedive in Iraq. Can these two leaders share the controls enough that Iraq will become a U.S. project, rather than George Bush's war? There's a bipartisan path out of this impasse, but will America's leaders be wise enough to take it?
----------------------------------------
このDavid Ignatiusの評論はペロシらの反戦左派のイラク政策の非現実性を,インプリシットに批判するトーンがあるようにも思える
(ただしブッシュ擁護でもないけど)
David Ignatiusはリベラル傾向の人に見えるけれど,NYTのような極左反戦志向の評論家とはレベルの違うベテランなので,イラクの兵力増強作戦の評価すべきところは冷静に評価し,問題点を指摘するという態度で,それなりに落ち着いて読める評論になっている.
また,
Beyond the surge
An Iraq plan should be in place now for what
comes next
AFJ:イラクの兵力増強の次に来るべきもの
BY JOSEPH J.COLLINS
という記事は,前防衛省副次官補,国立軍事大学の軍事戦略の教授という軍人のプロの書いている,ストレート・フォワードなイラクの軍事戦略論.
論旨は明快で,参考になる.
To succeed, this plan would require a force
of about 32,000 troops in Iraq, as well as
a regional stability force of 35,000 troops
in Kuwait. Along with regional air and naval
assets, forces in Iraq would be divided into
an advisory element of 10,000 officers, NCOs
and civilians to train and advise Iraqi military
and police forces; an in-country protection
and support force of three mobile brigades
(roughly 15,000 troops) to serve as in extremis
combat force and as a second line of U.S.
protection for advisers and reconstruction
teams; a 2,000-soldier Special Forces element
to combat foreign terrorists in Iraq; and
a 5,000-person headquarters, logistics and
air-support element.
〔略〕
Regardless of strategic options, the U.S.
should step up diplomacy with its friends
in the region. Specifically, the U.S. could
ask them for more help in training Iraqi
police and military forces and participation
in the regional stability force in Kuwait.
We should also talk directly to Iran and
Syria, but it won't be pleasant. Allowing
insurgents, Iranian special forces, or weapons
and explosives to cross into Iraq is beyond
the pale and, when verified, should become
the subject of immediate, proportional counteraction
by the coalition.
【質問】
2007年2月からのバグダード治安回復作戦の状況は?
【回答】
「民間犠牲者8割減」治安作戦の成果を強調…イラク軍
読売新聞,2007年3月15日11時57分(カイロ=柳沢亨之)
という記事によれば,民間人犠牲者は8割減少,武装勢力の死者・逮捕者は4倍増となったとしている.
イラク軍のムサウィ報道官は14日,首都バグダッドで記者会見し,イラク,米両軍が2月14日から大規模な治安作戦を行っている首都で,1か月間の民間人犠牲者数は265人となり,作戦開始直前の1か月間と比べて約8割減少したと語った.
〔略〕
また,報道官によれば,作戦開始後の1か月で武装勢力の死者数と逮捕者数はそれぞれ94人,713人と,作戦開始前と比べ,ともに4倍以上の増加を示しているという.
一方,駐留米軍のコールドウェル報道官は14日,別の記者会見で,2月の首都での車爆弾テロの被害が過去最悪を記録した,と語った.
具体的な件数や死傷者数は明らかにしなかった.
ただ,過去1か月の暗殺テロ件数は,作戦開始前の1か月と比べ,半減したという.
この2月から2ヵ月間の作戦については,AEIが以下のような評価を出している.
Friends, Enemies and Spoilers
Two Months in, the Consequences of the Surge
AEI:イラクの兵力強化・治安向上作戦の2ヶ月の評価
By Frederick W. Kagan Posted: Monday, April
23, 2007
さすがにAEIの研究者だけあって,うまいまとめ方でリスクや問題点の整理にも目が行き届いている.
Frederick W. Kaganの評価では昨年12月がイラクの状況が最悪であって,2月以降の治安回復作戦は幾つかの面で見るべき成果を上げているが,問題点が無いわけではない.
しかし,この作戦は有効であるので,今これを諦める手はないという.
以下引用.
Today, victory is up for grabs, and the stakes for America are rising as the conflict between us and al Qaeda shifts to the fore. It is no hyperbole to recognize that a precipitous American withdrawal would undermine the current positive trends and increase the likelihood of mass killing and state collapse.
Painful and uncertain as it is, the wisest course now is to support our commander and our soldiers and civilians, as they struggle to foster security in Iraq and to defeat the enemies who have sworn to destroy us.
今日では勝利は手の届く獲得可能なものであり,アルカイダとの対立が前面にシフトして,アメリカにとって掛っているものがより大きくなっている.
今,急にアメリカ軍を引き上げるようなことをすれば,現在のポジティブな状況は悪化し,大量殺戮や国家崩壊の可能性を高めるといっても誇張ではあるまい.
不確定で困難ではあるのだが,最も賢明な選択は我等の指揮官と兵士ら,そして民間人らを支持し,我等を滅ぼすと宣言している敵に対抗する彼らの戦いを支持することである.
御徒町のギャラリーで土日のみ開催の12インチカスタムフィギュアの展覧会,「CUSTOM FIGURE EXHIBITION 2007」より
現用米軍は相変わらずの人気で,これも『SpecFIGURES
3』に特集された,イラクのSEALSチームの競作など,写真でみると1/6だと言う事を忘れそうな,精密な出来映え
よしぞう maro' in mixi,2007/11/25/06:20
青文字:加筆改修部分
【質問】
2007年4月からのバクダッドの治安回復作戦はどんなものだったか?
【回答】
4月9日付,「ビル・ロジオのイラク報告」
The Baghdad Security Operation Order of Battle
April 9, 2007,By DJ Elliott, CJ Radin and
Bill Roggio
から,バクダッドの治安回復作戦の現状について,詳しい報告.簡単にまとめると:
1)バクダッド治安回復作戦は上手く進行していて,3月29日のマーケットの自動車爆弾事件以降に,大規模なテロ事件は起きていない.
2)アルカイダの主力戦闘部隊は,ラマディやキルクークのような地方都市に移動している.
3)バクダッドの治安回復作戦の特色は,地域住民の中にイラク治安維持部隊とアメリカ軍の共同で作った「治安ステーション」(JSS,The
Joint Security Station) とか「戦闘アウトポスト」(COP,Combat
Outpost)を設置して,地域からテロリスト を締め出し,テロ行動をしにくくするような体制を作ること.
54のJSS+COPを設置 して,JSSは成功していると評価されている.
4)JSSがたいへん上手く機能しているので,これを拡大する計画.(54→76→104)
5)先週,アルカイダの上位のテロリストを3人殺害,拘束した.
一人は有名なリーダーでリビア生まれの,Abu
Bara'a Al Libi である.
他に,バクダッドのアルカイダのゲート・キーパーとされるテロ指導者と,自動車爆弾製造工場の指導者が拘束された.
6)地方のアルカイダとの戦闘ではDiyalaでテロリスト30人殺害28人拘束,爆弾貯蔵所多数を押収した.
7)モスルについて,先週のオペレーションで179人のテロリスト拘束,8人殺害.
8)ディワニヤではアルカイダではなく,サドル派のマハディ軍の停戦に応じない武闘派グループが集結し,武装闘争の基地を作ろうとしていて,アメリカ軍,イラク軍が攻撃中.
サドル師はイラク軍とアメリカ軍に停戦を求める声明を発表.
39人拘束,何人かが殺害された模様.
9)ナジャフの「マス・デモンストレーション」は報道によってデモの規模がまちまちで,中東オンラインのように数十万人とするものもある.
アメリカ軍は地上および航空監視によりデモをモニターしていて5000〜7000人としている.
10)イラク政府,マリキ政権はバクダッドの治安回復を喜び,歓迎している.
サドル派の分裂についても政府は歓迎している.
多国籍軍はイニシアチブを奪還し,地方のアルカイダへの戦闘を広げている.
しかしその後,6月30日付のビル・ロジオのイラク報告,
Half of Baghdad Secured
バクダッドの半分を治安回復
By Bill Roggio on June 30, 2007 2:02 PM
によれば,6月29日にバクダッドで記者会見したJoseph
Fil Jr.少将はバクダッドの治安回復に触れて,474個の“mahalas”(地元の隣組)がありテロリストの掃討が進んでいるとしたという.
4月にはバクダッドの19%の治安回復がなされ,35%について作戦進行中で,41%には手がついていない状況であったとする.
「この数字は今日では大きく改善されて,48%が治安回復達成,7%が治安回復の最後の段階で,36%が作戦進行中,16%にはまだ手がついていない.
つまり,2ヶ月余りでバクダッドの治安回復が大きく進み,4月の19%が6月の48%に向上し,手がついていない部分は4月の41%が6月の16%に減少し,35%が治安回復進行中である」――.
つまり逆に言えば,4月の作戦でも多くともバグダードの半分しか治安回復できなかったということになる.
また,同ブログによれば,
「バクダッドの治安回復は,バクダッド市内のアルカイダ一掃で完結しない.
バクダッドを取リまくベルト地帯のDiyala県やAnbar県のアルカイダ根拠地を一掃しないとテロリストのバクダッド攻撃はやまない.そのために,現在のオペレーション・ファントム・サンダーが進行している.
バクダッドでは,残された西部のRashid地区やサドル・シティが今後の目標であろう.
しかし,より大きな戦いはバクダッドを取り巻く地域のアルカイダ根拠地の一掃である」
とのこと.
この記事で,ビル・ロジオの参照しているJoseph
Fil Jr.少将の記者会見は,イラク多国籍軍のオフィシャルな発表では↓
Coalition, Iraqi troops fight terrorists
Saturday
30 June 2007
U.S. Army Maj. Gen. Joseph F. Fil Jr., speaking from Iraq, told Pentagon reporters that the overall trend lines in the city are positive. “The number of attacks, first of all, has come down,” he said. “The effect of those attacks has come down significantly.”
【質問】
2007年4月13日から始まったという.イラク・アルカーイダによる反撃作戦の中身・動機は?
【回答】
2007年4月18日付.ビル・ロジオのイラク報告,
Al Qaeda on the Offensive
によれば,バクダッドの治安回復作戦で進歩が見られルようになったことに対する,また,彼らがバクダッド市内から駆逐され,アンバール県での部族の支持も失ったことに対抗する反撃
この攻撃では,郊外のアルカイダの拠点(Diyala)から自動車爆弾とテロリストが送り込まれて,チグリス河にかかる幾つかの橋,イラク議会,シーア派とクルド族のバクダッドのマーケット,モスクなどが標的にされた.
大規模な自動車爆弾で,最大規模の民間人の殺戮を狙っている.
ビルロジオに拠れば,このアルカイダの反撃は:
1)メディアとアメリカ国民などへの,イラク状況の混迷を印象付け,アルカイダの退潮(最近のシーア派との分裂など)をカバーするイメージを作る.
2)アメリカ軍とイラク治安部隊が,バクダッドとその近郊の治安改善作戦をやっていて,Diyalaに手をつけるのが6月以降になることを計算している.
アメリカ軍のイラク治安回復作戦の失敗のイメージを早期に作る必要がある.
3)シーア派などの宗教対立感情を刺激すべく,モスクやマーケットを狙い,大規模な民間人殺戮を行なう.
ビルロジオは,アルカイダの攻勢に対してクイックレスポンスが必要で,アメリカ本土からの増強兵力の到着を待つのでは遅すぎになると主張している.
ニュース極東板
【質問】
5月の,スンニ派地域で行われた治安回復作戦の状況は?
【回答】
イラクの戦場から報告を送っているので有名なフリーランスのジャーナリスト
MICHAEL YONが,ブロガーのインスタプンディットに,アンバール県から送った電子メール
MICHAEL YON EMAILS FROM ANBAR:
May 16, 2007
によれば,良い方向への変化が起こっているとしているが,大喜びというほどでもないという.
以下引用.
Every thing I am seeing in Anbar does support that there has been a very positive change out here. Attacks are way down, and lots more volunteers for police and Army. (Mostly police.) Marine officers and NCOs I talk with are optimistic -- measured and not jubilant -- but optimistic that if they keep getting good support, they can keep up the good progress. Just don't cut off support too soon, or declare victory too soon. Still lots of work to go and tough days ahead.
----------------------------------------------------------
ここアンバール県(スンニ派地域)で見聞きしているものはポジティブな変化が起こっていることを裏付けるものだ.
攻撃はへり,
警察と軍に参加するボランティアが増えている.
私の会話した海兵隊の士官は楽観的ではあるが,大喜びと言うようなものでもない.
彼らは(アメリカ国内の軍のイラクでの行動への)支持が継続するのであれば引き続き成果を上げることが出来ると考えている.
だから,軍への支持(や予算)を今切り捨てるべきではない.
また,今の時点で勝利を宣言すべきでもない.やるべき事は多く残されており,困難な日々が続くだろう.
【質問】
Arrowhead Ripper作戦とは?
【回答】
2007年6月,バクダッド郊外のバクバを中心とした,アメリカ軍とイラク軍による,大規模なアルカイダへの攻勢.
同軍は,土曜日に55人のアルカイダを殺害したと発表.加えて過去数日間で28人のアルカイダがDiyala県で殺害されてているという.
詳しくは
U.S. and Iraq forces kill 90 al Qaeda in
offensive
Sat Jun 23, 2007 12:19pm ET147
を参照.
ニュース極東板・改
マイケル・ヨンの報告
Be Not Afraid
では:
Thoughts flow on the eve of a great battle. By the time these words are released, we will be in combat. Few ears have heard even rumors of this battle, and fewer still are the eyes that will see its full scope.
Collectively, it is probably the largest battle since “major hostilities” ended more than four years ago. Even the media here on the ground do not seem to have sensed its scale.
ビル・ロジオのイラク報告
The Battle of Baqubah II
June 19, 2007 9:38 AM
では:
Dubbed Operation Arrowhead Ripper, the offensive is massive in scale. This is a division sized operation of "approximately 10,000 Soldiers, with a full complement of attack helicopters, close air support, Strykers and Bradley Fighting Vehicles."
同じく<ビル・ロジオのイラク報告>の
An update on the Battle of Iraq
One Week of Operation Phantom Thunder
では以下のように記述している.
General Odierno visited the city and stated most of al Qaeda's senior leadership has fled, while lower level-leaders are believed to be trapped. “We believe 80 percent of the upper level [al-Qaida] leaders fled, but we’ll find them.” said General Odierno. “Eighty percent of the lower level leaders are still here.”
・・・・
The U.S. military commanders continue to state the operations will be ongoing through the end of the summer. The escape of Al Qaeda leaders and operatives from Baqubah and the southern belts will no doubt be touted as a failure in the plan, but this view demonstrates a lack of understanding of the fundamentals of warfare and the purpose of the operation.
・・・・
Second, the purpose of the Baghdad Security Plan and Operation Phantom Thunder is to deny al Qaeda Baghdad and the Belts, and to kill as many operatives and leaders as possible in the process. When al Qaeda attempts to regroup, it will be in the hinterlands, and in some cases, in regions less hospitable to its actions.
ちなみに,ビル・ロジオが分析で予言しているとおりに,そういう浅薄な記事を書いているメディアもある.
イラク米軍の掃討作戦前,アル・カーイダ幹部8割逃亡か (読売新聞)
【ワシントン支局】イラク駐留米軍は22日,米軍が今月中旬にイラク中部バアクーバで武装勢力の掃討作戦を開始したのに先立ち,市内に潜伏していた国際テロ組織アル・カーイダの幹部のうち8割が,バアクーバ市外に逃亡していたとの見方を明らかにした.
米政府が3万人規模の部隊を増派する方針を公表したことで,大規模な掃討作戦の計画が事前に敵に察知された可能性が高いという.[ 2007年6月23日23時36分 ]
こお記事は,バクバ市内に入って状況を確認したGeneral Odierno の言葉を引用したものなのだけれど,その引用自体が中途半端でいい加減なもの.
General Odierno visited the city and stated most of al Qaeda's senior leadership has fled, while lower level-leaders are believed to be trapped. “We believe 80 percent of the upper level [al-Qaida] leaders fled, but we’ll find them.” said General Odierno. “Eighty percent of the lower level leaders are still here.”
発言の後半部の重要なところを省くというのは,古典的な歪曲方式なのだけれど,読売記事にしてこの始末……
IBDは社説
http://www.ibdeditorials.com/IBDArticles.aspx?id=267405225211303
において,イラクで進行中の最大規模の作戦,Arrowhead
Ripperが,まともに報道されていないことについて,以下のように論じている.
Iraq War: You've no doubt heard of Paris Hilton, and of Rosie O'Donnell as well.
We're pretty sure you know what Barry Bonds is up to. But have you ever heard of Arrowhead Ripper? The likely answer is no.
But if that's the case, it's not your fault. Arrowhead Ripper isn't an athlete, a TV star or a person famous for being famous. It's the code name for a massive U.S.-led assault under way in Iraq's Diyala province ― an undertaking that has garnered token media coverage since it began Tuesday.
Surprisingly, only Reuters seemed to get what was going on. Its headline said: "U.S. troops set trap for militants near Baghdad."
(後略)
IBD社説の言うように,この件ではロイターが比較的マシなのだけれど,それでも前線に参加して記事を送っているマイケル・ヨンやビル・ロジオの分析に及ばない.
一つの原因はメインストリームメディアの記者が前線にいないことで,TVは絵が無い事件を報道しない.
良くも悪くも,TVメディアの限界がそのあたりに;
【質問】
Operation Phantom Thunderとは?
【回答】
バクダード周辺部のアルカイダ掃討作戦.
Diyala県に焦点をあわせていて,その先端がバクバへのOperation
Arrowhead Ripperであり,この作戦は後数日のアルカイダとの戦闘が重要になるという.
詳しくは<ビル・ロジオのイラク報告>,2007年6月24日付を参照されたし.
【質問】
バクバの戦いとは?
【回答】
2007年6月下旬にバクダッド北部65kmにあるバクバで,米軍・新生イラク軍と,アル・カーイダとの間で行われた戦闘.
Al Qaeda fight to death in Iraq bastion:
U.S.
ロイター:イラクの戦陣で,アルカイダが死の戦闘
Fri Jun 22, 2007 1:52PM EDT
という記事によれば,この戦闘は2003年のイラク進攻以降の最大級のものだという.
作戦名は「Arrowhead Ripper」.
バクバ地域のアルカイダを一掃し,クリーンアップすることを作戦目的にしている.
アメリカ軍の司令官によれば,この地域はアルカイダが自動車爆弾などを準備してバクダッドにテロ攻撃を仕掛ける根拠地になっており,アルカイダの根拠地を一掃することで治安の向上を図るためのものだという.
バクバ地区のアルカイダは数百人と見られ,アルカイダの隠れ家となっているものがある.
この地域以外に主要なアルカイダの根拠地が無いので,アルカイダは死の戦闘を繰り広げている.
既にアメリカ軍兵士はバクバでアルカイダが捕虜の収容,拷問に使っていたと見られる証拠の残る建物を発見している.
地域の住民が兵士にその存在を通報した.
バクバを含むDiyala県の戦闘にはアメリカ軍,イラク軍に加えてローカルのスンニ派の武装派が参加している.
彼等は以前はアメリカ軍と対決していたが,現在ではアルカイダと対立し,その追い出しの為にアメリカ軍に協力している.
この中にはアラブ部族の組織した歴史的な1920年革命旅団組織が含まれる.
He said this included fighters from the 1920 Revolution Brigade, a large Sunni Arab insurgent group that has fallen out with al Qaeda over its indiscriminate killing of civilians.
また,
<マイケル・ヨンのイラク報告,6月22日,バクバの戦闘の状況>
Arrowhead Ripper: Surrender or Die
Battle for Baqubah 22 June 07
は,バクバ戦闘の前線部隊に参加しているマイケル・ヨンの視点から書かれている.
それによれば,アル・カーイダは壊滅状態にあり,地域住民はそれを歓迎しているという.
以下引用.
Our guys are winning. Al Qaeda is about to be strangled and pummeled to death in this town, but the local Iraqi leadership is severely wanting.
This was most obviously noted in one area in particular, where there were some slight indicators of a possible humanitarian need.
“Crisis” certainly is not the correct word, but there are displaced persons numbering at least in the hundreds.
我々の部隊は勝利していて,アルカイダは窒息させられ,散々に打ちのめされてこの街で死に直面している.
ローカルのイラクの指導者はそれを歓迎している.
この傾向は明らかであって,地域の人たちがそれを欲していた.
アルカイダの支配は数百人の人たちが逃げ出すような事態になっていた.
前線にいるヨンは,通信手段の確保が困難だし,食事や寝る場所の確保も難しいと書いている.
彼は兵士と共にテントに寝ているらしい.
レポーターが前線に来ていないので情報が充分つたわらないと書いた後で,以下のように続けている.
Otherwise, the battle is going very well. A big fight seems to be brewing.
As of about noon in Baqubah on the 22nd, there seems to be a lull in the fighting.
A calm.
This is about to get wet. At the going rate, al Qaeda in Baqubah will soon have two choices: Surrender, or die.
そういう問題を除けば,戦闘は大変うまくいっていて,22日の昼のバクバの状況では,戦闘が一時休止にある.
この調子でゆけばバクバのアルカイダはまもなく選択を迫られるだろう.
降伏するか,死を選ぶか.
同じく,
<マイケル・ヨンのイラク報告>
Drilling for Justice
では,バクバの戦闘で,アルカイダを殺戮,逮捕し,指導者らが逃げ去った経過について先週の状況を整理して報告している.
アルカイダはバクバのような,地域の政治指導者や警察の弱いところを狙って根拠地に定め,殺戮や処刑の公開(ビデオ,首チョンパ)などで住民を従わせ,シャリア法の厳格な適用を行なっていた.
喫煙の厳禁,マーケットで胡瓜の横にトマトを置くことの禁止・・といったタリバン的なイスラム慣習法を強制し違反者を処刑した.
(喫煙者は死刑,あるいは指を切られるらすい)
アメリカ軍がバクバをアルカイダから開放した後で,地域住民はアメリカ兵に煙草を求め,喫煙して開放を祝った,と書いている.
以下引用.
Most Iraqis smoke and this particular prohibition appeared to have earned the ire of many locals. After an American unit cleared an apartment complex on the 23rd,
LTC Smiley, the battalion commander, reported that residents didn’t ask for food and water, but cigarettes.
In other parts of Baqubah, people have been celebrating the routing of AQI by lighting up and smoking cigarettes.
殆どのイラク人は喫煙するので,アルカイダの禁煙の強制はローカル住民に嫌われていた.
アメリカ軍がアパート群を開放した時に,住民は食料や水を求めなかったが煙草を求めた.
バクバの街中では煙草に火をつけて,人々がアルカイダの追放を祝っている.
アルカイダ50-100人殺戮,60人拘束,アメリカ兵1人死亡,21人負傷;ローカル住民の通報でアルカイダの幹部の拘束や捕虜収容施設を発見,
アメリカ兵の行動中に住民がIED(仕掛け爆弾)の存在を教えて危険を避けるように叫ぶようなことが多くあった,とも書いている;
Doubtless many American lives have been saved by locals just saying “stop,” and pointing to bombs.
さらに,
<マイケル・ヨンのイラク報告,7月5日>
Baqubah Update: 05 July 2007
では,オペレーション・アローヘッド・リッパー16日めの,バクバの状況が紹介されている.
バクバの戦闘はほぼ終了して,アルカイダは逃走,殺戮,拘束などで姿を消しているが,それでも戦闘が時折発生しているという.
この作戦で前線に参加しているのはNYTのマイケル・ゴードンとマイケル・ヨンだけだと言う.
As with the Battle for Mosul, which I held in near monopoly for about five months during 2005, the most interesting parts of the Battle for Baqubah are unfolding after the major fighting ends.
But as the guns cool, the media stops raining and starts evaporating, or begins making only short visits of a week or so.
バクバ作戦の最も興味深いことは,戦闘が終わった後の話なのだが,戦闘が終わると, 普通のメディアのレポーターは引き上げてしまう.
The big news on the streets today is that the people of Baqubah are generally ecstatic, although many hold in reserve a serious concern that we will abandon them again.
今日のバクバの街中のニュースは,戦闘が終わって大喜びの人々が通りに繰り出していることで,彼らの心配はアメリカ軍が再びバクバを見捨てる――またもとのアルカイダ支配地域に戻る)のではないか――と言う事だ.
マイケル・ヨンは,バクバの一般市民の写真を(子供たちを含めて)多く掲載していて,その写真を見ればバクバの街中の雰囲気は一目瞭然;
ただし,日本では以下のように報じられている.
イラク米軍の掃討作戦前,アル・カーイダ幹部8割逃亡か
2007年6月23日23時43分,読売新聞
【ワシントン支局】イラク駐留米軍は22日,米軍が今月中旬にイラク中部バアクーバで武装勢力の掃討作戦を開始したのに先立ち,市内に潜伏していた国際テロ組織アル・カーイダの幹部のうち8割が,バアクーバ市外に逃亡していたとの見方を明らかにした.
米政府が3万人規模の部隊を増派する方針を公表したことで,大規模な掃討作戦の計画が事前に敵に察知された可能性が高いという.
【質問】
バクバでの戦闘の目的は?
【回答】
ラジオのトークショー「The Hugh Hewitt Show」内において,同番組ホストが,イラクのバクバで取材中のマイケル・ヨンへ衛星電話インタビューした(7-12-2007
at 8:36 PM)ところによれば,アル・カーイダはバクバを根拠地にしてイラクの内戦を始めることを計画していたので,それを壊滅させるため,激戦が6月半ばから続いていたという.
また,同ページによれば7月現在,戦闘は終わっており,水,食料,燃料の供給体制が問題になっているという.
▼イラクで騒乱が改善されてきたとニュースとかで報道されてますが,その理由はなんでしょうか?
米が治安政策を変えたから?
【回答】
こいつを公式見解としていいだろう.
http://mainichi.jp/select/world/news/20071208k0000e030003000c.html
イラク駐留米軍トップ,ペトレアス多国籍軍司令官は6日の記者会見で,イラク国内の治安が改善傾向にある理由として,「イランが提供した武器絡みの典型的な攻撃」が減少したことや,シーア派民兵組織を率いる反米指導者サドル師が武装活動停止を宣言したことを挙げた.
AP通信が伝えた.
[quote]
軍事板▲
また,古森義久ブログ,2007/11/24/12:39付が,同年11/21付ウォールストリート・ジャーナルへのロバート・スケールス米陸軍少将の寄稿を紹介して述べるところによれば,今年冒頭から増派米軍3万を主体にして,アルカーイダの本部組織をバグダッド郊外のバクバ地区に誘導,撃滅する作戦により,7月までには掃討に成功したためだという.
その結果,2007/11/18のイラク駐留米軍司令部の発表によれば,
(1)イラク全体での米軍,イラク政府軍へのテロ・軍事攻撃の総数は今年2月から55%減り,2005年夏以来の最少数となった
イラクでのアルカーイダなどのテロ組織による自動車爆弾,道路爆弾,地雷,迫撃砲,ロケット砲,小火器での攻撃などの総計は,10月には昨年2月以来の最低を記録し,11月に入ってもさらに減少が続いている
(2)イラク民間人の死傷者は今年6月以来,全国で60%,首都バグダッドで75%減った
(3)米軍の死者は今年6月の101人から10月には39人に減った
と,同ブログは述べている.
「イラクでアルカイダが壊滅か?」
という見方は,ワシントン・ポスト紙も伝えている.
Al-Qaeda In Iraq Reported Crippled
という記事より,以下引用.
[quote]
The U.S. military believes it has dealt devastating and perhaps irreversible blows to al-Qaeda in Iraq in recent months, leading some generals to advocate a declaration of victory over the group, which the Bush administration has long described as the most lethal U.S. adversary in Iraq.
[/quote]
公平のために指摘しておくと,米国内では中道(あるいは若干左派,民主党寄り)と考えられているシンクタンクのブルッキングス研究所がまとめた統計でも,イラク軍人+警察官の死亡者数はここ4ヶ月ほどかなり低いレベルですよ,と.
http://www.brookings.edu/saban/~/media/Files/Centers/Saban/Iraq%20Index/index.pdf
6ページ目の「IRAQI MILITARY & POLICE
KILLED MONTHLY」の項目.
そして上述古森ブログによれば,そのため,これまでイラク占領政策を失敗だと非難し続けてきたアメリカ民主党も,論点を微妙にずらし始めているという.
イラクの治安状況改善で民主党大統領候補は政策のトーンを変更
As Democrats See Iraq Gains, a Shift in Tone
という報道は,ニューヨーク・タイムズにも見られる.
(By PATRICK HEALY Published: November 25,
2007,古森のソースがこの記事なのかもしれない)
以下引用.
[quote]
As violence declines in Baghdad, the leading Democratic presidential candidates are undertaking a new and challenging balancing act on Iraq: acknowledging that success, trying to shift the focus to the lack of political progress there, and highlighting more domestic concerns like health care and the economy.
バクダッドの暴力が減少している中で,民主党大統領候補は新しい事態に対するバランスをとることを要求されており,イラクでの米軍の成功を認める一方,政治的な進展の遅れをいい,イラク問題よりも米国国内の健康保険や経済に政策の焦点をシフトしている.
[/quote]
同記事ではまた,バラク・オバマとヒラリー・クリントンはイラクでの米軍兵力増強後の治安改善を認め,それらの進展を認めないなら愚かである,としている.
しかし同時に,彼等は米軍の被害は依然として大きく,米軍の早期撤退が必要であるという.
また,イラクの国内政治の進展について兵力増強は効果を挙げていないと主張している.
イラクの状況の変化は,来年の大統領選挙への影響が予想され,特にイラク状況の改善が継続する場合は,それが強く予想される.
民主党候補が継続して戦争を攻撃する場合,それは共和党候補に攻撃材料を与える事になるかもしれない.
彼等は民主党候補を敗北主義であり,米軍や兵士に信頼を寄せない政治家とするだろう.
また,
Return of the Neocon? The Right ideas.
By Victor Davis Hanson
によれば,民主党内部ではイラク撤退論が鳴りを潜めているという.
以下引用.
[quote]
So now, despite their noisy antiwar base, most leading Democrats quietly are backing away from their talk about bringing American troops in Iraq home on rigid timetables.
民主党内部ではノイジーな反戦団体の声とは別に,殆どの指導者が暗黙のうちに,米兵をイラクから厳しいスケジュールで撤退させるというアイデアを葬り去ろうとしている.
Maybe they are learning that quitting Iraq now might be stupid politics since bad news ― in fact, all news ― from the front is making fewer and fewer headlines.
おそらくは,彼等はイラクから今撤退するというのが悪いアイデアだという考えに傾いている――なにしろニュースが,つまり殆ど全てのニュースで,イラクの悪いニュースが無くなってきている.
Democrats know that Republicans will use clips of more “General Betray Us” ads and defeatist assertions next summer when the election campaign heats up and there may be even more progress in Iraq.
民主党員はぺトラエウス指揮官の議会証言のときに民主党系の反戦団体がNYTの掲載し批判を浴びた“General Betray Us”の広告に示される敗北主義が,来年の夏の大統領選挙戦のヒートアップ時に,民主党非難の材料に使われかねないと知っており,その頃にはイラク状況がより改善している可能性もある.
[・・・]
来年の選挙で,民主党が議会の多数派を維持し民主党の大統領を獲得したとしてもイラクやアフガニスタン政策で極端に異なったものは採用できないだろう.
中東政策において民主党は,理想主義的外交を主張し,ブッシュ政権のユニラテラルな誤った冒険主義を正すという主張をするのだろう.
共和党はサダムの独裁政権を倒し,タリバンを政権から追い出した実績を主張するのであろう.
アフガニスタンとイラクは遅いスピードで安定化にむかうが,最も困難な事業は過去のものとなり,政権交代のための軍事力の使用は,直ぐに使えるオプションでは無くなったが.
[/quote]
一方,別の見方もなくはない.
2007/11/23付の読売新聞(宮明敬)によれば,バグダッド西部に住むスンニ派市民(39)の,
「(旧ユーゴの)民族浄化にも似た宗派ごとの住み分けが進んだ結果で,昔に戻りつつあるのではない」
「それに,バグダッドの治安改善は(市中央を流れる)チグリス川の東岸部だけ.シーア派住民地域に限られている」
という言葉を伝えている.
【質問】
2007/7/12にハリー・リード上院議員が議会で,イラクの治安回復策作戦は失敗したと述べているが?
【回答】
ラジオのトークショー「The Hugh Hewitt Show」内において,同番組ホストが,イラクのバクバで取材中のマイケル・ヨンへ衛星電話インタビューした(7-12-2007
at 8:36 PM)ところによれば,それは誤りだという.
以下引用.
HH: Now yesterday, Harry Reid said on the floor of the Senate that the surge has failed. Do you think there’s any factual basis for making that assertion, Michael Yon, from what you’ve seen in Iraq over the last many months?
アメリカ国内では昨日,ハリー・リード上院議員が議会でイラクの治安回復策作戦は失敗 したと言った.
貴方はイラクの現状から見て,これをどう思いますか?
MY: He’s wrong, he’s wrong. It has absolutely not failed, and in fact, I’m finally willing to say it in public. I feel like it’s starting to succeed.
And you know, I’m kind of stretching a little bit, because we haven’t gone too far into it, but I can see it from my travels around, for instance, in Anbar and out here in Diyala Province as well. Baghdad’s still very problematic.
But there’s other areas where you can clearly see that there is a positive effect.
And the first and foremost thing we have to do is knock down al Qaeda.
And with them alienating so many Iraqis, I mean, they’re almost doing it for us. I mean, yeah, it takes military might to finally like wipe them out of Baquba, but it’s working. I mean, I sense that the surge is working. Reid is just wrong.
彼は誤っています.
治安回復作戦は絶対に失敗ではありません.
私は公衆の前で,いまやそれを明確に言えると思う.
それは成功し始めています.
私はイラク各地を回っていて,アンバール県や,このDiyala県で,そういう感じを受けます.
バクダッドには依然,問題が多いが,ポジティブな効果を明確に見ることは出来るのです.
我々の真っ先になすべきことはアルカイダ撲滅です.
彼等は余りに多くのイラク人に嫌われるようになった.
バクダッドからアルカイダなどをたたき出すには軍事的な力が必要だけれど,治安回復作戦は機能しています.
リードは,単に誤っています.(後略)
このハリー・リード上院議員の「治安回復作戦は失敗」発言は,他にもあちこちからの反論を呼んでいる.
たとえば以下はは,バクダッドの歯科医師でブロガーのオマル氏の寄稿したもの;
The Surge Is Working
WSJ(寄稿):イラクの治安回復作戦は機能している
By OMAR FADHIL July 13, 2007; Page A13
In Baghdad the results have been just as spectacular so far. The district where al Qaeda claimed to have established its Islamic emirate is exactly where al Qaeda is losing big now, and at the hands of its former allies who have turned on al Qaeda and are slowly reaching out to the government.
While al Qaeda and Sadr are by no means finished off militarily, what has changed is that both of them are fighting their former public base of support.
That course can't lead them to success in fomenting the sectarian war they had bet their money on.
(後略)
ニュース極東板
(仮訳も同じ)
事実,
Iraqi civilian deaths down 36 percent
AP:6月のイラク民間人の死亡は36%減少
By BASSEM MROUE, Associated Press Writer
1 hour, 52 minutes ago
という記事も出ている.
以下引用.
BAGHDAD - Iraqi civilian deaths dropped to their lowest level since the start of the Baghdad security operation, government figures showed Sunday, suggesting signs of progress in tamping down violence in the capital.
日曜日に開示されたイラク政府統計によれば,6月のイラク民間人の死亡数は,治安回復作戦の始まって以降の最低値.
5月から36%減少し,バクダッドの治安回復作戦の進展を示唆する.(後略)
他にも,ハリー・リード上院議員の「アメリカは既に敗退した」発言がトリガーになって,多くのイラク評論が掲載されている.
リーバーマン上院議員は,いかにもこの人らしいストレートなもので,マケインと一脈通じる主張.
One Choice in Iraq
By Joe Lieberman Thursday, April 26, 2007; Page A29
WaPo(寄稿):イラク政策はひとつの選択以外にありえない
By ジョー・リーバーマン(民主党上院議員)
To me, there is only one choice that protects America's security -- and that is to stand, and fight, and win.
Amir Taheriの議論は,別の観点からアルカイダの行動を評論していて興味深い.
IRAQ: WHO'S WINNING, HARRY? Amir Taheri
NYP(寄稿):イラクではどちら側が勝っているって,ハリー上院議員?
By Amir Taheri
Despite continued violence, America and its Iraqi allies are winning this third war, too. Their enemies are like the man in a casino who wins a heap of tokens at the roulette table, but is told at the cashier that those cannot be exchanged for real money.
アルカイダのやってみせるド派手なテロ行為は,ポーカーゲームのような見せ掛けであって,実際の軍事行動の勝敗と必ずしも関係が無い.
アメリカの議会が恐れをなしてイラクから撤退すればテロリストの勝ちになるが,アメリカが踏みとどまるなら,見掛け倒しのテロリスト側の体制が軍事的に勝利する事はありえない.
【質問】
イラクの治安回復の転機となったものは何か?
【回答】
COMMENTARY:Petraeus's Iraq
By ROBERT H. SCALES November 21, 2007; Page
A18
という寄稿記事によれば,ペトレイアス将軍が兵士を比較的安全な前線基地から外に出して,バクダッド市内の危険な地区の(イラク軍,警察との)共同警備ステーションと警備ポストに兵士を配置し,また首都の外環にも戦闘部隊を配置したことが,そのきっかけとなったという.
損害を恐れずに果敢に行動したことが,成功につながったと言えよう.
以下引用.
[quote]
私は一週間のイラク視察旅行から戻ったばかりで,私の訪問目的は(軍事)オペレーションの観点からの治安回復作戦のアセスメントである.
ぺトラエウス将軍と彼の部下,そして兵士たちにあって,特に兵士たちの持っているこの戦争への感覚に感じるところがあった.
私の得た結論は,この戦争で我々は「頂点("culminating point")」に達しつつあるかもしれない,というものである.
(分水嶺のような)頂点というのは,それを境にアドバンテージが一方から他方にシフトする点であって,変化は不可逆的である.
この点を過ぎると,敗者は抵抗して被害を与えることは出来るにせよ,全ての勝利の機会が失われる.
残る問題はどのくらい長く,戦闘が続くのかという事である.
第二次世界大戦を例に取れば,この(勝敗を分ける)頂点は対日戦争ではミッドウェー海戦であり,対ナチスではEl Alameinとその後のスターリングラード戦である.
戦争においては通常,その分水嶺となるイベントを双方が(予め)認識してはいない.
リンカーンはゲチスバーグの戦いが潮目になると思ってはいなかったし,ベトナム戦争ではテト攻勢がそれに代わるものとなっていて,必ずしも軍事的勝利が潮目にはならない事を示している.
そういう分水嶺的な点と言うのは心理的なもので物理的な事象ではない.
イラクで私の話した全ての指揮官は,ぺトラエウス将軍が2月にバクダッドの治安回復作戦を発表した後で,目覚しいムードの変化がおきたといっていた.
将軍は兵士を比較的安全な前線基地から外に出して,バクダッド市内の危険な地区にばら撒いた.
市内の(イラク軍,警察との)共同警備ステーションと警備ポストに兵士を配置したが,それは地元の人々を注目させ,彼らをしてテロの諜報情報を通報させることになった.
首都の治安向上の為に,ぺトラエウス将軍は首都の外環にも戦闘部隊を配置し,バクダッドを囲むベルト地域を警護した.
この配置が市外,郊外からのテロリスト攻撃を大変困難にさせた.
6月にアルカイダは計算違いをやって,バクダッド市内で戦闘に破れたために郊外に引き上げ,バクバをイラクの「イスラム国家イラク」の首都にすると宣伝した.
バクバでも激しい戦闘があり,アルカイダはIEDを幾重にも同心円のように準備するなど防戦につとめ,イラク軍の中のアルカイダ同調者のリークが多国籍軍の計画をアルカイダに知らせていた.
バクバを含むバクダッド郊外の戦闘は,オペレーション・アローヘッドと名づけられたもので,イラク人の諜報情報の通報,UAVの監視情報,その他の諜報情報に基づいて家々を捜索して,テロリストを一掃した.
激しい戦闘が起こり,アメリカ兵の被害は7月に上昇している.
結果的にアルカイダはバクバで敗走し,北部砂漠地帯に逃れた.
アルカイダの集結する彼らの首都が破れ,組織が分断化されて住民の支持はなくなり,テロリストは組織指導者を持たない戦闘員となって,特殊部隊チームの容易な標的になった.
成功する反テロのオペレーションというのは,固定的な目標を持つものではない.
それは兵士のいう「空白地帯」を作り,それは政治的影響力の真空地帯と言うべきもので,政府軍なりリバウンドした敵側なりが,その占領を行なう.
イラクの現状では,空白地帯は新たに台頭したイラク軍と地元の自警組織が占領しつつある.
自警組織を構成する部族の長は成功の臭いを漂わせ,多国籍軍・イラク軍側にコミットしている.
念のために言えば,バクダッドや周辺地域は,まだ完全に安全なわけではない.
しかし分水嶺的な潮目は心理的なイベントである.
私がイラクで目撃したことは,イラク国民の意見や支持のシフトであって古典的・軍事的な戦勝ではない.
この変化は明白で間違えようの無いものであった.
この軍事的な潮目が政治的,経済的な潮目につながるかを判断するには時を待たなければならない.
しかし春から夏の終わりまでの軍事作戦は外交的,政治的な成功の基盤を作った.
ぺトラエウス将軍とRay Odiernoが,この成功を軍事史学上の空前の速度でもたらした.
次は,絶滅に瀕していた悲劇的に亀裂の入った国を,元の統一体に戻す作業を緊急性と,コミットメントをもって進める時である.
[quote]
【質問】
2007年現在,イラク報道の現状は?
【回答】
保守派のブログ,レッド・ステートのイラク現地報告によれば,メインストリーム・メディアのイラク報道に飽き足らないブロガーやフリーランスのジャーナリストがアメリカ軍の部隊に参加して,イラクから毎日レポートをブログに
掲載する動きが広がっているようだという.
Special Events Posted at 6:46pm on Apr.
25, 2007
American troops are winning over journalists,
one heart, mind, and life at a time
こういう独立系の(かなり危険を伴う)取材や報道を始めたのは,ビル・ロジオなどだけれど,彼以外にもいくつかの分野でレポーターが活動を始めている.
また,マケイン上院議員が,イラクの状況を「ポジティブ」な傾向があると言ったことに対し,リベラル・メディアがよってたかってそれを否定し捲くる記事を書いたということがあったが,以下は,それについての,クラウスハマーによるマケイン擁護のような評論.
The Surge: First Fruits
WaPo:イラクの兵力増強・治安回復作戦は成果を上げ始めている
By Charles Krauthammer
Friday, April 13, 2007; Page A17
特に目新しいことは書いていなくて,アンバール県でのスンニ派部族の自警団がアルカイダに対抗して成果を上げ始めていること,バクダッドの治安が向上していることを書いている.
その傍証として,James T. Conwayの視察での評価などを上げている.
Marine General: Anbar Getting Better
無論,リベラル側の,イラク真っ暗論に加担するアナリストや軍人も多いので,こういう議論は水掛け論になってしまうのだけれど.
(朝鮮戦争についても南北どちらから仕掛けたのかについて長期にわたる論戦があったと,ものの本には書いてある.
何時の時代にも事実検証や評価は困難な作業.
だからといって,そういう論戦に意味がないという事でもないけれど)
【質問】
イラク戦争に関するブッシュ政権のメディア対策は,十分と言えるのか?
【回答】
不十分である可能性が高い.
ベトナム戦争時代の海兵隊士官で,レーガン政権のNSCアドバイザーである著者が,ベトナム戦争とイラク戦争の相似性について書いた,
OPJ・WSJ:1968年の再来,ベトナム戦争の記憶とイラクへの新聞報道
1968 Redux:Echoes of Vietnam in Iraq--especially
from the press.
BY ROBERT MCFARLANE Sunday, June 10, 2007
12:01 a.m. EDT
という記事がある.
これによれば,2つのポイントで,イラク戦争の現状はベトナム戦争を思い出させるという.
(1)ベトナム戦争後期に,海兵隊はベトナムの農村部に入り込んで農民の生活改善に勤め,農村部の支持を得る作戦を展開したが,それは大いに成功して諜報情報などが手に入りやすくなるなどの軍事的な意味があった.
(2)1968年の北ベトナム側のテト攻勢ではアメリカ軍は勝利していて,軍事的には大きな成果を上げていた.
しかしアメリカ国内のメディアはそれを無視し,ベトナムでの敗退は救いがたいというキャンペーンを続け,アメリカ国内政治がベトナムからの撤退に動く上で大きな役割を果たした.
筆者は,アンバール県はじめ最近のアメリカ軍の進めている地方部族集団との連帯などの戦略を,(1)と同じ意味でよい戦略と評価する.
さらに,イラク兵力増強作戦以降のアメリカ軍とイラク軍の上げている軍事的成果を,アメリカ国内のメディアが無視し,イラクは救いがたい,というキャンペーンを続けていることを,(2)の意味で危険であると見ている.
そして,軍事作戦の現実的評価が,そういう風にバイアスして報道されるときに,政治的にバランスのとれた判断が下せるのか,と筆者は問題提起して警告している.
以下引用.
The question remains, however: Should the Iraqis succeed in this crucial endeavor, how will it be reported? For the press this is yet another moment of truth.
Will it continue to publish a distorted picture of this war as it did in Vietnam, and share responsibility for the same result?
訳者の私見だが,イラク戦争におけるメディア報道の客観性や正確性については,この数年間,山のような議論がされてきたけれど,改善される見込みは無いような.
むしろ考え方としては,メディアを含めた戦争が戦われていて,(アルカイダ+過激派+リベラルメディア+極左集団)に対する戦争遂行の上での総合的な対策が必要なのだろうと思える.
ブッシュ政権はメディア対策を軽視し過ぎている傾向があって,大きなツケを払っているようにも見える.
オースチン・ベイ等が書いていることなのだけれど,アメリカの現状にあっては戦線で命を賭けて戦っている海兵隊の兵士と全く同じ重要さの位置づけで,アメリカ国内のメディア,言論,思想上の戦いに国民は参加すべきである.
前者が重要であるのと同じ意味で,現代においてはメディアの中の戦いが,国益を左右し,国の運命を決める;
アルカイダのNo2が手紙の中で書いたように,戦いの半分はアメリカ国内の国民の見るTV報道の上でなされている.
テロリストの側は,そのことを熟知し,計算し,最大限に利用している
メディアのバイアスや不正確性,歪曲や捏造を非難する事は容易いのだけれど,困ったことにメディアは確信犯なので,そういう非難は全く気にしない.
そのために,非難しているだけでは駄目で,エスタブリッシュされたメディアの競合者を育てるような戦略が必要と思ふ.
小泉さんらの一部勢力の保守系シンクタンクといったものもその戦略の一部になり得るし,麻生外相の派手なPR活動もカウンターになる.
無論,インターネットが有効なカウンターになる可能性はあるのだけれど,そのためにはネットの言論の洗練を図る必要があるだろう.
【質問】
2007年現在,イラク戦争に対するアメリカ人の認識は?
【回答】
http://www.pollster.com/blogs/iraq_war_losing_or_lost.php
における世論調査――CNN/ORC (5/4-6, n=1,208
adults ――の結果では,
"Do you think that the U.S. war in Iraq
is lost, or don't you think so?"
イラク戦争は敗退したと思うか?
41% lost 敗退した=41%
55% don't think so そうではない=55%
4% don't know
Quinnipiac (4/25-5/1, n=1,166 registered
voters): "Do you think that the U.S.
war in Iraq is lost, or don't you think so?" Quinnipiac,
イラク戦争は敗退か?
41% lost 敗退した=41%
49 don't think so そう思わない=49%
11% unsure
--------------------------------------------------------
メディアのキャンペーンにもかかわらず,アメリカ国民もメディアのいうことを,そのまま信じているわけでも無さそうな.
ただ,ビルロジオのいうように,昨年の11月ぐらいまで状況悪化が続いており,メディアのキャンペーンの為に状況が悪くなっている,と考える人は増えているのでしょう.
(3ー4月で,若干戻っている)
それとは別に,ハリー・リードはじめ,民主党議員が政治キャンペーンで,すでに「lost」だといい,メディアもこれを喧伝しているので,その正否の判断には別の意味があるでしょう.
(ハリー・リードなどの言辞を肯定するか否定するか)
イラクの軍事的状況を,毎日何らかの形で追っかけているようなブログやその読者は,〔イラクの状況について〕全く異なる観測を持つでしょう.
また,
ARGの最新世論調査
では,民主党員,共和党員のイラク戦争支持について
Q:イラク戦争は勝利可能と思うか?
Yes:民主党員=17%,共和党員=75%
No:民主党員70%,共和党員=20%
わからない:民主党員=13%,共和党員=5%
Q:イラクからの米軍撤退の期限を設定すべきか?
Yes:民主党員=70%,共和党員=17%
No:民主党員=17%,共和党員=77%
わからない:民主党員=13%,共和党員=6%
大統領候補者への支持率
3月調査 4月調査(9-12)
ヒラリー 34% 36%
オバマ 31% 24%
エドワーズ 15% 19%
ジュリアーニ 34% 27%
マケイン 30% 23%
ギングリッチ 12% 10%
ロムニー 7% 12%
【質問】
サウディアラビアのイラク安定化に向けた取り組みは,どのようなものなのか?
【回答】
Geopolitical Diary: The Saudi Role in a Deal
over Iraq
STRATFOR:サウジアラビアのイラク安定化への役割
June 21, 2007 02 00 GMT
という記事によれば,サウジアラビアの内務大臣,Nayef皇子が水曜日に,同国の宗教権威に対して,サウアラビアの若者がイラクで(テロリストとして)戦う事を止めるように説得することを求めたという.
数百人の宗教指導者の前で演説した皇子は,サウジアラビアの若者が自殺爆弾攻撃をすることを制止していないことについて,間接的に宗教指導者を非難した.
この内相の発言は,サウジアラビア政府が,同国内の若者のジハーディストがイラクで戦う事を公式に非難した,最初の大きな圧力である.
従来,サウジアラビア政府はサウジアラビア国内のジハーディストのテロのみを非難し圧迫してきた.
このサウジアラビア政府の政策は,イラク安定化をめぐるイランとアメリカの対話路線とシンクロしている.
サウジアラビアの出しているサインは,サウジアラビアは自国のジハーディストのイラク攻撃を抑えるので,イランもシーア派武装派への支援やスンニ派へのテロをやめよ,というものである.
サウジアラビアはイラクの安定化が失敗すれば,それがイランのシーア派からの脅威とイラクを含むアラブ諸国のシーア派からの脅威と言うダブルの脅威を自国の安全保障について受ける立場にある.
アメリカはサウジアラビアが自国内のジハーディストに対処するのであればイラクに駐留するアメリカ軍が,イランからのサウジアラビアへの軍事的脅威に対応した防衛力になることを約束している.
イランとサウジアラビアの間にイラクが存在するので,アメリカ軍に完全に依存することを良しとしないサウジアラビアは,イラクのスンニ派コミニティの安全保障(=バッファーとしての機能)を必要とする.それはイランとイラク
のシーア派からの脅威に対抗するためである.
イラクのスンニ派はイラクのシーア派マジョリティとの交渉による妥協を必要としているので,その理由からサウジアラビアに協力する意味があるが,本来の彼らの立場はイラクのナショナリストであるので,サウジアラビアのスンニ派とは大きく立場が異なるところがある.
サウジアラビアのジハーディストというのは,パキスタンのタリバンと同じようなところがあって,国内でも,国境を越えて他の国(アフガニスタン,イラク)でも活動する.
パキスタンにとってタリバンの扱いが厄介であるのと同じ危険が,サウジアラビアのジハーディスト政策に存在する.
ニュース極東板
また,2006/10/13付,MEMRIによれば,テロリスト越境を阻止するフェンスを設置することにしているという.
MEMRIは条件を満たせば転載可だそうなので,以下転載.
イラク国境に安全保障壁―サウジアラビアが建設着手へ
最近サウジアラビアは,対テロ戦争の一環として,814キロに及ぶ安全保障壁をイラク国境沿いに建設する,と発表した.
完成まで数年を要する工事であるが,軍基地,チェックポイントを組込んだプロジェクトである.
これまでサウジアラビアは,イラク国境沿いに40ヶ所ほどの基地を有し,麻薬や武器の密輸,氏名手配中のテロリストの侵入,非合法移民の流入を防止しようとしてきた※1.
サウジアラビアは2004年にもイエーメン国境沿いに分離壁の構築を始めた経緯がある.
2000年にジェッダ国境協定がサウジとイエーメンの間に成立し,サウジはそれに規定される境界線に沿って,分離壁をつくったのである.
以下,サウジが計画中の安全保障壁建設計画の概要である.
サウジはイラク内戦の波及を恐れる―サウジ側スポークスマン言明
サウジの内務次官アブド・アル・アジズ(Prince Ahmad bin ‘Abd Al-‘Aziz)は閣僚会議で,「サウジとイラクの両内務相は(協力して)国境の治安を守ることで理解に達した」と述べ,「サウジアラビアは,分離壁の建設に着手する…これによってしっかりした国境の安全保障が可能となる」と言った※2.
内務次官は壁の詳細について触れることを避けたが,「赤外線カメラ付きの有刺鉄線フェンスであって,壁ではない」と強調した※3.
ワシントンのサウジ大使館広報官アル・ジュベイル(Nail Al−Jubeir)は,
「我々は,イラク内戦がサウジアラビアに波及し,全域にひろがることを恐れている.
我々は,(内戦に関与する)人間がサウジアラビアを狙わないようにしたい」
と述べ,サウジの安全保障壁建設の意図を説明した※4.
安全保障壁はバリヤーと軍事基地の組み合わせ―サウジ軍事コンサルタントの説明
研究機関「国家安全保障評価計画」(The National Security Assessment Project)の所長オバイド(Nawaf ‘Obaid)は,
「この安全保障壁は全長約900キロメートルで,サウジアラビアは建設に向けて必要な措置を既にとり始めた.
この壁の建設は,一連の安全保障対策の一環である
…サウジの北方境界安全保障計画によると,この壁に沿って軍基地もつくられる」
と述べ,
「建設には120億ドルを要する.
そのうち5億ドルが壁の建設費用である
…建設は来年から開始され,完成まで5ないし6年を要する」
とつけ加えた※5.
イラクの治安情勢は周辺諸国の安全に直結
2006年9月中旬,イラクを含む中東8ヶ国(サウジ,ヨルダン,イラン,バハレーン,トルコ,クエート,エジプト)の内務省代表がジェッダに集まり,3日間かけて話合いをおこなった.
主要議題は,国境の治安,侵入者や密輸の防止問題を含む,対テロ・犯罪戦争であった.
参加者達は,「テロリズム,テロに対する資金援助,イラク国境を股にかけた侵入など,イラクを不安定にしている治安侵害」の防止について討議した※6.
サウジの内務次官アル・サーレム(Dr. Ahmad Al-Salem)は,この会議の開会式で次のように述べた.
「今日我々イスラム共同体にとって,最大の脅威はテロリズムである.
我々ムスリムは,実際はテロの犠牲者で,どこの誰よりも苦しんでいるのに,テロの元凶として頻繁に非難される.
ムスリムを自称する者共が,恐るべきテロ攻撃を実行する.これくらい我々(の心)を傷つけるものはない.
我々の敵は,我々が持つ一神教の信仰を傷つけそのイメージを歪めるために,テロリズムを使う.
テロリズムとイスラムには関係がないことなど,誰でも知っているのだ
…ムスリムがムスリム同胞に対して銃を向けるなど考えられようか….
イラクの治安は,隣接諸国の安全と組みあっており,善かれ悪しかれ影響を及ぼす.
サウジアラビアは,イラクと数多くの国境通過点を有するので,国境侵犯や密輸の防止,或いはイラクでひどくなったテロ行為の波及防止やテロリストの封じこめのため,国境警備の強化につとめている」※7.
閉会にあたってだされた声明は,参加諸国の緊密な協力の必要性を強調し,
「参加諸国は,対テロ戦争上必要な情報を共有し…国境警備,浸透防止のための監視と警備により多くの資金,協力を注入し,偽造旅券(の使用)やイラクからの或いは同国へのテロリスト浸透や密輸を防止するため,協力する必要がある」とした.
更に参加諸国はテログループを潰滅する必要性を認め,
「テログループは,イラクのみならずこの地域のすべての国の安全に脅威を及ぼしている.
この文脈からイラクとその隣接諸国は協力関係を強化する必要がある」
と強調し,参加諸国は
「ひとつにまとまり安全にして安定した統一イラク」を支持するという言葉で結んだ※8.
※1 2006年10月5日付 Al-Sharq Al-Awsat(ロンドン)
※2 同上
※3 2006年10月4日付 ‘Okaz(サウジ)
同日付Al-Iqtisadiyya(同)
※4 2006年9月3日付 Al-Awsat(サウジ)
※5 2006年9月28日付
http://arabic.cnn.com/2006/middle_east/9/28/saudi.fence/index.html
※6 2006年9月18日付 ‘Okaz
※7 2006年9月15日付 Al-Yawm(サウジ)
※8 2006年9月19日付 Al-Jazeera(サウジ)
【質問】
アメリカがイラクの治安回復に失敗して撤退した場合,どんな影響があると予測されるか?
【回答】
ヒューストン・クロニクルの社説
Vietnam syndrome
May 10, 2007, 8:17PM
によれば,アメリカがイラクで敗退すれば,その悪影響はベトナム戦争のそれを上回るという.
>The consequences of U.S. defeat in Iraq
would be much greater than they were in Vietnam.
同紙によれば,ベトナムでは,アメリカ軍は決意の固い団結した北ベトナム軍とベトコンに対峙していた.
イラク戦争ではアメリカ軍の戦っている敵は単一の国家ではなく,旧サダム政権支持者,シーア派武装派,外国から侵入したテロリストとアルカイダ等の複数のグループであり,これらの敵は識別が困難で,完全に撲滅することや交渉することも困難である.
ベトナム戦争とイラク戦争の最大の相違は,その危険性にある.アメリカはベトナムから撤退したが,その地域のアメリカの戦略的利害は大して変化せず,地域のパワー・バランスにも大きな変化はおきなかった.
一方,イラクからアメリカが撤退すれば,そこには反米のテロリストの住むならず者国が生まれるだろう.
また,イラクに内戦が起こる事になれば,完全な無政府状態の失敗国家が残って,グローバルなテロリズムにとって絶好の基地が生まれるだろう.
その及ぼす危険性や悪影響はベトナム戦争を超える――.
実際には,中東のエネルギー確保へのアメリカの国益,中東のパワーバランスへの影響,アラブ同盟国などとの関連から,一部の民主党議員の言うようなイラクからの早期完全撤退というのは非現実的な話で,アメリカにとって割に合う話ではないように思える.
民主党大統領になっても,一部兵士の撤退以外は不可能なのでは?と言うストラテジストもいるような.
【質問】
2008年現在の,イラク戦争に対するアメリカ人の認識は?
【回答】
Support for war effort highest since 2006
By: David Paul Kuhn
March 13, 2008 06:42 AM EST
によれば,世論調査機関のPEWの2月に行なった,アメリカ国内の世論調査において,イラク戦争が成功裏に目的を達するとする意見は,53%と過半数に達したという.
2007年9月には42%であった.
イラク戦争が「うまく行っている」とする人は,「とても」と「だいたい」を合わせて48%で,2007年2月の30%から向上している.
CNNは民主党寄りだから,このタイミングで出てくる記事はある程度,唾つけて聞くべきだと思うが.
そら,経済がこんだけ混乱させたら,支持率だって落ちるわいな.
それを,イラク戦争と絡めて書く記事の性根がわからん.
ただ,ブッシュはこれまで,
「安全保障の危機を煽る」→「民主党に任せられるか?」
って論法で支持を集めてきた,って言うのは事実.
ってことは,逆にイラクが上手くいき,安全保障の問題が解決する事で,支持率が低下するって事はあり得るかしらん,って少し思った.
ニュース極東板,2008/03
青文字:加筆改修部分
【質問】
イラク北部,ニネベ地方でのキリスト教徒迫害について教えられたし.
【回答】
2008年10月23日現在までに数週間にわたり,同地方のキリスト教徒住民が殺害,追放,または住居を爆破されて,キリスト教徒数千人がモスルの中心部から流出,郊外や市の北方村落へ逃げているという.
これはアル・カーイダ系過激原理主義勢力の仕業であるとする見方の他,キリスト教徒が地方選挙法第50条の復活を求めていることに対する見せしめの迫害政策だという見方もあるという.
この第50条は,マイノリティ集団に対し,地方議会の議席をいくつか保証する内容.
また,イラク・ナショナリスト所属のナジフィ議員(Osama
Al-Najifi)は,キリスト教徒を追い出し,ほかの民族集団を迫害しているのはクルド族で,北部域のクルド化キャンペーンの一環である,と主張している※4.
※4 2008年10月17日付Al-Sabah(イラク紙)
詳しくは
「MEMRI」,Oct/23/2008 No.2090
を参照されたし.
【質問】
オバマ大統領はイラク駐留米軍の撤退を決めたそうだが,撤退しても大丈夫な状況なのか?
【回答】
2009/2/8付,AFPによれば,少なくとも掃討作戦は激減し,米兵たちは退屈しているような状況だという.
ここ最近は全土で暴力が収束しつつあり,この数か月間はキャンプへの攻撃は起きていないという.
すでに2009/1/1,バグダード中心部の米軍管轄区域グリーンゾーン(Green
Zone)の治安権限が,イラク政府に移譲されている.
ただ同記事は,そうなった要因や分析などについてはほとんど記述がなく,記事内容がイラク全土に渡って普遍的なのか,取材先だけの局所的現象なのか,推量するすべがないので念のため.
▼ また,2009年5月21日17時54分,CNNによれば,イラクでの爆弾テロは減少基調にあったが,4月に入り増加.
2009年の月間単位では最悪となる,民間人約290人が死亡したという.
この報道から推察するに,米軍戦闘部隊撤退までおとなしくしていただけだったのではないか?とも考えられる.
ちなみに同記事によれば,テロの標的の多くはシーア派で,米軍はスンニ派の国際テロ組織アル・カーイダ系の武装勢力の犯行とみているという.▲
【質問】
オバマ大統領による,米軍イラク撤退の当初計画は?
【回答】
2009.2.27,オバマ大統領が,海兵隊のレジューン駐屯地で行った演説によれば,イラクで戦闘任務についている10万人規模の部隊を,来年8月までに本土に帰還させるというもの.
非戦闘任務につく5万人規模の部隊は残しますが,2011年末にはそれも全て撤収するということです.
演説内容のエッセンスは以下のとおりです.
1.イラク駐留米軍戦闘部隊を,2010年8月末までに撤収させる
1.後に残る非戦闘部隊の3万5千〜5万人も2011年末までに引き揚げ,米軍はイラクから全面的に撤収する
1.米はイラク領土や資源を求めない
1.アフガンとパキスタンのアルカーイダに再度焦点を合わせる
1.イラン,シリア等,中東諸国との対話を追求する
1.イラクのことはイラク人に委ねる.われわれはイラク戦争を終結させる準備にとりかかった
今後のイラク駐留米軍に関連するタイムテーブルです.
2009・6・30 米軍戦闘部隊の都市部からの撤収期限
2009・7・30 米軍撤収の日程を定めた地位協定の是非を問うイラク国民投票
2009年末〜2010年はじめ イラク連邦議会選挙(日程はまだ決まっていない)
2010年8月末 米軍戦闘部隊の撤収完了
2011年12月31日 米軍イラク撤収完了期限
⇒ 演説の中で大統領は次のようなことも述べています.
・大統領選の際,16ヶ月以内の米戦闘部隊のイラク撤収実現を公約として掲げた.
その一方で自分は,軍指導部と密接に協議すると約束した.
軍と協議した結果,そのスケジュールを今後18ヶ月以内にすることを自分は選んだ.
・戦闘部隊撤収後のわが軍の任務は,「戦闘」から「イラク政府と軍を支援すること」に切り替わる.
訓練・装備・指導の3分野で移行のための部隊を残す.
・残留する部隊はわが外交官の警護,限定的な対テロ作戦にも就く.
・今後のイラクが国家として長期的に成功するには,政治指導者の決心,イラク人の不屈の精神にかかっている.
それにあたって,米による強力な政治・外交・非軍事面での支援が必要となるだろう.
この取り組みは新任のヒル・イラク大使に委ねられる.
・米はその持つ全ての力を用いて,イランの核開発を阻止するための戦略を構築し,イスラエルとアラブ諸国との間の持続的な平和を追求する.
おきらく軍事研究会,平成21年(2009年)3月1日
青文字:加筆改修部分
軍事板FAQ
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